説明

位相差フィルム用ポリカーボネート共重合体

【課題】耐熱性、成形性等にすぐれ、低複屈折性を示すポリカーボネート樹脂から形成された位相差フィルムを提供する。
【解決手段】6,6’−ジヒドロキシ−3,3,3’,3’−テトラメチル−1,1’−スピロビインダン類と一種以上の他の二価フェノール化合物類と末端停止剤及びカーボネート前駆体物質の反応によって製造され、6,6’−ジヒドロキシ−3,3,3’,3’−テトラメチル−1,1’−スピロビインダン類に由来する繰り返し単位(A)と一種以上の他の二価フェノール化合物類に由来する繰り返し単位(B)の割合がモル比で(A):(B)=50:50〜99:1である、特定の芳香族ポリカーボネート共重合体から形成された位相差フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性及び複屈折の改善された高耐熱性、低複屈折性ポリカーボネート樹脂から形成された位相差フィルムおよびその利用に関する。更に詳しくは、特定量の6,6’−ジヒドロキシ−3,3,3’,3’−テトラメチル−1,1’−スピロビインダン構成単位を有する高耐熱性、低複屈折性で且つ透明性に優れるポリカーボネート樹脂共重合体から形成された位相差フィルムおよびその利用に関する。このような樹脂はその特性を生かしプロジェクションテレビ用スクリーン、位相差フィルムのようなフィルム素材として極めて有用なものである。
【背景技術】
【0002】
従来、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)にホスゲンやジフェニルカーボネートを反応させて得られたポリカーボネート樹脂は高透明性、高耐熱性、寸法精度が良い等の優れた性質を有することからエンジニアリングプラスチックとして多くの分野に広く使用されている。特に透明性に優れることから光学材料としての用途も多く、近年液晶ディスプレーの液晶基板用フィルムや位相差フィルム用途にも使用されている。
【0003】
しかしながら、通常のビスフェノールAからのポリカーボネート樹脂(これ以下はPC−Aと略す)より得られるフィルムでは、殊に液晶ディスプレーに用いるフィルムが配向膜形成プロセス等で180℃以上の高温処理を要し、その耐熱性が不足するという問題がある。また、位相差フィルムとして考えた場合、PC−Aより得られるフィルムではポリカーボネート樹脂のベンゼン環の光学的異方性から光弾性係数が大きく、従って低延伸倍率による位相差のバラツキが大きいことが問題となる。
【0004】
ポリカーボネート樹脂の耐熱性を向上させるためには、一般的に嵩高い動きにくい構造を有するビスフェノール類を用いる方法があり、種々のポリカーボネートが提案されている。例えば、アダマンタン構造を有するビスフェノールを主として得られるポリカーボネート樹脂(例えば特許文献1参照)、または、特定のジヒドロキシジフェニルシクロアルカンをベースとするポリカーボネート樹脂が提案されている。(例えば特許文献2参照)また、特定のフルオレン構造を有するポリカーボネート樹脂が提案されている。(例えば特許文献3,4,5参照)しかしながら、これらの構造を有するポリカーボネート樹脂は耐熱性に優れるものの、フィルムの延伸や巻き取りの際に破断したり、また折り曲げに対して弱く、折り曲げ強度の弱いものはフィルム巻き取り時のカッティングの際にスムーズなカッティング面が得られず、延伸時に破断を生ずる恐れがある等フィルム強度の点で十分ではなく、また、延伸したフィルムの特性に劣り、位相差フィルムとして使用した際に視野角が狭くなるなどの問題があり、その改善が望まれている。
【0005】
また、6,6’−ジヒドロキシ−3,3,3’,3’−テトラメチル−1,1’−スピロビインダン構成単位を特定割合導入したポリカーボネート共重合体についても提案されているが、光学記録媒体用の基板やCDプレーヤーに使用されているレンズなどの成形材料であり、フィルムに関しては全く記載はない。(例えば特許文献6参照)
【0006】
【特許文献1】特開平5−78467号公報
【特許文献2】特開平2−88634号公報
【特許文献3】特開平11−174424号公報
【特許文献4】特開平8−134198号公報
【特許文献5】特開平7−52270号公報
【特許文献6】特開平6−313035号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記課題を解決し、耐熱性、成形性等にすぐれ、低複屈折性を示すポリカーボネート樹脂から形成された位相差フィルムを提供することにある。
本発明者らは、優れた光学特性を有する材料について広く検討を行ない、位相差フィルムは光学用途であるので、その測定波長において光吸収が少なく透明である材料、また、耐熱性の観点からガラス転移点温度としては140℃以上、より好ましくは150℃以上を有する材料、さらに複屈折を低減させるため光弾性係数が50×10−12/N(50×10−13/N)以下の材料、そして成形性の点で有利な材料として高分子材料、特にポリカーボネート樹脂の探索を実施した。鋭意検討を重ねた結果、6,6’−ジヒドロキシ−3,3,3’,3’−テトラメチル−1,1’−スピロビインダン構成単位を特定割合導入したポリカーボネート共重合体が上記目的を達成することを見出し、本発明に到達した。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明によれば下記式[1]
【化1】

