説明

人工筋肉に用いられる筒状体及び当該筒状体を備える人工筋肉並びに筒状体の製造方法

【課題】人工筋肉として要求される耐久性を担保したまま、十分な伸長量と柔軟性とを有する筒状体、当該筒状体を備えた人工筋肉、及び、筒状体の製造方法を提供する。
【解決手段】弾性体からなる筒部と、筒部に内包された状態で円周方向に巻回され、軸方向に連続して延長する繊維層12とを備えることにより、繊維層12が筒部の径方向への膨張を規制し、筒部の軸方向への伸長を規制しないため、高い伸長量及び柔軟性を有する筒状体11が得られる。また、繊維層12を軸方向に沿って複数配列することにより、繊維層12を軸方向に沿って密実に内包することができ、筒部の軸方向への伸長を安定させることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工筋肉に用いられる筒状体及び当該筒状体を備えた人工筋肉に関し、特に、内部に流体を供給することにより伸縮する筒状体及び人工筋肉に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、例えば生体内に埋設可能な人工筋肉として、本願発明者らが提案した軸方向繊維強化型人工筋肉と呼ばれる人工筋肉が提案されている。当該人工筋肉は、ゴム製のチューブ内に軸方向に延長する複数の繊維を内挿し、チューブ及びガラスロービング繊維の両端部がターミナルにより固定されることによって形成される。そして、当該人工筋肉を収縮させる際には、ターミナルを介して空気などの流体をチューブ内に供給することによりゴムチューブを膨張させる。チューブは、内挿された複数の繊維により軸方向への伸長が規制されているため、径方向にのみに膨張し、径方向への膨張に伴って軸方向への高い収縮率を得ることができる。
【0003】
しかしながら、近年においては、人工筋肉の動作を応用して多様な医療機器等の推進装置等に用いる検討がなされており、例えば生体の腸内を進行可能な内視鏡の推進機構として応用しようとした場合には、従来の人工筋肉では曲げ剛性が大きく、腸内で受動的に曲がることができないために推進機構の先端が腸の湾曲部に突っかかってしまい、進行できなくなり、推進機構としての機能を十分に果たせないことがあった。また、従来の人工筋肉にあっては、軸方向への伸長を繊維により規制しているため、推進機構として要求される十分なストローク量を得ることが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO 2008/140032 A1
【特許文献2】特開2009−240713号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、従来の問題点に鑑みてなされたもので、本願発明は上記課題を解決するため、人工筋肉として要求される耐久性を担保したまま、十分な伸長量と柔軟性とを有する筒状体、当該筒状体を備えた人工筋肉、及び、筒状体の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための筒状体の態様として、弾性体からなる筒部と、筒部に内包された状態で円周方向に巻回され、軸方向に連続して延長する繊維層とを備えた態様とした。
本態様によれば、繊維層が筒部の径方向への膨張を規制し、筒部の軸方向への伸長を規制しないため、高い伸長量及び柔軟性を有する筒状体を得ることができる。
また、筒状体の他の態様として、繊維層が軸方向に沿って複数配列された態様とした。
本態様によれば、上記態様から生じる効果に加えて、繊維層を軸方向に沿って密実に内包することができ、筒部の軸方向への伸長を安定させることが可能となる。
また、筒状体の他の態様として、繊維層がシート状繊維であって、当該シート状繊維の始端と終端との継ぎ目が、互いに軸方向に隣接するシート状繊維の始端と終端との継ぎ目と異なる位置である態様とした。
