説明

人工酸素キャリア及びその使用

【課題】 本願発明の目的は、フッ素化、特に全フッ素置換炭化水素に基づく、特にパーフルオロカーボンに基づく人工酸素キャリアを提供することにある。特に、本願発明に係る人工酸素キャリアは、人体又は動物体による失血の間及び/若しくは失血後の状態(例えばそれに続く外科手術、事故、損傷等)のための「代替血液」又は「代用血液」として、又は、虚血性状態若しくは血流再開後の予防的な及び/若しくは治療療法(「止血帯」又は「血流再開」症候群)のために適切である。
【解決手段】 本願発明は、特に代用血液として、好ましくは輸血の目的のための人工酸素キャリアの分散において、該分散が、可逆的酸素貯蔵能力を有するカプセルを含むこと、該カプセルが、フッ素化、特に全フッ素置換炭化水素、好ましくはパーフルオロカーボンを含有する及び/若しくは囲む酸素透過性カプセル材料を具備することにある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、人体又は動物体のための代用血液として、人工酸素キャリアの分野に関する。特に、本願発明は、全フッ素置換炭化水素を含むカプセル、特にナノカプセルに基づく人工酸素キャリアに関する。
【0002】
特に輸血目的のために、人体又は動物体のための代用血液として最適である分散の形の人工酸素キャリアに関する。
【0003】
さらに、本願発明は、特に輸血目的のための、例えば失血の処理状態、虚血性状態及び再灌流後の状態のための、また別の目的のための、人体又は動物体のための代用血液としてのこれらの分散の使用に関する。
【0004】
さらにまた、本願発明は、人体又は動物体の処置のための人工酸素キャリアとして、特に代用血液として、輸血又は他の応用目的のために、フッ素化され、特に全フッ素置換炭化水素、好ましくはパーフルオロカーボンの使用に関する。
【0005】
また、本願発明は、人工酸素キャリアとして、特に代用血液としてだけではなく、他の応用にも、フッ素化、特に全フッ素置換炭化水素、好ましくはパーフルオロカーボンを含む及び/若しくは囲む酸素透過性カプセル材料を具備するカプセル、特にナノカプセルの使用に関する。
【背景技術】
【0006】
輸血に使用されるのに最適な血液は、欠乏した物品である。輸血は、外科処置の間、事故犠牲者のための救命処置及び慢性貧血の処置における救命処置である。保存血液の有効性は、感染リスク(例えば、HIV、プリオン、A型、B型又はC型肝炎等による)を含む多くの理由によってますます制限され、献血する意思を持つ人の数が減少する(例えば、Habler, O., Pape, A., Meier, J., 及びZwissler, B. (2005)「輸血の代替えとしての人工酸素キャリア」、Anaesthesist 54, 741 - 754. 及び、Lowe, K. C. (2006)、代用血液:化学からクリニックへ、J Mat Chem 16, 4189 - 4196参照)。
【0007】
さらに、保存血の機能が顕著に悪化することを示し、数日後のそれを実証できる証拠が増えている(例えば、Riess, J. G. (2001) 酸素キャリア(「代用血液」)−レーゾンデートル、化学、及び物理学、Chem Rev 101、2797 - 2920;Bennett-Guerrero, E., Veldman, T. H., Doctor, A., Telen, M. J., Ortel, T. L., Reid, T. S., Mulherin, M. A., Zhu, H., Buck, R. D., Califf, R. M., 及びMcMahon, T. J. (2007) 貯蔵された赤血球における逆転の進化、ProcNatl Acad Sci USA 104, 17063 - 17068; またReynolds, J. D., Ahearn. G. S., Angelo, M., Zhang, J., Cobb, F., 及びStamler, J. S. (2007) S- ニトロ基ヘモグロビン欠乏症:保存血における生理学的活性の損失に関するメカニズム。Proc Natl Acad Sci USA 104, 17058 - 17062参照)。
【0008】
輸血は、頻繁に実行される医療行為である。臓器への酸素の供給は、血液が実行する最も重要で唯一の機能である。もしこの供給が失敗するならば、被害者はすぐに死んでしまう。そのため、著しい失血が生じた時の最初の仕事は、酸素の移送を確実に行うことである。これは、献血からの赤血球を使用することによって常に達成される。これらの細胞は、プロテインヘモグロビンを含み、それは、大変効果的に酸素と結合し、それを組織に放出する。しかしながら、献血は、いくつかの重要な不利益点と関連する。十分なドナーがいないこと、ほとんどの移植患者が献血を受けることができない(不適合)。血液は、未知の感染性物質を含んでいる可能性がある(例えば、数ある中でもウィルス)。危険な病原体のスクリーニングは、複雑であり、且つ高価である。また、献血は、貯蔵する期間が制限されている。
【0009】
この問題への効果的な解決は、保存血液の使用を不必要にするか、実質的に輸血の回数を減少させる人工酸素キャリアを発展させることである。
【0010】
したがって、調査は、酸素について良好な結合及び放出特徴を有する改良されたヘモグロビンの使用及び全フッ素置換炭化水素(パーフルオロカーボン)の使用について数十年の間実行された。
【0011】
ヘモグロビン誘導体に基づく酸素キャリアに加えて、−その発達は、それ自体多くの課題(例えば、資源の欠乏、病原体による汚染、免疫反応、循環障害、毒性等)に直面した−開発事業が実行され、パーフルオロカーボンとして知られる全フッ素置換炭化水素に基づくそれらを含む他の酸素キャリアで継続されている(例えば、前に引用された引例、Dinkelmann, S., 及びNorthoff, H. (2003) 人工酸素キャリア−現在の発展の批判的な見方−Anasthesiogie Intensivmed Notfallmed Schmerzther 38, 47 - 54 及びSpahn, D. R., 及びKocian, R. (2005) 人工酸素キャリア:Status in 2005. Curr Pharm Des 11, 4099 - 4114参照)。
【0012】
パーフルオロカーボンは、酸素及び二酸化炭素のような呼吸ガスを溶解し、空洞、いわゆる小さな中空領域に放出する。それらは、化学的に不活性であり、無職及び無臭であり、完全に非腐食性である。融点及び沸点のようなそれらの物理的特性は、アルカンのように、それらの炭素骨格の鎖長又は大きさによって変化する。それらの高い不活性性質及び関連した代謝不能性が、パーフルオロカーボンが完全に無害である理由である。パーフルオロカーボンは、実質的に、極端に疎水性であり、且つ疎油性である。したがって、それらは、乳化剤と共に、人工酸素キャリアとして、関連技術に使用され、且つ、乳化剤の機能は、例えば合成ポリマー、又は最近では、リン脂質(例えば、レシチン、場合によってはコレステロールと共に)によって実現される。
【0013】
人工酸素キャリアとしてのパーフルオロカーボンの最初の実験は、1960年代に実施された(Clark, L. C Jr., 及びGollan, F. (1966) 大気圧での酸素と平衡される哺乳類呼吸臓器液体の生存、Science 152, 1755 - 1756)。酸素キャリアとして使用されるこれら化合物の基本的可能性は、いろいろな実験において実証され、そのいくつかは、パーフルオロカーボン溶液に浸漬されたネズミが生きていた等−大変壮観である。パーフルオロカーボン酸素キャリアの第1世代で生じる主な課題は、パーフルオロカーボンエマルジョンの低い安定性であり、且つ、使用される乳化剤で生じる副作用である。
【0014】
その課題は、1−ブロモパーフルオロオクタン(=パーフルオリオクチルブロマイド)、のような異なるパーフルオロカーボン及び乳化剤としてレシチンを使用することによって解決された。製剤Oxygent(登録商標)のような次世代のパーフルオロカーボン薬剤は、動物実験や臨床研究において成功裏に使用された(例えば、Spahn, D. R. (1999) 代用血液。人工酸素キャリア:パーフルオロカーボンエマルジョン。Crit Care, R93-97)。
【0015】
しかしながら、人工酸素キャリアとしてのパーフルオロカーボンの継続した臨床使用は、実質的にそれらの原因が関連した2つの課題によって制限される。第1の課題は、合計に三時間となる血管系においてパーフルオロカーボンの相対的に短い滞留時間であり、いままで、これが、経過措置として、パーフルオロカーボンを短時間の間使用可能となったが、輸血の代わりとしてそれを使用することはできなかったことである。第2の課題は、それが免疫システムにおいて生じる外乱であり、それに関連したインフルエンザのような症状であると共に、感染症に対する増大した脆弱性のリスクである。
【0016】
血管系における短い滞留時間と免疫システムへの外乱は、いずれも、パーフルオロカーボンのエマルジョン滴が細網内皮系の細胞によって吸着されるという事実に由来する。この吸着は、その系が、極端に広範囲に及ぶため、非常に瞬時に実行されると同時に、炎症のメディエーターを生じるような前記細網内皮系の細胞のいくつかの機能が、パーフルオロカーボンを吸着することによって活性化され、他方で、病原体を駆逐するような機能が阻害される。
【0017】
