説明

人体温熱装置

【課題】口又は鼻より温蒸気である加温蒸気などの帯熱気体を吸入して肺胞のすみずみまで加温蒸気である帯熱気体が行きわたるようにする温熱療法を提供する。
【解決手段】このような温熱療法によれば、呼吸器の全体を加温すると共に肺胞を介して血液に熱エネルギーを与え、血流により熱エネルギーを全身へ伝達し短時間で容易に人体組織を温める。従って、健常者だけでなく患者もサウナや温泉と同等、或いはそれ以上の温熱療法の効果を簡便に享受できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願参照
優先権は2010年2月9日提出の米国特許仮出願番号61/302,630に基づく。
【0002】
この発明は、人体の呼吸器を加温することにより人体を加温する人体の温熱療法とそれを実施するための装置に関する。
【背景技術】
【0003】
従来、温熱療法としては、昔からサウナや温泉に入浴することにより、患者がその体を加温する方法が実施されている。そのような方法では、血管は弛緩し、拡張するので、血液の循環を良好となる。結果的に、患者の肝臓や腎臓や心臓への多面的な効果を得ることができる。
【0004】
しかし、この方法は体表面から人体に加温するものであるため体深部への加温効率が悪い。しかも、この方法は大きな熱量を必要とするため加温設備が大きくなり、簡便に患者や希望者に対して使用することが困難であるという欠点があった。
【0005】
特に、サウナによる体表面を加熱する方法でも帯熱気体の一部は呼吸器に吸入される。従って、そのような方法によって体内からの加温原理を実践していると考えられる場合もある。しかし、あくまで体内よりの人体の加温は副次的なものである。すなわち、主体は体外からからの加温である。体表面からの加温において最も問題とされるのは、皮膚表面からの発汗作用が著しいために発汗に伴う熱の放散現象が生起し、体温上昇が抑制されることである。更には、発汗作用により血液濃度が高くなる。一部の帯熱気体が呼吸器より肺胞に入ると思われるものの、血液濃度が高くなるため、肺胞での帯熱気体と血液とのガス交換による熱伝導も低くなる。これは、サウナそのものが発汗作用を目的としたものであるから当然ではある。すなわち、サウナを使用する目的は、本発明の目的とする体内部加温による深部体温の上昇という趣旨には相反することになる。更には、サウナ浴では、人体は体表面から加温されるので、皮膚面からの水分蒸散を促すために皮膚の乾燥を生起し、皮膚病患者には不適な療法であった。
【0006】
温熱療法として具体的には例えば特開2006−263425に開示された技術はラドン鉱石を浸漬した水を加熱してラドンガスを含有した蒸気を蒸散させ横臥した人間の呼吸器に蒸散蒸気を吸入するものがある。しかし、この技術は単にそのような温熱蒸気を一部吸入させて体温上昇をはかったものであり、通常のミストサウナと同等の体温上昇の機能しかない。従って、人体の深部体温を1℃上昇させるためには、66℃以上の蒸気で15〜20分間の加湿を必要とする。健常者ならそのような温熱療法を耐えることができるだろうが、ともかく疾病患者にかかる温熱療法を施すことは身体的負担が大きい。従って、そのような温熱療法は患者には採用できない。
【0007】
この技術においても、サウナ療法と同様にラドンガス含有蒸気の一部が呼吸器に吸入される。しかし、そのような技術も体表面加温を主体とするものである。つまり、そのような技術は主体的に体表面からの発汗を生起させる目的があり、発汗にともなう熱の放散現象を生起して、やはり体温上昇を抑制することになる。すなわち、この技術の目的は、人体内からの加熱による人体の深部体温の上昇という本発明の目的に相反する。
【0008】
また、他にUS2003/0136402A1に開示されているように超音波を利用して水の蒸散を行うことにより生成するミストを利用して、患者に患者の口腔からミストを吸入させることによって患者の体を冷却して頭部打撲等の対症療法を行う技術が開示されている。しかしこれは、温熱療法とは対極にある冷却療法である。従って、かかる冷却ミストにサウナの原理を適用して温熱化するにしても、そもそも冷却ミストが口腔から気管支までの冷却を目的としており、肺胞に至る加温蒸気を利用するという温熱療法に特有の生理的現象を達成するものではないため、かかる冷却ミストの技術を人体の加温にそのまま利用できるものではなかった。
【0009】
また、US2003/0136402A1では、患者が冷却ミストを吸入し、その後に口腔から温熱ミストを吸入することにより人体を加温することも開示されている。しかし、加温媒体はミスト、すなわち霧状液体であるため口腔から吸入した加温ミストは肺胞に至ることはできない。従って、加温ミストは肺胞において加温ミストと血液とのガス交換による血液加温や、血液への熱伝導という現象を充分に生起することはできない。
【0010】
更にはUS2008/0262377A1は、患者が肺胞に加温ミストを吸入する可能性を示唆した技術を開示している。しかし、この技術は肺胞を介した温熱療法のメカニズムが具体的に教示されているものではない。従って、この技術では、患者の肺胞に適温の加温ミストが到達するのか否かの具体的検討は全くなかった。また、仮に適温の加温ミストが到達するとしても深部体温を約1℃上昇させることができるか否かの具体的検討は全くなかった。従って、そのような技術は実施化できるものではなかった。
【0011】
すなわち、この技術は、前述の患者が加温ミストを口腔より吸入する技術と同様である。すなわち、あくまでミストという霧状液体を用いるものであるため、肺胞に加温ミストが到達するものではない。従って、US2008/0262377A1の開示からは肺胞における加温ミストと血液との熱交換というメカニズムを想定することができない文献である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2006−263425号公報
【特許文献2】US2003/0136402A1
【特許文献3】US2008/0262377A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記した課題を克服する温熱療法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この発明の一態様によれば、口又は鼻より温蒸気である加温蒸気などの帯熱気体を吸入して肺胞のすみずみまで加温蒸気である帯熱気体が行きわたるようにする温熱療法を提供する。このような温熱療法によれば、呼吸器の全体を加温すると共に肺胞を介して血液に熱エネルギーを与え、血流により熱エネルギーを全身へ伝達し短時間で容易に人体組織を温める。従って、健常者だけでなく患者もサウナや温泉と同等、或いはそれ以上の温熱療法の効果を簡便に享受できる。特に、サウナ療法を使用できない患者も上記した効果を享受できる。
【0015】
すなわち、本発明は、患者に帯熱気体を呼吸器を介して患者の肺胞に吸入させることによって、肺胞におけるガス交換や熱伝導によって循環血液を直接に加温する。換言すれば、本発明の要旨は医学的施術に関する技術であり、つまり、体内の加温により人体の深部体温を上昇させることによって顕著な医療効果を奏することのできる温熱療法である。
【0016】
同時に、本発明によれば、血液循環にともない人体の深部を低温で加温するために、患者は心地よい温まり感を得ることができる。従って、本発明は人あるいは患者に精神的なリラクゼーション機能を果たすことも可能となる。
【0017】
特に、本発明の要旨は、体内からの人体の加温の実施を主体とし、体表面からの加温をあえて行わない、或いは副次的にしか行わないものである。従って、各種疾病患者に反復した療法施術を可能とする。例えば、深部体温1℃上昇の状態を約15分間行い、これを1日1回の施術で約2週間以上継続して行うことにより、次のような疾病患者の治療を対象とすることができる。
