説明

人工心臓装置

【課題】患者のQOLや人工心臓装置の信頼性の向上に寄与する人工心臓装置等を提供する。
【解決手段】人工心臓装置10は、心臓80の血液の流れを補助する血液ポンプ20と、血液ポンプ20を制御する血液ポンプ制御部110と、血液ポンプ20の動作データ、血液ポンプ20の潤滑液を循環させるクールシールユニット120の動作データ、患者の状態に対応した生体データ、及びバッテリー130の動作データのうち少なくとも1つの第1の期間におけるデータに対して第1のデータ加工処理を行う第1のデータ加工部142と、第1の期間が経過するごとに、第1のデータ加工処理後のデータが、保存日時に対応した日時データに関連付けられて保存されるTRデータ保存部162とを含み、TRデータ保存部162に保存されるデータの取り出しが可能に構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心臓の血液の流れを補助する人工心臓装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の医療技術の進歩により心臓疾患を治療できるケースが増える一方で、心臓疾患が重症になると、心臓移植しか治療法がないケースもある。心臓移植を選択するケースでは、移植待機患者が、適合するドナーを待つ必要があり、早期に心臓移植を行うことができない場合には生命の維持に重大な支障をもたらすこともある。
【0003】
このような状況で、最近では、BTT(Bridge To Transplant)を目的として移植待機患者に人工心臓装置を装着させ、人工心臓装置により血液の循環を補助させることにより、適合するドナーを長期間にわたって移植待機患者が待機できるようになっている。しかも、人工心臓装置の安定性や信頼性等の向上により、患者自身の心臓の機能の回復を目指すBTR(Bridge To Recovery)を目的とした人工心臓装置の使用が注目されるようになっている。実際に、人工心臓装置を装着することによって患者自身の心臓の機能が回復した例は、数多く報告されている。
【0004】
このような人工心臓装置に関する技術については、例えば特許文献1に開示されている。特許文献1には、患者の状態に対応した生理的パラメーターと、人工心臓装置を構成する血液ポンプの状態に対応した動作パラメーターとを計測し、両パラメーターの相関関係によって人工心臓装置を制御する技術が開示されている。
【0005】
一方、人工心臓装置を装着した移植待機患者が心臓疾患のない人と同様の生活を送ることができる期間が長くなると、人工心臓装置の動作状況の定期的な確認等を実施する必要が生じてくる。この人工心臓装置のメンテナンスに関する技術については、例えば特許文献2及び特許文献3に開示されている。特許文献2及び特許文献3には、血液ポンプのパラメーターを連続的にメモリーに蓄積し、該パラメーターを外部に出力できるようにした技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第6949066号明細書
【特許文献2】米国特許第6183412号明細書
【特許文献3】米国特許第6652447号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載されたような人工心臓装置を装着した患者が長期間にわたって通常生活を送る場合、特許文献2及び特許文献3に記載されたような人工心臓装置のメンテナンスが必要となる。しかしながら、特許文献2及び特許文献3では、血液ポンプのパラメーターを、いわゆるリアルタイムデータとして単純にメモリーに蓄積している。そのため、長期間にわたるリアルタイムデータの蓄積は大容量のメモリーの搭載を意味し、人工心臓装置の小型化を阻害する上に、患者のQOL(Quality Of Life:以下、QOL)を向上させることができないという問題がある。従って、バッテリー駆動可能で、携帯型の人工心臓装置を提供することが困難となり、患者のQOLの向上が難しくなる。
【0008】
また、リアルタイムデータを単純に間引いてメモリーに蓄積した場合に、却ってデータの解析が十分にできなくなる場合がある。その上、何らかの異常があったときに、患者に問題が生じたのか、人工心臓装置に問題が生じたのかを解析することができなくなる可能性がある。このため、人工心臓装置の寿命の長期化や、検出される異常の発生確率の低下を図ることができず、信頼性を向上させることができないという問題がある。
【0009】
本発明は、以上のような技術的課題に鑑みてなされたものである。本発明の幾つかの態様によれば、患者のQOLや人工心臓装置の信頼性の向上に寄与できる人工心臓装置等を提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明の第1の態様は、人工心臓装置が、心臓の血液の流れを補助する血液ポンプと、前記血液ポンプを制御する血液ポンプ制御部と、前記血液ポンプの動作データ、前記血液ポンプの潤滑液を循環させるクールシールユニットの動作データ、前記血液ポンプを装着する患者の状態に対応した生体データ、又は人工心臓装置へ電力を供給する電源の動作データを取得するための1又は複数のセンサーと、前記血液ポンプの動作データ、前記クールシールユニットの動作データ、前記生体データ、及び前記電源の動作データのうち少なくとも1つの第1の期間におけるデータに対して第1のデータ加工処理を行う第1のデータ加工部と、前記第1の期間が経過するごとに、前記第1のデータ加工処理後のデータが、保存日時に対応した日時データに関連付けられて保存される第1のデータ保存部とを含み、前記第1のデータ保存部に保存されるデータの取り出しが可能に構成される。
【0011】
本態様によれば、血液ポンプの動作データ等を加工することにより第1の期間における代表データを保存するようにしたので、データ量を削減して、長期間にわたって人工心臓装置を動作させても、その動作状況を後日解析できるようになる。その結果、患者に負担をかけることなく人工心臓装置の動作状況を把握できるようになり、患者のQOLや人工心臓装置の信頼性の向上に寄与できるようになる。
【0012】
(2)本発明の第2の態様に係る人工心臓装置では、第1の態様において、前記第1のデータ加工処理は、前記第1の期間における平均値の算出処理、前記第1の期間における最大値の算出処理、前記第1の期間における最小値の算出処理、及び所与のフィルター処理のうち少なくとも1つを含む。
【0013】
本態様によれば、上記の効果に加えて、人工心臓装置の動作状況の把握がより一層容易になる。
【0014】
(3)本発明の第3の態様に係る人工心臓装置は、第1の態様又は第2の態様において、前記血液ポンプの動作データ、前記クールシールユニットの動作データ、前記生体データ、及び前記電源の動作データのうち少なくとも1つのデータに対して第2のデータ加工処理を行う第2のデータ加工部と、前記第2のデータ加工処理後のデータのうち、所与のイベントの検知タイミング前後の第2の期間におけるデータが、保存日時に対応した日時データに関連付けられて保存される第2のデータ保存部とを含み、前記第2のデータ保存部に保存されるデータの取り出しが可能に構成される。
【0015】
本態様によれば、上記の効果に加えて、第1のデータ加工処理後のデータのみでは解析できない現象であっても、最低限必要な部分のみ詳細なデータを蓄積するだけで済むようになる。従って、数日から数ヶ月といった長期間にわたり人工心臓装置を動作させても、第2のデータ加工処理後のデータを解析することでイベントの発生状況をより細かく把握できるようになる。
【0016】
(4)本発明の第4の態様は、人工心臓装置が、心臓の血液の流れを補助する血液ポンプと、前記血液ポンプを制御する血液ポンプ制御部と、前記血液ポンプの動作データ、前記血液ポンプの潤滑液を循環させるクールシールユニットの動作データ、前記血液ポンプを装着する患者の状態に対応した生体データ、又は人工心臓装置へ電力を供給する電源の動作データを取得するための1又は複数のセンサーと、前記血液ポンプの動作データ、前記クールシールユニットの動作データ、前記生体データ、及び前記電源の動作データのうち少なくとも1つのデータに対して第2のデータ加工処理を行う第2のデータ加工部と、前記第2のデータ加工処理後のデータのうち所与のイベントの検知タイミング前後の第2の期間におけるデータが、保存日時に対応した日時データに関連付けられて保存される第2のデータ保存部とを含み、前記第2のデータ保存部に保存されるデータの取り出しが可能に構成される。
【0017】
本態様によれば、イベントの検知タイミングにかかわらず血液ポンプの動作データ等を保存していく場合と異なり、最低限必要な部分のみ詳細なデータを蓄積するだけで済むようになる。従って、数日から数ヶ月といった長期間にわたり人工心臓装置を動作させても、第2のデータ加工処理後のデータを解析することでイベントの発生状況をより細かく把握できるようになる。
【0018】
(5)本発明の第5の態様に係る人工心臓装置では、第3の態様又は第4の態様において、前記第2のデータ加工処理は、平均値の算出処理、最大値の算出処理、最小値の算出処理、及び所与のフィルター処理のうち少なくとも1つを含む。
【0019】
本態様によれば、上記の効果に加えて、イベントの発生状況をより一層細かく把握できるようになる。
【0020】
(6)本発明の第6の態様に係る人工心臓装置は、第1の態様乃至第5の態様のいずれかにおいて、前記血液ポンプの動作データ、前記クールシールユニットの動作データ、前記生体データ、前記電源の動作データ、前記電源の着脱時に更新される着脱データ、及び前記人工心臓装置を制御するための操作部の操作データのうち少なくとも1つに基づいて、イベントを検知するイベント検知部と、前記イベント検知部によって検知された前記イベントに対応したイベントデータが、前記日時データに関連付けられて保存される第3のデータ保存部とを含み、前記第3のデータ保存部に保存されるデータの取り出しが可能に構成される。
