説明

伸縮性織物

【課題】
タイヤ成型用プラダーへの張り付け作業性に優れた伸縮性織物を提供する。
【解決手段】
フッ素系繊維とフッ素系以外の繊維で構成された織物であって、タテ方向およびヨコ方向の9.8N/25mm荷重時の伸度が5%以上であり、かつ下式で示される伸張時寸法保持率が85%以上であることを特徴とする伸縮性織物とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伸縮性と伸張時のタテ方向およびヨコ方向の寸法安定性に優れた伸縮性織物に関する。リリースクロス、例えば自動車用タイヤの加硫成型工程に使用されるタイヤ成型用プラダー表面に接着固定されるリリースクロス材に好適に用いられ、プラダー表面に伸縮性織物を接着固定する際の作業性および接着性に優れるとともに、加硫成型後のタイヤとプラダー表面との離型性が良好な伸縮性織物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、離型性および摩擦による摩耗を防止するために各種用途において、シリコーン系の離型剤を対象表面に塗布/被膜剤を密着、または繊維素材で構成された編物を接着固定することで、易剥離、耐摩耗対策が図られている。しかし、離型剤の耐久性が悪く塗布作業工程が煩雑であり、また接着加工に手間がかかるなどの問題があった。
【0003】
例えば、車両用タイヤの製造工程で使用されるタイヤ成型用プラダーには一般的に表面の離型性を向上させるための処置が必要不可欠となっている。前記タイヤ成型用プラダーとはグリーンタイヤを加硫成型する際に用いられる成型冶具である。車両用タイヤを成型する際は予めパーツ毎に作製したゴム組成物を金型プレスにセットしてグリーンタイヤを成型、さらに加硫用金型の上型と下型に挟持し、グリーンタイヤ内のプラダーを膨張し、金型のタイヤ形成面に押圧すると同時に、プラダー内に供給された高温高圧スチーム等によって加熱してゴム全体を加硫させ所定の形体のタイヤを成型させる。プラダーの組成物としては、従来有機ゴムが用いられ、中でもブチルゴムが広く使用されてきたが、有機ゴム製のプラダーはタイヤ内面との離型性が悪く、加硫成型後のタイヤを取り外す際にプラダーが曲がる傾向があり、タイヤ成型不良等の問題が発生する。また、プラダーを繰返し使用することで次第にプラダー表面が摩耗されて粗くなるため、より一層加硫成型後のタイヤ内面と固着する可能性が高くなるとともに、異物等が加硫成型後のタイヤに付着することで欠品(クレーム)等の問題が発生する。
【0004】
このようなことから、従来のタイヤ成型用プラダーにおいては、特許文献1のようなポリジメチルシロキサンとメチル水素シラン/ジメチル水素シラン/メチルトリメトキシシランから選ばれたシランからなる水性エマルジョンまたは分散液をプラダー表面に塗布施工することで、一連のタイヤ成型硬化サイクルに対して充分な潤滑を提供する旨が開示されている。確かに、ここに示す様に該処理組成物をタイヤ硬化プラダー表面に塗布することで、有機溶媒系シリコーン化合物含有潤滑剤組成物よりも潤滑性の持続効果が長く、有機溶媒によるプラダー表面の損傷や劣化が少なく優れるものの、潤滑効果が薄れる毎に処理剤をタイヤ内面/タイヤ硬化プラダー表面に塗布する必要があるため、作業工程が煩雑となるだけでなく、塗布用の設備費、材料費が高価となるほか、処理剤の汚れが起因して加硫機のトラブルが発生する等、タイヤ加硫機あるいはその付帯設備の清掃が必要となり、さらにはタイヤ製造工場の配置設備系統の効率的なレイアウトにも支障を来たすなどの多くの弊害が生じる問題があった。
【0005】
また、特許文献2にはオルガノシラザンシロキサンポリマーを使用した離型剤組成物のような、金型表面に固着した被膜を形成するシリコーン被膜成型の離型剤が提案されている。確かに、ここに示す様に該離型剤組成物は室温または若干の加熱で基体との密着性に優れた被膜を短時間で形成するとともに、接触する物質に移行することも少ない点で優れているが、繰返し使用時における被膜の耐久性が十分でなく、また離型性においても不十分であるという欠点があった。
【0006】
