説明

付着菌殺菌方法および付着菌殺菌装置

【課題】 人体に対して安全でかつ十分な殺菌能力を確保することが可能な付着菌殺菌方法および付着菌殺菌装置を低コストで提供する。
【解決手段】 壁面払拭用部材を壁面上に接触させながら移動させた後、放電により生成させた活性な空気を、該壁面払拭用部材が接触した壁面部分に対して吹き付けることを特徴とする付着菌殺菌方法、および、壁面払拭用部材と、該壁面払拭用部材を壁面上に接触させながら移動させる機構と、放電により活性な空気を生成させる機構と、該壁面払拭用部材が接触した壁面部分に対して活性な空気を吹き付ける機能とを有する付着菌殺菌装置に関する。活性な空気は、空気中での放電により生成されることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体への安全性が確保されるととともに十分な殺菌能力を得ることが可能な付着菌殺菌方法および付着菌殺菌装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、病院や製薬工場などでは、治療や製造を清潔な環境で行うため、通常、部屋のクリーニングを所定の間隔で行っている。クリーニングの方法としては、アルコールやグルタルアルデヒドなどの殺菌性を有する薬剤で壁面を払拭することによって該壁面に存在する細菌などを殺菌除去する方法が一般的である。
【0003】
しかしながら、たとえば非特許文献1には、細菌は一つ一つばらばらになって存在するのではなく、多数集まってコロニーを作り、複雑ではがれにくい「バイオフィルム」という構造を外部に形成し守られているとの報告がある。このバイオフィルムは、水分を吸収するねばねばとした物質であり、外部からの栄養素を拡散により取り込むことが可能である一方、外部の殺菌剤などの物質が反応しながら拡散することは難しくなる特徴がある。以上のようなメカニズムから、医学や工業の分野で利用される抗生物質や抗菌剤、滅菌処理は、バイオフィルムに対してほとんど効果がないとされている。そのため、壁面の払拭による細菌の除去が十分でない場合、薬剤による殺菌作用によっては滅菌処理が完全に行われず、壁面において菌の増殖が再び生じるという問題がある。
【0004】
アルコールなどの薬剤により壁面をクリーニングする方法においては、雑巾などで壁面を払拭することにより壁面の付着菌を物理的に除去する工程が必要であるが、該薬剤が雑巾に染み込むためには大量の薬剤が必要とされる問題があり、掃除のコストを上昇させる問題があった。また、雑巾などを使用して払拭を行う場合、壁面から離脱したバイオフィルムで囲まれた菌が雑巾などから再度壁面に付着し、増殖を開始する場合があり、十分な殺菌を行うことが困難であるという問題が生じていた。
【0005】
また、さらに薬剤は人体に吸入されることにより不快感等を与える場合があり、その対策としてマスク等を使用する必要があった。
【0006】
一方、たとえば特許文献1には付着菌の除去を行うための技術が開示される。特許文献1の方法では、オゾンを用いた付着菌の殺菌処理において、被殺菌物体の収納容器内を50mmHg以上減圧し、負圧条件下の該容器内にオゾンを注入する動作を複数回繰り返すことにより、完全な殺菌ができるとされている。
【0007】
しかし、特許文献1の方法では、殺菌効果を高めるために被殺菌物体を減圧にする必要があるため、壁面や大きな物体の殺菌を行うことが難しく、病院や工場といった大空間への応用が困難であるという問題があった。
【特許文献1】特開平3−244465号公報
【非特許文献1】日経サイエンス2001年10月号「細菌コロニーの砦を攻略する」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記の課題を解決し、人体に対して安全でかつ十分な殺菌能力を確保することが可能な付着菌殺菌方法および付着菌殺菌装置を低コストで提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、壁面払拭用部材を壁面上に接触させながら移動させた後、放電により生成させた活性な空気を、該壁面払拭用部材が接触した壁面部分に対して吹き付けることを特徴とする付着菌殺菌方法に関する。本発明において活性な空気とは、化学的または電気化学的にイオン化されたか、電子的または電気的に電子が励起された状態となった分子、原子、原子団を含む空気を指し、たとえばプラズマ、イオン、ラジカル等に代表されるように化学的な活性部位を分子内に有する粒子や、オゾン等を含む空気が挙げられる。