特に輸血に代わるものとして、人工酸素キャリアに関するより包括的な詳細、及びそれと関連した欠点及びリスクに関して、Habler, O., Pape, A., Meier. J., 及びZwissler, B. (2005) 「輸血の代替えとしての人工酸素キャリア」 Anaesthesist 54, 740 - 754 及び Riess, J. G. (2001) 酸素キャリア(「代用血液」)- raison d'etre, chemistry, and some physiology. Chem Rev 101, 2797-2920を参照することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】Riess, J. G. (2001) 酸素キャリア(「代用血液」)−レーゾンデートル、化学、及び物理学、Chem Rev 101、2797 - 2920
【非特許文献2】Bennett-Guerrero, E., Veldman, T. H., Doctor, A., Telen, M. J., Ortel, T. L., Reid, T. S., Mulherin, M. A., Zhu, H., Buck, R. D., Califf, R. M., 及びMcMahon, T. J. (2007) 貯蔵された赤血球における逆転の進化、ProcNatl Acad Sci USA 104, 17063 - 17068
【非特許文献3】Reynolds, J. D., Ahearn. G. S., Angelo, M., Zhang, J., Cobb, F., 及びStamler, J. S. (2007) S- ニトロ基ヘモグロビン欠乏症:保存血における生理学的活性の損失に関するメカニズム。Proc Natl Acad Sci USA 104, 17058 - 17062
【非特許文献4】Dinkelmann, S., 及びNorthoff, H. (2003) 人工酸素キャリア−現在の発展の批判的な見方−Anasthesiogie Intensivmed Notfallmed Schmerzther 38, 47 - 54
【非特許文献5】Spahn, D. R., 及びKocian, R. (2005) 人工酸素キャリア:Status in 2005. Curr Pharm Des 11, 4099 - 4114
【非特許文献6】Spahn, D. R. (1999) 代用血液。人工酸素キャリア:パーフルオロカーボンエマルジョン。Crit Care, R93-97
【非特許文献7】Habler, O., Pape, A., Meier. J., 及びZwissler, B. (2005) 「輸血の代替えとしての人工酸素キャリア」 Anaesthesist 54, 740 - 754
【非特許文献8】Riess, J. G. (2001) 酸素キャリア(「代用血液」)- raison d'etre, chemistry, and some physiology. Chem Rev 101, 2797-2920
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
そのため、本願発明の目的は、従来技術の上述された欠点を少なくともある程度減少させるか、少なくとも最小限にするフッ素化、特に全フッ素置換炭化水素に基づく、特にパーフルオロカーボンに基づく人工酸素キャリアを提供することにある。特に、そのような人工酸素キャリアは、人体又は動物体による失血の間及び/若しくは失血後の状態(例えばそれに続く外科手術、事故、損傷等)のための「代替血液」又は「代用血液」として、又は、虚血性状態若しくは血流再開後の予防的な及び/若しくは治療療法(「止血帯」又は「血流再開」症候群)のために適切であり若しくは使用可能であることが望ましい。
【0020】
出願人は、驚くべきことに、上述された目的が、フッ素化、特に全フッ素置換炭化水素、若しくはパーフルオロカーボンに基づく人工酸素キャリアにおいて、フッ素化炭化水素が、酸素透過カプセル材料によって囲まれ、特に沈着され、又はそれによって囲まれている人工酸素キャリアの使用によって解決されることを発見した。
【課題を解決するための手段】
【0021】
そのため、本願発明の第1の様相によれば、本願発明の目的は、請求項1記載の人工酸素キャリアの分散であり、本願発明のこの様相の他の利益的な改良が、関連した従属請求項の目的である。
【0022】
本願発明の第2の様相によれば、本願発明の別の目的は、請求項25〜31に記載された発明による分散の使用であり、本願発明のこの様相の他の利益的な改良が、関連した従属請求項の目的である。
【0023】
本願発明の第3の様相によれば、本願発明のさらなる目的は、請求項33に記載された人工酸素キャリアと同じに、フッ素化、特に全フッ素置換炭化水素、好ましくはパーフルオロカーボンの使用であり、本願発明のこの様相の他の利益的改良が、関連した従属請求項の目的である。
【0024】
最後に本願発明の第4の様相によれば、本願発明のさらなる目的は、請求項41に記載された人工酸素キャリアと同じに、酸素透過カプセル材料と、そこに含まれる及び/若しくはそれによって囲まれているフッ素化、全フッ素置換炭化水素、好ましくはパーフルオロカーボンとを具備するカプセル、特にナノカプセルの使用であり、本願発明のこの様相の他の利益的改良が、関連した従属請求項の目的である。
【0025】
当然、本願発明の様相の1つに関して下記される陳述は、例えばその効果に対するコメント又は引用がなされていなくても、本願発明の他の様相にも適用されるものである。
【0026】
本願発明の第1の様相によれば、本願発明の目的は、代用血液として、特に輸血のための代用血液として適切である人工酸素キャリアの分散であり、この分散が、可逆性酸素貯蔵能力を有するカプセルを有すること、該カプセルが、フッ素化、特に全フッ素置換炭化水素、好ましくはパーフルオロカーボンを有する及び/若しくは囲む酸素透過性カプセル材料を具備することである。
【0027】
このように、本願発明の特別な特徴は、可逆方法において酸素を貯蔵することのできるフッ素化炭化水素が、カプセル形状、特に「ナノカプセル」の形で利用可能であることからなる。下記に説明されるように、それに続いて記載される本願発明の利点は、これを起源とするものである。本願発明に欠かせない1つの概念は、人工酸素キャリアとして、パーフルオロカーボンを含むカプセル、特にナノカプセルの使用である。
【0028】
本願発明の係るカプセル、特にナノカプセルのために、可逆性酸素貯蔵能力という言葉は、特に、これらのカプセルが、放出されるまで酸素を貯蔵し、生理学的状態下で必要によって、特に人体又は動物体において、特に酸素が不足している標的細胞若しくは虚血性状態が存在する標的細胞に酸素を放出することができることを示すものである。
【0029】
この可逆性酸素貯蔵能力という言葉は、例えば、物理学的及び/若しくは化学的結合、吸着、封入、吸着、溶解等によるある種の貯蔵を示すものである。
【0030】
本願発明に係る好ましい方法において、前記カプセル、特にナノカプセルは、「コア及びシェルカプセル」の形を有するものである。これに関して、酸素透過性カプセル材料は、カプセルシェルを形成し、フッ素化炭化水素が、酸素透過性カプセル材料によって封入される及び/若しくは囲まれ、言い換えると、フッ素化炭化水素は、コア/シェルカプセルの内側、若しくはカプセルコアを形成する。
【0031】
また、これは本願発明では特に好ましいモノではないが、カプセル、特にナノカプセルは、マトリクスカプセルの形を有することもできるものである。この場合、酸素透過性カプセル材料は、マトリクスを形成し、フッ素化炭化水素は、酸素透過性カプセル材料に基づくマトリクス内に、好ましくは均質及び/若しくは均等に分布されるように沈着及び/若しくは封入される。
【0032】
マトリクスカプセルの場合の酸素透過性カプセル材料、特にコア/シェルカプセルのカプセルシェル若しくはマトリクス材料に関して、それは、一般的に酸素透過性有機ポリマーを含む若しくはそれからなるものである。本願発明のために適当である酸素透過性有機ポリマーの例は、特に、全フッ素置換化合物及び/若しくはポリアルキレングリコール(特にポリエチレングリコール)によって誘導体化されることが望ましいポリ(ラクチド−コ−グリコリド)であり、又はフッ素化されたもの若しくはフッ素化されていないポリアルキルシアノアクリレートであり、且つこれらポリマーの混合物であることが望ましい。特に、上述されたポリマーの誘導体化は、凝集する傾向を減少させ、適用の間をそれらの食細胞機能を改善することができるものである。
【0033】
特別な例によれば、マトリクスカプセルの場合、酸素透過性カプセル材料、特にコア/シェルカプセルのカプセルシェル又はマトリクス材料は、酸素透過性有機ポリマーを含む若しくはそれからなるものである。特に、前記有機ポリマーは、適当な重合方法、特にエマルジョン重合、界面重合又は界面析出によって、好ましくは界面重合又は界面析出(例えば、上述したポリ(ラクチド−コ−グリコリド)の製造のような適当なポリマーの界面析出による製造)によって、又は、例えば、上述したポリアルキルシアノアクリレートを製造するために使用されるような界面重合による製造によって、取得若しくは製造されることが望ましい。前記有機ポリマー及びカプセルシェル若しくはそれから製造されたカプセルマトリクスは、これらが酸素の吸収及び酸素の移送を示すことから、硫酸原子を含まないこと、好ましくは硫化物架橋を含まないことが望ましく、特に二流化物架橋又は多硫化物架橋を含まないことが望ましい。もし、マトリクスカプセルの場合、有機ポリマー、特にコア/シェルカプセルのカプセルシェル若しくはマトリクス材料が、コヒーレント構造を有するならば(カプセルシェルが純粋付加化合物から形成されるカプセルの場合と比較して)、酸素貯蔵及び酸素移送能力が信頼できることを確実にするものである。