本態様によれば、前記態様から生じる効果に加えて、シート状繊維の始端と終端との継ぎ目に圧力が局所的に加わることを防止できるため、破断,破裂が生じ難い筒状体を得ることができる。即ち、筒状体の耐久性を向上させることができる。
また、筒状体の他の態様として、筒部が軸方向に伸縮可能な蛇腹構造を有する態様とした。
本態様によれば、前記態様から生じる効果に加え、筒部が軸方向に伸縮可能な蛇腹構造を有しているので、筒状体が湾曲し易くなり、柔軟性を飛躍的に向上させることが可能となる。
また、筒状体の他の態様として、筒部は周方向に山部と谷部とが交互に形成された横断面形状を有する態様とした。
本態様によれば、前記態様から生じる効果に加え、筒部が、周方向に山部と谷部とが交互に形成された横断面形状を有しているので、筒状体が湾曲し易くなり、柔軟性を飛躍的に向上させることが可能となる。
また、前記態様からなる筒状体を前提とする人工筋肉の態様として、筒部の両端部を閉塞する蓋部材を備えた態様とした。
本態様によれば、筒状体に密閉空間が形成され、当該密閉空間内に圧力を印加することにより、高い伸長量及び柔軟性に富んだ人工筋肉を得ることができる。
また、前記筒状体を前提とする他の態様として、外周面が軸方向に沿って蛇腹状に形成された型部材の表面に酸化水溶液を塗布する工程と、型部材を液状のゴムに浸漬する工程と、ゴムに浸漬した型部材を洗浄する工程とを含む筒状体の製造方法とした。
本態様によれば、蛇腹状に形成された型部材の表面に残存するゴムが洗浄により除去されるので、軸方向に沿って厚さが均一な筒状体を得ることができる。
また、前記筒状体を前提とする他の態様として、周方向に山部と谷部とが交互に形成された横断面形状を有する型部材の表面に酸化水溶液を塗布する工程と、型部材を液状のゴムに浸漬する工程と、ゴムに浸漬した型部材を洗浄する工程とを含む筒状体の製造方法とした。
本態様によれば、山部と谷部とが交互に形成された型部材の表面に残存するゴムが洗浄により除去されるので、軸方向に沿って厚さが均一な筒状体を得ることができる。
また、他の態様として、型部材の表面に付着したゴムの外周面に形成された蛇腹に沿って円周方向に延長する繊維を貼り付けて繊維層を形成する工程と、繊維層が形成された型部材を再度液状のゴムに浸漬し、繊維層にゴムを付着させる工程とを含む態様とした。
本態様によれば、前記態様から生じる効果と同様に、軸方向への高い伸長量と柔軟性とを兼ね備えた筒状体を得ることができる。
また、他の態様として、型部材の表面に付着したゴムの外周面に沿って円周方向に延長する繊維を貼り付けて繊維層を形成する工程と、繊維層が形成された型部材を再度液状のゴムに浸漬し、繊維層にゴムを付着させる工程とを含む態様とした。
本態様によれば、前記態様から生じる効果と同様に、軸方向への高い伸長量と柔軟性とを兼ね備えた筒状体を得ることができる。
また、他の態様として、繊維層にゴムを付着させる工程の前に、繊維層に酸化水溶液を塗布する工程を含む態様とした。
本態様によれば、繊維層の表面に液状のゴムを安定して定着させることができるとともに、残余のゴムを除去することにより厚さが均一な筒状体を得ることができる。
【0007】
なお、前記発明の概要は、本発明の必要な全ての特徴を列挙したものではなく、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となり得る。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施形態に係る人工筋肉の構成を示す概略図である。
【図2】実施形態に係る筒状体の構成を示す概略図である。
【図3】人工筋肉の動作を説明するための図である。
【図4】人工筋肉の圧力−伸長量特性を示す図である。
【図5】人工筋肉の圧力−伸長量特性の測定に用いた人工筋肉を示す図である。