【0018】
例えば、慢性閉塞性動脈硬化症、表皮の欠損により体表面からの加温ができない重度熱傷の患者、熱傷の患者、透析患者、薬剤吸収効率向上を必要とする患者等である。特に、透析患者においては、本発明の体内加温の療法を採用することで、以下のような効果がある。すなわち、循環動態が良好となり血管抵抗が減少することにより透析効率が向上するという治療効果がある。また、薬剤吸収効率の向上の面からは、透析患者に、薬剤服用の直前または直後に本発明の体内加温の療法を行うと、吸収効率の悪い薬剤(例えば、骨粗鬆症用のビスホスホネート製剤など)の吸収効率を向上し薬効を上げることができる。また、腸管吸収不良症候群などの患者に対しては、本発明の体内加温の療法により、栄養素の吸収を助ける効果がある。
【0019】
このように、穏和な温熱負荷を呼吸器を介して肺胞に適切に加えることで、血管内皮機能を改善し、老化にともなう動脈硬化を遅延させる効果を享受できる。また、患者の組織における熱ショック蛋白の合成が誘導され、ストレス耐性および運動能力の向上にも貢献することができるようになる。
【0020】
本発明のかかる温熱療法は更に顕著な効果を奏することができる。すなわち、本発明の温熱療法は呼吸器の加温により行われるため、簡便な装置を用いることができると共に、少量の熱量で、かつ、治療の場所を選ばず、低コストで温熱療法の施術が可能となる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、上記した課題を克服する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の温熱療法を実施するための装置を示す説明図である。
【図2】本発明の温熱療法装置の蒸気生成部における蒸気発生機の断面説明図である。
【図3A】本発明の温熱療法を実施するための実施例を示す説明図である。
【図3B】本発明の温熱療法を実施するための実施例を示す説明図である。
【図3C】本発明の温熱療法を実施するための実施例を示す説明図である。
【図4】本発明の温熱療法の結果を示すデータ説明図グラフである。
【図5】本発明の温熱療法の結果を示すデータ説明図グラフである。
【図6】本発明の温熱療法の結果を示すデータ説明図グラフである。
【図7】本発明の温熱療法の結果を示すデータ説明図グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
温熱療法において人体の深部体温を1℃上昇させることの医学的意義は次の通りである。
【0024】
まず、即効的な効果として、心拍出量が増加しつつ全血管抵抗が減少するため、血圧を上昇させることなく血液の循環を促進させることが可能であることが挙げられる。血行を促進させる際、前負荷、後負荷いずれも軽減するため、心臓への負担も少ない。
【0025】
また、温熱療法を継続的に行うことは、心不全に伴う不整脈、生活習慣病に伴う動脈硬化や血管内皮機能障害、下肢の慢性閉塞性動脈硬化症、線維筋痛症、慢性疼痛または軽度のうつに伴う身体症状や食欲の改善などに有効であることが報告されている。このように、心不全に始まり、動脈硬化、血管疾患、身体症状に至るまで様々な疾患に適応があり、今後も温熱療法の適用可能性は着実に広がっていくと思われる。
【0026】
さらに、生理学的には、温熱療法を継続することにより血管内皮から放出される一酸化窒素の合成が促進されることが報告されている。これは、熱ストレスによる物理的反復刺激が遺伝子転写を介して生体機能を修飾しているという重要な証明となっている。
【0027】
従って、健常者にとっては人体の深部体温を1℃上昇させることによって血管を弛緩し、血管拡張することにより血液の循環を良好とする。その結果、人体の深部体温のそのような上昇は、患者の肝臓や腎臓や心臓に対して多面的な効果を発揮することができる。
【0028】
