説明

人工肺ホルダー

【課題】体外血液循環回路を作製する際の人工肺の向きの調整が容易であり、簡素な構成で安価に作製可能な人工肺ホルダーを提供する。
【解決手段】人工肺ジョイント16を挿入可能な係合空間を形成し、その係合空間に挿入された人工肺ジョイントと係合可能なように構成された人工肺保持部材11と、円筒部9aを有し、円筒部の内側空間の下部に人工肺保持部材が固定された可動連結部材9と、円環形状を有し、その円環形状の内側に可動連結部材の円筒部が嵌合して、相互に回動可能なように可動連結部材と連結され、円環形状の外周部に設けられたホルダー支持部8aで外部装置により支持可能となっているホルダーリング8と、ホルダーリングに装着され、可動連結部材の回動を阻止し、または回動可能なように開放する調整を行うための回動調整部材10とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工心肺回路を構成するための人工肺を、施術中に所望の状態に保持するためのホルダーの構造に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、心臓外科手術においては、血液ポンプを用いて患者の静脈より脱血し、人工肺によりガス交換を行なった後、この血液を再び患者の動脈に戻すという体外血液循環が行なわれる。人工肺は一般的に熱交換装置と組み合わせて構成され、血液中の二酸化炭素を外部から取り入れた酸素と交換するガス交換部(人工肺部)と、血液の温度を調整する熱交換部とを備えている。また、体外血液循環に用いる際に人工肺には、脱血した血液や術野から吸引した血液を一時的に貯留する貯血槽が接続される。
【0003】
体外血液循環回路を構成するこれらの各種機器は、手術室内での占有スペースを抑制するために、各装置間の距離が短くなるように配置される。しかも、体外血液循環回路内のプライミングボリュームの増大を避けるために、各装置間を連結する回路チューブの引き回しが最小限となる効率的な配置をとるように調整される。
【0004】
人工肺を含む各種機器の配置に関するこのような要求を満たすために、例えば、特許文献1には、貯血槽の底面下に人工肺を一体的に接続した構造が開示されている。特に、特許文献1では、手術中に貯血量を視認し易いように、貯血槽をオペレータの方へ向けて配置するのに適した構造が意図されている。すなわち、人工肺を一体に結合した貯血槽では、人工肺をチューブ配管効率の最も良い方向に設置し、同時に、オペレータが視認し易い向きに貯血槽を設置することはできない。そこで特許文献1では、貯血槽の視認性を優先しながらも、人工肺を必要な向きに設定可能としている。
【0005】
すなわち、特許文献1に開示された装置では、相互に接合される貯血槽の底面と人工肺の上部とに、互いに接合されて人工肺と貯血槽とを相対的に回転可能とする接合部が設けられている。具体的には、人工肺のハウジングの上部に円筒形の接合部が設けられ、貯血槽の下部には、それよりも外径が大き円筒形の接合部が設けられている。人工肺の円筒形の接合部は、貯血槽の円筒形の接合部に差し込まれ、両者の円筒形の接合部は、溝と凸部の係合により、相対的に回転可能な状態に結合される。これにより、貯血槽の向きと人工肺の向きを、共に必要な向きに設定することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−345019号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1の例のように、同一メーカーの貯血槽と人工肺とは、貯血槽と人工肺が相互に良好な状態で結合可能なように構成されている。しかし、体外血液循環時に使用される循環回路の構成は、症例や施設によって様々であり、異なるメーカーの貯血槽と人工肺とを組み合わせて用いる場合も発生する。
【0008】
各メーカーの貯血槽と人工肺の結合構造は統一されていないため、異なるメーカーの貯血槽と人工肺を組み合わせて使用する場合には、人工肺の保持に適したホルダーが必要となる。そのような人工肺のホルダーには、保持が確実であるとともに、人工肺をホルダーに取付ける際の操作が容易であり、また人工肺の向きを調整する際の操作が容易であることを要求される。
【0009】
