説明

人数推定装置及び人数推定方法

【課題】在室人数を推定する人数推定装置であって、安価かつ簡便に在室人数を推定することができ、無人であることを正確に判定できる人数推定装置等を提供する。
【解決手段】在室人数を推定する人数推定装置が、前記推定の対象となる部屋における人の動作を検知する人感検知手段と、前記部屋内のCO濃度を測定するCO濃度測定手段と、前記人感検知手段の検知結果に基づいて、前記部屋の在室人数が0であると推定し、前記在室人数が0であると推定しない場合に、前記CO濃度測定手段の測定結果に基づいて前記在室人数を推定する制御手段とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、在室人数を推定する人数推定装置等に関し、特に、安価かつ簡便に在室人数を推定することができ、無人であることを正確に判定できる人数推定装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、省エネルギー、セキュリティー等の観点から在室人数の管理を行うための手法が種々提案されている。
【0003】
その中の一つの手法としてRFID(Radio Frequency Identification)タグを利用したものがある。この手法は、RFIDタグをリーダーに読ませ、その入室情報をイントラネットを介してデータベースに保存し、在室人数を判断しようとするものである。
【0004】
また他の手法として、照明の制御等に用いられる人感センサを利用するものも提案されており、当該手法は、部屋の出入口に複数のセンサを設置し、それらの検出時刻の差から進行方向を推定して入退出を管理しようとするものである。
【0005】
さらに他の手法としては、画像解析技術を用いた人数推定方法が提案されている。
【0006】
また、他の手法として、無線端末を利用したものがある。当該手法は、各人に専用の無線端末を携帯させ、受信用無線端末を部屋や廊下に設置して人の位置を推定することから在室人数を導き出そうとするものである。
【0007】
一方、下記特許文献1−3には、赤外線センサを用いた在室等の検知に係る手法が提案されている。
【0008】
また、下記非特許文献1には、環境センサネットワークを利用した消費電力削減システムの提案の中で、CO濃度から人数の把握をすることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平6−258454号公報
【特許文献2】特開平10−39044号公報
【特許文献3】特開2002−350555号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】立川智一他、「環境センサネットワークを利用した消費電力削減システムの制御アルゴリズム」、日本機械学会 関東支部 第14期 総会講演会 講演論文集、平成20年3月、通計番号No.080-1、p.459−460
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上述したRFIDタグを用いる方法では、各人がRFIDタグを持つ必要があるため用途によっては現実的でなく、各個人の行動把握が可能となることからプライバシー保護の点で課題がある。
【0012】
また、上記人感センサを用いる手法では、在室人数を推定する場合には、上述のように人の移動方向を見るために設置上の制約があり、場所によっては推定が難しい場合がある。
【0013】
また、上記画像解析技術を用いる手法の場合には、リアルタイムに画像を解析するのに十分な計算資源を必要とするため、システム導入コストが高額になってしまうという課題がある。
【0014】
さらに、上記無線端末を利用する手法は、各人が専用の端末を携帯する必要があるためコスト面で課題があり、また、誤差も比較的大きい。
【0015】
また、上記非特許文献1に示されるようなCO濃度を用いる手法は、判定に時間がかかる、推定人数に誤差が生じるといった課題があり、特に、空調管理や照明の制御等、無人であるか否かが重要な要因である目的に当該推定結果を用いるには問題があった。
【0016】
そこで、本発明の目的は、在室人数を推定する人数推定装置であって、安価かつ簡便に在室人数を推定することができ、無人であることを正確に判定できる人数推定装置、等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の目的を達成するために、本発明の一つの側面は、在室人数を推定する人数推定装置が、前記推定の対象となる部屋における人の動作を検知する人感検知手段と、前記部屋内のCO濃度を測定するCO濃度測定手段と、前記人感検知手段の検知結果に基づいて、前記部屋の在室人数が0であると推定し、前記在室人数が0であると推定しない場合に、前記CO濃度測定手段の測定結果に基づいて前記在室人数を推定する制御手段とを有する、ことである。