しかし、人体の深部体温を1℃上昇させるための方策として従来はサウナ療法等のように体表面より人体を加温し、一部はミストサウナのように一部ミストを気管支に吸入して人体の深部体温を上げる方法しか提案されていない。特に、気管支に吸入させる従来のホットミストは、霧状初期でも粒径が10数μm以上もあり、しかも人の口腔近傍の雰囲気中に存在するためホットミスト吸入力は弱い。さらに、ホットミストの一部は気管支の中途の繊毛に付着して一部ドレン化する。このため、ホットミストは肺胞にまで到達しにくい。
【0029】
しかも、この従来の温熱療法は人体は主に体表面から加熱される。従って、ミストサウナでは、例えば、少なくとも60℃以上で約15分間の加熱条件が必要とされる。
【0030】
かかる加熱条件は健常者にとっても体負担は大きい。ましてやそのような療法は疾病患者にとっては採用できない療法であり、従って、疾病患者に従来の温熱療法を施すことは医学的に困難とされていた。
【0031】
本発明の発明者は、この課題を解決すべく、疾病患者にも体の負担なく簡便に行える温熱療法を誠心誠意検討し、開発した。
【0032】
すなわち、発明者が注目したのは、人に帯熱した蒸気を吸入させ、上気道、下気道およびガス交換器等を介して人体組織全体に温熱を伝導して人体の深部体温を1℃上昇させることである。特に発明者が注目したのは、吸入した温熱蒸気をガス交換器の1部である肺胞の隅々にまで充填させ、ガス交換や熱交換により肺胞に分布する毛細血管を介して人体組織全体に温熱を伝導して人体の深部体温を1℃上昇させることである。
【0033】
かかる肺胞と血液との間のガス交換や熱伝達により熱が血液に伝導することの原理は次の通りであると思われる。
【0034】
ここで肺胞とは、気管支の最末端分枝に続く半球状の小さな嚢をいう。肺胞で呼吸上皮細胞といわれる上皮細胞によって肺胞内部の空気と毛細血管内の血液との間でガス交換が行われている。
【0035】
すなわち、呼吸運動による肺呼吸によって肺胞内に吸込まれた酸素は肺胞を通過して肺毛細血管内の血液中に拡散していく。同時に、加温蒸気あるいは一部結露したミストからの熱エネルギーの伝達により血液が加温され、血液循環により全身の体組織へと送られ人体の深部体温を上昇すると思われる。
【0036】
右肺と左肺の肺胞の総数は合わせて約7〜8億個あり、全表面積は100mすなわち、体表面の約30倍に達する。
【0037】
本発明の目的は、かかる肺胞の機能を有効に用いて肺胞に分布する毛細血管中の血液に温熱を伝達し、血液の循環により体組織全体に温熱を伝導し、容易に人体の深部体温を1℃上昇させることである。
【0038】
このように人に加温蒸気を肺胞まで吸入させ肺胞の特殊な機能によりその体の深部体温を上昇させるという発想は従来の医学的見地には全く存在しない極めて斬新な療法であり、本発明は、かかる温熱療法と共にその実施に必要な温熱装置を提供せんとする。
【0039】
この発明の実施例を図面に基づき説明する。
【0040】
以下、温熱療法装置について図1、2に基づき説明する。
【0041】
図1に示すように、同装置Aは、加熱エア発生部A−1と、蒸気生成部A−2と、噴出(ジェット)ノズル部A−3とより構成されている。
【0042】
加熱エア発生部A−1はコンプレッサ1により生成した加圧気体を気体流路3に流し、気体流路3の中途に配設した加熱装置2により約40〜45℃に加熱する。
【0043】
4は、気体流路3の中途で加熱装置2の上手側に配設した速度制御部である。速度制御部4は、気体流速を調節することにより後述する蒸気生成部A−2によって生成された蒸気の湿度調節を行う。図中、2′は、加熱装置2における温度調節機を示す。
【0044】
5は、速度制御部4と加熱装置2との間で気体流路3の中途に配設した流量センサーである。
【0045】
気体流路3の終端は、蒸気生成部A−2に連通している。
【0046】