【図6】他の実施形態に係る筒状体を示す概略図である。
【図7】他の実施形態に係る筒状体を示す概略図である。
【図8】他の実施形態に係る筒状体の製造方法を示すフローチャートである。
【図9】他の実施形態に係る筒状体のディップ棒を示す概略図である。
【図10】ディップ棒の浸漬方法の一例を示す概略図である。
【図11】繊維層の形成方法を示す概略図である。
【図12】他の形態に係る筒状体のディップ棒を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施の形態を通じて本発明を詳説するが、以下の実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものでなく、また、実施の形態の中で説明される特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0010】
図1は、人工筋肉10の実施形態を示す図である。
同図において、人工筋肉10は、駆動装置20に接続されており、駆動装置20の制御により伸縮動作する。人工筋肉10は、ゴム部材から成る筒状体11と、筒状体11に内包される繊維層12と、筒状体11の両端にそれぞれ取付けられる蓋部材14a,14b、及び、締付バンド15a,15bとを備える。
筒状体11は、両端開口の円筒形状であって、図2に示すように、繊維層12を挟んで径方向内側に位置する内側ゴム層11A、及び、径方向外側に位置する外側ゴム層11Bからなる筒部を有する。内側ゴム層11Aと外側ゴム層11Bとは、例えば天然ゴムラテックスから形成されており、内側ゴム層11Aと外側ゴム層11Bとの厚さは同程度の厚さに設定される。
【0011】
繊維層12は、内側ゴム層11Aと外側ゴム層11Bとの間に介挿される層であって、複数の繊維12kが接着材等により収斂された繊維シート12Sが内側ゴム層11Aの円周面に沿って巻回されることにより形成される。繊維12kは、例えば、機械的な撚りをかけずに収束された無撚り繊維が好適である。本例では、繊維12kとして、5〜15μm程度の直径を有し、強度の高いカーボンロービング繊維を用いた。
【0012】
図2(c)に示すように、繊維層12は、複数の繊維シート12Sが軸方向に沿って複数配列されることにより形成される。各繊維シート12Sの長さは、内側ゴム層11A表面の周長と略等しい長さを有するようにカットされ、内側ゴム層11Aの円周方向に巻回される。また、各繊維シート12Sの巻き始端と巻き終端との継ぎ目は、隙間なくリング状に接続することが望ましいが、例えば、巻き始端と巻き終端との間に僅かな隙間12nを設けてもよい。
また、各繊維シート12Sは、耐久性や伸長動作の安定性の観点から軸方向に互いに隣接する繊維シート12Sとの間に隙間が生じないように巻回される。このように複数の繊維シート12Sを軸方向に沿って配列することにより、繊維層12を内側ゴム層11Aの軸方向に沿って密実に内包することができ、筒部の軸方向への伸長を安定させることが可能となる。但し、隙間を設ける場合には、隙間の幅を例えば、繊維シート12Sの幅の半分以下とすることが好ましく、1/4以下とすれば特に好ましい。
【0013】
また、各繊維シート12Sは、軸方向に互いに隣接する繊維シート12S同士の継ぎ目が円周上において異なる位置となるように巻回される。このように繊維シート12Sを巻き付けることにより、1つの繊維シート12Sの継ぎ目に対して、圧力が局所的に加わることを防止でき、繊維シート12Sが剥れることを確実に防止できる。
また、各繊維シート12Sの幅は、例えば、内側ゴム層11Aの軸方向長さの1/30〜1/10程度の幅に設定されている。また、本実施形態においては、内側ゴム層11Aの1周分を単一の繊維シート12Sにより巻回したが、繊維シート12Sの長さを内側ゴム層11Aの周長よりも短く設定し、円周方向に複数の繊維シート12Sを用いて内側ゴム層11Aの外周面を一周させてもよい。
なお、上記形態においては、複数の繊維シート12Sにより繊維層12を形成したが、単一又は複数の繊維シート12Sを内側ゴム層11Aの軸方向に沿って螺旋状に巻回することにより、軸方向に連続して延長する繊維層12を形成してもよい。
螺旋状の巻回に際しては、軸方向に互いに隣接する繊維シート同士をオーバーラップさせながら隙間なく巻回する。また、繊維シート12Sを複数用いる場合には、複数の繊維シート12Sを内側ゴム層11Aの軸方向両端部から中央方向に向かって巻回することや、軸方向中央から両端部に向かって巻回するようにしてもよい。このように、繊維シート12Sを螺旋状に巻回することにより、繊維シート12Sを細分化して貼り付けるよりも繊維層12を軸方向に沿って均一に形成できるため、人工筋肉10を安定して伸長させることが可能となる。
【0014】
蓋部材14a,14bは、筒状体11の両端開口を閉塞し、内部を密閉状態に維持する部材である。締付バンド15a,15bは、筒状体11の両端部の外周面に締結され、蓋部材14a,14bと筒状体11との間に隙間ができないように筒状体11を締め付ける。
つまり、筒状体11は、蓋部材14a,14b及び締付バンド15a,15bにより、密閉状態に維持され、密閉空間内に圧縮空気が導入されることにより伸長,収縮する。また、蓋部材14bには、内外に貫通する図外の複数の孔が開設され、当該孔に対して、後述の圧縮空気注入管21a及び空気排出管21bが嵌挿される。
【0015】
駆動装置20は、圧縮空気注入管21aと、空気排出管21bと、空気注入用の電磁弁22aと、空気排気用の電磁弁22bと、圧縮空気供給手段23と、制御手段24とを備える。圧縮空気注入管21aと空気排出管21bとは、一方の蓋部材14bに開設された孔に嵌挿される。圧縮空気注入管21aは、注入用の電磁弁22aを介して圧縮空気を供給する圧縮空気供給手段23と連結され、空気排出管21bは排気用の電磁弁22bと連結される。なお、空気注入と排出とを両方行える電磁弁を利用し、蓋部材14bの孔を単一のものとしてもよい。制御手段24は、注入用の電磁弁22aの開閉と排気用の電磁弁22bの開閉とを制御して、筒状体11の伸長・収縮を制御する。
【0016】
以下、図3を参照して上記構成からなる人工筋肉10の伸縮動作について説明する。
図3は、蓋部材14bを固定部材30に固定し、蓋部材14bとの距離を伸縮させる無負荷往復運動の概要を示す。
図3(a)に示す状態から制御手段24が注入用の電磁弁22aを開き、圧縮空気供給手段23から送出される圧縮空気が圧縮空気注入管21aを介して筒状体11の密閉空間内に導入されると、筒状体11を構成する内側ゴム層11Aと外側ゴム層11Bとは、導入された圧縮空気の圧力により全方向、即ち、径方向と軸方向との両方に膨張しようとする。一方で、内側ゴム層11Aと外側ゴム層11Bとの間に介挿されている繊維層12は、内側ゴム層11Aと外側ゴム層11Bとの径方向への膨張を拘束する。よって、筒状体11の膨張は、軸方向のみに限定され、筒状体11は、図3(b)に示す状態となり、軸方向へ伸長する。即ち、繊維層12が筒状体11の径方向への膨張を拘束するので、筒状体11は、図3(b)に示すように、径をほぼ一定の状態に維持したまま、軸方向に伸長する。
つまり、本実施形態に係る人工筋肉10は、筒状体11の内側ゴム層11Aと外側ゴム層11Bとの径方向への膨張を筒状体11が内包する繊維層12によって拘束する構成であり、径方向への膨張が規制された内側ゴム層11Aと外側ゴム層11Bからなる筒部は軸方向に伸長する。そして、筒状体11内に圧縮空気の給排が繰り返されることにより、人工筋肉10は繰り返しの伸縮動作を行うことが可能となり、例えば生体の関節における腱の代替要素や、腸内の推進機構として組み込むことが可能となる。
【0017】
図4は、上記構成からなる人工筋肉10の軸方向への圧力応答特性である圧力−伸長量特性を測定した結果を示すグラフである。グラフの横軸は導入された空気の圧力(MPa)、縦軸は伸長量(mm)である。
図5(a)は、測定に用いた人工筋肉10を示す図で、人工筋肉10の外径は23mm、可動部の長さ(締付バンド15a,15b間の筒状体11長さ)、が40mmである。
繊維層12は、幅が5mmの8枚の繊維シート12Sを内側ゴム層11Aの外周面に巻回するとともに、隣接する繊維シート12S同士を軸方向において隙間なく配列した。また、比較のため、図5(b)に示すような、軸方向に隣接する繊維シート12S間に隙間を設けた人工筋肉10Zの圧力−伸長量特性も同様に測定した。人工筋肉10Zは、幅が5mmの6枚の繊維シート12Sを隙間の大きさを2mm(幅の約60%)に設定して、内側ゴム層11Aの外周面に巻回した。また、人工筋肉10,10Zの厚さは、いずれも0.8mmである。測定においては、空気の圧力を0(MPa)から0.005(MPa)間隔で印加していき、各人工筋肉10,10Zが曲げ変形又は不安定な膨らみを生じたときを終了とした。
【0018】
実験結果からも明らかなように、人工筋肉10,10Zは、いずれも、圧力増加に伴って軸方向に伸長していることが確認された。また、最大伸長率は、隙間なしの人工筋肉10が146%(伸長量;58.25mm)で、隙間ありの人工筋肉が153%(伸長量;61.28mm)であり、どちらも自然長に対して約1.5倍伸長することがわかった。なお、実験結果においては、隙間ありの人工筋肉10Zの方が伸長しているが、繊維のない隙間部分が伸びたためと考えられる。これに対して、隙間なしの人工筋肉10は、隙間がない分剛性が高く、軸方向に沿って揺動することなく直線的に安定して伸長し、かつ、より大きな圧力に耐えることができるといえる。
また、人工筋肉10,10Zでは、筒状体11が軸方向に拘束されない構成であるため、従来型の人工筋肉と比較して柔軟性にも優れており、空気圧無負荷時においても曲げ変形をさせることができる。
【0019】
このように、本実施形態に係る筒状体11及び、当該筒状体11を備えた人工筋肉10は、圧力無印加時及び印加時の両方において柔軟性が高く、また、従来の人工筋肉との比較において高い伸長率を得ることができるため、人工筋肉10を例えば、生体の腸内を進行するための推進機構として応用する際に、腸の湾曲によって進行が阻害されるようなことがなく、極めて円滑に湾曲部内を進行することが可能である。また、軸方向への伸長率(ストローク量)が、従来の人工筋肉に対して飛躍的に向上していることから、より推進力の大きな推進機構として応用することが可能となる。
【0020】
図6及び図7は、他の実施形態に係る筒状体11P及び筒状体11Qを示す概略図である。
図6において筒状体11Pは、筒部を構成する内側ゴム層11A及び外側ゴム層11Bが周方向に山部と谷部とが交互に形成された星型の横断面形状を有する点、及び、繊維層12が、星型の内側ゴム層11A及び外側ゴム層11Bの間に介挿されている点で異なる。
当該他の形態に係る筒状体11Pにおいても繊維層12が筒状体11Pの径方向への膨張を規制する構成であるため、筒状体11Pは軸方向に沿って伸長する。また、当該筒状体11Pは、星型の横断面形状を有するため、軸方向に対して垂直な方向に力を加えて筒状体11Pを曲げると、曲率が小さい側に位置する山部と谷部との間隔が狭くなり、曲率の大きい側に位置する山部と谷部との間隔が広くなるため、上述の実施形態に係る筒状体11よりも湾曲し易くなるという効果を奏する。
【0021】
また、図7における筒状体11Qは、筒部を形成する内側ゴム層11A及び外側ゴム層11Bが軸方向に伸縮可能な蛇腹構造を有する点、及び、繊維層12が、蛇腹構造を有する内側ゴム層11A及び外側ゴム層11Bの間に介挿されている点で異なる。
当該他の形態に係る筒状体11Qにおいても繊維層12が筒状体11Qの径方向への膨張を規制する構成であるため、筒状体11Qは軸方向に沿って伸長する。
また、筒状体11Qは、筒部が蛇腹構造を有しているため、上記実施形態から生じる効果に加えて、曲げ力に対する柔軟性がより一層向上し、人工筋肉として適用された場合にあっては、軸方向への伸長量が十分に確保され、かつ、柔軟性が飛躍的に向上した推進機構としての応用が可能となる。
【0022】
次に、図8を参照して、上記実施形態に係る筒状体11P及び筒状体11Qの製造工程を説明する。なお、筒状体11の製造工程は、型部材となるディップ棒の形状が異なるだけなので省略する。
まず、S11において筒状体11P,11Qの型部材となるディップ棒を準備する。
図9及び図12は、筒状体11P,11Qを成形するディップ棒31P,31Qを示す図である。
ディップ棒31P,31Qは、例えば、押出成形法を用いて成形されたABS樹脂などの樹脂からなり、内側ゴム層11Aの内径と同じ外径を有する塗布部31aと、塗布部31aの両端にそれぞれ設けられた把持部31bとを備える。ディップ棒31Pの塗布部31aの表面は、山部及び谷部が円周方向に沿って形成されており、内側ゴム層11Aは当該表面と対応した形状に成形される。
また、ディップ棒31Qの塗布部31aの表面は、軸方向に沿って蛇腹状に形成されており、内側ゴム層11Aは当該表面と対応した蛇腹形状に成形される。なお、筒状体11のディップ棒は不図示であるが塗布部31aの横断面が真円状である。
【0023】
次に、S12において、塗布部31aの外周面に、例えば硝酸とエタノールとを混合した硝酸アルコールなどの酸化水溶液を均一に塗布する前処理を実行する。次に、S13において、図10に示すように、前処理が実行されたディップ棒31P,31Qを容器32内に収容された天然ゴムラテックス液(以下、単にゴム液という)33中に所定時間浸漬するディッピング処理を行う。ディッピング処理に際しては、人為的に把持部31bを把持して行ってもよいが、例えば、ディップ棒31Pの一方の把持部31bを把持部材34で把持し、把持部材34を図示しない昇降手段により連続して下降させるようにすることが好ましい。
次に、S14においてディッピング処理から所定時間経過後に、ディップ棒31P,31Qをゴム液33中から引き上げ、例えば水を収容した容器内に投入することでディップ棒31P,31Qの外周面から未定着の残余のゴム液33を除去し、S15において所定の時間乾燥させる。乾燥に際しては、ディップ棒31P,31Qをモーター等と接続して継続的に回転させることが好ましい。当該工程を経ることにより、円周方向に山部と谷部が形成された内側ゴム層11A又は、軸方向に沿って蛇腹形状を有する内側ゴム層11Aが形成される。
【0024】
つまり、S12乃至S14の工程は、ゴム液33を酸化水溶液と反応させることで塗布部31aの表面上において早期に定着させ(酸凝固法)、さらに、ディップ棒31Pを水の入った容器に浸して、山部と谷部の間に溜まり易い固化前の未定着のゴム液33を洗い流すことにより、ディップ棒31Pの形状を精密に反映しつつ、厚さにムラがない形状の内側ゴム層11Aを形成する工程である。よって、当該工程を経て製造された筒状体11Pに優れた柔軟性を付与することができる。
また、ディップ棒31Qにあっては、S12乃至S14の工程を経ることにより、蛇腹の谷の間に溜まり易い固化前の未定着のゴム液33を洗い流すことができ、ディップ棒31Qの蛇腹形状を精密に反映しつつ、厚さにムラがない蛇腹形状の内側ゴム層11Aを形成することができる。よって、当該工程を経て製造された筒状体11Qに優れた柔軟性を付与することができる。
なお、本実施形態における内側ゴム層11Aの厚さ(0.4mm程度)であれば、十数秒程度の短い時間で内側ゴム層11Aを形成することができる。
【0025】
次に、S16において、乾燥後の内側ゴム層11Aの外周面に複数の繊維シート12Sを貼り付け、繊維層12を形成する。具体的には、図11に示すように、単一の繊維シート12Sを内側ゴム層11Aの周方向に形成された山部と谷部との差を埋めてしまわぬように、山部と谷部の間の表面に沿ってリング状に巻回する。また、ディップ棒31P上に形成された内側ゴム層11Aに巻回する場合も同様に、軸方向に形成された蛇腹の山部と谷部との差を埋めてしまわぬように繊維シート12Sを表面に沿ってリング状に少しずつ巻回する。
また、繊維シート12Sを貼り付ける際には、ゴム液33を内側ゴム層11Aの外周面、或いは、繊維シート12Sにおける内側ゴム層11Aの外周面と対向する面に塗布しながら貼り付けることが好ましい。これにより、繊維シート12Sを構成する繊維12kと、内側ゴム層11Aを構成する天然ゴムラテックスとを馴染ませながら強固に一体化することができる。なお、軸方向に隣接する繊維シート12S同士の位置関係については、前述のとおりである。
【0026】
次にS17以降の工程により、外側ゴム層11Bを形成する。まず、S17において、S16により形成された繊維層12の外周面に硝酸アルコールなどの酸化水溶液を均一に塗布する前処理を行った後、S18において、再度ゴム液33中にディップ棒31P,31Qを浸漬するディッピング処理を行う。当該ディッピング処理においては、ゴム液33が各繊維12kの隙間にも浸透するので、内側ゴム層11Aと繊維層12と外側ゴム層11Bとを一体化させることができる。つまり、繊維層12を内包した状態の筒状体11,11P,11Qを得ることが可能となる。
なお、上記S17においては、繊維層12の表面に直接酸化水溶液を塗布するものとしたが、繊維層12の上にゴム液33をディップして薄いゴム層を形成した後に、当該ゴム層の表面に酸化水溶液を塗布することにより外側ゴム層11Bを形成してもよい。
次に、S19において、所定時間浸漬したディップ棒31P,31Qをゴム液33中から引き上げ、水を収容した容器内に投入し、未定着の残余のゴム液33を除去する。当該工程により、蛇腹形状の繊維層12にゴム液33を確実に定着させつつ、谷部に溜まり易い未定着の残余のゴム液33を洗い流すことができる。よって、ディップ棒31P及び31Qの表面形状が精密に反映された外側ゴム層11Bを形成することができる。
【0027】
次に、S20において所定の時間乾燥させた後、S21において、型部材であるディップ棒31P,31Qを内側ゴム層11Aから引き抜き、内側ゴム層11A、繊維層12及び外側ゴム層11Bからなる筒状体11P,11Qを得ることができる。上記工程を経て製造された筒状体11P,11Qは、ディップ棒31P,31Qの形状が精密に反映されているため、柔軟性に富み、曲げ方向の力が加わることにより、座屈することなく湾曲可能である。また、S22において、筒状体11を必要な長さに切断することにより、複数の筒状体11P,11Qを同時に製造することができる。
そして、得られた筒状体11P,11Qの両端部に蓋部材14a,14bをそれぞれ挿入した後、締付バンド15a,15bで筒状体11を締め付けることにより、優れた伸縮性及び柔軟性を有する人工筋肉を得ることができる。なお、上記工程においては、内側ゴム層11A及び外側ゴム層11Bを構成するゴムを天然ゴムラテックスとしたが、シリコーンゴムなど他の種類のゴムを用いてもよい。
【0028】
以上説明したとおり、本実施形態に係る筒状体及び当該筒状体を備えた人工筋肉によれば、曲げ力に対する柔軟性と、圧力印加時における優れた伸縮性を有するため、生体の関節としての機能を発揮させる場合や、推進機構として応用する場合にあっても優れた特性を有するものとして適用することができる。
また、上記工程からなる製造方法によれば、伸縮性、柔軟性に優れた筒状体を容易に得ることが可能となる。
【0029】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は前記実施の形態に記載の範囲には限定されない。前記実施の形態に、多様な変更又は改良を加えることが可能であることが当業者にも明らかである。そのような変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲から明らかである。
【符号の説明】
【0030】
10 人工筋肉、10Z 人工筋肉、
11 筒状体、11A 内側ゴム層、11B 外側ゴム層、
12 繊維層、12k 繊維、12S 繊維シート、
14a,14b 蓋部材、15a,15b 締付バンド、
20 駆動装置、21a 圧縮空気注入管、21b 空気排出管、
23 圧縮空気供給手段、24 制御手段、30 固定部材、
31a 塗布部、31b 把持部、31P ディップ棒、31Q ディップ棒、
33 天然ゴムラテックス液、34 把持部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工筋肉に用いられる筒状体であって、
弾性体からなる筒部と、
前記筒部に内包された状態で円周方向に巻回され、軸方向に連続して延長する繊維層とを備えた筒状体。
【請求項2】
前記繊維層が軸方向に沿って複数配列された請求項1記載の筒状体。
【請求項3】
前記繊維層がシート状繊維であって、
当該シート状繊維の始端と終端との継ぎ目が、互いに軸方向に隣接するシート状繊維の始端と終端との継ぎ目と異なる位置である請求項2記載の筒状体。
【請求項4】
前記筒部が軸方向に伸縮可能な蛇腹構造を有する請求項1乃至請求項3いずれかに記載の筒状体。
【請求項5】
前記筒部が周方向に山部と谷部とが交互に形成された横断面形状を有する請求項1乃至請求項3いずれかに記載の筒状体。
【請求項6】
前記請求項1乃至請求項5いずれかの筒状体を備えた人工筋肉であって、
前記筒部の両端部を閉塞する蓋部材を備えた人工筋肉。
【請求項7】
人工筋肉に用いられる筒状体の製造方法であって、
外周面が軸方向に沿って蛇腹状に形成された型部材の表面に酸化水溶液を塗布する工程と、
前記型部材を液状のゴムに浸漬する工程と、
前記ゴムに浸漬した型部材を洗浄する工程とを含む筒状体の製造方法。
【請求項8】
人工筋肉に用いられる筒状体の製造方法であって、
周方向に山部と谷部とが交互に形成された横断面形状を有する型部材の表面に酸化水溶液を塗布する工程と、
前記型部材を液状のゴムに浸漬する工程と、
前記ゴムに浸漬した型部材を洗浄する工程とを含む筒状体の製造方法。
【請求項9】
前記型部材の表面に付着したゴムの外周面に形成された蛇腹に沿って円周方向に延長する繊維を貼り付けて繊維層を形成する工程と、
前記繊維層が形成された型部材を再度液状のゴムに浸漬し、
前記繊維層にゴムを付着させる工程とを含む請求項7記載の筒状体の製造方法。
【請求項10】
前記型部材の表面に付着したゴムの外周面に形成された山と谷に沿って円周方向に延長する繊維を貼り付けて繊維層を形成する工程と、
前記繊維層が形成された型部材を再度液状のゴムに浸漬し、
前記繊維層にゴムを付着させる工程とを含む請求項8記載の筒状体の製造方法。
【請求項11】
前記繊維層にゴムを付着させる工程の前に、前記繊維層に酸化水溶液を塗布する工程を含む請求項9又は請求項10記載の筒状体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−176126(P2012−176126A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−40934(P2011−40934)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(599011687)学校法人 中央大学 (110)
【Fターム(参考)】