説明

人工干潟の造成方法及び干潟造成用土留め潜提

【課題】
長期間安定的に維持される人工干潟を造成する方法及びその造成に用いる土留め潜堤を提供する。
【解決手段】
人工干潟を造成する海岸1の沖合に干潮水位LWLの近傍高さの土留め潜提10を構築し、土留め潜提10の天端11に沖波5が砕波可能な角度θで岸側から沖側へ下降する砕波面を形成し、土留め潜提10の天端11の岸側縁に隣接させて干潟造成材20を置き、造成材20を砕波後の波6又は流れで岸側へ輸送することにより土留め潜提10と海岸1との間に干潟21を造成する。 好ましくは、土留め潜提10の天端11の岸側に天端10以下の高さの載土場16を設け、載土場16に載置した造成材20を砕波後の波6又は流れにより岸側へ輸送する。この場合、載土場16の水深を2m未満とすることが望ましい。更に好ましくは、土留め潜提10の天端11の砕波可能な角度θを6〜18度とし、土留め潜提10の天端11の岸沖方向の幅Wを沖波5の波長Lの0.3〜0.5倍とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は人工干潟の造成方法及び干潟造成用土留め潜提に関し、とくに海岸の沖合に構築した土留め潜提と海岸線との間に人工干潟を造成する方法及びその造成に用いる土留め潜提に関する。
【背景技術】
【0002】
干拓や埋立てにより自然環境が失われた海岸において、人工の干潟や藻場(以下、両者を纏めて人工干潟という)の造成により自然環境の回復を図る試みが進められている。例えば図9に示す東京湾の盤洲干潟のような自然の干潟(前浜干潟)は、満潮時の海水レベル(以下、HWLということがある)と干潮時の海水レベル(以下、LWLということがある)との間に、テラス部44と呼ばれる勾配の緩やかな地形と満潮位傾斜面42とから構成され、テラス部44の沖側は急勾配で深くなっている(干潮位傾斜面43)。テラス部44の沖側に存在する多段バートラフ部40が来襲波を受け止めて砕波し、岸側の平坦部41に進入する波の波高を低減することにより、干潮時に海面上に露出する平坦部41を多様な生物の生息に適した静穏な環境に維持している。長期的に安定的な人口干潟を造成し、生物の生息場所として重要な平坦部41を長くするためには、多段バートラフ部40に代わる消波構造物を設置することが有効である。
【0003】
例えば特許文献1及び2は、図8に示すように、人工的な沿岸護岸(直立護岸等)46で囲われた海岸から所定距離離れた海域に土留め潜堤47を設け、護岸46と潜堤47との間に海浜造成材48を堆積させて人工干潟21を造成する方法を提案している。土留め潜堤47の一例は、例えば砕石等の捨石47aを断面台形のマウンド状に積み上げ、台形状マウンドの表面に被覆石47bを敷設したものである。海浜造成材48は、例えば微生物接触材として作用する割石、礫、砂、土等であり、必要に応じて藻類その他の生物の着床を促進する人工暗礁等を含めることができる。海浜造成材48として、有機物や窒素・リン等の栄養分が豊富に含まれる航路浚渫土砂等を用いることもできる。
【0004】
図8の例では、土留め潜堤47の上端をLWLと一致させるか又はLWLより低くし、海浜造成材48を潜堤47から護岸46へ向け緩やかに上昇させながら予め設計した形状に積み上げ、海浜造成材48の護岸4側をHWLより高くすることにより干潮時に海面上に露出する人工干潟21を造成する。海浜造成材48として浚渫土砂等を用いる場合は、海浜造成材48上に細砂等を散布して干潟21に勾配をつけることもできる。人工干潟21の沖側に設けた土留め潜堤47により、波浪や潮流による海浜造成材48の流出を防止すると共に、沖側の傾斜側面47cの波の減衰作用で沖波の波高を低減して干潟21を静穏な環境に保つ。
【0005】
【特許文献1】特開平4−062214号公報
【特許文献2】特開平8−311842号公報
【特許文献3】特開昭64−014411号公報
【特許文献4】特開平10−114924号公報
