説明

仕事関数測定装置

【課題】 深針の仕事関数が未知であっても試料の正確な仕事関数を測定することが可能な仕事関数測定装置を提供する。
【解決手段】 仕事関数測定装置100Aは、光電子分光法により求められた標準試料3Aの各領域の既知の仕事関数値と、導電性カンチレバー1Aを有する走査型ケルビンフォース顕微鏡により計測された標準試料3Aの各領域の表面電位値とから、導電性カンチレバー1Aの深針2Aの仕事関数を算出する。次に、深針2Aの仕事関数Aが具体的に算出された導電性カンチレバー1Aを有する走査型ケルビンフォース顕微鏡を用いて、標準試料3Aとは異なる未知試料の表面電位yを測定する。導電性カンチレバー1Aの深針2Aの仕事関数Aと、未知試料の表面電位yとから、y=(A−x)/eの関係式に基づいて、未知試料の微小領域における仕事関数xを算出できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、仕事関数測定装置に関し、より特定的には、走査型ケルビンフォース顕微鏡を用いる仕事関数測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
走査型プローブ顕微鏡の一つに、原子構造等を解明するために用いられる原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope)がある。原子間力顕微鏡では、先端部に深針が設けられたカンチレバーを走査プローブとして用いる。原子間力顕微鏡の被測定面となる試料表面に対して深針を走査させると、試料表面と深針との間に原子間力に基づく引力または斥力が発生する。その原子間力をカンチレバーのたわみ量などから検出することにより、試料表面の凹凸形状を原子レベルで観察することができる。
【0003】
走査型プローブ顕微鏡には、上記の原子間力顕微鏡の他に、被測定面の磁気力を検出する走査型磁気力顕微鏡(MFM:Magnetic Force Microscope)、被測定面の電位、静電気力等を検出する走査型マクスウェルフォース顕微鏡(SMM:Scanning Maxwell Stress Microscope)、被測定面の接触電位差を検出する走査型ケルビンフォース顕微鏡(KFM:Kelvin Force Microscope)などがある。
【0004】
これらの走査型プローブ顕微鏡は、従来の顕微鏡と比較して、高分解能、表面形状の同時観察、情報取得の容易さなどの点で優れている。このため、走査型プローブ顕微鏡は、磁気媒体のドメイン解析、磁気材料の解析、半導体の電気的特性または故障解析、材料の仕事関数の測定などに応用されている。
【0005】
従来の走査型仕事関数顕微鏡は、原子間力顕微鏡を用いて非接触で振動させながら導電性カンチレバーを走査し、カンチレバーと試料との間に流れるトンネル電流をカンチレバーの振動周波数で検波し測定する。これにより、トンネル電流の距離の微分を求め、その信号から試料の局所的な仕事関数を求める(たとえば、特許文献1参照)。
【0006】
従来の走査型プローブ顕微鏡は、標準サンプルの製造方法において、サンプルとなる基板の所定領域の基板表面に対して垂直な壁面を有する一定の深さの穴を形成する工程と、上記工程で形成された穴に基板の材料と異なる物性値を有する材料を埋め込む工程と、上記物性値の異なる材料が埋め込まれた領域の表面と基板の表面とを平坦化する工程とを含む(たとえば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2000−9628号公報
【特許文献2】特開平11−304822号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の走査型プローブ顕微鏡のうち、走査型ケルビンフォース顕微鏡は、試料と深針との仕事関数差に応じた表面電位を測定する。しかし、従来の走査型ケルビンフォース顕微鏡において検出される表面電位は、導電性カンチレバー深針の仕事関数を基準とした相対的な値であって、試料本来の仕事関数ではない。そのため、試料の仕事関数を得るには、深針の仕事関数を正確に把握する必要があった。
【0008】
それゆえに、この発明の目的は、深針の仕事関数が未知であっても試料の正確な仕事関数を測定することが可能な仕事関数測定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、仕事関数が既知である標準試料を用いて標準試料とは異なる試料の表面形状および表面電位を測定する仕事関数測定装置であって、先端に深針が取り付けられた導電性カンチレバーと、試料と深針との間に作用する物理量を検出する検出部とを備えている。検出部は、標準試料および試料の表面電位を計測し、標準試料の仕事関数と表面電位とを用いて算出される深針の仕事関数と、試料の表面電位とから、試料の仕事関数を算出する。
