説明

伸縮性を有する全芳香族ポリアミド紡績糸及びその製造方法

【課題】伸縮性のある全芳香族ポリアミド糸を提供する。
【解決手段】全芳香族ポリアミド繊維よりなる紡績糸に特定の物理処理を施すことにより伸縮特性を付与する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高強度、難燃性に優れた全芳香族ポリアミド繊維よりなる伸縮性を有する紡績糸及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
全芳香族ポリアミド(以下アラミドと略記する場合がある)繊維にはコーネックス、ノーメックスに代表されるメタ系アラミド繊維とテクノーラ、ケブラー、トワロンに代表されるパラ系アラミド繊維とがある。
【0003】
これらのアラミド繊維は、ナイロン6、ナイロン66など、従来から広く使用されている脂肪族ポリアミド繊維と比較して、剛直な分子構造と高い結晶性を有しているので、耐熱性、耐炎性(難燃性)などの熱的性質に優れている上、耐薬品性、耐放射線性、電気特性などの安全性にも優れた性質を有している。
【0004】
従ってアラミド繊維は、耐炎性(難燃性)や耐熱性が必要とされる防護服やバッグフィルターなどの産業資材用、カーテンなどのインテリア用として広く使用されている。
中でも、消防士、飛行士、レースドライバー、電力会社、化学会社など、火災に遭遇する可能性のある作業に従事する人々が着用する高遮熱性の防炎防護衣服を構成する繊維として、環境問題や動き易さ・軽量化などの観点より、従来のアスベスト繊維、ガラス繊維に代わって、アラミド繊維が多く使用されるようになってきた。
【0005】
これらアラミド繊維を用いることにより高機能性を有することが可能であるものの、伸縮性が不十分であり、衣服着用時の作業運動性、例えば肘・膝・背中・腹部などの屈伸運動において、伸縮特性を有していないため着用快適性が不十分であり、ポリウレタン系やポリエステル系の弾性繊維を混交紡編織されている。しかしながらポリウレタン系やポリエステル系の弾性繊維は耐熱性、難燃性が低く、耐熱性や耐炎性(難燃性)が必要とされる防護服やバッグフィルターなどの産業資材用、カーテンなどのインテリア用としては適さず、伸縮性のあるアラミド繊維糸が強く求められていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
伸縮性のある全芳香族ポリアミド糸を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
全芳香族ポリアミド繊維よりなる紡績糸に特定の物理処理を施すことにより伸縮性を付与する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の伸縮性を有する全芳香族ポリアミド繊維よりなる紡績糸からなる混交編織物を、肘・膝・背中・腹部などの屈伸運動に関連する部位に用いることにより、伸縮・屈伸などの運動特性に優れ、且つ快適に着用・動作できる全芳香族ポリアミド繊維100%よりなる耐熱性や耐炎性衣服などを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の紡績糸で使用するアラミド繊維には、メタ系アラミド繊維とパラ系アラミド繊維とがある。メタ系アラミド繊維とは、主骨格を構成する芳香環がアミド結合によりメタ型に結合されてなるメタ系全芳香族ポリアミドポリマーからなるものであり、ポリマーの全繰返し単位の85モル%以上がメタフェニレンイソフタルアミド単位であるものが好ましく、中でもポリメタフェニレンイソフタルアミドホモポリマーが好ましい。
【0010】