【0010】
活性な空気は、空気中での放電により生成されることが好ましい。
【0011】
また、本発明は、壁面払拭用部材と、該壁面払拭用部材を壁面上に接触させながら移動させる機構と、放電により活性な空気を生成させる機構と、該壁面払拭用部材が接触した壁面部分に対して活性な空気を吹き付ける機構とを有する付着菌殺菌装置に関する。
【0012】
壁面払拭用部材は、繊維状または弾性を有する材料で形成されることが好ましく、また回転体もしくはベルト状の形態を有することが好ましい。
【0013】
本発明の付着菌殺菌装置においては、壁面払拭用部材が棒状の回転子の周囲に配置されることが好ましく、また該付着菌殺菌装置は、該壁面払拭用部材が該回転子を軸にして回転または扇動できるような機構を有することが好ましい。また、本発明の付着菌殺菌装置には、壁面払拭用部材から付着菌を離脱させ、該付着菌を回収する機構が設けられることが好ましい。
【0014】
本発明において生成される活性な空気は、プラズマ、イオン、ラジカルの少なくともいずれかを分子内に有する粒子、および/またはオゾン、を含むことが好ましい。
【0015】
本発明の付着菌殺菌装置においては、フィルターを配置した供給部から空気を供給し、放電を行うことにより活性な空気を生成させることが好ましい。また、壁面部分に対して吹き付けられる活性な空気は、熱源により加熱されることが好ましい。
【0016】
本発明においては、壁面払拭用部材が接触した壁面部分に対し、活性な空気の吹き付け前および/または吹き付けと同時に、ランプにより光が照射されることが好ましい。
【0017】
なお、本発明における壁面および床面には、部屋の天井やドア・扉の表面並びに書庫や各種装置の表面といった通常付着菌等の付着するあらゆる面が含まれる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、好ましくは繊維状または弾性を有する壁面払拭用部材を壁面上に接触させながら移動させることによって該壁面の付着菌を除去し、さらに活性な空気を該壁面に照射することによって残存する菌を殺菌する方法により、人体に対して安全でかつ十分な殺菌能力を確保することが可能な付着菌殺菌方法および付着菌殺菌装置を低コストで提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の付着菌殺菌方法および付着菌殺菌装置は、壁面払拭用部材を壁面上に接触させながら移動させて壁面の付着菌を払拭した後、放電により生成させた活性な空気を、該壁面払拭用部材が接触した壁面部分に対して吹き付け、払拭時に残存した菌を殺菌することを特徴とする。
【0020】
本発明の付着菌殺菌装置は、壁面払拭用部材と、該壁面払拭用部材を壁面上に接触させながら移動させる機構と、放電により活性な空気を生成させる機構と、該壁面払拭用部材が接触した壁面部分に対して活性な空気を吹き付ける機構とを有する付着菌殺菌装置に関する。
【0021】
壁面に存在する付着菌が多数集合してコロニーを形成し、さらにバイオフィルムで覆われている場合、コロニーの外側から薬剤を作用させるのみでは一般に十分な殺菌作用が得られ難い。本発明においては、まず壁面払拭用部材で壁面を払拭することで、付着菌のコロニーの大部分を除去し、その後、壁面に残留する残存菌に対し、殺菌能力を有する活性な空気を作用させることによって、付着菌の除去効率を大幅に高めることができる。すなわち、壁面払拭用部材を壁面上に接触させながら移動させると、該壁面払拭用部材と該壁面との間の摩擦により、コロニーを形成する付着菌は分断されつつ壁面から除去される。壁面には分断された残存菌が存在するが、コロニーのようにバイオフィルムで強固に覆われておらず、活性な空気を作用させると比較的容易に殺菌が可能である。
【0022】
本発明において使用される壁面払拭用部材は弾力性を有する材料で形成されることが好ましい。この場合、壁面に接触させながら移動させる際の、特に凹凸を有する面の付着菌の払拭効率が良好である。このような材料としては、繊維状または例えばゴム状の弾性を有する材料が好ましく、具体的には、耐磨耗性、耐薬品性、引張強度等が高い材質として、66ナイロン、ケブラー、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエステル樹脂等の材質からなる織布、不織布等の弾力性のある布や、アクリロニトリル・ブタジエンゴム(ABR)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、木綿等の材質からなるゴム状物質が適している。なおゴム状物質が多孔性の、布、編物、スポンジ状物質であることも好ましい。
【0023】
また、壁面払拭用部材が回転体もしくはベルト状の形態を有する場合、払拭された付着菌を離脱、回収する機構と組み合わせることにより壁面払拭用部材を繰り返し使用でき、装置の構成が安価かつ容易であるため好ましい。
【0024】
本発明の付着菌殺菌装置においては、壁面払拭用部材が棒状の回転子の周囲に配置され、該壁面払拭用部材が該回転子を軸にして回転または扇動するように駆動部が構成されることが好ましい。すなわち、壁面払拭用部材をローラー等として構成することにより、装置の構成を比較的単純化してコストを低減するともに、壁面に存在する付着菌を効率良く払拭することができる。
【0025】
本発明の付着菌殺菌装置においては、壁面払拭用部材に付着させた付着菌を離脱させ、回収する機構が設けられることが好ましい。この場合、壁面払拭用部材を繰り返し使用でき、クリーニングのためのコストが低減されるという利点を有する。付着菌の離脱機構としては、壁面払拭用部材表面の付着菌に風圧をかけて引き剥がしたり、壁面払拭用部材表面に、たとえばステンレス304等の金属からなる箆状部材や、各種の布、編物状部材等の別の部材を押し当てることによって該付着菌を引き剥がしたりする機構等が好ましく採用される。また、離脱させた付着菌の回収機構としては、離脱させた該付着菌を空気の流れによって吸引したり、壁面払拭用部材の表面を液槽に浸漬したりする機構等が好ましく採用される。
【0026】
本発明において生成される活性な空気は、プラズマ、オゾン、イオン、ラジカルから選択される反応性を有する粒子を含むことが好ましい。たとえばイオンとしては、H3+(H2O)n(nは0または自然数)、N2+、O2+等の正イオン、O2-(H2O)m(mは0または自然数)、NO2-、CO2-等の負イオンが挙げられる。
【0027】
たとえば空間に正イオンとしてH3+(H2O)n(nは0または自然数)、負イオンとしてO2-(H2O)m(mは0または自然数)が送出される場合、これらの正負両イオンは細菌等を取り囲み、菌の表面で正負両イオンが以下のような化学反応(1)〜(2)によって活性種である過酸化水素H22、二酸化水素HO2またはヒドロキシラジカル・OHを生成する。
3++O2-→・OH+H22・・・・(1)
3++O2-→HO2+H2O ・・・・(2)
そして、このように正負両イオンが作用して生成した過酸化水素H22、二酸化水素HO2またはヒドロキシラジカル・OHは、菌等の細胞膜を破壊してその増殖能力を喪失させることにより、効率的に殺菌させることができる。
【0028】
上記のような反応性を有する粒子を用いれば、付着菌に対する高い殺菌効果が比較的容易に得られる。なお本発明においては、簡便な方法であるという点で、壁面に対して吹き付けられる活性な空気は、空気中での放電により生成されることが好ましい。
【0029】
空気中で放電を行うことによって活性な空気を生成させる際には、フィルターを配置した供給部から空気を供給することが好ましい。この場合、清浄な空気を供給することによって放電を効率良く発生させ、殺菌能力の高い活性な空気を多量に生成させることができる。
【0030】
本発明においては、壁面払拭用部材が接触および移動した壁面部分に対し、熱源により加熱された活性な空気が吹き付けされることが好ましい。または、活性な空気の吹き付け前および/または吹き付けと同時に、壁面払拭用部材が接触および移動した壁面部分に対し、ランプにより光が照射されることが好ましい。この場合、加熱された活性な空気による熱、またはランプの光によって、付着菌表面の水分が蒸発し、活性な空気が付着菌の表面に直接作用するため、より高い殺菌効果が発揮されるという利点を有する。ランプから照射される光としてはたとえば赤外線、遠赤外線ヒーターの輻射光、白熱灯、LEDランプ、蛍光灯等が好ましく採用される。
【0031】
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1に係る付着菌殺菌装置を示す概略断面図である。図1に示す付着菌殺菌装置の各部と動作について説明する。図1に示す付着菌殺菌装置は、モーターまたは人力等の搬送手段(図示せず)により、たとえば矢印110で示す方向等に筐体101が進行することが可能であり、進行と同時に、繊維状または弾性を有する壁面払拭用部材で構成されたローラー102が別の動作手段にて回転し、壁面111とローラー102とが摩擦を生じるように構成される。この摩擦により、壁面111上に存在する付着菌が形成するコロニー108が物理的に分断される。分断された付着菌112の多くはローラー102に付着して壁面から引き剥がされ、さらに吸引管103への空気の吸入による吸着力によって、矢印106の方向に回収される。なお、本実施の形態においては、ローラー102から付着菌112を引き剥がす手段として風を利用しているが、ローラー102にたとえばステンレス304等の金属からなる箆状部材や、各種の布、編物状部材等の別の部材を押し当てることによりローラー102から付着菌を剥がすような構成とすることも可能である。
【0032】
なお、以上の動作により、付着菌112の多くは壁面から引き剥がされるが、一部は残存菌109として壁面に残留する。この残存菌109は、繊維状または弾性を有する壁面払拭用部材で構成されたローラー102の摩擦を受けているため、バイオフィルムの除去、あるいは菌の分断が行われており、菌の表面が露出している状態となっている。そこで、送風管105から送出された空気を放電装置104によって活性な空気に加工し、矢印107で示す方向に送出し、活性な空気を残存菌109に衝突させる。これにより残存菌109が急速に殺菌されるか、または、増殖する能力を失わせることが可能になる。
【0033】
図3は、本発明の付着菌殺菌装置において構成される放電装置の一例の概略図である。本実施の形態で使用される付着菌殺菌装置の放電装置は図3に示した構造を有し、たとえばアルミナからなる誘電体302の表面に配置された放電電極301、および、該誘電体302の中に埋め込まれた対向電極303からなる放電部と、高圧パルス電源304とを有する。高圧パルス電源304からは、正と負からなる高圧パルス電圧(たとえば周波数60Hz、尖頭電圧約2kV)が生成され、放電電極301と対向電極303との間に印加される。放電電極301の表面において、沿面放電により生成されたプラズマにより、空気中の酸素(O2)および水(H2O)等の分子がエネルギーを受けるので、これらの分子は活性な粒子に変換され、空間に放出される。放電装置の表面に存在する酸素分子および/または水分子を原料として放電現象により発生した正負両イオンの組成は、主として正イオンとしてはプラズマ放電により空気中の水分子が電離して水素イオンH+が生成し、これが溶媒和エネルギーにより空気中の水分子とクラスタリングすることによりH3+(H2O)n(nは0または自然数)を形成したものである。一方、負イオンとしてはプラズマ放電により空気中の酸素分子または水分子が電離して酸素イオンO2-が生成し、これが溶媒和エネルギーにより空気中の水分子とクラスタリングすることによりO2-(H2O)m(mは0または自然数)を形成したものである。
【0034】
そして、空間に送出されたこれらの正負両イオンは細菌等を取り囲み、菌の表面で正負両イオンが以下のような化学反応(1)〜(2)によって活性種である過酸化水素H22、二酸化水素HO2またはヒドロキシラジカル・OHを生成する。
3++O2-→・OH+H22・・・・(1)
3++O2-→HO2+H2O ・・・・(2)
そして、このように正負両イオンが作用して生成した過酸化水素H22、二酸化水素HO2またはヒドロキシラジカル・OHは、菌等の細胞膜を破壊してその増殖能力を喪失させることにより、付着菌を効率的に殺菌することができる。
【0035】
本実施の形態においては、尖頭電圧値が2kV、周波数が60Hzの、正と負の両電圧からなる高圧パルス電圧を印加している。
【0036】
なお、本実施の形態では、正イオンとしてH3+(H2O)n(nは0または自然数)、負イオンとしてO2-(H2O)m(mは0または自然数)を主に放出するような放電条件を選んでいるが、放電により生成される活性な粒子は以上の物質に限られるものではない。上記2種以外の物質、たとえば、N2+、O2+、NO2-、CO2-等のイオンや、オゾン、ラジカル、等を含んでいたとしても同様の効果が期待できる。
【0037】
図4は、本発明の付着菌殺菌装置における壁面払拭用部材の作用例について説明する図である。図4においては、たとえば弾力性を有する円筒状のスポンジからなるローラー401と壁面402とが接触しており、ローラー401は回転しながら、壁面402に付着した付着菌のコロニー403を払拭、すなわち剥離および除去し、矢印408の方向に進行する。なお、弾力性を有する壁面払拭用部材で形成されたローラー401は、壁面402に凹部406と凸部407が存在している場合でも壁面に合わせた形状に変化し、付着菌のコロニーを分断することができる。払拭後に壁面に残留した残存菌404に対して、放電により生成した活性な空気405を吹き付けられることにより、残存菌404の増殖能力を失わせることができる。以上の方法により、付着菌の殺菌を確実に行うことができる。
【0038】
本実施の形態に係る付着菌殺菌装置を用いて、クリーンルームの床面および壁面を掃除したところ、床面および壁面への付着菌は除去され、カビ等は目視で確認できなくなった。また、1ヶ月間上記壁面を放置した結果、カビの発生は起こらず清潔な状態を維持することができた。
【0039】
(実施の形態2)
図2は、実施の形態2に係る付着菌殺菌装置を示す概略断面図である。図2に示す付着菌殺菌装置は、モーターまたは人力等の搬送手段(図示せず)により、たとえば矢印212で示す方向等に進行することが可能であり、掃除機の筐体201の内部に、円筒状の回転子202、布製のベルト203がモーター(図示せず)により駆動され回転する機構を有している。また、ベルト203は床面208に付着した付着菌のコロニー209を払拭し、分断・除去し、分断された付着菌211の破片を搬送し、液槽206内の液体207を通過させることにより、付着菌211を液体中に回収除去する構造を有している。なお液体207としては、たとえばイオン交換水、塩素を含む水道水等、蒸留水、有機溶剤、界面活性剤を含む水等を好ましく使用できる。
【0040】
また図2に示す付着菌殺菌装置は、送風装置205および放電装置204を有し、上記構成によりコロニーを除去された壁面に活性な空気を送風することを可能としている。放電装置204は、実施の形態1と同様、たとえば図3に示すような構成とされることができる。この構成により、コロニー除去後に床面に残存した残存菌210の細胞膜を破壊し、増殖能力を失わせることが可能になる。
【0041】
なお、本実施の形態における送風装置205は、熱風を送風することによって床面の温度を上昇させる機能を持つ構成としてもよい。このような構成により、床面の細菌に付着する水分を蒸発させることが可能になり、活性な空気が菌の表面に直接作用することが可能になるため、殺菌効果が高まる効果を発揮することができる。
【0042】
また、熱風の代わりに、床面の残存菌210に対して光を照射する構成としてもよい。光照射により、細菌表面の温度が上昇し、水分が蒸発するので、同様に活性な空気による殺菌性能を上げることができる。
【0043】
すなわち、本実施の形態の付着菌殺菌装置では、温風に代えて光照射を用いる方法として、たとえば50Wの白色電球を配置し、床面を照射することが可能である。温風に代えて光を照射した場合にも、温風を照射した場合と同様の効果を得ることができる。
【0044】
本発明における床面および壁面の払拭方法および装置は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、卓上でも使用できるような小型の掃除機様のものや、片手で操作可能なポータブルの車内清掃用掃除機様のものも構築可能である。
【0045】
<活性な空気による殺菌性能>
本発明は活性な空気を付着菌に吹き付けることによる殺菌性能を利用することを特徴とする。以下に、活性な空気の殺菌性能について試験した結果を説明する。図1に示す付着菌殺菌装置を用い、ニトリルゴム(印刷機等で使用される高弾性のゴムローラ)で形成されたローラーを壁面払拭用部材として付着菌の払拭を行った後、さらに空気中の放電により生じさせたH3+(H2O)n(nは0または自然数)およびO2-(H2O)m(mは0または自然数)をそれぞれ1000個/cm3の濃度で含む活性な空気を、壁面払拭用部材で払拭済みの壁面部分に照射し、殺菌性能を評価した。
【0046】
放電装置としては図3に示す放電装置を用いた。なお、放電電極301と対向電極303との間隔は約0.2mmであり、放電電極301は網目状のパターンを形成しており、放電電極のサイズは約1cm×3cmの長方形形状となっている。
【0047】
放電素子の表面に存在する酸素分子および/または水分子を原料として、放電現象により、過酸化水素H22、二酸化水素HO2またはヒドロキシラジカル・OHを生成させた。
【0048】
図5は、殺菌性能試験装置を示す図である。菌をPBSバッファ液(pH=7.4)に分散させた後、図5で示すトレイ502内に形成された寒天培地503の上に拡散し、所定の処理を行った後、72時間、37度の培養を行い、コロニー数を計測した。
【0049】
第1の試験として、付着菌に対する放電ガスの殺菌性能を調べるため、まず菌として、Bacillus Subtilis(枯草菌)を用い、上記方法により寒天培地503上に菌を拡散し、さらに8時間の培養(37℃)を行い、枯草菌のコロニーを形成させた。続いて、図5に示すように、放電装置501から生成される活性なイオンを含む空気を矢印504で示すように拡散させ、寒天培地503にイオンが行き渡るようにして、活性な空気による暴露を行った。なお、試験箱505のサイズは、21×14×14cmとした。また、イオン濃度は、寒天培地503上で正負イオンが各約1,000個/cm3(ただし臨界移動度を1cm2/V・cmとして小イオンの濃度を測定)としており、オゾン濃度は0.01ppm未満であった。なお、試験の箱内部にはファンは設けず、イオンは自然対流と自然拡散により暴露するようにしている。
【0050】
以上の試験において、引き続いて72時間、37℃の培養を行い、コロニー数および状態を観測した。活性な空気を菌に暴露した場合と暴露しない場合の比較を行ったところ、コロニー数およびコロニーサイズについて有意な差は見られず、暴露の有無に係わらずコロニーサイズの増大はほぼ同様に確認されたことから、培養(8時間、37℃)により形成されたコロニーに対して、上記条件の活性な空気を暴露しても、コロニーの増殖を抑制する効果は見られないことが確認された。
【0051】
一方、第2の試験として、同様にBacillus Subtilis(枯草菌)を用いて、寒天培地上に菌を拡散した後、寒天培地上の菌に上記活性な空気を一定時間暴露させ、その後72時間、37℃の培養を行い、コロニー数および状態を観測した。図6は、寒天培地上に形成されたコロニー数と活性な空気の暴露時間との関係を示す図である。図6に示すように、暴露時間が長くなるにつれて、培養後に得られたコロニー数(CFU:Colony Forming Unit)が減少し、540分の暴露により、枯草菌によるコロニー形成が確認されなくなった。
【0052】
これらの結果は以下のメカニズムにより説明される。つまり、寒天培地に拡散させた枯草菌は、当初は菌が単体で寒天培地の表面に露出しており、空気中の活性な空気が含む活性な粒子と接触することにより細胞膜が破壊され、増殖する力を失う。この確率は、空気中の活性な空気の粒子と衝突する確率に依存すると考えられ、暴露時間の増大により、増殖能力を失う菌数が増加する。図6においてはこの作用の結果が示されているものと考えられる。
【0053】
なお図6におけるコロニー数(CFU)の減少は、暴露時間が60分の場合にわずかになっているが、これは寒天培地上に拡散させた菌の表面が当初は水で覆われている場合があり、この場合に細胞膜の破壊が抑制されたものと推定される。
【0054】
以上のように、菌が多数で固まっているか、あるいは単体で存在しているかにより、活性な空気による殺菌性能が異なることを利用し、付着菌の殺菌効果を変化させることが可能になる。すなわち、本発明においては、好ましくは繊維状または弾性を有する材料で形成された壁面払拭用部材によって付着菌を払拭し、付着菌を除去しつつ、さらに残存し分断させられた菌に対して、活性な空気を照射すると、効果的な殺菌を行うことができる。またさらに、上記の払拭を行った後、活性な空気の照射前、あるいは照射と同時に、熱風あるいは光を菌に照射し、菌の表面の水分を蒸発させることにより、殺菌性能を上げることが可能になる。
【0055】
<実施例>
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0056】
(実施例1〜5)
実施の形態2に示す方法でクリーニング試験を行った。図7は、実施例1〜5におけるSarcina Flava(サルチナ・フレイバ)の殺菌性能を示す図である。実施例1〜5においては、Sarcina Flavaを細菌の代表例として床面に散布し、コロニーを形成させ、その後実施の形態2の装置によりクリーニングし、床面の細菌を培養した。細菌が形成したコロニー数の結果を図7に示す。
【0057】
図7に示すように、床面において、正イオン濃度および負イオン濃度をそれぞれ1,000個/cm3とした実施例1においては、活性な空気の照射時間60秒間において、約8%の細菌減少効果が見られた。一方、正イオン濃度および負イオン濃度をそれぞれ1万個/cm3とした実施例2においては、60秒間で約79%の細菌減少効果があり、イオン濃度を増大させることにより殺菌性能を向上させられることが確認できた。
【0058】
また、正イオン濃度および負イオン濃度をそれぞれ10万個/cm3とした実施例3においては、30秒間で約92%の殺菌効果を得ることができており、さらに正イオン濃度および負イオン濃度をそれぞれ100万個/cm3とした実施例4においては、10秒間で90%、30秒間で99%の殺菌効果を得ることができた。
【0059】
また、正イオン濃度および負イオン濃度をそれぞれ100万個/cm3とし、温風(80℃)を活性な空気と同時に送風した実施例5においては、実施例4よりも殺菌性能はさらに向上し、5秒間で99%以上の殺菌性能を得ることができた。
【0060】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明によれば、繊維状または弾性を有する部材で払拭することにより壁面等に存在する付着菌を効果的に除去するとともに、活性の空気を壁面に照射することにより、壁面に残存した菌を効果的に殺菌できる。これにより病院、工場その他において清潔な環境を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】実施の形態1に係る付着菌殺菌装置を示す概略断面図である。
【図2】実施の形態2に係る付着菌殺菌装置を示す概略断面図である。
【図3】本発明の付着菌殺菌装置において構成される放電装置の一例の概略図である。
【図4】本発明の付着菌殺菌装置における壁面払拭用部材の作用例について説明する図である。
【図5】殺菌性能試験装置を示す図である。
【図6】寒天培地上に形成されたコロニー数と活性な空気の暴露時間との関係を示す図である。
【図7】実施例1〜5におけるSarcina Flava(サルチナ・フレイバ)の殺菌性能を示す図である。
【符号の説明】
【0063】
101,201 筐体、102,401 ローラー、103 吸引管、104,204,501 放電装置、105 送風管、108,209,403 コロニー、109,210,404 残存菌、111,402 壁面、112,211 付着菌、202 回転子、203 ベルト、205 送風装置、206 液槽、207 液体、208 床面、301 放電電極、302 誘電体、303 対向電極、304 高圧パルス電源、405 活性な空気、406 凹部、407 凸部、502 トレイ、503 寒天培地、505 試験箱。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
壁面払拭用部材と、前記壁面払拭用部材を壁面上に接触させながら移動させる機構と、放電により活性な空気を生成させる機構と、前記壁面払拭用部材が接触した壁面部分に対して、前記活性な空気を吹き付ける機構と、を有する付着菌殺菌装置。
【請求項2】
前記壁面払拭用部材が、繊維状または弾性を有する材料で形成される、請求項1に記載の付着菌殺菌装置。
【請求項3】
前記壁面払拭用部材が、回転体またはベルト状の形態を有する、請求項1または2に記載の付着菌殺菌装置。
【請求項4】
前記壁面払拭用部材が棒状の回転子の周囲に配置され、前記回転子を軸にして前記壁面払拭用部材を回転または扇動させるための機構を有する、請求項1〜3のいずれかに記載の付着菌殺菌装置。
【請求項5】
前記壁面払拭用部材から付着菌を離脱させ、前記付着菌を回収する機構を有する、請求項1〜4のいずれかに記載の付着菌殺菌装置。
【請求項6】
前記活性な空気は、プラズマ、イオン、ラジカルの少なくともいずれかを分子内に有する粒子、および/またはオゾン、を含む、請求項1〜5のいずれかに記載の付着菌殺菌装置。
【請求項7】
フィルターを配置した供給部から空気を供給して放電を行うことにより前記活性な空気を生成させる、請求項1〜6のいずれかに記載の付着菌殺菌装置。
【請求項8】
前記活性な空気が熱源により加熱される、請求項1〜7のいずれかに記載の付着菌殺菌装置。
【請求項9】
前記壁面払拭用部材が接触した壁面部分に対して、前記活性な空気の吹き付け前および/または吹き付けと同時に、ランプにより光が照射される、請求項1〜8のいずれかに記載の付着菌殺菌装置。
【請求項10】
壁面払拭用部材を壁面上に接触させながら移動させた後、放電により生成させた活性な空気を前記壁面払拭用部材が接触した壁面部分に対して吹き付ける、付着菌殺菌方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate