説明

人形または置物の製造法

【課題】 本発明は、趣のある表情で色合いが良く、ひび割れや剥離も生じない人形や置物を得るための製造法であって、かつ、所望の形状を容易にかつ安価に製造することができる、人形または置物の製造法を提供することを課題とする。
【解決手段】 有機原料を不活性ガスまたは真空雰囲気中で焼成、炭化することにより得られた炭素材と、熱硬化性樹脂とを混合して得た混合物を型に入れ、常温・非加圧下で成形することにより得られた成形体を、不活性ガスまたは真空雰囲気中で焼成、炭化することにより、人形または置物の生地を作製する、人形または置物の製造法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機原料を炭化することにより得られる炭素材、特に米糠や麩等に代表される麩糠類を原料として得られる炭素材を用いて、人形または置物の生地を作製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
我が国の主要穀物である米からは、副産物として大量の籾殻や糠が生じる。また、同様に、麦や蕎麦、大豆等の穀類からも大量の殻や麩(フスマ)が生じる。これら穀類からの副産物の多くは、邪魔者として焼却処分に回される。一部のものだけが利用されているに過ぎない。例えば、米糠は搾油して米糠油として、殻(特に籾殻)の一部は暗渠用資材や燻炭等として、またその製炭過程で留出された乾留気化物は、凝縮されて防虫剤や動物忌避剤、土壌改良剤、水虫治療薬等として利用されているに過ぎない。このように脱脂糠を含む麩糠類は、大部分が飼料化、茸培地化、あるいは肥料化される等して農業用資材として活用される程度に止まっている。これら麩糠類の工業用資材としての利用が模索されている。
【0003】
そのような状況において、麩糠類を炭素化する技術が知られている。しかし、麩糠類を原材料とした多孔性炭素材製品をどのような分野にどのように応用していくかについては現在模索中であり、新たな分野への応用が期待されている。
【0004】
一方、従来、雛人形の顔(人形業界において、首から上の部分、すなわち顔や頭の部分を特に頭(かしら)という)として、作り方の違いにより、桐塑頭、石膏頭、セラミック頭、樹脂(プラスチック)頭等が知られている。桐塑頭(とうそがしら)は、桐の木の粉を正麩糊(しょうふのり)で固めたものを素体とし、その上に貝殻の粉(胡粉(ごふん)ともいう)をニカワで練ったものを塗布し乾燥する工程を十数回繰り返し、手彫りで表情をつけ、その後筆で顔を描くことにより製作される。桐塑頭は、プラスチックや石膏では表現できない趣のある表情豊かな顔、特に肌の色合いが良い顔を作ることができる。しかし、すべての製作が職人による手作業で行われるため、一品もので希少価値がある反面、価格が高いという問題がある。また、この桐塑頭は、温度、湿度の変化に弱く、強度も強くないことから、ひび割れやぶつけた際の表面剥離などが問題となる。次に、石膏頭は、原型から取った型に石膏を流し込んで作り、胡粉を塗布した後乾燥させる工程を数回繰り返したのち、顔を描くことにより製作される。この石膏頭は、原型の出来さえよければ、あとは面相書きが問題となる位なので、比較的安定した品質で同じ顔を大量に生産できるという利点がある。また、価格も低くてすむ。しかし、重さの割に柔らかく、ぶつけるなどできわめて壊れやすいうえ、希少価値はなく、風合いの良い色合いがでない。また、石膏頭の雛人形は壊れると廃棄物となるが、焼却しても頭だけ残り或いは埋めても腐敗しないので、人形業界ではその取り扱いに苦慮している。また、セラミック(陶器や磁器)頭は、型を使って陶土あるいは粘土質の磁土を成形し、焼いて出来上がったものに顔を描くことにより製作される。このセラミック頭の雛人形は、石膏より丈夫で、温度や湿気の変化にも強く、値段もあまり高くない。しかし、型にはまったものしか出来ず、石膏頭と同様、希少価値はない。また、趣のある表情豊かな顔、特に風合いの良い色合いの顔づくりには研究の余地があり、普及していない。また、樹脂頭は、金属型を使用し成形したうえ、顔を描くことにより製作される。この樹脂頭は、ひび割れに強く、かつては中級品以下の普及品の主流であった。しかし、最初に型を作るのが高くつく割に、好みの顔はすぐ変わることから、流行についていけず、さらに石膏頭の価格も低下したので、現在はほとんど作られていない。
【0005】