全繰返し単位の15モル%以下、好ましくは5モル%以下で共重合し得る第3成分としては、ジアミン成分として、例えばパラフェニレンジアミン、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、パラキシリレンジアミン、ビフェニレンジアミン、3,3’−ジクロルベンジジン、3,3’−ジメチルベンジジン、3,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、1,5−ナフタレンジアミン等の芳香族ジアミンが、また酸成分としては、例えばテレフタル酸、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸、ナフタレン−2,7−ジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸が挙げられる。また、これらの芳香族ジアミン及び芳香族ジカルボン酸は、その芳香族環の水素原子の一部がハロゲン原子やメチル基等のアルキル基によって置換されていてもよい。
【0011】
尚、ポリマーの全末端の20%以上が、アニリン等の一価のジアミンもしくは一価のカルボン酸成分で封鎖されている場合には、特に高温下に長時間保持しても繊維の強力低下が小さくなるので好ましい。
【0012】
このようなメタ系全芳香族ポリアミドポリマーは、芳香族ジアミンと芳香族ジカルボン酸ジハライドとを、例えば従来公知の界面重合法により製造することができる。ポリマーの重合度としては、N−メチル−2−ピロリドンを溶媒として0℃で測定した固有粘度(IV)が0.8〜3.0、特に1.0〜2.0の範囲にあるものが好ましい。
【0013】
これらメタ系全芳香族ポリアミドポリマーからなる繊維に耐熱、耐炎性や強力保持性などの機能特性を向上させるためにパラ系アラミド繊維を5%以上、好ましくは5〜60%均一混合することが好ましい。60%を超える場合は伸縮性が低いものとなり好ましくない。
【0014】
これに供するパラ系アラミド繊維としては、ポリパラフェニレンテレフタルアミド、あるいは、これに第3成分を共重合したコポリパラフェニレン・3.4’オキシジフェニレンテレフタルアミドなど、パラフェニレン基を主鎖中に組み込んだパラ系全芳香族ポリアミドポリマーからなるアラミド繊維が好ましい。特にコポリパラフェニレン・3.4’オキシジフェニレンテレフタルアミドからなる共重合タイプのパラ系アラミド繊維が好ましい。
【0015】
上記のメタ系アラミド繊維とパラ系アラミド繊維を均一に混合し、公知の方法により紡績糸とする。
【0016】
次に全芳香族ポリアミドからなる紡績糸の伸縮性付与のための物理処理について説明する。物理処理の方法としては、超音波、コロナ放電、放射線、電流、磁界、化学的な化合物による処理等があるが、中でも極性溶剤であるDMSO、DMF、DMAc、NMP、スルフォラン、或いは第4級アンモニウム塩(例えば、CTMAB:臭化セチルトリメチルアンモニウム)などを1種類以上用いて、アラミド繊維からなる紡績糸を浸漬・噴射・塗布・ディッピングなどにより接触処理し、さらに常温及び/又は加温処理する方法が好ましい。残留溶剤を少なくするためには高温の方が好ましいが糸の特性を維持するうえでは100℃以下の温度が好ましい。好ましい加温処理としては80℃×30分程度であるが、温度および時間は任意で設定処理できる。またその際、80℃×30分処理と同様な効果を得るためには、低温の場合30分超時間、高温の場合30分未満時間で処理すれば目的の特性は得られる。この方法により全芳香族ポリアミドからなる紡績糸に伸縮性が付与できる。尚、以上の物理的処理は低緊張下、好ましくは無緊張下で行うことが望ましい。
【0017】
伸縮性が発現する理由については明らかではないが、極性溶媒で処理することにより繊維が膨潤し、その後の加熱乾燥により収縮することにより伸縮性が発現するものと考えられる。
得られた紡績糸を用いて公知の方法で布帛とし、さらに布帛を一部或いは全体に用いた衣服とすることができる。こうした衣服は高強度、難燃性でしかも伸縮性があるので消防服、耐火服等に有用である。
【実施例】
【0018】
以下、実施例を挙げて、本発明の構成および効果を詳細に説明する。
尚、本発明の伸縮性の効果としては、初荷重19.6mNでの伸長率で表した。伸長率の測定はJIS L 1013に準じて行った。
【0019】
[実施例1]
帝人テクノプロダクツ(株)製のメタ系アラミド繊維(商品名「コーネックス」2.2dtex、51mm)に同社製のパラ系アラミド繊維(商品名「テクノーラ」1.7dtex、51mm)を5重量%混綿した短繊維を紡績して36/2の紡績糸を得た。
該紡績糸を綛取りして、綛湿熱処理機にてDMSO100%で80℃×30分処理した。処理後、排水し、同処理機内で湯洗および水洗を行った。処理前後の伸縮性を測定した。表1に示す。この結果良好な伸縮性が得られた。
【0020】
[実施例2]
パラ系アラミド繊維の混綿を10%とした以外は、実施例1と同様に処理した。処理前後の伸縮性を測定した。表1に示す。この結果良好な伸縮性が得られた。
【0021】
[実施例3]
パラ系アラミド繊維の混綿を40%とした以外は、実施例1と同様に処理した。処理前後の伸縮性を測定した。表1に示す。この結果良好な伸縮性が得られた。
【0022】
[実施例4]
パラ系アラミド繊維の混綿を60%とした以外は、実施例1と同様に処理した。処理前後の伸縮性を測定した。表1に示す。この結果良好な伸縮性が得られた。
【0023】
[実施例5]
極性溶媒をNMPとした以外は、実施例1と同様に処理した。処理前後の伸縮性を測定した。表1に示す。この結果良好な伸縮性が得られた。
【0024】
[実施例6]
パラ系アラミド繊維を帝人テクノプロダクツ製PPTA(商品名「トワロン」1.7dtex、51mm)を用いた以外は、実施例1と同様に処理した。処理前後の伸縮性を測定した。表1に示す。この結果テクノーラと比べやや低い伸縮特性を示した。トワロンはパラフェニレンテレフタルアミドのホモポリマーであるため溶剤処理の効果がやや低くなったものと考えられる。
【0025】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明によれば、伸縮特性を有した全芳香族ポリアミド繊維よりなる紡績糸を供することにより、例えば衣服着用時の作業運動性、例えば少なくとも肘・膝・背中・腹部などの屈伸運動に関連する部位に混交編織物を用いた際の伸縮・屈伸などの運動特性に優れた快適に着用・動作できる全芳香族ポリアミド繊維100%よりなる衣服などを提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物理処理された全芳香族ポリアミド繊維よりなることを特徴とする伸縮性を有する全芳香族ポリアミド繊維紡績糸。
【請求項2】
物理処理が、極性溶媒との接触処理及びその後の加温処理である請求項1記載の伸縮性を有する全芳香族ポリアミド繊維紡績糸。
【請求項3】
全芳香族ポリアミド繊維にパラ系全芳香族ポリアミド繊維を含む請求項1〜2いずれか1項記載の伸縮性を有する全芳香族ポリアミド繊維紡績糸。
【請求項4】
パラ系全芳香族ポリアミド繊維を紡績糸全重量に対し5〜60%含む請求項1〜3いずれか1項記載の伸縮性を有する全芳香族ポリアミド繊維紡績糸。
【請求項5】
パラ系全芳香族ポリアミド繊維が、パラフェニレン基を主鎖中に組み込んだ共重合タイプのパラ系全芳香族ポリアミドポリマーからなるパラ系全芳香族ポリアミド繊維である請求項1〜4いずれか1項記載の伸縮性を有する全芳香族ポリアミド繊維紡績糸。
【請求項6】
共重合タイプのパラ系全芳香族ポリアミドポリマーが、コポリパラフェニレン・3.4’オキシジフェニレンテレフタルアミドである請求項5記載の伸縮性を有する全芳香族ポリアミド繊維紡績糸。
【請求項7】
全芳香族ポリアミド繊維よりなる紡績糸に物理処理を施すことを特徴とする、請求項1〜6いずれか1項記載の伸縮性を有する全芳香族ポリアミド繊維紡績糸の製造方法。
【請求項8】
物理処理が、紡績糸を極性溶媒に浸漬、及び/又は極性溶媒を紡績糸に塗布、噴射などして極性溶媒を紡績糸に浸透させた後、常温及び/又は加温処理することである請求項7記載の伸縮性を有する全芳香族ポリアミド繊維紡績糸の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜6記載の伸縮性を有する全芳香族ポリアミド繊維紡績糸を含むことを特徴とする布帛及びそれからなる衣服。

【公開番号】特開2008−13865(P2008−13865A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−184372(P2006−184372)
【出願日】平成18年7月4日(2006.7.4)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【Fターム(参考)】