説明

付け睫用粘着剤

【課題】付け睫を皮膚に貼り付けるための粘着剤であって、高い粘着力、粘着力持続性、耐水性とを有し、使用後には貼り付けた付け睫を容易に剥がすことができる、付け睫用粘着剤を提供することを目的とする。
【解決手段】付け睫を皮膚に貼り付けるための付け睫用粘着剤であって、水と、アクリル酸2−エチルヘキシルと、メタクリル酸メチルと、アクリル酸エチルと、メタクリル酸とからなるアクリル系共重合体とを含有してなることを特徴とする。本発明の付け睫用接着剤を用いて付け睫を貼り付けた場合、付け睫使用中は、使用者自身の皮膚の動きや外的刺激によって付け睫が外れることが、従来の接着剤などと比較して少なく、従来よりも長時間の付け睫の使用が可能である。また、外れた場合にも容易に再貼り付けすることができる。加えて、付け睫用として好適な粘着力を備えているため、付け睫の取り外しも容易であり、快適性の面からも好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、付け睫を皮膚に貼り付けるための粘着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、化粧の際に装飾物を皮膚に貼り付けて化粧をする方法が広く普及しており、装飾物の1つとして、付け睫が挙げられる。付け睫は、目元をくっきりみせるために用いられる装飾物であり、細い線材に多数の繊維を配して構成され、線材を睫ラインに合わせて睫の生え際の皮膚に貼り付け、全体的な睫の強調を図るもの(以下全体付けタイプという)と、線材を用いることなく、多数の線維を一方の端部(根元部分)で結んで束となるように固定して構成され、睫の生え際の皮膚に貼り付けることにより、睫の部分的な強調をも可能とするもの(以下ポイント付けタイプという。なお、部分付用と呼称される場合もある)とがある。これら付け睫を貼り付ける際には、前者の場合は線材部分、後者の場合は根元部分に接着剤等を塗布し、皮膚に貼り付けるのが一般的に行われている。
【0003】
付け睫を貼り付けるための粘着剤、および接着剤には、天然ゴムラテックスを主成分としたものが広く用いられている。しかしながら、天然ゴムラテックスを主成分とした接着剤は、使用者にゴムアレルギーがある場合には使用することができないほか、粘着力が弱く、水や汗などに対する耐水性も低かった。また、接着面における粘着性は、一旦硬化すると失われるため、付け睫の一部が外れると付け睫全体も皮膚から外れてしまう場合が多い。
【0004】
さらに、当該天然ゴムラテックス含粘着剤を使用した場合、付け睫は、粘着剤の硬化過程が進行途上の段階で皮膚に貼り付けるため、使用者は硬化による皮膚の不快感(つっぱり感)を感じることも多い。加えて、当該粘着剤は乾燥するとゴム色を呈し、また肉厚であるため、使用者以外の第3者の目にとまる場合も多くあった。
【0005】
一方、皮膚に物品を貼り付けるための粘着剤、および接着剤は、例えば絆創膏のような、医療用物品の分野において研究開発が盛んに行われている(例えば特許文献1)。
【0006】
特許文献1に記載の接着剤は、医療用テープ、創傷用包帯などの貼り付けに用いる感圧接着剤であって、平均して少なくとも4個の炭素を有するアルキル基を含む少なくとも1つのモノエチレン性不飽和(メタ)アクリル酸エステルおよび少なくとも1つのモノエチレン性不飽和強化用モノマーを含む感圧粘着剤成分と、平均して4個未満の炭素を有するアルキル基を含む少なくとも1つのモノエチレン性不飽和(メタ)アクリル酸エステルおよび少なくとも1つの親水性酸性モノマーを含むフィルム形成成分とを含む。当該構成により、特許文献1の感圧接着剤は、濡れた皮膚等に対しても十分な接着力を有するため、医療物品の創傷を受けた患部への貼り付けに適している。
【0007】
しかしながら、特許文献1の感圧接着剤は、非常時における医療用物品の貼り付けを前提とするものであり、付け睫への使用は快適性などの面で劣る。また、付け睫に用いた場合、除去する際には痛みを伴うこともある。
【特許文献1】特表2003−503540号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
粘着剤により皮膚に貼り付けられている他の物品と比較して、付け睫は、美観の問題から接着面を小さく抑える必要がある。そのため、付け睫用粘着剤は十分な粘着力を備える必要がある。特に、当該要求は、接着に係る部分が小さい、ポイント付けタイプへの使用において顕著である。
【0009】
また、睫の生え際、および近傍の皮膚は、涙や汗、供給された目薬、さらには食事の際の湯気などにより、皮膚のなかでも水分に晒される機会が多い部分の1つである。そのため、付け睫用粘着剤には高い耐水性が求められる。
【0010】
さらに、付け睫が貼り付けられる睫近傍の皮膚は、まばたきなどの皮膚の動きが多い部分である。よって、このような使用者自身の皮膚の動きに対応するために、および、付け睫が外れてしまった場合でも、容易に再貼り付けできるようにするために、一度貼り付けた後にも粘着剤の粘着性が持続することが好ましい。加えて、使用後には付け睫を皮膚から容易に除去できることが、快適性の面から好ましい。
【0011】
本発明はこのような事情に基づきなされたものであり、付け睫を皮膚に貼り付けるための粘着剤であって、高い粘着力、粘着力持続性、耐水性とを有し、使用後には貼り付けた付け睫を容易に剥がすことができる、付け睫用粘着剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の粘着剤は、付け睫を皮膚に貼り付けるための粘着剤であって、水と、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸からなるアクリル系共重合体とを含むことを特徴とする。
【0013】
ここで、共重合体は、共重合体100質量部に対し、メタクリル酸メチル4〜8質量部、アクリル酸エチル1〜4.5質量部、メタクリル酸0.5〜1.5質量部であるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の粘着剤は、水と、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸からなる共重合体とを含むことにより、高い粘着力と耐水性を有する。また、本発明の粘着剤によれば、付け睫を貼り付けた後も粘着力が持続する。よって、付け睫使用中は、使用者自身の皮膚の動きや外的刺激によって付け睫が外れることは、従来の接着剤などと比較して少なく、従来よりも長時間の付け睫の使用が可能である。また、外れた場合にも容易に再貼り付けすることができる。加えて、付け睫用として好適な粘着力を備えているため、取り外しも容易であり、快適性の面からも好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の好ましい実施形態について詳しく説明する。
【0016】
本実施形態は、付け睫を皮膚に貼り付けるための付け睫用粘着剤であり、水と、アクリル系共重合体とを含む。アクリル系共重合体は、主要構成モノマーであるアクリル酸2−エチルヘキシルと、メタクリル酸メチルと、アクリル酸エチルと、メタクリル酸とからなる共重合体である。
【0017】
アクリル酸2−エチルヘキシルは、−20℃以下(ホモポリマーとした場合におよそ−85℃)のガラス転移温度(Tg)を有する。これを主要構成モノマーとすることにより、冬場の常温においても高い粘着性が付与される。すなわち、本実施形態の付け睫用接着剤は、共重合体がアクリル酸2−エチルヘキシルを主要構成モノマーとして含むとともに、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸を含むことにより、付け睫用粘着剤として好ましい粘着性と、粘着持続性と、耐水性とを備える。
【0018】
また、付け睫に塗布した本実施形態の粘着剤は、付け睫の塗布部分に強く付着しており、外した後でも粘着性が持続したままで塗布部分に定着する。よって、1度外した付け睫を再貼り付けして使用することができる。なお、粘着性が低下した場合には、粘着剤を再度塗布することにより、粘着性を回復させることが可能である。
【0019】
さらに、本実施形態の粘着剤は、付け睫に塗布し、水が蒸発して粘着性を呈するようになった後に皮膚に貼り付けるため、使用者が皮膚の収縮による不快感を感じることはほとんどない。さらにまた、本実施形態の付け睫用粘着剤は、光学的に透明である。したがって、付け睫を貼り付けた際にも、付け睫用粘着剤が使用者以外の第3者の目につくことはほとんどない。加えて、本実施形態の付け睫用粘着剤は有機溶媒等を含有せず、また、共重合体の構成モノマーは医療用の接着剤にも用いられているため、安全性の面からも好ましい。
【0020】
ここで、本実施形態の付け睫用粘着剤に含まれる共重合体は、共重合体100質量部当たりメタクリル酸メチル4〜8質量部、アクリル酸エチル1〜4.5質量部、メタクリル酸0.5〜1.5質量部であることが好ましい。さらに、メタクリル酸メチル5〜6.5質量部、アクリル酸エチル3〜4.2質量部であるとより好ましい。
【0021】
メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸の、少なくともいずれか1つの割合が上述した範囲よりも大きい場合、該割合の範囲内にあるときと比較して、保持力は強くなるが、タック(肌で感じる粘性)は小さくなる。一方、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸の、少なくともいずれか1つの割合が上述した範囲よりも小さい場合は、該割合の範囲内にあるときと比較して、タックは大きくなるが、保持力は低下する。したがって、いずれの場合にも、該割合の範囲内にあるときと比較して、付け睫が外れやすくなる。
【0022】
言い換えれば、共重合体に含まれるメタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸のいずれもが上述した範囲内にあるとき、本実施形態の付け睫用粘着剤は、付け睫に適用するに際してより一層好適な粘着性と粘着持続性とを発揮する。
【0023】
なお、構成モノマーの粘着剤全体に占める割合は、後述する水の割合等に応じて変化するが、例えば、付け睫用粘着剤当たり、アクリル酸2−エチルヘキシル46〜51質量%、メタクリル酸メチル2.13〜4.2質量%、アクリル酸エチル0.53〜2.4質量%、メタクリル酸0.26〜0.8質量%とすることができる。
【0024】
本実施形態の付け睫用粘着剤は、例えば、共重合体を構成するモノマーを、分散媒である水中で、共重合体100質量部に対して5〜10質量部程度の乳化剤と、重合開始剤とを添加して乳化重合により共重合させて製造することが可能である。なお、各種成分の添加方法については特に制限されず、一括添加方法、分割添加方法、連続添加方法のいづれでも選択することが可能である。
【0025】
このとき、重合開始剤としては通常用いられているものを適宜選択して添加することができ、例えば過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩を挙げることができる。
【0026】
また、乳化剤についても通常使用されるものを適宜選択して用いることができ、例えばアニオン性界面活性剤やノニオン性界面活性剤を用いることができる。アニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニル硫酸エステル塩、アルキルスルホン酸塩、スルホコハク酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルエーテルジスルホン酸塩、脂肪酸塩とすることができる。また、ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル、アルキルノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステルとすることができる。
【0027】
さらに、本実施形態の付け睫用粘着剤の水の含有量についても、例えばはけを用いた塗布、チューブからの直接塗布などの塗布態様等に合わせて適宜選択することが可能であり、例えば粘着剤当たり40.7〜43.9質量%とすることができる。このとき、共重合体の粘着剤全体に占める割合は、乳化剤の添加量等により変化するが、例えば53.4〜53.9質量%となる。
【0028】
このほか、本実施形態の付け睫用粘着剤は、公知の方法により、共重合させた共重合体を水に分散させることにより製造してもよい。
【0029】
次に、本実施形態の粘着剤を用いた付け睫の貼り付け過程を、図1〜図5に基づいて説明する。
【0030】
まず、図1に示すように、付け睫30の根元の線材31に粘着剤1をうすく均一に塗布する。この状態で数十秒放置すると、水が蒸発して塗布した粘着剤1が乳白色から透明になり、粘着剤1は粘着性を呈するようになる。なお、この粘着剤の色の変化は、粘着性を呈するようになったことの目安となるため、使用者はこれを基準として化粧作業を進めることができ、利便性が高い。
【0031】
続いて、図2に示すように、伏せ目(目線を下に向けた状態)にし、付け睫30を使用者の睫20に沿うようにして、睫より1mmほど上方に位置する睫生え際の皮膚21(点線部分)に貼り付け、軽く押さえる。そして、最後に使用者の睫20と付け睫30をつまんで整えることにより、一体的に見えるようにする。付け睫30を取り外す際には、図3に示すように、付け睫30の毛先を持ち、目尻部分から剥がすことにより、取り外すことができる。
【0032】
一方、ポイント付けタイプの付け睫40の場合、使用者は予めビューラーで睫20をカールさせておく。次いで、ピンセット50を用い、ホルダーに収納されている付け睫40の根元部41をつまんで、付け睫40をホルダーからとり外す。続いて、図4に示すように、根元部41に付け睫用粘着剤1を塗布する。
【0033】
ポイント付けタイプの場合も、全体付けタイプと同様に付着させた粘着剤1が乳白色から透明になった後、貼り付けを行う。このとき、図5に示すように伏せ目にし、睫20より1mmほど上方の睫生え際の皮膚21(点線部分)のうち、使用者の好みの位置に、睫に沿うようにして付け睫40を貼り付ける。そして、上から軽く押さえて、使用者の睫と一体的に見えるようにする。
【0034】
ポイント付けタイプの付け睫40の場合、使用者は所望する美観を示すようになるまで上記貼り付け作業を繰り返す。言い換えれば、睫が少ない部分や、睫が抜けてしまった部分のみを補うような付け睫の使用方法も可能となる。なお、外すときは、付け睫40の毛先部分をつまんで力を加えることにより、取り外すことができる。
【実施例】
【0035】
以下実施例により本発明の粘着剤をより詳しく説明する。但し、この実施例により本発明が限定されることはない。
【0036】
すなわち、本実施例の付け睫用粘着剤は、水と、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸の各モノマーを共重合したアクリル系共重合体とを含む。本実施例においては、アクリル酸2−エチルヘキシルと、メタクリル酸メチルと、アクリル酸エチルと、メタクリル酸の共重合体における割合を表1に示す値とした。本実施例においては、水中で、各構成モノマーを、ラテムルS180A(花王、商品名)を乳化剤として添加し、過硫酸アンモニウム0.5質量部を重合開始剤として用いた乳化重合により、共重合させて製造した。
【0037】
【表1】

【0038】
これら実施例の粘着剤と全体付けタイプの付け睫を用いて、付け睫の粘着性とその持続性、耐水性、取り外しが容易であるかに関する試験を行った。また、比較例として天然ゴムラテックスを主成分とする接着剤、およびメタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸のうちいずれか1つを含まないで共重合体を構成した粘着剤を用いた。
【0039】
試験の結果、実施例に係る粘着剤はいずれも、比較例の粘着剤と比して、高い粘着力とその持続性、および耐水性を有していた。また、付け睫の取り外しも、比較例の粘着剤を用いた場合と比較していずれも容易であった。
【0040】
特に、共重合体の構成モノマーの割合を、メタクリル酸メチル4〜8質量部、アクリル酸エチル1〜4.5質量部、メタクリル酸0.5〜1.5質量部の範囲内とした実施例では、付け睫用粘着剤としてより一層好適な保持力とタックとを示した。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本実施形態の付け睫用粘着剤の使用方法を示す図である。
【図2】本実施形態の付け睫用粘着剤の使用方法を示す図である。
【図3】本実施形態の付け睫用粘着剤の使用方法を示す図である。
【図4】本実施形態の付け睫用粘着剤の使用方法を示す図である。
【図5】本実施形態の付け睫用粘着剤の使用方法を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
付け睫を皮膚に貼り付けるための付け睫用粘着剤であって、
水と、
アクリル酸2−エチルヘキシルと、メタクリル酸メチルと、アクリル酸エチルと、メタクリル酸とからなるアクリル系共重合体とを含有してなることを特徴とする付け睫用粘着剤。
【請求項2】
前記アクリル系共重合体は、共重合体100質量部当たり、メタクリル酸メチル4〜8質量部、アクリル酸エチル1〜4.5質量部、メタクリル酸0.5〜1.5質量部であることを特徴とする請求項1に記載の付け睫用粘着剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−40718(P2009−40718A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−207233(P2007−207233)
【出願日】平成19年8月8日(2007.8.8)
【出願人】(397070945)株式会社 ディー・アップ (1)
【Fターム(参考)】