【0034】
特別な例によれば、酸素透過性カプセル、特にコア/シェルカプセルのカプセルシェル若しくはマトリクスカプセルのマトリクス材料、好ましくはカプセルシェル若しくはマトリクスの酸素透過性有機ポリマーが、改質、特に表面改質及び/若しくは官能基を有することが望ましい。前記改質、特に表面改質及び/若しくは官能基は、(i)官能基を示す集合体、(ii)生体分子との反応を制御する官能基、(iii)酸官能基、(iv)ヒドロキシル基、(v)生理的pHより小さい陰性基、特にカルボン酸、硫酸液、スルホン酸塩、リン酸塩及びホスホン酸基、(vi)ポリアルキレンポリオール基、特にポリエチレングリコール基、(vii)乳化剤、(viii)分散剤及びそれらの化合物及び/若しくは混合物からなる群から選択されることが望ましい。この方法において、カプセルの凝集特性が制御され、改善された分散性が達成される。また、改善された食菌作用及びより良い酸素結合及び酸素搬送特性が達成される。
【0035】
本願発明のために、酸素透過性カプセル材料、特にコア/シェルカプセルのカプセルシェル若しくはマトリクス材料が、二酸化炭素透過性であることが望ましい。
【0036】
カプセルの大きさに関して、それらは、7000nm以下の直径、特に6500nm以下の直径、好ましくは6000nm以下の直径を有することが好ましく、これによって、カプセルは、困難無しに、血管、細胞、臓器等を通過することができるものである。一方、前記カプセルは、5nm以上の最小径、特に10nm以上の最小径、好ましくは20nm以上の最小径、特別には25nm以上の最小径、特に好ましくは40nm以上の最小径、最も好ましくは50nm以上の最小径を有することが好ましく、これによって、十分な量の酸素を貯蔵する能力が、確実に得られるものである。
【0037】
これによって、前記カプセルは、5〜7000nmの範囲内、特に10〜6500nmの範囲内、好ましくは20〜6000nmの範囲内、より好ましくは25〜5000nmの範囲内、特に好ましくは40〜2500nmの範囲内、最も好ましくは50〜1000nmの範囲内、さらには50〜975nmの範囲内の直径を有することが望ましい。
【0038】
本願発明のために、前記カプセルは、ナノカプセル、好ましくはコア/シェル構造を有するナノカプセルの形で提供されることが好ましいものである。コア/シェル構造を有する好ましいナノカプセルは、5〜7000nmの範囲内、特に10〜6500nmの範囲内、好ましくは20〜6000nmの範囲内、特別には25〜5000nmの範囲内、特に好ましくは40〜2500nmの範囲内、より好ましくは50〜1000nmの範囲内、最も好ましくは50〜975nmの範囲内の直径を有することが望ましい。
【0039】
本願発明によって使用されるカプセルは、多様な粒子サイズ分布を示している。特にこれについて、25〜3000nmの範囲内、特に50〜1000nmの範囲内、好ましくは50〜950nmの範囲内のカプセルの平均直径D50が、考えられる。
【0040】
当業者が、この明細書の前半及び後半に引用された値及び範囲のすべてから、本願発明の範囲を超えること無しに、異なる値及び範囲を使用することができることはもちろん明白である。
【0041】
カプセルにおいてフッ素化炭化水素に対する酸素透過性カプセルの重量比は、90:10以下であり、特に75:10以下であり、好ましくは50:50以下であることが望ましい。カプセルにおいてフッ素化炭化水素に対する酸素統制カプセルの重量比は、90:10〜1:99の範囲内で、特に80:20〜5:95の範囲内で、好ましくは75:25〜10:90の範囲内で、特に好ましくは70:30〜15:85の範囲内で変化することが望ましい。フッ素化炭化水素の成分が大きくなると、酸素貯蔵能力が大きくなり、例えばカプセル材料成分が低くなると、本願発明に使用されるカプセルの安定性は決して保証されず、それは前に限定した値の範囲を説明する。
【0042】
本願発明によって使用されるカプセルは、1.5〜2.5g/ml、特に1.8〜2g/ml、好ましくは1.85〜1.9g/mlの範囲内の密度を有する。
【0043】
医学的用途のためにナノカプセルを発展させる取り組みが、かなり長期間、集中的に実行され、ナノカプセルが、治療及び診断的適用の療法において種々の薬剤のための媒体としてすでに使用され若しくは提案されているが、ナノカプセルが、パーフルオロカーボンのようなフッ素化炭化水素のための媒体として、人工酸素キャリアとしての使用について、特に代替血液又は代用血液としての使用について、まだ考慮されていなかった。
【0044】
事実、フッ素化炭化水素、特にパーフルオロカーボンで、人工酸素キャリアとして使用することができるカプセル、特にナノカプセルを発展させることができるという驚くべき発見は、本願発明に関してのみなされたものである。そのような取り組みは、カプセルシェルがこれらの物質の酸素移送特性に負の影響を与え、その結果として不適切な酸素貯蔵、移送及び放出能力を生じるので、以前には考えられなかった。いままで、エマルジョンとは対照的に、粒子系(言い換えるとカプセル)の使用は、そのような手法、特に必要な生物学的及び生理学的互換性について不利に働いた。
【0045】
しかしながら、本願発明に取り組んでいる間、使用されたパーフルオロカーボンナノカプセルが、純パーフルオロカーボンエマルジョンと同様の酸素移送特性を有するが、カプセル材料が対応して選択される場合、細網内皮系の細胞によってかなりゆっくりと吸収されることが見出された。この結果として、従来技術によるパーフルオロカーボンの臨床用途を制限した課題、特に血管系における短い滞留時間及び免疫システムへの混乱を回避するか劇的に減少させることが可能になった。
【0046】
使用されるフッ素化、特に全フッ素置換炭化水素、好ましくはパーフルオロカーボンに関して、それらは、生理学的条件下で、可逆的に酸素を貯蔵及び/若しくは吸着することが可能であり、且つ/又は、特に生理学的条件下で、可逆的に酸素を貯蔵することができる特性を有する。酸素を貯蔵するそれらの能力の可逆的な性質によって、フッ素化炭化水素は、特に生理学的条件下で、必要に応じて、それが必要とされている場所に、例えば虚血組織及び/若しくは臓器に、直接再び酸素を排出又は放出することができる。
【0047】
フッ素化、特に全フッ素置換炭化水素、好ましくはパーフルオロカーボンが、特に生理学的条件下において、液体形状であることが好ましい。
【0048】
本願発明によって使用されるフッ素化、特に全フッ素置換炭化水素、好ましくはパーフルオロカーボンが、250〜2000g/molの範囲内、特に300〜1000g/molの範囲内、好ましくは400〜600g/molの範囲内の分子量を有することが好ましい。これに関して、フッ素化炭化水素は、通常条件下、特に外気温度(例えば、20℃)及び大気圧下で、液体形状をしていることが好ましい。
【0049】
全フッ素置換炭化水素、特にパーフルオロカーボンは、フッ素化炭化水素として使用される。この場合、これらは、フッ素原子で完全に置換された炭素化合物である。しかしながら、本願発明によれば、少なくとも1つのフッ素以外のハロゲン、例えばパーフルオロオクチルブロミドのような臭素を含むフッ素化炭化水素を使用することも可能である。
【0050】
本願発明によって使用される前記フッ素化炭化水素は、パーフルオロオクタン、パーフルオロデカン、パーフルオロデカリン及びブロモパーフルオロオクタン及びそれらの混合物から選択されることが望ましく、特にパーフルオロオクタン及び/若しくはパーフルオロデカンから選択されることが望ましい。
【0051】
本願発明による分散におけるカプセルの容積に関する量は、広い範囲で変化可能である。本願発明による分散は、分散に対して、1〜70容量%、特に5〜65容量%、好ましくは10〜60容量%、より好ましくは20〜50容量%の容量に関連した量でカプセルを含むことが望ましい。
【0052】
本願発明による分散におけるカプセルの質量に関する量は、広い範囲で変化可能である。本願発明による分散は、分散に対して、5〜80重量%、特に10〜75重量%、好ましくは15〜65重量%の質量に関連した量でカプセルを含むことが望ましい。
【0053】
単純な適用を人体若しくは動物体の処置に可能にするために、本願発明による分散は、生理学的pH値及び/若しくは生理学的イオン強度及び/若しくは生理学的モル浸透圧濃度及び/若しくは生理学的イオン構成に調整される。
【0054】
また、本願発明による分散のpH値は、6.5〜7.9の範囲内、特に7〜7.5の範囲内、好ましくは7〜7.45の範囲内、特に好ましくは7.37〜7.45の範囲内に調整されることが望ましく、これによって天然血及び血漿のpH値と実質的に対応するものである。
【0055】
pH値を調整し及び/若しくは維持するために、本願発明に係る分散が、バッファ若しくバッファ系、特に生理学的バッファ若しくは生理学的バッファ系、好ましくはリン酸塩ベースのバッファ若しくはバッファ系を含むことが望ましい。
【0056】