【特許文献5】特開平4−289310号公報
【特許文献6】特許第2768268号公報
【非特許文献1】日本土木学会水理委員会「水理公式集」丸善株式会社、1999年11月、p467
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
土留め潜堤47は、工費を安くするため体積を小さくすることが求められ、天端の幅が狭く傾斜側面47cが急勾配である形状とすることが多い。しかし、天端の幅が狭く側面47cを急勾配とした土留め潜堤47では沖波を十分に砕波させることができず、干潟21の海浜造成材48が波浪により侵食されやすい等の問題が経験されている。図8のような人工干潟21を創造する実際の海岸は、図9のように十分に長いテラス部44(勾配の緩やかな地形)が存在せず、土留め潜堤47と海岸1との間の岸沖方向の長さが比較的短い場合が多い。テラス部44の小さな海岸に安定した人工干潟21を造るためには、干潟21の平坦部41の面積を大きくすると共に波浪の影響を小さく抑えることが重要であり、小さな体積で沖波を十分に砕波できる土留め潜堤47の開発が求められている。
【0007】
また従来の人工干潟21では、最終的な形状を予め設計したうえで厳密に測量しながら海浜造成材48を設計形状に積み上げて干潟21を造成しているが、造成後に地盤高が沈下したり台風等で生態系が衰退したりすることによって、干潟21としての有効性が徐々に失われる等の問題も経験されている。長期間安定的に維持される人工干潟21を造るためには、波浪の影響を小さく抑えると共に、自然の干潟と同様にたとえ台風等によって生態系が衰退しても回復を繰り返すような干潟を造成する技術が必要である。
【0008】
そこで本発明の目的は、長期間安定的に維持される人工干潟を造成する方法及びその造成に用いる土留め潜堤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、図9のような自然の干潟では多段バートラフ部40で砕波された波の力によって土砂が平坦部41に運ばれて地形に応じた形状の干潟が造られ、たとえ台風等によって平坦部41が撹乱されても波の力によって干潟が回復することに注目した。図8のような従来の人工干潟21の土留め潜堤47は、沖側の傾斜側面47cによる波の減衰作用を期待しているが、砕波後の波の力で土砂を運搬することを予定していない。本発明者は、水理実験により、土留め潜堤47の天端に適当な砕波機能を持たせ、天端で砕波した後に急増する波の底面流速を利用すれば土砂を平坦部41に運ぶことができるとの着想を得た。本発明は、この着想に基づく研究開発の結果、完成に至ったものである。
【0010】
図1の実施例を参照するに、本発明による人工干潟の造成方法は、人工干潟を造成する海岸1の沖合に干潮水位LWLの近傍高さの土留め潜提10を構築し、土留め潜提10の天端11に沖波5が砕波可能な角度θで岸側から沖側へ下降する砕波面を形成し、土留め潜提10の天端11の岸側に干潟造成材20を置き、造成材20を砕波後の波又は流れ6又は流れで岸側へ輸送することにより土留め潜提10と海岸1との間に干潟21を造成してなるものである。
【0011】
好ましくは、図1(B)に示すように、土留め潜提10の天端11の岸側に天端11以下の高さの載土場16を設け、載土場16に載置した造成材20を砕波後の波6又は流れにより岸側へ輸送する。この場合、載土場16の水深を2m未満とすることが望ましい。更に好ましくは、土留め潜提10の天端11の砕波可能な角度を6〜18度とし、土留め潜提10の天端11の岸沖方向の幅Wを沖波5の波長Lの0.3〜0.5倍とする。
【0012】
