説明

伸縮性複合ミシン糸およびその製造方法

【課題】伸縮性を有する布帛を縫製するに際し、縫製後の布帛表面にシワやつっぱりが生じることもないミシン糸およびその製造方法を提供する。
【解決手段】伸縮性糸から成る糸Aを−0.8〜1.5倍の範囲のフィード倍率で巻いたボビン1から供給し、可溶性糸を有する糸Bを1〜1.05倍の範囲のフィード倍率で巻いたボビン2から供給し、糸Aおよび糸Bを並走させながら糸Cを巻いたボビン6,6’を有する中空スピンドルに通して糸Aおよび糸Bの周囲を不溶性糸または可溶性糸から成る糸C(7,7’)でカバーリングした複合ミシン糸とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伸縮性を有する複合ミシン糸およびその製造方法に関するもので、さらに詳しくは伸縮性を有する布帛の縫製に適した複合ミシン糸およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、縫製に使用するミシン糸は一般的に伸度が小さいことが求められている。このようなミシン糸を使用して伸縮性を有する布帛の縫製を行うと、縫製後に布帛を伸ばした際、布帛の縫製部分が布帛の伸長に追随できなくてシームパッカリング現象が発現し、シワやつっぱり感を生じることになり、布帛の特性や縫製美観を損なう原因となっていた。
【0003】
この欠点を回避するためには、伸縮性を有する布帛を縫製する際に、予め布帛をミシン針の位置まで布帛を伸長しながら供給して縫製することが必要であった。しかしながら、伸縮性を有する布帛を一定の伸びで伸長しながら供給することは熟練を要する作業であった。直線部の縫製なら比較的難易度は低いが、曲線部の縫製で、かつ、その縫製部分の距離が短い長さであったり、布帛が複数枚重ねられた状態であると、布帛を伸長しながら供給することは困難であった。その結果、先に述べたような欠陥を有する縫製となっていた。
【0004】
このような欠陥を回避するために、伸度が小さく、縫製後の後処理で伸縮性布帛と同程度の伸縮性を発現できるミシン糸の出現が待たれていた。例えば、特開2006−233366号公報(特許第4359695号公報)では、伸縮性を抑えた刺繍糸が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−233366号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1で開示されている発明は伸縮性を抑えた刺繍糸(以下、先行技術の刺繍糸と云う)であるが、糸自体の構成は本願発明のミシン糸とほとんど同じである。すなわち、伸縮性糸(ポリウレタン糸)と可溶性糸(水溶性ビニロン糸)が引揃えられた状態で芯糸になっており、芯糸の周囲を不溶性糸でカバーリングすることで3本の糸を一体化した構成になっている。ただ、異なっている点は、先行技術の刺繍糸は芯糸を構成しているポリウレタン糸が200%近く伸長された状態で一体化されているに対し、本願発明のミシン糸の芯糸を構成しているポリウレタン糸はほとんど元の長さ、もしくは少々伸長された状態で一体化されていることである。これは重要な相違点である。
【0007】
先行技術の刺繍糸で伸縮性の生地に刺繍するに際し、生地が弛まないよう緊張させ(伸長させ)て刺繍機に生地をセットしてからこの刺繍糸で刺繍する。この刺繍糸の芯糸に使われているポリウレタン糸は生地の伸長率に見合った伸長率に伸ばされていなければならないとの記載がある。刺繍後、刺繍機から生地を取り外した際、生地は緊張状態から解放されるので生地は元の大きさに縮む。生地が縮むと刺繍部分は収縮しないため刺繍部分は盛り上がった状態になる。ここで刺繍糸中の可溶性糸を溶解除去すると伸長されていたポリウレタン糸はフリーになるので元の長さに戻り、きれいな刺繍となるのである。このため、先行技術の刺繍糸のポリウレタン糸は生地の伸長率に見合った伸長率に伸ばした状態で一体化されていなければならないのである。このことを別の言い方をすれば、ある伸長率に伸ばした刺繍糸を作製し、その伸長率に見合った伸長率に生地を伸ばして刺繍機台にセットしなければならないのである。
【0008】
この点、本願発明のミシン糸の芯糸を構成するポリウレタン糸はほとんど元の長さ、もしくは少々伸長された状態で可溶性糸、カバーリング糸(または束ね糸と云うこともある)と一体化されている。もし、先行技術の刺繍糸が縫製糸として使用でき、本願発明のように伸縮性を有する布帛をそのままの状態で縫製できたとしても、縫製後、可溶性糸を溶解除去したらポリウレタン糸は伸長された状態から解放され、元の長さに戻ろうとする力が働き、縫目が盛り上がった状態になって生地にシワやつっぱりが発生する原因になる。これを回避するには伸縮性布帛をポリウレタン糸の伸長率に見合った伸長率に伸ばしながら縫製しなければならず、このことは本明細書の(0003)段および(0004)段に記載している欠点を踏襲することに他ならず、なんら欠点を解消する手段とはならない。
【0009】
もし弾性糸のみで伸縮性布帛を縫製できればそれに越したことはない。しかしながら、伸縮性を有する弾性糸のみでミシン糸を作ることはできない。仮に伸縮性を有する弾性糸のみから成るミシン糸が得られたとしても、そのミシン糸に張力を掛けた場合でも緩めた場合でもいずれの場合においても、その特性たる弾力性のため張力が掛かると糸が伸び全く縫製ができないからである。一般的には、ミシン糸にはミシン掛けの際にかかる張力に対抗できる強力と伸びない特性が絶対に必要なのである。
【0010】
先行技術の刺繍糸をミシン糸として伸縮性を有する布帛を縫製したとしても、伸縮性布帛の特性を生かすために、布帛をミシン針の位置まで伸ばして縫製する方法を採用しなければならず、縫製作業の繁雑さを解消することができなかった。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らはこれらの課題を解決するため鋭意研究した結果、伸縮糸から成る糸Aと低伸長可溶性糸からなる糸Bを引揃えた状態で不溶性糸もしくは可溶性糸から成る糸Cで螺旋状に束ねた構造である伸縮性複合ミシン糸を使用して縫製することにより、全ての難点を解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明の要旨とするところは、
(請求項1)伸縮糸から成る糸Aと、低伸長性可溶性糸から成る糸Bを引揃えた芯糸と、該芯糸の周囲に不溶性糸または可溶性糸から成る糸Cで螺旋状に束ねた構造を持つことを特徴とする伸縮性複合ミシン糸。
(請求項2)糸Aがポリウレタン繊維、ポリエステル系ウレタン繊維、ポリエーテル系ウレタン繊維、エステル系ウレタン化合物とエーテル系ウレタン化合物との共重合体繊維、ポリオレフィン系弾性繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維、天然ゴム糸、合成ゴム糸、ポリ塩化ビニル繊維、ポリ塩化ビニリデン繊維から選ばれた少なくとも1種から成ることを特徴とする請求項1記載の伸縮性複合ミシン糸。
(請求項3)糸Bが水溶性繊維、溶剤可溶性繊維、酸またはアルカリ性可溶性繊維から選ばれた少なくとも1種の可溶性繊維から成ることを特徴とする請求項1記載の伸縮性複合ミシン糸。
(請求項4)糸Cが化学繊維糸から選ばれた少なくとも1種から成ることを特徴とする請求項1記載の伸縮性複合ミシン糸。
(請求項5)糸Aを−0.8〜+1.5倍の範囲のフィード倍率で巻いたボビンから供給し、糸Bを1〜1.05倍の範囲のフィード倍率で巻いたボビンから供給し、糸Aおよび糸Bを並走させながら糸Cを巻いたボビンを有する中空スピンドルに通して糸Aおよび糸Bの周囲を糸Cでカバーリングすることを特徴とする伸縮性複合ミシン糸の製造方法。
である。
【発明の効果】
【0013】
本発明のミシン糸は、縫製時には伸びず、縫製後の可溶性糸を溶解除去することで縫製部分の縫糸に伸縮性を回復させるので、伸縮性布帛を伸長させた際にも縫糸は布帛の伸び縮みに追随できる。そのため本発明のミシン糸は伸縮性布帛を何ら伸長させることなくそのままの状態で縫製できるのである。伸縮性を有するニット布帛やこれらの布帛を複数枚重ねて縫製する際、また不織布を縫製する際、何ら特別な手段を講じることなく簡単に縫製することができるようになったうえに、縫製工程での煩雑さの解消、美しい縫目、シワやパッカリングの発生防止などの利点を達成することができた。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施態様を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明を図面を交えながら説明する。 [図1]は、本発明の実施態様の一例を示す概略図であり、ここでは2個の中空スピンドルを使用した場合について説明する。伸縮性糸から成る糸Aを巻いたボビン1から引き出した糸Aをフィードローラー3と給糸ローラー5の間で−0.8〜+1.5倍のフィード倍率で第一段中空スピンドル8に導く。一方、低伸長性可溶性糸から成る糸Bは糸Bを巻いたボビン2から引き出した糸Bをフィードローラー4と給糸ローラー5の間で1〜1.05倍のフィード倍率で第一段中空スピンドル8に導かれる。糸Aと糸Bは給糸ローラー5で引揃えられ、並走して中空スピンドルに導かれる。この引揃えられた糸を芯糸とする。
【0016】
2個の中空スピンドルには不溶性糸または可溶性糸から成る糸C7、7’を巻いたカバーリングボビン6、6’が差し込まれている。中空スピンドルに導かれてきた糸Aおよび糸Bの引揃え糸は第一段バルーンガイド9との間で所定回数糸C7によりカバーリングされ、さらに第二段の中空スピンドル8’に導かれ、第二段バルーンガイド9’との間で所定回数糸Cによりカバーリングされた後、デリベリーローラー10、テークアップローラー11を経て複合糸巻き取りボビン12に巻き取られる。
【0017】
本発明の複合ミシン糸は、糸Aと糸Bが引揃えられた状態で芯糸とし、その周囲に不溶性糸Cまたは可溶性糸Cでカバーリングされ、束ねられて3本が一体化された構造なので糸Aの長さも糸Bの長さも固定されている。ミシン掛け張力を一手に支えているのは糸Bであり、糸A、糸Cはミシン掛け時の張力を支えるには何の寄与もしない。従って、糸Aの長さはほとんど変化しないのである。
【0018】
本発明のミシン糸で糸Cを不溶性糸を使ったミシン糸で布帛を縫い合わせた状態で糸Bが溶解除去されると、伸縮性糸Aと束ね糸Cとの間に空隙(スペース)ができる。空隙ができたおかげで、布帛の伸び縮みに追随して糸Aも糸Cも伸び縮みし易くなるので、シワも発生せず、つっぱり感も生じないので、着心地が良くなるのである。もし、伸縮性を有しないミシン糸で伸縮性布帛の縫製を行った場合、布帛を伸ばした際、縫糸が追随しないので布帛にシワが生じたり、つっぱり感が生じるのである。
【0019】
本発明で糸Cとして可溶性糸を用いた場合の効果は、可溶性糸を溶解除去した後は伸縮性糸Aだけが残るので、実質的に伸縮性糸のみで構成されたミシン糸となる。先にも述べたように、伸縮性糸のみから成るミシン糸ができたとしても、ミシン掛けの際にかかる張力でミシン糸が伸びてしまい、縫製することができない。ミシン掛けできる糸にするため、伸縮性糸と可溶性糸を引揃え、強撚することで一時的に伸縮性糸の伸度を抑えるという工夫がなされていた。しかし、このようにして得られる強撚糸は伸度を抑えることはできるが、撚糸時にかかる張力のため伸縮性糸が伸ばされた状態で固定されることを防ぐことができなかった。
【0020】
本発明の方法によれば、ほとんど元の長さを維持している伸縮性糸Aと可溶性糸Bが引揃えられた状態でその周囲を可溶性糸Cで束ねて一体化しているため、ミシン掛けの際にかかる張力にも伸縮性糸Aは伸ばされることもなく、元の長さを維持したまま縫製される。縫製後、可溶性糸Bおよび糸Cを溶解除去すると糸Aだけが残り、あたかも伸縮性糸のみで縫製したような効果を示すのである。
【0021】
以降、束ね糸C(カバーリング糸)が不溶性糸の場合について説明する。本発明のミシン糸では、糸Bを溶解除去した後は、糸Aと糸Cの間に空隙ができている。また糸Aも糸Cも固定された状態が解除されているので自由な伸縮性を回復しており、布帛の伸び縮みに追随して伸び縮みすることができる。先行技術の刺繍糸のように伸縮糸を伸ばした状態で得たミシン糸を使って伸縮性布帛を縫製した場合、布帛上の縫製の始点と終点は固定されているので、この状態で可溶性糸が溶解除去され、伸縮性糸が縮めばその収縮力により縫い目が盛り上がる現象が起きやすくなって、結果、シワやつっぱりが発生することになる。
【0022】
この現象を回避するには、糸Aをできるだけ元の長さに近い状態で縫糸にするのが好ましい。そのため、本発明では糸Aの伸びを−0.8〜+1.5倍にしてある。伸びを−0.
8倍としているのは、糸Aを弛ませた状態で給糸しているのでなく、市販されているポリウレタン糸はコーンなどに巻かれて供給されているのが普通である。コーン巻きの際にかかる張力のため、ポリウレタン糸は若干伸びた状態で巻かれているのでマイナスフィードすることでコーン巻き前の糸長に戻る。その程度が−0.8倍と推定している。従って、フィード倍率1と云うことはコーンに巻かれたポリウレタン糸の長さそのものを表している。糸Cは螺旋状にカバーリングされているので、伸縮に必要な糸長は十分である。
【0023】
以下、さらに詳細に本発明を説明する。本発明で使用する伸縮性糸から成る糸Aは破断伸度も大きいが規定範囲内の伸長後に張力が解除されればほぼ元の状態に戻る特性を有している。糸Aとして使用できる繊維を例示すれば、ポリウレタン繊維、ポリエステル系ウレタン繊維、ポリエーテル系ウレタン繊維、エステル系ウレタン化合物とエーテル系ウレタン化合物との共重合体繊維、ポリオレフィン系弾性繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維、天然ゴム糸、合成ゴム糸、ポリ塩化ビニル繊維、ポリ塩化ビニリデン繊維などが挙げられる。伸長率の大きさ、伸長回復率の大きさ、市場での汎用性などを評価してポリウレタン繊維が好ましく用いられる。ポリウレタン繊維と他の伸縮性糸を組合せても使用できる。
【0024】
本発明で使用される可溶性糸から成る糸Bは、ミシン掛けの際にかかる張力に耐えるミシン糸の強度を担保する働きをする糸で、ミシン掛けの際に切断しない糸でなければならない。また、ミシン掛けでかかる張力で簡単に伸びてしまっては縫製が困難になり好ましくない。すなわち、糸Bは可溶性であるという条件以外は一般のミシン糸のように低伸度の糸が望ましいが、特許文献1に記載されている非伸長糸や非伸縮糸と表現されるような全く伸長性や伸縮性を有さない糸では製造工程中での糸にかかる張力を吸収することができないため、工程通過性が甚だしく低下し扱い辛くなるような糸は用いない。
【0025】
これらの条件を満たす糸としては、水溶性ポリビニルアルコール系合成繊維、アルギン酸繊維、カチオン染料可染ポリエステル繊維が挙げられる。中でも溶解処理の容易さから水溶性ポリビニルアルコール系合成繊維が好ましく用いられる。水溶性ポリビニルアルコール系合成繊維、アルギン酸繊維の場合は水または温水で溶解処理を、カチオン染料可染ポリエステル繊維を使用する場合は、弱アルカリ水溶液で溶解処理する。この場合は糸Cは耐アルカリ性の繊維を用いなければならない。
【0026】
本発明で使用される不溶性の糸C7,7’は、引揃えられた糸Aおよび糸Bをカバーリングすることで束ねる役目を持つ糸であって、衣料用途や工業用途に用いられている熱可塑性合成繊維が好ましく使用できる。そのうちポリエステル繊維やナイロン繊維が好ましく用いられる。さらに特性としては熱収縮率が小さいことが好ましい。その理由は本ミシン糸で伸縮性布帛を縫製した後、糸Bの溶解除去工程、縫製品の染色工程などの加工工程で加熱されることが多く、熱収縮率の大きい糸を使用すると糸が収縮して糸Bが溶解除去されてできた空白部分を狭めたり、極端に大きな熱収縮をもつ糸ならシームパッカリング現象を発現させる原因となるからである。従って、糸C7,7’の熱収縮率は180℃×30分の条件でのフリー収縮率が30%以内の糸が好ましい。糸C7,7’は同種の糸でも良いし異なった種類の糸でも良いが、作業上、同種の糸を使うのが好ましい。
【0027】
縫製後、糸Bを溶解除去したミシン糸は伸縮糸である糸Aと束ね糸である糸Cだけになる。糸Aの長さと糸Cの長さを比べると、糸Cはカバーリング糸として使用されているので糸Aの糸長よりかなり長くなっている。糸Bが溶解されると糸Bが占めていた部分が空白となり、束ね糸として使用されている糸Cが自由に動けることになり、その結果糸Aの伸長に十分に対応できることになる。このことは、縫製された伸縮性布帛が伸ばされたとしても糸A、糸Cはその伸長に十分に対応でき、布帛に縫目部分の吊り現象やシワ現象が発生しないので、縫目の美感を損なわないのである。また、この縫製された布帛から作られた衣服を着用した時、身体の屈伸による布帛の伸びに対しても糸A、糸Cは全く無理なく伸長に追随でき、屈伸が終われば糸A、糸Cも元の状態に戻る
【0028】
糸Cとして可溶性糸を使用する場合は、糸Bとして使用した糸が好ましく使用できる。この場合、芯糸に使用した可溶性糸とカバーリング糸として使用した可溶性糸は同種の糸を使用することが好ましく、作業上の容易性を考慮すると水溶性糸を用いるのが好ましい。
【0029】
次いで本ミシン糸の製造方法について説明する。[図1]に本発明の一実施態様を示す概略図を示している。伸縮性糸から成る糸Aを巻いたボビン1から引き出した糸Aをフィードローラー3と給糸ローラー5の間で−0.8〜+1.5倍のフィード倍率で第一段中空スピンドル8に導く。一方、低伸長性可溶性糸から成る糸Bは糸Bを巻いたボビン2から引き出した糸Bをフィードローラー4と給糸ローラー5の間で1〜1.05倍のフィード倍率で送り出される。糸Aと糸Bは給糸ローラー5で引揃えられ、並走して第一段中空スピンドル8に導かれる。この引揃え糸を芯糸とする。
【0030】
糸Aのフィード倍率は−0.8〜+1.5倍の範囲が好ましく、縫製の際に布帛を伸ばす必要がないように0倍近辺がより好ましく、使用目的によっては若干のマイナスのフィード倍率をかける場合もある。フィードローラー4と給糸ローラー5の糸速によって可溶性糸Bにかかる張力により糸Bが多少伸びることがあるが、その程度は糸Bの破断伸度のせいぜい30%以下の範囲内で、ミシン糸としての性能には何ら問題はない。
【0031】
また、色糸が欲しい場合には、糸Cを染色しておいて芯糸の周囲にカバーリングしたミシン糸とすれば良い。
【0032】
本発明における束ね方法は中空スピンドルを使ったカバーリング機によるカバードヤーン方式が好ましく用いられる。中空スピンドル8,8’には不溶性糸または可溶性糸から成る糸C7、7’を巻いたカバーリングボビン6、6’が差し込まれている。中空スピンドルの穴に導かれてきた糸Aおよび糸Bの引揃え糸はバルーンガイド9との間で所定回数糸Cによりシングルカバーリングされ、次いでバルーンガイド9’との間でダブルカバーイングされて、デリベリーローラー10、テークアップローラー11を経て複合糸巻き取りボビン12に巻き取られる。
【0033】
図1には中空スピンドルが2個の場合を示しているが、芯糸を十分にカバーリングすることができるなら1個のシングルカバーリングでも良い。ダブルカバーリングの場合、束ね糸Cのカバーリング方向は同方向でも良いし、一段目は右方向、二段目は左方向としても良い。芯糸が束ね糸Cで十分にカバーリングされているなら同方向でも異方向でも良い。また、カバーリングの程度であるが、芯糸が全体に被覆され、芯糸が露見していないのが好ましいが、ミシン掛け時にミシン針の針穴を支障なく通過し、縫製に支障をきたさなければ芯糸が少々露見していても何ら問題はない。
【0034】
本発明の伸縮性ミシン糸は伸縮性布帛の縫製に適しているのであるが、本ミシン糸は刺繍糸としても応用も可能である。刺繍糸として使用する場合には刺繍すべき伸縮性基布に可溶性布帛を裏打ちすることが好ましい。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
【0036】
(実施例1)
図1に示すような装置を用いた。糸Aとして310dtexのポリウレタン糸(東レ株式会社製)を、糸Bとして31dtexの水溶性ビニロン糸(株式会社ニチビ製、商品名ソルブロン)を、糸Cとして56dtexのポリエステルフィラメント加工糸(東レ株式会社製)を使用した。ポリウレタン糸を巻いたボビンと水溶性ビニロン糸を巻いたボビンそれぞれカバーリング機台の芯糸用ボビンスタンドにそれぞれセットし、ポリウレタン糸のフィード倍率を1倍、水溶性ビニロン糸のフィード倍率も1倍とした。これらの糸を引揃えて芯糸とした。この芯糸を3.8m/分の糸速でダブルカバー方式でポリエステルフィラメント加工糸を巻いたボビンを差し込んである2個の中空スピンドルに導き、第一段中空スピンドルで芯糸1m長に対して下巻は2000T/m、第二段中空スピンドルで上巻1500T/mになるよう螺旋状にカバーリングして巻き取って複合ミシン糸を得た。
【0037】
得られた複合ミシン糸は強力250g、伸度は16%であり、十分にミシン掛けに耐える糸であった。このミシン糸を使用してポリエステル編物布帛を2枚重ねた状態で布帛を延伸することなくミシン掛けした後に、60℃の温水に10分間浸して可溶性糸を溶解除去し、乾燥した。次にこの縫製部分が中央に位置するように巾20mm、長さ200mmにカットし、掴み間隔10cmで長さを1.2倍に伸長し、伸長を解いた時の縫製部分を観察する方法で評価し、結果を表1に示した。
【0038】
(実施例2)
図1に示すような装置を用いた。糸Aとして310dtexのポリウレタン糸を、糸Bとして84dtexのカチオン染料可染ポリエステル糸を、糸Cとして78dtexのレギュラーポリエステルフィラメント糸を使用した。ポリウレタン糸を巻いたボビンとカチオン染料可染ポリエステル糸を巻いたボビンそれぞれカバーリング機台の芯糸用ボビンスタンドにそれぞれセットし、ポリウレタン糸のフィード倍率を1倍、カチオン染料可染ポリエステル糸のフィード倍率も1倍とした。これらの糸を引揃えて芯糸とした。この芯糸を3.8m/分の糸速でダブルカバー方式でレギュラーポリエステルフィラメント糸を巻いたボビンを差し込んである2個の中空スピンドルに導き、第一段中空スピンドルで芯糸1m長に対して下巻は2000T/m、第二段中空スピンドルで上巻1500T/mになるよう螺旋状にカバーリングして巻き取って複合ミシン糸を得た。
【0039】
得られた複合ミシン糸を使用してナイロンジャージー編物布帛を2枚重ねた状態で布帛を延伸することなくミシン掛けした後に、90℃の苛性ソーダ3%水溶液に60分間浸して可溶性糸を溶解除去し、水洗、乾燥した。次にこの縫製部分が中央に位置するように巾20mm、長さ200mmにカットし、掴み間隔10cmで長さを1.2倍に伸長し、伸長を解いた時の縫製部分を観察する方法で評価し、結果を表1に示した。
【0040】
(実施例3)
図1に示すような装置を用いた。糸Aとして310dtexのポリウレタン糸(東レ株式会社製)を、糸Bとして31dtexの水溶性ビニロン糸(株式会社ニチビ製、商品名ソルブロン)を、糸Cとして62dtexの水溶性ビニロン糸(株式会社ニチビ製、商品名ソルブロン)を使用した。ポリウレタン糸を巻いたボビンと水溶性ビニロン糸を巻いたボビンそれぞれカバーリング機台の芯糸用ボビンスタンドにそれぞれセットし、ポリウレタン糸のフィード倍率を1倍、水溶性ビニロン糸のフィード倍率も1倍とした。これらの糸を引揃えて芯糸とした。この芯糸を3.8m/分の糸速でダブルカバー方式で水溶性ビニロン糸を巻いたボビンを差し込んである2個の中空スピンドルに導き、第一段中空スピンドルで芯糸1m長に対して下巻は2000T/m、第二段中空スピンドルで上巻1500T/mになるよう螺旋状にカバーリングして巻き取って複合ミシン糸を得た。
【0041】
得られた複合ミシン糸は強力490g、伸度は14%であり、十分にミシン掛けに耐える糸であった。このミシン糸を使用してポリエステル編物布帛を2枚重ねた状態で布帛を延伸することなくミシン掛けした後に、60℃の温水に10分間浸して可溶性糸を溶解除去し、乾燥した。次にこの縫製部分が中央に位置するように巾20mm、長さ200mmにカットし、掴み間隔10cmで長さを1.2倍に伸長し、伸長を解いた時の縫製部分を観察する方法で評価し、結果を表1に示した。
【0042】
(比較例1)
市販の30番手ポリエステルスパンミシン糸を使用して実施例1で使用したポリエステル編物を2枚重ねた状態で布帛を延伸することなく縫製した。次に得られた編物の縫製部分が中央に位置するように巾20mm、長さ200mmにカットし、掴み間隔10cmで長さを1.2倍に伸長し、伸長を解いた時の縫製部分を観察する方法で評価し、結果を表1に示した。
【0043】
(比較例2)
市販の30番手ポリエステルスパンミシン糸を使用して実施例1で使用したポリエステル編物を2枚重ねた状態で布帛で約1.2倍に延伸した状態で縫製した。次に得られた編物の縫製部分が中央に位置するように巾20mm、長さ200mmにカットし、掴み間隔10cmで長さを1.2倍に伸長し、伸長を解いた時の縫製部分を観察する方法で評価し、結果を表1に示した。
【0044】
【表1】

【0045】
本発明による伸縮性複合ミシン糸は、従来のカバーリング装置を使用して芯糸となる糸Aを何ら延伸することなく、もしくは少々延伸し、糸Bと引揃えながら糸Cをカバーリングして得られる。実施例1,実施例2、実施例3と比較例1、比較例2の観察結果の対比から明らかなように、本願発明の伸縮性複合ミシン糸を使って縫製し、ミシン糸の可溶性糸を溶解除去した後の縫製品の表面には、縫製部にシワの発生、シームパッカリング現象や引き吊り現象が起こっておらず、布帛の美観および機能を損なっていないことが分かった。
【0046】
このことは、スポーツユニフォームやトレーナーをはじめ、少し伸縮性を有しているジーンズなどで屈伸動作を容易にできる働きをする。さらに伸縮性不織布、ゴムシートや塩ビシートなどの伸長および伸縮性を有するシート状物の縫製にも使用できる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の伸縮性複合ミシン糸は伸縮性を有する衣料やユニフォームの縫製はもちろんのこと、伸縮性や伸長性を有する不織布の縫製にも使用できる。さらにはゴム製品の接続の際、伸縮性接着剤を使用するが接着部分の補強材として本発明のミシン糸が使用できるようになった。
【符号の説明】
【0048】
1 …… 糸Aボビン
2 …… 糸Bボビン
3 …… 糸Aフィードローラー
4 …… 糸Bフィードローラー
5 …… 給糸ローラー
6 …… 第一段カバーリングボビン
6’…… 第二段カバーリングボビン
7 …… 第一段糸C
7’…… 第二段糸C
8 …… 第一段中空スピンドル
8’…… 第二段中空スピンドル
9 …… バルーンガイド
9’…… バルーンガイド
10 …… デリベリーローラー
11 …… テイクアップロラー
12 …… 複合ミシン糸巻き取りボビン


【特許請求の範囲】
【請求項1】
伸縮糸から成る糸Aと、低伸長性可溶性糸から成る糸Bを引揃えた芯糸と、該芯糸の周囲に不溶性糸または可溶性糸から成る糸Cで螺旋状に束ねた構造を持つことを特徴とする伸縮性複合ミシン糸。
【請求項2】
糸Aがポリウレタン繊維、ポリエステル系ウレタン繊維、ポリエーテル系ウレタン繊維、エステル系ウレタン化合物とエーテル系ウレタン化合物との共重合体繊維、ポリオレフィン系弾性繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維、天然ゴム糸、合成ゴム糸、ポリ塩化ビニル繊維、ポリ塩化ビニリデン繊維から選ばれた少なくとも1種の繊維から成ることを特徴とする請求項1記載の伸縮性複合ミシン糸。
【請求項3】
糸Bが水溶性繊維、溶剤可溶性繊維、酸またはアルカリ性可溶性繊維から選ばれた少なくとも1種の可溶性繊維から成ることを特徴とする請求項1記載の伸縮性複合ミシン糸。
【請求項4】
糸Cが化学繊維糸から選ばれた少なくとも1種の繊維から成ることを特徴とする請求項1記載の伸縮性複合ミシン糸。
【請求項5】
糸Aを−0.8〜+1.5倍の範囲のフィード倍率で巻いたボビンから供給し、糸Bを1〜1.05倍の範囲のフィード倍率で巻いたボビンから供給し、糸Aおよび糸Bを並走させながら糸Cを巻いたボビンを有する中空スピンドルに通して糸Aおよび糸Bの周囲を糸Cでカバーリングすることを特徴とする伸縮性複合ミシン糸の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−162815(P2012−162815A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−22898(P2011−22898)
【出願日】平成23年2月4日(2011.2.4)
【出願人】(511032039)北陸化繊株式会社 (2)
【出願人】(000134936)株式会社ニチビ (13)
【Fターム(参考)】