すなわち、蒸気生成部A−2は、密閉保温ケース6中に水Wを貯留されている。密閉保温ケース6中で貯留水Wの上方には、蒸気発生機7を配設している。蒸気発生機7は気体流路3の終端と連通連結している。
【0047】
図2に示すように、蒸気発生機7は箱状の蒸気ケース8を有し、蒸気ケース8の周壁に所定個数の給水口9を開設する。蒸気ケース8の内周壁には不織布よりなる円筒状フィルタ10を設置している。
【0048】
しかも、蒸気発生機7の給水口9には、給水パイプ14の上端を連通連結し、給水パイプ14の下端には貯留水W中に浸漬し、貯留水W中に開口している。
【0049】
円筒状のフィルタ10の内筒には流路11を形成しており、流路11の始端は流入口12、流路11の終端は噴出口13としている。
【0050】
気体流路3の終端はフィルタ10の上端流入口12に連通している。
【0051】
従って、加熱装置2により一定の温度に加熱された気体が気体流路3から加熱装置2により一定の圧で流路11に流入し、気体は蒸気ケース8の底板13′に穿設した小孔の噴出口13より噴出する。流路11におけるインゼクション効果により、フィルタ10を介して貯留水Wを給水パイプ14から吸引する。その際貯留水Wはフィルタ10の不織布の網目状間隙又は細孔を通過するので貯留水Wは霧状となってミストまたはミスト水分になる。
【0052】
このように気体流路3からの加熱気体と給水パイプ14からフィルタ10を介して給水された霧状の水分とにより形成された加温蒸気mは流路11の噴出口13から排出され密閉保温ケース6内の貯留水W上方の空間に充満される。
【0053】
なお、この際、蒸気ケース8の下端をケース底板13′より下方に伸延しスカート部8′としている。従って底板13′に突設した噴出口13のオリフス機能により加温蒸気mが外方へ拡散状態に噴射される際に、加温蒸気mは蒸気ケース8のスカート部8′により形成された空間部Sにおいて攪拌され一部のミスト粒は粉砕されて気化する。気化されたミストは加温蒸気mとなり加温蒸気mは密閉保温ケース6内に充満する。
【0054】
密閉保温ケース6内は、噴出口13から噴出されて密閉保温ケース6内充満した加温蒸気mがドレン化せず、加温蒸気mと気体流路からの加熱気体が同温液となるように、密閉保温ケース6の壁体中に保温ヒータ6′を埋設して加熱するように構成している。
【0055】
充満された加温蒸気mは、密閉保温ケース6内を充圧して同ケース6の天井部に連通した蒸気パイプ15中に導出される。
【0056】
蒸気パイプ15の終端にはマスク形状とした噴出ノズル部A−3が連通連結されている。
【0057】
また、蒸気パイプ15の中途外周には、加温蒸気mが冷却されてドレン化しないように保温ヒータ16を囲繞している。
【0058】
従って蒸気パイプ15を搬送されてきた加温蒸気mは、噴出ノズル部A−3から一定圧で噴出する。
【0059】
口腔Mをマスク状の噴出ノズル部A−3で覆うようにして加温蒸気mを口腔M内に噴出することにより加温蒸気mは口腔より患者の気管支を経て肺に至り肺胞内に到達する。なお、噴出ノズル部A−3は口腔内に加温蒸気mを噴出出来る形状であればよく例えば患者が口腔内に咥えるような形状としてもよい。
【0060】
Cは、制御部である。制御部Cは加熱エア発生部A−1の加熱装置2と、密閉保温ケース6と、保温ヒータ16と、噴出ノズル部A−3とにそれぞれ設けたセンサーS1,S2,S3,S4からの検知データ及び、流量センサー5からのデータ等を基にして最適の加温蒸気mを噴出できるように速度制御部4や加熱装置2や保温ヒータ6′,16等の制御を行うように構成している。
【0061】
肺胞に至った酸素含有の加温蒸気mは、肺胞壁に分布した毛細血管内の血液とガス交換すると共に帯熱した加温蒸気mから血液への熱伝達と相俟って血液循環により体組織全体に熱を搬送する。
【0062】
すなわち、肺胞において加温蒸気mと血液との間でガス交換や熱伝達などが行われて、帯熱血液を体組織全体に循環させる。従って、従来の主に体表面より高温で過熱して人体の深部体温を1℃上昇させる技術と比較して、本発明の温熱療法は体への負担を可及的に低減しながら人体の深部体温を簡便にかつ容易に上昇させることができ、患者の温熱治療を可能とする。