【0021】
本態様によれば、上記の効果に加えて、イベントの発生履歴を後日解析することができるようになり、イベントの発生状況を解析することで、患者のQOLや人工心臓装置の信頼性のより一層の向上に寄与できるようになる。
【0022】
(7)本発明の第7の態様に係る人工心臓装置は、第4の態様又は第5の態様において、前記血液ポンプの動作データ、前記クールシールユニットの動作データ、前記生体データ、前記電源の動作データ、前記電源の着脱時に更新される着脱データ、及び前記人工心臓装置を制御するための操作部の操作データのうち少なくとも1つに基づいて、イベントを検知するイベント検知部を含み、前記第2のデータ保存部には、前記第2のデータ加工処理後のデータのうち、前記イベント検知部によって検知された前記イベントの検知タイミング前後の第2の期間におけるデータが、保存日時に対応した日時データに関連付けられて保存される。
【0023】
本態様によれば、上記の効果に加えて、イベントの検知タイミングにかかわらず血液ポンプの動作データ等を保存していく場合と異なり、最低限必要な部分のみ詳細なデータを蓄積するだけで済むようになる。従って、数日から数ヶ月といった長期間にわたり人工心臓装置を動作させても、第2のデータ加工処理後のデータを解析することでイベントの発生状況をより細かく把握できるようになる。
【0024】
(8)本発明の第8の態様は、人工心臓装置が、心臓の血液の流れを補助する血液ポンプと、前記血液ポンプを制御する血液ポンプ制御部と、前記血液ポンプの動作データ、前記血液ポンプの潤滑液を循環させるクールシールユニットの動作データ、前記血液ポンプを装着する患者の状態に対応した生体データ、又は人工心臓装置へ電力を供給する電源の動作データを取得するための1又は複数のセンサーと、前記血液ポンプの動作データ、前記クールシールユニットの動作データ、前記生体データ、前記電源の動作データ、前記電源の着脱時に更新される着脱データ、及び前記人工心臓装置を制御するための操作部の操作データのうち少なくとも1つに基づいて、イベントを検知するイベント検知部と、前記イベント検知部によって検知された前記イベントに対応したイベントデータが、前記日時データに関連付けられて保存される第3のデータ保存部とを含み、前記第3のデータ保存部に保存されるデータの取り出しが可能に構成される。
【0025】
本態様によれば、イベントの発生履歴を後日解析することができるようになり、イベントの発生状況を解析することで、患者のQOLや人工心臓装置の信頼性のより一層の向上に寄与できるようになる。
【0026】
(9)本発明の第9の態様に係る人工心臓装置は、第1の態様乃至第8の態様のいずれかにおいて、前記血液ポンプの動作データ、前記クールシールユニットの動作データ、前記生体データ、及び前記電源の動作データのうち少なくとも1つのデータの出力が可能に構成される。
【0027】
本態様によれば、上記の効果に加えて、人工心臓装置の現時点の動作状態を監視することができるようになり、例えば過去にイベントの発生が検知されたとき、現時点ではどのような状況なのかを容易に把握できるようになる。
【0028】
(10)本発明の第10の態様に係る人工心臓装置は、第1の態様乃至第9の態様のいずれかにおいて、前記血液ポンプが装着される患者の情報、前記人工心臓装置の構成要素に付与されたシリアル番号、前記人工心臓装置の使用時間、前記電源に付与されたシリアル番号、前記電源の使用時間、及び前記電源の充電回数のうち少なくとも1つが保存される第4のデータ保存部を含み、前記第4のデータ保存部に保存されるデータの取り出しが可能に構成される。
【0029】
本態様によれば、上記の効果に加えて、患者の使用状態、電源を含む人工心臓装置の各部の使用状態を管理することができるようになる。これにより、患者への負担を軽減し、且つ、人工心臓装置の信頼性をより一層向上させることができるようになる。
【0030】
(11)本発明の第11の態様に係る人工心臓装置は、第1の態様乃至第10の態様のいずれかにおいて、前記血液ポンプの潤滑液を循環させる前記クールシールユニットと、前記潤滑液が循環される循環経路とを含む。
【0031】
本態様によれば、クールシールユニットを更に備える人工心臓装置を提供することで、上記の効果に加えて、血液ポンプにおいて血液の凝固や発熱を抑えながら、長期間にわたる人工心臓装置を装着する患者のQOL及び装置自体の信頼性の向上が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明に係る一実施形態における人工心臓装置の構成の概要を示す図。
【図2】本実施形態における血液ポンプの説明図。
【図3】本実施形態における血液ポンプの断面図の一例を示す図。
【図4】本実施形態におけるクールシールユニットの構成例のブロック図。
【図5】本実施形態における人工心臓装置の各部の機能ブロック図
【図6】本実施形態におけるTRデータ及びSSデータの説明図。
【図7】本実施形態における人工心臓制御装置の保存対象のデータの説明図。
【図8】本実施形態におけるTRデータの一例を示す図。
【図9】本実施形態におけるSSデータの一例を示す図。
【図10】本実施形態におけるEVデータの一例を示す図。
【図11】本実施形態におけるRTデータの一例を示す図。
【図12】本実施形態におけるデータ加工部の構成例のブロック図。
【図13】データ解析装置の画像表示部に表示された表示画像の第1の例を示す図。
【図14】データ解析装置の画像表示部に表示された表示画像の第2の例を示す図。
【図15】データ解析装置の画像表示部に表示された表示画像の第3の例を示す図。
【図16】データ解析装置の画像表示部に表示された表示画像の第4の例を示す図。
【図17】本実施形態の変形例におけるデータ加工部の構成例のブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また以下で説明される構成のすべてが本発明の課題を解決するために必須の構成要件であるとは限らない。
【0034】
〔人工心臓装置〕
図1に、本発明に係る一実施形態における人工心臓装置の構成の概要を示す。
【0035】
本実施形態における人工心臓装置(広義には、人工心臓システム、ポンプシステム、モーターシステム)10は、血液ポンプ(ポンプ、モーター、人工心臓ポンプ)20と、人工心臓制御装置(人工心臓コントローラー)100とを含む。人工心臓装置10は、更に、データ解析装置200と、図示しない1又は複数のセンサーとを含むことができる。血液ポンプ20と人工心臓制御装置100とはケーブル50を介して接続される。各センサーは、血液ポンプ20が動作中の患者(人体)の状態、血液ポンプ20の動作状態、又は人工心臓制御装置100の各部の動作状態を検知するものである。例えば、センサーは、患者の体内に埋め込まれたり、患者の身体や臓器の表面に貼り付けられたり、血液ポンプ20に取り付けられたり、人工心臓制御装置100に内蔵されたりする。そして、各センサーの検知結果に対応した検知信号が、有線又は無線の伝送媒体を介して人工心臓制御装置100に送信されるようになっている。
【0036】
血液ポンプ20は、患者の心臓80の左心室の機能を補助する左心室補助装置(Left Ventricular Assist Device:LVAD)として機能する。この血液ポンプ20は、循環させる血液の流れが連続する連続流型の血液ポンプである。
【0037】
本実施形態では、血液ポンプ20は患者の体内に埋め込まれ、人工心臓制御装置100は患者の体外に設けられる。しかしながら、人工心臓制御装置100の一部または全部の機能が患者の体内(例えば、血液ポンプ20)に設けられていてもよい。人工心臓制御装置100は、血液ポンプ制御部110と、クールシールユニット120と、着脱可能なバッテリー(広義には、電源)130とを含む。血液ポンプ制御部110は、バッテリー130から電源電圧が与えられた状態で、図示しないセンサーからの検知信号を用いて、血液ポンプ20を駆動する駆動電流(広義には、駆動信号)を生成し、血液ポンプ20の回転数を制御する。クールシールユニット120は、血液ポンプ20の潤滑液を循環させる。ケーブル50には、潤滑液の送り側の管と受け側の管とが設けられ、潤滑液の循環経路が形成されるようになっている。また、ケーブル50は、通信ケーブルとして、人工心臓制御装置100から血液ポンプ20に供給される駆動電流が伝送される信号線を有する。バッテリー130は、内蔵バッテリー及び非常用バッテリーを有し、いずれかのバッテリーからの電源電圧を、電源ラインを介して人工心臓制御装置100の各部に供給する。なお、人工心臓制御装置100へ電力を供給するものは、バッテリー130に限定されるものではなく、AC−DCアダプターを介して商用電源から直流電力を人工心臓制御装置100に供給するようにしてもよい。
【0038】
データ解析装置200は、有線又は無線の伝送媒体を介して人工心臓制御装置100と接続可能に構成される。人工心臓制御装置100は、血液ポンプ20等の各部の状態に対応した動作データ等を加工し、記憶すべき容量を削減しながら効率よく蓄積していく。ここで、動作データ等は、人工心臓制御装置100の制御対象である血液ポンプ20等の各部の動作を指示するための制御データ、該制御データに基づいて制御された血液ポンプ20等の各部の動作状態を示す動作データ、患者の状態を示す生体データを含む。データ解析装置200は、人工心臓制御装置100に蓄積されたデータを伝送媒体経由で取得し、該データを解析する処理を行う。データ解析装置200は、人工心臓制御装置100からのデータ又は該データの解析処理後のデータに基づいて、グラフや表の画像を生成し、表示部に表示させることができる。このようなデータ解析装置200の機能は、パーソナルコンピューターや専用のハードウェア装置等によって実現される。