一方、人工肺ホルダーは、特許文献1の場合の貯血槽の下部に取り付けられる構成と同様、人工肺を吊り下げる状態に保持する構造を有することが望ましい。従って、人工肺をホルダーに取り付ける際には、人口肺を持ち上げて、ホルダーに対して下方から位置合わせして係合させる操作が必要である。このような作業は煩雑であり、特に、緊急の手術が必要な場合等において、医療従事者にとって大きな負担となる。
【0010】
そこで、本発明は、体外血液循環回路を作製する際の人工肺の向きの調整が容易であり、簡素な構成で安価に作製可能な人工肺ホルダーを提供することを目的とする。
【0011】
また、本発明は、人工肺を取り付ける操作を容易に行うことが可能な人工肺ホルダーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の人工肺ホルダーは、人工肺の上部に設けられた人工肺ジョイントとの係合により前記人工肺に対して着脱自在であり、前記人工肺と結合した状態で外部装置により支持されることにより、前記人工肺を所望の姿勢で保持するように構成される。
【0013】
上記課題を解決するために、本発明の人工肺ホルダーは、前記人工肺ジョイントを挿入可能な係合空間を形成し、前記係合空間に挿入された前記人工肺ジョイントと係合可能なように構成された人工肺保持部材と、円筒部を有し、前記円筒部の内側空間の下部に前記人工肺保持部材が固定された可動連結部材と、円環形状を有し、前記円環形状の内側に前記可動連結部材の前記円筒部が嵌合して、相互に回動可能なように前記可動連結部材と連結され、前記円環形状の外周部に設けられたホルダー支持部で外部装置により支持可能となっているホルダーリングと、前記ホルダーリングに装着され、前記可動連結部材の回動を阻止し、または回動可能とする調整を行うための回動調整部材とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
上記構成によれば、ホルダーリングが円環状であることにより、可動連結部材を360度に亘り、無段階に回動させることが可能である。例えば、人工肺を少しだけ動かしたい場合、人工肺をホルダーに取りつけた状態で、回動調整部材を緩めて、位置を調整する操作を容易に行うことができる。また、特殊な機構を必要とせず、簡素な構成により公差範囲の指定のみで確実に作製できるので、製造コストを容易に低減可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態における人工肺ホルダーが人口肺と結合した状態を示す斜視図
【図2】同人工肺ホルダーの設置状態を示す斜視図
【図3】同人工肺ホルダーが人口肺のジョイントと結合した状態を示す斜視断面図
【図4】同人工肺ホルダーの上方から見た斜視図
【図5】同人工肺ホルダーの下方から見た斜視図
【図6】同人工肺ホルダーの正面図
【図7】同人工肺ホルダーの下面図
【図8】同人工肺ホルダーの内部構造を破線で示した斜視図
【図9】同人工肺ホルダーと人口肺のジョイントの結合構造を簡略化して示す正面図
【図10】同人工肺ホルダーの図6のA−A線に沿った断面図
【図11】同人工肺ホルダーの図7のB−B線に沿った断面図
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の人工肺ホルダーは、上記構成を基本として、以下のような態様をとることができる。
【0017】
すなわち、前記回動調整部材は、前記ホルダーリングに螺合し貫通している係止ねじと、前記係止ねじの先端と前記可動連結部材の前記円筒部の間に配置された緩衝部材とを備え、前記係止ねじを回動させて前記緩衝部材を前記円筒部の外周面に当接させることにより、前記ホルダーリングに対する前記可動連結部材の回動を阻止する構成とすることが好ましい。このように、係止ねじによる回動調整が、ホルダーリングの横方向から、緩衝部材を介して行われることにより、回動の固定が安定した状態になる。ホルダーリングと可動連結部材の周面どうしの当接による広い面積での摩擦力による係止作用が得られるからである。さらに、緩衝部材を介して係止ねじを作用させることにより、円筒部に直接当接させた場合に比べて、円筒部の耐久性が向上する。
【0018】
また、前記可動連結部材の前記円筒部の内側空間で上下方向に可動なように、前記人工肺保持部材の上部に配置された付勢板部を有する人工肺脱着ガイドと、前記付勢板部の上下方向の移動を3点で案内するとともに、前記付勢板部を下方に向かって付勢するばね機構を有する摺動ガイドとを備え、前記人工肺ジョイントを前記人工肺保持部材の係合空間に挿入したとき、前記人工肺ジョイントの上端が前記人工肺脱着ガイドに当接し、前記ばね機構による付勢力に抗して前記人工肺ジョイントを挿入することにより、前記人工肺ジョイントと前記人工肺保持部材の係合が可能となる構成とすることができる。
【0019】
摺動ガイドを3点とすることにより、付勢板部の姿勢の維持が確実になる。すなわち、2点の摺動ガイドでは位置決めが困難であるが、3点であれば最小の本数で位置決めが確実になる。それにより、人工肺ジョイントを人工肺保持部材の係合空間に挿入する操作を、適切に行うことができる。また、摺動ガイドに付勢ばねを装着して付勢作用を得ることにより、人工肺を挿入するだけで固定する操作が可能になる。
【0020】
また、前記可動連結部材には、前記円筒部の上端内側部分を覆って形成された端板部が設けられ、前記摺動ガイドは、前記端板部と前記人工肺脱着ガイドとの間に装着されている構成とすることができる。
【0021】
また、前記可動連結部材の前記端板部は中央部に開口部を有し、前記人工肺脱着ガイドは、前記付勢板部の中央部上面から上方に伸びて前記端板部の前記開口部を貫通して前記端板部の上方に突出する操作軸が設けられた構成とすることができる。
【0022】
また、前記人工肺脱着ガイドは、前記付勢板部よりも小径な円柱形状を有して前記付勢板部の下端から下方に伸びているガイド凸部を備え、前記ガイド凸部は前記人工肺保持部材の前記係合空間に位置して、前記ガイド凸部の外周面と前記人工肺保持部材の内面との間には間隙が形成され、円筒状に形成された前記人工肺ジョイントを前記係合空間に挿入したとき、前記人工肺ジョイントは前記ガイド凸部と前記人工肺保持部材の間の前記間隙に入り込み、前記人工肺ジョイントの円筒内部に前記ガイド凸部が嵌入して、前記人工肺ジョイントの装着が案内される構成とすることができる。
【0023】
人工肺脱着ガイドは、人工肺を人工肺ホルダーに取り付ける操作を、容易するために設けられる。人工肺は、体外循環時に落差圧を保持するため、床面位置まで下げて設置することが多い。そのため、人工肺保持部材の内側の係合空間を目視して取り付け操作を行うことができない。これに対して、人工肺脱着ガイドの作用によれば、挿入部を目視しなくても、感覚だけで適切な挿入を容易に行うことが可能となる。
【0024】
また、前記人工肺保持部材は、前記人工肺ジョイントと径方向に対向する2点で当接するように構成されることが好ましい。当接箇所が、径方向に対向する2点に配置されていることにより、人工肺ジョイントのスムーズな挿入が可能となる。これに対して、当接箇所が1箇所であると、人工肺ジョイントを挿入する際にバネ負荷がバランスよく伝わらず挿入し難い。
【0025】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0026】
<実施の形態>
図1は、本発明の実施の形態における人工肺ホルダー1が、人口肺2と結合した状態を示す斜視図である。人工肺ホルダー1と人口肺2は、連結領域3で連結されている。人工肺ホルダー1は、人工肺2の上部に設けられた人工肺ジョイント(図1には図示なし。後述)との係合により人工肺2に対して着脱自在である。人工肺ホルダー1を外部装置により支持することにより、人工肺2を所望の姿勢で保持することができる。
【0027】
人口肺2は、ガス交換部及び熱交換部が収容されたハウジング4を有し、ハウジング4の外側には、血液流路の一端である血液導入ポート5が設けられている。人工肺ハウジング4の左右下端部には各々、冷温水入口ポート6及び冷温水出口ポート7が設けられている。図1には図示されていないが、血液排出ポート、ガス導入口、及びガス排出口も設けられている。
【0028】
人工肺ホルダー1は、円環状のホルダーリング8の内側に、可動連結部材9の円筒部9aを嵌合させた構造を有する。円筒部9aでの嵌合により連結されているので、可動連結部材9はホルダーリング8に対して回動可能である。また、ホルダーリング8に装着された係止ねじ10により、相互の回動を阻止し、または回動可能なように開放する調整を行うことが可能となっている。可動連結部材9の円筒部9aの下部には、円筒状の人工肺保持部材11が固定されている。人工肺保持部材11にはジョイント部を構成する係合溝11aが設けられ、人工肺2の上部に設けられた人工肺ジョイントと係合可能である。この係合により、人工肺ホルダー1が着脱自在に人工肺2と結合される。可動連結部材9の上方に操作つまみ12が突出し、係合溝11aに対する人工肺ジョイントの係合状態を操作するために用いられる。
【0029】
このように、ホルダーリング8が円環状であることにより、可動連結部材9を360度に亘り、無段階に回動させることが可能となる。例えば、血液循環回路を構成する時(チューブを取り付ける際など)に、人工肺2を少しだけ動かしたい場合、人工肺をホルダーに取りつけた状態で、係止ねじ10を緩め、位置を調整する操作を容易に行うことができる。また、特殊な機構を必要とせず、簡素な構成により公差範囲の指定のみで確実に作製できるので、製造コストを低減することができる。
【0030】
ホルダーリング8は、その外周部にホルダー支持部8aを有する。ホルダー支持部8aを外部装置と結合させることにより、ホルダーリング8が外部装置により支持され、人工肺2を所望の姿勢で保持することが可能となる。人工肺ホルダー1をそのように設置した状態を、図2に示す。同図に示すように、ホルダー支持部8aが懸架ロッド100に結合し、懸架ロッド100をクランプ装置101に固定することにより、人工肺ホルダー1を介して人工肺2が所望の位置、姿勢で保持される。ホルダーリング8を支持するための外部装置はこのような構造に限られず、ホルダーリング8は、周知のどのような装置で支持するように構成することも可能である。
【0031】
人工肺ホルダー1の構造について、図3〜図7を参照して、より詳細に説明する。図3は、人工肺ホルダー1が人口肺2のジョイント(人工肺ジョイント13)と結合した状態を示す斜視断面図である。図4は、人工肺ジョイント13が取り外された人工肺ホルダー1のみを、上方から見た斜視図である。図5は、人工肺ホルダー1の下方から見た斜視図である。図6は人工肺ホルダー1の正面図、図7は下面図である。
【0032】
図3には、人工肺の上部に設けられた円筒状の人工肺ジョイント13が示されている(人口肺の本体は、図示を省略)。人工肺保持部材11には、係合溝11a(図4から図6参照)が設けられ、人工肺ジョイント13は係合溝11aに対して係合可能なジョイント構造を形成している。具体的には、人工肺ジョイント13の表面に、径方向に突き出た係合突起13aが設けられている。係合溝11aは、図5に示すように、L字形状である。すなわち、係合溝11aは、人工肺保持部材11の円筒部の開口端から軸方向に沿って形成された縦溝11axと、縦溝11axの端部から周方向に沿って形成された横溝11ayとから構成されている。
【0033】
係合溝11aの内側には、図3あるいは図5から判るように、人工肺ジョイント13を挿入可能な係合空間が形成されており、人工肺ジョイント13を挿入することにより係合溝11aに対する係合突起13aの係合が可能となる。係合溝11aは、図5、図7に示されるように、周方向において90度間隔で、すなわち、周方向の4箇所に設けられている。係合突起13aも同様に、周方向の4箇所に設けられている。4箇所の係合溝11aのうち、対向する2箇所の溝内には、ロック部材18が配置されている。ロック部材18については後述する。
【0034】
図3に示されるように、可動連結部材9は、円筒部9aと、その上端内側部分を覆って形成された端板部9bと、円筒部9aの上端から外方に延在させて形成された鍔部9cとを有する。円筒部9aの内側空間の下部に、人工肺保持部材11が固定されている。人工肺保持部材11の固定は、固定ねじ14により行われている。
【0035】
円筒部9aの内側空間にはまた、人工肺脱着ガイド15が、上下方向に可動なように装着されている。人工肺脱着ガイド15は、付勢板部15a、ガイド凸部15b、及び操作軸15cからなる。付勢板部15aは、人工肺保持部材11の上部に配置されている。付勢板部15aを上下方向に可動とするために、付勢板部15aには固定ねじ14の外形よりも大きい径の貫通孔が設けられ、固定ねじ14はその貫通孔を通して人工肺保持部材11に螺合している。ガイド凸部15bは、付勢板部15aよりも小径な円柱形状を有し、付勢板部15aの下端から下方に伸びている。ガイド凸部15bは、人工肺保持部材11の内側の係合空間に位置して、ガイド凸部15bの外周面と人工肺保持部材11の内面との間には間隙が形成されている。
【0036】
この間隙は、円筒状に形成された人工肺ジョイント13を、ガイド凸部15bと人工肺保持部材11の間で位置決めして装着するために設けられる。すなわち、人工肺ジョイント13を係合空間に挿入したとき、人工肺ジョイント13は、ガイド凸部15bと人工肺保持部材11の間の間隙に入り込むように案内される。すなわち、人工肺ジョイント13の円筒内部にガイド凸部15bが嵌入して、人工肺ジョイント13の中心が適切に位置決めされ、人工肺保持部材11と人工肺ジョイント13の結合を容易に行うことが可能となる。
【0037】
このように、人工肺脱着ガイド15は、人工肺2を人工肺ホルダー1に取り付ける操作を、容易するために設けられている。人工肺2は、体外循環時に落差圧を保持するため、床面位置まで下げて設置されることが多い。そのため、人工肺保持部材11の内側の係合空間を目視して取り付け操作を行うことは、通常、困難である。これに対して、上述のような人工肺脱着ガイド15の作用により、挿入部を目視しなくても、感覚だけで適切な挿入を容易に行うことが可能となる。
【0038】
可動連結部材9の端板部9bには、中央に開口部が設けられている。人工肺脱着ガイド15の操作軸15cは、付勢板部15aの中央部上面から上方に伸びて、端板部9bの開口部を貫通して上方に突出している。操作軸15cの上端に、操作つまみ12が装着されている。
【0039】
端板部9bと付勢板部15aの上面部との間に亘って、軸状の摺動ガイド16が設けられている。摺動ガイド16の配置、及び機能を判り易くするために、人工肺ホルダー1の内部構造を破線で描いた斜視図を、図8に示す。但し、同図では、ホルダーリング8の図示が省略されている。摺動ガイド16は周方向における3箇所に設けられ、付勢板部15aの上下方向の移動を3点で案内する。摺動ガイド16の下端は付勢板部15aに固定され、上端部は、端板部9bに設けられた貫通孔内を摺動自在である。摺動ガイド16には付勢ばね17が装着されて、付勢板部15aを下方に向かって付勢するばね機構を構成している。
【0040】
摺動ガイド16と付勢ばね17の作用により、人工肺ジョイント13を人工肺保持部材11の係合空間に挿入するときの、人工肺2の姿勢を適切に維持することが可能となる。すなわち、人工肺ジョイント13を人工肺保持部材11の係合空間に挿入すると、人工肺ジョイント13の上端が人工肺脱着ガイド15に当接して上方に持ち上げる(実際には、後述するように、係合突起13aとロック部材18の当接による)。付勢ばね17による付勢力に抗して人工肺ジョイント13を挿入することにより、3個の付勢ばね17が、人工肺ジョイント13に対して均等な付勢力を与える。それにより、人工肺2の姿勢のバランスが維持され、係合突起13aを係合溝11aに係合させる操作を、容易に行うことができる。
【0041】
摺動ガイド16を3点とすることにより、付勢板部15aの姿勢を維持する作用が最適になる。すなわち、2点の摺動ガイド16では、片側に偏った力がかかった場合に摺動し難く、位置決めが困難であるが、3点であれば、最小の本数でスムースな摺動や安定した位置決めが可能である。それにより、人工肺ジョイント13を人工肺保持部材11の係合空間に挿入するときに、適切な案内作用が得られる。また、摺動ガイド16に付勢ばね17を装着して付勢作用を得ることにより、後述のように人工肺ジョイント13を挿入するだけで固定する操作が可能になる。
【0042】
図4に示すように、ホルダーリング8のホルダー支持部8aには、結合雌ねじ8bが設けられ、図2に示した懸架ロッド100の先端部が螺合して相互に結合される。また、図4〜図7に示すように、可動連結部材9の円筒部9aには、180度間隔で切欠きが設けられ、人工肺保持部材11に設けられたストッパー11bがその切欠きを通って外方に突出している。この構造の平面配置は、図7に示されている。ストッパー11bは、切欠きにおいて円筒部9aの下端に当接するので、固定ねじ14により人工肺保持部材11を可動連結部材9に固定するときに、端板部9bと人工肺保持部材11の間の間隔を保持するための位置決め部材として機能する。また、ストッパー11bは、可動連結部材9の鍔部9cとの間にホルダーリング8を挟みこみ、ホルダーリング8と可動連結部材9の嵌合を保持する機能も有する。
【0043】
人工肺ジョイント13の係合突起13aと係合溝11aの係合構造について、図9の概略図を参照してより詳細に説明する。図9は、係合溝11aに対する係合突起13aの係合が完了した状態を示す。この図に示すように、図5、図7に示したロック部材18は、縦溝11axの上部を塞ぐ状態に配置されている。ロック部材18は、付勢板部15aに固定されている。その結合により、ロック部材18の上下動に伴って人工肺脱着ガイド15が上下に移動する。従って、係合突起13aをロック部材18に当接させて持ち上げることにより、人工肺脱着ガイド15が上方に移動する。ロック部材18の付勢板部15aに対する固定構造は、図10に示される。図10は、図6における人工肺ホルダー1のA−A線に沿った断面図である。付勢板部15aの上面にロック部材18の上部が嵌合し、ねじ19により固定されている。
【0044】
係合溝11aに対して係合突起13aを係合させるには、先ず、人工肺保持部材11と人工肺ジョイント13とを、係合突起13aが縦溝11axに嵌まるように位置合わせする。そして、係合突起13aを、ロック部材18に当接させ持ち上げて、縦溝11axの上端に達するまで上方に移動させる。次に、人工肺保持部材11と人工肺ジョイント13を互いに回動させて、係合突起13を横溝11ayの奥へと送り込むことで、係合が完了する。その過程で、係合突起13aとロック部材18の当接が外れるので、人工肺脱着ガイド15は付勢ばね17の作用により下降し、図3に示した配置となる。
【0045】
この状態では、ロック部材18は図9の配置に戻るので、係合突起13aの横溝11ay内での右方への移動が阻止される。これにより、人工肺保持部材11と人工肺ジョイント13の係合がロックされる。このロック状態を解除するためには、操作つまみ12を把持して、人工肺脱着ガイド15を上方に移動させる。それにより、ロック部材18が上方に移動して縦溝11axから外れるので、係合突起13aの右方への移動が可能となる。
【0046】
なお、このように、人工肺ジョイント13を係合空間に挿入して人工肺保持部材11と結合させるジョイントとしては、他の周知の構造を採用することもできる。
【0047】
上述のとおり、係合溝11a及び係合突起13aによる係合箇所が、周方向の4箇所に配置され、その配置箇所に対して人工肺ジョイント13の挿入及び係合が可能である。そして、ロック部材18が、周方向の2箇所に配置されることにより、偏った取付けを防止することが可能である。これに対して、ロック部材18が1箇所であると、人工肺ジョイント13を挿入する際にバネ負荷がバランスよく作用せず挿入し難い。
【0048】
次に、ホルダーリング8に装着された係止ねじ10について、図10及び図11を参照して説明する。図11は、人工肺ホルダー1の図7のB−B線に沿った断面図である。
【0049】
係止ねじ10は、ホルダーリング8に設けられたねじ孔に螺合し、可動連結部材9の円筒部9aに向けてホルダーリング8を貫通している。係止ねじ10の先端と円筒部9aの間には緩衝部材20が配置されている。係止ねじ10と緩衝部材20により、可動連結部材9の回動を阻止し、または回動可能なように開放する調整を行うための回動調整部材が構成されている。すなわち、係止ねじ10を回動させて緩衝部材20を円筒部9aの外周面に当接させることにより、ホルダーリング8に対する可動連結部材9の回動を阻止することができる。
【0050】
このように、係止ねじ10による回動調整が、ホルダーリング8の横方向から、緩衝部材20を介して行われることにより、回動の固定を安定した状態で得ることができる。つまり、係止ねじ10で押圧することにより、ホルダーリング8と可動連結部材9の周面どうしが当接し、広い面積での摩擦力による係止作用が得られるので、回動の固定は安定している。これに対して、例えば、可動連結部材9の円筒部9aを端面から係止する構造の場合は、小面積で摩擦力を作用させることになるので、回動の固定は安定しない。また、一箇所の係止では負荷がかかり過ぎになるため、円筒部9aの円周上の対称位置に固定ネジの設置が必要である。さらに、緩衝部材20を介して係止ねじ10を作用させることにより、円筒部9aに直接係止ねじ10を当接させた場合に比べて、緩衝部材20の面積の大きさに応じて、円筒部9aの耐久性が向上する。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の人工肺ホルダーによれば、体外血液循環回路を作製する際の人工肺の向きの調整が容易であり、簡素な構成で安価に作製可能であるので、心臓外科手術等の体外血液循環に用いるための人工肺を保持する装置として有用である。
【符号の説明】
【0052】
1 人工肺ホルダー
2 人工肺
3 連結領域
4 ハウジング
5 血液導入ポート
6 冷温水導入ポート
7 冷温水排出ポート
8 ホルダーリング
8a ホルダー支持部
8b 結合雌ねじ
9 可動連結部材
9a 円筒部
9b 端板部
9c 鍔部
10 係止ねじ
11 人工肺保持部材
11a 係合溝
11b ストッパー
12 操作つまみ
13 人口肺ジョイント
13a 係合突起
14 固定ねじ
15 人工肺脱着ガイド
15a 付勢板部
15b ガイド凸部
15c 操作軸
16 摺動ガイド
17 付勢ばね
18 ロック部材
19 ねじ
20 緩衝部材
100 懸架ロッド
101 クランプ装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工肺の上部に設けられた人工肺ジョイントとの係合により前記人工肺に対して着脱自在であり、前記人工肺と結合した状態で外部装置により支持されることにより、前記人工肺を所望の姿勢で保持するように構成された人工肺ホルダーであって、
前記人工肺ジョイントを挿入可能な係合空間を形成し、前記係合空間に挿入された前記人工肺ジョイントと係合可能なように構成された人工肺保持部材と、
円筒部を有し、前記円筒部の内側空間の下部に前記人工肺保持部材が固定された可動連結部材と、
円環形状を有し、前記円環形状の内側に前記可動連結部材の前記円筒部が嵌合して、相互に回動可能なように前記可動連結部材と連結され、前記円環形状の外周部に設けられたホルダー支持部で外部装置により支持可能となっているホルダーリングと、
前記ホルダーリングに装着され、前記可動連結部材の回動を阻止し、または回動可能とする調整を行うための回動調整部材とを備えたことを特徴とする人工肺ホルダー。
【請求項2】
前記回動調整部材は、前記ホルダーリングに螺合し貫通している係止ねじと、前記係止ねじの先端と前記可動連結部材の前記円筒部の間に配置された緩衝部材とを備え、
前記係止ねじを回動させて前記緩衝部材を前記円筒部の外周面に当接させることにより、前記ホルダーリングに対する前記可動連結部材の回動を阻止するように構成された請求項1に記載の人工肺ホルダー。
【請求項3】
前記可動連結部材の前記円筒部の内側空間で上下方向に可動なように、前記人工肺保持部材の上部に配置された付勢板部を有する人工肺脱着ガイドと、
前記付勢板部の上下方向の移動を3点で案内するとともに、前記付勢板部を下方に向かって付勢するばね機構を有する摺動ガイドとを備え、
前記人工肺ジョイントを前記人工肺保持部材の係合空間に挿入したとき、前記人工肺ジョイントの上端が前記人工肺脱着ガイドに当接し、前記ばね機構による付勢力に抗して前記人工肺ジョイントを挿入することにより、前記人工肺ジョイントと前記人工肺保持部材の係合が可能となる請求項1または2に記載の人工肺ホルダー。
【請求項4】
前記可動連結部材には、前記円筒部の上端内側部分を覆って形成された端板部が設けられ、
前記摺動ガイドは、前記端板部と前記人工肺脱着ガイドとの間に装着されている請求項3に記載の人工肺ホルダー。
【請求項5】
前記可動連結部材の前記端板部は中央部に開口部を有し、
前記人工肺脱着ガイドは、前記付勢板部の中央部上面から上方に伸びて前記端板部の前記開口部を貫通して前記端板部の上方に突出する操作軸が設けられた請求項4に記載の人工肺ホルダー。
【請求項6】
前記人工肺脱着ガイドは、前記付勢板部よりも小径な円柱形状を有して前記付勢板部の下端から下方に伸びているガイド凸部を備え、
前記ガイド凸部は前記人工肺保持部材の前記係合空間に位置して、前記ガイド凸部の外周面と前記人工肺保持部材の内面との間には間隙が形成され、
円筒状に形成された前記人工肺ジョイントを前記係合空間に挿入したとき、前記人工肺ジョイントは前記ガイド凸部と前記人工肺保持部材の間の前記間隙に入り込み、前記人工肺ジョイントの円筒内部に前記ガイド凸部が嵌入して、前記人工肺ジョイントの装着が案内されるように構成された請求項3に記載の人工肺ホルダー。
【請求項7】
前記人工肺保持部材は、前記人工肺ジョイントと径方向に対向する2点で当接するように構成されている請求項1〜6のいずれか1項に記載の人工肺ホルダー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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