【0063】
蒸気噴出ノズルA−3については、必ずしも蒸気を噴出する構造のノズルである必要はなく、蒸気噴出ノズルA−3は熱付与器として機能する構造であればよい。例えば、蒸気噴出ノズルA−3は帯熱気体としての加温蒸気や加温飽和水蒸気を口腔から気道へ流通すべく患者の頭部を囲繞するヘルメット状のボールに構成して気道中に熱を付与する構造であってもよい。
【0064】
なお、平均的な成人の呼吸による気体の吸入量は1回の呼吸につき約400〜500ccであり、1分間当たりの呼吸数は約12回である。従って、平均的な成人は、1分間当たり約4.8〜6.0Lの上記加温蒸気を吸入することが可能である。一方、本発明の温熱療法装置は1分間当たり少なくとも30Lの加温蒸気を生成することができるので、加温蒸気の吸入により体温を上昇させるための十分な量の加温蒸気を体内へ供給することが可能であると言える。
【0065】
本発明の温熱療法を実施するための一実施形態を図3A〜図3Cに基づき説明する。
【0066】
図3Aは、加温蒸気吸入前の状態を示す。図3Bは、加温蒸気吸入中もしくは吸入後の状態を示す。図3Cは、噴出ノズル部A−3および保温スーツBと吐出パイプ20との連結部周辺の拡大図を示す。なお、これらの図では、保温ヒータ16および制御部Cを省略している。
【0067】
なお、図3Cの逆止弁21および逆止弁22は加温蒸気m吸入時における位置を示しているが、吐出ガスgの吐出時には、それらの逆止弁はそれぞれ点線の位置に移動する。逆止弁21および逆止弁22の構造は吐出ガスgの逆流を防ぐことが可能であればよく、図示された構造に限られない。また、吐出パイプ20の噴出ノズル部A−3および保温スーツBへの接続部も、上述のように吐出ガスgを保温スーツ内へ送出可能な構成になっていればよく、図示された構造に限られない。
【0068】
図3Aから図3Cに示すように、本実施形態における装置では、人体を被覆するための保温スーツBが付加されている。
【0069】
すなわち、保温スーツBは、可撓性素材からなり、人体の首から足先を全体的に被覆することのできる形状と大きさを有する。患者は、予め、裸身で、首と頭部がスーツから外に出るようにして着用する。しかも、患者の首から足先を全体的に被覆した状態では保温スーツ内部は可及的に気密状態となるようにし、患者の体表面からの放熱を防ぎ体温の維持に努めることができるように構成している。
【0070】
また、保温スーツBの所定の箇所には可撓性の吐出パイプ20が連通状態に連結されており、その始端は噴出ノズル部A−3の内部に連通している。
【0071】
従って、患者の口腔から噴出ノズル部A−3内部に吐き出された吐出ガスgは吐出パイプ20を介して保温スーツBの内部に貯留されることになり、患者の吐く吐出ガスgの有する気体温度が患者の体表面も加温することになり、肺胞に吸引する加温蒸気と相俟って可及的に体温の上昇に役立つようにしている。
【0072】
なお、保温スーツBは伸縮自在で可撓性があり、熱を外部へ放散しにくい素材もしくは構成となっていれば何でも良く、また、保温スーツは患者から吐き出される吐出ガスgによって徐々に膨大していくことができる素材としている。
【0073】
また、図3Cで示されるように、噴出ノズル部A−3に連結されている蒸気パイプ15の終端には噴出方向のみの一方通行の逆止弁21が設けられており、患者の口腔から吐き出す吐出ガスgがマスク状の噴出ノズル部A−3内部から蒸気パイプ15へ逆流しないように構成されている。一方、保温スーツBに連通状態に接続した吐出パイプ20の終端には排出方向のみの一方通行の逆止弁22が設けられており、保温スーツ内へ入った吐出ガスgが噴出ノズル部A−3内部へ逆流しないように構成されている。
【0074】