単純な適用を確保するために、本願発明の分散は、天然血若しくは血清に匹敵する整合性及び粘度を有することが望ましい。通常、本願発明の分散は、0.1〜1.8sの範囲内、特に0.2〜1.5sの範囲内、好ましくは0.25〜1.25sの範囲内の特別な粘度ηを有することが望ましい。尚、粘度の値は、特に10℃〜40℃の範囲内の温度の時のものである。
【0057】
本願発明による分散は、水性ベースの分散の形であること、言い換えると本願発明に係る分散は、連続相(分散薬剤又は分散剤である)として水を含むものであり、特に生理学的及び/若しくは生理食塩水の形であり、好ましくは連続層に対して0.9重量%の塩化ナトリウム濃度を有するものであることが望ましい。
【0058】
本願発明による分散のモル浸透濃度に関して、これも広い範囲で変化可能である。通常、本願発明の分散は、250〜350mOsmol/l(ミリオスモル/リットル)の範囲内、特に280〜310mOsmol/lの範囲内のモル浸透濃度を有することが望ましい。
【0059】
さらに、本願発明による分散は、通常の補助材料及び/若しくは付加剤、特に分散補助剤、乳化剤、エキステンダー、バインダー、架橋剤、安定剤及びそれらの混合物からなる群から選択される補助材料及び/若しくは付加剤を含むことが望ましい。乳化剤として使用される物質の例としては、レシチン及び/若しくはコレステロール及び/若しくは胆汁酸の誘導体及び/若しくはこれら化合物の塩(例えば、アルカリコール酸化合物のようなコール酸化合物、好ましくはコール酸ナトリウム)を含むことが望ましい。しかしながら、本願発明の分散に対する補助材料及び/若しくは付加剤の量、特に分散補助剤及び/若しくは乳化剤(例えばコール酸ナトリウム)の量は、50μmol/l、特に40μmol/l、好ましくは35μmol/lの濃度を超えないことが望ましい。より高い濃度(乳化剤のより高い濃度のような)は、細胞障害性効果を有するので、避けるべきである。
【0060】
このように、本願発明は、先に定義された酸素透過性カプセル材料のから形成されたカプセルの分散の形で、フッ素化炭化水素に基づいた、特にパーフルオロカーボンに基づいた人工酸素キャリアと、活性酸素キャリア(言い換えると、生理学的状態下で可逆的に酸素を貯蔵する媒体)としてそこに含まれ、それによって囲まれるフッ素化炭化水素とを提供し、それが少なくとも部分的に上述された従来技術の不利益点を回避するか若しくは減少させるものである。
【0061】
特に、それらを含む人工酸素キャリア及び分散が、例えば代替血液又は代用血液として、人体又は動物体の失血中又は失血後(例えば外科処置、事故、負傷等の後)に使用されるのに適当であり且つ使用することができ、虚血性状態の予防的治療及び/若しくは治療療法又は再灌流後(「止血帯」若しくは「再灌流」症候群)に使用することができるものである。
【0062】
本願発明の範囲内において、パーフルオロカーボン(ナノ)カプセルは、いろいろなカプセル材料及び表面特性で、且ついろいろなパーフルオロカーボンで製造することが好ましい。
【0063】
本願発明によって使用されるカプセル、特にパーフルオロカーボン(ナノ)カプセルは、当業者に公知の方法において製造することが可能である。これは、カプセルで包まれたパーフルオロカーボンの存在においてカプセル材料又はカプセル壁を形成する、例えば適当な開始モノマーのその場重合によって実施されることが好ましい(例えば、適当な重合化工程において、特にエマルジョン重合、界面重合など)。
【0064】
それらを含むパーフルオロカーボン(ナノ)カプセル及び分散若しくは調合薬は、微視的方法及び分光法によって特徴づけられ、それらの生物学的適合性、細胞への吸収、及び酸素の移送及び搬送能力は、単純な生物学的システムにおいてレーザ走査顕微鏡法及び生体顕微鏡検査を使用して検証され、さらに動物実験までより複雑なシステムにおいて検証される。
【0065】
本願発明について、カプセル材料、特にシェルとして、全フッ素置換化合物及び/若しくはポリエチレングリコール若しくはフッ素化、特に全フッ素置換ポリアルキルシアノアクリレートで改質可能なポリ(ラクチド−コ−グリコリド)を有し、カプセル内部又はコアとしてパーフルオロオクタン、パーフルオロデカリン若しくはパーフルオロデカンを有する人工酸素キャリアとして人体又は動物体に使用されることが好ましいカプセル、特にナノカプセルを使用することが可能である。この方法において、代用血液の代替物として提供されることが重要である。
【0066】
例えば全フッ素置換化合物によって改質可能なポリ(ラクチド−コ−グリコリド)に基づいて、特にフッ素化ポリアルキルシアノアクリレート等に基づいた本願発明によって使用されるパーフルオロカーボン(ナノ)カプセルのカプセルシェルが、生理学的特性を決定づけ、それによってパーフルオロデカン、パーフルオロデカリン、パーフルオロオクタン等を具備するかそれらからなるカプセルコアが、実際の酸素キャリアである。
【0067】
本願発明によって提供されるパーフルオロカーボン(ナノ)カプセル及びその分散又はそれらを含む薬剤(調合薬)は、極端に広い範囲の応用選択を可能にする。例えば、それらは、人間及び動物臓器における酸素欠乏のすべての状態において使用することが可能である。そのような例として、虚血及び再灌流を原因とする細胞、組織及び臓器への損傷であり、虚血及び再灌流によって生じる典型的な損傷は、心筋梗塞、発作、深刻な血液損失に続くショック状態、及び移植時のドナー臓器への損傷である。これに関して調査されたメカニズムは、虚血性の相(いわゆる血液循環が遮断された時に生じる酸素不足の相)において細胞イオン恒常性への分裂であり、再灌流(いわゆる血液循環が再開した時に、酸素の供給を元の状態に戻し、それ自身の破損した部位と結合される過程)の間、損傷における反応性酸素及び窒素種の関与である。本願発明によって提供されたパーフルオロカーボン(ナノ)カプセル及び分散又はそれらを含む調合薬は、(心臓、肝臓、腎臓、肺、膵臓、腸等の)移植手術の間、臓器を防護するための保護液又は保護分散としてそれらを使用することを可能にするものである。
【0068】
特に、パーフルオロカーボン(ナノ)カプセルの均一な貯蔵安定性カプセル分散が、本願発明の範囲内において使用される。本願発明によって使用されるカプセルは、公知の方法、例えば一時的にミニエマルジョンを生じさせることによって製造され、その結果として、狭い大きさ分布を有する安定した分散を生じる。調製パラメータとカプセル分散の最も重要な特性との間の依存関係は、統計的実験計画を使用する一連の体系的実験において実証された。さらに、核磁気共鳴分光学の使用に基づく新しいキャラクタリゼーション法は、準備プロセスの発展と連結して発明された。
【0069】
カプセル材料の選択は、特に次の基準、特に大量生産に関する製造の実現可能性及び簡易性、長期保管の間の安定性、酸素及び/若しくは二酸化炭素の透過性、有毒物の非存在性、生分解性、血管系の半減期、その後の表面改質の可能性等に基づいて行われる。
【0070】
本願発明のための好ましい例によれば、パーフルオロカーボンナノカプセルは、全フッ素置換化合物で改質可能なポリ(ラクチド−コ−グリコリド)から、又は場合によりフッ素化されたポリアルキルシアノアクリレートから作られることが望ましい。もし全フッ素置換化合物で改質可能なポリ(ラクチド−コ−グリコリド)が使用されるならば、ラクチド/グリコリド比は、変化することが望ましい(例えば、25:75〜75:25の範囲内)。
【0071】
本願発明によって使用されるポリ(ラクチド−コ−グリコリド)パーフルオロカーボン(ナノ)カプセルは、例えば下記するように製造させることが望ましい。前記ポリ(ラクチド−コ−グリコリド)は、ラクチル単位(−CH(CH)−CO−O−)及びグリコリル単位(−CH−CO−O−)から連続してランダムに選択した方法において構成されるポリマーを示す(例えば、Wang, L., Venkatraman, S., Gan, L. H. 及びKleiner, L. (2005), 注射可能なポリ(ラクチド−コ−グリコリド)の貯蔵。II. Nature of the gel. J Biomed Mater Res B Appl Biomater 72, 215-222参照)。いろいろなポリ(ラクチド−コ−グリコリド)ポリマーは、それらのラクチル単位の含有量(例えば、50%〜85%)に関して、且つ、与えられたラクチル含有量による可変粘性に関して異なっている。すべてのポリ(ラクチド−コ−グリコリド)ポリマーは、哺乳類において最終的に水と二酸化炭素に分解される。これにより、それらは、生理学的期間において健康リスクを示すことがなく、ほとんど40年間薬理学において使用されていた。これらのカプセルの壁部は、高い多孔質であり、酸素及び二酸化炭素を容易に透過させる。カプセル化は、機能性を全く損なうことがないという結果を生じる。前記カプセルは、例えばPisani, E., Tsapis, N., Paris, J., Nocolas, V., Cattel, L., 及びFattal, E., (2006) 超音波イメージングのための液体パーフルオロカーボンのポリマーナノ/マイクロカプセル:物理学的特性評価. Langmuir 22,4397 - 4402に記載された製造方法と同様の方法において製造される。そこに記載された方法は、例えばパーフルオロオクタン、パーフルオロデカリン若しくはパーフルオロデカンのコアを有する酸素キャリアとしてナノカプセルを製造するために、本願発明によるパーフルオロカーボンのカプセル化に対応して使用されることができるものである。このポリ(ラクチド−コ−グリコリド)は、フッ素化化合物で改質又は誘導体化されても良いし、またされなくても良い。
