説明

位相反転型スピーカキャビネット

【目的】設計上必要とされる長さを持ちながら、キャビネット内に配置することのできるダクトを備えた位相反転型スピーカキャビネットを提供する。
【構成】スピーカユニット4,5が取り付けられるキャビネット本体2に、その内外を連通するダクト3を設けた位相反転型スピーカキャビネットである。ダクト3は、キャビネット本体の容積などに基づいて選ばれるストレートのパイプ31,31をパイプジョイント32で連結することにより構成される。特に、パイプジョイント32は、これに接続するパイプ31,31の開口面積よりも内部空洞部分が大きな断面積を有する箱型であり、その内部には吸音材33が収容される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気信号を音響エネルギーに変換するスピーカシステムに係わり、特にスピーカユニットの背面から放射される音波の位相を反転させ、スピーカユニットの前面から放射される音波と位相を合わせて低音を増強する構成の位相反転型スピーカキャビネットに関する。
【背景技術】
【0002】
スピーカシステムは、ユニットとキャビネット(エンクロージャ)とにより構成されるが、これを構成するスピーカユニットは再生帯域によってフルレンジ、トゥイータ、ミッドレンジ、ウーファに分けられる。一方、スピーカユニットを取り付けるキャビネットとしては、その形態などによって密閉型や位相反転型(バスレフ型)といったものが知られる。
【0003】
位相反転型は、主としてユニット取付面(バッフル板)の一部に開口部(ポート)を設け、その開口部に音道を形成するパイプ状のダクトを接続するか、あるいはユニット取付面にダクトを一体に成型し、そのダクトを通じてユニットの背面から放射された音波の位相を反転させてキャビネットの前方に導き、これをユニットの前面から放射される音波と合成することにより低音域の能率を上げるようにしたものであり、密閉型に比べると低周波帯域の音圧レベルを上げられるという利点がある。
【0004】
しかし、ダクトの共振周波数以下では、ユニットとダクトから放射される音の位相が逆になり、低音再生能力が失われる。このため、ダクトの共振周波数はユニットの共振周波数より稍低い周波数となるよう設計される。
【0005】
キャビネットの内容積が大きく、ダクトが長いほど共振周波数は低くなるので、低音再生能力を上げるためには、長めのダクトを設けるためにキャビネットにそれ相応の奥行きが必要となるが、ブックシェルフと呼ばれる小型のキャビネットでは長いダクトの設置が困難となる。
【0006】
ここに、従来では限られた容積のキャビネット内に設計上必要とされる長さのダクトを収めるべく、金型を用いて所定形状の屈曲ダクトを成型することも行われているが、屈曲したダクトを成型することは容易でなく、しかもその度に専用の金型を製作することにはコスト高を招く。
【0007】
そこで、一か所以上の屈曲部を備えながら所定形状に容易に成型することのできるダクトとして、硬質エチレンプロピレンゴムチューブからなるダクトが提案されている(例えば、特許文献1)。
【0008】
【特許文献1】特許第2767905号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
然しながら、特許文献1によれば、硬質エチレン・プロピレンンゴムをノズルから押し出してチューブ体とし、このチューブ体をクランク形の治具に挿入して加硫した後、治具を引き抜いてクランク状に形成されたダクトを得るようにしているので、係るダクトの成型も決して容易であるとは言えない。
【0010】
特に、屈曲部が一つのL形であれば治具の引き抜きも容易であるが、その屈曲部が二か所以上存在するものでは、硬質エチレン・プロピレンンゴムの加硫後に治具を引き抜くことは甚だ困難である。
【0011】
本発明は以上のような事情に鑑みて成されたものであり、その目的は位相反転型のスピーカキャビネットにして、設計上必要とされる長さを持ちながらキャビネット内に配置することのできるダクトを容易に得られるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は上記目的を達成するため、スピーカユニットが取り付けられるキャビネット本体に、その内外を連通するダクトを設けた位相反転型スピーカキャビネットにおいて、前記ダクトが、少なくとも2つのパイプと、そのパイプを連結するパイプジョイントと、を有して構成されることを特徴とする。
【0013】
又、上記のような位相反転型スピーカキャビネットにおいて、パイプジョイントはこれに接続するパイプの開口面積よりも内部空洞部分が大きな断面積を有するジョイントであることを特徴とする。加えて、パイプジョイント内に吸音材が収容されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係わる位相反転型スピーカキャビネットによれば、ダクトが少なくとも2つのパイプと該パイプ同士を連結するパイプジョイントとにより構成されることから、キャビネット本体の形態などに応じてその都度ダクト成型用の金型を製作せずに、パイプの組み合わせによって設計上必要とされる長さのダクトを容易に形成することができ、しかもキャビネット本体の内部形状などに応じてパイプ同士を屈曲状態に連結して、キャビネット本体内に配置可能な所定形状のダクトを容易に組上げることができる。
【0015】
特に、パイプの組み合わせを変更するだけで、聴感上最適な低音が得られるようなチューニングを適宜行うことができる。
【0016】
又、パイプジョイントがパイプの開口断面よりも内部空洞部分が大きな断面積を有するジョイントであることにより、そのパイプジョイントが中高域の音圧を低減させる音響フィルタとして機能するため、中高域の音漏れを防止して低音域を聴感上クリアにすることができる。
【0017】
特に、係るパイプジョイント内に吸音材が収容されることから、中高音の音漏れとダクト出口部分における風切り音の防止効果を一層向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面に基づいて本発明を詳しく説明する。図1は、本発明に係る位相反転型スピーカキャビネットを用いたスピーカシステムの構成例を示す。図1において、1は係る位相反転型スピーカキャビネットで、このキャビネット1はキャビネット本体2とその内部に配置されるダクト3とにより構成される。
【0019】
本例において、キャビネット本体2は、木板などから成る前面部21(バッフル板)、背面部22、左右一対の側面部23、上面部24、及び底面部25を結合して構成される矩形状のもので、その前面部21には開口部26(ポート)が形成される。
【0020】
そして、キャビネット本体2の前面部21には、2つのスピーカユニット4,5が取り付けられて2ウェイ構造のスピーカシステムを構成している。
【0021】
尚、一方のスピーカユニット4はトゥイータ、他方のスピーカユニット5はウーファとされるが、これにミッドレンジを加えて3〜5ウェイのスピーカシステムとしたり、あるいはスピーカユニットをフルレンジの単一構造としたりしてもよい。勿論、2ウェイ構造であっても、2つのウーファと1つのトゥイータで構成する場合もある。
【0022】
又、キャビネット本体2は矩形状であることに限らず、合成樹脂などから凹状に成型される2つの成型体を結合して、全体が丸みを帯びた楕円形などの断面を有する構造物とすることもできる。
【0023】
一方、ダクト3は、キャビネット本体2の内外を音響的に連通するもので、その一端はキャビネット本体2の開口部26に接続され、他端はキャビネット本体2の内部にて開口される。
【0024】
特に、係るダクト3は、軸心が直線の形態とされる複数のストレートのパイプ31と、それらパイプ31を連結、連通するパイプジョイント32とで構成される。
【0025】
尚、図1には、開口面積(口径)が同じ2つのストレートのパイプ31をパイプジョイント32で直角に連結した例を示しているが、これを図2〜図5のような接続形態としてもよい。
【0026】
図2は開口面積が異なる2つのストレートのパイプ31をパイプジョイント32で直角に連結した構成、図3は開口面積が異なる2つのストレートのパイプ31をパイプジョイント32で直列に連結した構成、図4は2つのストレートのパイプ31をパイプジョイント32で非直角状態(鈍角状態)に斜交連結した構成、図5は3つのストレートのパイプ31を2つのパイプジョイント32でそれぞれ鈍角状に斜交連結した構成である。
【0027】
ここで、それらパイプ31は紙や合成樹脂から成る横断面円形の丸パイプとされるが、これを横断面楕円形の楕円パイプ、又は横断面正方形あるいは長方形の角パイプとしてもよい。
【0028】
一方、パイプジョイント32は、パイプ31の開口面積よりも内部空洞部分が大きな断面積を有する箱型で、これには図1のように2つのストレートパイプ31の各一端を接続するための接続口32A,32Bが形成される。
【0029】
尚、図ではパイプ31とパイプジョイントの接続口32A,32Bが差込式の接続形態とされるが、これをフランジ式の接続形態、あるいはネジ式の接続形態とするなどしてもよい。加えて、パイプの開口面積よりも内部空洞部分が大きな断面積を有するパイプジョイントとは、これに接続する2つのパイプ31,31の開口面積(口径)が相違する場合、開口面積(任意の横断面における開口面積)が大きい方よりも内部空洞部分が大きな断面積を有していることを意味する。但し、パイプジョイントは箱型であることに限らず、これを中空の球体などとしてもよい。
【0030】
又、図1から明らかなように、係るパイプジョイントの内部にはグラスウールなどから成る吸音材33が収容される。
【0031】
このようなパイプジョイント32によれば、ストレートのパイプ31を所定の角度で連結することができるほか、これがパイプ31より膨らんだ所定容積の空洞部を形成することにより、その内部で中高域の音を拡散させて風切り音ならびに中高音の音漏れを防止することができ、しかも吸音材33の働きによって中高音の音漏れ防止効果がより一層向上する。
【0032】
つまり、ダクト3から放射される音には、本来的に中高音域の周波数成分や高調波の歪が含まれ、それらが低域音の濁り(ノイズ)の原因となっているが、吸音材33を収容したパイプジョイント32をもつダクト3によれば、上記のようなノイズを音響フィルタ効果(ローパスフィルタ)でカットし、聴感上クリアな低域音を得ることができる。
【0033】
尚、図示例において、吸音材33はパイプジョイント32の内壁に固着される構成とされるが、これをパイプジョイント32内に充填するようにしてもよい。
【0034】
そして、以上のようなダクト3は、低音用のスピーカユニット5の共振周波数やキャビネット本体2の内容積などに基づいてパイプジョイント32を含む全体の長さなどが決められ、これによりスピーカユニット5からキャビネット本体2内に放射された音波の位相を反転させてキャビネット本体2の前方に導き、これをスピーカユニット5の前面から放射される音波と合成することにより低音域の能率を上げることができる。
【0035】
因に、ダクト3の長さLは、L=(25600S/(f×V);Sはダクトの開口面積、fはダクトの共振周波数、Vはキャビネット本体の容積)で求められる。
【0036】
ここで、本発明に係る位相反転型スピーカキャビネットは、開口面積(口径)及び長さが異なる複数のパイプ31(ストレートのパイプほか、屈曲したパイプを含む)と、2つの接続口32A,32Bの相対位置と開口面積および空洞部分の容積が異なる複数の箱型パイプジョイント32とにより構成されるパーツ群を予め用意し、そのパーツ群からスピーカユニット5の共振周波数とキャビネット本体2の内容積に基づいて定まるダクト3の容積と長さに適応する所定のパイプ31及びパイプジョイント32を選出し、それらをダクト3として組み合わると共に、その一端をキャビネット本体2の開口部26に接続することにより容易に構成することができる。
【実施例】
【0037】
2つのパイプ31(ストレートパイプ)をパイプジョイント32で直角に連結してダクト3とし、その一端をキャビネット本体2の開口部26に接続して図1に示すような位相反転型スピーカキャビネット1を製作した。ここに、キャビネット本体1の容積は295cm、2つのストレートパイプ31は開口面積が同一(23cm)の丸パイプで、一方(開口部26側)の長さが1cm、他方が9cm、パイプジョイント32は内部空洞部分の断面積(任意の横断面積)が11cm、容積37cmの箱型で、その内部には吸音材33としてグラスウールを充填した。
【0038】
そして、これにスピーカユニット4,5を取り付け、ダクト3の出口におけるノイズレベルを測定した。その結果を図6に示す。
【0039】
一方、比較例として、上記ダクトを従来ダクト(直角に一体成型されたもの)に付け替えた場合の結果を図7に示す。
【0040】
図6および図7から明らかなように、本発明に係る位相反転型スピーカキャビネットのダクトでは、従来ダクトに比べて中高音域の帯域(本実験において約500Hz)でノイズレベルが大幅に低減することが判る。
【0041】
以上、本発明について説明したが、ダクト3はキャビネット本体2の内部に配置することに限らず、これをキャビネット本体2の外部に設けるようにしてもよい。
【0042】
又、実施例では、パイプがストレートのものについて説明したが、これに限らず曲率を有するパイプであってもよい。但し、ストレートパイプが、生産性が高く安価となるので最も好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明に係る位相反転型スピーカキャビネットの内部構造を示す説明図
【図2】本発明の変更例を示す説明図
【図3】本発明の変更例を示す説明図
【図4】本発明の変更例を示す説明図
【図5】本発明の変更例を示す説明図
【図6】本発明に係るダクトによるノイズスペクトルを示すグラフ
【図7】従来ダクトによるノイズスペクトルを示すグラフ
【符号の説明】
【0044】
1 位相反転型スピーカキャビネット
2 キャビネット本体
26 開口部(ポート)
3 ダクト
31 パイプ
32 パイプジョイント
32A,32B パイプの接続口
33 吸音材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スピーカユニットが取り付けられるキャビネット本体に、その内外を連通するダクトを設けた位相反転型スピーカキャビネットにおいて、
前記ダクトが、少なくとも2つのパイプと、そのパイプを連結するパイプジョイントと、を有して構成されることを特徴とする位相反転型スピーカキャビネット。
【請求項2】
パイプジョイントはこれに接続するパイプの開口面積よりも内部空洞部分が大きな断面積を有するジョイントであることを特徴とする請求項1記載の位相反転型スピーカキャビネット。
【請求項3】
前記パイプジョイント内に吸音材が収容されることを特徴とする請求項2記載の位相反転型スピーカキャビネット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−60529(P2007−60529A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−246153(P2005−246153)
【出願日】平成17年8月26日(2005.8.26)
【出願人】(000004329)日本ビクター株式会社 (3,896)
【Fターム(参考)】