【0010】
好ましくは、標準試料は、仕事関数が異なる領域を少なくとも2箇所有する。
【0011】
好ましくは、標準試料は、シリコン基板にリンおよびホウ素を注入することにより作製される。
【0012】
好ましくは、標準試料は、2種類以上の金属を含む。
【0013】
好ましくは、深針は、化学的に不活性で気体吸着が無視できるほどに少ない導電体で作製される。
【0014】
好ましくは、深針は、シリコンに金を蒸着することにより作製される。
【0015】
好ましくは、深針は、シリコンに白金を蒸着することにより作製される。
【0016】
好ましくは、深針は、導電性カーボンナノチューブを接合することにより作製される。
【0017】
好ましくは、検出部は、走査型ケルビンフォース顕微鏡によって試料と深針との間の電位差を検出する。
【発明の効果】
【0018】
この発明によれば、深針の仕事関数が未知であっても試料の正確な仕事関数を測定することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照して詳しく説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0020】
この発明の実施の形態による仕事関数測定装置は、仕事関数が既知である標準試料で仕事関数の値が校正された気体吸着の少なく化学的に不活性な導電性カンチレバーの深針を用いることによって、標準試料とは異なる試料の微小領域の仕事関数を走査型ケルビンフォース顕微鏡により安定して測定することができる。以下、具体的に説明する。
【0021】
<装置の全体構成および動作>
図1は、この発明の実施の形態による仕事関数測定装置100の全体構成を示した概略図である。
【0022】
図1を参照して、仕事関数測定装置100は、導電性カンチレバー1と、導電性深針2と、圧電素子4と、交流電源5,6と、直流電源7と、導電性基板8と、光源9と、受光素子10と、ロックインアンプ11,12と、電圧フィードバック回路13と、Zサーボ回路14と、スキャナ15とを備える。仕事関数測定装置100は、ケルビンフォース顕微鏡(KFM)を用いたものであり、試料(測定物)の表面電位分布(表面電位像)と試料の表面形状(トポ像)とを同時かつ独立に測定することができる。仕事関数測定装置100は、試料3の表面電位および形状を測定する。
【0023】
導電性カンチレバー1の先端には、導電性深針2が取り付けられている。この導電性深針2は、試料3に対向配置されている。交流電源5は、圧電素子4に交流電圧Vr・sinωrtを印加することで、導電性カンチレバー1の固定端に導電性カンチレバー1の共振周波数ωrの振動を与える。これにより、導電性カンチレバー1は、共振周波数ωrで振動する。
【0024】
交流電源6は、導電性カンチレバー1の非共振周波数ωの交流電圧Vac・sinωtを導電性基板8に印加する。直流電源7は、導電性カンチレバー1の直流オフセット電圧Vdcを導電性基板8に印加する。試料3のベースとなる導電性基板8は、交流電圧Vac・sinωtと直流オフセット電圧Vdcとが重畳された電圧を受ける。これにより、導電性カンチレバー1の先端の導電性深針2と試料3の表面との間に静電引力が発生し、この静電引力により導電性カンチレバー1に非共振周波数ωの振動が生ずる。
【0025】
光源9は、導電性カンチレバー1にレーザ光を照射する。光源9は、たとえばレーザダイオードである。受光素子10は、導電性カンチレバー1に照射されるレーザ光の反射光を受光することによって、導電性カンチレバー1の位置を検出する。受光素子10は、たとえば2分割フォトダイオードである。このように、導電性カンチレバー1の非共振周波数ωの振動は、光源9および受光素子10を用いた光てこ法によって検出される。
【0026】
ロックインアンプ11は、受光素子10の出力信号を受けて、交流電源5からの交流電圧Vr・sinωrtを参照信号として、受信素子10の出力信号を位相検波して増幅する。ロックインアンプ12は、受光素子10の出力信号を受けて、交流電源6からの交流電圧Vac・sinωtを参照信号として、受信素子10の出力信号を位相検波して増幅する。ロックインアンプ11,12により、導電性カンチレバー1の振動のω成分の振幅Aωとωr成分の振幅Aωrとが分離増幅される。
【0027】
電圧フィードバック回路13は、振幅Aωを分離増幅するロックインアンプ12の出力信号を受けて、直流電源7の直流オフセット電圧Vdcを制御する。これにより、電圧フィードバック回路13の直流オフセット電圧Vdcに対する制御量が、試料3の表面電位Vsの測定結果として出力される。ここで、交流電源6から試料3に印加する交流電圧Vac・sinωtの周波数ωは、導電性カンチレバー1の共振周波数の1/2以下としている。