【0072】
本願発明について、場合により、フッ素化されたポリアルキルシアノアクリレート−パーフルオロカーボン(ナノ)カプセルであることが望ましい。反応性モノマーとして、アルキルシアノアクリレートは、水中油型エマルジョンの接触面で極端に優しい条件下でカプセルを形成するためにポリマー化されるという利点を示す(例えばCouvreur, P., Kante, B., Roland, M., Guiot, P., Bauduin, P., 及びSpeiser, P. (1979) 潜在リソソームキャリアとしてのポリシアノアクリレートナノカプセル:調合、形態学的且つ吸着特性. J pharm Pharmacol 31, 331- 332 且つ、Florence, A. T., Whateley, T. L., 及びWood, D. A. (1979) ポリ(アルキル 2−シアノアクリレート)薄膜を有する潜在的生分解性マイクロカプセル. J Pharm Pharmacol 31, 422 - 42 参照)。これに関して、アニオン重合は、水相のpH値を制御変化させることによって開始し、これによって物理的に架橋が生じるが、相対的に多孔質であり、ガス透過性ポリマーシェルが生じる。ポリアルキルシアノアクリレートの調合上の多くの変異体が記載されており、その加工方法は、大量生産をすることが可能である(例えば、Wohlgemuth, M., Machtle, W., 及びMayer, C. (2000) ポリブチルシアノアクリレートナノカプセルの改善された調合及び物理的研究。J Microencapsul 17, 437 - 448;Mayer, C. (2005) 薬物送達システムとしてのナノカプセル。Int J Artif Organs 28, 1163 - 1171;Altinbas, N., Fehmer, C., Terheiden, A., Shukla, A., Rehage, H., 及び Mayer, C. (2006) ミニエマルジョンから調合されたアルキルシアノアクリレートナノカプセル:従来アプローチとの比較。J Microencapsul 23, 567 - 581;Al Khouri Fallouh, N., Roblet-Treupel, L., Fessi, H., Devissaguet, J. P., 及びPuisieux, F. (1986) ポリイソブチルシアノアクリレートナノカプセルの製造に関する新しい方法の発展。Int J Pharm 28, 125 - 132;Lescure, F., Zimmer, C., Roy, D., 及びCouvreur, P. (1992) ポリアルキルシアノアクリレートナノカプセル調合薬−二酸化硫黄及びナノ粒子特性上のpHの影響。J Colloid Inteface Sci 154, 77 - 86 参照)。フッ素化ポリアルキルシアノアクリレートナノカプセルを製造するために、最初にアルキルシアノアクリレート(例えばエチルシアノアクリレート)が、エステル交換によってフッ素化アルキルシアノアクリレートに変換し、それから、例えばパーフルオロカーボン(例えばパーフルオロデカリン)の分散された液滴について界面重合することによって、そこに含まれるパーフルオロカーボンカプセルコアと共にフッ素化アルキルシアノアクリレートシェルを有するカプセルに変形されるという方法が示される。
【0073】
本願発明によって使用されるカプセルは、力学的及び温度的に安定であり、分散として又は凍結乾燥した状態においての何れかにで永続的に実質的に貯蔵されることが望ましい。エタノール又はベンゼンのようなより小さい分子は、カプセルシェルを通して急激な変換を受け、カプセル化された状態における半減期は、数ミリ秒程度である。カプセルの直径は、ナノメータからマイクロメータの範囲(例えば100から500nmの間)であり、それらは、調合剤の定義された条件を介して制御されることが望ましい。前記ポリマーは生分解性であり、分解の副産物は、たとえあったとしても極端に低い毒性である。これによって、ポリアルキルシアノアクリレートナノカプセルは、多用途であり、且つ、本願発明の順応性のあるキャリアシステムである。ポリアルキルシアノアクリレートナノカプセルの分散は、両親媒性ブロック共重合体を使用することで安定化されることが望ましい。生体におけるより長いサイクル時間を達成するために、それらは、キトサンを使用して安定化されることが望ましく、その結果してプラスの帯電されたカプセルを生じる。別の生分解性システムによるポリアルキルシアノアクリレートナノカプセルの特別な利点は、生理学的条件下でカプセルの相対的に長い生活環によって主に示されるものである。
【0074】
本願発明の第2の様相によれば、本願発明の他の目的は、人体及び動物体における酸素欠乏状態の予防的治療及び/若しくは治療的処置のための前述した本願発明による分散の使用であり、人体及び動物体の酸素欠乏状態の予防的治療及び/若しくは治療的処置のための薬剤の製造のための本願発明による分散の使用である。
【0075】
本願発明のために使用されるような人体又は動物体及び/若しくは所定の組織若しくは臓器における酸素欠乏状態の概念は、虚血性及び低酸素状態に関連し、且つ、本願発明のために、虚血性という言語は、組織又は臓器に流れる血液が減少するか流れなくなること(例えば、その後の血液損失、大出血等)を意味する場合に使用され、それは関連した箇所の酸素欠乏を伴い(細胞代謝が抑圧されるか、最終的に全く行われないことの結果として)、本願発明のためのヒポクシーという言語は、組織における酸素欠乏の状態(例えば、一酸化炭素中毒のようなガス中毒後の状態)を示すために使用される(及び完全に酸素が欠乏した状態が無酸素症として参照されることをきすべきである)。
【0076】
本願発明のさらなる目的は、特に輸血のために、代用血液として上述された本願発明による分散を使用することである。
【0077】
本願発明のよる分散が、外科手術、事故、損傷等の間に生じるような血液損失中及び/若しくは後の人体若しくは動物体の状態の予防的及び/若しくは治療的処置に使用されることが望ましい。
【0078】
本願発明による分散は、虚血状態若しくは再灌流に続く状態、特に止血帯症候群(再灌流症候群)のために、且つ/又は、虚血状態若しくは再灌流に続く状態、特に止血帯症候群(再灌流症候群)のための薬剤を製造するために使用することが可能である。
【0079】
本願発明による分散は、移植手術の間臓器を保護するために使用することが可能である。この方法において、例えば摘出され移植される臓器に、それらが移植者の身体に埋め込まれるまで、(例えば本願発明の分散による再灌流によって)効果的な保護を提供することが可能である。
【0080】
本願発明による分散は、人体若しくは動物体の血液内の気泡形成又はガス血栓の予防的及び/若しくは治療的処置のために、且つ/又は、人体若しくは動物体における血液内の気泡形成又はガス血栓の予防的及び/若しくは治療的処置のための(例えば、スポーツダイビングにける不正確なダイビング手法の結果として生じるガス血栓の処置のための)薬剤の製造のために、使用されることが可能である。これについて、本願発明に係る分散の(酸素、二酸化炭素、窒素等に関する)良好なガス分解特性及びそれらを含むカプセルが、特に重要である。
【0081】
本願発明による分散は、人体若しくは動物体におけるガス血栓の予防的及び/若しくは治療的処置のために、且つ/又は、人体若しくは動物体におけるガス血栓の予防的及び/若しくは治療的処置のための薬剤を製造するために、人工心肺装置に適用されることが可能である。これは、例えば酸素欠乏状態の結果としての脳の損傷を防止するための効果的な方法として使用することが可能である。
【0082】
同様に、本願発明による分散は、人体若しくは動物体におけるガス中毒事故又は煙害事故による予防的及び/若しくは治療的処置のために、且つ/又は、人体若しくは動物体におけるガス中毒事故又は煙害事故(例えば、火事の結果としての煙害事故の場合、一酸化炭素若しくはシアン化水素ガス中毒等のようなガス中毒の場合)による予防的及び/若しくは治療的処置のための薬剤を製造するために使用することが可能である。
【0083】
上述され、下記される本願発明による使用において、本願発明による分散は、好ましくは輸血によって、単回投与毎に、5〜15,000ml、特に5〜10,000ml、好ましくは10〜3,000mlの量で適用されることが可能である。
【0084】
本願発明の第3の様相によれば、本願発明の目的は、好ましくは輸血目的のために、特に代用血液として、人体又は動物体の予防的及び/若しくは治療的処置のための人工酸素キャリアとしてのフッ素化、特に全フッ素置換炭化水素、好ましくはパーフルオロカーボンの使用において、このフッ素化炭化水素が、可逆的酸素貯蔵能力を有するカプセルの形で適用され、このカプセルがフッ素化炭化水素を含む及び/若しくは囲む酸素透過性カプセル材料を具備することである。本願発明のこの様相に関して、前記カプセルは、上述したように、特に分散の形で適用され又は使用される。特に、上述されたカプセルは、人体若しくは動物体の酸素欠乏状態の予防的及び/若しくは治療的処置のために、且つ/又は、人体若しくは動物体の酸素欠乏状態の予防的及び/若しくは治療的処置のための薬剤を製造するために、使用されることが可能である。上述されたカプセルシステムは、特に外科手術、事故、損傷等と関連するような血液損失の間及び/若しくは後に、人体若しくは動物体における予防的及び/若しくは治療的処置のために使用されることが可能である。虚血状態若しくは再灌流に続く状態、特に止血帯症候群(再灌流症候群)の予防的及び/若しくは治療的処置のために上述したカプセルシステムを使用することも十分に考えられる。上述したように、移植手術の間臓器を保護するためにそれらを使用することも十分に考えられる。上述したカプセルは、人及び動物の血流におけるガス気泡形成又はガス血栓の予防的及び/若しくは治療的処置の使用のために、且つ/又は、人及び動物の血流におけるガス気泡形成又はガス血栓の予防的及び/若しくは治療的処置のための薬剤の製造のために、考慮されることも可能である。
【0085】
これもまた、特に人体又は動物体におけるガス血栓の予防的及び/若しくは治療的処置のために、且つ/又は、人体又は動物体におけるガス血栓の予防的及び/若しくは治療的処置のための薬剤の製造のために、人工心肺装置での上述されたカプセルの使用を含む。最後に、上述したカプセルは、人体又は動物体におけるガス中毒又は煙害の予防的及び/若しくは治療的処置のために、且つ/又は人体又は動物体におけるガス中毒又は煙害の予防的及び/若しくは治療的処置のための薬剤の製造のために、使用されることも十分に考えられる。
【0086】
最後に、本願発明の第4の様相によれば、本願発明の目的は、上述された目的及び治療のために、人工酸素キャリアとして、特に代用血液として、酸素透過性カプセル材料と、そこに包含され若しくはそれによって囲まれるフッ素化、特に全フッ素置換炭化水素、好ましくはパーフルオロカーボンとを有するカプセル、特にナノカプセルの使用である(例えば、移植手術の間の臓器を保護するため、且つ/又は、特に臓器の摘出と移植の間の期間移植される臓器を保護するため)。
【0087】
不必要な繰り返しを避けるために、本願発明の他の特許的様相についての付加的な詳細について、本願発明の第1の様相に関する前述された記載を参照することができると共に、本願発明の他のすべての様相に対応して適用することができるものである。
【0088】
本願発明のさらなる構造、適応及び変形は、本願発明の範囲を超えること無しに、明細書を読むことおいて、当業者には容易に理解可能であり、実施可能である。
【発明を実施するための形態】
【0089】
下記する実施例は、本願発明を説明するために役立つものであり、且つ、本願発明はそこに限定されるものではない。
【実施例】
【0090】
本願発明によって使用されるパーフルオロカーボン(ナノ)カプセルの製造。
【0091】
(2.5±1.5)μmの直径を有するポリ(D,L−ラクチド−コ−グリコリド)カプセルを合成するための説明。
【0092】
約0.45〜06.g/cm3の内部濃度を有するポリ(D,L−ラクチド−コ−グリコリド)(100mg)と、フルオロデカリン(100μl)を、ジクロロメタン(6ml)に室温で溶解する。コール酸ナトリウム(1.5%)を蒸留水に溶かし、この水溶液を4℃まで冷却する。ジクロロメタン溶液(6ml)は、氷浴で、冷たいコール酸ナトリウム(20ml)と混合され、勢いよく攪拌される。分配アダプターを備えたUltraturrax(登録商標)(IKAによって製造されたUltraturrax T25/ SN-285-10G、攪拌速度13,500rpm。2分間の攪拌期間)が攪拌に使用される。可視化及び特徴付けをするために、カプセルは、カプセル材料がナイルレッド蛍光染色で濃縮されるように製造することもできる。これらのカプセルは、150μlの濃縮されたナイルレッド溶液(ジクロロメタンにおいて0.057mg/ml)を、ポリ(D,L−ラクチド−コ−グリコリド)及びフルオロデカリンを含むジクロロメタン溶液(6ml)にピペット滴下することによって製造される。すべての場合で、ジクロロメタン相は、有機相が完全になくなるまで、小さい酸素ガスフラックス(0.1〜100ml/min)で、二相試薬混合物(約26ml)を流すことによって、攪拌の後除去される。カプセルは、高濃度コール酸塩溶液にゆっくりと(t1/2約6時間)定着し、それから分離され、適当な使用(「代替血液」又は「代用血液」)のために本願発明による分散に移行するために、0.9%の塩化ナトリウム溶液に吸収される(適用特性:5〜15,000ml、特に5〜10,000ml、好ましくは10〜3,000ml)。
【0093】
本願発明よって使用可能であり、25:75〜75:25の範囲内のポリ(D,L−ラクチド−コ−グリコリド)におけるいろいろな比率を有し、且つ0.16〜1.3dl/gのカプセルの可変性の内部濃度を有するパーフルオロカーボン(ナノ)カプセルが、次の合成段階において製造される。
【0094】
本願発明によって使用可能であるパーフルオロカーボン(ナノ)カプセルは、ポリ(D,L−ラクチド−コ−グリコリド)に基づき、フッ素化化合物によって誘導体化されたカプセルシェルで調合されると同時に、パーフルオロカーボン(ナノ)カプセルは、ポリ(D,L−ラクチド−コ−グリコリド)に基づき、ポリエチレングリコールで誘導体化されたカプセルシェルを有する。
【0095】
例えば(2.5±1.5)μmの直径を有する改質されたポリ(D,L−ラクチド−コ−グリコリド)カプセルを合成するために、例えば下記する手法が実行されることが望ましい:端末カルボキシル基を有し、0.45〜0.6dl/gの内部濃度を有するポリ(D,L−ラクチド−コ−グリコリド)(50:50,92mg)が、室温でジクロロメタン(3ml)に溶解される。5000ダルトンポリエチレングリコールを有する85:15コポリマーを形成する第2のポリ(D,L−ラクチド−コ−グリコリド)(50:50,8mg)が、室温でジクロロメタン(3ml)に溶解される。ポリマー溶解工程が終わった後、2つの溶液が混合される。それから、フルオロデカリン(100μl)が、このジクロロメタン溶液(6ml)に溶解される。コール酸ナトリウム(1.5%)が蒸留水に溶解され、その後この溶液は、4℃まで冷却される。ジクロロメタン溶液(6ml)は、冷たいコール酸ナトリウム溶液(20ml)に混合され、氷浴において勢いよく攪拌される。分配アダプターを備えたUltraturrax(登録商標)(IKAによって製造されたUltraturrax T25/ S-25KV-25G-IL、攪拌速度6000rpm、2分間の攪拌期間)が攪拌に使用される。
【0096】
視覚化及び特徴付けをするために、カプセルは、カプセル材料がナイルレッド蛍光染色で濃縮されるように製造される。これらのカプセルは、150μlの濃縮されたナイルレッド溶液(ジクロロメタンにおいて0.057mg/ml)を、ポリ(D,L−ラクチド−コ−グリコリド)/フルオロデカリンを含むジクロロメタン溶液(6ml)にピペット滴下することによって製造される。すべての場合において、ジクロロメタン相は、有機相が完全になくなるまで、小さい酸素ガスフラックス(0.1〜100ml/min)で、二相試薬混合物(約26ml)を流すことによって、攪拌の後除去される。カプセルは、高濃度コール酸塩溶液にゆっくりと(t1/2約6時間)定着し、それから分離され、適当な使用(「代替血液」又は「代用血液」)のために本願発明による分散に移行するために、0.9%の塩化ナトリウム溶液に吸収される。凝集及び食作用を避けることに関する改善は、ポリマーの誘導体化によって達成することが望ましい。
【0097】
本願発明によって使用可能なパーフルオロカーボン(ナノ)カプセルは、アルキルシアノアクリレートに基づく又はパーフルオロアルキルシアノアクリレートに基づくカプセルシェルを有するように調合されるものである。
【0098】
本願発明によって使用可能なパーフルオロカーボン(ナノ)カプセル及びそれらの含む分散の物理的−化学的特徴付け。
【0099】
本願発明によって使用可能なパーフルオロカーボンナノカプセルは、下記する方法によって、それらの大きさ、均一構造、立体構造及び組成に関して特徴づけられる。
【0100】
共焦点レーザ走査顕微鏡観察(LSM)。
共焦点レーザ走査顕微鏡観察(LSM)は、本願発明によって使用可能なパーフルオロカーボンナノカプセルの大きさの測定及び均一構造の証明に使用される。このために、ナノカプセルは、ナイルレッド蛍光染色(9−ジエチルアミノ−5H−ベンゾ[α]フェノキサジン−5−ワン)で染色され、その親油性によってカプセル壁に蓄積される。LSM測定は、ヘリウム/ネオンレーザ及び高解像度レンズを使用して実施される。染色されたパーフルオロカーボンナノカプセル及び生理的バッファによって希釈されたパーフルオロカーボンナノカプセルは、ポリ−L−リジンで処理されたスライド表面で改質されたペンツ室に沈着し、蛍光発光が、液柱のいろいろな焦点面に表示される。共焦点システムの膜厚は、光学的に大変小さいので、パーフルオロカーボンナノカプセルの少数の空間表現を示すことも可能である。それらの大きさ及び均一性は、LSM510システムの対応する「生理学的評価」ソフトウェアを使用して検出された信号に基づいて数量化される。
【0101】
暗視野レーザ走査顕微鏡観察における分散カプセルの光学顕微鏡観察は、1μmより小さい直径を有するナノカプセルの大きさを測定するために限定的に使用される。暗視野における分散カプセルの光学顕微鏡観察の付加的な方法も実行される。暗視野における分散カプセル光学顕微鏡観察は、粒子のブラウン運動を測定するために使用される。この手順において、個々の粒子の運動は、リアルタイムで発生し、カプセルサイズヒストグラムを作成するために加工される映像ファイルの自動画像解析によって評価される。
【0102】
プローブ顕微鏡を走査する走査型ブローブ顕微鏡法(AFM)は、カプセルの映像を得るだけでなく、それらの力学的特性を測定することができる方法を使用する。圧縮試験において、力の経路図は、カプセルの力学的強度、弾性変形能及び弾力性についての重要なデータを発生させるように記録される。カプセルシェルが圧縮試験の後折り曲げられる方法も、カプセル薄膜の厚さ及びカプセルの内部構造に関して結果を必然的に引き出することができるものである。
【0103】
13C同位体を観察することによる炭素原子の13C及び19FNMR分光法核磁気共鳴測定は、カプセル壁部の化学的特性評価の手助けをし、重合化反応の加工についての情報を返す。さらに、パルス磁場勾配を使用するフッ素原子の測定は、フッ素化炭化水素の自己拡散特性についての上方を提供し、カプセル含有物の相状態及び相均一性について順に結果を作ることができる。このようにして、例えば、液体含有物が、スポンジ状多孔質媒体にではなく、確実に開放腔に配置されるものである。19F線スペクトルの記録は、観察できるように酸素を取り込むことができ、酸素の常磁性体特性は、フッ素原子の共鳴に作用し、典型的な線形拡大効果及び短い緩和時間を生じ、且つ、これらの性質は、カプセル内部の酸素の濃縮に関して結論を引き出すことができる。このようにして、酸素吸着の動力学及び分散平衡の位置の両方を測定することができる。
【0104】
下記する表は、想像され、特徴づけられたカプセルのパラメータ、及びそれを含む分散のパラメータを示す。
【0105】
【表1】

【0106】
パーフルオロカーボンナノカプセルの生体適合性、細胞へのそれらの吸収性及び単純生体系における酸素の搬送の能力の検査。
【0107】
パーフルオロカーボンナノカプセルの起こりうる細胞毒性効果、細胞へのそれらの吸着及びパーフルオロカーボンナノカプセルと接触することによる細胞の活性化/非活性化は、培養マクロファージ及び内皮細胞、いわゆる細網内皮系の細胞の周知の技術を使用して調査される。パーフルオロカーボンナノカプセルの細胞毒性効果及び細胞へのそれらの吸着を検出するために使用される方法には、レーザ走査顕微鏡法がある。パーフルオロカーボンナノカプセルの起こりうる細胞毒性効果及びそれらの細胞への吸着は、生体内に灌流されたラット肝臓において研究されている。無傷有機体の細胞内の(蛍光発光ナイルレッドでマークされた)ナノカプセルの取り込みを検出するために、生体顕微鏡検査が使用される。酸素を移送し組織にそれを供給するパーフルオロカーボンナノカプセルの能力は、生体内に還流されたラット肝臓において検査される。酸素は、水相にあまり溶けないので、Carbogen(登録商標)(95%酸素、5%二酸化炭素)で飽和されたクレブス−ヘンセレイトバッファの通常の灌流は、高い容量(30ml/min)で、適当な酸素の移送を確実にしなければならない。パーフルオロカーボンナノカプセル及びパーフルオロカーボンエマルジョン若しくはパーフルオロカーボン分散による実験において、(クレブス−ヘンセレイトバッファと比較して)流通量は、虚血組織の損傷が生じる前に十分に減少され、且つ生体的流量が達成されることが確認された。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
特に代用血液として、好ましくは輸血の目的のための人工酸素キャリアの分散において、
該分散が、可逆的酸素貯蔵能力を有するカプセルを含むこと、
該カプセルが、フッ素化、特に全フッ素置換炭化水素、好ましくはパーフルオロカーボンを含有する及び/若しくは囲む酸素透過性カプセル材料を具備することを特徴とする分散。
【請求項2】
前記カプセルが、コア/シェルカプセルとして構成されること、
特に、酸素透過性カプセル材料がカプセルシェルを形成すること、且つ/又は、
前記フッ素化炭化水素が、酸素透過性カプセルシェルによって包囲され及び/若しくは包み込まれ、及び/若しくは、フッ素化炭化水素がコア/シェルカプセルの内部を形成することを特徴とする請求項1記載の分散。
【請求項3】
前記カプセルは、マトリクスカプセルの形であること、
特に、酸素透過性カプセル材料が、マトリクスを形成し、前記フッ素化炭化水素が酸と透過性カプセル材料に基づくマトリクスに、均質及び/若しくは均等に分布されることを特徴とする請求項1記載の分散。
【請求項4】
前記酸素透過性カプセル材料、特にコア/シェルカプセルのカプセルシェル又はマトリクスカプセルのマトリクス材料が、酸素透過性有機ポリマーを具備すること若しくはそれからなること、
前記ポリマーは、ポリ(ラクチド−コ−グリコリド)、好ましくは全フッ素置換化合物で及び/若しくはポリアルキレングリコールで誘導体化されるポリ(ラクチド−コ−グリコリド)、特にポリエチレングリコール、及びポリアルキルシアノアクリレート、好ましくは場合によりフッ素化されるポリアルクルシアノアクリレート及びそれらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の分散。
【請求項5】
前記酸素透過性カプセル材料、特にコア/シェルカプセルのカプセルシェル若しくはマトリクスカプセルのマトリクス材料は、酸素透過性有機ポリマーを具備すること若しくはそれからなること、且つ/又は、
前記有機ポリマーが、適当な重合方法、特にエマルジョン重合、界面重合若しくは界面析出によって得られること若しくは製造されること、且つ/又は、
前記有機ポリマーが、硫化物架橋を含まず、特に二硫化物架橋若しくは多硫化物架橋を含まないこと、且つ/又は、
前記有機ポリマー、特にコア/シェルカプセルのカプセルシェル若しくはマトリクスカプセルのマトリクス材料が、コヒーレント構造を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の分散。
【請求項6】
前記酸素透過性カプセル材料、特にコア/シェルカプセルのカプセルシェル若しくはマトリクスカプセルのマトリクス材料、好ましくはカプセルシェル又はマトリクスの酸素透過性有機ポリマーが、改質、特に表面改質及び/若しくは官能基を含んでいること、
前記改質、特に表面改質及び/若しくは官能基が、(i)官能基を示す集合体、(ii)生体分子との反応を制御する官能基、(iii)酸官能基、(iv)ヒドロキシル基、(v)生理的pHより小さい陰性基、特にカルボン酸、硫酸液、スルホン酸塩、リン酸塩及びホスホン酸基、(vi)ポリアルキレンポリオール基、特にポリエチレングリコール基、(vii)乳化剤、(viii)分散剤及びそれらの化合物及び/若しくは混合物からなる群から選択されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載の分散。
【請求項7】
前記酸素透過性カプセル材料、特にコア/シェルカプセルのカプセルシェル若しくはマトリクスカプセルのマトリクス材料が、二酸化炭素透過性であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1つに記載の分散。
【請求項8】
前記カプセルが、7000nm以下、特に6500nm以下、好ましくは6000nm以下の直径を有することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1つに記載の分散。
【請求項9】
前記カプセルが、5〜7000nmの範囲内、特に10〜6500nmの範囲内、好ましくは20〜6000nmの範囲内、特に好ましくは25〜5000nmの範囲内、特別に好ましくは40〜2500nmの範囲内、最も好ましくは50〜1000nmの範囲内、さらには50〜975nmの範囲内の直径を有することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1つに記載の分散。
【請求項10】
前記カプセルが、特にコア/シェル構造を有し、5〜7000nmの範囲内、特に10〜6500nmの範囲内、好ましくは20〜6000nmの範囲内、特に好ましくは25〜5000nmの範囲内、特別に好ましくは40〜2500nmの範囲内、最も好ましくは50〜1000nmの範囲内、さらには50〜975nmの範囲内の直径を有するナノカプセルの形であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1つに記載の分散。
【請求項11】
前記カプセルが、多様な粒子サイズ分布を示すこと、特に前記カプセルの平均径D50が、25〜3000nmの範囲内、特に50〜1000nmの範囲内、好ましくは50〜950nmの範囲内であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1つに記載の分散。
【請求項12】
前記カプセル内のフッ素化炭化水素に対する酸素透過性カプセル材料の重量比が、90:10以下であり、特に75:10以下であり、好ましくは50:50以下であること、且つ/又は、フッ素化炭化水素に対する酸素透過性カプセル材料の重量比が、90:10〜1:99の範囲内、特に80:20〜5:95の範囲内、好ましくは70:30〜15:85の範囲内で変化することを特徴とする請求項1〜11のいずれか1つに記載の分散。
【請求項13】
前記カプセルは、1.5〜2.5g/mlの範囲内、特に1.8〜2g/mlの範囲内、好ましくは1.85〜1.9g/mlの範囲内の密度を有することを特徴とする請求項1〜12のいずれか1つに記載の分散。
【請求項14】
前記フッ素化炭化水素が、特に生理学的条件下において、可逆的に酸素を蓄積及び/若しくは吸着することができること、且つ/又は、前記フッ素化炭化水素が、生理学的条件下において、可逆的酸素貯蔵能力を有することを特徴とする請求項1〜13のいずれか1つに記載の分散。
【請求項15】
前記フッ素化炭化水素が、250〜2000g/molの範囲内、特に300〜1000g/molの範囲内、好ましくは400〜600g/molの範囲内の分子量を有すること、且つ/又は、前記フッ素化炭化水素が液体形状であることを特徴とする請求項1〜14のいずれか1つに記載の分散。
【請求項16】
前記フッ素化炭化水素が、少なくとも1つのフッ素以外のハロゲン、好ましくは臭素を含むこと、且つ/又は、前記フッ素化炭化水素が、パーフルオロオクタン、パーフルオロデカン、パーフルオロデカリン及びブロモパーフルオロオクタン及びそれらの混合物、特にパーフルオロオクタン、パーフルオロデカン、パーフルオロデカリン及びそれらの混合物、好ましくはパーフルオロオクタン及び/若しくはパーフルオロデカンから選択されることを特徴とする請求項1〜15のいずれか1つに記載の分散。
【請求項17】
前記分散が、分散に対して、1〜70容量%、特に5〜65容量%、好ましくは10〜60容量%、より好ましくは20〜50容量%の容量に関連した量でカプセルを含むことを特徴とする請求項1〜16のいずれか1つに記載の分散。
【請求項18】
前記分散が、分散に対して、5〜80重量%、特に10〜75重量%、好ましくは15〜65重量%の質量に関連した量でカプセルを含むことを特徴とする請求項1〜17のいずれか1つに記載の分散。
【請求項19】
前記分散が、生理学的pH及び/若しくは生理学的イオン強度及び/若しくは生理学的モル浸透圧濃度及び/若しくは生理学的イオン構成に調整されることを特徴とする請求項1〜18のいずれか1つに記載の分散。
【請求項20】
前記分散が、6.5〜7.9の範囲内、特に7〜7.5の範囲内、好ましくは7〜7.45の範囲内、特に好ましくは7.37〜7.45の範囲内のpH値に調整されること、且つ/又は、前記分散が、バッファ、特に生理学的バッファ、好ましくはリン酸塩ベースのバッファを含むことを特徴とする請求項1〜19のいずれか1つに記載の分散。
【請求項21】
前記分散が、10℃〜40℃の範囲内の温度に対して、0.1〜1.8sの範囲内、特に0.2〜1.5sの範囲内、好ましくは0.25〜1.25sの範囲内の特別な粘度ηを有することを特徴とする請求項1〜20のいずれか1つに記載の分散。
【請求項22】
前記分散が水性ベースの分散の形であること、且つ/又は、前記分散が、連続相(分散薬剤又は分散剤)としての水を含むものであり、特に生理学的及び/若しくは生理食塩水の形であり、好ましくは連続層に対して0.9重量%の塩化ナトリウム濃度を有することを特徴とする請求項1〜21のいずれか1つに記載の分散。
【請求項23】
前記分散が、250〜350mOsmol/l(ミリオスモル/リットル)の範囲内、特に280〜310mOsmol/lの範囲内のモル浸透濃度を有することを特徴とする請求項1〜22のいずれか1つに記載の分散。
【請求項24】
前記分散が、50μmol/lより小さい、特に40μmol/lより小さい、好ましくは35μmol/lより小さい濃度において、代表的な補助材料及び/若しくは付加剤、特に分散補助剤、乳化剤、エキステンダー、バインダー、架橋剤、安定剤及びそれらの混合物からなる群から選択される補助材料及び/若しくは付加剤を含むことを特徴とする請求項1〜23のいずれか1つに記載の分散。
【請求項25】
人体若しくは動物体の酸素欠乏状態の予防的及び/若しくは治療的処置のための、且つ/又は、人体若しくは動物体の酸素欠乏状態の予防的及び/若しくは治療的処置のための薬剤の製造のための請求項1〜24の何れか1つに記載の分散の使用。
【請求項26】
代用血液として、特に輸血目的のための請求項1〜24のいずれか1つに記載の分散の使用、特に請求項25記載の使用。
【請求項27】
特に外科手術、事故、損傷等の失血中及び/若しくは失血後の人体若しくは動物体の状態の予防的及び/若しくは治療的処置のための請求項1〜24のいずれか1つに記載の分散の使用、特に請求項25又は26記載の使用。
【請求項28】
虚血状態若しくは再灌流後の状態、特に止血帯症候群(再灌流症候群)の予防的及び/若しくは治療的処置のための、且つ/又は、虚血状態若しくは再灌流後の状態、特に止血帯症候群(再灌流症候群)の予防的及び/若しくは治療的処置のための薬剤を製造するための、又は、移植手術の間臓器を保護するための及び/若しくは特に灌流で臓器の摘出及び移植の間の期間移植される臓器を保護するための請求項1〜24のいずれか1つに記載の分散の使用、特に請求項25及び26に記載の使用。
【請求項29】
人体若しくは動物体の血液内の気泡形成又はガス血栓の予防的及び/若しくは治療的処置のための、且つ/又は、人体若しくは動物体における血液内の気泡形成又はガス血栓の予防的及び/若しくは治療的処置のためのガス血栓の処置のための薬剤の製造のための請求項1〜24のいずれか1つに記載の分散の使用、特に請求項25及び26に記載の使用。
【請求項30】
人体若しくは動物体におけるガス血栓の予防的及び/若しくは治療的処置のために、且つ/又は、人体若しくは動物体におけるガス血栓の予防的及び/若しくは治療的処置のための薬剤を製造するために、人工心肺装置に適用されるための請求項1〜24のいずれか1つに記載の分散の使用、特に請求項25及び26に記載の使用。
【請求項31】
人体若しくは動物体におけるガス中毒事故又は煙害事故による予防的及び/若しくは治療的処置のための、且つ/又は、人体若しくは動物体におけるガス中毒事故又は煙害事故による予防的及び/若しくは治療的処置のための薬剤を製造するための請求項1〜24のいずれか1つに記載の分散の使用、特に請求項25及び26に記載の使用。
【請求項32】
前記分散が、単回投与毎に、5〜15,000ml、特に5〜10,000ml、好ましくは10〜3,000mlの量で適用されることを特徴とする請求項25〜31のいずれか1つに記載の使用。
【請求項33】
特に代用血液として、好ましくは輸血のために、人体若しくは動物体の予防的及び/若しくは治療的処置のために、且つ/又は、人体若しくは動物体の予防的及び/若しくは治療的処置のための薬剤を製造するために、人工酸素キャリアとして、フッ素化、特に全フッ素置換炭化水素、好ましくはパーフルオロカーボンの使用について、
前記フッ素化炭化水素が、可逆性酸素貯蔵能力を有するカプセルの形で使用されること、
該カプセルが、フッ素化炭化水素を含む及び/若しくは包含する酸素透過性カプセル材料を具備することを特徴とする使用。
【請求項34】
分散の形で適用されることを特徴とする請求項33記載の使用。
【請求項35】
人体又は動物体の酸素欠乏状態の予防的及び/若しくは治療的処置のための、且つ/又は、人体又は動物体の酸素欠乏状態の予防的及び/若しくは治療的処置のための薬剤の製造のための請求項33又は34のいずれか1つに記載の使用。
【請求項36】
特に外科手術、事故、損傷等に伴う失血の間及び/若しくは失血の後、人体若しくは動物体の状態の予防的及び/若しくは治療的処置のための請求項33〜35のいずれか1つに記載の使用。
【請求項37】
虚血状態若しくは再灌流に続く状態、特に止血帯症候群(再灌流症候群)の予防的及び/若しくは治療的処置のための、且つ/又は虚血状態若しくは再灌流に続く状態、特に止血帯症候群(再灌流症候群)の予防的及び/若しくは治療的処置のための薬剤を製造するための請求項33〜35のいずれか1つに記載の使用。
【請求項38】
人及び動物の血流におけるガス気泡形成又はガス血栓の予防的及び/若しくは治療的処置のための、且つ/又は、人及び動物の血流におけるガス気泡形成又はガス血栓の予防的及び/若しくは治療的処置のための薬剤の製造のための請求項33〜35のいずれか1つに記載の使用。
【請求項39】
人体又は動物体におけるガス血栓の予防的及び/若しくは治療的処置のために、且つ/又は、人体又は動物体におけるガス血栓の予防的及び/若しくは治療的処置のための薬剤の製造のために、人工心肺装置に適用するための請求項33〜35のいずれか1つに記載の使用。
【請求項40】
人体又は動物体におけるガス中毒又は煙害の予防的及び/若しくは治療的処置のための、且つ/又は人体又は動物体におけるガス中毒又は煙害の予防的及び/若しくは治療的処置のための薬剤の製造のための請求項33〜35のいずれか1つに記載の使用。
【請求項41】
人工酸素キャリアとして、特に代用血液として、酸素透過性カプセル材料と、そこに包含され若しくはそれによって囲まれるフッ素化、特に全フッ素置換炭化水素、好ましくはパーフルオロカーボンとを有すること、又は、移植の間、臓器を保護するための、且つ/又は、移植される臓器を、臓器を摘出し移植するまでの間の期間保護するためのカプセル、特にナノカプセルの使用。
【請求項42】
請求項1〜24に記載された1つ又は複数の特徴によって特徴付けられる請求項25〜41のいずれか1つに記載された使用。

【公表番号】特表2011−527298(P2011−527298A)
【公表日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−517024(P2011−517024)
【出願日】平成21年7月8日(2009.7.8)
【国際出願番号】PCT/EP2009/004925
【国際公開番号】WO2010/003647
【国際公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【出願人】(511007129)ユニバーシテート デュースブルク−エッセン (2)
【Fターム(参考)】