説明

位相差フィルム、積層体、偏光板及び画像表示装置

【課題】 生産性が良く、環境低負荷で作成可能な位相差フィルムを提供することを目的とする。さらに本発明はそれらを用いた積層体、偏光板、ならびに画像表示装置を提供することを目的とする。
【解決手段】 (A)1.00≦Re(450)/Re(550)≦1.05を満たす正の配向複屈折を有する水溶性樹脂と、(B)負の配向複屈折を持つ水溶性樹脂とを含む位相差フィルムにより達成できる。得られる位相差フィルムは構造を特定することで、逆波長分散性や、負の複屈折を有する位相差フィルムとすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視光領域において、長波長であるほどレターデーションが大きいという光学特性を有する逆波長分散を示す位相差フィルム、及び負の複屈折性を有する位相差フィルムに関する。さらに本発明はそれらを用いた積層体、偏光板、ならびに画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
正の複屈折を有するフィルムと負の複屈折を有するフィルムを積層し、逆波長分散を示す積層位相差フィルムが提案されている(例えば、特許文献1)。しかし所望とする波長分散を得るためには、位相差フィルムを複数枚使用しているので、それらを貼り合わせたり、貼り合わせる角度を調節する工程が必要であり、生産性に問題がある。また、位相差フィルム全体の厚さが大きくなるために、表示装置に組み込んだときに厚くなったり、光線透過率が低下し、暗くなるという問題もある。
【0003】
一方で、このような逆波長分散を有するフィルムの用途において、反射防止フィルムとして用いられる場合は可視光の波長領域においてレターデーションが波長の1/4や1/2におよそ等しい波長分散を有するものが好適に用いられる。また偏光板の光漏れを防止するために用いられる際には液晶セルの補償も兼ねた光学補償が要求される場合があり、用いられる液晶の種類や構成により要求される波長分散が異なる場合がある。
【0004】
このような異なった波長分散の要求に対応すべく、波長分散の異なるポリマーを混合した位相差フィルムが提案されている(例えば、特許文献2、3)。このように混合比で波長分散を調整する方法は多数のポリマーを所有しなくとも、任意の波長分散を有する位相差フィルムを得られる点では有利である。しかし、逆波長分散の要求にはまだ十分に対応できていない。
【0005】
一方、液晶画像表示装置において、負の配向複屈折を示すフィルムを用いた光学補償方式も提案されている。たとえば、特許文献4においてはオレフィン−N−フェニルマレイミド系樹脂を、特許文献5においてはスチレンーアクリロニトリル系樹脂を負の配向複屈折を有する樹脂として用いた光学補償方式が提案されている。
【0006】
さて、光学フィルムの作製に関しては溶融押出法、ソルベントキャスト法などの方法が提案されている。溶融押出法は、フィルムの平滑性が失われる、厚みムラが生じるなどの問題がある。さらに、溶融押出法を適用可能な樹脂は、成形加工温度よりも十分に高い分解温度を有している必要がある。そのため、溶融押出法を広範な樹脂に用いることは困難である。これに対し、ソルベントキャスト法は、フィルムの平滑性・厚みの均一性に優れているものの、大量の有機溶剤を使用するものがほとんどである。そのため、有機溶剤の購入・回収・再利用といったプロセスが煩雑であり、環境負荷・生産性の観点からも問題が大きい。
【特許文献1】特開2003−196029号公報
【特許文献2】特開2002−14234号公報
【特許文献3】特開平4−194902号公報
【特許文献4】特開2004−269842号公報
【特許文献5】特開2008−50550号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記観点に鑑み、生産性が良く、環境低負荷で、かつレターデーションの波長分散制御が容易である逆波長分散を有する位相差フィルムを提供することを目的とする。さらに、本発明においては、同様な環境低負荷で作成できる負の配向複屈折を有する位相差フィルムを提供することも目的とする。さらに本発明はそれらを用いた積層体、偏光板、ならびに画像表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討した結果、前記課題を解決するための方法を見出した。すなわち本発明は、
(1) (A)1.00≦Re(450)/Re(550)≦1.05を満たす正の配向複屈折を有する水溶性樹脂と、
(B)負の配向複屈折を持つ水溶性樹脂、
とを含むことを特徴とする位相差フィルム
(ここで、Re(450)、Re(550)は、それぞれ波長450nm、550nmで測定したレターデーション値を示す。)。
【0009】
(2) 正の配向複屈折を持つ水溶性樹脂(A)が、20から90重量%と、負の配向複屈折を持つ水溶性樹脂(B)が、80から10重量%とを含むことを特徴とする(1)に記載の位相差フィルム。
【0010】
(3) 正の配向複屈折を持つ水溶性樹脂(A)がポリビニルアルコール系樹脂であり、負の配向複屈折を持つ水溶性の樹脂(B)がスチレン系樹脂であることを特徴とする(1)または(2)に記載の位相差フィルム。
【0011】
(4) ポリビニルアルコール系樹脂がポリビニルアルコールであり、スチレン系樹脂がポリスチレンスルホン酸塩であることを特徴とする(3)に記載の位相差フィルム。
【0012】
(5) 水溶性の可塑剤を含有することを特徴とする(1)〜(4)のいずれか1項に記載の位相差フィルム。
【0013】
(6) ポリビニルアルコールがけん化度99モル%以上のポリビニルアルコールである(4)記載の位相差フィルム。
【0014】
(7) ポリビニルアルコールがけん化度99モル%未満のポリビニルアルコールである(4)記載の位相差フィルム。
【0015】
(8) (1)〜(7)のいずれか1項に記載の位相差フィルムに少なくとも一種類の透明保護層を設置したことを特徴とする積層体。
【0016】
(9) (1)〜(7)のいずれか1項に記載の位相差フィルムを使用したことを特徴とする偏光板。
【0017】
(10) (8)に記載の積層体を使用したことを特徴とする偏光板。
【0018】
(11) (9)記載の偏光板を使用したことを特徴とする画像表示装置。
に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に本発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0020】
本発明は1.00≦Re(450)/Re(550)≦1.05を満たす正の配向複屈折を有する水溶性樹脂(A)と、負の配向複屈折を有する水溶性樹脂(B)とを混合してなる位相差フィルムに関する。正の配向複屈折とは、フィルムを一軸延伸した際に、その延伸方向の屈折率が大きくなるもの、すなわち延伸方向が遅相軸となるものを指す。また、負の配向複屈折とはフィルムを一軸延伸した際に、その延伸方向の屈折率が小さくなるもの、すなわち延伸方向が進相軸となるものを指す。
【0021】
本発明に用いる正の配向複屈折を有する水溶性樹脂(A)はフィルム成形し、ガラス転移温度(Tg+10)℃の温度条件で、130%延伸した時の延伸フィルムの位相差が1.00≦Re(450)/Re(550)≦1.05をみたすものであれば、とくに限定されないが、逆波長分散性、レターデーションの発現性の観点から1.00≦Re(450)/Re(550)≦1.02であることがより好ましい。
【0022】
具体的な配合割合は、狙いのレターデーション値に応じて、両者の固有複屈折、加工条件における複屈折の発現性、重量平均分子量及びフィルムの脆性などによって決定するべきであるが、正の配向複屈折を有する水溶性樹脂(A)と負の配向複屈折を有する水溶性樹脂(B)の合計を100重量%とした場合、正の配向複屈折を有する水溶性樹脂(A)が20から90重量%、負の配向複屈折を有する水溶性樹脂(B)が80から10重量%であることが好ましい。またフィルムの脆性、レターデーションの発現性の観点からは正の配向複屈折を有する水溶性樹脂(A)が50から80重量%、負の配向複屈折を有する水溶性樹脂Bが50から20重量%であることがさらに好ましい。
【0023】
本発明の位相差フィルムに用いる1.00≦Re(450)/Re(550)≦1.05を満たす正の配向複屈折を有する水溶性樹脂(A)は、水に可溶であればその種類は特に限定されないが、入手性、波長分散性、及びレターデーションの発現性の観点からポリビニルアルコール系樹脂が好ましい。ポリビニルアルコール系樹脂とは任意のけん化度をもつポリビニルアルコール、さらにそれらのポリビニルアルコールをアセタール変性、ウレタン変性等の置換基で変性してもよい。また酢酸ビニルと任意のビニル系モノマーを共重合してけん化して使用してもよい。また、本発明の正の配向複屈折を有する水溶性樹脂(A)の重量平均分子量Mwはフィルムを作製できるものであれば特に限定されるものではないが、1万から100万であることが好ましい。
【0024】
本発明の位相差フィルムに用いる負の配向複屈折を有する水溶性樹脂(B)は、水に可溶であればその種類は特に限定されない。具体的には水溶性の特性を有するスチレン系樹脂、ナフタレン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、無水マレイン酸樹脂、及び無水マレイン酸等をイミド変性した樹脂が挙げられる。合成の容易性からポリスチレンスルホン酸塩が好ましい。ポリスチレンスルホン酸塩としては、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム、ポリスチレンスルホン酸カリウム、ポリスチレンスルホン酸リチウム、ポリスチレンスルホン酸アンモニウム、などが挙げられるがこれらに限定されるものではない。入手容易性の観点から、ポリスチレンスルホン酸ナトリウムが好ましい。また本発明の負の配向複屈折を有する水溶性樹脂(B)の重量平均分子量Mwは特に限定されるものではないが、1万から200万であることが好ましい。
【0025】
本発明の位相差フィルムに用いる水溶性樹脂(A)と負の配向複屈折を持つ水溶性樹脂(B)を好適に選択してやることで、逆波長分散性のフィルムまたは負の配向複屈折を有する位相差フィルムを作成することができる。ここで、逆波長分散性を有する位相差フィルム及び負の配向複屈折を有する位相差フィルムについて説明する。
【0026】
逆波長分散性を有するとは、波長450nm、550nm、630nmで測定したレターデーション値をそれぞれRe(450)、Re(550)、Re(630)とした場合に、Re(450)<Re(550)<Re(630)の関係を満たすことを特徴とする。Re(450)<Re(550)<Re(630)であることは、長波長ほど大きなレターデーションを有することを意味している。レターデーションの波長依存性は上記の条件の中でも特にRe(450)/Re(550)の値が0.6から0.99であることが好ましく、0.7から0.95であることがさらに好ましい。
【0027】
ここで波長λnmにおけるレターデーションRe(λ)とは、測定波長λnmにおける、延伸方向と平行な方向の屈折率nx、延伸方向と垂直な方向の屈折率ny、フィルム厚みdを用いて下記数式1で表される。
【0028】
Re(λ)=(nx−ny)×d (数式1)
負の配向複屈折を有するとは、フィルムを延伸した場合に、延伸方向と平行な方向の屈折率が、延伸方向と垂直な方向の屈折率よりも小さくなることをいう。負の配向複屈折を有することは、上記(数式1)で定義されるReの正負を持って判別可能であり、すなわち、Re<0の場合、負の配向複屈折を有すると判別することができる。負の配向複屈折を有する位相差フィルムのレターデーションとしては−20から−500nmであることが好ましい。
【0029】
本発明の位相差フィルムに用いる水溶性樹脂(A)として、ポリビニルアルコールを用いた場合、けん化度を調整することによって、逆波長分散性のフィルムまたは負の配向複屈折を有する位相差フィルムを作成することができる。
【0030】
次に、ポリビニルアルコールのけん化度を調整する方法について説明する。本発明に用いるポリビニルアルコールはポリ酢酸ビニルからのけん化によって得られる。けん化の程度はけん化度によって表される。けん化度とはポリ酢酸ビニルのアセテート部位が加水分解された割合を表す。本発明に用いるポリビニルアルコールのけん化度は特に制限されないが、けん化度が99モル%以上であれば、本発明の位相差フィルムは逆波長分散性を有するフィルムとなり、けん化度が99モル%未満であれば、負の配向複屈折を有するフィルムが得られる。入手容易性の観点から、負の配向複屈折を有するフィルムが求められる場合、けん化度は60モル%以上95モル%以下であることが好ましい。さらには70モル%以上90モル%以下であることが好ましい。
【0031】
次に本発明の可塑剤について述べる。本発明の位相差フィルムはガラス転移温度の制御、靭性付与などのために可塑剤を含有することもできる。本発明の位相差フィルムに用いることのできる可塑剤に関して水溶性であれば特に限定されない。可塑剤としてはグリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのグリコール類、ペンタエリスリトールなどの多価アルコール、エタノールアミンなどのアミノアルコールなどが挙げられる。グリセリンがさらに好ましい。可塑剤の添加量は、ポリマーの合計(正の配向複屈折を有する水溶性樹脂(A)と負の配向複屈折を有する水溶性樹脂(B)の合計)100重量部に対して0.5から50重量部が好ましく、5から30重量部であることがさらに好ましい。添加量が多すぎると、位相差発現性が低下し、少なすぎると、ガラス転移温度の制御、靭性付与などの効果が得られない。
【0032】
次に本発明に用いる延伸について述べる。本発明の「延伸」とは、フィルムを少なくとも1方向に引き伸ばすことを意味する。延伸により、フィルム中の分子が配向し、位相差フィルムとすることが可能である。延伸方法としては位相差フィルムを作製することができる方法であれば特に限定されるものではないが、例えば自由端1軸延伸、固定端1軸延伸、オーバーフィード延伸、2軸延伸、OPP等の熱収縮性フィルムによるフィルムの厚み方向への延伸(特許第2818983号公報記載)が挙げられる。これらの延伸方法は狙いの用途に応じて適切に選択される。延伸倍率は、所望とする複屈折および波長分散を得られる範囲であれば特に限定されないが、一般には1.01倍以上4.0倍以下である。
【0033】
延伸温度は、フィルムを延伸し得る範囲で適宜選択することができるが、一般にはフィルムのガラス転移温度Tgに対して、(Tg−30)℃以上、(Tg+50)℃以下であり、好ましくは(Tg−10)℃以上、(Tg+40)℃以下であり、さらに好ましくはTg以上、(Tg+30)℃以下である。延伸温度が低すぎると、延伸の際にフィルムが破断したり、白化する場合がある。また延伸温度が高すぎると、付与できる複屈折が十分でない場合や、フィルムが着色する場合がある。
【0034】
また本発明においては、ドープの劣化防止、消泡等の目的、および/または、フィルムの安定性、平滑性の向上等のために各種添加剤が好適に用いられる。劣化防止剤として、例えば、酸化による劣化を抑制する酸化防止剤、高温化での安定性を付与する熱安定剤、および/または紫外線による劣化を防止する紫外線吸収剤が使用され得る。劣化防止剤としてはリン酸エステル化合物、フェノール誘導体、エポキシ系化合物、アミン誘導体などが挙げられる。フェノール誘導体としてはオクチルフェノール、ペンタフェノン、ジアミノフェノールなどが挙げられる。アミン誘導体としてはジフェニルアミンなどが挙げられる。消泡剤、レベリング剤として、例えば、オクチルアルコールなどの長鎖脂肪族アルコール、ポリプロピレンオキサイド、ポリエチレンオキサイドなどのポリアルキレンオキサイド、またはこれらアルキレンオキサイドの共重合体、シリコンエマルジョンなどが挙げられる。
【0035】
本発明の位相差フィルムはソルベントキャスト法によって得られる。ソルベントキャスト法によりフィルム化する場合、樹脂および添加剤を水溶媒に溶解し、ドープを作製したのち、支持体に流延し、乾燥化してフィルムとする。また、ドープの調製に関しては樹脂のみを先に溶解した後、スタティックミキサー等を用いて添加剤を混合する方法を用いることもできる。
【0036】
ドープの好ましい粘度は1.0Pa・s以上、20.0Pa・s以下、さらに好ましくは1.5Pa・s以上、8.0Pa・s以下である。好ましい支持体としてはステンレス鋼のエンドレスベルト等の金属支持体やポリイミドフィルム、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム等のようなフィルム支持体等が挙げられる。またポリイミドや二軸延伸ポリエチレンテレフタレートなどのフィルムを支持体として用いる場合は、支持体とフィルムとの付着性を制御するために、支持体表面にコーティングや放電処理を施してもよい。詳細には、コーティングや放電処理により支持体と本発明の位相差フィルムを適度に剥離できる程度に付着性を高めることができる。
【0037】
またフィルムの残存水溶媒量が過度に大きいと、延伸して位相差フィルムとする際の位相差発現性に劣る場合があるため、支持体から剥離後、さらに乾燥することが望ましい。フィルムの乾燥は、フロート法、テンター法またはロール搬送法等によって搬送しながら乾燥することができ、あるいは長方形の枚葉のフィルムの向かい合う2辺を把持した状態で乾燥することもできる。
【0038】
本発明の位相差フィルムの厚みは特に限定されないが、10μmから300μmであることが好ましく、より好ましくは15μmから200μmであり、さらに好ましくは20μmから100μmである。フィルムの厚みが上記範囲を上回ると、ソルベントキャスト法による生産性が劣る可能性がある。またフィルム厚みが上記範囲を下回ると、フィルムのハンドリング性が劣るばかりでなく、延伸により十分な位相差を得られない傾向にある。
【0039】
さらに本発明の位相差フィルムにおいては波長550nmにおける面内複屈折(△Nxy)が1.0×10-4以上であることが好ましく、3.0×10-4以上であることがより好ましく、5.0×10-4以上であることがさらに好ましい。
【0040】
波長分散および複屈折は、延伸条件によって調整することができる。例えば延伸温度を低く、延伸倍率を高くすると、複屈折は大きくなる傾向にある。
【0041】
得られた位相差フィルムは、常法に従って、その少なくとも片面に透明保護層を設け、積層体とすることができる。本発明の位相差フィルムはその両面に透明保護層を設けることにより、耐久性に優れた位相差フィルムとして使用することができる。従来水溶性樹脂を位相差フィルムに使用すると吸湿性等の問題があり、耐久性が十分ではない場合があったが、保護層を設けることにより、実質上問題のない耐久性を確保することができる。水分との接触を避けるために、位相差フィルムの両面に透明保護層を設けることがより好ましい。透明保護層はポリマーによる塗布層として、または透明保護フィルムのラミネート層等として設けることができる。透明保護フィルムを形成する、透明ポリマーまたはフィルム材料としては、適宜な透明材料を用いうるが、透明性や機械的強度、安定性や水分遮断性などに優れるものが好ましく用いられる。前記透明フィルムを形成する材料としては例えばポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート等のポリエステル系ポリマー、二酢酸セルロースや三酢酸セルロース等のセルロース系ポリマー、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系ポリマー、ポリスチレンやアクリロニトリル・スチレン共重合体(AS樹脂)等のスチレン系ポリマー、ポリカーボネート系ポリマー等が挙げられる。またポリエチレン、ポリプロピレン、シクロオレフィン構造を有するポリオレフィン、エチレン・ポリプロピレン共重合体の如き、ポリオレフィン系ポリマー、塩化ビニル系ポリマー、ナイロンや芳香族ポリアミド等のアミド系ポリマー、イミド系ポリマー、スルホン系ポリマー、ポリエーテルスルホン系ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン系ポリマー、ポリフェニレンスルフィド系ポリマー、塩化ビニリデン系ポリマー、アリレート系ポリマー、エポキシ系ポリマー、あるいは前記ポリマーのブレンド物なども前記透明保護フィルムを形成するポリマーの例として挙げられる。透明保護層はアクリル系、ウレタン系、アクリルウレタン系、エポキシ系、シリコーン系等の熱硬化型、紫外線硬化型の樹脂の硬化層として形成することもできる。
【0042】
また、ラミネート層として透明保護層を設ける場合に、任意の適切な接着剤、または粘着剤を用いて行なわれ得る。接着剤または粘着剤の種類は、被着体すなわち、前記位相差フィルムと透明保護層の種類に応じて適宜選択され得る。接着剤の具体例としては、アクリル系、ビニルアルコール系、シリコーン系、ポリエステル系、ポリウレタン系、ポリエーテル系、イソシアネート系、ゴム系等の粘着剤が挙げられる。
【0043】
前記した位相差フィルムの実用に際しては、例えば位相差フィルムの片面または両面に粘着層を設けたものや、その粘着層を介して偏光フィルム、および/または、等方性の透明な樹脂層やガラス層等からなる保護層を接着積層したものなどの2層または3層以上の積層体からなる適宜な形態の光学部材として適用することもできる。また光学補償板とする際には、本発明の位相差フィルムを1枚のみ用いても良く、2枚以上用いても良い。さらに本発明の位相差フィルムとその他の光学補償層をさらに組み合わせて用いることもできる。本発明以外の光学補償層を用いる場合、補償効果の向上などを目的とし、その光学補償フィルムは特に限定されないが、例えばポリマーフィルムの一軸や二軸などによる延伸処理物、ディスコチック系やネマチック系等の液晶配向層、さらには、特開2003−344856号公報に記載の非液晶性ポリマーからなる複屈折層等を好適に用いることができる。
【0044】
偏光板として使用されるものは特に限定されず、適宜なものを用いることができる。偏光板は一般には偏光フィルム両面に透明保護層を有するものが広く用いられているが、偏光フィルムとしてはポリビニルアルコール系フィルムや部分ホルマール化ポリビニルアルコール系フィルム、エチレン・酢酸ビニル共重合体部分ケン化フィルムの如き親水性高分子フィルムにヨウ素および/または二色性染料を吸着させて延伸したもの、ポリビニルアルコールの脱水処理物やポリ塩化ビニルの脱塩酸処理物の如き、ポリエン配向フィルム等からなるもの等が挙げられる。
【0045】
偏光板、特に偏光フィルムはその片側又は両面に透明保護層を有するものであってもよい。透明保護層はポリマーの塗布層や保護フィルムの積層物などとして適宜に形成でき、その形成には透明性や機械的強度、熱安定性や水分遮断性に優れるポリマーなどが好ましく用いられる。その例としてはトリアセチルセルロース等のセルロース誘導体やポリエステル系樹脂、アセテート系樹脂、ポリエーテルサルホン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、あるいは、アクリル系、ウレタン系、アクリルウレタン系、エポキシ系、シリコーン系等の熱硬化型、ないし紫外線効果型の樹脂などが挙げられる。透明保護層は、微粒子の含有によりその表面が微細凸凹構造に形成されていてもよい。特に、トリアセチルセルロース等のセルロース誘導体を用いる場合は、接着性を高めるために、フィルム表面をケン化処理して用いることもできる。
【0046】
さらに前記した位相差フィルムを偏光フィルムと液晶セルの間に配置することで、液晶セルの有する複屈折等を補償することができ、液晶表示装置のコントラスト向上や色シフト低減、視野角拡大といった画質向上に寄与させることもできる。
【0047】
また本発明の位相差フィルム、または該位相差板を用いた偏光板は液晶表示装置などの各種画像表示装置などの構成部品として好ましく用いることができる。例えば液晶表示装置は、上記位相差フィルムなどを液晶セルの片側または両側に配置してなる透過型や反射型、あるいは透過・反射両用型等の従来に準じた適宜な構造とすることができる。したがって、液晶表示装置を形成する液晶セルは任意であり、例えば薄膜トランジスタ型に代表される単純マトリクス駆動型のものなどの適宜なタイプの液晶セルを用いたものであってもよい。また、液晶セルの両側に本発明の位相差フィルムを設ける場合、それらは同じものであってもよいし、異なる物であってもよい。さらに液晶表示装置の形成に際しては、例えばプリズムシートやレンズアレイシート、拡散板やバックライトなどの適宜な部品を適宜な位置に1層または2層以上配置することができる。
【実施例】
【0048】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(測定方法)本明細書中に記載の材料特性値等は、以下の評価法によって得られたものである。
【0049】
(1)レターデーション値の波長分散
フィルムの幅方向中央より50mm角のサンプルを切り出し、王子計測機器製自動複屈折計KOBRA‐WRにより、レターデーションの波長分散性を測定し、その測定値を元に装置付属のプログラムによりRe(450)、Re(550)、Re(630)を算出した。
【0050】
(2)レターデーション値の測定
フィルムの幅方向中央より50mm角のサンプルを切り出し、王子計測機器自動複屈折計KOBRA−WRにより、測定波長590nmにおけるレターデーションを測定した。
【0051】
(3)厚み
アンリツ製電子マイクロメーターにより測定した。
【0052】
(4)製膜性
PETフィルム上にフィルムを製膜した後、目視でフィルムのひび割れ、破れを確認した。ひび割れ、破れがあればX、なければ○とした。
【0053】
(5)ポリビニルアルコールの波長特性
20gのポリビニルアルコール(けん化度99.0%以上の日本合成化学工業株式会社製(NM―11))を水146gに90℃で溶解し、ドープを得た。得られたドープを厚み125μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ株式会社製ルミラー♯125S10)上に、クリアランス550μmでバーコーターを用いて流延し、90℃で20分間乾燥した。その後、ポリエチレンテレフタレートフィルムから剥離し、金属枠にポリイミドテープを用いて4辺を固定し、100℃で10分間、110℃で15分間乾燥し、厚みが約60μmのフィルムを得た。
【0054】
上記フィルムを、フィルムの流延方向20cm、幅方向5cmの長方形に切り出し、流延方向のチャック間距離が15cmとなるようチャック間に固定し、95℃の延伸温度で、130%延伸倍率にて、自由端一軸延伸を行い、位相差フィルムを得た。
【0055】
上記位相差フィルムは、Re(450)=213.0nm、Re(550)=212.0nmであり、Re(450)/Re(550)=1.00であった。
【0056】
(実施例1)
40gのポリビニルアルコール(けん化度99.0%以上の日本合成化学工業株式会社製(NM―11))(80重量%)を水293gに90℃で溶解し、水溶液を得た。この溶液を室温に戻し、50gのポリスチレンスルホン酸ナトリウム水溶液(固形分濃度20%、東ソー有機化学株式会社製 PS−50)(20重量%)を添加し、全体が均一になるまで攪拌し、ドープを得た。得られたドープを厚み125μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ株式会社製ルミラー♯125S10)上に、クリアランス550μmでバーコーターを用いて流延し、90℃で20分間乾燥した。その後、ポリエチレンテレフタレートフィルムから剥離し、金属枠にポリイミドテープを用いて4辺を固定し、100℃で10分間、110℃で15分間乾燥し、厚みが約60μmのフィルム1を得た。
【0057】
次にフィルム1を、フィルムの流延方向20cm、幅方向5cmの長方形に切り出し、流延方向のチャック間距離が15cmとなるようチャック間に固定し、表1に記載の延伸温度と延伸倍率にて、自由端一軸延伸を行い位相差フィルムを得た。
【0058】
(実施例2)
実施例1と同様のフィルム1を使用し、表1に記載の延伸温度と延伸倍率にて、自由端一軸延伸を行い位相差フィルムを得た。
【0059】
(実施例3)
18gのポリビニルアルコール(けん化度99.0%以上の日本合成化学工業株式会社製(NM―11))(80重量%)を水132gに90℃で溶解し、水溶液を得た。この溶液を室温に戻し、22.5gのポリスチレンスルホン酸ナトリウム水溶液(固形分濃度20%、東ソー有機化学株式会社製 PS−50)(20重量%)と4.5gのグリセリン(和光純薬工業株式会社製)(樹脂100重量部に対して、20重量部)を添加し、全体が均一になるまで攪拌し、ドープを得た。得られたドープを厚み125μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ株式会社製ルミラー♯125S10)上に、クリアランス550μmでバーコーターを用いて流延し、90℃で20分間乾燥した。その後、ポリエチレンテレフタレートフィルムから剥離し、金属枠にポリイミドテープを用いて4辺を固定し、100℃で10分間、110℃で15分間乾燥し、厚みが約60μmのフィルム2を得た。
【0060】
フィルム2を、フィルムの流延方向20cm、幅方向5cmの長方形に切り出し、流延方向のチャック間距離が15cmとなるようチャック間に固定し、表1に記載の延伸温度と延伸倍率にて、自由端一軸延伸を行い位相差フィルムを得た。
【0061】
(実施例4)
20gのポリビニルアルコール(けん化度99.0%以上の日本合成化学工業株式会社製(NM―11))(50重量%)を水146gに90℃で溶解し、水溶液を得た。この溶液を室温に戻し、100gのポリスチレンスルホン酸ナトリウム水溶液(固形分濃度20%、東ソー有機化学株式会社製 PS−50)(50重量%)と8gのグリセリン(和光純薬工業株式会社製)(樹脂100重量部に対して、20重量部)を添加し、全体が均一になるまで攪拌し、ドープを得た。得られたドープを厚み125μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ株式会社製ルミラー♯125S10)上に、クリアランス550μmでバーコーターを用いて流延し、90℃で20分間乾燥した。その後、ポリエチレンテレフタレートフィルムから剥離し、金属枠にポリイミドテープを用いて4辺を固定し、100℃で10分間、110℃で15分間乾燥し、厚みが約60μmのフィルム3を得た。
【0062】
フィルム3を、フィルムの流延方向20cm、幅方向5cmの長方形に切り出し、流延方向のチャック間距離が15cmとなるようチャック間に固定し、表1に記載の延伸温度と延伸倍率にて、自由端一軸延伸を行い位相差フィルムを得た。
【0063】
(実施例5)
実施例4と同様のフィルム3を使用し、表1に記載の延伸温度と延伸倍率にて、自由端一軸延伸を行い位相差フィルムを得た。
【0064】
(実施例6,7)
10gのポリビニルアルコール(日本合成化学社製、けん化度88モル%、製品名ゴーセノール、グレードGM14)を100gの蒸留水に溶解させた。ここに、50gのポリスチレンスルホン酸ナトリウム20%水溶液(東ソー有機化学社製、製品名ポリナス、グレードPS50)および、4gのグリセリン(和光純薬製)を加え、全体が均一になるまで十分攪拌した。得られた水溶液を厚み125μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ製、製品名ルミラー♯125S10)上に、クリアランス550μmでバーコーターを用いて流延し、90℃で20分間乾燥した。その後、ポリエチレンテレフタレートフィルムから剥離し、金属枠にポリイミドテープを用いて4辺を固定し、100℃で10分間、110℃で15分間乾燥し、厚みが約60μmのフィルム4を得た。
【0065】
次にフィルム4を、フィルムの流延方向20cm、幅方向5cmの長方形に切り出し、流延方向のチャック間距離が15cmとなるようチャック間に固定し、表2に記載の延伸温度と延伸倍率にて、自由端一軸延伸を行い位相差フィルムを得た。
【0066】
(実施例8,9)
10gのポリビニルアルコール(日本合成化学社製、けん化度78モル%、製品名ゴーセノール、グレードKM11)を100gの蒸留水に溶解させた。ここに、50gのポリスチレンスルホン酸ナトリウム20%水溶液(東ソー有機化学社製、製品名ポリナス、グレードPS50)および、4gのグリセリン(和光純薬製)を加え、全体が均一になるまで十分攪拌した。得られた水溶液を厚み125μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ製、製品名ルミラー♯125S10)上に、クリアランス550μmでバーコーターを用いて流延し、90℃で20分間乾燥した。その後、ポリエチレンテレフタレートフィルムから剥離し、金属枠にポリイミドテープを用いて4辺を固定し、100℃で10分間、110℃で15分間乾燥し、厚みが約60μmのフィルム5を得た。
【0067】
次にフィルム5を、フィルムの流延方向20cm、幅方向5cmの長方形に切り出し、流延方向のチャック間距離が15cmとなるようチャック間に固定し、表2に記載の延伸温度と延伸倍率にて、自由端一軸延伸を行い位相差フィルムを得た。
【0068】
(比較例1)
測定法の(5)ポリビニルアルコールの波長特性で記載したポリビニルアルコール単独のフィルムをフィルム6とし、比較例1とした。
【0069】
(比較例2)
ポリスチレンスルホン酸ナトリウム水溶液(固形分濃度20%、東ソー有機化学株式会社製 PS−50)(100重量%)を厚み125μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ株式会社製ルミラー♯125S10)上に、クリアランス550μmでバーコーターを用いて流延し、90℃で20分間乾燥した。得られたフィルム7はポリエチレンテレフタレートフィルムから剥離することができなかった。
【0070】
実施例および、比較例にて作製の位相差フィルムの延伸条件、得られたフィルムの光学特性について表1,2にまとめた。表1中、d[μm]は延伸後のフィルム厚みを表す。実施例1から5で得られた位相差フィルムは逆波長分散特性を示し、実施例6から9で得られた位相差フィルムは負の配向複屈折を有することがわかる。
【0071】
【表1】

【0072】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)1.00≦Re(450)/Re(550)≦1.05を満たす正の配向複屈折を有する水溶性樹脂と、
(B)負の配向複屈折を持つ水溶性樹脂、
とを含むことを特徴とする位相差フィルム。
(ここで、Re(450)、Re(550)は、それぞれ波長450nm、550nmで測定したレターデーション値を示す。)
【請求項2】
正の配向複屈折を持つ水溶性樹脂(A)が、20から90重量%と、負の配向複屈折を持つ水溶性樹脂(B)が、80から10重量%とを含むことを特徴とする請求項1に記載の位相差フィルム。
【請求項3】
正の配向複屈折を持つ水溶性樹脂(A)がポリビニルアルコール系樹脂であり、負の配向複屈折を持つ水溶性の樹脂(B)がスチレン系樹脂であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の位相差フィルム。
【請求項4】
ポリビニルアルコール系樹脂がポリビニルアルコールであり、スチレン系樹脂がポリスチレンスルホン酸塩であることを特徴とする請求項3に記載の位相差フィルム。
【請求項5】
水溶性の可塑剤を含有することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の位相差フィルム。
【請求項6】
ポリビニルアルコールがけん化度99モル%以上のポリビニルアルコールである請求項4記載の位相差フィルム。
【請求項7】
ポリビニルアルコールがけん化度99モル%未満のポリビニルアルコールである請求項4記載の位相差フィルム。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の位相差フィルムに少なくとも一種類の透明保護層を設置したことを特徴とする積層体。
【請求項9】
請求項1から7のいずれか1項に記載の位相差フィルムを使用したことを特徴とする偏光板。
【請求項10】
請求項8に記載の積層体を使用したことを特徴とする偏光板。
【請求項11】
請求項9記載の偏光板を使用したことを特徴とする画像表示装置。

【公開番号】特開2009−282482(P2009−282482A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−206520(P2008−206520)
【出願日】平成20年8月11日(2008.8.11)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】