また、自工メーカー各社においてはゴム弾性体の表面に編物等の布帛(たとえば特許文献3に記載の編物)を貼り付けることで、フッ素系繊維の低摩擦特性により表面と表面が擦れあったり、捻れが生じた際に発生する異音や振動を抑制する対策が図れている。確かに、ここに示す様に編物を貼り付けることで異音防止や振動を抑制され、さらには繰返し使用時の耐久性が上述の様な離型剤の塗布や塗膜に比べて飛躍的に向上する点で優れているが、該編物は伸張時の寸法安定性が不十分であるためゴム弾性体が変形した際の追随性が悪く、また貼り合せ加工時に編物を縦方向に伸張させることで編物の端部が巻き返ったり、幅方向に収縮するなど寸法安定性に劣るため貼り合せ作業性に問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭57−111394号公報
【特許文献2】特公平3−11248号公報
【特許文献3】特開2006−177552号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、かかる従来技術の問題点を解消し、タテ方向およびヨコ方向の伸縮性、寸法安定性、接着性、離型性、低摩擦性、異音防止性に優れ、リリースクロスに好適な伸縮性織物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる課題を解決するための本発明は、次の構成を特徴とするものである。
(1)フッ素系繊維とフッ素系以外の繊維で構成された織物であって、タテ方向およびヨコ方向の9.8N/25mm荷重時の伸度が5%以上であり、かつ下式で示される伸張時寸法保持率が85%以上であることを特徴とする伸縮性織物。
伸張時寸法保持率(%)=(試験前織物幅−9.8N/25mm荷重時の織物幅)/試験前織物幅×100
(2) 一方の面に露出しているフッ素系繊維の露出量が他方の面に露出しているフッ素系繊維の露出量より多いことを特徴とする前記伸縮性織物。
(3)朱子織りである前記いずれかの伸縮性織物。
(4)伸縮性織物の一方の面側に露出し観察されるフッ素系繊維の面積の、表裏それぞれで観察されるフッ素系繊維の面積の和に対しする割合が60%以上であることを特徴とする、前記いずれかの伸縮性織物。
(5)前記フッ素系繊維および前記フッ素系以外の繊維が、総繊度5dtex以上2000dtex以下であることを特徴とする、前記いずれかの伸縮性織物。
(6)前記フッ素系以外の繊維が弾性糸を含んでいることを特徴とする、前記いずれかの伸縮性織物。
(7)前記フッ素系以外の繊維がナイロン繊維を含んでいることを特徴とする、前記いずれかの伸縮性織物。
(8)前記いずれかの伸縮性織物からなるリリースクロス。
(9)タイヤ成型用プラダー用途に用いられる前記いずれかの伸縮性織物。
(10)前記いずれかの伸縮性織物とゴム弾性体とを有し、該ゴム弾性体と伸縮性織物の一方の面が固着されていることを特徴とする、タイヤ成型用プラダー。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、タイヤ成型用プラダー等への張り付け作業性に優れ、リリースクロスに好適な伸縮性織物を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の伸縮性織物の一実施態様の概略を表す断面図。
【図2】本発明の伸縮性織物が車両用タイヤの製造工程で使用されるときのタイヤ成型用プラダーの正面図。
【図3】寸法保持率を算出するための引張時の織物の幅を解説する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0013】
本発明の伸縮性織物は、フッ素系繊維とフッ素系以外の繊維で構成された織物であって、タテ方向およびヨコ方向の伸度が5%以上であり、かつ伸張時の寸法保持率が85%以上で構成されている。ここでいう伸張時寸法保持率とは、織物の一方の方向(例えばタテ)に伸張させた際、もう一方の方向(ヨコ)の寸法が伸張前の寸法に対してどれぐらい変動するかを表す指標である。
【0014】
伸度を具体的に説明すると、織物を、織物幅25mm当たり9.8Nの荷重をかけたときの伸度である。また伸張時寸法保持率とは以下の式で表現されるものである。
伸張時寸法保持率(%)=(試験前織物幅−9.8N/25mm荷重時の織物幅)/試験前織物幅×100
なお「9.8N/25mm荷重時の織物幅」とは織物幅25mm当たり9.8Nの荷重をかけたときの織物の幅である。
【0015】
そして、この伸縮性織物においてフッ素系繊維がゴム資材等との接触/摩擦を生じる部分に配置されるように用いることにより、摩擦力を低減して摩擦やねじれといった物質と物質がこすれあった際に発生する異音などが低減でき、さらに、易剥離性を付与することができる。また、低摩擦性能を付与するためフッ素系やシリコーン系樹脂組成物などのコーティング剤または水性エマルジョン剤などを塗布/塗膜を形成させるのではなく、フッ素系繊維で構成することにより、樹脂コーティング剤などの剥離または摩滅などによって樹脂コーティング剤などの消失による摩擦性低化を生じることなく、繰返し長時間の使用にも耐えうる耐久性を得ることができる。
【0016】
優れた摺動特性を得るためだけであれば低摩擦特性を有するフッ素系繊維のみで伸縮性織物を構成することが好ましいが、フッ素系繊維は非粘着性の特性を持つために他素材との接着がしにくいという課題がある。このため、本発明においては、他素材との接着性を良好にするため、伸縮性織物の一方の面側を含む層はフッ素系繊維を多めに構成し、他方の面側を含む層のフッ素系繊維を少なめにするか、またはフッ素系以外の繊維を多めにして構成する、以下、一方の面側に露出し観察されるフッ素系繊維の面積の、表裏それぞれで観察されるフッ素系繊維の面積の和に対しする割合を「フッ素繊維露出比」という。伸縮性織物の一方の面側がフッ素系繊維露出比率を60%以上としもう一方の面側での比率を少なくすると、低い比率の面のゴム弾性体など他素材との接着性を高めることができるので好ましい。フッ素系繊維露出比率を60%以上、さらに好ましくは65%以上とすることで、フッ素系繊維の低摩擦特性が有効に発現し、ゴム弾性体や金属系等の工業材料といった接触物に対する離型性や低摩擦性に優れるので好ましい。
【0017】
前記フッ素系繊維露出比率を調整する手段としては、通常の織物のタテ糸とヨコ糸を交互に1本ずつ織り込んで製織する手法とは異なり、本発明の伸縮性織物は、ヨコ糸に対してタテ糸のフッ素系繊維を2本以上立ち上げて製織する、すなわち綾織物や朱子織物とすることで、伸縮性織物の一方の面側のフッ素系繊維の露出比率を高く構成することが好ましい。
【0018】
本発明に使用されるフッ素系繊維は、主鎖または側鎖にフッ素原子を1個以上含む繰り返し構造単位を有する重合体からなり、フッ素原子数の多い繰り返し構造単位で構成されたものほど好ましい。例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、4フッ化エチレン−6フッ化プロピレン共重合体(FEP)、4フッ化エチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、エチレン−4フッ化エチレン共重合体(ETFE)などを挙げることができ、中でも、表面低摩擦特性に優れるPTFE繊維を用いることがさらに好ましい。
【0019】
また、上記のような単重合体あるいは他の成分を繰り返し構造の個数の10%以下程度共重合した共重合体でもよい。
【0020】
フッ素系繊維の形態としては、1本のフィラメントで構成されるモノフィラメント、複数本のフィラメントで構成されるマルチフィラメント、また、捲縮加工をして所定の長さにカットしてなるステープルのいずれも採用することができる。前述のマルチフィラメントは、単重合体と共重合体からなる繊維を複合して構成することも可能であるが、表面低摩擦特性に優れるPTFE繊維のみで構成すると、より摺動性が優れ摩擦時の異音発生が抑制されるので好ましい。
【0021】