【0018】
更に、上記の発明において、その好ましい態様は、前記制御手段による、前記人感検知手段の検知結果に基づく前記部屋の在室人数が0であるとの推定は、前記検知結果が、所定時間連続して前記人の動作を検知しないことを示している場合になされる、ことを特徴とする。
【0019】
更に、上記の発明において、好ましい態様は、前記所定時間は、在室人数が1である場合に当該時間内に人が少なくとも1回動作する確率が1に近い時間である、ことを特徴とする。
【0020】
更にまた、上記の発明において、好ましい態様は、前記制御手段は、前記CO濃度測定手段の測定結果に基づく在室人数の推定結果が0以下である場合には、前記在室人数を1と推定する、ことを特徴とする。
【0021】
また、上記の発明において、その好ましい態様は、前記制御手段による、前記CO濃度測定手段の測定結果に基づく在室人数の推定は、第一時刻の前記部屋におけるCO濃度を、当該部屋における換気量を考慮した、前記第一時刻よりも前の第二時刻における前記CO濃度からの影響と前記部屋におけるCOの発生からの影響、に基づいて表す関係式に、前記CO濃度測定手段によって測定された異なる2時刻におけるCO濃度を、前記第一時刻と前記第二時刻の濃度として代入して、前記部屋に存在する人の数を求めることによってなされる、ことを特徴とする。
【0022】
更に、上記の発明において、その好ましい態様は、前記制御手段は、前記CO濃度測定手段の測定結果に基づく在室人数の推定に用いる、前記部屋の外部のCO濃度と前記部屋の換気量を、前記人感検知手段の検知結果に基づいて前記部屋が無人であると推定した際の、前記CO濃度測定手段の測定結果に基づいて定める、ことを特徴とする。
【0023】
また、上記の発明において、一つの態様は、前記人感検知手段は、赤外線センサである、ことを特徴とする。
【0024】
上記の目的を達成するために、本発明の別の側面は、人感検知手段とCO濃度測定手段と制御手段を備え、在室人数を推定する人数推定装置における人数推定方法が、前記人感検知手段が、前記推定の対象となる部屋における人の動作を検知する工程と、前記CO濃度測定手段が、前記部屋内のCO濃度を測定する工程と、前記制御手段が、前記人感検知手段の検知結果に基づいて、前記部屋の在室人数が0であると推定し、前記在室人数が0であると推定しない場合に、前記CO濃度測定手段の測定結果に基づいて前記在室人数を推定する工程とを有する、ことである。
【0025】
本発明の更なる目的及び、特徴は、以下に説明する発明の実施の形態から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明を適用した人数推定装置を使用した環境情報取得システムの本実施の形態例に係る構成図である。
【図2】人数推定装置1の本実施の形態例に係る構成図である。
【図3】人数推定装置1が行う在室人数の推定処理の処理手順を例示したフローチャートである。
【図4】在室者が動作を起こすまでの経過時間と在室人数の関係を示したグラフである。
【図5】部屋のCO濃度と換気量の関係を説明するための図である。
【図6】CO濃度センサ11の測定結果の一例を在室人数と共に示した図である。
【図7】検証実験で用いた部屋のCO濃度の測定値と推定式によるCO濃度値を時系列に示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態例を説明する。しかしながら、かかる実施の形態例が、本発明の技術的範囲を限定するものではない。なお、図において、同一又は類似のものには同一の参照番号又は参照記号を付して説明する。
【0028】
図1は、本発明を適用した人数推定装置を使用した環境情報取得システムの本実施の形態例に係る構成図である。図1に示す人数推定装置1が本発明を適用した装置であり、在室人数が0であるとの推定は赤外線センサの検出値に基づいて行い、在室人数が0であると推定できない場合には、CO濃度センサの測定値に基づいて在室人数の推定を行って、無人であることを正確に判定できるようにすると共に、安価かつ簡便な推定装置を提供しようとするものである。
【0029】
図1に示すように、本人数推定装置1は在室人数を推定する部屋2(閉空間)の内部に設置される。本実施の形態例では、当該人数推定装置1を使用する場合の一例としての、環境情報取得システム100を示し、当該システムでは、複数の部屋2のそれぞれに当該人数推定装置1が設置され、図1に示すように、それらが、環境情報サーバ3とネットワーク4で接続される。