このように雛人形の頭(かしら)を製作する方法としては幾つかの方法が知られているが、従来の方法はみな一長一短あり、改良の余地があった。新たな雛人形の頭の製作法が望まれていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、趣のある表情で色合いが良く、かつ、ひび割れや剥離も生じない人形の頭をはじめとした人形及び置物を得るための、人形または置物の製造法を提供することを課題とする。
【0007】
また、本発明は、人形や置物の仕上げ工程は職人が行うことで一品製作的な商品価値は維持したまま、安い価格で人形または置物を製造することができる、人形または置物の製造法を提供することを課題とする。
【0008】
また、本発明は、廃棄が容易な地球環境にやさしい人形または置物が製造できる、人形または置物の製造法を提供することを課題とする。
【0009】
さらに、本発明は、上記課題を満足したうえ、所望の形状を安い価格で製造することにより、特に多品種少量生産に適している人形または置物の製造法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、麩糠類を炭化することにより得られた炭素材と熱硬化性樹脂とを混合して得た混合物を注型法で成形することにより得られた成形体を焼成、炭化し、人形または置物の生地を作製すると上記課題が解決できることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
(1)有機原料を不活性ガスまたは真空雰囲気中で焼成、炭化することにより得られた炭素材と、熱硬化性樹脂とを混合して得た混合物を型に入れ、常温・非加圧下で成形することにより得られた成形体を、不活性ガスまたは真空雰囲気中で焼成、炭化することにより、人形または置物の生地を作製することを特徴とする、人形または置物の製造法。
(2)(1)に記載の炭素材が、麩糠類を原料として焼成、炭化することにより得られた麩糠炭であることを特徴とする、(1)に記載の人形または置物の製造法。
(3)前記混合物には、前記炭素材と熱硬化性樹脂の他に、有機溶媒と固化剤が混合されていることを特徴とする、(1)又は(2)に記載の人形または置物の製造法。
(4)前記熱硬化性樹脂が、不飽和ポリエステル樹脂であることを特徴とする、(1)〜(3)のいずれかに記載の人形または置物の製造法。
(5)前記熱硬化性樹脂が、フェノール樹脂とエポキシ樹脂を混合してなることを特徴とする、(1)〜(3)のいずれかに記載の人形または置物の製造法。
(6)(1)〜(5)のいずれかに記載の人形または置物の製造法を用いて作製された、人形の生地。
(7)前記人形の生地は、人形の頭(かしら)部位と衣紋部位とが一体成形された形状を有していることを特徴とする、(6)に記載の人形の生地。
(8)(6)又は(7)に記載の人形の生地に、塗装、植毛、化粧を施した人形。
(9)(8)に記載の人形に、衣装と装飾品を着装させた人形。
(10)前記人形が雛人形であることを特徴とする(8)又は(9)に記載の人形。
(11)麩糠類を原料として焼成、炭化することにより得られた麩糠炭からなる、人形の頭(かしら)部位と衣紋部位とが一体成形された人形の生地。
(12)(11)に記載の人形の生地に、塗装、植毛、化粧を施した人形。
(13)(12)に記載の人形に、衣装と装飾品を着装させた人形。
(14)前記人形が雛人形であることを特徴とする(12)又は(13)に記載の人形。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、趣のある表情豊かな、特に風合いの良い色合いの人形または置物であって、かつ、ひび割れや剥離も生じない人形または置物を製造することができる。
【0013】
また、本発明により、人形や置物の商品価値は下げずに、低価格な人形または置物を製造することができる。特に、所望の形状を容易にかつ安い価格で製造することができるため、多品種少量生産に適している。
【0014】
また、本発明により、廃棄が容易で、地球環境にもやさしく、子供にも安心して与えることができる人形または置物を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
<本発明の製造法>
【0016】
本発明の人形または置物の製造法は、人形または置物の生地の作製に特徴がある。すなわち、本発明は、人形または置物を製造するにあたり、人形または置物の生地を、有機原料を不活性ガスまたは真空雰囲気中で焼成、炭化することにより得られた炭素材を用い、該炭素材と熱硬化性樹脂とを混合した後、該混合物を注型法で成形することにより得られた成形体を、不活性ガスまたは真空雰囲気中で焼成、炭化することにより作製する。