【0028】
Zサーボ回路14は、試料3をz軸方向に駆動して導電性カンチレバー1の深針2と試料3との間の距離を可変するz軸アクチュエータ(図示せず)を有する。Zサーボ回路14は、振幅Aωrを分離増幅するロックインアンプ11の出力信号を受けて、z軸アクチュエータを制御する。これにより、導電性カンチレバー1の深針2と試料3との間の距離を制御する。スキャナ15は、試料3をz軸と垂直なxy方向に走査する。これにより、Zサーボ回路14のz軸アクチュエータに対する制御量が、試料3の表面形状(いわゆるトポ像:TOPOGRAPHY)の測定結果として出力される。
【0029】
以上のようにして、仕事関数測定装置100は、試料3と導電性カンチレバー1の深針2との間の仕事関数差に応じた表面電位を測定する。測定時における深針2の仕事関数変化を抑えるため、導電性カンチレバー1の深針2は、気体吸着が少なく、化学的に不活性であることが好ましい。たとえば、シリコン(Si)の深針2に金(Au)または白金(Pt)を蒸着したもの、導電性カンチレバー1に導電性カーボンナノチューブを接合したものであってもよい。
【0030】
<標準試料の構成>
試料3の標準となる標準試料は、仕事関数が異なる領域を少なくとも2箇所以上有する構造が好ましい。たとえば、シリコン(Si)基板の同一平面上にリン(P)およびホウ素(B)を注入してn型シリコンおよびp型シリコンを形成したもの、同一平面上に異なる金属による層構造が存在するものであってもよい。
【0031】
<標準試料による深針の仕事関数校正>
導電性カンチレバー1の深針2の仕事関数をA[eV]、試料3の仕事関数をx[eV]とする。このとき、仕事関数測定装置100の走査型ケルビンフォース顕微鏡で出力される表面電位y[V]は、y=(A−x)/eと表わせる。
【0032】
仕事関数が既知であり、かつ、仕事関数が異なる領域を少なくとも2箇所以上有する標準試料の表面電位を測定することにより、y=(A−x)/eのうち、x,yの値が二点以上定まる。このとき、導電性カンチレバー1の深針2の仕事関数Aは、標準試料の各ポイントで求まる仕事関数の値の平均値となる。
【0033】
[実施例1]
図2は、この発明の実施例1による仕事関数測定装置100Aの標準試料測定工程を示した図である。図2を参照して、実施例1の仕事関数測定装置100Aを用いた標準試料3Aおよび未知試料の仕事関数測定方法を説明する。
【0034】
まず、銅(Cu)板16に、アルミニウム(Al)17および白金(Pt)18を各々幅約20μmで蒸着する。これにより、仕事関数測定装置100Aの走査型ケルビンフォース顕微鏡用の標準試料3Aが作製される。標準試料3Aにおける銅(Cu)板16、アルミニウム(Al)17、白金(Pt)18の各領域の仕事関数は、光電子分光法により、4.45eV、4.20eV、5.36eVとそれぞれ求められる。
【0035】
仕事関数測定装置100Aは、シリコン(Si)の深針2Aに白金(Pt)を蒸着した導電性カンチレバー1Aを有する走査型ケルビンフォース顕微鏡により、標準試料3Aの走査領域RSの表面電位を50μm幅で測定する。これにより、銅(Cu)板16、アルミニウム(Al)17および白金(Pt)の各領域を同時に走査できる。標準試料3Aにおける銅(Cu)板16、アルミニウム(Al)17、白金(Pt)18の各領域の表面電位は、0.85V、1.20V、0.01Vとそれぞれ計測される。
【0036】
次に、光電子分光法により求められた標準試料3Aの各領域の既知の仕事関数値と、導電性カンチレバー1Aを有する走査型ケルビンフォース顕微鏡により計測された標準試料3Aの各領域の表面電位値とから、導電性カンチレバー1Aの深針2Aの仕事関数を算出する。具体的には、標準試料3Aにおける銅(Cu)板16、アルミニウム(Al)17、白金(Pt)18の各領域の仕事関数x=4.45eV、4.20eV、5.36eVと、表面電位y=0.85V、1.20V、0.01Vとから、上記で説明したy=(A−x)/eの式に基づいて、導電性カンチレバー1Aの深針2Aにおける仕事関数A=5.36eVを算出する。
【0037】
仕事関数測定装置100Aは、深針2Aの仕事関数Aが具体的に算出された導電性カンチレバー1Aを有する走査型ケルビンフォース顕微鏡により、標準試料3Aとは異なる未知試料の表面電位yを測定する。これにより、深針2Aの仕事関数Aと未知試料の表面電位yとから、上記で説明したy=(A−x)/eの式に基づいて、未知試料の微小領域における仕事関数xを算出できる。
【0038】
以上のように、実施例1によれば、仕事関数が既知である標準試料で仕事関数が校正された深針の導電性カンチレバーを有する走査型ケルビンフォース顕微鏡を用いることにより、標準試料とは異なる未知試料の表面電位の測定から、当該未知試料の微小領域における仕事関数を算出することができる。また、気体吸着の少なく化学的に不活性な深針を有する導電性カンチレバーを用いることで、試料の表面電位測定中における深針の仕事関数の変化が抑えられ、安定して走査型ケルビンフォース顕微鏡による試料の微小領域の仕事関数を算出することができる。
【0039】
[実施例2]
図3は、この発明の実施例2による仕事関数測定装置100Bの標準試料測定工程を示した図である。図3を参照して、実施例2の仕事関数測定装置100Bを用いた標準試料3Bおよび未知試料の仕事関数測定方法を説明する。
【0040】
まず、シリコン(Si)基板にホウ素(B)およびリン(P)を濃度1×1018atms/cm3程度となるように注入することで、p型シリコン領域20およびn型シリコン領域21の2領域を形成する。これにより、仕事関数測定装置100Bの走査型ケルビンフォース顕微鏡用の標準試料3Bが作製される。標準試料3Bにおけるp型シリコン領域20、n型シリコン領域21の各領域の仕事関数は、光電子分光法により、5.05eV、4.05eVとそれぞれ求められる。
【0041】
仕事関数測定装置100Bは、シリコン(Si)の深針2Bに金(Au)を蒸着した導電性カンチレバー1Bを有する走査型ケルビンフォース顕微鏡により、標準試料3Bの所定領域内の表面電位を走査幅20μmで測定する。これにより、p型シリコン領域20およびn型シリコン領域21の2領域を同時に走査できる。標準試料3Bにおけるp型シリコン領域20、n型シリコン領域21の各領域の表面電位は、−0.16V、0.84Vとそれぞれ計測される。
【0042】
次に、光電子分光法により求められた標準試料3Bの各領域の既知の仕事関数値と、導電性カンチレバー1Bを有する走査型ケルビンフォース顕微鏡により計測された標準試料3Bの各領域の表面電位値とから、導電性カンチレバー1Bの深針2Bの仕事関数を算出する。具体的には、標準試料3Bにおけるp型シリコン領域20、n型シリコン領域21の各領域の仕事関数x=5.05eV、4.05eVと、表面電位y=−0.16V、0.84Vとから、上記で説明したy=(A−x)/eの式に基づいて、導電性カンチレバー1Bの深針2Bにおける仕事関数A=4.89eVを算出する。
【0043】
仕事関数測定装置100Bは、深針2Bの仕事関数Aが具体的に算出された導電性カンチレバー1Bを有する走査型ケルビンフォース顕微鏡により、標準試料3Bとは異なる未知試料の表面電位yを測定する。これにより、深針2Bの仕事関数Aと未知試料の表面電位yとから、上記で説明したy=(A−x)/eの式に基づいて、未知試料の微小領域における仕事関数xを算出できる。
【0044】
以上のように、実施例2によれば、p型シリコン領域20およびn型シリコン領域21の2領域を有する標準試料で仕事関数が校正された金(Au)を蒸着した深針の導電性カンチレバーを有する走査型ケルビンフォース顕微鏡を用いた場合にも、実施例1と同様に、未知試料の微小領域における仕事関数を算出することができる。
【0045】
[実施例3]
図4は、この発明の実施例3による仕事関数測定装置100Cの標準試料測定工程を示した図である。図4を参照して、実施例3の仕事関数測定装置100Cを用いた標準試料3Cおよび未知試料の仕事関数測定方法を説明する。
【0046】
仕事関数測定装置100Cの走査型ケルビンフォース顕微鏡用の標準試料3Aは、実施例1と同様にして作製されるので、ここでは説明を繰り返さない。標準試料3Aにおける銅(Cu)板16、アルミニウム(Al)17、白金(Pt)18の各領域の仕事関数は、光電子分光法により、実施例1と同じく、4.45eV、4.20eV、5.36eVとそれぞれ求められる。
【0047】
仕事関数測定装置100Cは、導電性カーボンナノチューブを接合した深針2Cを有する導電性カンチレバー1Cの走査型ケルビンフォース顕微鏡により、標準試料3Aの表面電位を実施例1と同じく50μm幅で測定する。これにより、銅(Cu)板16、アルミニウム(Al)17および白金(Pt)の各領域を同時に走査できる。標準試料3Aにおける銅(Cu)板16、アルミニウム(Al)17、白金(Pt)18の各領域の表面電位は、実施例3では、0.70V、1.00V、−0.20Vとそれぞれ計測される。
【0048】