【0030】
人数推定装置1の詳細については後述するが、当該装置で取得された各部屋2の在室人数、二酸化炭素濃度、換気量等の情報が、適宜、ネットワーク4を介して環境情報サーバ3に送信され、これらの情報が環境情報サーバ3に使用可能な状態で保持される。そして、保持されたこれらの情報は、例えば、人数推定装置1が設置される各部屋2の空調制御や環境把握に用いることができる。なお、部屋2には、図示していないが、空調設備、人の出入りのためのドア、窓などがある。また、環境情報サーバ3は、パーソナルコンピュータなどのコンピュータシステムで構成することができ、ネットワーク4は、LAN、WAN、インターネット等で構成することができる。
【0031】
図2は、人数推定装置1の本実施の形態例に係る構成図である。図2に示すように、人数推定装置1は、CO濃度センサ11、制御部12、操作部13、I/F部14及び赤外線センサ15を備える。
【0032】
CO濃度センサ11は、部屋2の二酸化炭素濃度を測定するセンサである。当該センサには市販されている従来装置を用いることができ、その測定原理は、二酸化炭素が吸収しやすい波長の光を測定対象に当て、吸収されなかった光の量から二酸化炭素濃度を検出するというものである。かかるCO濃度センサ11は、所定の時間間隔(例えば、5秒間隔)で二酸化炭素の濃度測定を行い、測定結果を、随時、制御部12に通知する。
【0033】
制御部12は、一般的なマイクロコンピュータ等で構成することができ、図2に示すように、CPU121、ROM122、RAM123等を備える。本制御部12は、後述する赤外線センサ15及び上記CO濃度センサ11の検出値を用いて、本人数推定装置1が推定する部屋2の在室人数を決定する部分である。当該制御部12で行われる在室人数の推定処理、また、そのための準備(キャリブレーション)の詳細については後述する。ROM122には、上記処理の手順を示すプログラムやデータが格納され、CPU121は、当該ROM122に格納されるプログラムに従って上記各処理を実行する。RAM123は、上記処理の過程で必要なデータ等を一時的に保持する。
【0034】
次に、操作部13は、本人数推定装置1のユーザとのインターフェースであり、ユーザが上記制御部12での処理に必要な各パラメータ値を入力する際や、制御部12での処理結果を、すなわち、推定された在室人数等をユーザに表示する際に用いられる。図2に示すように、操作部13には、表示パネル131及び操作ボタン132が備えられ、それぞれ、上記ユーザへの表示及びユーザによる入力に用いられる。
【0035】
I/F部14は、本人数推定装置1と外部とのインターフェースを司る部分であり、ここでは、前述した環境情報サーバ3との通信が当該I/F部14を介して行われる。具体的には、本人数推定装置1での在室人数の推定結果、二酸化炭素濃度の測定結果等が環境情報サーバ3に送信され、また、必要であれば、環境情報サーバ3から上記推定処理に必要なパラメータ値が人数推定装置1に送信されてRAM123等に設定される。
【0036】
最後に、赤外線センサ15は、いわゆる人感センサとして照明の自動ON・OFFなどに用いられる従来装置を利用することができ、当該センサでは、焦電効果を利用して人などの動作(動き)を検知することができる。赤外線センサ15は、所定の時間間隔(例えば、0.3秒間隔)でセンシングを行い、上記制御部12からの問い合わせに対して、上記動作を検知した場合には1を、動作を検知しない場合には0を返信する。また、当該赤外線センサ15は、部屋2全体の人の動きを検知できるような数と位置で部屋2内に設けられる。ここでは、一例として、4つの赤外線センサ15を部屋2の天井に配置し、それらと人数推定装置1本体とは有線又は無線で通信可能に接続される。なお、ここでは、人感センサとして赤外線センサを用いるが、超音波センサ、可視光センサ等を用いることもできる。
【0037】
以上説明したような構成を有する本実施の形態例における環境情報取得システム100では、人数推定装置1で行われる在室人数の推定処理に特徴があり、以下、その具体的な内容について説明する。
【0038】
図3は、人数推定装置1が行う在室人数の推定処理の処理手順を例示したフローチャートである。まず、図3に基づいて、当該推定処理の全体の処理手順について説明する。
【0039】