【0017】
本発明で「生地」とは、胡粉等の塗装材を用いて塗装を施したり、釉薬(うわぐすり)や絵の具等の絵付けにより化粧を施したりする前の焼成工程を経ただけの素地をいう。
【0018】
上記有機原料として、麩糠類を使用するのが好ましい。ここで、麩糠類とは、米糠油を搾油した後に大量に残る脱脂糠を始めとし、小麦をひいて粉にしたときに皮屑として出る麩(ふすま)、更には、籾殻や蕎麦殻、大豆殻、グルテンフィード(トウモロコシの皮や実の滓、即ちコーンスターチを製造したときの残滓)等、穀類を加工処理する過程で発生する皮殻をいう。
【0019】
つまり、本発明では、上記炭素材が、麩糠類を原料として焼成、炭化することにより得られた多孔質炭素材である麩糠炭であることがより好ましい。尚、上記麩糠類の定義から明らかなように、「麩糠炭」には、もみがら炭も含まれている。また、さらに好ましくは、「麩糠炭」が、米糠炭であるとよい。
<i>炭素材準備
【0020】
本発明で使用する炭素材(好ましくは麩糠炭)は、予め用意していたものを用いることができる。尚、麩糠炭は以下のようにして得ることができる。
【0021】
麩糠炭は、特開2004−137144号公報に記載の粒状多孔性炭素材または粉末状多孔性炭素材の製造方法に準じて製造することができる。すなわち、麩糠類と、熱硬化性樹脂、動植物性糊料入り水溶液、及び水からなる群より選ばれる少なくとも1種とを混練し、その後乾燥及び造粒して得た麩糠類粒状素材を、不活性ガスまたは真空雰囲気中で焼成、炭化する、或いはさらに粉砕することにより、粒状のまたは粉末状の麩糠炭を得ることができる。該麩糠炭を製造するにあたり、配合割合、焼成温度等各製造条件は、上記特開2004−137144号公報に記載の条件を参酌することができる。
【0022】
用意する炭素材は、次の工程で熱硬化性樹脂と混合しやすいような、形状及び大きさのものを選択しておくとよい。
<ii>混合物の作製
【0023】
上記炭素材と熱硬化性樹脂とを混合することにより混合物を得る。
熱硬化性樹脂としては、後述する注型法による成形を考慮し、常温・非加圧下で成形体が形成できるよう、不飽和ポリエステル樹脂、又はフェノール樹脂とエポキシ樹脂とを混合したものが好ましい。
【0024】
さらに混合物には、有機溶剤、固化剤、及び必要に応じて固化助剤が含まれているとよい。例えば、熱硬化性樹脂の種類により適宜選択されるが、有機溶剤としては、エタノール等のアルコール系溶剤、メチルエチルケトン等のケトン系溶剤からなる有機溶剤や、スチレンモノマー等の芳香族炭化水素類からなる有機溶剤が挙げられる。また、固化剤としては、ケトンパーオキサイドや過酸化ベンゾイル等の有機過酸化物や、エポキシ樹脂固化剤が挙げられる。また、固化助剤としては、有機過酸化物に対しコバルト、鉄、マンガン化合物等の還元剤が有効であり、これら還元剤や変性ポリアミン塩等が挙げられる。さらに具体的には、ケトンパーオキサイドとしてはメチルエチルケトンパーオキサイド、変性ポリアミン塩としては変性脂肪酸ポリアミンなどが挙げられる。
【0025】
本発明では、上記炭素材と不飽和ポリエステル樹脂とスチレンモノマーとケトンパーオキサイドとコバルトとを混合した混合物、又は上記炭素材とフェノール樹脂とエポキシ樹脂とエタノール水溶液とエポキシ樹脂固化剤とを混合した混合物が好ましい。
【0026】
上記混合物における混合割合としては、例えば、麩糠炭100重量部に対し、不飽和ポリエステル樹脂150〜70重量部程度(特に好ましくは100重量部)、スチレンモノマー100〜40重量部程度(特に好ましくは60重量部)、固化剤4〜1重量部程度(特に好ましくは2.5重量部)、固化助剤4〜0.5重量部程度(特に好ましくは2.5重量部)であるとよい。あるいは、麩糠炭100重量部に対し、フェノール樹脂30〜10重量部程度(特に好ましくは20重量部)、エポキシ樹脂30〜10重量部程度(特に好ましくは20重量部)、98%エタノール水溶液25〜15重量部程度(特に好ましくは17重量部)、固化剤10〜5重量部程度(特に好ましくは8重量部)であるとよい。
【0027】
上記した各材料を混合し混合物を得た後、成形工程に供する前に、真空脱気して混合物中の気泡を取り除いておくとよい。脱泡の条件としては、具体的には、20℃、133Pa(1mmHg)で2〜5分間である。
【0028】