本発明の織物はフッ素系繊維以外の繊維も含む。織物を構成するフッ素系繊維とフッ素系繊維でない繊維との本数(ここではタテ糸およびヨコ糸の本数の和を意味する)の比率(フッ素系繊維でない繊維/フッ素系繊維)は1〜4、好ましくは1〜3の範囲である。フッ素系繊維以外の繊維としては、例えば、ナイロン6・6、ナイロン6、ナイロン4・6などのポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル、ウレタン、アラミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフェニレンサルファイドなどのポリマーまたは繊維を用いることができる。また、綿、ウールなどの天然繊維などを用いることもできる。上記のような合成樹脂には、原糸の製造工程や加工工程での生産性あるいは特性改善のために各種添加剤を含ませてもよい。たとえば、熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、平滑剤、帯電防止剤、可塑剤、増粘剤、顔料、難燃剤などを含有せしめることができる。そして、前記ポリマーの中でも、熱安定性が良く、平織りや筒織などの高次加工性に優れ、ゴム資材との接着性やコストが安いなどの点ではポリアミドやポリエステルなどを用いるのが好ましく、特に汎用性からポリエステルを用いることが好ましい。
【0022】
前記フッ素系繊維以外の繊維の形態としては、前述のフッ素系繊維と同様にモノフィラメントやマルチフィラメントで構成することによって、ゴム弾性体など他素材に貼り合わせた際の接着性がフッ素系繊維より良好となる点で優れるが、さらに優れた接着性を得るため、本発明においては紡績糸を採用することも可能である。
【0023】
なぜなら該紡績糸の表層部には、マルチフィラメント等にはない複数本の毛羽を有しているので、ゴム弾性体など他素材と貼り合わせた際、マルチフィラメントよりも見かけ上の表面積が大きいため接着性が向上するとともに、毛羽によるアンカー効果が発現するため、より優れた接着性を有する伸縮性織物を得ることが可能となる。
【0024】
該紡績糸は、適宜異なる繊維を所望の割合で均一に混合して所望の特性の繊維を得てもよい。具体的には、該紡績糸の中に熱融着繊維を含むことも可能であり、熱融着繊維を含むことによって、加熱された際に熱融着性繊維の低融点成分が部分的に溶融し、その他の繊維と均一な状態で固着させることが可能となる。
該熱融着性繊維としては、例えば、エチレングリコールとテレフタル酸またはテレフタル酸ジメチルを重合して得られるポリエステルに酸成分としてイソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸などの炭素環カルボン酸やアジピン酸などの脂肪族ジカルボン酸などを共重合した共重合ポリエステルからなるポリエステル繊維、ナイロン12などの低融点ナイロン、ポリエチレン、ポリプロピレンなど200℃以下の低融点の樹脂からなる繊維を用いることができる。これらの繊維を用いることにより、家庭用アイロンなどによる熱圧着処理で容易に熱融着性成分を溶融することができ、接着面として、本発明の布帛を容易に他素材に重ね合わせて固着させることも可能となる。なお、熱融着性繊維の融点は、100〜200℃の範囲内であることが好ましく、後述する成型加工時にかかる温度により適宜選定すればよい。
【0025】
また、熱融着性繊維は単成分繊維であってもよいが、その他の成分からなる繊維と複合した芯鞘構造、バイメタル構造、海島構造などの複合繊維であってもかまわない。芯鞘構造で構成された熱融着性繊維は、芯成分を鞘部よりも融点の高い単独重合体からなるポリエステルとすることによって、鞘成分の共重合ポリエステル部分が熱により部分的に溶融した場合においても大きな強力低下がなく、繊維状としての形態保持性が優れた繊維とすることが可能である。具体的には芯部の融点が鞘部の融点より50℃以上高いことが加熱・溶融時の形状保持性が良くなるので好ましい。さらに、鞘部の融点は100℃〜200℃の範囲内にあることが好ましく、芯部の融点は160℃〜290℃の範囲内であることが好ましい。
【0026】
また、本発明の伸縮性織物はウレタン弾性糸を芯糸に有する被覆弾性糸を含むことが好ましく、該被覆弾性糸の鞘糸には前述のフッ素系繊維またはフッ素系以外の繊維で構成することが好ましい。前記鞘糸の形態としては捲縮加工糸が均一に被覆するので、伸張時に鞘糸から芯糸が露出することが防止できるのでさらに好ましい。該被覆弾性糸におけるウレタン弾性糸の芯糸の破断伸度としては400〜800%の範囲が好ましく、より好ましくは500〜700%の範囲である。破断伸度が400%以上であると伸縮特性に優れた織物が得られ、800%以下では繰返し伸張動作における耐久性が優れるので好ましい。