また図1の実施例を参照するに、本発明による干潟造成用土留め潜提は、人工干潟を造成する海岸の沖合に構築する土留め潜提において、天端11に沖波5が砕波可能な角度θで岸側から沖側へ下降する干 潮水位LWLの近傍高さの砕波面を形成してなるものである。好ましくは、天端11の岸側に天端11以下の高さの載土場16を設け、載土場16に載置した干潟造成材20を天端11で砕波後の波5により岸側へ輸送可能とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明による人工干潟の造成方法は、干潮水位LWLの近傍高さの土留め潜提10の天端11に沖波5が砕波可能な角度θで岸側から沖側へ下降する砕波面を形成し、天端11の岸側に置いた干潟造成材20を砕波後の波6又は流れで岸側へ輸送することにより土留め潜提10と海岸1との間に干潟21を造成するので、次の顕著な効果を奏する。
【0014】
(イ)土留め潜堤の天端を傾斜面とすることで、様々な潮位レベルで沖波を砕波させることが可能となる。
(ロ)また、土留め潜堤の天端に大きな砕波機能を持たせることで、比較的小さな設置面積(岸沖方向の幅)で沖波を十分に減衰させることが可能となり、テラス部の小さな海岸(例えば、テラス幅300m以下)でも安定した比較的広い平坦部を造ることができる。
(ハ)潜堤天端の岸側に干潟造成材を置き、天端で砕波した波の力を利用して造成材を岸側へ運ぶことにより、様々な海岸地形に応じた最適形状の干潟、とくに岸沖方向の平坦部の長い干潟を造成することが期待できる。
(ニ)波の力を利用して干潟を造成することにより、台風等によって撹乱されても地形に応じた形状を容易に回復させることができ、自然の干潟と同様に安定的に維持される人工干潟とすることが期待できる。
(ホ)新規な人工干潟を造成する場合だけでなく、既存の干潟を保全する場合等にも適用可能である。
(ヘ)干潟造成材として浚渫土砂を用いた場合でも、潜堤の天端を干潮水位近傍高さとすることにより、浚渫土砂等の流出を有効に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1(A)は、本発明の土留め潜堤10の一例を用いて造成した人工干潟21の実施例を示す。図示例の人工干潟21は、海岸1の沖合に構築した土留め潜堤10と、土留め潜提10の天端11の岸側縁に隣接させて干潟造成材20を載置する載土場16と、潜堤10及び載土場16と海岸1との間に堆積した干潟造成材20とにより構成されている。土留め潜堤10は、干潟造成材20の流出を防止できるように天端11を干潮水位LWLの近傍高さとし、その天端11に岸側から沖側へ下降する砕波面を形成する。土留め潜堤10の天端11が干潮水位LWLより若干高くてもとくに問題はないが、天端11を干潮水位LWL又はそれより低くすれば土留め潜堤10を水中に隠すことができる。載土場16には、天端11で砕波された波6が打ち込まれるように、天端11の岸側縁と同じレベル又はそれより低いレベルの載置面を形成する。
【0016】
先ず海岸1の沖合に土留め潜堤10と載土場16とを構築し、干潟造成材20を載土場16上に載置し、潜堤10の天端11で砕波した波6又は流れにより載土場16上の造成材20を岸側へ輸送する。載土場16上への載置と波6による輸送とを繰り返すことにより、載土場16と海岸1との間に造成材20を徐々に堆積させる。例えば造成材20として潜堤10の沖合の浚渫土砂等を利用し、浚渫土砂を載土場16上に随時に供給して干潟21を造成することができる。なお図示例では、潜堤10と海岸1との間に予め割石や礫等の捨込材22を敷設し、その捨込材22上に干潟造成材20を堆積させているが、捨込材22の敷設は本発明に必須のものではなく、海底3が浅い場合は捨込材22を省略できる。
【0017】
土留め潜堤10は、海底3が浅い場合は、海底3上に捨石、ブロック、フィルターユニット及び/又はコンクリートケーソン等を積み上げて築堤することができる。また海底3が深い場合は、鋼管矢板工法等で深い部分に基礎部を構築したのち、捨石、ブロック、フィルターユニット及び/又はコンクリートケーソン等を基礎部上に積み上げて築堤してもよい。図1(A)の土留め潜堤10は、天端11を沖波5が砕波可能な角度θで岸側から沖側へ傾斜面状に下降する砕波面とし、天端11の水深を沖側から岸側へ向かうにつれて浅くしている。沖合から押し寄せる沖波5は徐々に浅くなる天端11上で砕波され、底面流速の大きな砕波6となって隣接する載土場16に打ち込まれる。
【0018】
載土場16は、土留め潜堤10の天端11の岸側縁に隣接させて又は土留め潜堤10に接しない捨込材22上に、捨石、ブロック、フィルターユニット等を積み上げて構築することができる。また、捨込材22上に干潟造成材20がある程度堆積した時点で、堆積した造成材20上に直接捨石等を積み上げてもよい。図1(B)に示すように、土留め潜堤10上に岸側側面15から突出させたステップ状の載土場16を形成し、土留め潜堤10と載土場16とを一体的構造として構築してもよい。載土場16の頂面(干潟造成材20の載置面)には、砕波6の打ち込みにより洗掘されないように、転石や砂利等の被覆材17を設けることが望ましい。また、土留め潜堤10の岸側側面15に沿って造成材20を予め積み上げ、積み上げた造成材20の頂面に被覆材17を敷設して載土場16とすることも考えられる。載土場16に打ち込まれる砕波6は、載土場16の幅E(岸沖方向の長さ、図2参照)の区間は浅い水深で維持され、更に土留め潜堤10の内側へ進入すると水深が深くなって波高の小さい波(以下、内側波という)7に再生される。載土場16の幅Eは、載置する造成材20の量や載土場16の安定性等を考慮して適当に選択する。
【0019】
図2は、本発明の土留め潜堤10に押し寄せる沖波5、土留め潜堤10の天端11上の砕波6、及び土留め潜堤10の内側波7の各々について、水平流速の垂直分布を図式的に表わしたものである。同図から分かるように、土留め潜堤10の天端11上の巻き波状又は段波状の砕波6は沖波5に比して底面流速が大きくなり、土砂の輸送力が増加する。その天端11の岸側に隣接して載土場16を設けることにより、天端11で砕波した波6の底面流速を一定区間維持させ、載土場16上に載置した干潟造成材20を砕波6の大きな底面流速により浮遊させ又はシートフロー状に岸側へ移動させることができる。載土場16を通過した砕波6は波高の小さい内側波7に再生されるので、載土場16から岸側へ移動した造成材20は徐々に海底3に沈降して堆積する。天端11に対する載土場16の深さd(≧0)は、あまり大きくすると造成材20が移動しにくくなるが、干潟造成地の沖波5の波高や周期等に応じて適当に選択することができる。本発明者は、波高0.3〜1.5m、波周期3〜6秒の沖波条件下で載土場16の水深を2m未満とすれば、造成材20を浮遊移動又はシートフローにより移動することを水理実験により確認することができた。好ましくは、載土場16の水深を1m未満とする。
【0020】
従来から、例えば特許文献3が開示するように岸側から沖側へ下方に傾斜する天板(傾斜板)を用いた潜堤構造や、特許文献4が開示するように鋼製又はコンクリート製の開口付き傾斜板を用いた消波構造等が知られている。しかし、従来の潜堤構造又は消波構造は、傾斜面の岸側縁において急激に水深が深くなっているため、傾斜面上において沖波5が砕波して底面流速が大きくなっても、傾斜面の岸側縁ですぐに内側波7が再生して底面流速も減少してしまう。波の力によって干潟21を造成するには、本発明のように天端11の岸側縁において砕波した波6の底面流速を一定区間維持し、その砕波6の底面流速を利用して干潟造成材20を運搬することが有効である。
【0021】
図1(A)及び(B)の実施例では、土留め潜堤10の天端11を傾斜面状の砕波面としているが、砕波面の構成は図示例に限定されない。例えば特許文献3又は4のような傾斜板又は開口付き傾斜板を、本発明の土留め潜堤10の天端11に取り付けて砕波面を形成し、その砕波面で破砕した波6により載土場16の造成材20を運搬することも可能である。また、特許文献5又は6が開示するように、複数の没水平板を岸側から沖側へ徐々に下降するように階段状に配設した消波構造も知られており、図1(C)のように土留め潜堤10の天端11を岸側から沖側へ階段状に下降する砕波面とすることも可能である。この場合は、破砕面の各階段の重心を結ぶ仮想平均勾配を沖波5が砕波可能な角度θとする。階段状の砕波面は、傾斜面状の砕波面に比し施工が難しいと思われるが、傾斜面状の砕波面と同等の砕波機能を有することを本発明者は水理実験により確認することができた。
【0022】
土留め潜堤10の天端11の砕波面の勾配は、好ましくは6〜18度、更に好ましくは6〜10度、最も望ましくは8度付近とする。一般に砕波の形式は崩れ波砕波、巻き波砕波、砕け寄せ砕波に分類することができ、図7に示すように海底勾配(一様勾配を仮定)と沖波の波形勾配(波高Hと波長Lとの比H/L、H=0.5〜2.0mの条件で算出)とにより砕波の形式が決まる。同図は、非特許文献1を参考にして、海底勾配(横軸)と波形勾配(縦軸)とで定まる平面上に、崩れ波砕波と巻き波砕波との境界線、及び巻き波砕波と砕け寄せ砕波との境界線を表わしたものである。また同図には、海底勾配毎に、沖波周期が3秒、6秒及び12秒のときの波形勾配をガイドとして付してある。巻き波砕波は、崩れ波砕波及び砕け寄せ砕波に比し、エネルギー散逸量が大きく、突っ込み点で大量の土砂(本発明では干潟造成材20)を巻き上げることが知られている。同図から分かるように、土留め潜堤10の天端の砕波面の勾配角度θを6〜18度とすれば、波高0.5〜2.0m、周期3〜6秒の沖波をほとんど巻き波砕波することができ、干潟造成材20を効率的に運搬することができる。また、天端の勾配は安定性の点からなるべく緩い方がよいことを考慮すると砕波面の勾配角度θを6〜10度とするのがよく、とくに砕波面の勾配角度θを8度付近とすれば、うねり性の周期12秒の沖波も砕波形式を巻き波とすることができる。なお特許文献5及び6は、複数の水没平板を階段状に配設した消波構造においても、砕波面の角度θを8度付近としたときに沖波の透過率が最も小さくなることを報告している。
【0023】
また、土留め潜提10の天端11の砕波面の岸沖方向の幅Wは、干潟造成地の沖波5の波高や周期等に応じて十分な砕波効果が得られるよう適当に選択することができる。例えば図9のような自然の干潟では、多段バートラフ部40により平坦部41の内側波7の波高が沖波5の約半分(波の透過率=透過波高/入射波高=0.5)であることが報告されているので、人工干潟21を造成する場合も土留め潜堤10による沖波の透過率を0.5以下に抑えるように、土留め潜提10の天端11の砕波面の角度θ及び岸沖方向の幅Wを選択することが望ましい。
【0024】
本発明者は、図1(A)及び(B)のように天端11に斜面状の砕波面を形成した土留め潜堤10(以下、斜面式潜堤10ということがある)、及び図1(C)のように階段状の砕波面を形成した土留め潜堤10(以下、階段式潜堤10ということがある)の何れを用いた場合でも、波高0.3〜1.5m、波周期3〜6秒の波条件下で、潜堤10から25m岸側において沖波の透過率を20%以下、50m岸側において沖波の透過率を10%以下に抑えることができることを水理実験により確認することができた。すなわち、本発明の土留め潜堤10を用いることにより、波の力を利用して造成材20を運搬して干潟21を造成できると共に、造成した干潟21を静穏な環境に維持することが可能である。
【0025】
[実験例1]
本発明の土留め潜堤10による砕波性能を確認するため、図3(A)のような斜面式潜堤10の1/25の模型33aと、図3(B)のような階段式潜堤10の1/25の模型33bと、比較のため図3(C)のように長い傾斜状の破砕面を設けた土留め潜堤の模型33cとをそれぞれ試作し、深さ0.3m、奥行き0.2m、長さ8mの水路30を用いて水理実験を行った。各模型33a、33b、33cの砕波面の角度θを8度とし、模型33a、33bについては天端11の岸沖方向の幅Wが異なる複数の模型を用意した。
【0026】
本実験では、水路30の中央部に模型33a、33b、33cを1つずつ設置し、水路30内に模型33の天端11が水深d=4.0cm(現地水深1m)となるように水を張り、造波板31により波高H=1.2〜6.0cm(現地波高0.3〜1.5m)、周期0.6〜1.2秒(現地周期3.1〜5.8秒)で変化させながら沖波5を発生させた。水深d=1mは、干潟造成地におけるLWLとHWLとの中間潮位(MWL)を仮定したものである。波周期はフルードの相似則に従って1/5とし、波周期から求めた沖波5の波長Lを55〜152cm(現地波長14.6〜36.5m)とした。4つの容量式波高計341、342、343、344をそれぞれ、模型33の砕波面の沖側縁から1.5m(現地距離75m)沖側部位(1CH)、天端11の砕波面の岸側縁(2ch)、天端11から1.0m(現地距離25m)岸側部位(3CH)、及び天端11から2.0m(現地距離50m)岸側部位(4CH)に設置し、沖波5の波高、砕波6の波高、及び内側波7の波高をそれぞれ測定した。更に、波高計343(3CH)及び波高計344(4CH)の波高測定値に基づき、各模型33a、33b、33cによる沖波5の透過率を算出した。
【0027】
本実験結果を図4のグラフに示す。同図のグラフの縦軸はそれぞれ、各模型33a、33b、33cについて、波高計343(3CH)及び波高計344(4CH)の波高測定値に基づき算出した沖波5の透過率を示す。また同図のグラフの横軸はそれぞれ、沖波5の波長Lに対する各模型33a、33bの天端11の幅Wの比(W/L)を示す。同図(A)〜(F)のグラフから、波高4.0cm(現地波高1m)以下の沖波5に対し、長い傾斜状の破砕面を設けた土留め潜堤よりも、本発明の斜面式潜堤10及び階段式潜堤10の方が沖波5の透過率が低いことが分かる。また、同図(B)〜(H)のグラフから、天端11の幅Wを沖波5の波長Lの0.3〜0.5倍とすることにより、沖波5の透過率をほぼ最低レベルにまで下げられることが分かる。すなわち本発明の斜面式潜堤10又は階段式潜堤10によれば、比較的小さな設置面積(岸沖方向の幅)で沖波5を効果的に減衰することが可能である。
【0028】
また、図4(A)及び(B)に示すように、波高1.2cm(現地波高0.3m)の沖波5に対しては斜面式潜堤10の方が階段式潜堤10よりも沖波5の透過率が若干低くなっているが、図4(C)〜(H)に示すように、波高2.0cm(現地波高0.5m)以上の沖波5に対して、本発明の斜面式潜堤10及び階段式潜堤10による沖波5の透過率はほぼ同等であった。斜面式潜堤10の方が施工しやすいと思われるので、人工干潟21の造成には斜面式潜堤10の方が適しているが、階段式潜堤10もほぼ同等の砕波機能を有することが確認できた。
【0029】
更に、図4(E)〜(H)から分かるように、潮位MWLにおいて本発明の斜面式潜堤10及び階段式潜堤10は何れも、波高4.0cm(現地波高1m)以上の沖波5に対して、潜堤10から1.0m(現地距離25m)岸側において波の透過率が30%以下、2.0m(現地距離50m)岸側において波の透過率が20%以下であることが分かる。すなわち本発明の土留め潜堤10は、比較的小さな設置面積で沖波5を十分に砕波することができ、テラス部の小さな海岸に人工干潟を造成する場合に適している。
【0030】
[実験例2]
実験例1と同じ斜面式潜堤10の模型33aを用い、同じ水路30内に模型33aの天端11が水深d=8.0cm(現地水深2m)となるように水を張って、実験1と同様に斜面式潜堤10の砕波性能を確認する実験を行った。水深d=2mは、干潟造成地におけるHWLを仮定したものである。本実験結果を図5のグラフに示す。同図のグラフから、天端11の幅Wを沖波5の波長Lの0.3〜0.5倍とすることにより、潜堤10から2.0m(現地距離50m)岸側において波高6.0cm(現地波高1.5m)の沖波5の透過率を50%以下とし、波高4.0cm(現地波高1.0m)以下の沖波5の透過率も75%以下にできることが分かる。すなわち本発明の土留め潜堤10は、潮位が高くても沖波5を効果的に減衰することができ、HWLにおいても人工干潟21を静穏な環境に維持できることを確認できた。