なお、図3Cの逆止弁21および逆止弁22は加温蒸気m吸入時における位置を示しているが、吐出ガスgの吐出時には、それらの逆止弁はそれぞれ点線の位置に移動する。逆止弁21および逆止弁22の構造は吐出ガスgの逆流を防ぐことが可能であればよく、図示された構造に限られない。また、吐出パイプ20を噴出ノズル部A−3に接続する接続部及び吐出パイプ20を保温スーツBへ接続する接続部も、上述のように吐出ガスgを保温スーツ内へ送出可能な構成になっていればよい。
【0075】
従って、保温スーツBを着用して温熱療法装置Aの噴出ノズル部A−3を口腔Mに近い位置に当てて加温蒸気mを口腔M内に噴出すると、加温蒸気mは口腔より気管支を経て肺に至り肺胞内に到達すると同時に、患者の口腔から噴出ノズル部A−3内部に吐き出された吐出ガスgは吐出パイプ20を介して保温スーツBの内部に貯留されることになり、吐出ガスgが有する熱が患者の体表面も加温することになり、肺胞に吸引する加温蒸気と相俟って可及的に体温の上昇に役立つ。
【0076】
このように、加温蒸気mは蒸気パイプ15を通じて体内へ吸入されると、加温蒸気mと、上気道、下気道及びガス交換器に分布する毛細血管中の血液との間に熱交換がなされ、加温蒸気mは吐出ガスgとして体外へ吐出されると同時に、所定の温度を有する吐出ガスgは、吐出パイプ20を通じて保温スーツ内へ送出され貯留されて体表面を加温することになる。
【0077】
本発明の呼吸器からの加温による温熱療法の実施効果を次のようにして検証した。図4、図5、図6、図7は、本発明の温熱療法の実施の結果を示すデータ説明図である。
【0078】
図4は、時間の経過にともなう舌下温度及び鼓膜温度の変化を示すグラフである。
【0079】
図5は、時間の経過にともなう血圧の変化及び心拍数の変化を示すグラフである。
【0080】
図6は、時間の経過にともなう加温蒸気の温度の変化を示すグラフである。
【0081】
図7は、本発明の温熱療法装置のみを使用した場合の時間の経過にともなう鼓膜温度の変化と、保温スーツで人体を被覆するとともに本発明の温熱療法装置を使用した場合の時間の経過にともなう鼓膜温度の変化と、及び保温スーツで人体を被覆したのみ場合の時間の経過にともなう鼓膜温度の変化を示すグラフである。
【0082】
まず、健常男性を対象として本発明の装置Aを用いて加温蒸気の吸入を12分間実施した。その際に、体表面からの放熱を防止するために保温スーツで人体を被覆して、健常男性の舌下温度、鼓膜温度、血圧、心拍数を測定した。その実施結果は図4示されるように、呼吸器からの加温を12分間実施した直後の舌下温度は(36.8±0.09)度Cから(37.4±0.16)度Cに昇温した。
【0083】
また、鼓膜温度は(36.3±0.12)度Cから(36.5±0.09)度Cに昇温した。
【0084】
また、図5に示されるように、血圧は収縮期(117.1±4.64)mmHg及び拡張期(79.8±4.75)mmHgから収縮期(112.5±5.75)mmHg及び拡張期(77.8±3.22)mmHgに低下した。
【0085】
また、心拍数は(67.0±3.04)回/分から(69.5±4.39)回/分に増加した。
【0086】
しかし、その後舌下温度は(37.1±0.12)度Cに下降し、鼓膜温度は(36.8±0.05)度Cに上昇し、血圧は、収縮期(111.4±1.72)mmHg及び拡張期(73.4±2.27)mmHgに低下し、心拍数は(66.8±5.03)回/分に減少した。
【0087】
このように加温蒸気の12分間吸入後の体温や血圧や心拍数の変化、すなわち、加温蒸気吸入(温熱療法開始)の結果、鼓膜温度は舌下温度よりも緩やかに上昇し、その後、舌下温度は下降に転じたが、鼓膜温度は上昇を続けた。この変化は、気道に加えられた熱が血流により全身へ伝達された結果であると考えられる。
【0088】
また、図7で示されるように、保温スーツで人体を被覆するとともに本発明の温熱療法装置を使用し加温蒸気を吸入した場合、全身の体温を長時間、より高い温度で保つことができることが分かる。従って、保温スーツで人体を被覆することで体表面からの放熱を防止することによって、本発明の装置をより効果的に使用することが可能であると考えられる。
【0089】
本発明に係る温熱療法装置が上記した図4〜図7のグラフに示す効果を奏する理由の一つは、肺胞表面積は体表面積の大きさの約30倍であるため、呼吸器からの加温が深部体温の上昇を促し全身温熱に最も効率的であるということにある。
【0090】
この発明の実施例は、上記のように構成されているものであるが、基本的に呼吸器からの加温による全身温熱療法を実施できる技術であれば、いかなる具体的な実施技術であってもよい。
【0091】
例えば、温熱療法を実施する装置においては、熱源としての加熱エア発生部A−1で温度調整を行うことも可能であり、かかる温度調整により可及的に低温サウナと同等の深部体温の上昇を促す。
【0092】
なお、蒸気の気体中に栄養分や薬効成分を含有させておくことにより呼吸器からの加温効果に加えて栄養分や薬効成分を血液から吸収して各種の治療効果を奏することも考えられる。
【0093】
また、蒸気の噴出形態もその噴出圧を調整したり、噴出形状を変化させたりすることにより口腔から肺胞に至る気道において蒸気の流通効率を向上することができる。
【0094】
また、本発明においては、特に呼吸器の中の肺胞からの血流加温という従来にはない新しい温熱療法を提供するものであるが、その際に簡便に、場所を選ばず、どこでも呼吸器からの加温が可能となる装置を提供することも目的とする。
【0095】
このような簡便な装置を提供することにより、自宅や病院で病床に伏したままの要介護の患者に対して呼吸器からの加温療法を容易に実施することができる。
【0096】
従って、本発明の温熱療法を実施する装置は、構造的にコンパクトでなければならず、かつ、安価で携帯しやすい大きさと構造を有していることが必要となる。
【0097】
特に、本発明の温熱療法では、呼吸器の肺胞への加温であるため少量の熱量で目的を達することができるという特徴を有する。
【0098】
従って、装置は少量の熱量を生成する蒸気を噴出する構造であればよいため、容易にコンパクトに構成することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
呼吸器より加温蒸気を吸入し、上気道、下気道及びガス交換器に分布する毛細血管中の血液に熱を伝えることにより、人体の深部体温を上昇させる人体への温熱療法。
【請求項2】
前記ガス交換器は肺胞であることを特徴とする請求項1に記載の温熱療法。
【請求項3】
呼吸器より加温蒸気を吸入し、上気道、下気道及びガス交換器に分布する毛細血管中の血液に熱を伝えることにより、人体の深部体温を上昇させるに際し、体表面を断熱素材で被覆することを特徴とする請求項1に記載の温熱療法。
【請求項4】
加熱エア発生部と、蒸気生成部と、噴出ノズル部とを設け、加熱エア発生部により発生した加熱気体と蒸気生成部により生成した霧状水分とを混合して、加温蒸気を生成し、加温蒸気を噴出ノズル部に搬送して口腔より肺胞内へ導入すべく構成した人体温熱装置。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2013−518692(P2013−518692A)
【公表日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−552488(P2012−552488)
【出願日】平成23年2月7日(2011.2.7)
【国際出願番号】PCT/IB2011/000397
【国際公開番号】WO2011/098912
【国際公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【出願人】(512207799)
【出願人】(512208073)
【Fターム(参考)】