人数推定装置1の電源を投入する操作等により人数推定処理が開始されると、制御部12は、部屋2の推定在室人数nを0とする初期化を行う(ステップS1)。次に、制御部12は、待機時間Tなるものを設定する(ステップS2)。かかる待機時間Tは、当該時間の間に人の動作が検知されなければ部屋2が無人であると判断できる十分な長さの時間である。この待機時間Tの値は、所定の関係式によって求めるが当該関係式及び待機時間Tの値の決定方法については後述する。制御部12は、前回の推定処理で得られた推定在室人数nによって、この待機時間Tの値を設定する。具体的には、前回の推定在室人数nが0であれば待機時間Tの値を0に設定し、前回の推定在室人数nが1以上であれば待機時間Tの値を上記関係式に基づいて決定した値に設定する。
【0040】
次に、人数推定装置1では、部屋2内のCO濃度の測定及び動作の検出を行う(ステップS3)。前述の通り、CO濃度センサ11はここでは5秒間隔でCO濃度の測定を行うので、当該ステップは5秒間隔で実行され、従って、以下に説明する人数決定処理の各ステップも5秒間隔で行われる。よって、ここで説明する例では、5秒間隔で在室人数の推定処理がなされることになる。
【0041】
CO濃度の測定は、具体的には、CO濃度センサ11の測定値が制御部12に送られて、RAM123に測定時刻と共に記録される。また、部屋2内の動作の検出は、上述した赤外線センサ15の検知した値を制御部12が取得して、RAM123に検知時刻と共に記録する。前述の通り、ここで示す例では、0.3秒毎に赤外線センサ15の検知した値(1又は0)が得られるので、その度に当該取得と記録が実施され、当該ステップS3では、新たに5秒分の値が記録されていることになる。
【0042】
次に、制御部12は、前回人数の推定を行った以降、すなわち、この例では、この時点までの5秒間に、人の動作があったか否かを判定する(ステップS4)。具体的には、上記この5秒間に新たに記録された赤外線センサ15の検知値(1又は0)をチェックする。当該チェックの結果、全ての上記検知値が0であれば、人の動作無しと判定して処理がステップS5に移行する。一方、上記検知値に1があれば人の動作有りと判定して処理がステップS6に移行する。
【0043】
ステップS5では、制御部12は、上述した待機時間T中であるか否かを判定する。具体的には、上記記録された赤外線センサ15の検知値をチェックし、その値が1であった最新の時刻から、その時点での時刻までに上記設定されている待機時間Tが経過しているか否かをチェックする。換言すれば、その時点まで、0の上記赤外線センサ15の検知値が連続して記録されている期間が上記待機時間Tを超えているか否かをみる。
【0044】
そして、上記待機時間Tが経過している、又は、上記待機時間Tを超えていると判定した場合には(ステップS5のNo)、制御部12は、待機時間T中でないと判断し、部屋2が無人であると判断できる十分な時間、人の動作が検知されなかったので、部屋2が無人であると判定し、n=0として、今回の在室人数推定処理を終了する(ステップS10)。
【0045】
一方、上記待機時間Tが経過していない、又は、上記待機時間Tを超えていないと判定した場合には(ステップS5のYes)、制御部12は、待機時間T中であると判断し、処理がステップS6に移行する。すなわち、赤外線センサ15の検知結果では、この時点で部屋2が無人であると判断できないので、CO濃度に基づく在室人数の推定を実行する。
【0046】
当該CO濃度に基づく推定処理は、上記記録されたCO濃度センサ11の測定値に基づいて行うが具体的な処理内容については後述する。
【0047】
制御部12は、次に、当該CO濃度に基づく推定の結果が1以上であるか否か、すなわち、推定した在室人数nが0よりも大きいか否かをチェックし(ステップS7)、1以上であれば(ステップS7のYes)、上記CO濃度に基づいて推定した人数を今回の推定結果として、今回の在室人数推定処理を終了する(ステップS8)。
【0048】
一方、推定した在室人数nが0よりも大きくない場合には(ステップS7のNo)、在室人数n=1として、今回の在室人数推定処理を終了する(ステップS9)。この場合には、上述した赤外線センサ15の検知結果に基づいて部屋2が無人であると判断されていないので、CO濃度に基づく推定により無人であるとの結果が出ても無人であると判定しない。
【0049】
以上のようにして今回の推定処理が終了するが、人数推定装置1の電源がOFFにされるなど当該処理を終了する旨の指示がなされるまで、上記ステップS2からの処理が繰り返し実行され、所定の時間間隔で(ここでは5秒毎に)推定結果が得られる。そして、制御部12は、各推定結果を、RAM123に記録する。
【0050】
その後、上記処理を終了する旨の指示がなされた時点で在室人数の推定処理が終了する。
【0051】
次に、上述した待機時間Tについて説明する。まず、部屋にいる人が所定時間T内に動作を起こす確率Pが指数分布に従うものと仮定して、当該確率Pを下記(1)式で表わす。