【0039】
以上のような構成により、長期間にわたって患者が血液ポンプ20を埋め込んで通常生活を送った後であっても、人工心臓装置10のメンテナンスが容易になり、血液ポンプ20や人工心臓制御装置100の異常検知時の動作確認等ができるようになる。
【0040】
〔血液ポンプ〕
図2に、本実施形態における血液ポンプ20の説明図を示す。図2は、患者の心臓80と体内の循環系とを模式的に表す。
【0041】
心臓80は、左心房、左心室、右心房及び右心室に区分されており、右心房及び右心室は肺循環系に血液を循環させる機能を有し、左心房及び左心室は体循環系に血液を循環させる機能を有する。即ち、体循環系から上下大静脈を通って戻された血液は右心房に蓄えられた後、右心室に送り込まれる。右心室に送り込まれた血液は、右心室の拍動によって肺動脈を通って肺循環系を循環して酸素を含んだ状態となる。肺循環系から肺静脈を通って戻された血液は左心房に蓄えられた後、左心室に送り込まれる。左心室に送り込まれた血液は、左心室の拍動によって大動脈を通って体循環系を循環する。本実施形態における血液ポンプ20は、左心室の機能を補助するために、左心室に送り込まれた血液を吸引し、大動脈に送り出す。
【0042】
図3に、本実施形態における血液ポンプ20の断面図の一例を示す。図3は、血液ポンプ20の断面構成例を示すが、本実施形態が図3の構成の血液ポンプに限定されるものではない。
【0043】
血液ポンプ20は、円筒形のモーターを有する駆動部21と、駆動部21に接続されるポンプ部22とを有している。ポンプ部22は、モーターの回転軸を介して駆動されるインペラ23と、このインペラ23を覆うように駆動部21に接続されるポンプケーシング24とを有している。血液ポンプ20は、心臓80の左心室内の血液が血管(人工血管)及び流入口25を経てポンプケーシング24内に流入すると、インペラ23により流動エネルギーが付与された後、大動脈に流出するように構成される。このとき、血液は、ポンプケーシング24の側面に設けられた流出口26及び血管(人工血管)を経て、大動脈に流出する。
【0044】
また、血液ポンプ20においては、駆動部21とポンプ部22との間にメカニカルシール部27が設けられている。このため、ポンプ部22と駆動部21とが摺動自在に、かつ、良好にシールされることになり、ポンプ部22から駆動部21に血液が洩れることが極力抑制される。その結果、血栓の形成が抑制されるようになり、ポンプ動作の停止やその動作状態の変化が抑制されるようになる。ポンプ部22は、軸流ポンプの場合よりも大きな血流量が期待できる遠心式のポンプであり、インペラ23を駆動するモーターとしてDCモーターを用いることができる。
【0045】
〔クールシールユニット〕
図4に、本実施形態におけるクールシールユニット120の構成例のブロック図を示す。図4は、クールシールユニット120の構成の概要を模式的に表したものである。
【0046】
クールシールユニット120は、ポンプ122と、リザーバー124と、フィルター126とを含む。リザーバー124は、図3のポンプ部22の軸受け部分の潤滑液としてのクールシール液を貯留する。リザーバー124に貯留されたクールシール液はポンプ122によって循環経路128に送り出される。この循環経路128には、フィルター126が設けられ、クールシール液の不純物が除去されるようになっている。クールシールユニット120は、ポンプ部22の軸受け部分を経由する経路にクールシール液を循環させることで、メカニカルシール部27における血液の凝固や駆動部21及びポンプ部22の発熱を抑える。このクールシールユニット120は、患者等により与えられた指令値に対応した動作を行うように開ループ制御によりクールシール液を循環させる。
【0047】
〔人工心臓制御装置及びデータ解析装置〕
図5に、本実施形態における人工心臓装置10の各部の機能ブロック図の一例を示す。図5において、図1と同様の部分には同一符号を付し、適宜説明を省略する。
【0048】
人工心臓装置10は、血液ポンプ20又は人工心臓制御装置100において検知対象に対応した1又は複数のセンサーを含む。より具体的には、人工心臓装置10(又は、人工心臓制御装置100)は、生体データ、血液ポンプ20の動作データ、クールシールユニット120の動作データ、又は人工心臓装置10へ電力を供給するバッテリー130の動作データを取得するための1又は複数のセンサーを含む。そして、人工心臓制御装置100は、センサーからの検知信号に応じて血液ポンプ20を制御して血液の流れを制御する。
【0049】
このようなセンサーとして、例えば図5では、血液ポンプ20の動作状態を検知するためにセンサーSR1が、血液ポンプ20に取り付けられる。また、センサーSR1とは別に血液ポンプ20の動作状態を検知するためにセンサーSR2、クールシールユニット120の動作状態を検知するためにセンサーSR3が、人工心臓制御装置100に取り付けられる。更に、人工心臓制御装置100には、装置自体に与えられる衝撃を検知するためにセンサーSR4が取り付けられる。更にまた、人工心臓制御装置100は、患者の生体に取り付けられたセンサーSR5の検知信号を取り込むことができる。センサーSR1〜SR5は、検知対象に応じた1又は複数のセンサー機器(例えば、センサー素子や計測装置)を含むものとする。
【0050】
人工心臓制御装置100は、更に、センサーSR1〜SR5からの検知信号に対応したデータを1又は複数種類のデータに加工して保存する。このような人工心臓制御装置100は、血液ポンプ制御部110、クールシールユニット120及びバッテリー130に加えて、データ加工部140、データ保存部160、イベント検知部170、操作部180、リアルタイムクロック制御部190を含む。
【0051】
血液ポンプ制御部110は、センサーSR1〜SR5、バッテリー130等からの検知信号、及び操作部180からの操作データの少なくとも1つに基づいて血液ポンプ20の回転数を制御する。クールシールユニット120は、所与の指令値に対応した流路圧で動作するように、上記の循環経路128にクールシール液を循環させる。
【0052】
データ加工部140は、センサーSR1〜SR5からの検知信号に対応した動作データ、生体データ、又はバッテリー130の動作状態に対応した動作データ(広義には、人工心臓装置10へ電力を供給する電源の動作データ)を加工する。このデータ加工部140は、保存後の用途に応じて異なるデータ加工処理により加工したデータを出力する。
【0053】
データ加工部140は、センサーSR1〜SR5からの検知信号に対応した動作データ、生体データ、又はバッテリー130の動作状態に対応した動作データに対して第1のデータ加工処理を行う。第1のデータ加工処理では、第1の期間(例えば10分間)における上記の動作データ又は生体データに対してデータ加工処理行う。第1のデータ加工処理後のデータは、日時データと関連付けてトレンド(Trend)データ(以下、TRデータ)として保存される。
【0054】
また、データ加工部140は、センサーSR1〜SR5からの検知信号に対応した動作データ、生体データ、バッテリー130の動作状態に対応した動作データ、及び操作部180からの操作データに対して第2のデータ加工処理を行う。第2のデータ加工処理では、所与のイベント検知タイミングの前後の第2の期間(例えば5秒間)における動作データ、生体データ又は操作データに対してデータ加工処理を行う。第2の期間は、第1の期間より短いことが望ましい。第2のデータ加工処理後のデータは、日時データと関連付けてスナップショット(SnapShot)データ(以下、SSデータ)として保存される。
【0055】
更に、データ加工部140は、センサーSR1〜SR5からの検知信号の瞬時値に対応した動作データ、生体データ又はバッテリー130の動作状態を示す瞬時値に対応した動作データをほぼそのまま出力する。データ加工部140においては、例えば雑音除去処理程度の処理を行って、リアルタイム(Real-Time)データ(以下、RTデータ)として出力する。
【0056】
イベント検知部170は、予め決められた複数のイベント条件のいずれかのイベント条件に合致したイベントの発生及び終了を検知する。より具体的には、イベント検知部170は、動作データ、生体データ、バッテリー130の着脱時に更新される着脱データ、及び操作データの少なくとも1つに基づいて、イベントの発生及び終了を検知する。動作データは、センサーSR1〜SR5からの検知信号に対応した動作データ、バッテリー130の動作状態に対応した動作データである。生体データは、センサーSR5からの検知信号に対応したデータである。着脱データは、バッテリー130からの検知信号に基づき、その着脱時に更新される。操作データは、操作部180における操作内容に対応したデータである。データ加工部140は、イベント検知部170によってイベントの発生が検知されたタイミングの前後の第2の期間におけるSSデータを生成する。このとき、イベント検知部170は、検知したイベントに対応したイベント(EVent)データ(以下、EVデータ)を生成する。
【0057】
データ保存部160は、TRデータ保存部(第1のデータ保存部)162、SSデータ保存部(第2のデータ保存部)164、EVデータ保存部(第3のデータ保存部)166、管理データ保存部(第4のデータ保存部)168を含む。
【0058】