【0027】
被覆弾性糸における鞘糸の巻き付けの形態としては、片方巻きのシングルカバーリング(「SCY」と略す)と、片方巻きの上にさらに逆方向に巻きつけるダブルカバーリング(「DCY」と略す)とがある。なかでも、DCYは被覆性に優れているので伸張時の芯糸の露出をさらに防止するのに適しており、またトルクが無いので織加工性に優れ、伸縮性のバラツキを抑制する点でも好ましい。
【0028】
本発明における、ウレタン弾性糸を芯糸に有する被覆弾性糸からなる伸縮性織物は、鞘糸がフッ素系繊維とフッ素系以外の繊維で構成された糸で交織されていることが好ましく、伸縮性織物の一方の面側のフッ素系繊維の露出量が高くなるように織設計することが好ましい。また、鞘糸をDCYとすることでSCY対比コスト増となる反面、耐久性が向上する点で優れており、なかでもフッ素系繊維の被覆弾性糸はフッ素系以外の繊維とフッ素系繊維のDCYとすることで、フッ素系繊維の低摩擦特性による糸滑りが軽減され、カバーリング性が向上するので好ましい。
【0029】
本発明の伸縮性織物を構成するフッ素系繊維およびフッ素系以外の繊維の総繊度としては、5〜2000dtexが好ましく、さらには70〜1000dtexの範囲内であることが好ましい。織物を構成する繊維の総繊度が5dtex以上であると繊維の強力が強く、織り加工時の糸切れを低減できるので工程通過性が向上する。2000dtex以下であれば織物表面の凹凸が少ないので、摺動性等への影響がなく、かつ、織物の剛性が高くなり過ぎず、柔軟性が損なわれないので、ゴム部品や固定具などの形状に沿い易くなる。
【0030】
以上のような本発明の伸縮性織物は、伸縮性が高く伸張時のタテ方向およびヨコ方向の寸法保持率に優れており、ゴム資材等との接触/摩擦を生じる部分に配置されるように用いることにより、摩擦力を低減して摩擦やねじれといった物質と物質がこすれあった際に発生する異音などが低減でき、さらに、易剥離性を付与することができる。また、他素材との固着性を良好にするため、伸縮性織物の一方の面側を含む層はフッ素系繊維を主として構成し、他方の面側を含む層をフッ素系以外の繊維で構成することで、ゴム弾性体など他素材との接着性に優れ、長時間の使用にも耐えうるので、自動車など車両用の防振、異音対策品として用いられる防振ゴム材またはタイヤ成型用プラダー等に好適に用いることが可能である。
【0031】
前記タイヤ成型用プラダーとは、ゴム風船状の圧縮装置で内側から金型に向け、高温・高圧のスチームで金型のタイヤ形成面に押圧すると同時に、プラダー内に供給された高温・高圧スチームによって加熱してゴム全体を加硫させ所定の形体のタイヤを成型させる。プラダーの組成物としては、従来有機ゴムが用いられ、中でもブチルゴムが広く使用されてきたが、有機ゴム製のプラダーはタイヤ内面との離型性が悪く、加硫成型後のタイヤを取り外す際にプラダーが曲がる傾向があり、タイヤ成型不良等の問題が発生する。本発明の伸縮性織物は、かかる問題を改善するため、タイヤ成型用プラダーのリリースクロスとして好適に用いられるものである。
【0032】
かかるゴム弾性体としては、例えば、天然ゴム(NR)、エポキシ化天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、ブタジエン・イソプレンゴム、スチレン・ブタジエンゴム(BR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリル・ブタジエンゴム(NBR)、水素添加ニトリルゴム(H−NBR)、塩素化ポリエチレンゴム、ブチルゴム、アクリルゴム(ACM)、エチレン・酢酸ビニル・アクリル酸エステル共重合ゴム、シリコーンゴムおよびスチレン・ブタジエンゴム(SBR)などのゴム弾性樹脂を使用することができる。かかるゴム弾性樹脂は、単品またはこれらを組合せてなる複合物を使用することができる。
【0033】
前記タイヤ成型用プラダーへの貼り付け方法としては特に限定はされないが、例えば市販の化学反応型接着剤を伸縮性織物のフッ素系繊維の露出比率が高い面側の反対面に均一に塗布し、該伸縮性織物を長手方向に伸張させた状態でタイヤ成型用プラダーの表層部に接着固定する手法が一般的である。そのため、本発明の伸縮性織物においては、少なくとも破断伸度の高いウレタン弾性糸を芯糸に有する被覆弾性糸を含んだ織物構造とすることで、該伸縮性織物の伸縮性を5%以上とすることが好ましい。前記伸縮性を5%以上とすることでタイヤ成型用プラダーの変形に対する追随性が良好となり、繰返し使用時における残留歪が軽減されるため伸縮性織物がプラダー表面から剥がれたり、伸縮性織物が破断するといった様な問題がなく、耐久性に優れるので好ましい。
【0034】
さらに、伸張時の寸法保持率を85%以上とすることで、タイヤ成型用プラダー表面に本発明の伸縮性織物を接着固定する際の作業性に優れるので好ましい。本発明の伸縮性織物の寸法保持率を85%以上とすることで、たとえば伸縮性織物をタテ方向に一定張力下で伸張させた際、ヨコ方向の寸法安定性が優れているため、伸縮織物の端部への負荷が少なくなり、伸縮織物の端部の巻き返りも抑制できるので、ゴム資材やタイヤ成型用プラダー表面への貼り付け作業時間の短縮化や作業人員の削減化が達成でき、加硫成型後のタイヤとプラダー表面との離型性に優れたタイヤ成型用プラダーを成型することが可能となる。
【0035】
本発明で特定する伸長時寸法保持率を達成するためには、本発明のリリースクロスを織物構造とすることで、編目がルーズな編物とは異なり構造伸度が抑制されるため、前記寸法保持率を85%以上とすることができるとともに、破断伸度の高いウレタン弾性糸を芯糸に有する被覆弾性糸を含むことで、タテヨコ方向の伸縮特性に優れた伸縮性織物が得られるのである。
【0036】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。なお、図に示すものは一実施例であり、これに限定されるものではない。
【0037】
図1は、本発明の一実施形態を示す伸縮性織物の概略模式図である。この伸縮性織物1は一般的な織物からなり、離型面となるフッ素系繊維露出比率が高い面側2と、フッ素系繊維露出比率が低く構成された面側3とを有している。
【0038】
図2は、本発明の伸縮性織物を組み込んだ、車両用タイヤの製造工程で使用されるタイヤ成型用プラダーの概略模式図である。図2において、タイヤ成型用プラダー4は、ゴム弾性体5と、該ゴム弾性体とグリーンタイヤ/加硫成型タイヤが接触する面側に接着固定された本発明の伸縮性織物1とからなり、該伸縮性織物1は、フッ素系以外の繊維を多く含む面側がゴム弾性体5に固着されている。
【0039】
図3は、本発明の伸縮性織物の寸法保持率(寸法安定性)を示す模式図である。図3において、(A)は太矢印方向の伸張動作前の布帛、(B)は太矢印方向の伸張動作後の本発明の伸縮性織物、(C)は太矢印方向の伸張動作後の編物の状態を示すものであり、幅6と幅7と幅8と幅9は同等の寸法であり、幅10のみ太矢印方向の伸縮動作によって、伸張動作前の幅よりも収縮している状態を示す。
【実施例】
【0040】
以下、本発明について実施例を挙げて説明するが、本発明は必ずしもこれに限定されるものではない。なお以下において1インチは2.54cmである。また(R)は登録商標を意味する。
【0041】
[測定・評価方法]
1.繊度
JIS L 1013:1999 8.3.1 A法に基づき、112.5m分の小かせをサンプル数5セット採取し、室温20℃、湿度60%の環境下で4時間放置後、その質量(g)を測定し、下記するように繊度(dtex)を求め平均値を算出した。
繊度(dtex)=(小かせサンプル重量(g))×(10000/112.5) 。
【0042】
2.伸縮性
幅25mm×長さ200mmの細幅織物を3枚採取し、JIS L 1096:1999 8.12.1 A法(ストリップ法)のラベルドストリップ法に準じて、定速緊張型の試験機にて、つかみ間隔100mm、引張速度100mm/minで引張試験を行い、荷重1kg負荷時の伸度を伸縮性の指標とし、平均値を算出した。
【0043】
3.寸法保持率
伸縮性測定時の細幅織物の幅を測定し、下記の計算式で寸法保持率を計算、平均値を算出し、両端部の巻き返しの有無を観察した。