【0052】
P=1−exp(−nλT) (1)
ここで、T:経過時間、λ:単位時間に人間1人が動作を起こす確率、n:在室人数、及び、P:T内に在室者が動作を起こす確率、である。
【0053】
そして、上記(1)式を変形すると、下記(2)式が得られる。
【0054】
T=−ln(1−P)/(nλ) (2)
当該(2)式において、P=1であるときのTは、n人の在室者のうちいずれかの人が必ず動作を起こす経過時間であり、実際にこの時間を経過しても動作が起こらない場合には在室者はn人よりも少ないと判断できる。ただし、P=1であるときのTはその値が無限大となってしまうため、概ね動作を起こすであろう経過時間Tを求めるため、ここでは、P=0.95とする。また、上記(2)式において、λを実験値に基づき1/60(回/秒・人)とする。
【0055】
このようにしてPとλの値を定めた(2)式は、在室者の誰かが概ね動作を起こすであろう経過時間Tを在室人数nを変数として表わした式となる。図4は、在室者が動作を起こすまでの経過時間と在室人数の関係を示したグラフである。図4において、三角形のプロット点は、上記Pとλの値を定めた(2)式による経過時間Tと在室人数nの関係を示している。一方、図4において丸のプロット点は、実験値を示している。すなわち、各在室人数の時に実際に動作が発生するまでの時間を計測しプロットしたものである。
【0056】
双方を比較するとよく一致しており、従って、在室者が動作を起こすまでの時間を求めるのに上記Pとλの値を定めた(2)式を用いることができると考えられる。そこで、ここでは、P=0.95、λ=1/60としたときの上記(2)式において、n=1とした場合の経過時間Tを、在室者がいる時に動作が発生するであろう経過時間と定め、上述した待機時間Tをこの値とした。当該経過時間Tが経過しても動作が発生しない場合には、概ね在室人数が1よりも少ない、すなわち、無人であると考えられるので、この値を上記待機時間Tとして採用することができる。
【0057】
次に、CO濃度に基づく在室人数の推定方法について説明する。まず、当該推定に用いる計算式について説明する。図5は、部屋のCO濃度と換気量の関係を説明するための図である。図5に示す図において、矩形の閉じられた空間が推定対象の部屋2であり、当該部屋の換気量がQ(m/h)であり、室内のCO濃度がC(ppm)である。また、部屋2の外部のCO濃度がC(ppm)であり、室内のCO発生量がM(m/h)である。また、部屋の容量はV(m)で表す。
【0058】
図5に示す状態が、換気が行われる部屋2における一般的な状態を示しており、所定時間(dt)内において、部屋2に流入される(追加される)CO質量から、部屋2から流出されるCO質量を差し引いたものが、部屋2に蓄積されるCO質量であることから、下記(3)式が成り立つ。
【0059】
(CQdt+Mdt)−CQdt=VdC (3)
上記(3)を順次変形していくと下記(4)式を得ることができる。
【0060】
C=C+(C−C)e−Qt/V+(1−e−Qt/V)M/Q (4)
ここで、Cは室内のCO初期濃度(ppm)であり、tはCO初期濃度Cを測定した時刻からCO濃度Cを測定した時刻までの経過時間(h)である。
【0061】
そして、本実施の形態例では、部屋2に在室している人員がCOの発生源であるので、在室人数をn(人)、一人当たりのCO発生量をk(m/(h・人))とすると、M=knであり、上記(4)式は下記(5)式となる。
【0062】
C=C+(C−C)e−Qt/V+(1−e−Qt/V)kn/Q (5)
本人数推定装置1では、当該(5)式を用いて在室人数の推定を行う。(5)式において、外部のCO濃度Cと換気量Qは、後述するが、予め値が設定されている。また、一人当たりのCO発生量k及び部屋の容量Vは、予めRAM123にそれらの値が設定されている。従って、前記(5)式において、未知数はC、C、t、及びと在室人数nとなる。ここで、tを前述したCO濃度センサ11からの測定結果の通知間隔(例えば、5秒)とし、従って、その間隔の前後で通知されるCO濃度値がC及びCとなる。よって、前記(5)式において未知数は在室人数nだけとなり、制御部12は、上記通知間隔毎に前記(5)式に通知されるCO濃度値を適用して在室人数nを算出する(ステップS6)。
【0063】
当該処理により、上記通知間隔毎に在室人数nが求められが、上記通知間隔が例えば5秒と短い場合には、複数の上記通知間隔における在室人数nを、個々の通知間隔で求めたnの平均値として求め、その値を在室人数nとするようにしてもよい。
【0064】
次に、上述した外部のCO濃度Cと換気量Qの設定について説明する。まず、外部のCO濃度Cは、ほぼ一定の値であるとして予め値をRAM123に設定しておいても良いが、濃度Cは在室人数が0の定常時のCO濃度であり、本人数推定装置1の前述したCO濃度センサ11と赤外線センサ15を用いて値を定めることができる。
【0065】
すなわち、前述したとおり、赤外線センサ15の検出値と待機時間Tを用いることによって部屋2が無人であることが判定できるので、制御部12は、無人であると判定された際のCO濃度センサ11の測定値をCとする。ただし、部屋2が無人になってからしばらくの間は、在室者の影響が除去されないので、CO濃度の変化が所定値よりも小さい場合のCO濃度をCとする。
【0066】
具体的には、下記(6)式を満たしたときのCO濃度をCとして採用する。
【0067】
C−C≦EC (6)
ここで、EはCO濃度センサ11の測定誤差であり(例えば、0.02)、上記(6)を満たせば、CO濃度の変化量が測定誤差範囲内に収まり、CO濃度が収束したと考える。
【0068】
図6は、CO濃度センサ11の測定結果の一例を在室人数と共に示した図である。図6に示すグラフにおいて、横軸が時刻であり、縦軸が測定されたCO濃度及び在室人数である。グラフから、在室者がいる場合にはCOが発生されてその濃度が高くなり、在室者が0の場合にはその値が低く推移することがわかる。グラフの左側の部分(10:30位まで)はCO濃度が安定しており、在室者がいなくなってから十分な時間がたったと考えられるので、このような期間におけるCO濃度を測定してCとすることができる。
【0069】
なお、在室者がいない時間帯であるとの判断は、代替として、CO濃度センサ11から所定時間(例えば、5秒)間隔で測定値が通知されるので、それらの値が、所定の低い値以下で推移している場合に当該時間帯であると判断することができる。また、在室者がいない時間帯が絶対時刻として、例えば、午後11時から午前5時までのように、予め設定されていてもよい。また、部屋2の外部に取り付けられたCO濃度センサの測定値を受信してCの値を設定するようにしてもよい。
【0070】
次に、換気量Qの設定について説明する。上記(5)式において、時間tの開始時刻における室内CO濃度C及び終了時刻の室内CO濃度Cは、上述の通り、CO濃度センサ11からの定期的な測定値の通知により値を知ることができ、また、上述の通り、部屋の容量V、一人当たりのCO発生量k、及び外部のCO濃度Cの各値は設定されているので、値が未知なパラメータは在室人数nと換気量Qである。
【0071】
そこで、部屋2の在室人数nがわかる時間帯においては、上記(5)式において換気量Qのみが未知となり、すなわち、かかる時間帯の測定されたCO濃度を(5)式に適用することにより換気量Qを算出することができる。
【0072】
ここでは、上述したように、赤外線センサ15の検出値と待機時間Tを用いることによって部屋2が無人であることが判定できるので、制御部12は、無人であると判定された際のCO濃度センサ11の測定値を(5)式に適用することにより換気量Qを算出する。図6に示した例では、18:00以降無人になるので、その後のCO濃度が降下していく過程の時間帯(時刻t−時刻t)において、上記換気量Qの算出を行う。この場合、n=0、t=t−tとし、Cを初期濃度(C)、Cをt経過後の濃度(C)として(5)式に適用することにより換気量Qが求められる。
【0073】
なお、在室人数nが既知である時間帯は、他の方法で決定しても良い。まず、ユーザがその時間帯を入力する方法がある。この場合、ユーザは部屋2の在室人数を把握して、その人数であった時間帯とその人数の情報を操作部13又は環境情報サーバ3から入力し、制御部12は入力されたこれらの情報により上記決定を行う。また、部屋2の最終退出者が退出した後は在室人数が0になるので、当該部屋2の電燈が消されるなどの行為によって決定することもできる。
【0074】
また、制御部12は、当該換気量Qの算出を繰り返し実行し、それら算出されたQの平均値を求め、その求められた平均値を当該部屋2の換気量とするようにしてもよい。
【0075】
このようにして本人数推定装置1では、外部のCO濃度Cと換気量Qの設定がなされるが、これらの値は、季節等により変化することがあり得るので、所定のタイミングで上述した値の決定を行い、常に最新の値に更新しておくことが好ましい。これにより、上記(5)式を用いた人数推定処理のキャリブレーションが随時実行されることになる。そして、当該キャリブレーションに、無人であるとの判定精度が高い上述した赤外線センサ15による方法が用いられるので、当該推定処理の結果の精度も向上する。
【0076】
以上説明したように、本人数推定装置1における人数推定処理が実行されるが、推定結果は、RAM123に記録されたものが所定のタイミングでネットワーク4を介して環境情報サーバ3に送信されて利用される。具体的には、空調や照明の制御等に用いられる。特に、在室人数推定結果が0である場合には、その部屋の空調や照明をオフにするなど省エネルギーの観点で効果が得られるように制御を行うことが可能である。
【0077】
また、推定された在室人数n、上記決定される換気量Q、CO濃度センサ11による測定値などを、本人数推定装置1の表示パネル131に表示するようにしても良い。
【0078】
次に、上述したCO濃度に基づく人数推定を、換気量Qを上記求めた一定の値として行うことの検証結果について説明する。図7は、検証実験で用いた部屋のCO濃度の測定値と推定式によるCO濃度値を時系列に示したグラフである。図7において幅のある線で示されるCO計測濃度はCO濃度の測定値であり、値に幅があるのはCOセンサの測定誤差を含めて表現しているからである。
【0079】
一方、図7においてCO推定濃度の線は、上記(5)式により、所定の時間間隔tでCO濃度Cを求めてプロットしたものである。ここで、図7の人数は、上記部屋の実際の在室人数nである。上記CO推定濃度は、上記(5)式に、Cを求める期間のnと、既知数である外部のCO濃度C、部屋の容量V、及び一人当たりのCO発生量kと、前期間のCO濃度Cと、予め想定した換気量Qを適用して求めたものである。ここで、換気量Qは、CO計測濃度とCO推定濃度の値の水準が概ね合うように設定されたものであり、当該実験の時間帯において一定の値を用いた。
【0080】
図7から分かるように、CO推定濃度は、実験した時間帯のどの時間においてもほぼCO計測濃度と一致しており、具体的には、CO推定濃度の83.3%が、誤差範囲を考慮したCO計測濃度の線内に収まった。この結果は、在室人数nが異なる各時間帯において換気量Qの設定が正しいことを示しており、当該実験から、在室人数nに関わらず換気量Qの値を概ね一定として扱える、ということが言える。従って、上述した(5)式に基づく人数推定は妥当であるといえる。
【0081】
また、図3に基づいて説明した本人数推定装置1の処理アルゴリズムと同様の処理アルゴリズムで在室人数を推定した場合と、すなわち、赤外線センサとCO濃度センサを併用した場合と、CO濃度センサのみを用いた場合の実験結果を比較すると、誤差率(平均誤差)=誤差合計/推定回数(人)が、前者では0.4人、後者では0.9人であり、赤外線センサとCO濃度センサを併用した場合に推定精度が向上するといえる。
【0082】
また、上述の本実施の形態例では、在室人数の推定処理を各部屋の人数推定装置1で行う構成としたが、当該推定処理を環境情報サーバ3で一括して行うようにしてもよい。この場合、各人数推定装置1は、赤外線センサの検出値及びCO濃度値を環境情報サーバ3へ適宜送信するようにする。
【0083】
また、本実施の形態例では、CO濃度を用いたが、COの代わりにOを用いて、同様の在室人数の推定を行うことも可能である。この場合には、O濃度センサを用い、上記(5)式における一人当たりのCO発生量kを、一人当たりのO吸収量(消費量)として、このパラメータに負の値を与えるようにする。
【0084】
以上説明したように、本実施の形態例による人数推定装置1では、人の存在を検出するのに適した赤外線センサ(人感センサ)を用いて無人であることを推定すると共に、無人であると判定できない場合にはCO濃度を用いて在室人数を推定するので、無人であるとの推定がCO濃度のみを用いた場合よりも正確かつ迅速になると共に、全体として精度の高い人数推定行うことができるようになる。これにより、特に、無人であるとの推定が正確かつ迅速になることにより、各部屋の各種管理をより効率的かつ適切に行うことが可能となる。
【0085】
さらに、CO濃度を用いる推定処理のキャリブレーションにおいて、上述したように、赤外線センサ(人感センサ)を用いて無人を判断するので、この点においても推定精度が向上する。
【0086】
また、当該人数推定装置1は簡便な装置構成であり、容易かつ安価に導入することがでる。
【0087】
また、当該人数推定装置1による手法では、画像や在室者を特定する情報を用いないのでプライバシーに係る問題も発生しない。
【0088】
また、本実施の形態例による環境情報取得システム100のようにして、本人数推定装置1により複数の部屋において取得された換気量、在室人数等の情報を、サーバに収集して保持することにより、推定した在室人数等の情報を複数の部屋全体を最適に制御するための空調制御装置等において有効に活用することができる。
【0089】
本発明の保護範囲は、上記の実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された発明とその均等物に及ぶものである。
【符号の説明】
【0090】
1 人数推定装置、 2 部屋、 3 環境情報サーバ、 4 ネットワーク、 11 CO濃度センサ(CO濃度測定手段)、 12 制御部(制御手段)、 13 操作部、 14 I/F部、 15 赤外線センサ(人感検知手段)、 100 環境情報取得システム、 121 CPU、 122 ROM、 123 RAM、 131 表示パネル、 132 操作ボタン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
在室人数を推定する人数推定装置であって、
前記推定の対象となる部屋における人の動作を検知する人感検知手段と、
前記部屋内のCO濃度を測定するCO濃度測定手段と、
前記人感検知手段の検知結果に基づいて、前記部屋の在室人数が0であると推定し、前記在室人数が0であると推定しない場合に、前記CO濃度測定手段の測定結果に基づいて前記在室人数を推定する制御手段とを有する
ことを特徴とする人数推定装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記制御手段による、前記人感検知手段の検知結果に基づく前記部屋の在室人数が0であるとの推定は、
前記検知結果が、所定時間連続して前記人の動作を検知しないことを示している場合になされる
ことを特徴とする人数推定装置。
【請求項3】
請求項2において、
前記所定時間は、在室人数が1である場合に当該時間内に人が少なくとも1回動作する確率が1に近い時間である
ことを特徴とする人数推定装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかにおいて、
前記制御手段は、前記CO濃度測定手段の測定結果に基づく在室人数の推定結果が0以下である場合には、前記在室人数を1と推定する
ことを特徴とする人数推定装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかにおいて、
前記制御手段による、前記CO濃度測定手段の測定結果に基づく在室人数の推定は、
第一時刻の前記部屋におけるCO濃度を、当該部屋における換気量を考慮した、前記第一時刻よりも前の第二時刻における前記CO濃度からの影響と前記部屋におけるCOの発生からの影響、に基づいて表す関係式に、前記CO濃度測定手段によって測定された異なる2時刻におけるCO濃度を、前記第一時刻と前記第二時刻の濃度として代入して、前記部屋に存在する人の数を求める、ことによってなされる
ことを特徴とする人数推定装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかにおいて、
前記制御手段は、前記CO濃度測定手段の測定結果に基づく在室人数の推定に用いる、前記部屋の外部のCO濃度と前記部屋の換気量を、前記人感検知手段の検知結果に基づいて前記部屋が無人であると推定した際の、前記CO濃度測定手段の測定結果に基づいて定める
ことを特徴とする人数推定装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかにおいて、
前記人感検知手段は、赤外線センサである
ことを特徴とする人数推定装置。
【請求項8】
人感検知手段とCO濃度測定手段と制御手段を備え、在室人数を推定する人数推定装置における人数推定方法であって、
前記人感検知手段が、前記推定の対象となる部屋における人の動作を検知する工程と、
前記CO濃度測定手段が、前記部屋内のCO濃度を測定する工程と、
前記制御手段が、前記人感検知手段の検知結果に基づいて、前記部屋の在室人数が0であると推定し、前記在室人数が0であると推定しない場合に、前記CO濃度測定手段の測定結果に基づいて前記在室人数を推定する工程とを有する
ことを特徴とする人数推定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−133164(P2011−133164A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−292481(P2009−292481)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(000220262)東京瓦斯株式会社 (1,166)
【出願人】(508209026)
【出願人】(508210125)エネルギープロバイダー株式会社 (3)
【Fターム(参考)】