説明

位相差フィルム、複合偏光板、偏光板および液晶表示装置

【課題】 本発明は、高いレターデーションを有し、幅方向に平行且つ均一な光学軸を形成することにより、コントラストが良好で視角特性に優れ、液晶表示装置の表示ムラを解消し、画像表示を安定させる光学補償性能を有する位相差フィルムを提供する。
【解決手段】 非晶性樹脂(A)と、非晶性樹脂(A)に対し実質的に相分離形態を呈する熱可塑性エラストマー系樹脂(B)よりなるフィルムを、長手方向もしくは幅方向の少なくとも一方向に延伸して得られる位相差フィルムであって、フィルム幅方向に沿って測定される遅相軸方向の、任意の基準軸とのズレ角度で示される遅相軸角度θ(°)の変動において、下記式(1)で定義される光軸ムラΔθが±0.03°/25mm以下であり、かつ遅相軸角度θの標準偏差が0.15°以下であることを特徴とする位相差フィルム。
Δθ=(θn+1−θ)/(Ln+1−L)・・・(1)
(式中、n:フィルム幅方向の遅相軸角度測定順番(自然数)、θ:n番目の遅相軸角度測定値(°)、L:遅相軸角度の測定順番がn番目の測定位置のフィルム端部からの距離(mm)、Ln+1−L=25(mm))

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示装置に使用される位相差フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示装置が広く用いられている。液晶表示装置は、液晶分子を封入した電極が組み込まれた液晶セルに、位相差フィルムおよび偏光板が貼り合わされて構成される。液晶表示装置の動作方式として、TN(Twisted Nematic)モード,STN(Super Twisted Nematic)モード,VA(Vertical Alignment)モード,IPS(In−Plane Switching)モード,OCB(Optically Compensated Bend)モード等、主に液晶分子の配向形態によって定義される様々な方式が提案されている。これらは何れも液晶分子のもつ電気光学特性を利用して表示を行うものであるが、偏光板を介して見るディスプレイの画像品位を高める目的で、多様な機能を有する光学フィルムが用いられる。この種の光学フィルムは透明性、光学補償性をはじめとして、用途に応じて種々の光学特性が必要とされている。中でも、液晶が本来有する複屈折性に起因する光学的な歪や、視覚方向による変調のため表示が着色するなどの視野角依存性を解消するため、その光学異方性を応用した位相差フィルムは広く採用されており、一般に550nmの光線の入光の際のレターデーション(位相差)値が20〜800nmの範囲のものが使用されている。
【0003】
上記液晶表示方式の中で、特に液晶テレビやモニターといった特に大画面用途において、広視野角と高コントラスト比といった特徴的な利点を有する、VA方式(垂直配向型液晶)が主流となりつつある。VA液晶はその名の意味する通り液晶が垂直配向した構造をとる為、その光学補償に供される位相差フィルムとしては、屈折率楕円体がパネル水平方向に長軸を有し扁平で、固有複屈折が正値を取る、いわゆる正位相差板が好適である。当該フィルムの特性は、後述するNz係数が1.0以上のもので定義することが出来、好ましくは1.3以上のものである。
【0004】
従来からこのような二軸性位相差フィルムの製造方法は種々提案されてきているが、長手方向(縦)一軸延伸や幅方向(横)一軸延伸のみによる一軸延伸フィルムに限られず、熱可塑性樹脂フィルムを縦ないしは横に延伸した後に、前段の延伸方向と直交する方向に延伸をする、逐次二軸延伸法も利用されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
このような正位相差板に供される樹脂には、分子主鎖の配向方向と平行する方向に屈折率が増大する性質が要求される。正の固有複屈折を示す熱可塑性樹脂としては、後述の負の固有屈折率を有する樹脂以外、ほぼ全ての熱可塑性樹脂が該当し、可視光に対する透明性や実用性ならびに加工性に鑑みて、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルスルフォン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、アセチルセルロース系樹脂、環状オレフィン系樹脂が例示出来る。なかでも環状オレフィン系樹脂は高い光線透過率をはじめとした光学的特性に優れている。
【0006】
一方、IPS方式(横電界方式液晶)は、液晶分子の配向をパネル基板に対して、平行な水平面内で変化させ透過光を制御することにより、表示機能を発揮するよう構成されている。IPS方式はその動作原理上、特に広視野角でかつ色調変化が小さい特徴を持ち、その表示特性を生かして液晶テレビや携帯端末モニター等に広く利用されている。またOCB方式は、液晶分子がベンド配向と呼ばれるパネル基板に対して傾斜した配向形態を取ることにより、画像表示を制御している。
【0007】
IPS方式およびOCB方式は、液晶分子がパネル基板と水平もしくは傾斜配向した構造を取る為、その光学補償に供される位相差フィルムとしては、屈折率楕円体がパネル法線方向に長軸を有し固有複屈折が負値を取る、いわゆる負位相差板が好適である。当該フィルムの特性は、後述するNz係数が負のものとして定義することが出来る。
【0008】
このような負位相差板に供される材料には、分子主鎖の配向方向と直交する方向に屈折率が増大する性質が要求される。このような負の固有複屈折を示す熱可塑性樹脂材料として、アクリル系樹脂,スチレン系樹脂およびフルオレン系樹脂は公知であり、特にアクリル系樹脂は、高い光線透過率をはじめとした光学的特性に優れ、一般に光学部材として多様な用途に利用されている。また当該樹脂で組成された無定形シートを延伸することにより、分子主鎖の配向方向と直交する厚み方向の屈折率nzが大きくなるような光学異方性を発揮し、上記の負位相差板として利用することが可能となる。
【0009】
一方位相差フィルムは、一般に、樹脂フィルムを少なくとも一方向に延伸して製造されているが、フィルム温度や延伸倍率ならびに延伸速度が不安定、不適切であると、所望のレターデーション(位相差)値を有する位相差フィルムが得られない、樹脂の分子主鎖が一定方向に配向せず遅相軸がばらつく、その結果表示むらが発生する等の欠点が発生するため、種々の延伸方法が研究されてきているが、特に遅相軸の均一性は、視野角特性をはじめとする光学補償性能に大きな影響を与える為、その制御技術が検討されている。
【0010】
例えば、熱可塑性樹脂フィルムの両端部をクリップで把持し、熱可塑性樹脂のガラス転移温度付近の温度環境において、クリップの長手方向の速度を変化し、クリップとクリップとの長手方向の間隔を次第に長くすることにより、分子主鎖を長手方向に延伸して位相差フィルムを得るテンター延伸方法は、延伸距離が短くフィルムとの直接接触によらない手法である為制御し易く、外観欠点が発生し難く延伸ムラが小さい等の長所を有しているが、テンター延伸方法特有の現象として、熱可塑性樹脂フィルムの中心部の延伸が、その端部に対して同期せず、先行又は遅延し、その結果として幅方向の熱可塑性樹脂の分子主鎖配向が弓なりの分布をとるという、遅相軸の不均一性を生じさせる、いわゆるボーイング現象が知られている。
【0011】
ボーイング現象は、熱可塑性樹脂の分子主鎖を一定方向に配向し、均一な遅相軸を必要とする位相差フィルムを製造する上では、極めて不都合な現象である。一般に延伸後、得られた延伸フィルムを加熱する、いわゆる熱緩和工程を設けることで、一旦配向したフィルムをアニール処理し、幅方向の残留歪みを緩和することで制御しているが、高い精度の遅相軸均一性を追求するに当っては、ほぼその技術は限界に達している。一方、拡幅軌跡のパターンをはじめとして、延伸工程における条件の検討がなされ、ボーイング発生を抑制する試みが知られている。例えば、熱可塑性樹脂フィルムを、逐次二軸延伸または横延伸する場合に、横延伸工程を多段化することを特徴とする光学補償フィルムの製造方法であって、横延伸工程で用いる横延伸機のレール開き角が5度以内である光学補償フィルムの製造方法が提案されている(特許文献2参照)。
【0012】