寸法保持率(%)=(試験前織物幅−荷重1kg負荷時の織物幅)/試験前織物幅×100 。
【0044】
4.フッ素系繊維露出率
スガ試験機(株)製SMカラーコンピューター(MODEL SM−4)を用い、伸縮性織物のフッ素系繊維の露出量が見た目で多い面側を(あ)ともう一方の面(い)の明度(V)を反射モード、サンプリング径φ30mmで3箇所計測、平均値を算出し、標準片(白、黒)の明度から下記の計算式でフッ素繊維露出量(あ)(い)を算出した。
標準片白の明度 :W
標準片黒の明度 :B
試験片の平均明度:X
フッ素系繊維露出量(%)=100−(((X−B)×50)/((W−B)/2))
5.表面摩擦係数(摺動性)
新東化学(株)製表面性測定機 トライボギア(R)(TYPE:HEIDON(R)−14DR)を用い、移動速度100mm/min、荷重9.8Nで、移動台にサンプルを両面テープで固定し、フッ素系繊維の露出量が高い面側とボール型の試験圧子との摩擦係数を求めた。測定は恒温恒湿環境下(20±2℃、60±5%RH)にて行った。
【0045】
6.貼り合せ作業性
幅60mm×長さ300mmの伸縮性織物のフッ素系繊維の露出比率が低い面側に、ゴム系溶剤型接着剤(ボンド(登録商標)G17:コニシボンド製)を、織物のタテ方向の両端から5cm間隔をあけて300〜400g/m2塗布した。幅100mm×長さ500mm×厚さ10mmの天然ゴムの片面側に、接着剤未塗布部分を把持して伸縮性織物をタテ(長手)方向に50%伸張させた状態で接着剤塗布面側と天然ゴムとを貼り合せ、接着剤塗布部分に対し面圧10トン/m2×2時間の圧着処理を行い、圧着処理後無負荷状態で48時間常温放置し、試験片を得た。
【0046】
この作業において、貼り合せ作業に要する作業人数と作業完了までの時間を計測した。
【0047】
[実施例1]
(被覆弾性糸1)
芯糸のウレタン弾性糸(オペロンテックス(株)“ライクラ”(R)78T−127C)に鞘糸のフッ素系繊維(東レ(株)製“トヨフロン”(R)440T−60−290)をカバーリング機(片岡機械(株)製SSD−230)を用いてシングルカバーリング加工し、被覆弾性糸1を製造した。
【0048】
(被覆弾性糸2)
芯糸のウレタン弾性糸(オペロンテックス(株)“ライクラ”(R)78T−127C)に鞘糸のフッ素系以外の繊維(東レ(株)製“プロミラン”(R)110T/2−34)をカバーリング機(片岡機械(株)製SSD−230)を用いてシングルカバーリング加工し、被覆弾性糸2を製造した。
【0049】
(被覆弾性糸3)
芯糸のウレタン弾性糸(オペロンテックス(株)“ライクラ”(R)78T−127C)に鞘糸のフッ素系以外の繊維(東レ(株)製“プロミラン”(R)110T−34)をカバーリング機(片岡機械(株)製SSD−230)を用いてダブルカバーリング加工し、被覆弾性糸3を製造した。
(製織)
タテ糸に上記被覆弾性糸1、被覆弾性糸2、ヨコ糸に被覆弾性糸3、絡糸に熱融着性ウレタン糸(日清紡テキスタイル(株)“モビロン”(R)44T)を使用、被覆弾性糸1を2本毎に被覆弾性糸2を1本配列、被覆弾性糸3に対して被覆弾性糸1を3本ずつ立ち上がらせることでフッ素系繊維の露出比率を表裏非対称とする織構造とし、それぞれの織密度は被覆弾性糸1が86本/インチ、被覆弾性糸2が43本/インチ、被覆弾性糸3が27本/インチにて朱子織物を製織した。
【0050】
(仕上げ加工)
得られた織物に対し、100℃×30秒の乾熱セット処理を施し、ヨコ密度が43本/インチ、伸縮性100%、寸法保持率90%、フッ素系繊維露出比率80%の伸縮性織物を得た。
【0051】
このようにして得られた伸縮性織物の特性を表1に示した。この伸縮性織物は50%伸張時の寸法安定性が高く、両端部の巻き返しが発生しなかったなめ、貼り付け作業性に優れていた。
【0052】
[実施例2]
(被覆弾性糸4)
芯糸のウレタン弾性糸(オペロンテックス(株)“ライクラ”(R)78T−127C)に鞘糸にフッ素系以外の繊維(東レ(株)製“プロミラン”(R)110T−34)、フッ素系繊維(東レ(株)製“トヨフロン”(R)440T−60−290)の順にカバーリング機(片岡機械(株)製SSD−230)を用いてダブルカバーリング加工し、被覆弾性糸4を得た。
【0053】
(製織、仕上げ加工)
実施例1の被覆弾性糸1を上記被覆弾性糸4に変更した以外、同じ手法にて朱子織物を製織、仕上げ加工を施し、ヨコ密度が43本/インチ、伸縮性50%、寸法保持率95%、フッ素系繊維露出比率80%の伸縮性織物を得た。
このようにして得られた伸縮性織物の特性を表1に示した。この伸縮性織物は50%伸張時の寸法安定性が高く、両端部の巻き返しが発生しなかったなめ、貼り付け作業性に優れていた。
【0054】
[比較例1]
フッ素系繊維(東レ(株)製“トヨフロン”(R)440T−60−290)と、フッ素系以外の繊維(東レ(株)製“テトロン”(R)560T/96F)を用い、ダブルラッセル編機にて交編率をフッ素系繊維:フッ素系以外の繊維=60:40、コース数29コース/25.4mm、ウェル数19ウェル/25.4mm、幅60mmの編地を編み立てして、伸縮性3%、寸法保持率43%、フッ素系繊維露出比率80%の編地を得た。
【0055】
このようにして得られた編地の特性を表1に示した。この編地は50%伸張時の寸法安定性が低く、両端部の巻き返しが発生したため、両端部を把持するための介助人が必要となり、貼り付け作業性に劣っていた。また、手に付着した接着剤が原因でフッ素系繊維で構成した面側にも接着剤が付着してしまった。
【0056】
【表1】

【0057】
表1の評価結果から明らかなように、実施例1、2の伸縮性織物は比較例1よりも寸法安定性が良く貼り合せ作業性に優れていることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、自動車用タイヤの加硫成型工程に使用されるタイヤ成型用プラダー表面に接着固定されるリリースクロス材(伸縮性織物)に適用が可能であり、該プラダー表面に伸縮性織物を接着固定する際の作業性に優れるとともに、加硫成型後のタイヤとプラダー表面との離型性が良好な伸縮性織物として好適に用いられる。
【符号の説明】
【0059】
1 伸縮性織物
2 フッ素系繊維露出比率が高い面側
3 フッ素系繊維露出比率が低く構成された面側
4 タイヤ成型用プラダー
5 ゴム弾性体
6〜10 織物の幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素系繊維とフッ素系以外の繊維で構成された織物であって、タテ方向およびヨコ方向の9.8N/25mm荷重時の伸度が5%以上であり、かつ下式で示される伸張時寸法保持率が85%以上であることを特徴とする伸縮性織物。
伸張時寸法保持率(%)=(試験前織物幅−9.8N/25mm荷重時の織物幅)/試験前織物幅×100
【請求項2】
一方の面に露出しているフッ素系繊維の露出量が他方の面に露出しているフッ素系繊維の露出量より多いことを特徴とする請求項1記載の伸縮性織物。
【請求項3】
綾織り又は朱子織りである請求項1または2記載の伸縮性織物。
【請求項4】
伸縮性織物の一方の面側に露出し観察されるフッ素系繊維の面積の、表裏それぞれで観察されるフッ素系繊維の面積の和に対する割合が60%以上であることを特徴とする、請求項1〜3いずれかに記載の伸縮性織物。
【請求項5】
前記フッ素系繊維および前記フッ素系以外の繊維が、総繊度5dtex以上2000dtex以下であることを特徴とする、請求項1〜4いずれかに記載の伸縮性織物。
【請求項6】
前記フッ素系以外の繊維が弾性糸を含んでいることを特徴とする、請求項1〜5いずれかに記載の伸縮性織物。
【請求項7】
前記フッ素系以外の繊維がナイロン繊維を含んでいることを特徴とする、請求項1〜6いずれかに記載の伸縮性織物。
【請求項8】
請求項1〜7いずれかに記載の伸縮性織物からなるリリースクロス。
【請求項9】
タイヤ成型用プラダー用途に用いられる請求項1〜7いずれかに記載の伸縮性織物。
【請求項10】
請求項1〜7いずれかに記載の伸縮性織物とゴム弾性体とを有し、該ゴム弾性体と伸縮性織物の一方の面が固着されていることを特徴とする、タイヤ成型用プラダー。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate