説明

伸縮性経編地及びその用途

【課題】 伸縮性に優れた経編地であって、状況により、優れた保温性、又は優れた通気性を発揮することができる伸縮性経編地を提供する。そして、保温性に優れたウェア又は通気性に優れたウェアとして機能し、着用快適性に優れたインナーウェアやスポーツウェア等を提供する。
【解決手段】 伸縮糸および非伸縮糸から編成される伸縮性経編地であって、非伸縮糸によって形成されるメッシュ部が存在し、メッシュ部内を伸縮糸のシンカーループがウェール方向に横断し、メッシュ部の経方向長さが3〜10コースであり、メッシュ部を横断するシンカーループの数が1メッシュ部あたり2〜12本である伸縮性経編地である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伸縮性経編地に関するものである。特にランジェリー、ファンデーション等のインナーウェアや、アクティブウェア、レオタード等のスポーツウェアに好適に使用される伸縮性経編地に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特にランジェリー、ファンデーション等のインナーウェアや、アクティブウェア、レオタード等のスポーツウェアには、ポリウレタン弾性糸等の伸縮糸を編み混むことにより伸縮性を付与した伸縮性布帛が用いられている。この伸縮性布帛としては、経編地、丸編地等の編地が一般に用いられている。
【0003】
また、衣服にした際の通気性をもたせる場合には、編み組織中に穴部(メッシュ部)を形成したメッシュ調編地が広く採用され、逆に、保温性をもたせる場合には、サテン調編組織に代表されるような緻密な表面構造を有する編地が一般に採用されている。
【0004】
編み組織中に穴部(メッシュ部)を形成したメッシュ調編地は、布帛中に意図的に穴となるメッシュ部を形成したものであるので、無緊張状態の時でもメッシュ部は開状態となっている。
【0005】
例えば、ガードルやボディスーツ等に適したメッシュ調弾性経編地として、タテ・ヨコ方向への伸びのバランスが良好であり、且つ清涼感、通気性に優れたメッシュ調弾性経編地が特許第2657200号公報(特許文献1参照)で提案されている。このメッシュ調弾性経編地は、非弾性糸が2枚の筬にハーフセットに糸通しされて編成されたメッシュ編みの地組織に、コース方向の部分緯糸として第1弾性糸が挿入され、同一ウェール上に第2弾性糸が挿入された経編地であって、編目の空間率が5.0〜6.9%、タテ・ヨコ方向伸び比率が0.8〜1.2等の特性を有するメッシュ調弾性経編地である。この弾性経編地は、所定の編目空間率となるメッシュ部を形成するために、第1弾性糸の部分緯糸の挿入はメッシュ部の位置を外して配されており、そのメッシュ部は無緊張状態でも目が開いた穴状態となっている。
【特許文献1】特許第2657200号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
インナーウェアやスポーツウェア等で用いられている従来の伸縮性経編地のうち、メッシュ調経編地は通気性があるものの保温性に欠けるものであり、また、サテン調の緻密構造の経編地は保温性があるものの通気性に欠けるものである。従って、従来の伸縮性経編地を用いた場合、通気性又は保温性のいずれかが優れるインナーウェアやスポーツウェアを製造することはできるが、保温性に優れ、状況により通気性を発揮できるウェアの製造は困難であった。
【0007】
ところで、インナーウェアやスポーツウェアは、それを着用した状態で種々の日常動作や運動動作が行われるので、保温性ウェアの着用時でも人体からの発熱を緩和するために通気性が必要となる時があり、状況により保温性に優れたウェアとして、又は通気性に優れたウェアとして機能するものや、着用者の着用状況や動作状況に応じてウェアの保温機能や通気機能の程度が部分的に異なってくるものが求められている。
【0008】
そこで、本発明は、伸縮性に優れ、着用快適性良好なウェア用に適した経編地であって、状況により優れた保温性を、又は優れた通気性を発揮することができる伸縮性経編地を提供することを主たる目的とする。そして、状況により保温性に優れたウェアとして、また、通気性に優れたウェアとして機能することができ、保温や通気の面からの着用快適性にも優れたインナーウェアやスポーツウェアを提供することを別の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、前記目的を達成するため以下の手段を採用する。
【0010】
すなわち、本発明の伸縮性経編地は、伸縮糸および非伸縮糸から編成される伸縮性経編地であって、非伸縮糸によって形成されるメッシュ部が存在し、メッシュ部内を伸縮糸のシンカーループがヨコ方向に横断し、メッシュ部のタテ方向長さが3〜10コースであり、メッシュ部を横断するシンカーループの数が1メッシュ部あたり2〜8本であることを特徴とするものである。
【0011】
この伸縮性経編地は、無緊張状態の経編地の2.54cm四方範囲内に、シンカーループ横断のメッシュ部が20〜90個存在することが好ましい。また、シンカーループ横断のメッシュ部のタテ方向長さのコース数(A)に対する、メッシュ部を横断する伸縮糸の横断数(B)の比(B/A)が0.2〜4.0の範囲であることが好ましい。
【0012】
そして、この伸縮性経編地は、無緊張状態の経編地においてメッシュ部は閉状態であり、かつ、ヨコ方向への伸長状態においてメッシュ部が開状態になるものである。
【0013】
この伸縮性経編地を構成する伸縮糸は、15〜156dtexのポリウレタン弾性糸であることが好ましく、このポリウレタン弾性糸は、ポリマージオール成分としてテトラヒドロフランと3−アルキルテトラヒドロフランとのコポリエーテルジオールが使用されて重合されたポリウレタンエラストマーから構成される弾性糸であることが好ましい。
【0014】
また、この伸縮性経編地からスポーツウェアやインナーウェアを製造する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の伸縮性経編地は、伸縮性に優れ、無緊張状態では目の詰んだ編組織であって保温性に優れ、ヨコ方向への伸長(ヨコ方向伸長分力のある斜め方向伸長も含む)時にはメッシュ部が開いたメッシュ調となり、状況により保温性又は通気性を発揮することができる。そして、この伸縮性経編地を主要部分に使用して製造されたインナーウェアやスポーツウェアは、通気性と保温性という相反する機能を同じウェアで発揮できる。即ち、実質的な無緊張状態で着用すると保温性が優れたウェアとなり、引っ張られた伸長状態では通気性が発揮される。従って、本発明によると、同じ布帛によるウェアでも、着用状況により、また着用部位により保温性又は通気性を発揮できるウェアとすることができ、同じ生地で通気性も保温性も状況により発揮可能な伸縮性良好なインナーウェアやスポーツウェアを提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の伸縮性経編地、スポーツウェア、インナーウェアについて説明する。
【0017】
本発明の伸縮性経編地は、伸縮糸および非伸縮糸から編成されるものであり、そして、非伸縮性糸によりメッシュ部が形成され、また、伸縮糸により経編地全体の伸縮性とメッシュ部の開閉性が付与されるものである。
【0018】
本発明において使用する伸縮糸は、繊維自体が本来的にゴム状弾性を有する弾性繊維から構成される糸であることが好ましい。この弾性繊維としては、ポリウレタン弾性糸、ポリエーテル・エステル弾性糸、ポリアミド弾性糸等、もしくは、天然ゴム、合成ゴム、半合成ゴムからなる糸状のいわゆるゴム糸、または、これ等を主体とした他の有機合成樹脂との複合もしくは混合によって得られる弾性糸が挙げられる。なかでも、細繊度でも優れた弾性特性を発揮できることからポリウレタン弾性糸が好ましい。
【0019】
この伸縮糸は、モノフィラメント、マルチフィラメントのいずれの糸条形態であってもよい。また、伸縮糸は、そのまま生糸として使用してもよく、非伸縮糸もしくは伸縮糸で被覆した加工糸として使用してもよい。
【0020】
伸縮糸として好適に用いることができるポリウレタン弾性糸は、ポリウレタン及び/又はポリウレタンウレアから構成される弾性糸である。このポリウレタンやポリウレタンウレアは、長鎖ジオール化合物、ジイソシアネート化合物及び鎖伸長剤を主原料として重合されるウレタン結合を含むポリマであり、ソフトセグメント構成成分となる長鎖ジオール化合物の種類により、ポリエーテル系、ポリエステル系若しくはポリエーテル・エステル系に区別される。また、鎖伸長剤として低分子量ジオール化合物を用いるか、低分子量ジアミン化合物を用いるかにより、ポリウレタン(狭義)若しくはポリウレタンウレアと区別されるが、本明細書では、ポリウレタンとポリウレタンウレアを総称して単にポリウレタンという。
【0021】
ポリウレタンは、長鎖のポリエーテルセグメント、ポリエステルセグメント若しくはポリエーテルエステルセグメント等のソフトセグメント(a)と、イソシアネートと鎖伸長剤であるジアミンまたはジオールとの反応により得られる比較的短鎖のセグメントであるハードセグメント(b)とから構成される。
【0022】
ポリエーテル系ポリウレタンは、ソフトセグメント構成成分としてポリテトラメチレンエーテルグライコールやその共重合体などのポリエーテル系ジオール化合物を用い、ハードセグメント構成成分としてジフェニルメタン−4,4ジイソシアネートなどのジイソシアネート化合物を用い、さらに、鎖伸長剤として二官能性水素化合物を用いて製造されたポリウレタンである。ポリエステル系ポリウレタンは、ソフトセグメント構成成分としてコポリエステルジオールなどのポリエステル系ジオール化合物を用い、ハードセグメント構成成分としてジフェニルメタン−4,4ジイソシアネートなどのジイソシアネート化合物を用い、さらに、鎖伸長剤として二官能性水素化合物を用いて製造されたポリウレタンである。また、ポリテトラメチレンエーテルグライコールとポリブチレンテレフタレートを長鎖ジオール化合物に用いて重合されたポリエーテル・エステル系ポリウレタンを用いることもできる。
【0023】
ポリウレタンを構成するソフトセグメント(a)としては、 テトラメチレングリコール、3−メチル−1、5−ペンタンジオール、テトラヒドロフラン、3−メチルテトラヒドロフラン等から重合された(共)重合体であるポリエーテルセグメント; エチレングリコール、テトラメチレングリコール、2、2−ジメチル−1、3−プロパンジオール等のジオールとアジピン酸、コハク酸等との二塩基酸とから重合されたポリエステルセグメント; ポリ-(ペンタン−1、5−カーボネート)ジオール、ポリ−(ヘキサン−1、6−カーボネート)ジオール等から得られるポリエーテルエステルセグメントを用いることが好ましい。中でも伸長の際の抵抗力を軽減させ、ガイド、針等による抵抗力を低減させて編成の際の糸切れを防止する観点から、テトラヒドロフランと3−アルキルテトラヒドロフランとのコポリエーテル系長鎖ジオールを使用することがより好ましい。特にコポリエーテル系長鎖ジオールの重合度が高いものを使用することが、優れた伸縮特性が得る観点から好ましい。
【0024】
このポリウレタンは、ヒドロキシル末端ソフトセグメント前駆体である長鎖ジオール化合物と、モル過剰のジイソシアネート化合物とを反応させて(キャッピング反応)、初期重合中間体(プレポリマ)を生成させ、このプレポリマをアミン系鎖伸長剤及び/又はジオール系鎖伸長剤により鎖伸長させることにより製造することができる。
【0025】
このポリウレタン製造工程に供するジイソシアネート化合物としては、ビス−(p−イソシアナートフェニル)−メタン(以下、MDIと略する)、トリレンジイソシアネート(以下、TDIと略する)、ビス−(4−イソシアナートシクロヘキシル)−メタン(以下、PICMと略する)、ヘキサメチレンジイソシアネート、3、3、5−トリメチル−5−メチレンシクロヘキシルジイソシアネート等を用いることができるが、中でもMDIが好ましい。
【0026】
また、鎖伸長剤としてはアミン系鎖伸長剤が好ましく、例えば、エチレンジアミン、1,3−シクロヘキサンジアミン、1,4−シクロヘキサンジアミン等のジアミンが使用される。この場合は、ウレタン結合の他にウレア結合をもつポリウレタンウレアが製造される。アミン系鎖伸長剤は、1種のジアミン化合物を使用するのでもよいし、また、複数種のジアミン化合物を使用するのでもよい。
【0027】
ポリウレタン製造のための重合工程における最終的な分子量の調節を助けるため、鎖停止剤を反応混合物に添加することが好ましい。鎖停止剤としては、通常、活性水素を有する一官能性化合物、例えばジエチルアミン等を使用することができる。
【0028】
また、鎖伸長剤としては、上記したアミン系鎖伸長剤の他に、ジオール化合物を使用することもできる。例えば、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,2−プロピレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、ビス(β−ヒドロキシエチル)テレフタレートおよびパラキシリレンジオール等を用いることができる。ジオール系鎖伸長剤は、1種のジオール化合物を使用するのでもよいし、また、複数種のジオール化合物を使用するのでもよい。また、イソシアネート基と反応する1個の水酸基を含む化合物と併用していてもよい。
【0029】
ポリウレタン製造のための重合方法は、溶融重合法、溶液重合法など各種の方法を採用することができる。また、前記したプレポリマ法の他に、長鎖ジオールとジイソシアネート化合物と鎖伸長剤とを同時に反応させることによりポリウレタンを合成する1段重合法を採用することもできる。
【0030】
溶液重合法によるポリウレタン製造工程においては、溶媒としては、N,N−ジメチルアセトアミド(以下、DMAcと略する)、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン等を使用することができる。なかでもDMAcが最も一般的に使用される。
【0031】
ポリウレタンからポリウレタン弾性糸を製造する紡糸方法としては、例えば、ジオール化合物を鎖伸長剤として用いたポリウレタンの弾性糸の場合、溶融紡糸法、乾式紡糸法または湿式紡糸法等を採用することができる。また、ジアミン化合物を鎖伸長剤として用いたポリウレタンの弾性糸の場合、通常、乾式紡糸法を採用することが好ましい。
【0032】
重合により製造されたポリウレタン溶液から、乾式紡糸や湿式紡糸等の溶液紡糸によりポリウレタン弾性糸を製造する場合、紡糸に供されるポリウレタン溶液の溶液濃度は特に限定されないが、通常30〜40重量%(溶液の全重量を基準にして)が好ましく、乾式紡糸法の場合は特に35〜38重量%が好ましい。
【0033】
なお、ポリウレタン紡糸工程において、糸と紡糸機のガイド等との摩擦を低減させたり、静電気の帯電を防止させる目的で、ジメチルシリコーン、ジメチルシリコーンのメチル基の一部を他のアルキル基、フェニル基、アミノ基等で置換した変成シリコーン等のシリコーンオイル、鉱物油等の油剤を、糸に付与することが好ましいが、これら油剤が付与されていなくてもよい。得られる弾性糸の断面形状は円形であってもよく、扁平であってもよい。
【0034】
本発明で使用される伸縮糸としては、ポリウレタン弾性繊維の他に、伸縮特性を有する複合繊維を使用することができる。例えば、ポリエチレンテレフタレートを主成分とする層とポリトリメチレンテレフタレートを主成分とする層とがサイドバイサイド型若しくは偏芯シース・コア型に複合されたポリエステル系複合繊維を使用することができる。
【0035】
このポリエステル系複合繊維は、極限粘度の異なる異種重合体が貼り合わせ若しくは偏心型複合されたものであり、紡糸、延伸時に高粘度側に応力が集中し、2層間での内部歪みが異なる繊維となる。そのため、延伸後の弾性回復率差により、また、布帛の熱処理工程での熱収縮差により高粘度側が大きく収縮し、単繊維内で歪みが生じて3次元コイル捲縮の形態が発現する。この3次元コイル捲縮の径および単位繊維長当たりのコイル数は、高収縮成分と低収縮成分との収縮差(弾性回復率差を含む)によってほぼ決まり、収縮差が大きいほどコイル径が小さく、単位繊維長当たりのコイル数が多くなる。
【0036】
伸縮糸として要求されるコイル捲縮は、コイル径が小さく、単位繊維長当たりのコイル数が多いこと(伸長特性に優れ、見栄えがよい)、コイルの耐へたり性がよいこと(伸縮回数に応じたコイルのへたり量が小さく、伸縮保持性に優れる)である。コイルの伸縮特性は、低収縮成分を支点とした高収縮成分の伸縮の大きさに依存するので、高収縮成分に用いる重合体には高い伸長性および回復性が要求される。この観点から、低収縮成分にポリエチレンテレフタレートを用い、高収縮成分にポリトリメチレンテレフタレートを用いることが好ましい。ポリトリメチレンテレフタレートは、そのポリマ構造からして、ポリエチレンテレフタレートよりも伸長性及び伸長回復性がきわめて優れているからである。
【0037】
このポリエステル系複合繊維の1層を構成するポリエチレンテレフタレートは、エチレンテレフタレート単位を主たる繰り返し単位とするポリマであり、即ち、テレフタル酸を主たる酸成分とし、エチレングリコールを主たるグリコール成分とするポリエステルである。ただし、他のエステル結合を形成可能な共重合成分が20モル%以下、好ましくは10モル%以下の割合で含まれる共重合ポリエステルでもよい。共重合可能な化合物として、例えばスルフォン酸、ナトリウムスルフォン酸、硫酸、硫酸エステル、硫酸ジエチル、硫酸エチル、脂肪族スルフォン酸、エタンスルフォン酸、クロロベンゼンスルフォン酸、脂環式スルフォン酸、イソフタル酸、セバシン酸、アゼライン酸、ダイマー酸、アジピン酸、シュウ酸、デカンジカルボン酸などのジカルボン酸、p−ヒドロキシ安息香酸、εーカプロラクトンなどのヒドロキシカルボン酸などのジカルボン酸、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ハイドロキノン、ビスフェノールAなどのジオール類が挙げられる。また、必要に応じて、艶消し剤となる二酸化チタン、滑剤としてのシリカやアルミナの微粒子、抗酸化剤としてのヒンダードフェノール誘導体、着色顔料を添加してもよい。
【0038】
また、ポリエステル系複合繊維の他の層を構成するポリトリメチレンテレフタレートは、トリメチレンテレフタレート単位を主たる繰り返し単位とする重合体であり、即ち、テレフタル酸を主たる酸成分とし、1,3プロパンジオールを主たるグリコール成分とするポリエステルである。ただし、他のエステル結合を形成可能な共重合成分が20モル%以下、好ましくは10モル%以下の割合で含まれる共重合ポリエステルでもよい。共重合可能な化合物として、例えばイソフタル酸、コハク酸、シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、ダイマ酸、セバシン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸などのジカルボン酸類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのジオール類が好ましく使用される。また、必要に応じて、艶消し剤となる二酸化チタン、滑剤としてのシリカやアルミナの微粒子、抗酸化剤としてのヒンダードフェノール誘導体、着色顔料を添加してもよい。
【0039】
ポリエステル系複合繊維におけるコイル状捲縮の発現性や、編織物にした際の伸縮性を所望水準に高める観点からすると、ポリトリメチレンテレフタレートの極限粘度は1.0以上であることが好ましく、1.2以上であることがより好ましい。
【0040】
このポリエステル系複合繊維の複合構造はサイドバイサイド型または偏芯シース・コア型であり、その単糸断面形状は略円状でもよいし、中央が括れた長円状でもよい。これら複合構造をとることによって、糸条への熱付与によりコイル状捲縮が発現し、糸条に伸縮性を付与することができる。
【0041】
また、ポリエステル系複合繊維におけるポリエチレンテレフタレート層とポリトリメチレンテレフタレート層との重量比率は、製糸性および繊維長さ方向のコイルの寸法均質性の観点から、30/70以上70/30以下の範囲であることが好ましい。
【0042】
以上説明したようなポリウレタン弾性糸等が使用される伸縮糸は、糸条繊度が15〜156dtexであることが好ましい。
【0043】
次に、本発明で使用する非伸縮糸について説明する。
【0044】
本発明の伸縮性経編地において使用する非伸縮糸は、実質的に伸縮性を有さない糸条であり、フィラメント糸または紡績糸のいずれであってもよい。
【0045】
具体的には、フィラメント糸としては、レーヨン、アセテート、ポリアミド、ポリエステル、アクリル、ポリプロピレン、塩化ビニル等からなる長繊維糸、または絹(生糸)等が好ましく用いられる。その態様は、原糸、仮ヨリ加工糸、もしくは先染糸等のいずれであってもよく、また、これらの複合糸であってもよい。これらフィラメント糸は、いずれも撚糸加工のし易い、安定した糸条であることが好ましい。
【0046】
また、紡績糸としては、木綿、羊毛、麻、絹等の天然繊維、レーヨン、ポリアミド、ポリエステル、アクリロニトリル、ポリプロピレン、塩化ビニール系等からなるステープル繊維のうちの1種からなる紡績糸、又はそれらステープル繊維が混紡された紡績糸が挙げられる。
【0047】
非伸縮糸がフィラメント糸である場合には、その糸条繊度は、22〜100dtexの範囲が好ましく、22〜55dtexの範囲がより好ましい。
【0048】
本発明の伸縮性経編地は、伸縮糸と非伸縮糸とから編成される経編地である。この経編地において、非伸縮糸は1種類でもよいし複数種類の交編でもよい。また、伸縮糸も同様に、1種類でもよいし複数種類の交編でもよい。
【0049】
この伸縮性経編地において、非伸縮糸によって形成されるメッシュ部が存在し、即ち、非伸縮糸はメッシュ部を有する地組織(メッシュ編地組織)を編成する。このメッシュ編地組織は、メッシュ部の経方向長さが3〜10コースであれば、具体的な編組織は特に限定されず、通常の方法でメッシュ部を形成すればよい。このメッシュ部の経方向長さが短過ぎる場合にはメッシュ部が小さすぎ、編地を伸長してメッシュ部を開状態とした時でも所望の通気性を発揮できない。また、メッシュ部の経方向長さが長過ぎる場合にはメッシュ部が大きすぎ、非緊張状態においてメッシュ部を十分な閉状態とすることが難しく所望の保温性を発揮できないし、さらに、メッシュ部が開状態である時にメッシュ内を横断する伸縮糸のシンカーループが切れ易く、生地自身の破裂強度が不十分となる危険性がある。
【0050】
このメッシュ部は、経方向にスリット状に伸びるスリット状メッシュ部(例えば、図1や図2の地組織で形成されるメッシュ部)であることが好ましい。なお、ネット編みの場合の亀甲状メッシュ部のような横幅のあるメッシュ部は、無緊張状態において十分な閉状態とすることが難しいので好ましくないが、本発明の目的を阻害しない範囲で混在していてもよい。
【0051】
本発明の伸縮性経編地では、メッシュ部を伸縮糸のシンカーループがヨコ方向に横断しているが、このようなメッシュ部は、伸縮性経編地を無緊張状態でかつ皺や重なりが実質的にない状態で平板上に広げて置いたときに、その経編地の2.54cm四方範囲内に20〜90個の頻度で存在することが好ましい。このメッシュ部の頻度が少な過ぎると通気性発揮に不都合が生じ易い。逆に多過ぎると保温性発揮に不都合が生じ易く、さらに、生地自身の破裂強度が不十分となる危険性がある。
【0052】
本発明の伸縮性経編地において、伸縮糸はニードルループを形成する編成方法で編み込まれ、ニードルループから次のコースのニードルループまでに形成されるシンカーループが、メッシュ部をヨコ方向に横断するように編み込まれる。この場合のニードルループはクローズドループであることが、編地中での伸縮糸スリップ防止の観点から好ましいが、オープンループとすることもできる。また、シンカーループのヨコ振りの幅は、メッシュ部を横切ることが可能であれば特に限定されないが、一般に2〜5ニードル分のヨコ振りが好ましい。このヨコ振り幅が小さ過ぎるとメッシュ部を閉じさせることが難しい。また、大き過ぎると編機の生産性が落ちるので好ましくない。
【0053】
なお、伸縮糸は、メッシュ部をヨコ方向に横断するように配置されるのならば、ニードルループを形成しない挿入糸として編み込むこともでき、この場合は、ヨコ方向に横断する部分がシンカーループに相当することになる。但し、この場合は、編地中で伸縮糸がスリップし易いというデメリットがある。
【0054】
伸縮糸のシンカーループがメッシュ部を横切る本数は、メッシュ部の大きさや伸縮糸の繊度や伸縮特性等の条件にもよるが、一般的には、1つのメッシュ部あたり2〜8本のシンカーループが横断するように編成することが好ましい。また、シンカーループが横断するメッシュ部の経方向長さコース数をAとし、メッシュ部を横断する伸縮糸の横断数をBとした場合、その比(B/A)が0.2〜4.0の範囲であることが、メッシュ部の開閉機能のために好ましい。非緊張状態においてメッシュ部を十分な閉状態とするためには、シンカーループ横断本数を2本以上とすることが必要であり、さらに上記比(B/A)の値を0.2以上とすることが好ましい。また、伸長した時にメッシュ部を十分な開状態とするためには、シンカーループ横断本数を8本以下とすることが必要であり、さらに上記比(B/A)を4.0以下とすることが好ましい。
【0055】
本発明の伸縮性経編地を通常の方法により裁断、縫製等してアクティブウェア、レオタード等のスポーツウェアを製造することができる。また、同様にしてランジェリーやファンデーション等のインナーウェアを製造することができる。
【0056】
本発明の伸縮性経編地は、無緊張状態では目の閉まった布帛で保温性に優れるが、ヨコ方向や斜め方向に引っ張って緊張状態にするとメッシュ部が開いた布帛となり通気性を発揮する。従って、本発明の伸縮性経編地でもって主要部分が構成されるウェアは、状況により、優れた保温性を発揮し、又は、通気性が発揮され、同じウェアでありながら、保温性及び通気性を発揮できるものとなり、スポーツウェアやインナーウェアとしての着用快適性をさらに改善することができる。
【実施例】
【0057】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
[実施例1]
経編機としてカールマイヤー社製トリコット編機タイプHKS−3の28ゲージ機を用い、次の糸使いで経編地を製造した。
フロント筬(L3): ナイロン6糸(78dtex24フィラメント)(東レ(株)製のタイプ2V92)
ミドル筬(L2): フロント糸(L3)と同じ糸
バック筬(L1): ポリウレタン弾性糸(50dtex)(オペロンテックス(株)製の“ライクラ”(登録商標)タイプ906C)
【0058】
各筬への糸の通り方は、フロント筬(L3)は3イン1アウト、ミドル筬(L2)も3イン1アウト、バック筬(L1)は2イン2アウトとし、フロント筬(L3)のナイロン糸とミドル筬(L2)のナイロン糸とでメッシュ構造を形成し、バック筬(L1)のポリウレタン弾性糸のシンカーループがメッシュ部を横断するようにした。その具体的な編組織は以下の<編組織>のとおりであり、その組織図を図1に示す。
<編組織>
L3(非伸縮糸): 3-4/3-2/3-4/3-2/3-4/3-2/2-1/1-0/1-2/1-0/1-2/1-0/1-2/2-3//
L2(非伸縮糸): 1-0/1-2/1-0/1-2/1-0/1-2/2-3/3-4/3-2/3-4/3-2/3-4/3-2/2-1//
L1(伸縮糸) : 4-5/1-0//
【0059】
編成して得られた経編地の生機を、通常の方法で、リラックス処理、脱水プレセット、染色、仕上げセットの順に処理し、染色経編地とした。
得られた染色経編地はタテ方向及びヨコ方向ともに良好な伸縮性を有するものであり、メッシュ部の密度は、生地の耳端部と中央部で若干異なるが、2.54cm四方範囲内に68〜71個であった。また、このメッシュ部の経方向長さは7コースであり、メッシュ部をウェール方向に横断する伸縮糸のシンカーループの本数は12本であった。
【0060】
この伸縮性経編地を無緊張状態で平板上に広げて置いたところ、メッシュ部は閉じた状態にあり、メッシュ部のない経編地と同様であり、保温性に優れていた。また、横方向に引っ張った状態にしたところ、メッシュ部が開状態のメッシュ調経編地となり通気性に優れていた。
【0061】
[比較例1]
経編機としてカールマイヤー社製ラッシェル編機タイプRSE4Nの56ゲージ機を用い、次の糸使いで、経編地を製造した。
第1筬(L1): ナイロン66糸(44dtex、ブライト異形タイプ)(東レ(株)製)
第2筬(L2): 第1筬(L1)と同じ糸
第3筬(L3): ポリウレタン弾性糸(310dtex)(オペロンテックス(株)製の“ライクラ”(登録商標)タイプ127C)
第4筬(L4): 第3筬(L3)と同じ糸
【0062】
各筬への糸の通り方は、第1筬(L1)、第2筬(L2)、第3筬(L3)、第4筬(L4)の全てを1イン1アウトとし、一般的なメッシュタイプの伸縮性経編地としてパワーネットを編成した。その具体的な編組織は以下の<編組織>のとおりであり、その組織図を図2に示す。
<編組織>
L1(非伸縮糸): 4-6/4-2/2-4/2-0/2-4/4-2//
L2(非伸縮糸): 2-0/2-4/4-2/4-6/4-2/2-4//
L3(伸縮糸) : 0-0/2-2//
L4(伸縮糸) : 2-2/0-0//
【0063】
編成して得られた経編地の生機を、実施例1の場合と同様な方法で、リラックス処理、脱水プレセット、染色、仕上げセットの順に処理し、染色経編地とした。
得られた染色経編地はタテ方向及びヨコ方向ともに良好な伸縮性を有するものであり、経方向長さが5コースのメッシュ部が形成されているが、このメッシュ部を横断する伸縮糸は存在しないので、無緊張状態でも引っ張った状態でもメッシュ部が開いた状態にあるメッシュ調経編地であった。従って、常に通気性が優れ、保温性が劣るものであった。
【0064】
[比較例2]
経編機としてカールマイヤー社製ラッシェル編機タイプRSE4Nの56ゲージ機を用い、次の糸使いで経編地を製造した。
第1筬(L1): ナイロン66糸(44dtex、ブライト異形タイプ)(東レ(株)製)
第2筬(L2): ポリウレタン弾性糸(310dtex)(オペロンテックス(株)製の“ライクラ”(登録商標)タイプ127C)
【0065】
各筬への糸の通り方は、フルセットとし、一般的なサテンタイプの伸縮性経編地として6コースサテンネットを編成した。その具体的な編組織は以下の<編組織>のとおりであり、その組織図を図3に示す。
<編組織>
L1(非伸縮糸): 2-0/2-0/2-0/2-4/2-4/2-4//
L2(伸縮糸) : 0-0/4-4/2-2/6-6/2-2/4-4//
【0066】
編成して得られた経編地の生機を、実施例1の場合と同様な方法で、リラックス処理、脱水プレセット、染色、仕上げセットの順に処理し、染色経編地とした。
得られた染色経編地はタテ方向及びヨコ方向ともに良好な伸縮性を有する緻密なサテン調経編地であって保温性に優れていた。しかし、メッシュ部が全く形成されていないので、引っ張った状態にしてもメッシュ調にならず通気性は常に劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0067】
状況により通気性布帛にも保温性布帛にもなる本発明の伸縮性経編地は、インナーウェアやスポーツウェア等を製造するための伸縮性布帛として好適であり、状況により通気性又は保温性を発揮するウェア類を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】実施例1における伸縮性経編地の編成組織を模式的に示す編成組織図である。
【図2】比較例1における伸縮性経編地の編成組織を模式的に示す編成組織図である。
【図3】比較例2における伸縮性経編地の編成組織を模式的に示す編成組織図である。
【符号の説明】
【0069】
1:非弾性糸
2:弾性糸


【特許請求の範囲】
【請求項1】
伸縮糸および非伸縮糸から編成される伸縮性経編地であって、非伸縮糸によって形成されるメッシュ部が存在し、メッシュ部内を伸縮糸のシンカーループがヨコ方向に横断し、メッシュ部のタテ方向長さが3〜10コースであり、メッシュ部を横断するシンカーループの数が1メッシュ部あたり2〜12本であることを特徴とする伸縮性経編地。
【請求項2】
無緊張状態の経編地の2.54cm四方範囲内に、シンカーループ横断のメッシュ部が20〜90個存在することを特徴する請求項1に記載の伸縮性経編地。
【請求項3】
シンカーループ横断のメッシュ部のタテ方向長さのコース数(A)に対する、メッシュ部を横断する伸縮糸の横断数(B)の比(B/A)が0.2〜4.0の範囲であることを特徴とする請求項1又は2に記載の伸縮性経編地。
【請求項4】
無緊張状態の経編地においてメッシュ部は閉状態であり、かつ、ヨコ方向への伸長状態においてメッシュ部が開状態になることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の伸縮性経編地。
【請求項5】
伸縮糸が、15〜156dtexのポリウレタン弾性糸であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の伸縮性経編地。
【請求項6】
ポリウレタン弾性糸が、ポリマージオール成分としてテトラヒドロフランと3−アルキルテトラヒドロフランとのコポリエーテルジオールが使用されて重合されたポリウレタンエラストマーから構成される弾性糸であることを特徴とする請求項5に記載の伸縮性経編地。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の伸縮性経編地が使用されてなることを特徴とするスポーツウェア。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載の伸縮性経編地が使用されてなることを特徴とするインナーウェア。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−84970(P2007−84970A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−277388(P2005−277388)
【出願日】平成17年9月26日(2005.9.26)
【出願人】(502179282)オペロンテックス株式会社 (100)
【Fターム(参考)】