説明

人工釣り餌

【課題】
集魚力があり、型崩れがしにくく、かつ海中で浮遊して釣糸にからまず、また、安価な人工釣り餌を提供する。
【解決手段】
魚介類の残渣を原料とした人工釣り餌において、固化剤または粘結剤と、比重3以上である硫酸バリウム、フッ化カルシウム、およびエメリーのうちから選択される少なくとも一種を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工釣り餌に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、集魚力を得るには魚、イカ、タコ、甲殻類、貝類の内臓、アラなど魚介類の残渣を原料とするのが有効であり、これらを原料とした人工釣り餌が用いられてきた。しかし、これら魚介類の残滓は油脂分が多いため、得られる人工釣り餌は比重が小さく、海水中を浮遊し、釣糸にからまることが多かった。このため、人工釣り餌に関しては、餌の比重を大きくするために、例えば、砂やベントナイト(特許文献1)を添加、混合する人工釣り餌が提案されている。
【0003】
しかしながら、砂を添加した場合、餌本体の強度が低下し、水中で型崩れする欠点を有し、ベントナイトを添加する場合においても、ベントナイトは、一次粒径が微細なものを多く含むため、釣り餌の崩壊を促し、撒き餌、バラケ餌として用いる場合は有効であるが、食わせ餌としては不適であった。したがって、どちらの場合においても固化剤あるいは粘結剤を大量に添加しなければ食わせ餌としては有効ではなく、その場合には原料の組成比が減少し集魚力が落ちてしまうという欠点を有していた。また、ベントナイトの場合は焼結した後粉砕して粒径を制御することは可能であったがコストが嵩んでしまい、さらに、焼結すると比重が2.8程度となり、その分の原料の組成比が低くなり、集魚力が落ちてしまう問題点を有していた。
【特許文献1】特開2001−190199号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、集魚力があり、型崩れがしにくく、かつ海中で浮遊して釣糸にからまず、また、安価な人工釣り餌を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記の課題を解決するために、第1に、魚介類の残渣を原料とした人工釣り餌において、固化剤または粘結剤と、比重3以上である硫酸バリウム、フッ化カルシウム、およびエメリーのうちから選択される少なくとも一種を含有することを特徴としている。
【0006】
本発明は、第2に、上記の特徴に加え、硫酸バリウム、フッ化カルシウム、およびエメリーのうちから選択される鉱物であって、一次粒子径が1〜50μmの範囲内であることを特徴としている。
【0007】
本発明は、第3に、上記の特徴に加え、着色されたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
上記第1の発明によれば、魚介類の残渣を原料とすることによって集魚力が高くなり、また廃棄物の有効活用となる。また、比重3以上の硫酸バリウム、フッ化カルシウム、およびエメリーのうちから選択される少なくとも一種を含有することによって、型崩れしにくく、海中で浮遊して糸に絡まなくすることができる。また、エメリーは黒色、硫酸バリウムおよびフッ化カルシウムは白色であり、魚の好む色に自由に着色が可能である。また、暗い中での作業においては、特に白色の硫酸バリウム、フッ化カルシウムを含む人工釣り餌が視認性に優れる。
【0009】
上記第2の発明によれば、上記の発明の効果に加え、硫酸バリウム、フッ化カルシウム、およびエメリーのうちから選択される鉱物の一次粒子径が1〜50μmとすることによってさらに型崩れしにくくすることができる。
【0010】
上記第3の発明によれば、上記の発明の効果に加え、着色されることによって、魚の集魚力をさらに高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の人工釣り餌について説明する。
【0012】
集魚力および廃棄物の有効活用という観点から、魚、イカ、タコ、甲殻類、貝類の、内臓、アラなどの魚介類の残渣を原料として用いる。例えば、アジを主食とする魚種にはアジの残渣、イカを主食とする魚種にはイカの残滓を原料とすることが集魚力の点から望ましく、その中でも、イカの内臓(イカゴロ)は、集魚力が高く、好適に用いることができる。
【0013】
この原料に、餌本体の比重を増すために、本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、硫酸バリウム、フッ化カルシウム、およびエメリーのうちから選択される比重3以上の鉱物のうち少なくとも一種を混入することが、集魚力を落とさず、また餌の強度をおとさず、さらに比重を適当に調節可能であることを見出した。硫酸バリウムは比重4.4、フッ化カルシウムは比重3.1、エメリーは比重3.1であり、効果的に餌本体の比重を大きくすることができる。淡色の餌に慣れている使用者には、白色の硫酸バリウム、フッ化カルシウムがなじみやすく、また着色しやすいため好適に用いることができる。また、硫酸バリウム、フッ化カルシウムは白色であるため、夜間、朝方、等の暗い状況においても集魚力を発揮することができ、好適に用いることができる。また、硫酸バリウムであれば、比重が4を超えるため、添加量を減らすことができ、その分原料比率を高めることができるので、低コストであり且つ高い集魚力を得ることができ、さらに好適に用いることができる。