TRデータ保存部162は、データ加工部140からのTRデータを保存する。より具体的には、TRデータ保存部162には、第1の期間が経過するごとに、データ加工部140によって加工されたTRデータが、保存日時に対応した日時データに関連付けられて保存される。TRデータ保存部162は、保存されたデータの取り出しが可能に構成される。
【0059】
SSデータ保存部164は、データ加工部140からのSSデータを保存する。より具体的には、SSデータ保存部164には、SSデータが、保存日時に対応した日時データに関連付けられた保存される。SSデータ保存部164は、保存されたデータの取り出しが可能に構成される。
【0060】
EVデータ保存部166は、イベント検知部170からのEVデータを保存する。より具体的には、EVデータ保存部166には、イベント検知部170によって生成されたEVデータが、保存日時に対応した日時データに関連付けられた保存される。EVデータ保存部166は、保存されたデータの取り出しが可能に構成される。
【0061】
管理データ保存部168には、血液ポンプ20が装着される患者の情報、人工心臓装置10の構成要素に付与されたシリアル番号、人工心臓装置10の使用時間、バッテリー130(広義には、電源)に付与されたシリアル番号、バッテリー130の使用時間、及びバッテリー130の充電回数のうち少なくとも1つが保存される。上記の患者の情報としては、例えば患者それぞれに割り当てられた患者ID、氏名、性別、年齢、身長、体重等がある。人工心臓装置10の構成要素に付与されたシリアル番号として、例えば血液ポンプ20又は人工心臓制御装置100に付与されたシリアル番号がある。また、血液ポンプ20又は人工心臓制御装置100のシリアル番号のみならず、他の構成要素のシリアル番号を保存するようにしてもよい。人工心臓装置10又はバッテリー130の使用時間は、例えば専用回路を設けて計測される。バッテリー130の充電回数もまた、同様に例えば専用回路を設けて計測される。管理データ保存部168は、保存されたデータの取り出しが可能に構成される。
【0062】
操作部180は、患者自身や医師等により人工心臓装置10を制御するために操作ボタン、リモコン、マウス、タッチパッド、スイッチ等のいずれかの操作手段により構成される。また、操作部180として、音声入力のためのマイクも採用することができる。操作部180の操作データに基づいて、人工心臓装置10を制御するための制御データが生成され、人工心臓制御装置100の各部が制御される。
【0063】
リアルタイムクロック制御部190は、現在時刻に対応した「年」、「月」、「日」、「時」、「分」、「秒」からなる日時データを生成する。この日時データは、データ保存部160に供給される。
【0064】
以上のように人工心臓制御装置100内に保存されたデータは、例えば患者の定期検診時等に、公知の伝送媒体である通信ケーブル等を介して接続されたデータ解析装置200により取得される。これにより、データ解析装置200では、後日、それまで長期間にわたって動作した人工心臓装置10の人工心臓制御装置100や血液ポンプ20等の運転状況等を解析できるようになる。
【0065】
なお、図5において、データ加工部140及びデータ保存部160が人工心臓制御装置100に含まれる例について説明したが、データ加工部140及びデータ保存部160の少なくとも1つが血液ポンプ制御部110とは別個に設けられていてもよい。例えば、血液ポンプ20が、センサーSR2〜SR4、データ加工部140及びデータ保存部160の機能を有していてもよい。
【0066】
データ解析装置200は、上記のようにデータ保存部160に保存されたTRデータ、SSデータ、及びEVデータを取得する。更に、データ解析装置200は、上記の通信ケーブルを介して、人工心臓制御装置100においてほぼリアルタイムに生成されるRTデータを受信することができる。
【0067】
このようなデータ解析装置200は、データ解析処理部210、解析データ保存部220、画像生成部230、画像表示部240を含む。
【0068】
データ解析処理部210は、人工心臓制御装置100からのデータに対し、取得した日時データ及びこれに対応した各データのフォーマット変換処理等のデータ解析処理を行う。データ解析処理部210の処理後のデータは、解析データとして解析データ保存部220に保存される。また、人工心臓制御装置100からのRTデータは、例えば解析データ保存部220において一旦保存される。画像生成部230は、解析データ保存部220に保存されたデータに基づいて、グラフや表といった画像に対応した画像データを生成する。画像表示部240は、液晶ディスプレイや有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ等の公知のディスプレイ装置により構成され、画像生成部230によって生成された画像データに基づいて画像を表示する。
【0069】
なお、データ解析装置200は、携帯可能な補助記憶装置である外部メモリー300の接続が可能に構成される。そのため、解析データ保存部220に保存されたデータは、例えば外部メモリー300に転送することができ、データ解析装置200とは異なる装置において、解析処理後のデータを用いた処理を行うことができる。また、外部メモリー300に、画像生成部230において生成された画像のデータを転送できるようにしてもよい。更に、データ解析装置200は、プリンター310の接続が可能に構成され、画像生成部230によって生成された画像の印刷を行うことができる。
【0070】
図6に、本実施形態におけるTRデータ及びSSデータの説明図を示す。図6は、横軸に時間、縦軸にセンサーSR1からの検知信号に基づいて生成される血液ポンプ20の回転数に対応したデータを示す例を説明するが、本実施形態における他の検知信号に基づいて生成されるデータについても同様である。
【0071】
TRデータ保存部162には、第1の期間T1(例えば10分間)が経過するごとにTRデータが保存される。そのため、センサーの検知信号の瞬時値を順次蓄積していく場合に比べて、記憶容量を削減できる。このTRデータでは、長期間にわたる血液ポンプ20の回転数の変動がわかるが、比較的短期間の変動について把握できない。
【0072】
イベント検知部170は、センサーの検知信号等に基づいてイベント発生の有無を検知する。そして、イベント検知部170によりイベントの発生が検知されたとき、SSデータ保存部164には、イベント検知タイミングTG1前後の第2の期間T2(例えば5秒間)におけるSSデータが保存される。そのため、無駄に動作データを順次蓄積していく必要がなく、最低限必要な部分のみ詳細なデータを蓄積するだけで済む。従って、データ解析装置200において、SSデータを解析することでイベントの発生状況を詳しく解析することができる。このSSデータを解析することで、特に解析を必要とするイベント発生前後における血液ポンプ20の回転数の短期間の変動を把握できるようになり、TRデータだけでは解析できない短期間の動きを把握できるようになる。
【0073】
以下、本実施形態における人工心臓装置10について具体的に説明する。
【0074】
〔保存データの例〕
図7に、本実施形態における人工心臓制御装置100の保存対象のデータの説明図を示す。図7は、人工心臓装置10や患者の身体等の各部に取り付けられるセンサーと保存対象のデータとの関係を表す。なお、図7において図5と同様の部分には同一符号を付し、適宜説明を省略する。
【0075】
センサーSR1は、ホール素子、流量計、心電計等のセンサー機器により構成され、血液ポンプ20の動作状態に対応した検知信号を検知する。より具体的には、センサーSR1を構成する各センサー機器により、血液ポンプ20の回転数、血液ポンプ20を構成するローターの位置、血液ポンプ20の血流量、心電図波形に対応した検知信号が生成される。人工心臓制御装置100は、これらの検知信号を用いて血液ポンプ20等を制御すると共に、該検知信号に基づいて生成されたデータを血液ポンプ20の動作状態に対応した動作データとして加工し、保存する。
【0076】
センサーSR2は、電圧センサー、電流センサー等のセンサー機器により構成され、血液ポンプ20の動作状態に対応した検知信号を検知する。より具体的には、センサーSR2を構成する各センサー機器により、血液ポンプ20を構成するモーターのBUS電圧、相電圧、回転数指令値等に対応した検知信号が生成される。人工心臓制御装置100は、これらの検知信号を用いて血液ポンプ20等を制御すると共に、該検知信号に基づいて生成されたデータを血液ポンプ20の動作状態に対応した動作データとして加工し、保存する。
【0077】
センサーSR3は、電圧センサー、電流センサー、ホール素子、圧力センサー、流量計等のセンサー機器により構成され、クールシールユニット120の動作状態に対応した検知信号を検知する。より具体的には、センサーSR3を構成する各センサー機器により、クールシールユニット120のモーターの回転数指令値、電流、接続状態、流路圧、出力流量等に対応した検知信号が生成される。人工心臓制御装置100は、これらの検知信号に基づいて生成されたデータをクールシールユニット120の動作状態に対応した動作データとして加工し、保存する。
【0078】
センサーSR4は、加速度センサーにより構成され、この加速度センサーにより、人工心臓制御装置100に与えられた衝撃に対応した検知信号が生成される。人工心臓制御装置100は、この検知信号に基づいて生成されたデータを人工心臓制御装置100の使用状態に対応したデータとして加工し、保存する。
【0079】