次に、光電子分光法により求められた標準試料3Aの各領域の既知の仕事関数値と、導電性カンチレバー1Cを有する走査型ケルビンフォース顕微鏡により計測された標準試料3Aの各領域の表面電位値とから、導電性カンチレバー1Cの深針2Cの仕事関数を算出する。具体的には、標準試料3Aにおける銅(Cu)板16、アルミニウム(Al)17、白金(Pt)18の各領域の仕事関数x=4.45eV、4.20eV、5.36eVと、表面電位y=0.70V、1.00V、−0.20Vとから、上記で説明したy=(A−x)/eの式に基づいて、導電性カンチレバー1Cの深針2Cにおける仕事関数A=5.17eVを算出する。
【0049】
仕事関数測定装置100Cは、深針2Cの仕事関数Aが具体的に算出された導電性カンチレバー1Cを有する走査型ケルビンフォース顕微鏡により、標準試料3Aとは異なる未知試料の表面電位yを測定する。これにより、深針2Cの仕事関数Aと未知試料の表面電位yとから、上記で説明したy=(A−x)/eの式に基づいて、未知試料の微小領域における仕事関数xを算出できる。
【0050】
以上のように、実施例3によれば、仕事関数が既知である標準試料で仕事関数が校正された導電性カーボンナノチューブを接合した深針の導電性カンチレバーを有する走査型ケルビンフォース顕微鏡を用いた場合にも、実施例1,2と同様に、未知試料の微小領域における仕事関数を算出することができる。
【0051】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態および実施例の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】この発明の実施の形態による仕事関数測定装置100の全体構成を示した概略図である。
【図2】この発明の実施例1による仕事関数測定装置100Aの標準試料測定工程を示した図である。
【図3】この発明の実施例2による仕事関数測定装置100Bの標準試料測定工程を示した図である。
【図4】この発明の実施例3による仕事関数測定装置100Cの標準試料測定工程を示した図である。
【符号の説明】
【0053】
1,1A,1B,1C 導電性カンチレバー、2,2A,2B,2C 導電性深針、3 試料、3A,3B 標準試料、4 圧電素子、5,6 交流電源、7 直流電源、8 導電性基板、9 光源、10 受光素子、11,12 ロックインアンプ、13 電圧フィードバック回路、14 Zサーボ回路、15 スキャナ、16 銅(Cu)板、17 アルミニウム(Al)蒸着膜、18 白金(Pt)蒸着膜、20 p型シリコン領域、21 n型シリコン領域、100,100A,100B,100C 仕事関数測定装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
仕事関数が既知である標準試料を用いて前記標準試料とは異なる試料の表面形状および表面電位を測定する仕事関数測定装置であって、
先端に深針が取り付けられた導電性カンチレバーと、
前記試料と前記深針との間に作用する物理量を検出する検出部とを備え、
前記検出部は、前記標準試料および前記試料の表面電位を計測し、前記標準試料の前記仕事関数と前記表面電位とを用いて算出される前記深針の仕事関数と、前記試料の前記表面電位とから、前記試料の仕事関数を算出する、仕事関数測定装置。
【請求項2】
前記標準試料は、仕事関数が異なる領域を少なくとも2箇所有する、請求項1に記載の仕事関数測定装置。
【請求項3】
前記標準試料は、シリコン基板にリンおよびホウ素を注入することにより作製される、請求項2に記載の仕事関数測定装置。
【請求項4】
前記標準試料は、2種類以上の金属を含む、請求項1に記載の仕事関数測定装置。
【請求項5】
前記深針は、化学的に不活性で気体吸着が無視できるほどに少ない導電体で作製される、請求項1に記載の仕事関数測定装置。
【請求項6】
前記深針は、シリコンに金を蒸着することにより作製される、請求項5に記載の仕事関数測定装置。
【請求項7】
前記深針は、シリコンに白金を蒸着することにより作製される、請求項5に記載の仕事関数測定装置。
【請求項8】
前記深針は、導電性カーボンナノチューブを接合することにより作製される、請求項5に記載の仕事関数測定装置。
【請求項9】
前記検出部は、走査型ケルビンフォース顕微鏡によって前記試料と前記深針との間の電位差を検出する、請求項1〜8のいずれかに記載の仕事関数測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−258536(P2006−258536A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−74678(P2005−74678)
【出願日】平成17年3月16日(2005.3.16)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】