【0014】
硫酸バリウムは、市販品または合成品のいずれにより入手されたものでもよく、例えば、重晶石からのもの等として簡便に利用することができる。フッ化カルシウムは、蛍石や合成からのもの等として、エメリーについては、磁鉄鉱とコランダム(綱玉石)のエメリー鉱物からのものとして利用することができる。
【0015】
原料に対しての添加(配合)割合については、粘結剤あるいは固化材をも加えた人工釣り餌の全体の比重や強度等を考慮して定めることができるが、一般的には、原料に対しての添加(配合)割合は、重量比として1/20〜1/2の範囲とすることができる。
【0016】
硫酸バリウム、フッ化カルシウム、およびエメリーのうちから選択される鉱物の一次粒子径の平均粒径は1〜50μmの範囲内であることが好ましい。さらには、粒度分布を測定し、最小粒径および最大粒径についても1〜50μmの範囲内であることが好ましい。粒径の測定方法は、一般的な方法であれば制限はなく、純水中に分散させて光学顕微鏡によって測定する方法等簡便な方法でもよい。一次粒子径の平均粒径が1μmよりも小径のものを用いると鉱物自体が凝集して塊状になりやすく、分散性が悪くなり、凝集体は内部に空隙を抱え、餌本体の強度が落ちて、比重も小さくなってしまい、フッ化カルシウムの場合は、若干であるが水に溶解するため用いることができなくなる。また、一次粒子径の平均粒径が50μmよりも大径のものを用いると餌本体の強度が落ちてしまう。
【0017】
添加する粘結剤あるいは固化剤は、特に制限はなく、PVA等市販されているものを適宜使用すればよい。原料本体の臭いを消さないために、臭いの少ない粘結剤や固化剤が好適に用いることができる。粘結剤や固化剤の添加量は、原料に対しての重量比として、一般的には1/5〜6/5として考慮することができる。例えば、原料がイカゴロであれば、原料との比が1:1程度が好ましいが、以下に説明する比重や強度を考慮して調節すればよい。
【0018】
本発明の人工釣り餌は、原料が内臓等の油の多い残滓を用いた場合、餌本体が浮いてしまうことを避けるため、浮かない程度に調節すればよく、さらには比重1.08〜1.18の範囲とすることによって、釣糸にからまることがなく、集魚力の点からも望ましい。ただし、保存のために凍結した後、餌を解凍すれば当然に、餌に付着する水分量によって、比重の測定が困難となる。このため、海水中における沈降速度で測定することが望ましい。沈降速度を測定する際は、後述の実施例1で説明した試験方法において、海水中で、1mを8〜25秒で沈降する範囲に調節することによって、上記の比重の範囲とすることができ好ましい。
【0019】
本発明の人工釣り餌は、重量を増すための鉱物の比重が重いので添加量を下げることができ、その結果強度に関しても強いものができ、また重量、強度は調節も可能であるので、漁においても好適に用いることができる。漁に使用するためには3時間程度耐えることができれば実際的には問題はないところ、例えば、イカゴロ:PVA:硫酸バリウム(一次粒子径の平均粒径20μm)が重量比で、50:50:10で作製した人工釣り餌は、一週間海水中に入れても型崩れしない。このことによって、一度海水中に入れて漁を行った後でも再利用ができコストを軽減できる。強度の数値としては、釣り針との引っ張り強度で言えば、例えば、下記実施例1のように釣り針につけた際の引っ張り強度が、金目鯛の場合は300g程度、鮪の場合は800g〜1000g程度が必要である。
【0020】
本発明の人工釣り餌は適宜着色してもよい。特に、鉱物として硫酸バリウム、フッ化カルシウムは着色が容易であり、着色する際には好適である。
【0021】
また、固化前に敢えて餌のメス型を傾斜させて、おもり鉱物を適度に偏在させることにより、水中での餌の挙動が複雑化し、対象魚種によってはさらに集魚力を高めることもできる。
【0022】
そこで以下に、実施例に基づいてさらに詳しく本発明について説明する。以下の実施例では、本発明の特徴をより明瞭にするために硫酸バリウムを用いた例を比較例との対比において説明しているが、これらの実施例によって本発明が限定されることは言うまでもない。
【実施例】
【0023】
<実施例1> イカゴロ:粘結剤:硫酸バリウム(一次粒子径の平均粒径:20μm)の重量比を、50:50:5〜20となるように添加して人工釣り餌を作製した。粘結剤には、PVAと補強増粘剤を使用した。また、比較例として、硫酸バリウムを添加しない釣り餌(イカゴロ:粘結剤の重量比を50:50)も作製した。
【0024】
以上ようなの人工釣り餌を、試験片として8mm×10mm×10mmとした。そして、冷凍保存(−18℃)しておいたこの試験片を10日後に解凍して、海水中での形状保持時間を、図1のような装置によって、人工釣り餌が1m落下するまでの時間をストップウォッチを用いて、人工釣り餌の海水中での沈降速度を測定した。また、図2のようにバネはかりによって、釣り針につけた人工釣り餌をゆっくり引っ張り、人工釣り餌が壊れる直前の釣り針との保持力を測定した。
【0025】
硫酸バリウム添加量による人工釣り餌の、比重、海水中での形状保持時間、海水中での沈降速度と釣り針との保持力の結果は表1のとおりである。比較例として、硫酸バリウムを添加しない釣り餌についても同様の測定結果を表1に合わせて示す。
【0026】
【表1】

表1より、硫酸バリウムは、少量の添加によって沈降速度の調節が可能であることがわかる。また、重量比で硫酸バリウムを5〜20%添加した場合、釣り針との保持力を減少を促さないことが示され、さらには重量比で硫酸バリウムを5〜15%添加した場合、釣り針との保持力を増加させる効果があることがわかる。一方、比較例では、硫酸バリウムを添加しない場合、釣り餌は浮いてしまい実際には使用できないことがわかる。
【0027】
<実施例2> イカゴロ:粘結剤:硫酸バリウム(一次粒子径の平均粒径:20μm)の重量比を、67:33:5〜20となるように添加して人工釣り餌を作製した。粘結剤には、PVAと補強増粘剤を使用した。また、比較例として、硫酸バリウムを添加しない釣り餌(イカゴロ:粘結剤の重量比を50:50)も作製した。
【0028】
以上ようなの人工釣り餌を、試験片として8mm×10mm×10mmとした。そして、冷凍保存(−18℃)しておいたこの試験片を10日後に解凍して、海水中での形状保持時間を、図1のような装置によって、人工釣り餌が1m落下するまでの時間をストップウォッチを用いて、人工釣り餌の海水中での沈降速度を測定した。また、図2のようにバネはかりによって、釣り針につけた人工釣り餌をゆっくり引っ張り、人工釣り餌が壊れる直前の釣り針との保持力を測定した。
【0029】
硫酸バリウム添加量による人工釣り餌の、比重、海水中での形状保持時間、海水中での沈降速度と釣り針との保持力の結果は表2のとおりである。比較例として、硫酸バリウムを添加しない釣り餌についても同様の測定結果を表2に合わせて示す。
【0030】
【表2】

表2より、実施例1と同様に、硫酸バリウムは、少量の添加によって沈降速度の調節が可能であることがわかる。また、実施例1とは異なり、この重量比においては、硫酸バリウムの添加によって保持力の増加はないが、餌本体の強度を下げていないので、人工釣り餌として好適であることがわかる。一方、比較例では、硫酸バリウムを添加しない場合、釣り餌は浮いてしまい実際には用いることはできないことがわかる。
【0031】
実施例1と比較すれば、イカゴロの重量比を増やし、粘結剤の重量比を減らすことで、集魚力を向上させているにもかかわらず、強度はほとんど変わらず、硫酸バリウムが好適であることがわかる。
【0032】
<実施例3> イカゴロ:粘結剤:硫酸バリウム(一次粒子径の平均粒径:20μm)の重量比を、50:50:10となるように添加して人工釣り餌を作製した。粘結剤には、PVAと補強増粘剤を使用した。そして、比較例として、硫酸バリウムを添加しない釣り餌(イカゴロ:粘結剤の重量比を50:50)およびイカの短冊切餌を用意して、これらを用いて、佐賀関の漁場にて1時間釣りを行い、本発明の人工釣り餌と比較例との釣果を比較した。
【0033】
結果は、1時間の間に、それぞれホゴ(カサゴ、アラカブとも言う)が、本発明の人工餌で3尾、イカの短冊切餌で1尾であり、硫酸バリウムを添加しない釣り餌はこの間釣果は0であり、本発明の人工釣り餌の効果は顕著であった。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の人工釣り餌の海水中での沈降速度を測定する際の概略図である。
【図2】本発明の人工釣り餌の釣り針との保持力をバネはかりによって測定する際の概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
魚介類の残渣を原料とした人工釣り餌において、固化剤または粘結剤と、比重3以上である硫酸バリウム、フッ化カルシウム、およびエメリーのうちから選択される少なくとも一種を含有することを特徴とする人工釣り餌。
【請求項2】
硫酸バリウム、フッ化カルシウム、およびエメリーのうちから選択される鉱物であって、一次粒子径が1〜50μmの範囲内であることを特徴とする請求項1記載の人工釣り餌。
【請求項3】
着色されたことを特徴とする請求項1または2に記載の人工釣り餌。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−118952(P2008−118952A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−308590(P2006−308590)
【出願日】平成18年11月15日(2006.11.15)
【特許番号】特許第4003002号(P4003002)
【特許公報発行日】平成19年11月7日(2007.11.7)
【出願人】(504432725)タナカ漁網株式会社 (5)
【出願人】(591224788)大分県 (31)