混合物に有機溶剤が混合されていると、該混合物は、流動性のよいスラリー状態を示す。注型法を用いて成形を行う本発明においては、このような混合物を成形用材料として用いると、型に材料を容易に流し込むことができるため好ましい。但し、本発明では、有機溶剤を除いた、炭素材と熱硬化性樹脂と固化剤と必要に応じて固化助剤とを混合した混合物であっても使用することができる。その場合、係る混合物は、ペースト状態を示すため、後述するように、成形を行う際には、例えば手詰めで材料を型に入れることができる。<iii>成形
【0029】
上記のようにして得られた混合物を、注型法を用いて成形することにより成形体を形成する。
【0030】
具体的には、上記混合物を型に入れ、常温・非加圧下で成形する。型は人形または置物の所望の形状に合わせた凹型の型からなる。型は、粘土、鋳型、木や、シリコーンなどで形成された型であるとよい。特に好ましくはシリコーン型である。以下に、人形の型を例
にとりシリコーン型の作製方法について説明する。
【0031】
(シリコーン型の作製)
【0032】
1)作製したい形状にした人形の石膏像を予め用意する。該石膏像の表面にはシリコーン膜を被覆しておくとよい。
2)粘土を平らに延ばす。適当な大きさの枠(木又はプラスチック製など)を作り、枠のサイズに合わせて粘土を切り抜く。図1のように、枠(符号1)の中に粘土(符号2)を敷く。
3)上記1)の人形に予め見切線(2つに割る時の基準線;符号3)を付けておく。見切線は、人形の頭(かしら)が、顔側(正面)半分と頭側(うしろ)半分に分割されるようほぼ中央で引かれているとよい。見切線に沿って頭側(うしろ)半分を粘土(符号2)に埋め図2のように人形を上記2)の粘土上に置く。
4)図2の顔側(正面)から見た図を図3に示す。図3に示すように、敷かれた粘土には、棒などでシリコーン型を合わせた時にズレないようにするためのダボ穴(符号4)を付けておくとよい。
【0033】
5)粘土層の上部、すなわち顔側(正面)半分にシリコーン樹脂を充填する(図4の符号5)。シリコーン樹脂には、硬化剤が添加されていることがよく、シリコーン樹脂と硬化剤の混合割合は、シリコーン樹脂が90〜97重量%で、硬化剤が10〜3重量%が好ましく、より好ましくはシリコーン樹脂が95重量%で硬化剤が5重量%である。
シリコーン樹脂としては、具体的には、信越シリコーンK1417、旭化成M8012等を好ましく用いることができる。また、硬化剤としては、シリコーンメーカーが指定する固化剤、例えば、信越シリコーンK1417、旭化成M8012等を好ましく用いることができる。
シリコーン樹脂と硬化剤とを混合した後、充填する前に、真空脱気して混合物中の気泡を取り除いておくとよい。脱泡の条件としては、具体的には、20℃、133Pa(1mmHg)で2〜5分間(好ましくは5分間)である。
6)シリコーン樹脂を充填した後、固化するまで放置する。放置時間としては、0.5〜1.5時間程度が好ましく、より好ましくは1時間である。
【0034】
7)シリコーン樹脂が固化しているのを確認した後、頭側(うしろ)半分が上になるよう反転させ、枠を取り除く。頭側(うしろ)半分にある粘土を取り除く。反対面のシリコーンが付かないように離型剤(ワックス)をシリコーン面に塗っておくとよい。
8)再度、型にぴったりと合わせて枠をはめる。頭側(うしろ)半分に上記5)と同じ手順でシリコーンを充填する(図5の符号6)。
9)シリコーンが固化するまで、上記6)と同じ程度放置する。固化したシリコーン型を枠から出し、型を割って中の人形の原型(中子;符号7)を取り出す。
10)こうして、図6で示すような顔側(正面)の凹型シリコーン型と頭側(うしろ)の凹型シリコーン型を得る。尚、成形用材料をシリコーン型に流し込む場合には、得られたシリコーン型の所望の箇所に彫刻刀等で切り込みを入れ、該材料を流し込む道を作っておくとよい。
【0035】
上記のようにして得られたシリコーン型に、上記<ii>で得られた混合物を入れる方法としては、該混合物がスラリー状であれば、顔側と頭側のシリコーン型を合わせてズレないよう一体化させた型の中に該混合物を流し込めばよい。また、該混合物がペースト状であれば、顔側と頭側のシリコーン型の片方ずつにそれぞれ手で該混合物を詰め、その後2つのシリコーン型を重ね合わせればよい。
【0036】
シリコーン型に混合物を入れた後、常温・非加圧下で放置しておくと、混合物は固化す
る。ここで、常温とは、特に加熱をせず、非加熱の状態下にあることをいう。具体的には30℃以下、例えば15〜30℃の範囲をいう。本発明では、30℃で放置するのがよい。また、放置時間としては、1〜4時間程度が好ましく、より好ましくは2時間である。
【0037】
固化した後、型を取り除けば成形体を得ることができる。そして、この成形体は、次の焼成工程に供される。
<iv>焼成
【0038】
焼成は、真空雰囲気中又は窒素ガス等の不活性ガス雰囲気中といった無酸素状態下で行われる。焼成温度は、成形用材料(混合物)の構成成分により適宜選択されるが、例えば、熱硬化性樹脂に不飽和ポリエステル樹脂を用いた場合は、200〜300℃の温度範囲(好ましくは300℃)に設定するとよい。また、熱硬化性樹脂にフェノール樹脂とエポキシ樹脂との混合系を用いた場合は、500〜700℃の温度範囲(好ましくは700℃)に設定するとよい。
【0039】
焼成・炭化工程における昇温速度、及び炭化後常温まで冷却する冷却速度は、最終製品形態である多孔性炭素材製品にクラック等の問題を生じさせないよう留意し決定するとよい。例えば、熱硬化性樹脂に不飽和ポリエステル樹脂を用いる場合、室温から150℃までは、0.5〜0.6℃/分、150〜300℃までは0.2℃/分の昇温速度で昇温し焼成するとよい。また、熱硬化性樹脂にフェノール樹脂とエポキシ樹脂との混合系を用いる場合、700℃まで、0.2℃/分の昇温速度で昇温し焼成するとよい。
【0040】
尚、成形体を焼成炉において、上記昇温速度で加熱する前に、加熱炉において、150℃ぐらいまで予め加熱しておいてもよい。具体的には、150℃ぐらいまで3段階程度に温度設定し、それぞれの温度で2〜3時間(好ましくは3時間程度)保持し加熱後、成形体を焼成炉に移し換え、昇温し焼成することができる。
【0041】
降温は、700℃〜400℃までは、0.2〜0.5℃/分(より好ましくは0.2℃/分)の降温速度で、それ以下の温度では自然冷却することにより室温に戻せばよい。
<人形及び置物>
【0042】
上述した製造法を用いると、硬質多孔性のセラミック素材からなる人形または置物の生地を作製することができる。
【0043】
本発明では、上記生地を使って人形を製作することができる。特に雛人形を製作するのが好ましい。
また、上記製造法を用いると、所望の形状の人形を容易に製造することができる。特に人形の頭(かしら)部位と衣紋部位とが一体に成形された形状の人形を容易に製造することができる。
【0044】
以下、雛人形を例にとり、具体的な人形の製作方法について説明する。
【0045】
雛人形の頭(かしら)部位と衣紋部位とが一体となった形状の頭(かしら)部分からなるシリコーン型を用意する。上述の製造法により、硬質多孔性の炭素材(ニューセラミック素材)からなる雛人形の生地を作製する。ここで、衣紋部位とは着物の襟の胸で合わさるあたりをいい、図7の符号(a)に相当する部分をいう。
【0046】
従来、雛人形は、図8で示すように、竹串等の串が頭(かしら)に挿入されており(図8(1)参照)、その串を胴体に差し込むことにより、雛人形の頭(かしら)部分と胴体部分を合わせて作製されてきた(図8(2)参照)。本発明の製造法を用いると、従来の
ように串が挿入された頭(かしら)を作製できるだけでなく、頭(かしら)部位と衣紋部位がともに同じ材質(炭素材、具体的には麩糠炭など)で構成された一体型の形状からなる頭(かしら)を作製することができる(図7(1)参照)。このような形状の人形が得られると、図7(1)の符号8で表される人形の頭(かしら)部分を、着物をまとった胴体部分(但し、着物(符号10)は人形の頭(かしら)部分(符号8)が挿入できるよう筒状になっており、かつ該筒の中には、それ以上人形の頭(かしら)部分(符号8)が入り込まないよう、詰めものなどの進入防止手段(符号9)が施されている)に挿入させることができる(図7(2)参照)。従来は、図8(2)で示すように、職人が串を胴体に差し込んだ後は、胴体(衣服)部分と頭(かしら)部分との取り外しは一切行えなかった。しかし、図7(2)の構成とすれば、胴体(衣服)部分と頭(かしら)部分との取り付けや取り外しが容易に行える。つまり、胴体(衣服)部分と頭(かしら)部分との取り付けや取り外しが、家庭でも容易にできることで、人形を収納する際の利便性が向上する。また、後述するように、模様の異なる着物を着装させた胴体を複数種類用意しておけば、頭(かしら)をそれぞれの胴体に付け替えるだけで、所望の柄の着物を着た人形が得られる。
【0047】
上記のようにして得た生地を雛人形の原形とし、これにガラスの目入れ、胡粉の塗装(ニカワに溶かした胡粉を塗り乾燥させる工程を繰り返す(本発明で得られた生地に対しては該工程を数回繰り返すのが好ましい)。胡粉の地塗り、胡粉の置き上げ、胡粉の中塗り等の工程を有する)、口切りや目あけ等の手彫り、化粧(顔書き)、植毛(髪付け)等を施すと、雛人形の頭(かしら)が出来上がる。そして、この雛人形の頭(かしら)に、上述のように胴を合わせ、衣装と装飾品を着装させれば(図7の態様では、胴体部に既に衣装や装飾品が着装されている)、雛人形が完成する。
【0048】
原形を作製した後の上記胡粉の塗装、植毛、化粧等の作業は、従来桐塑頭で行われていたやり方と同じやり方が適用できる。
【0049】
本発明は、従来桐塑頭の製法において、タネと呼ばれる桐粉を固めて作製していた生地を、麩糠炭等の炭素材を用いて作製した生地に換えたことに特徴がある。この炭素材からなる生地は胡粉との相性がよく、この生地は胡粉の水分を程良く吸収することができるせいか、風合いの良い色合いをだすことができる。また、この生地を用いると、胡粉のつきがよく、きれいに塗装することができるため、これを土台とすればそれ以降の工程において職人が持ち前の腕を十分振るうことができ、趣のある表情豊かな顔の人形を製作することができる。また、この生地を用いた人形は、ひび割れや表面剥離も生じにくくなる。また、この生地は、炭素材であるため焼却できるうえ粉砕して土に埋めると土壌改良材になるため、廃棄が容易でありかつ地球環境にもやさしいものである。また、この生地の材質は子供が口にしても害はなく、この生地を用いた人形を安心して子供に提供することができる。
【0050】
また、この原形を作製するまでは、シリコーン型を使用し、所望の形状を安価に生産することができるため、全ての工程を職人が手作業で行う桐塑頭に比べコストをかなり下げることができる。特に多品種少量生産にも適している。さらに、原形作製後、塗装からは、職人が技を発揮することができる手作業工程が入るため、一品製作的な商品価値は維持したままである。
【0051】
また、胴体部分と頭(かしら)部分との取り付けや取り外しが家庭でも容易にできるため、収納の際の利便性が向上する。さらに、例えば、それぞれの季節の合わせた模様の着物を装着させた胴体部分を幾つか用意しておくことにより、頭(かしら)部分を該胴体に付け替えるだけで、季節の応じた着物を着た人形を得ることができる。
【0052】
尚、本発明の製造法の適用対象として、好適な例として雛人形を挙げたが、本発明は、雛人形に限らず、どのような人形であっても適用可能であり、また頭部位又は該部位と衣紋部位とに限らず人形全体の形状にも適用可能である。また、人形に限らず、動物や建物の形状とした置物に適用することも可能である。
【実施例】
【0053】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。
<実施例1>
<i>炭素材準備
【0054】
油を抽出した脱脂糠を50メッシュの篩に掛け通過したものを用いた。この脱脂糠75重量部と、フェノ−ル樹脂[(株)ホーネンコーポレーション製 豊年レジングル−px−1600(商品名)]25重量部とを充分混練した。揮発分を除去するため、80℃に加熱しながら造粒し、4メッシュの篩を通過した麩糠類粒状素材を得た。ロータリーキルンで窒素ガスを流しながら焼成した。その際のロータリーキルン内の温度は、入り口で700℃、中間800℃、出口900℃になるように炉内温度勾配を掛け、原料が急激に高温に曝されてしまわないように注意した。原料を投入してから炭化焼成品が排出されるまで、少なくとも1時間は炉内に保持され続けるようにした。炉から炭化焼成品を排出し、その後水冷却機によって常温まで冷却した。常温にまで戻した炭化済みの麩糠類粒状素材(米糠炭ともいう)を、粉砕機(アトマイザー)によって粉砕し、その後振盪篩によって選別し100μm以下の粉末状の多孔性炭素材である米糠炭を得た。
<ii>シリコーン型の作製
【0055】
攪拌機付き2L容フラスコに、シリコーン樹脂(K1417、信越シリコーン社製)950gを計量して投入し、続いて攪拌しながら硬化剤であるK1417(信越シリコーン社製)50gを約5分間かけて滴下した。良く攪拌混合した後、20℃、133paの条件で5分間、真空脱泡した。次いで、枠の中にシリコーン樹脂を投入した。尚、枠の中には、上述したように、粘土層が敷かれており、該粘土層の上には所望の形状の人形の石膏像(雛人形の雄雛と雌雛をそれぞれ作製する)が置かれている。約1時間してシリコーン樹脂が固化しているのを確認して反転させ、粘土を取り除いた。再び枠をして、その中に上記の同様にしてシリコーン樹脂を投入した。約1時間経過後、固化したシリコーン樹脂を取り出した。型を分割して中子(人形の原型)を取り出して、雄雛を型どったシリコーン型(顔側(正面)の凹型シリコーン型と頭側(うしろ)の凹型シリコーン型)と雌雛を型どったシリコーン型(顔側(正面)の凹型シリコーン型と頭側(うしろ)の凹型シリコーン型)をそれぞれを得た。
<iii>熱硬化性樹脂との混合から焼成まで
【0056】
攪拌機付き2L容フラスコに不飽和ポリエステル樹脂150HRBQTN(昭和高分子社製)100g、スチレンモノマー(大伸化学社製)60g、ナフテックスコバルト(日本化学産業(株)社製)2.5g、メチルエチルケトンパーオキサイト(日本油脂(株)社製)2.5gを計量して投入し、充分に攪拌混合した。次いで、上記<i>で得られた粉末状米糠炭(以下、RBセラミックスともいう)100gを投入し、充分に攪拌混合した後に、20℃、133paの条件で約2分間、脱泡した。不飽和ポリエステル樹脂とRBセラミックスとの混合物は、流動性のよいスラリー状となる。
【0057】
上記<ii>で得られたシリコーン型を顔側と頭側とで一体化してずれないように固定した。該シリコーン型にスラリー状の混合物を注入した。注入時には、シリコーン型を振動させて、鼻や口などに滞留する気泡を除去するようにした。30℃、2時間経過で混合物が固化するので、脱型して成形体を取り出した。
【0058】
成形体は、80℃で3時間、120℃で3時間、150℃で3時間、加熱炉で加熱した後、焼成炉で、N2ガス雰囲気中で300℃まで昇温し焼成した。室温から150℃までは、0.5〜0.6℃/分、150〜300℃までは0.2℃/分の昇温速度で昇温し、300℃で3時間保持した後、加熱をやめ自然冷却により室温まで戻した。その後、雄雛と雌雛の両雛人形の生地を炉から取り出した。この生地は、頭(かしら)部位と衣紋部位とが一体成形された形状を有している。
【0059】
この生地を雛人形の原形とし、これにガラスの目入れ、胡粉を塗り、手彫り、化粧、植毛を施すことにより、雛人形の頭(かしら)部分を得た。雄雛の該頭(かしら)部分の長さは約17.5cm、雌雛の該頭(かしら)部分の長さは約14cmであった(図7(1)符号(b)参照)。
着物を装着させた胴体部分に上記で得られた該頭(かしら)部分を挿入させ(図7(2)参照)、雄雛と雌雛の雛人形を一体ずつ作製した。
<実施例2>
【0060】
実施例1において、<iii>工程を以下のように換えた他は、実施例1と同様にして雛人形の生地を得た。
【0061】
攪拌機付き2L容フラスコにフェノール樹脂フェノライトST611LV(大日本インキ化学工業(株)社製)100g、98%エタノール水溶液85g、エポキシ樹脂ARADUR5052CH(Vantico社製)100gを加えて充分に攪拌混合して均一にした後、硬化剤であるエポキシ樹脂接着剤Hardener HY956(ナガセケムテックス社製)40gを滴下して、均一に混合した。次いで、上記<i>で得られた粉体RBセラミックス500gを計量して、この混合液に投入して均一なスラリー液を得た。攪拌しながら、20℃、133paの条件で約5分間、脱泡した。
【0062】
脱泡後、シリコーン型へ混合物を注入した。注入時には、シリコーン型を振動させて、鼻や口などに滞留する気泡を除去するようにした。30℃、2時間経過で混合物が固化するので、脱型して成形体を取り出した。
成形体は、60℃で3時間、90℃で3時間、150℃で3時間、加熱炉で加熱した後、一端100℃以下に冷却してから、焼成炉に移し替え、該焼成炉で、N2ガス雰囲気中で700℃まで昇温し焼成した。焼成炉では、0.2℃/分のゆるやかな昇温速度で昇温し、700℃で3時間保持した後、700℃から400℃までの降温速度も0.2℃/分となるように調整し焼成品が割れないように留意した。その後、雄雛と雌雛の両雛人形の生地を炉から取り出した。
<実施例3>
【0063】
実施例1において、<iii>工程を以下のように換えた他は、実施例1と同様にして雛人形の生地を得た。
【0064】
スチレンモノマーを入れない他は、不飽和ポリエステル樹脂、固化剤であるメチルエチルケトンパーオキサイト、固化助剤であるナフテックコバルトは実施例1と同じものを用いた。不飽和ポリエステル樹脂、メチルエチルケトンパーオキサイト、ナフテックコバルト、RBセラミックスの混合割合を100:2.5:2.5:100として、ペースト状の混合物を得た。該ペースト状の混合物を、顔側と頭側のシリコーン型の片方ずつにそれぞれ手で詰め、その後2つのシリコーン型を重ね合わせ一体とした。2時間後、混合物が固化した後、脱型して成形体を取り出した。
【0065】
実施例1〜3で得られたこれらの雛人形は、顔の色味が良く、趣のある表情に仕上がっていた。また、この生地を使いこの上に胡粉を塗装していく作業を行った職人によると、
胡粉のつきがよく塗装がしやすく、数回の塗装できれいな仕上がりの頭が得られるとのことであった。これらの雛人形は、ひび割れや表面剥離も生じにくいものであった。
さらに、頭(かしら)部位と衣紋部位とが一体成形された所望の形状の人形が容易にかつ安価に作製できた。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】シリコーン型の作製を説明するための概略図を示す。
【図2】シリコーン型の作製を説明するための概略図を示す。
【図3】シリコーン型の作製を説明するための概略図を示す。
【図4】シリコーン型の作製を説明するための概略図を示す。
【図5】シリコーン型の作製を説明するための概略図を示す。
【図6】(1) 顔側(正面)の凹型シリコーン型を示す図である。 (2) 頭側(うしろ)の凹型シリコーン型を示す図である。
【図7】(1) 雛人形の頭(かしら)部位と衣紋部位とが一体となった形状を示す図である。 (2) (1)の人形の頭(かしら)部分と着物を装着させた胴体部分とを合わせてなる人形を示す図である。
【図8】(1) 従来の雛人形の頭(かしら)部位の形状を示す図である。 (2) (1)の人形の頭(かしら)部分と着物を装着させた胴体部分とを合わせてなる人形を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機原料を不活性ガスまたは真空雰囲気中で焼成、炭化することにより得られた炭素材と、熱硬化性樹脂とを混合して得た混合物を型に入れ、常温・非加圧下で成形することにより得られた成形体を、不活性ガスまたは真空雰囲気中で焼成、炭化することにより、人形または置物の生地を作製することを特徴とする、人形または置物の製造法。
【請求項2】
請求項1に記載の炭素材が、麩糠類を原料として焼成、炭化することにより得られた麩糠炭であることを特徴とする、請求項1に記載の人形または置物の製造法。
【請求項3】
前記混合物には、前記炭素材と熱硬化性樹脂の他に、有機溶媒と固化剤が混合されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の人形または置物の製造法。
【請求項4】
前記熱硬化性樹脂が、不飽和ポリエステル樹脂であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の人形または置物の製造法。
【請求項5】
前記熱硬化性樹脂が、フェノール樹脂とエポキシ樹脂を混合してなることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の人形または置物の製造法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の人形または置物の製造法を用いて作製された、人形の生地。
【請求項7】
前記人形の生地は、人形の頭(かしら)部位と衣紋部位とが一体成形された形状を有していることを特徴とする、請求項6に記載の人形の生地。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の人形の生地に、塗装、植毛、化粧を施した人形。
【請求項9】
請求項8に記載の人形に、衣装と装飾品を着装させた人形。
【請求項10】
前記人形が雛人形であることを特徴とする請求項8又は9に記載の人形。
【請求項11】
麩糠類を原料として焼成、炭化することにより得られた麩糠炭からなる、人形の頭(かしら)部位と衣紋部位とが一体成形された人形の生地。
【請求項12】
請求項11に記載の人形の生地に、塗装、植毛、化粧を施した人形。
【請求項13】
請求項12に記載の人形に、衣装と装飾品を着装させた人形。
【請求項14】
前記人形が雛人形であることを特徴とする請求項12又は13に記載の人形。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−298674(P2006−298674A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−119467(P2005−119467)
【出願日】平成17年4月18日(2005.4.18)
【出願人】(504360761)
【出願人】(504360163)株式会社矢作人形店 (2)
【出願人】(396009458)三和油脂株式会社 (10)
【Fターム(参考)】