センサーSR5は、圧力センサー、心電計、加速度センサー等のセンサー機器により構成される。センサーSR5を構成する各センサー機器により、患者の血圧、患者の心拍数、患者の心臓の動き等に対応した検知信号が生成される。また、センサーSR5に、体温や姿勢状態に対応した検知信号を生成するセンサー機器を設けてもよい。人工心臓制御装置100は、この検知信号を用いて血液ポンプ20等を制御すると共に、該検知信号に基づいて生成されたデータを患者の状態に対応した生体データとして加工し、保存する。
【0080】
バッテリー130は、電圧センサーを有し、この電圧センサーにより、バッテリー残量、バッテリーの着脱状態に対応した検知信号が生成される。人工心臓制御装置100は、この検知信号に基づいて生成されたデータをバッテリー130の動作状態に対応した動作データとして加工し、保存する。また、バッテリー130は、専用回路を搭載し、この専用回路により充電回数に対応した情報が蓄積される。この情報は、読み出し可能に構成され、管理データ保存部168に蓄積される。
【0081】
図8に、本実施形態におけるTRデータの一例を示す。図8は、図7に示すセンサーSR1〜SR5の少なくとも1つを用いて生成されるTRデータの一例を表す。
【0082】
TRデータは、TRデータ保存部162への保存日時に対応した日時データ、血液ポンプ動作データ、クールシールユニット動作データ及びバッテリー動作データを含む。
【0083】
血液ポンプ動作データは、血液ポンプ20を制御するための回転数(指令値)、血液ポンプ20の回転数(実測値)、回転数最大値、回転数最小値、消費電力、消費電力最大値、消費電力最小値を含むことができる。回転数(指令値)、消費電力は、例えばセンサーSR2からの検知信号に基づいて算出又は特定される。なお、消費電力は、検知信号に対応した電流値と、検知信号に対応した電圧値又は所与の定電圧値との積により算出される。回転数(実測値)は、例えばセンサーSR1からの検知信号に基づいて算出又は特定される。動作データのうち最大値及び最小値は、データ加工部140におけるデータ加工処理により算出される。
【0084】
クールシールユニット動作データは、クールシールユニット120の流路圧(指令値)、回転数(実測値)、回転数最大値、回転数最小値、消費電力、消費電力最大値、消費電力最小値、流路圧(実測値)、流路圧最大値、流路圧最小値を含む。流路圧(指令値)、回転数(実測値)、消費電力、流路圧(実測値)は、例えばセンサーSR3からの検知信号に基づいて算出又は特定される。動作データのうち最大値及び最小値は、データ加工部140におけるデータ加工処理により算出される。
【0085】
バッテリー動作データは、バッテリー130の動作電圧を含む。動作電圧は、例えばバッテリー130に取り付けられた電圧センサーにより特定される。
【0086】
本実施形態では、図8に示す各データを10分間毎に生成して、TRデータ保存部162に保存していく。即ち、データ量を削減するために10分毎に単純に動作データ等をサンプリングするのではなく、10分間の代表データとしてデータ加工処理後のデータを保存していく。
【0087】
なお、本実施形態におけるTRデータは、図8に示すものに限定されるものではなく、血液ポンプ20を装着する患者の状態に対応した生体データや、センサーSR4からの検知信号に対応した人工心臓制御装置100の使用状態に応じたデータを含んでもよい。
【0088】
図9に、本実施形態におけるSSデータの一例を示す。図9は、図7に示すセンサーSR1〜SR5の少なくとも1つを用いて生成されるSSデータの一例を表す。
【0089】
SSデータは、SSデータ保存部164への保存日時に対応した日時データ、血液ポンプ動作データ、クールシールユニット動作データ、バッテリー動作データ及びイベント状態を含む。
【0090】
血液ポンプ動作データは、血液ポンプ20の回転数、消費電力を含むことができる。消費電力は、例えばセンサーSR2からの検知信号に基づいて算出又は特定される。回転数は、例えばセンサーSR1からの検知信号に基づいて算出又は特定される。
【0091】
クールシールユニット動作データは、クールシールユニット120の流路圧、回転数、消費電力を含む。流路圧、回転数、消費電力は、例えばセンサーSR3からの検知信号に基づいて算出又は特定される。
【0092】
バッテリー動作データは、バッテリー130の動作電圧を含む。動作電圧は、例えばバッテリー130に取り付けられた電圧センサーにより特定される。
【0093】
イベント状態は、イベント検知部170によって検知されるイベントに対応したデータである。
【0094】
本実施形態では、イベント検知部170によるイベントの検知タイミングの前後の5秒間にわたって、図9に示す各データを生成して、SSデータ保存部164に保存していく。そのため、TRデータのみでは解析できない場合に、最低限必要な部分のみ詳細なデータを蓄積するだけで済む。このとき、データ解析装置200において、SSデータを解析することでイベントの発生状況を詳しく解析することができる。
【0095】
なお、本実施形態におけるSSデータは、図9に示すものに限定されるものではなく、血液ポンプ20を装着する患者の状態に対応した生体データや、センサーSR4からの検知信号に対応した人工心臓制御装置100の使用状態に応じたデータを含んでもよい。
【0096】
図10に、本実施形態におけるEVデータの一例を示す。図10は、図7に示すセンサーSR1〜SR5の少なくとも1つを用いて生成されるEVデータの一例を表す。
【0097】
EVデータは、イベント検知部170において予め決められたイベント検知条件に合致したときに検知される各イベントの発生状況を示すデータである。EVデータは、バッテリー着脱イベント、血液ポンプ回転数検知イベント、血液ポンプ消費電力検知イベントを含む。またEVデータは、クールシールユニット回転数検知イベント、クールシールユニット消費電力検知イベント、クールシールユニット流路圧検知イベント、クールシールユニット断線検知イベントを含む。更にEVデータは、血液ポンプ起動イベント、血液ポンプ停止イベント、操作イベントを含むことができる。
【0098】
イベント検知部170は、図7に示すセンサーSR1〜SR5の少なくとも1つの検知信号に応じて、上記のイベントの発生及び終了を検知する。
【0099】
バッテリー着脱イベントは、バッテリー130の着脱時に更新され、バッテリー130を装着した日時やバッテリー130を外した日時等の情報を含む。バッテリー着脱イベントは、例えばバッテリー130に取り付けられた電圧センサーからの検知信号又は該検知信号に対応して生成される動作データに基づいて検知される。
【0100】
血液ポンプ回転数検知イベントは、血液ポンプ20が所与の回転数範囲にない状態で動作するときに回転数異常として検知される。血液ポンプ消費電力検知イベントは、血液ポンプ20が所与の消費電力範囲にない状態で動作するときに消費電力異常として検知される。これらのイベントは、例えばセンサーSR1、SR2からの検知信号又は該検知信号に対応して生成される動作データに基づいて検知される。
【0101】
クールシールユニット回転数検知イベントは、クールシールユニット120が所与の回転数範囲にない状態で動作するときに回転数異常として検知される。クールシールユニット消費電力検知イベントは、クールシールユニット120が所与の消費電力範囲にない状態で動作するときに消費電力異常として検知される。クールシールユニット流路圧検知イベントは、潤滑液の循環経路の流路圧が所与の圧力範囲にない状態で動作するときに流路圧異常として検知される。クールシールユニット断線検知イベントは、潤滑液の循環経路又はクールシールユニット120を制御するための信号線の断線状態が、断線異常として検知される。これらのイベントは、例えばセンサーSR3からの検知信号又は該検知信号に対応して生成される動作データに基づいて検知される。
【0102】
血液ポンプ起動イベントは、血液ポンプ20が起動した日時等の情報を含む。血液ポンプ停止イベントは、血液ポンプ20が停止した日時等の情報を含む。操作イベントは、操作部180において、所与のイベント検知条件に対応した操作が行われたか否かを判別するためのイベントである。これらのイベントは、例えばセンサーSR1、SR3からの検知信号又は該検知信号に対応して生成される動作データ、或いは操作部180の操作データに基づいて検知される。
【0103】
以上のように、イベント検知部170は、イベントの発生を検知することができ、同様にイベントの終了も検知することができる。即ち、イベント検知部170は、血液ポンプ20の動作データ、クールシールユニット120の動作データ、バッテリー130の動作データ、バッテリー130の着脱データ、及び操作部180の操作データの少なくとも1つに基づいて、検知する。本実施形態では、イベント検知部170によってイベントが検知されるたびに、図10に示すデータのうち該当するデータを更新して、EVデータ保存部166に保存していく。これにより、長期間にわたり人工心臓装置10を動作させて定期的に運転状況を解析する場合でも、EVデータを参照することでイベントの発生状況を把握できるようになる。
【0104】
なお、本実施形態におけるEVデータは、図10に示すものに限定されるものではない。例えば、血液ポンプ20を装着する患者の状態に対応した生体データや、センサーSR4からの検知信号に対応した人工心臓制御装置100の使用状態に応じたデータに基づいて検知されたイベントの発生状況をEVデータとして保存するようにしてもよい。
【0105】
図11に、本実施形態におけるRTデータの一例を示す。図11は、図7に示すセンサーSR1〜SR5の少なくとも1つを用いて生成されるRTデータの一例を表す。
【0106】
RTデータは、データ保存部160に保存されることなく、各種センサーからの検知信号の瞬時値がほぼそのまま出力されるデータであり、血液ポンプ動作データ、クールシールユニット動作データ、バッテリー動作データ及びイベント状態を含む。
【0107】
血液ポンプ動作データは、血液ポンプ20を制御するための回転数(指令値)、血液ポンプ20の回転数(実測値)、消費電力を含むことができる。回転数(指令値)、消費電力は、例えばセンサーSR2からの検知信号に基づいて算出又は特定される。回転数(実測値)は、例えばセンサーSR1からの検知信号に基づいて算出又は特定される。
【0108】
クールシールユニット動作データは、クールシールユニット120の流路圧(指令値)、回転数(実測値)、消費電力、流路圧(実測値)を含む。流路圧(指令値)、回転数(実測値)、消費電力、流路圧(実測値)は、例えばセンサーSR3からの検知信号に基づいて算出又は特定される。
【0109】
バッテリー動作データは、バッテリー130の動作電圧を含む。動作電圧は、例えばバッテリー130に取り付けられた電圧センサーにより特定される。
【0110】
イベント状態は、イベント検知部170によって検知されるイベントに対応したデータである。
【0111】
本実施形態では、データ保存部160に保存することなく、図11に示す各データを逐次生成していく。こうして生成されたRTデータを人工心臓装置10がそのまま出力するようにすることで、人工心臓制御装置100や血液ポンプ20の現時点の動作状態を監視するのに役立つ。
【0112】
なお、本実施形態におけるRTデータは、図11に示すものに限定されるものではなく、血液ポンプ20を装着する患者の状態に対応した生体データや、センサーSR4からの検知信号に対応した人工心臓制御装置100の使用状態に応じたデータを含んでもよい。即ち、人工心臓制御装置100(人工心臓装置10)は、血液ポンプ20の動作データ、クールシールユニット120の動作データ、生体データ、及びバッテリー130の動作データのうち少なくとも1つのデータの出力が可能に構成される。また、人工心臓制御装置100は、センサーSR4からの検知信号に基づく人工心臓制御装置100の使用状態(受けた衝撃度)に応じたデータの出力が可能に構成されていてもよい。
【0113】
図12に、本実施形態におけるデータ加工部140の構成例のブロック図を示す。図12では、データ加工部140の他にイベント検知部170も図示している。なお、図12では、センサーSR1からの検知信号により特定される血液ポンプ回転数、センサーSR2からの検知信号により特定される血液ポンプ電流値、バッテリー130において検知されるバッテリー電圧に対するデータ加工処理例を示す。しかしながら、他の検知信号等により特定される動作データ等についても、同様のデータ加工処理を行うことができる。
【0114】
データ加工部140は、第1のデータ加工部142と、第2のデータ加工部144と、第3のデータ加工部146とを含む。
【0115】
第1のデータ加工部142は、第1の期間における入力信号に対応したデータに対し第1のデータ加工処理を行う。第1のデータ加工処理は、第1の期間における平均値の算出処理、第1の期間における最大値の算出処理、第1の期間における最小値の算出処理、及び所与のフィルター処理を含むことが望ましい。
【0116】
例えば血液ポンプ回転数に対応した検知信号に対して、第1のデータ加工部142は、カットオフ周波数が50Hzのローパスフィルター(Low Pass Filter:LPF)処理、最大値/最小値フィルター処理、間引き処理を順次行う。ローパスフィルター処理により、雑音除去を行う。最大値/最小値フィルター処理により、心臓の収縮期及び拡張期を検知することができ、例えば1秒毎に算出することが望ましい。間引き処理により、TRデータのデータサイズを小さくすることができる。
【0117】
また、例えば血液ポンプ電流値に対応した検知信号に対して、第1のデータ加工部142は、カットオフ周波数が30Hzのローパスフィルター処理、最大値/最小値フィルター処理、間引き処理を順次行う。ローパスフィルター処理により、心臓の拍動成分を検出できる。最大値/最小値フィルター及び間引き処理については、血液ポンプ回転数と同様である。
【0118】
更にまた、例えば血液ポンプ電流値に対応した検知信号に対して、第1のデータ加工部142は、カットオフ周波数が2Hzのハイパスフィルター(High Pass Filter:HPF)処理、周波数検出処理、平均化処理を順次行う。ハイパスフィルター処理により、検知信号の平均値の変動を除去することができる。周波数検出処理により、平均値の変動除去後の検知信号から心拍数の周期を検出することができる。平均化処理により、周波数検出処理で検出された心拍数を平均化することができる。
【0119】
更にまた、例えばバッテリー電圧に対応した検知信号に対して、第1のデータ加工部142は、平均化処理を行う。これにより、バッテリー130の動作電圧の平均値を、TRデータとして出力することができる。
【0120】
このように、検知信号に応じた第1のデータ加工処理後のデータが、TRデータとして出力される。
【0121】
第2のデータ加工部144は、入力信号に対応したデータに対し第2のデータ加工処理を行う。第2のデータ加工処理は、平均値の算出処理、最大値の算出処理、最小値の算出処理、及び所与のフィルター処理を含むことが望ましい。図12では、第2のデータ加工処理は、加工処理対象の入力信号(入力データ)のサンプリング周波数に対応したフィルター処理を含む例を示している。
【0122】
例えば血液ポンプ回転数に対応した検知信号に対して、第2のデータ加工部144は、サンプリング周波数に対応したカットオフ周波数が10Hzのローパスフィルター処理を行う。また、例えば血液ポンプ電流値に対応した検知信号に対して、第2のデータ加工部144は、サンプリング周波数に対応したカットオフ周波数が10Hzのローパスフィルター処理を行う。第2のデータ加工部144は、第2のデータ加工処理後のデータを直近の第2の期間である5秒間分だけ蓄積する。そして、イベント検知部170によってイベントが検知されたときに、第2のデータ加工部144は、イベント検知タイミング前後の5秒間の蓄積データを、一斉にSSデータとして出力する。これにより、第2のデータ加工処理後のデータのうち、イベントの検知タイミング前後の第2の期間におけるデータのみをSSデータとして出力することができる。このSSデータは、TRデータに比べて、サンプリング周期が短く、且つ、より微小な変化も表すことができるデータである。
【0123】
このように、検知信号に応じた第2のデータ加工処理後のデータが、SSデータとして出力される。
【0124】
第3のデータ加工部146は、入力信号に対応したデータに対し第3のデータ加工処理を行う。第3のデータ加工処理は、雑音除去処理を含むことが望ましい。
【0125】
例えば血液ポンプ回転数に対応した検知信号に対して、第3のデータ加工部146は、カットオフ周波数が50Hzのローパスフィルター処理を行う。このローパスフィルター処理により、雑音除去を行う。また、例えば血液ポンプ電流値に対応した検知信号に対して、第3のデータ加工部146は、カットオフ周波数が40Hzのローパスフィルター処理を行う。このローパスフィルター処理により、雑音除去を行う。
【0126】
このように、検知信号に応じた第3のデータ加工処理後のデータが、データ保存部160に保存されることなくRTデータとして出力される。
【0127】
上記のように生成されたTRデータ及びSSデータに加えてEVデータは、データ保存部160に保存された後、通信ケーブル等を介して人工心臓制御装置100に接続されたデータ解析装置200によって取り出される。また、上記のように生成されたRTデータは、通信ケーブル等を介して人工心臓制御装置100に接続されたデータ解析装置200に送られる。
【0128】
〔データ解析装置の動作例〕
図13に、データ解析装置200の画像表示部240に表示された表示画像の第1の例を示す。図13は、人工心臓制御装置100から取得したTRデータを用いて画像を生成し、画像表示部240に表示した画像の一例を表す。
【0129】
データ解析装置200では、血液ポンプ20の回転数や消費電力、クールシールユニット120の流路圧(ここでは、図4のフィルター126の出力圧)に対応したTRデータを用いて、画像生成部230において画像が生成される。図13では、図4のフィルター126の入力圧に対応したTRデータを用いて、クールシールユニット120の流路圧として表示される。データ解析装置200では、表示窓をスクロールさせることで、数日間にわたって蓄積されたTRデータに基づく波形のうち任意の期間におけるTRデータの波形が波形表示領域DP0において表示される。例えば波形表示領域DP0には、過去約3か月分のTRデータのうち30日分のTRデータに基づく波形が表示されている。このとき、波形表示領域DP0内で移動可能なカーソルCURの位置における動作データの値が、カーソル位置データ表示領域DP1に表示される。
【0130】
このようにTRデータを取得し、該TRデータに基づいて例えば図13に示す画像を表示することで、数日から数ヶ月といった長期間にわたり人工心臓装置10を動作させても、定期的に人工心臓制御装置100や血液ポンプ20の運転状況を解析できる。
【0131】
図14に、データ解析装置200の画像表示部240に表示された表示画像の第2の例を示す。図14は、人工心臓制御装置100から取得したSSデータを用いて画像を生成し、画像表示部240に表示した画像の一例を表す。
【0132】
データ解析装置200では、EVデータ及びSSデータを用いて、画像生成部230において画像が生成される。図14では、イベント状態表示領域DP2において、EVデータに基づいて、発生したイベントが時系列に表示される。例えばイベント状態表示領域DP2には、過去約3か月分のEVデータのうち、直近のEVデータに基づいてイベントが時系列に表示されている。このとき、イベント状態表示領域DP2において選択されたイベント(図14では、反転表示されたイベント)に対応して、当該イベントの検知タイミング前後の5秒間におけるSSデータに基づく波形が、SSデータ表示領域DP3に表示される。
【0133】
このようにSSデータを取得し、該SSデータに基づいて例えば図14に示す画像を表示することで、TRデータのみでは解析できない現象であっても最低限必要な部分のみ詳細なデータを蓄積するだけで済む。従って、数日から数ヶ月といった長期間にわたり人工心臓装置10を動作させても、SSデータを解析することでイベントの発生状況をより細かく把握できるようになる。
【0134】
図15に、データ解析装置200の画像表示部240に表示された表示画像の第3の例を示す。図15は、人工心臓制御装置100から取得したEVデータを用いて画像を生成し、画像表示部240に表示した画像の一例を表す。
【0135】
データ解析装置200では、EVデータを用いて、画像生成部230において画像が生成される。図15では、イベントデータ表示領域DP4において、EVデータに基づいて、発生したイベントが時系列に表示される。イベントデータ表示領域DP4では、例えばイベントの発生個所、イベントの発生要因、イベントの緊急度等で振り分けられるイベントの種別に対応した色で各イベントが表示される。例えばイベントデータ表示領域DP4には、過去約3か月分のEVデータのうち、直近のEVデータに基づいてイベントが時系列に表示されている。このとき、イベントに対応した識別番号、イベントの種類(例えば、検知イベント、クリアイベント、ログイベント)に応じた表示(例えば[Det]、[Clr]、[Log])を行う。
【0136】
このようにEVデータを取得し、該EVデータに基づいて例えば図15に示す画像を表示することで、数日から数ヶ月といった長期間にわたり人工心臓装置10を動作させても、イベントの発生状況を把握できるようになる。
【0137】
図16に、データ解析装置200の画像表示部240に表示された表示画像の第4の例を示す。図16は、人工心臓制御装置100から取得したRTデータを用いて画像を生成し、画像表示部240に表示した画像の一例を表す。
【0138】
データ解析装置200では、RTデータを用いて、画像生成部230において画像が生成される。図16では、波形表示領域DP5において、人工心臓制御装置100からほぼリアルタイムで送られてくるRTデータに基づいて、波形が表示される。このとき、イベント状態表示領域DP6において、直近のイベント発生状況を表示することが望ましい。例えばイベント状態表示領域DP6には、直近のEVデータに基づいてイベントが時系列に表示されている。
【0139】
このようにRTデータを取得し、該RTデータに基づいて例えば図16に示す画像を表示することで、人工心臓制御装置100や血液ポンプ20の現時点の動作状態を監視するのに役立つ。例えば、過去にイベントの発生が検知されたとき、データ解析装置200において、現時点ではどのような状況なのかRTデータを参照することで把握できる。
【0140】
なお、図13から図16のいずれの場合でも、管理データ保存部168に保存されたデータに対応した患者の情報やシリアル番号等を表示することで、患者の使用状態、バッテリー130を含む人工心臓装置10の各部の使用状態を管理することができる。これにより、患者への負担を軽減し、且つ、人工心臓装置10の信頼性を向上させることができるようになる。
【0141】
以上説明したように、本実施形態においては、人工心臓装置10を構成する血液ポンプ20、クールシールユニット120、人工心臓制御装置100の電源等の状態に対応したデータを、複数種類のデータに加工して保存している。こうすることで、長期間にわたって患者が血液ポンプ20を埋め込んで通常生活を送った後であっても、人工心臓装置10のメンテナンスが容易になり、血液ポンプ20や人工心臓制御装置100の異常検知時の動作確認等ができるようになる。
【0142】
〔変形例〕
なお、データ加工部140が行うデータ加工処理対象のデータは、上記の実施形態において説明したものに限定されない。データ加工部140は、人工心臓装置10内の各種データに対して第1のデータ加工処理、第2のデータ加工処理又は第3のデータ加工処理を行うことができる。
【0143】
図17に、本実施形態の変形例におけるデータ加工部の構成例のブロック図を示す。図17において、図12と同様の部分には同一符号を付し、適宜説明を省略する。
【0144】
本変形例におけるデータ加工部340は、第1のデータ加工部342、第2のデータ加工部344、第3のデータ加工部346を含む。第3のデータ加工部346は、図12の第3のデータ加工部146と同様の機能を有する。第1のデータ加工部342は、第3のデータ加工部346による加工処理後のデータに対して第1のデータ加工処理を行い、TRデータとして出力する。第1のデータ加工処理は、第1の期間における平均値の算出処理、第1の期間における最大値の算出処理、第1の期間における最小値の算出処理、及び所与のフィルター処理を含むことが望ましい。即ち、図12の第1のデータ加工部142が、各種センサーからの検知信号等に対して第1のデータ加工処理を行うのに対し、第1のデータ加工部342は、RTデータに対して第1のデータ加工処理を行う。こうすることで、処理を流用でき、データ加工部340の構成を簡素化、小型化できるようになる。
【0145】
同様に、第2のデータ加工部344は、第3のデータ加工部346による加工処理後のデータに対して第2のデータ加工処理を行い、SSデータとして出力する。第2のデータ加工処理は、平均値の算出処理、最大値の算出処理、最小値の算出処理、及び所与のフィルター処理を含むことが望ましい。即ち、図12の第2のデータ加工部144が、各種センサーからの検知信号等に対して第2のデータ加工処理を行うのに対し、第2のデータ加工部344は、RTデータに対して第2のデータ加工処理を行う。こうすることで、処理を流用でき、データ加工部340の構成を簡素化、小型化できるようになる。
【0146】
なお、図5の人工心臓制御装置100は、データ加工部140に代えて図17のデータ加工部340を適用することができる。これにより、本実施形態と比較してデータ加工部の構成及び制御を簡素化できるようになる。
【0147】
以上説明した本実施形態又はその変形例によれば、例えば、次のような効果が得られる。
【0148】
第1に、長期間にわたって動作する人工心臓装置10を構成する各部の正常運転の確認が容易になる点がある。従来であれば、定期検診時に患者のインタビューによって、例えばアラームの発生状況や血液ポンプの動作異常を感じたか否か等の信頼性が比較的低い手段により、各部の正常運転の確認を行わざるを得なかった。これに対して、本実施形態又はその変形例によれば、人工心臓装置10の各部の動作状態を種々の態様のデータにより保存し、後日閲覧することができるので、過去の通常使用時の無故障性を確認することができるようになる。
【0149】
第2に、人工心臓装置10を構成する各部の異常発生時における原因追究や、その対策の決定が容易になる点がある。異常検出時に血液ポンプ20の内部の異常が疑わしい場合であっても、その異常が一時的なものであれば、電磁波等の影響による計測異常と判断できることもある。このような場合において異常発生状況を解析できれば、より適切な対応を早急に決定でき、患者への負担を大幅に低減できるようになる。
【0150】
第3に、長期間にわたって血液ポンプ20を埋め込んで通常生活を送る患者の血行動態の変動を把握できる点である。血液ポンプ20の動作状態に対応したTRデータ及びRTデータは、血液ポンプ20の回転数や消費電力等の情報を有し、患者の血行動態を反映したデータと考えることができる。例えば患者の短期(1心拍単位〜数分)、長期(1日〜数か月)単位でRTデータ、TRデータを取得することで、患者の血行動態に関係する情報として医学的に利用できるようになる。
【0151】
第4に、長期間にわたって血液ポンプ20を埋め込んで通常生活を送る患者の使用方法を解析できる点である。例えば、患者によってバッテリーの着脱行為が頻繁である場合、その記録が残るため、患者を指導したり、バッテリーのコネクタ部の摩耗を回避したりすることができるようになる。これにより、異常の事前検知や予防、交換時期の決定が容易になり、人工心臓装置10の寿命の長期化や異常発生確率を低下させて信頼性を向上させることができるようになる。また、患者の情報やバッテリーや人工心臓装置の構成要素のシリアル番号に関連付けることで、異常原因の追究やデータ管理等が容易になる。
【0152】
第5に、携帯型の人工心臓制御装置100に煩雑な計測機器を別途準備する必要がなくなり、患者のQOL向上に役立つ点である。これにより、患者がデータの保存を意識することなく、自由な生活を確保できるようになる。
【0153】
以上、本発明に係る人工心臓装置等を上記の実施形態又はその変形例に基づいて説明した。しかしながら、本発明は上記の実施形態又はその変形例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0154】
(1)上記の実施形態又はその変形例では、血液ポンプが連続流型であるものと説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、血液ポンプが、循環させる血液の流れに所定の周期を与える拍動流型の血液ポンプや、磁気浮上型の血液ポンプであってもよい。
【0155】
(2)上記の実施形態又はその変形例における血液ポンプは、3相の駆動信号により駆動されるACモーターや、例えば3相以外の駆動信号により駆動されるモーターや、DCモーターにより実現される。
【0156】
(3)上記の実施形態又はその変形例では、人工心臓制御装置がクールシールユニットを含む例について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、本発明に係る人工心臓制御装置又は人工心臓装置が、クールシールユニットを含まない構成であってもよい。また、本発明は、クールシールユニットによりクールシール液を軸受け部分に供給する構成や原理に限定されるものではない。
【0157】
(4)上記の実施形態又はその変形例において、本発明を、人工心臓装置等として説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、本発明に係る人工心臓装置を制御する制御方法の処理手順が記述されたプログラムや、該プログラムが記録された記録媒体であってもよい。
【符号の説明】
【0158】
10…人工心臓装置、 20…血液ポンプ、 21…駆動部、 22…ポンプ部、
23…インペラ、 24…ポンプケーシング、 25…流入口、 26…流出口、
27…メカニカルシール部、 50…ケーブル、 80…心臓、
100…人工心臓制御装置、 110…血液ポンプ制御部、
120…クールシールユニット、 122…ポンプ、 124…リザーバー、
126…フィルター、 128…循環経路、 130…バッテリー、
140,340…データ加工部、 142,342…第1のデータ加工部、
144,344…第2のデータ加工部、 144,346…第3のデータ加工部、
160…データ保存部、 162…TRデータ保存部、 164…SSデータ保存部、
166…EVデータ保存部、 168…管理データ保存部、 170…イベント検知部、
180…操作部、 190…リアルタイムクロック制御部、 200…データ解析装置、
210…データ解析処理部、 220…データ解析保存部、 230…画像生成部、
240…画像表示部、 300…外部メモリー、 310…プリンター、
CUR…カーソル、 DP0,DP5…波形表示領域、
DP1…カーソル位置データ表示領域、 DP2,DP6…イベント状態表示領域、
DP3…SSデータ表示領域、 DP4…イベントデータ表示領域、
SR1〜SR5…センサー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
心臓の血液の流れを補助する血液ポンプと、
前記血液ポンプを制御する血液ポンプ制御部と、
前記血液ポンプの動作データ、前記血液ポンプの潤滑液を循環させるクールシールユニットの動作データ、前記血液ポンプを装着する患者の状態に対応した生体データ、又は人工心臓装置へ電力を供給する電源の動作データを取得するための1又は複数のセンサーと、
前記血液ポンプの動作データ、前記クールシールユニットの動作データ、前記生体データ、及び前記電源の動作データのうち少なくとも1つの第1の期間におけるデータに対して第1のデータ加工処理を行う第1のデータ加工部と、
前記第1の期間が経過するごとに、前記第1のデータ加工処理後のデータが、保存日時に対応した日時データに関連付けられて保存される第1のデータ保存部とを含み、
前記第1のデータ保存部に保存されるデータの取り出しが可能に構成されることを特徴とする人工心臓装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記第1のデータ加工処理は、
前記第1の期間における平均値の算出処理、前記第1の期間における最大値の算出処理、前記第1の期間における最小値の算出処理、及び所与のフィルター処理のうち少なくとも1つを含むことを特徴とする人工心臓装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記血液ポンプの動作データ、前記クールシールユニットの動作データ、前記生体データ、及び前記電源の動作データのうち少なくとも1つのデータに対して第2のデータ加工処理を行う第2のデータ加工部と、
前記第2のデータ加工処理後のデータのうち、所与のイベントの検知タイミング前後の第2の期間におけるデータが、保存日時に対応した日時データに関連付けられて保存される第2のデータ保存部とを含み、
前記第2のデータ保存部に保存されるデータの取り出しが可能に構成されることを特徴とする人工心臓装置。
【請求項4】
心臓の血液の流れを補助する血液ポンプと、
前記血液ポンプを制御する血液ポンプ制御部と、
前記血液ポンプの動作データ、前記血液ポンプの潤滑液を循環させるクールシールユニットの動作データ、前記血液ポンプを装着する患者の状態に対応した生体データ、又は人工心臓装置へ電力を供給する電源の動作データを取得するための1又は複数のセンサーと、
前記血液ポンプの動作データ、前記クールシールユニットの動作データ、前記生体データ、及び前記電源の動作データのうち少なくとも1つのデータに対して第2のデータ加工処理を行う第2のデータ加工部と、
前記第2のデータ加工処理後のデータのうち所与のイベントの検知タイミング前後の第2の期間におけるデータが、保存日時に対応した日時データに関連付けられて保存される第2のデータ保存部とを含み、
前記第2のデータ保存部に保存されるデータの取り出しが可能に構成されることを特徴とする人工心臓装置。
【請求項5】
請求項3又は4において、
前記第2のデータ加工処理は、
平均値の算出処理、最大値の算出処理、最小値の算出処理、及び所与のフィルター処理のうち少なくとも1つを含むことを特徴とする人工心臓装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかにおいて、
前記血液ポンプの動作データ、前記クールシールユニットの動作データ、前記生体データ、前記電源の動作データ、前記電源の着脱時に更新される着脱データ、及び前記人工心臓装置を制御するための操作部の操作データのうち少なくとも1つに基づいて、イベントを検知するイベント検知部と、
前記イベント検知部によって検知された前記イベントに対応したイベントデータが、前記日時データに関連付けられて保存される第3のデータ保存部とを含み、
前記第3のデータ保存部に保存されるデータの取り出しが可能に構成されることを特徴とする人工心臓装置。
【請求項7】
請求項4又は5において、
前記血液ポンプの動作データ、前記クールシールユニットの動作データ、前記生体データ、前記電源の動作データ、前記電源の着脱時に更新される着脱データ、及び前記人工心臓装置を制御するための操作部の操作データのうち少なくとも1つに基づいて、イベントを検知するイベント検知部を含み、
前記第2のデータ保存部には、
前記第2のデータ加工処理後のデータのうち、前記イベント検知部によって検知された前記イベントの検知タイミング前後の第2の期間におけるデータが、保存日時に対応した日時データに関連付けられて保存されることを特徴とする人工心臓装置。
【請求項8】
心臓の血液の流れを補助する血液ポンプと、
前記血液ポンプを制御する血液ポンプ制御部と、
前記血液ポンプの動作データ、前記血液ポンプの潤滑液を循環させるクールシールユニットの動作データ、前記血液ポンプを装着する患者の状態に対応した生体データ、又は人工心臓装置へ電力を供給する電源の動作データを取得するための1又は複数のセンサーと、
前記血液ポンプの動作データ、前記クールシールユニットの動作データ、前記生体データ、前記電源の動作データ、前記電源の着脱時に更新される着脱データ、及び前記人工心臓装置を制御するための操作部の操作データのうち少なくとも1つに基づいて、イベントを検知するイベント検知部と、
前記イベント検知部によって検知された前記イベントに対応したイベントデータが、前記日時データに関連付けられて保存される第3のデータ保存部とを含み、
前記第3のデータ保存部に保存されるデータの取り出しが可能に構成されることを特徴とする人工心臓装置。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれかにおいて、
前記血液ポンプの動作データ、前記クールシールユニットの動作データ、前記生体データ、及び前記電源の動作データのうち少なくとも1つのデータの出力が可能に構成されることを特徴とする人工心臓装置。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれかにおいて、
前記血液ポンプが装着される患者の情報、前記人工心臓装置の構成要素に付与されたシリアル番号、前記人工心臓装置の使用時間、前記電源に付与されたシリアル番号、前記電源の使用時間、及び前記電源の充電回数のうち少なくとも1つが保存される第4のデータ保存部を含み、
前記第4のデータ保存部に保存されるデータの取り出しが可能に構成されることを特徴とする人工心臓装置。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれかにおいて、
前記血液ポンプの潤滑液を循環させる前記クールシールユニットと、
前記潤滑液が循環される循環経路とを含むことを特徴とする人工心臓装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図17】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−115619(P2012−115619A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−270912(P2010−270912)
【出願日】平成22年12月3日(2010.12.3)
【出願人】(392000796)株式会社サンメディカル技術研究所 (9)
【Fターム(参考)】