しかしながら、上記手法のようないわゆる緩延伸軌跡では、単位時間相当の延伸変形を高く設定することが不可能となる。このような制約は、高い延伸歪み速度を付与し、フィルム構造に高い内部応力を残留させることによって発現する位相差特性に対して、極めて不利となる。従って、レターデーション値は十分得られず、位相差フィルム本来の機能を著しく損なうことになる。また上記手法では、横延伸機のレール開き角が5度以内であるから、高延伸倍率の光学補償フィルムを得るには、長い拡幅工程が必要になり、結果として長い加熱炉が必要となり実用的ではない。このように、主に設備面から対策を取る必要があり、かつ様々な制約下での延伸を強いられることから、ボーイング現象対策は必ずしも容易ではない。
【0013】
一方、分子配向が幅方向もしくは長手方向の何れに対しても平行とならず、斜め方向に分子配向する、いわゆる斜め配向が認められることがある。具体的には、幅方向の分子配向角、すなわち遅相軸角度の平均値がゼロにならず、一定の大きさを持つことで確認することが出来る。したがって、本現象が顕在化すれば、ボーイング現象と同様に遅相軸の不均一性に大きな悪影響を与えることになる。当該の斜め配向は、フィルム長手方向に向かって、フィルムの加熱温度や時間、実質変形倍率、使用したフィルムの厚み品質等、フィルム中心の左右で延伸履歴が異なることに起因する。このような遅相軸角度の平均値を、極力小さくする試みもテンター式延伸では行われている。例えば、左右クリップ速度を独立して制御可能なテンター式延伸機を使用し、斜め方向の分子配向を修正し、遅相軸角度の平均を極小値に調整する製造方法が提案されている(特許文献3参照)。しかしながらこのような手段は、ボーイング制御手法と同様に、やはり設備面の制約が大きく、また連続生産時の制御は容易でなく、物性調整による基材フィルムのロスが発生するなど、実用的とは言えない。
【0014】
更に、上記ボーイング現象を制御してほぼ湾曲配向を修正し、かつ斜め配向現象が事実上解消したとしても、フィルム面の局部において、配向角が大きく変化することによって、遅相軸がその品質レベルから局部的に逸脱するという現象がしばしば認められる。このようないわゆる光軸ムラは、時に上記ボーイング現象や斜め配向現象にも増して、遅相軸精度に対して大きな悪影響を与えることがある。上述したように、ボーイング現象や斜め配向は特に設備最適化や延伸条件操作の精緻化によって一定の良化を期待できるが、光軸ムラは、主に樹脂が本来有する素材特性や、延伸に供する無配向フィルムの厚み精度等に起因するものであり、かつその発生形態に規則性を見出すのが困難であるなど、ボーイングや斜め配向よりもその制御および改善は困難である。なお、厚み精度の向上に関しては、押出製膜技術や溶液製膜技術等の公知の従来技術では限界があり、光軸ムラに安定して対処出来る延伸技術は、未だに確立されていない。
【0015】
以上のように、遅相軸精度を劣化させる要因を全て抑制し、光学的な物性の均一性を確保して、高い光学補償性能を有する位相差フィルムを得ることは困難であった。
【0016】
【特許文献1】特開2002−148438号公報(特に、従来技術の欄)
【特許文献2】特開2002−148437号公報
【特許文献3】特開2006−256064号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、上記背景技術に鑑みてなされたものであり、位相差フィルムの生産および品質管理において、高い遅相軸均一性と、光学補償部材として適当な正面レターデーションおよび二軸性を有し、液晶表示装置の表示画像を高品位に保つことが可能な位相差フィルムを提供することを目的とする。
【0018】
上記課題に対し鋭意検討した結果、フィルムの局部で大きく変化する遅相軸角度の精度悪化が、延伸応力や収縮応力をはじめとした、延伸工程中でフィルムに生じる内部応力の、局部への過度の集中や疎密によるものであることを見出し、更にフィルム中の極めて微小な部分にかかる応力を均一にする手法として、位相差フィルムの主構成樹脂に、特定の高分子素材を添加し複合材料フィルムとすることで、光軸ムラを低減し、高い遅相軸精度が得られることを見出して本発明に至ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
すなわち本発明の位相差フィルムは、非晶性樹脂(A)と、非晶性樹脂(A)に対し実質的に相分離形態を呈する熱可塑性エラストマー系樹脂(B)よりなるフィルムを、長手方向もしくは幅方向の少なくとも一方向に延伸して得られる位相差フィルムであって、フィルム幅方向に沿って測定される遅相軸方向の、任意の基準軸とのズレ角度で示される遅相軸角度θ(°)の変動において、下記式(1)で定義される光軸ムラΔθが±0.03°/25mm以下であり、かつ遅相軸角度θの標準偏差が0.15°以下であることを特徴とする位相差フィルム。
Δθ=(θn+1−θ)/(Ln+1−L)・・・(1)
(式中、n:フィルム幅方向の遅相軸角度測定順番(自然数)、θ:n番目の遅相軸角度測定値(°)、L:遅相軸角度の測定順番がn番目の測定位置のフィルム端部からの距離(mm)、Ln+1−L=25(mm))
R0=(nx−ny)×d・・・(2)
Nz=(nx−nz)/(nx−ny)・・・(3)
(式中、nx:フィルム面内最大屈折率、ny:フィルム面内のnx方向と直交する方向の屈折率、nz:フィルム厚み方向の屈折率、d:位相差フィルムの厚み)
【0020】
本発明で使用される非晶性樹脂(A)とは、透明性に優れ耐熱性及び液晶とのマッチング性が良く、固有複屈折の値が小さく、光弾性係数が小さいこと等、光学部材として有用な特性を具備し、かつ実質的に結晶性を有しない樹脂であれば特に限定されないが、例えば、分子主鎖あるいは側鎖に脂環式炭化水素構造を有する環状オレフィン系樹脂、マレイミド構造を有するマレイミド系樹脂や、分子側鎖にアクリル基およびその誘導基を有するアクリル系樹脂を本発明に適用すると優れた効果が得られる。
【0021】
上記環状オレフィン系樹脂の一種であるノルボルネン系樹脂は、従来より光学用材料として検討されている樹脂であって、例えば、ノルボルネン系モノマーの開環(共)重合体、ノルボルネン系モノマーとオレフィン系モノマーとの付加共重合体、ノルボルネン系モノマー同士の付加共重合体及びこれらの誘導体等が挙げられる。これらノルボルネン系樹脂は単独で使用されてもよいし、2種以上が併用されてもよい。また、ノルボルネン系樹脂のうち、必然的に分子内に炭素−炭素不飽和二重結合が残留する開環(共)重合体或いは使用するモノマー種によっては分子内に炭素−炭素不飽和二重結合が残留する付加(共)重合体を採用する場合は、耐候性の観点から水素添加によって飽和されていることが望ましい。
【0022】
上記ノルボルネン系樹脂を構成するノルボルネン系モノマーは、ノルボルネン環を有するモノマーであれば、特に限定されず、例えば、ノルボルネン、ノルボルナジエン等の2環体;ジシクロペンタジエン、ジヒドロキシペンタジエン等の3環体;テトラシクロドデセン等の4環体;シクロペンタジエン3量体等の5環体、テトラシクロペンタジエン等の7環体;これらのメチル、エチル、プロピル、ブチル等のアルキル、ビニル等のアルケニル、エチリデン等のアルキリデン、フェニル、トリル、ナフチル等のアリール等の置換体;更に、これらのエステル基、エーテル基、シアノ基、ハロゲン基、アルコキシカルボニル基、ピリジル基、水酸基、カルボン酸基、アミノ基、無水酸基、シリル基、エポキシ基、アクリル基、メタクリル基等の炭素及び水素以外の元素を含有する基、所謂極性基を有する置換体等が挙げられる。
【0023】
これらのノルボルネン系モノマーの中で、入手が容易であり、反応性に優れ、得られる位相差フィルムの耐熱性が優れたものとなるので、3環体以上の多環ノルボルネン系モノマーが好ましく、3環体、4環体及び5環体のノルボルネン系モノマーがより好ましい。なお、ノルボルネン系モノマーは単独で使用されてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0024】
上記α−オレフィン系モノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン等が挙げられ、共重合性の高い炭素数が2〜10のα−オレフィン系モノマーが好ましく、より好ましくはエチレンである。他のα−オレフィン系モノマーをノルボルネン系モノマーと共重合させる場合もエチレンが存在すると共重合性が高くなるので好ましい。
【0025】
上記ノルボルネン系樹脂の重量平均分子量は、小さくなると得られた位相差フィルムの機械的強度が低下し、大きくなるとフィルムの成形性に支障を来すことがあるので、テトラヒドロフラン溶媒又はシクロヘキサン溶媒によるGPCで測定し、10000〜000000が好ましく、より好ましくは30000〜70000である。
【0026】
上記環状オレフィン系樹脂のガラス転移温度は、光学特性やその他の実用物性の耐久性に影響を与えるので重要である。液晶表示装置実装後に、位相差フィルムが曝される熱環境を考慮すると、80℃以上が好ましく、100℃以上が更に好ましい。
【0027】
上記マレイミド系樹脂は、従来より光学用途材料に検討されている樹脂であって、例えば、例えば、下記構成成分(1)と構成成分(2)からなるマレイミド−オレフィン共重合体が挙げられ、マレイミド類とオレフィン類とのラジカル共重合反応により得ることができる。
【0028】
【化1】

【0029】
【化2】

【0030】
構成成分(1)を与える化合物としては、例えば、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−n−プロピルマレイミド、N−i−プロピルマレイミド、N−n−ブチルマレイミド、N−i−ブチルマレイミド、N−s−ブチルマレイミド、N−t−ブチルマレイミド、N−n−ペンチルマレイミド、N−n−ヘキシルマレイミド、N−n−ヘプチルマレイミド、N−n−オクチルマレイミド、N−ラウリルマレイミド、N−ステアリルマレイミド、N−シクロプロピルマレイミド、N−シクロブチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−(2−メチルフェニル)マレイミド、N−(2−エチルフェニル)マレイミド、N−(2−イソプロピルフェニル)マレイミド、N−(3−メチルフェニル)マレイミド、N−(3−エチルフェニル)マレイミド、N−(4−メチルフェニル)マレイミド、N−(4−エチルフェニル)マレイミド、N−(2,6−ジメチルフェニル)マレイミド、N−(2,6−ジエチルフェニル)マレイミド、N−(2,6−ジイソプロピルフェニル)マレイミド、N−(2,4,6−トリメチルフェニル)マレイミド、N−カルボキシフェニルマレイミド、N−(2−クロロフェニル)マレイミド、N−(2,6−ジクロロフェニル)マレイミド、N−(2−ブロモフェニル)マレイミド、N−(パーブロモフェニル)マレイミド、N−(2,4−ジメチルフェニル)マレイミド、パラトリルマレイミド等のN−置換マレイミド類が挙げられる。なかでも、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−イソプロピルマレイミド又はN−シクロヘキシルマレイミドが好適である。これらの重合性モノマーは単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0031】
構成成分(2)を与える化合物としては、イソブテン、2−メチル−1−ブテン、2−メチル−1−ペンテン、2−メチル−1−ヘキセン、1−メチル−1−ヘプテン、1−イソオクテン、2−メチル−1−オクテン、2−エチル−1−ペンテン、2−メチル−2−ブテン、2−メチル−2−ペンテン、2−メチル−2−ヘキセン等のオレフィン類が例示でき、このうち耐熱性、機械特性及び透明性の点から特にイソブテンが好ましい。また、これら化合物は1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。構成成分(1)の含有量は共重合体全体の30〜70モル%が好ましい。得られるマレイミド系共重合体樹脂を位相差フィルムとするに際して、構成成分(1)の含有量を30モル%以下とすると、充分な耐熱性や透明性を発揮できないことがあり、70モル%以上とすると、成形加工性が低下する。40〜60モル%がより好ましい。
【0032】
これらモノマーの重合には公知の重合方法、例えば塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、又は乳化重合法のいずれもが採用可能である。得られるフィルムの透明性、色調の点から特に沈殿重合法が好ましい。
【0033】
上記マレイミド−オレフィン共重合体は、無水マレイン酸とオレフィン類との共重合により得られる樹脂をアンモニア又はアルキルアミンを用いて、後アミド化することによっても得ることができる。
【0034】
上記マレイミド系樹脂のガラス転移温度は、上記アクリル系樹脂と同様に、光学特性やその他の実用物性の耐久性に影響を与えるものであり重要である。同様に80℃以上が好ましく、100℃以上が更に好ましい。
【0035】
上記マレイミド系樹脂の重量平均分子量は特に制限されないが、シート成形性や延伸性及び得られたフィルムの位相差フィルムとしての品位を勘案すると、テトラヒドロフラン溶媒によるGPCで測定し、好ましくは1000〜500000程度である。
【0036】
上記アクリル系樹脂は、従来より光学用途フィルムに使用されている樹脂であって、主
に(メタ)アクリル酸エステル系単量体を単独重合ないしは共重合することにより得られる。上記(メタ)アクリル酸エステル系単量体としては、例えば、一般式CH=C(R)COO−R{式中、Rは、水素原子又はメチル基を示し(アクリル酸エステルの場合は水素原子を示し、メタクリル酸エステルの場合はメチル基を示す)、Rは、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、及び、ハロゲン、アミン、エーテル等の官能基を含む炭化水素基の中から選択される1価の基を示す}で表されるものが好ましい。
【0037】
上記(メタ)アクリル酸エステル系単量体としては特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸sec−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸イソアミル、(メタ)アクリル酸n−へキシル、(メタ)アクリル酸シクロへキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸n−トリデシル、(メタ)アクリル酸ミリスチル、(メタ)アクリル酸セチル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸アリル、(メタ)アクリル酸ビニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸2−ナフチル、(メタ)アクリル酸2,4,6−トリクロロフェニル、(メタ)アクリル酸2,4,6−トリブロモフェニル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸2−メトキシエチル、(メタ)アクリル酸2−エトキシエチル、(メタ)アクリル酸ジエチレングリコールモノメチルエーテル、(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、(メタ)アクリル酸ポリプロピレングリコールモノメチルエーテル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルオリル、(メタ)アクリル酸2,3−ジブロモプロピル、(メタ)アクリル酸2−クロロエチル、(メタ)アクリル酸2,2,2−トリフルオロエチル、(メタ)アクリル酸ヘキサフルオロイソプロピル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸3−トリメトキシシリルプロピル、(メタ)アクリル酸2−ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸2−ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸t−ブチルアミノエチル、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、(無水)マレイン酸、フマル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルコハク酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエイチルヘキサヒドロフタル酸、ネオペンチルジ(メタ)アクリレート、ジメチロルトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート等のアクリル、二官能エポキシ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパンテトラアクリレート、メタ)アクリロニトリル、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム、N−ビニルラウリロラクタム、(メタ)アクリルアミド、ジメチル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、PEG#200ジ(メタ)アクリレート、PEG#400ジ(メタ)アクリレート、PEG#600ジ(メタ)アクリレート、多官能ウレタンアクリレート等が挙げられる。これら一連の(メタ)アクリル酸エステル単量体は、単独で用いられてもよいし、二種以上が併用され共重合体としてもよい。なお本発明において、(メタ)アクリル とは、アクリル 又はメタクリルの何れか一方或いは双方を意味する。
【0038】
更に、上記単量体組成物中には、(メタ)アクリル酸エステル単量体以外にこの(メタ)アクリル酸エステル単量体と共重合可能なラジカル重合性単量体として、極性基を有するビニル単量体が含有されていてもよく、このような単量体としては、例えば無水マレイン酸、スチレンなどが挙げられ、単独で用いられても良いし、二種以上が併用されても良い。
【0039】
上記アクリル系樹脂は、種々の方法で架橋変性することにより耐摩耗性、耐熱性を向上させたりすることができる。架橋の方法としては特に限定されず、例えば、所定量の(メタ)アクリル 酸エステル系単量体に架橋助剤を添加して、重合する方法等が挙げられる。上記架橋助剤としては特に限定されず、例えば、過酸化ベンゾイルなどのラジカル発生剤や、ジビニルベンゼン、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸トリアリルエステル等の多官能性モノマー等が挙げられる。これらの架橋助剤は、単独で用いられても良いし、2種類以上が併用されても良い。
【0040】
上記アクリル系樹脂の重合に供される、(メタ)アクリル酸エステル系単量体の含有量は特に限定されないが、重合体全体の5〜99モル%が好ましく、30〜90モル%がより好ましい。
【0041】
上記アクリル系樹脂の重合には、公知のラジカル重合の手法、例えば塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、又は乳化重合法のいずれも選択可能である。重合プロセス上の利得や重合樹脂およびフィルム品位の観点からは、溶液重合法および塊状重合法が好ましい。
【0042】
上記アクリル系樹脂のガラス転移温度は、光学特性やその他の実用物性の耐久性に影響を与えるので重要である。液晶表示装置実装後に、位相差フィルムが曝される熱環境を考慮すると、80℃以上が好ましく、100℃以上が更に好ましい。
【0043】
上記アクリル系樹脂の重量平均分子量は特に制限されないが、シート成形性や延伸性、および及び得られたフィルムの位相差フィルムとしての品位を勘案すると、好ましくは10000〜1000000、更に好ましくは50000〜500000である。なお本発明における重量平均分子量とは、テトラヒドロフラン溶媒にてゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって測定される、ポリスチレン換算分子量により定義される。
【0044】
なお、ガラス転移温度Tgは示差走査熱量計(TA Instruments社製、商品名「DSC2920 Modulated DSC」)を用い、以下の温度プログラム条件において、最終昇温時のガラス転移温度を本発明のガラス転移温度として定義する。
【0045】
(温度プログラム条件)
室温から50℃までを10℃/分で昇温して5分間等温保持、50℃から200℃までを10℃/分で昇温して200℃で5分間保持、200℃から−50℃までを10℃/分で降温して−50℃で5分間保持、−50℃から200℃までを10℃/分で昇温して200分で5分間保持。
【0046】
上記熱可塑性エラストマー系樹脂(B)の重量平均分子量は特に制限されないが、シート成形性や延伸性、および及び得られたフィルムの位相差フィルムとしての品位を勘案すると、テトラヒドロフラン溶媒によるGPCで測定し、好ましくは5000〜500000、更に好ましくは10000〜300000である。
【0047】
本発明における位相差フィルムは、非晶性樹脂(A)と熱可塑性エラストマー系樹脂(B)は実質的に相分離形態を呈し、熱可塑性エラストマー系樹脂(B)は非晶性樹脂(A)と相溶せず、一定のドメイン構造を保持しながらマトリクス相である非晶性樹脂(A)に分散していることが好ましい。非晶性樹脂(A)と熱可塑性エラストマー系樹脂(B)の溶融混練後の微細構造は、非晶性樹脂(A)が連続相としてマトリクスを成し、熱可塑性エラストマー系樹脂(B)は、その連続相中に島構造を形成しドメインを成し、不連続相としてマトリクス中に分散する。
【0048】
非晶性樹脂(A)よりなるマトリクス相に分散している熱可塑性エラストマー系樹脂(B)のドメインサイズは特に限定されないが、ドメイン長軸方向サイズをドメイン短軸サイズで除したアスペクト比は、1〜50であることが好ましく、ドメイン長軸サイズは1〜10μmであることが好ましい。アスペクト比が50以上となると、分子配向の主軸方向への引裂伝播抵抗性が低下し、フィルム搬送時の切断や、分子配向主軸に沿ってフィルムが座屈し易くなるなど、主に機械物性の面から好ましくない。またドメイン長軸サイズが1μmを下回ると、本発明の主旨である光軸ムラは所定の品位を得られず、10μmを上回ると透明性が損なわれ光学補償フィルムとしての用を成さなくなる。
【0049】
なお非晶性樹脂(A)よりなるマトリクス相中に分散した熱可塑性エラストマー系樹脂(B)のドメイン分散状態の評価は、上記位相差フィルムを四酸化ルテニウム等により染色した後、ミクロトームを用いて押出成形時の長手方向と幅方向に約0.05μmの厚さにスライスして、それぞれの断面を透過型電子顕微鏡(日本電子社製、JEM−1200EXII)を用いて観察し、写真撮影を行った。この写真をもとに、80μm×100μmの断面積における、熱可塑性エラストマー系樹脂(B)よりなるドメインの平均分散径及びアスペクト比を測定した。
【0050】
本発明における非晶性樹脂(A)は、光弾性係数が2.0×10−11Pa−1以下であることが好ましい。本発明における位相差フィルムを偏光子保護フィルムとして用いた場合、偏光板の収縮応力、偏光板への貼合時の歪み、ディスプレイへの組込時の歪みによる応力等、種々の外力がかかり、当該位相差フィルム内部に応力が発生する。とりわけ、高温高湿環境下においては、偏光板の収縮応力は大きい。光弾性係数とは、下記式(4)により定義されるものであり、フィルム内部に発生した応力に対する複屈折の変化を表す値である。
C=Δn/σ・・・(4)
(式中、C:光弾性係数(Pa-1)、Δn:発現複屈折、σ:フィルム内部応力(Pa))
即ち、光弾性係数が小さいほど、外力による複屈折率の変化量が小さいものになる。光弾性係数が2.0×10−11Pa−1を超えると、外力による変形により光学性能が大きく変化するため、光学フィルムの用途には用いることが困難となる。より好ましくは1.0×10−11Pa−1以下である。
【0051】
上記非晶性樹脂(A)と熱可塑性エラストマー系樹脂(B)とは、屈折率の差が0.2以下であることが好ましい。0.2を超えると、得られる第1の本発明の熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂フィルムの透明性、残留位相差等が悪化したり、光学的な歪み等を生じやすくなったりすることがある。より好ましくは0.1以下、更に好ましくは0.05以下、特に好ましくは0.03以下である。
【0052】
上記重合体組成物中の非晶性樹脂(A)の含有率は少なくとも60重量%以上であることが好ましい。60重量%未満であると透明性および耐熱性が低下する傾向があり好ましくない。熱可塑性エラストマー系樹脂(B)を添加する場合の含有率は、5〜40重量%であることが好ましい。5重量%未満であると、光軸ムラを低減して遅相軸精度を向上する効果を得にくくなり、40重量%を超えても前記効果が飽和する一方、フィルム白化による外観不良が発生し、本発明位相差フィルムの光学特性を劣化させ、その商品価値は著しく低下することになる。また熱可塑性エラストマー系樹脂(B)を40重量%以上含有すると、シート化する際のダイスウェルによる製膜不良や幅方向のフィルム厚み不良が顕著となるなど経済的にも好ましくない。
【0053】
上記非晶性樹脂(A)および熱可塑性エラストマー系樹脂(B)には、本発明の目的を阻害しない範囲で必要に応じて、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2−(1−メチルシクロヘキシル)−4,6,ジメチルフェノール、2,2−メチレン−ビス−(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、トリス(ジ−ノニルフェニルホスファイト)等の酸化防止剤;p−t−ブチルフェニルサリシレート、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシ−ベンゾフェノン、2−(2’−ジヒドロキシ−4’−m−オクトキシフェニル)ベンゾトリアゾール等の紫外線吸収剤;パラフィンフェノス、硬化油等の滑剤;ステアロアジトプロピルジメチル−β−ヒドロキシエチルアンモニウムトレート等の帯電防止剤等を含有してもよい。
【0054】
本発明の位相差フィルムに用いる実質的に無配向の原反フィルムの製造方法は、特に限定されるものではなく、例えば、非晶性樹脂(A)ならびに熱可塑性エラストマー系樹脂(B)を混合した原料樹脂を押出機に供給して溶融、混練し、押出機の先端に取り付けられた金型からフィルム状に押出して、静電印加キャスト法、タッチロール法、あるいはエアーナイフキャスト法により、冷却した回転ドラム上で冷却固化して長尺の実質的に無配向の非晶性樹脂フィルムを成膜する溶融押出法、非晶性樹脂(A)ならびに熱可塑性エラストマー系樹脂(B)を有機溶媒に溶解した溶液をドラム、無端ベルト等の上に流延した後、有機溶媒を蒸発させて、同じく長尺の無配向フィルムを成膜する溶液流延法等従来公知の任意の成形法が採用されてよい。なお無配向フィルムの厚みが80μm以上の場合には、溶液流延法では有機溶媒を充分に蒸発、除去することが困難になるので、溶融押出法で製造するのが好ましい。
【0055】
本発明の位相差フィルムは、上記製膜工程で得られた実質的に無配向の非晶性樹脂フィルムを、テンターにより長手方向もしくは幅方向へ少なくとも一軸延伸することによって得られるが、更に両方向に二軸延伸することによっても得られる。なお二軸延伸の手法に関しては、長手方向あるいは幅方向への延伸が終了した後、前段延伸方向と直交する方向に延伸するいわゆる逐次二軸延伸法と、長手および幅方向を同時に延伸するいわゆる同時二軸延伸法が挙げられるが、両手法は要求される光学補償性能や生産性に鑑みて適宣選択することが可能であり、操作性や設備費および光学補償性能の発現性に鑑みると、逐次二軸延伸法が好ましい。なお、上記原反フィルムは実質的に無配向、即ちフィルム面内及びフィルム厚み方向のレターデーション値がゼロに近いものが好ましい。より具体的には、それぞれ20nm以下であることが好ましく、10nm以下であることがより好ましい。
【0056】
上記延伸手法について具体的に説明する。本発明における延伸手法は、上記無配向フィルムを延伸可能なフィルム温度まで加熱する予熱工程、無配向フィルムを延伸させる延伸工程、延伸されて得られた非晶性樹脂フィルムの残留歪みを除去低減しアニール処理する為の熱緩和工程、および非晶性樹脂フィルムの配向を固定するための冷却工程から構成されることが好ましい。なお熱緩和工程は、特にテンタークリップ方式の延伸形態において発生する分子配向の湾曲パターン(いわゆるボーイング)を低減し、配向を揃えるための機能を担っている。各々の工程におけるフィルム加熱手法には、熱ロール接触加熱法やエアーフローティング加熱方式を利用した空気対流加熱法等が例示できる。もしくは両者を併用することも可能であり、延伸形態に応じて適宣選択される。
【0057】
長手方向への縦一軸延伸方法としては、従来公知の方法を採用すればよく、例えばロ−ル間延伸法、クリップテンター法等の縦一軸延伸方法が挙げられるが、操作性や設備費に鑑みてロール間延伸法がより好ましい。ロール間延伸法は、上流側設置ロールを低速度、下流側設置ロールを高速度として、異なる回転速度をとる複数のロールが長手方向に任意の間隔で配置され、当該ロール間隔を介して加熱下フィルムを搬送しながら、ロール速度差に応じてフィルムが延伸される手法である。当該ロールの配置距離により事実上定義される延伸距離は、フィルム幅より小さいと長手方向への分子配向は不十分となり、また長すぎればフィルムの折れシワや加熱炉内部材等への接触キズ等が発生し好ましくない。フィルムの走行性に応じて適宣設定すればよい。なお上記ロールには、ロールに対するフィルムの保持力を高めグリップを良くし、さらに延伸工程における応力の影響を、前後工程に波及させないことを目的として、ニップ機構を備えることが好ましい。
【0058】
幅方向への横一軸延伸方法および、長手方向と幅方向への同時二軸延伸方法としては、従来公知の任意のテンター延伸法が採用されればよく、例えば、無配向フィルムの幅方向の両端部をテンタークリップで把持し、テンタークリップの幅方向の間隔を次第に離間させることにより、無配向フィルムを幅方向に拡幅することにより延伸させる方法が挙げられ、もしくは上記幅方向延伸手法に加え、パンタグラフ構造やリニアモータ方式によるリンク機構を利用して、長手方向に互いに隣接するクリップを次第に離間させることにより、無配向フィルムを長手方向に延伸させる方法が挙げられる。
【0059】
上記予熱工程においては、無配向フィルムを延伸可能な温度付近まで加熱するものであり、延伸工程で設定された延伸温度付近まで加熱すればよい。したがって、予熱工程における無配向フィルムの温度は、次工程となる延伸工程での当該フィルム温度よりも少なくとも等温もしくは高温であることが好ましく、更にいえば無配向フィルムの主構成樹脂のガラス転移温度をTgとすると、Tg〜Tg+40℃の範囲で予熱処理を実施することが好ましい。予熱温度が低くなると、延伸工程において延伸応力が過大となりフィルムが切断しやすくなり、高くなりすぎると延伸応力が不足し、下記の延伸効果を十分に得ることが難しくなる。
【0060】
なお実質的に無配向の非晶性樹脂フィルムは、加熱により膨張変形しシート幅が広がることによって、該予熱工程通過中その自重により下方に弛緩し、熱風ノズルをはじめとする炉内部材へ接触する場合がある。ロール間延伸法による縦一軸延伸の場合は、予熱工程入口のフィルム張力と同工程出口のフィルム張力を独立に調整出来る機構を備えることで、このような走行トラブルを回避することが可能となる。同様にテンタークリップ方式の横一軸延伸または同時二軸延伸の場合、クリップレール幅をシート幅に対しあらかじめ広げることによって、このような走行トラブルを回避することが可能となる。
【0061】
上記延伸工程においては、無配向フィルムを加熱しながら、フィルムの長手方向もしくは幅方向の少なくとも一方向に変形を加えることで、実質的に無配向であったフィルム構成分子を特定方向に配向させ、複屈折をはじめとする光学異方性を付与し位相差フィルムとしての機能を発現させ、更には延伸による分子配向によるフィルムとしての機械特性や耐久性の向上を図るものである。
【0062】
上記延伸工程における無配向フィルムの温度は、低いと過大な延伸応力により延伸中にフィルムが切断し、更にはテンタークリップがはずれたりするなど、延伸工程におけるフィルム走行安定性を損なうことになる。高くなりすぎると延伸応力が不足し、上記の延伸効果を十分に得ることが不可能となり、配向緩和が優先して所望のレターデーション値が得られないことがある。したがって、フィルムの主構成樹脂のTg−20〜Tg+40℃が好ましく、更にはフィルムの主構成樹脂のTg−10℃〜Tg+20℃がより好ましい。
【0063】
上記延伸工程における変形開始から終了までの延伸時間は、10〜100秒が好ましく、より好ましくは20〜60秒である。これより長くなると熱緩和によるレターデーション低下が著しくなり、延伸による分子配向効果を得ることが出来ない。短くなると顕著なボーイング現象により、遅相軸のフィルム幅方向への不均一分布を補正できず、さらには過大な延伸応力により延伸時にフィルムが切断し、テンタークリップがはずれたりするなど、延伸工程におけるフィルム走行安定性を損なうことになる。
【0064】
上記延伸工程における延伸倍率は、得られる位相差フィルムの補償位相差量によって適宜決定されればよいが、延伸倍率が低いと配向方向が均一に揃わないことがあり、逆に高過ぎるとフィルムの中央部が弛み、レターデーション値や遅相軸や厚みの幅方向分布が不均一になるので、1.1〜6倍が好ましく、より好ましくは1.5〜5倍である。
【0065】
また、上記延伸工程における延伸歪み速度は50%/分以上が好ましい。歪み速度が小さくなるとレターデーションの発現性が低下する一方、あまり速くするとフィルムが切断したり、テンタークリップがはずれたりするので、より好ましくは100〜2000%/分である。また、高い歪み速度で延伸を実施することにより、特にテンタークリップ方式による延伸では、クリップレール開き角度を大きく取り、延伸ゾーンの炉長を極力短くすることが可能となる。
【0066】
上記熱緩和工程は、延伸されたフィルムの残留歪みを除去低減し、分子配向を制御し幅方向の光学特性や厚みを揃えるための工程である。延伸フィルムのボーイングを低減し、配向を揃えるための工程であり、この工程の温度が高すぎると、レターデーション値が低下するので、この工程の温度は、フィルムの主構成樹脂のTg−30℃〜Tg+20℃が好ましい。
【0067】
上記冷却工程は、フィルムを急冷することによりフィルムに形成された分子配向を固定するための工程であり、冷却温度はフィルムの主構成樹脂のTg−50℃〜Tg−5℃が好ましい。
【0068】
本発明により得られる位相差フィルムは、フィルム幅方向に沿って測定される遅相軸方向の、任意の基準軸とのズレ角度で示される遅相軸角度θ(°)の変動において、下記式(1)で定義される光軸ムラΔθが±0.03°/25mm以下であり、かつ遅相軸角度θの標準偏差が0.15°以下であることを主旨とする。
Δθ=(θn+1−θ)/(Ln+1−L)・・・(1)
(式中、n:フィルム幅方向の遅相軸角度測定順番(自然数)、θ:n番目の遅相軸角度測定値(°)、L:遅相軸角度の測定順番がn番目の測定位置のフィルム端部からの距離(mm)、Ln+1−L=25(mm))
【0069】
上述したように、基準軸以外への斜め方向の配向や、ボーイング現象による基準軸にする湾曲配向を、従来技術により緩和ないしは解消しても、主に無配向フィルムの素材特性に起因する、ごく短ピッチでの光軸ムラが残存すれば、遅相軸を緻密に制御してそのバラツキを抑え、安定した光学品位を保つことは困難である。上記式(1)で定義される光軸ムラΔθを0.03/25mm以下とすることにより、遅相軸角度θの標準偏差を0.15°以下とすることが可能となり、更に遅相軸角度θの標準偏差を0.15°以下とすることにより、位相差補償フィルムの遅相軸品位を、高い工程能力の下で維持することが可能となる。なお遅相軸角度の測定間隔は25mmとするのが好ましい。フィルム幅方向に遅相軸角度を測定する際、25mmより大きいと測定数は減少することによりデータ分解能は低下し、短ピッチでの光軸ムラ検出が次第に困難となり、25mmより小さいと、分解能は向上するが測定頻度が過超となり、主に時間的経済的観点から好ましくない。
【0070】
なお工程能力を表すものとして、一般に工程能力指数(以下Cpとする)が使用されている。Cpはある特定の品質規格に対する、工程の対応能力を指標化したもので従来より公知であり、下記式(5)で定義される。
Cp=θr/6σ・・・(5)
(式中、θr:遅相軸角度の品質規格幅、σ:遅相軸角度標準偏差(°))
TV用をはじめとした特に大型ディスプレイに利用される位相差フィルムの遅相軸角度品質規格は、一般に規格上限が+0.5°、および下限が−0.5°であることが好ましい。したがって、遅相軸角度の標準偏差が0.15°以下であれば、工程能力は1.0以上となり、安定した遅相軸品位を保つことが可能となる。
【0071】
本発明により得られた位相差フィルムは、下記式(2)で定義される正面レターデーションR0が20〜300nmの範囲にあることが好ましい。
R0=(nx−ny)×d・・・(2)
(式中、nx:フィルム面内最大屈折率、ny:フィルム面内のnx方向と直交する方向の屈折率、nz:フィルム厚み方向の屈折率、d:位相差フィルムの厚み)
【0072】
上記範囲内に正面レターデーションR0を制御することによって、当該位相差フィルムを液晶パネルに積層すると、安定した高品位の画像表示を得ることができる。レターデーションR0の値が上記範囲を逸脱すると、液晶を通過する際の複屈折を補償しきれず、位相差フィルムとしての商品価値が低下することになる。
【0073】
一方、本発明により得られる位相差フィルムは、下記式(3)で定義されるNz係数が、−1〜5の範囲を満足することが好ましい。
Nz=(nx−nz)/(nx−ny)・・・(3)
【0074】
正面レターデーションR0と同様に、上記範囲内にNz係数を制御することによって、該位相差フィルムを液晶パネルに積層すると、広視野角や高コントラストといった液晶表示装置が本来有する特徴を、更に高めることが可能となり、安定した高品位の画像表示を得ることができる。
【0075】
又、本発明により得られた位相差フィルムの平均厚みについては特に制限されないが、所定の複屈折発現性を損なわず、かつ一定の機械的強度を有し、さらに液晶表示装置へ積層される際に重視される部材の軽量化に鑑みて、光学補償フィルムとして好適に使用されるためには、20〜200μmの範囲であることが好ましく、更に好ましくは30〜100μmである。
【0076】
本発明における位相差フィルムは、ヘイズ値が8%以下であることが好ましい。5%を超えると、偏光板保護フィルム等の用途に用いた場合に、光洩れ等の原因となることがある。より好ましくは5%以下、更に好ましくは3%以下、特に好ましくは1%以下である。
【0077】
本発明により提供される位相差フィルムは、その表面にコロナ処理、プラズマ処理、紫外線照射、各種薬品処理をはじめとする表面活性処理を施したり、塗布加工や蒸着による各種の機能コーティング、ラミネート等を行うことにより諸性能を付加し、その利用価値をさらに向上させることも可能である。
【0078】
このようにして得られた位相差フィルムは、液晶表示装置の部品として好適に用いられるが、上記位相差フィルムは、単独で用いられても、偏光板と積層一体化させて複合偏光板として用いられても、偏光板の液晶セル側の保護フィルムの代わりに接着剤を介して積層一体化されて偏光板を形成して用いられてもよい。液晶表示装置の薄型化及び製造効率を向上させることができることから、偏光板の液晶セル側の保護フィルムの代わりに、好ましくは接着剤を介して位相差フィルムを積層一体化させて、偏光板として用いるのが好ましい。
【0079】
次に、上記位相差フィルムを単独で用いて液晶表示装置を製造する要領を説明する。上記位相差フィルムを用いた液晶表示装置としては、液晶セルを構成している一対の基板外面の夫々に偏光板を配設すると共に、上記液晶セルの基板のうちの少なくとも一方の基板、好ましくは液晶表示面側の基板と、この基板に対向する偏光板との間に上記位相差フィルムを介在させ、更に、液晶セルにおける液晶表示面とは反対側の基板側に配設した偏光板上に、バックライト型或いはサイドライト型の公知の照明システムを配設すると共に、駆動回路を組み込むことによって液晶表示装置を得ることができる。
【0080】
更に、上記液晶表示装置において、位相差フィルムは予め偏光板の一面に接着剤又は粘着剤を介して積層一体化させて複合偏光板として用いられてもよい。
【0081】
なお、位相差フィルムと偏光板とを積層一体化させるのに用いられる接着剤又は粘着剤としては、これらの光学特性を阻害しないものであれば特に限定されず、アクリル系の接着剤又は粘着剤等の透明なものが用いられる。
【0082】
また、上記偏光板は従来から汎用されているものが用いられ、偏光子の両面に保護フィルムを積層一体化させてなる。この偏光子としては、ポリビニルアルコール・ヨウ素系偏光膜、ポリビニルアルコール系フィルムに二色性染料を吸着配向させた染料系偏光膜、ポリビニルアルコール系フィルムより脱水反応を誘起させたり、ポリ塩化ビニルフィルムの脱塩酸反応により、ポリエンを形成させたポリエン系偏光膜、分子内にカチオン基を含有する変性ポリビニルアルコールからなるポリビニルアルコール系フィルムの表面及び/又は内部に二色性染料を有する偏光膜等が挙げられる。
【0083】
そして、上記偏光子の製造方法としては、例えば、ポリビニルアルコール系フィルムを延伸後にヨウ素イオンを吸着させる方法、ポリビニルアルコール系フィルムを二色性染料による染色後に延伸する方法、ポリビニルアルコール系フィルムを延伸後に二色性染色で染色する方法、二色性染料をポリビニル系アルコール系フィルムに印刷後に延伸する方法、ポリビニルアルコール系フィルムを延伸後に二色性染料を印刷する方法等が挙げられる。
【0084】
なお、上記ポリビニルアルコールとしては、酢酸ビニルモノマーを単独重合させて得られたポリ酢酸ビニルをケン化してなるものだけでなく、酢酸ビニルモノマーに、少量のオレフィン類、ビニルエーテル類、不飽和スルホン酸塩又は不飽和カルボン酸もしくはこの塩、エステル、アミド、ニトリル等のモノマーを共重合させてなるものであってもよい。
【0085】
そして、上記偏光子の両面に積層一体化される保護フィルムとしては、偏光子の光学特性を阻害しないものであれば、特に限定されず、例えば、トリアセチルセルロース、アルカリ処理したトリアセチルセルロース等からなるフィルムが挙げられる。
【0086】
次に、位相差フィルムを、偏光板の液晶セル側の保護フィルムの代わりに接着剤を介して偏光子に直接、積層一体化して偏光板を形成させて用いる場合について説明する。上記接着剤としては、偏光子及び位相差フィルムの光学特性を阻害しないものであればよく、水性ウレタン系接着剤が好ましい。
【0087】
そして、偏光子の液晶セル側の面に接着剤を介して位相差フィルムを積層一体化させる要領としては、偏光子と位相差フィルムとの対向面のうちの何れか一方の面、好ましくは位相差フィルム面に接着剤を全面的に略均一に塗布した後、偏光子と位相差フィルムとを接着剤を介在させた状態で重ね合わせて積層一体化させる要領が挙げられる。
【0088】
このとき、偏光子又は位相差フィルムに塗布される接着剤の塗布量は、少ないと、偏光子と位相差フィルムとの間の接着強度が低下して、偏光子と位相差フィルムとの間に隙間が生じて光学特性が阻害されることがある一方、多いと、接着剤の乾燥が不充分となって偏光子が湾曲したり或いは偏光度が低下したりすることがあるので、偏光子又は位相差フィルム上に塗布した直後の接着剤の塗布量が0.05〜10g/mとなるように調整するのが好ましい。
【0089】
一方、偏光子における位相差フィルムが積層一体化される面とは反対側の面には、通常の光等方性の保護フィルムが接着剤を介して積層一体化されるが、この保護フィルムと位相差フィルムとの間の透湿度の差が大きいと、偏光板が湾曲してしまうといった問題が発生することから、保護フィルムを選択するにあたっては、保護フィルムの透湿度が位相差フィルムの透湿度に対して±50%程度以内、更に±30%程度以内となるように選択するのが好ましい。
【0090】
上記位相差フィルムを、保護フィルムとして用いた偏光板を使用した液晶表示装置としては、液晶セルを構成している一対の基板外面の夫々に配設される偏光板のうち、少なくとも液晶表示面側の偏光板として、この偏光板をその位相差フィルム面を液晶セル側に配置する構成とすることで得られる。
【0091】
上記液晶セルとしては、従来から用いられている液晶セル方式であれば特に限定されないが、大型画面としての表示性能に優れるVAモードまたはIPSモードに本発明を適用すると優れた効果が得られる。VAモードは液晶分子の配向をパネル基板に対して垂直方向に変化させ透過光を制御する。このとき、液晶セルを通過する光における液晶セルの厚み方向の屈折率が大きくなり屈折率異方性が発現し、見る角度によっては光が漏れてしまう。一方、IPSモードは液晶分子の配向を、パネル基板に対して平行な水平面内で変化させ透過光を制御する。このとき、液晶セルを通過する光における液晶セルの厚み方向の屈折率が小さくなり屈折率異方性が発現し、同じく見る角度によっては光が漏れてしまう。本発明により、上記両液晶モードに対し、正もしくは負の固有複屈折を有する樹脂材料を表示方式に応じて適切に選択し、その無配向フィルムを延伸することによって、パネル平行面内ないしは厚み方向の屈折率が制御された位相差フィルムを提供することが可能となる。それによって液晶セルの屈折率を効果的に補償して、得られる液晶表示装置の正面コントラストや見込み角度によるコントラストの変化等、いわゆる視野角依存性を大幅に改善することが可能となる。
【0092】
なお、位相差フィルムを何れの態様で用いる場合も、位相差フィルムの遅相軸と、この位相差フィルムと隣接する偏光板或いは偏光子の吸収軸とが互いに直交するように調整する必要がある。
【発明の効果】
【0093】
本発明の構成は上述の通りであり、その効果として、遅相軸精度に優れた位相差フィルムを得ることが出来る。本発明の位相差フィルムを液晶表示装置に使用すると、液晶物質の複屈折を補償して表示ムラを解消し、かつコントラストが良好で視角特性に優れ、液晶パネルの画像表示を安定させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0094】
以下、本発明の実施例について説明するが、下記の例に限定されるものではない。
【実施例】
【0095】
(無配向フィルム製造例1)
ポリメチルメタクリレート系樹脂(メチルメタクリレート成分含有量55モル%、スチレン成分含有量30モル%、マレイン酸成分含有量15モル%、Tg=120℃、重量平均分子量:120000)90重量部、およびアクリロニトリル−スチレン−ブタジエン系共重合体(ブタジエン成分含有量50モル%、スチレン成分含有量25モル%、アクリロニトリル成分含有量18モル%、メチルメタクリレート成分含有量7モル%、重量平均分子量:48000)10重量部を混合して、シリンダー温度260℃に設定した二軸押出機に供給充填し、押出されたストランドをペレタイザーにてカットし混合樹脂(C)のペレットを作製した。
【0096】
上記混合樹脂(C)を単軸押出機に供給し、シリンダー温度260℃で溶融混練した後、Tダイからクロムメッキロール上に、引取速度10m/分で溶融押出し冷却固化させてシート状に連続成膜し、実質的に無配向の非晶性樹脂フィルムを得た。得られた無配向フィルムの幅は1500mm、幅方向平均厚みが150μmとなったものを無配向フィルム(C−1)とし、同じく100μmとなったものを無配向フィルム(C−2)とした。
【0097】
(無配向フィルム製造例2)
ポリメチルメタクリレート系樹脂に代えてノルボルネン系樹脂(日本ゼオン社製、「ゼオノア1420」重量平均分子量=50000、ガラス転移温度Tg=135℃)とすること、ペレット作製工程の二軸押出機およびフィルム溶融製膜工程の単軸押出機のシリンダー温度を、270℃に設定変更すること以外は、製造例1と同様にして混合樹脂(D)のペレットを作製し、製造例1と同様に無配向フィルムを得た。得られた無配向フィルムの幅は1500mm、幅方向平均厚みが150μmとなったものを無配向フィルム(D−1)とし、同じく100μmとなったものを無配向フィルム(D−2)とした。
【0098】
(無配向フィルム製造例3)
ポリメチルメタクリレート系樹脂に代えて、マレイミド系共重合体樹脂(マレイミド成分含有量50モル%、イソブテン成分含有量50モル%、Tg=145℃、重量平均分子量:250000)とすること、ペレット作製工程の二軸押出機およびフィルム溶融製膜工程の単軸押出機のシリンダー温度を、280℃に設定変更すること以外は、製造例1と同様にして混合樹脂(E)のペレットを作製し、製造例1と同様に無配向フィルムを得た。得られた無配向フィルムの幅は1500mm、幅方向平均厚みが150μmとなったものを非晶性樹脂フィルム(E−1)とし、同じく100μmとなったものを無配向フィルム(E−2)とした。
【0099】
(無配向フィルム製造例4)
アクリロニトリルースチレンーブタジエン共重合体に代えて、スチレン−エチレン−ブチレン共重合体(スチレン成分含有量30モル%、エチレン成分含有量40モル%、ブチレン成分含有量30モル%、重量平均分子量:160000)とすること以外は、製造例1と同様にして混合樹脂(F)のペレットを作製し、製造例1と同様に無配向フィルム(F−1)を得た。得られた無配向フィルムの幅は1500mm、平均厚みは150μmとなった。
【0100】
(無配向フィルム製造例5)
アクリロニトリルースチレンーブタジエン共重合体に代えて、上記製造例4記載のスチレン−エチレン−ブチレン共重合体とすること以外は、製造例2と同様にして混合樹脂(G)のペレットを作製し、製造例2と同様に無配向フィルム(G−1)を得た。得られた無配向フィルムの幅は1500mm、平均厚みは150μmとなった。
【0101】
(無配向フィルム製造例6)
無配向フィルムの作製において、上記製造例1記載のアクリロニトリル−スチレン−ブタジエン共重合体を混合せず、上記製造例1記載のポリメチルメタクリレート系樹脂100重量部のみとすること以外は、製造例1と同様にして混合樹脂(H)のペレットを作製し、製造例1と同様に無配向フィルムを得た。得られた無配向フィルムの幅は1500mm、幅方向平均厚みが150μmとなったものを無配向フィルム(H−1)とし、同じく100μmとなったものを無配向フィルム(H−2)とした。
【0102】
(無配向フィルム製造例7)
無配向フィルムの作製において、上記製造例1記載のアクリロニトリル−スチレン−ブタジエン共重合体を混合せず、上記製造例2記載のノルボルネン系樹脂100重量部のみとすること以外は、製造例2と同様にして混合樹脂(I)のペレットを作製し、製造例2と同様に無配向フィルムを得た。得られた非晶性樹脂フィルムの幅は1500mm、幅方向平均厚みが150μmとなったものを無配向フィルム(I−1)とし、同じく100μmとなったものを無配向フィルム(I−2)とした。
【0103】
(無配向フィルム製造例8)
無配向フィルムの作製において、上記製造例1記載のアクリロニトリル−スチレン−ブタジエン共重合体を混合せず、上記製造例3記載のマレイミド系樹脂100重量部のみとすること以外は、製造例2と同様にして混合樹脂(J)のペレットを作製し、製造例2と同様に無配向フィルム(J−1)を得た。得られた無配向フィルムの幅は1500mm、平均厚みは150μmとなった。
【0104】
(実施例1〜6、比較例1〜3)
上記製造例1〜8によって得られた無配向フィルムを連続的に巻出し、予熱ゾーン、延伸ゾーン、熱緩和ゾーン及び冷却ゾーンを有する横一軸テンター延伸機に、予熱ゾーン入口においてフィルム搬送速度20m/分で供給し、その端部をテンタークリップで把持し、予熱ゾーンで無配向フィルムを予熱加温した後、延伸ゾーンでフィルムを加熱しながら幅方向に延伸した後、続く熱緩和ゾーンにおいてアニール処理し、更に冷却ゾーンで80℃に冷却して配向固定した。続く延伸機出口において、フィルム搬送速度20m/分で該フィルム端部をクリップ把持より解放し、続くスリット工程でクリップ掴み痕の残存するフィルム端部を、フィルム中心から左右対称に設置したシェア刃でスリットして除去し、最後の巻取工程では巻取張力100N/mで塩化ビニル樹脂製コアにロール状に巻取り、位相差フィルムを得た。なお、無配向フィルムの種別、予熱ゾーン・延伸ゾーン・熱緩和ゾーンの温度は表1および表2記載の通りである。
【0105】
得られた位相差フィルムの幅は、テンタークリップ掴み痕を含む両端部を除いて1340mmであり、平均厚みは表1および2記載の通りであった。当該フィルムの、遅相軸角度θの幅方向の測定位置L(mm)に対する光軸ムラΔθ、遅相軸角度の標準偏差θσ、正面レターデーションR0、Nz係数を測定し、結果を表1および表2に示した。
【0106】
(実施例7〜8、比較例4〜5)
上記製造例1〜2、6〜7によって得られた表1および表2記載の無配向フィルムを連続的に巻出し、予熱ゾーン、延伸ゾーン、熱緩和ゾーン及び冷却ゾーンを有するロール式延伸機横一軸テンター延伸機に、予熱ゾーン入口においてフィルム搬送速度10m/分で供給し、予熱ゾーンで表1および表2記載の温度で無配向フィルムを加熱した後、延伸ゾーンの前後に配置された上流側ニップロールと下流側ニップロールに回転速度比を付け、延伸ゾーンでフィルムを加熱しながら長手方向に延伸し、続く熱緩和ゾーンにおいてアニール処理し、更に冷却ゾーンで80℃に冷却して配向固定した。フィルム端部の一部をフィルム中心から左右対称に設置したシェア刃でスリットして除去し、巻取速度20m/分、巻取張力100N/mで塩化ビニル樹脂製コアにロール状に巻取り、位相差フィルムを得た。なお、無配向フィルムの種別、予熱ゾーン・延伸ゾーン・熱緩和ゾーンの温度ならびに延伸倍率は表1および表2記載の通りである。
【0107】
得られた位相差フィルムの幅は両端部を除いて1000mmであり、平均厚みは表1および2記載の通りであった。当該フィルムの、遅相軸角度θの幅方向の測定位置L(mm)に対する光軸ムラΔθ、遅相軸角度の標準偏差θσ、正面レターデーションR0、Nz係数を測定し、結果を表1および表2に示した。
【0108】
なお、位相差フィルムの平均厚み、光軸ムラ、遅相軸角度の標準偏差、位相差フィルムの正面レターデーション値R0およびNz係数の測定方法は以下の通りである。
【0109】
位相差フィルムの平均厚みの測定方法
フィルム幅方向を基準軸とし、その基準軸に対して長手方向50mm、幅方向は全幅で帯状フィルム片を採取し、フィルム厚さ測定器(セイコーEM社製、商品名「Millitron1240」を用いて、当該フィルム片の幅方向に平行に10mm間隔で測定し、測定値の総平均を算出し、フィルムの平均厚み(μm)とした。
【0110】
位相差フィルムの遅相軸角度θの標準偏差、および幅方向の測定位置L(mm)に対する光軸ムラの測定方法
フィルム幅方向を基準とし、その基準軸に対して長手方向50mm、幅方向は全幅で帯状フィルム片を採取し、自動複屈折測定装置(大塚電子社製、商品名「RETS」を用いて、当該フィルム片を幅方向に25mm間隔に測定し、各位置の遅相軸角度測定値をθとし、標準偏差を算出した。なお遅相軸角度は、幅方向もしくは長手方向を基準軸として得られた軸角度のうち、値が小さい方を遅相軸角度として採用した。更に上記式(1)に基づいて光軸ムラを算出し、その絶対値をΔθとした。
【0111】
位相差フィルムの正面レターデーション値R0の測定方法
自動複屈折測定装置(王子計測機器社製、商品名「KOBRA−WR」を用いて測定光の波長を550nmとして、位相差フィルムの長手方向に直交する軸を基準軸とし、位相差フィルムを幅方向に50mm間隔で測定してその総平均値を算出し、フィルムの正面レターデーション値R0とした。
【0112】
位相差フィルムのNz係数の測定方法
自動複屈折測定装置(王子計測機器社製、商品名「KOBRA−WR」を用いて測定光の波長を550nmとして、位相差フィルムの長手方向に直交する軸を基準軸とし、位相差フィルムを幅方向に50mm間隔で測定してその平均値を算出し、フィルムのNz係数とした。
【0113】
【表1】

【0114】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
非晶性樹脂(A)と、非晶性樹脂(A)に対し実質的に相分離形態を呈する熱可塑性エラストマー系樹脂(B)よりなるフィルムを、長手方向もしくは幅方向の少なくとも一方向に延伸して得られる位相差フィルムであって、フィルム幅方向に沿って測定される遅相軸方向の、任意の基準軸とのズレ角度で示される遅相軸角度θ(°)の変動において、下記式(1)で定義される光軸ムラΔθが±0.03°/25mm以下であり、かつ遅相軸角度θの標準偏差が0.15°以下であることを特徴とする位相差フィルム。
Δθ=(θn+1−θ)/(Ln+1−L)・・・(1)
(式中、n:フィルム幅方向の遅相軸角度測定順番(自然数)、θ:n番目の遅相軸角度測定値(°)、L:遅相軸角度の測定順番がn番目の測定位置のフィルム端部からの距離(mm)、Ln+1−L=25(mm))
【請求項2】
下記式(2)で定義される正面レターデーションR0が20〜300nmの範囲にあり、下記式(3)で定義されるNz係数が−1から5の範囲にあることを特徴とする請求項1記載の位相差フィルム。
R0=(nx−ny)×d・・・(2)
Nz=(nx−nz)/(nx−ny)・・・(3)
(式中、nx:フィルム面内最大屈折率、ny:フィルム面内のnx方向と直交する方向の屈折率、nz:フィルム厚み方向の屈折率、d:位相差フィルムの厚み)
【請求項3】
非晶性樹脂(A)が環状オレフィン系樹脂、マレイミド系樹脂、アクリル系樹脂のうち少なくとも1つから選ばれることを特徴とする請求項1または2に記載の位相差フィルム。
【請求項4】
偏光板の一方面に、請求項1〜3のいずれかに記載の位相差フィルムが一体的に積層されている複合偏光板。
【請求項5】
偏光子の一方面に、請求項1〜3のいずれかに記載の位相差フィルムが一体的に積層されている偏光板。
【請求項6】
液晶セルを構成している一対の基板の外表面の少なくとも一方に、請求項4記載の複合偏光板または請求項5に記載の偏光板が積層されている液晶表示装置。

【公開番号】特開2010−26097(P2010−26097A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−185233(P2008−185233)
【出願日】平成20年7月16日(2008.7.16)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】