【0031】
[実験例3]
また、本発明の土留め潜堤10及び載土場16による干潟造成材20の運搬性能を確認するため、実験例1と同じ水路30と斜面式潜堤10の模型33aとを用い、干潟造成材20の運搬に適する載置深さd及び載土場16の幅Eを検討する実験を行った。本実験では、図3(A)に示すように模型33aの岸側に勾配1/1000の干潟部模型36を設け、その干潟部模型36上の天端11の岸側縁、天端11から1.0m(現地距離25m)岸側部位、及び天端11から2.0m(現地距離50m)岸側部位の3箇所にそれぞれ、幅0.1mm×高さ0.01mm×奥行0.2mで模擬被覆材35を載置した。模擬被覆材35として、比重=1.46、中央粒径(D50)≒0.29mmの石灰粉を用いた。この石灰粉は、比重が土砂の約1/2であり、中央粒径(D50)が干潟に適した粒径であり、シールズ数が現地の干潟に合うようにしたものである。
【0032】
干潟部模型36の水深dが4.0cm(現地水深1m)、8.0cm(現地水深2m)及び12.0cm(現地水深3m)となるように水路30内の水位を調節し、各水深dにおいて、造波板31により波高H=1.2〜6.0cm(現地波高0.3〜1.5m)、周期0.6〜1.2秒(現地周期3.1〜5.8秒)の沖波5を発生させて3箇所の模擬被覆材35の移動状態及び移動形態をそれぞれ目視で観察した。本実験結果を図6のグラフに示す。
【0033】
図6(A)のグラフから、水深d=4.0cm(現地水深1m)では、波高6.0cm(現地波高1.5m)の沖波5の砕波の打ち込み時において、天端11から2.0m(現地距離50m)の岸側部位においても模擬被覆材35がシートフロー状に移動していることが観察された。また、波高1.2cm(現地波高0.3m)の沖波5の砕波の打ち込み時においても、天端11の砕波面の岸側縁の模擬被覆材35がシートフロー状に移動することを観察できた。この結果から、干潟造成材41を水深1m程度に載置すれば、波高0.3m程度の沖波5の砕波によって造成材41をシートフロー状に載土場16から岸側へ輸送できることを確認できた。
【0034】
また図6(B)に示すように、水深d=8.0cm(現地水深2m)では、天端11から1.0m(現地距離25m)又は2.0m(現地距離50m)の岸側部位においては浮遊移動しか観察できなかったが、波高6.0cm(現地波高1.5m)の沖波5の砕波打ち込み時に砕波面の岸側縁において模擬被覆材35のシートフロー状の移動が観察された。この結果から、干潟造成材41を水深2m程度に載置した場合は、通常の沖波5では造成材41を岸側へ輸送することは難しいが、月に1回〜数回発生する高波時に造成材41を浮遊させ又はシートフロー状に載土場16から岸側へ輸送されることが期待できる。
【0035】
他方、図6(C)に示すように、水深d=12.0cm(現地水深3m)では、波高6.0cm(現地波高1.5m)の沖波5の砕波打ち込み時にも模擬被覆材35のシートフロー状の移動は観察できなかった。この結果から、土留め潜堤10の天端11の岸側縁に隣接させて載土場16の水深を2m未満とすれば、載土場16に置いた干潟造成材20を天端11の砕波6により岸側へ輸送できることが確認できた。
【0036】
本発明によれば、土留め潜堤の設置面積を比較的小さくしつつ、その天端で沖波を十分に減衰させることができるので、テラス部の小さな海岸でも安定した平坦部の広い人工干潟を造ることができる。また、土留め潜堤の天端で砕波した波の力を利用して造成材を岸側へ運ぶことにより、様々な海岸地形に応じた最適形状の干潟を造成することが期待できる。更に、波の力を利用して干潟を造成することにより、台風等によって撹乱されても地形に応じた形状を容易に回復させることが期待でき、自然の干潟と同様に安定的に維持される人工干潟とすることができる。
【0037】
こうして本発明の目的である「長期間安定的に維持される人工干潟を造成する方法及びその造成に用いる土留め潜堤」の提供を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の実施例の説明図である。
【図2】本発明による波の力を利用した干潟造成方法の原理の説明図である。
【図3】本発明の作用を確認するための水理実験装置の説明図である。
【図4】図3の実験装置を用いた実験例1の実験結果を示すグラフである。
【図5】図3の実験装置を用いた実験例2の実験結果を示すグラフである。
【図6】図3の実験装置を用いた実験例3の実験結果を示すグラフである。
【図7】海底勾配と波形勾配と砕波の形式との関係を示すグラフである。
【図8】従来の人工干潟の造成方法の説明図である。
【図9】自然に形成された干潟の説明図である。
【符号の説明】
【0039】
1…海岸 2…海水面
3…海底 5…沖波
6…砕波した波 7…内波
10…土留め潜堤 11…天端(斜面状砕波面)
12…天端(階段状砕波面)
14…沖側側面 15…岸側側面
16…載土場 17…被覆材
20…干潟造成材 21…人工干潟
22…捨込め材
30…水路 31…造波板
32…消波装置 33…土留め潜堤模型
34…波高計 35…模擬被覆材
36…干潟部模型
40…多段バートラフ部 41…平坦部
42…満潮位傾斜面 43…干潮位傾斜面
44…テラス部
46…直立護岸 47…潜堤
47a…捨石
47b…被覆石
48…海浜構成材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工干潟を造成する海岸の沖合に干潮水位近傍高さの土留め潜提を構築し、前記土留め潜提の天端に沖波が砕波可能な角度で岸側から沖側へ下降する砕波面を形成し、前記土留め潜提の天端の岸側に干潟造成材を置き、前記造成材を砕波後の波又は流れで岸側へ輸送することにより土留め潜提と海岸との間に干潟を造成してなる人工干潟の造成方法。
【請求項2】
請求項1の造成方法において、前記土留め潜提の天端の岸側に当該天端以下の高さの載土場を設け、前記載土場に載置した造成材を砕波後の波又は流れにより岸側へ輸送してなる人工干潟の造成方法。
【請求項3】
請求項2の造成方法において、前記載土場の水深を2m未満としてなる人工干潟の造成方法。
【請求項4】
請求項1から3の何れかの造成方法において、前記土留め潜提の天端の砕波可能な角度を6〜18度としてなる人工干潟の造成方法。
【請求項5】
請求項1から4の何れかの造成方法において、前記土留め潜提の天端の岸沖方向の幅を沖波の波長の0.3〜0.5倍としてなる人工干潟の造成方法。
【請求項6】
人工干潟を造成する海岸の沖合に構築する土留め潜提において、天端に沖波が砕波可能な角度で岸側から沖側へ下降する干 潮水位近傍高さの砕波面を形成してなる干潟造成用土留め潜提。
【請求項7】
請求項6の土留め潜提において、前記天端の岸側に当該天端以下の高さの載土場を設け、前記載土場に載置した干潟造成材を天端で砕波後の波又は流れにより岸側へ輸送可能としてなる干潟造成用土留め潜提。
【請求項8】
請求項7の土留め潜提において、前記載土場の水深を2m未満としてなる干潟造成用土留め潜提。
【請求項9】
請求項6から8の何れかの土留め潜提において、前記土留め潜提の天端の砕波可能な角度を6〜18度としてなる干潟造成用土留め潜提。
【請求項10】
請求項6から9の何れかの土留め潜提において、前記土留め潜提の天端の岸沖方向の幅を沖波の0.3〜0.5倍としてなる干潟造成用土留め潜提。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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