(式中、R及びRは水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1〜6のアルキル基、炭素原子数6〜10のアリール基又は炭素原子数1〜6のアルコキシ基、であって、同一又は異なっていてもよい。)
で表される繰り返し単位(A)と
下記式[2]
【化2】

(式中、Wは単結合、アルキリデン基、シクロアルキリデン基、フェニル基置換アルキリデン基、スルホン基、スルフィド基又はオキシド基であり、R及びRは水素原子、ハロゲン原子、フェニル基、炭素原子数1〜3のアルキル基であって、同一又は異なっていてもよく、m及びnは夫々1〜4の整数である。)
で表される繰り返し単位(B)より実質的に構成され、全カーボネート繰り返し単位における単位(A)と単位(B)の割合がモル比で(A):(B)=50:50〜99:1である芳香族ポリカーボネート共重合体から形成された位相差フィルムが提供される。
【0009】
6,6’−ジヒドロキシ−3,3,3’,3’−テトラメチル−1,1’−スピロビインダンにカーボネート前駆体を反応させて得られる芳香族ポリカーボネート樹脂および、このポリマーが低複屈折で耐熱性が良好なことは知られている。しかしながら、このホモポリマーを合成する際、界面重縮合法では溶剤に不溶のゲル状物が多量に生成し、溶剤可溶成分の収率は高々60〜70%で実用性に乏しいものである。また、このものを溶融成形しようとした場合、溶融粘度が高すぎて成形できないという問題があり、位相差フィルムの材料として使用する事は困難である。それに対し、本発明の6,6’−ジヒドロキシ−3,3,3’,3’−テトラメチル−1,1’−スピロビインダン構成単位を特定量共重合した芳香族ポリカーボネート共重合体が、このような欠点を有しなく、高耐熱性、低複屈折性を示し、位相差フィルムの材料として好適である。
【0010】
このポリカーボネート共重合体は光弾性係数が50×10−12 /N(50×10−13 cm/dyne)以下、好ましくは45×10−12/N(45×10−13cm/dyne)以下、最も好ましくは40×10−12/N(40×10−13cm/dyne)以下であることが望ましく、且つ0.7gを100mlの塩化メチレンに溶解し20℃で測定した比粘度が0.19以上、好ましくは0.35以上、最も好ましくは0.55以上であることが望ましい。0.19未満のものでは得られる成形品が脆くなるので適当でない。
また、このポリカーボネート共重合体はガラス転移温度が170℃以上、好ましくは175℃以上、より好ましくは180℃以上である事が望ましい。
【0011】
本発明で対象とするのポリカーボネート樹脂は、6,6’−ジヒドロキシ−3,3,3’,3’−テトラメチル−1,1’−スピロビインダン類と一種以上の他の二価フェノール化合物類と末端停止剤及びカーボネート前駆体物質の反応によって製造される。通常ホスゲンを使用する界面重縮合法、又は炭酸ジエステルを使用するエステル交換反応によって製造される。
【0012】
下記式[3]で表される6,6’−ジヒドロキシ−3,3,3’,3’−テトラメチル
−1,1’−スピロビインダン類としては、R及びRが同一もしくは異なり、水素原子、炭素原子数1〜3のアルキル基、フェニル基である化合物が好ましく、例えば、6,6’−ジヒドロキシ−3,3,3’,3’−テトラメチル−1,1’−スピロビインダン、7,7’−ジメチル−6,6’−ジヒドロキシ−3,3,3’,3’−テトラメチル−1,1’−スピロビインダン、7,7’−ジフェニル−6,6’−ジヒドロキシ−3,3,3’,3’−テトラメチル−1,1’−スピロビインダン等があげられ、特に6,6’−ジヒドロキシ−3,3,3’,3’−テトラメチル−1,1’−スピロビインダンが好ましい。
【0013】
【化3】

(式中、R及びRは水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1〜6のアルキル基、炭素原子数6〜10のアリール基又は炭素原子数1〜6のアルコキシ基、であって、同一又は異なっていてもよい。)
【0014】
下記式[4]で表される他の二価フェノールとしてはWがアルキリデン基であり、R及びRが水素原子である化合物が好ましく、Wが炭素原子数1〜10のアルキリデン基であり、R及びRが水素原子である化合物がより好ましく、Wが炭素原子数1〜5のアルキリデン基であり、R及びRが水素原子である化合物がより好ましい。例えばビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン[通称ビスフェノールA]、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、4,4−ビス(4ーヒドロキシフェニル)ヘプタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジクロロフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)オキサイド、ビス(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニル)オキサイド、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)デカン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2−エチル−ヘキサン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン、4,4’−ジヒドロキシジフェニル、3,3’−ジクロロ−4,4’−ジヒドロキシジフェニル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホキシド等があげられる。特にビスフェノールAが好ましい。
【0015】
【化4】

(式中、Wは単結合、アルキリデン基、シクロアルキリデン基、フェニル基置換アルキリデン基、スルホン基、スルフィド基又はオキシド基であり、R及びRは水素原子、ハロゲン原子、フェニル基、炭素原子数1〜3のアルキル基であって、同一又は異なっていてもよく、m及びnは夫々1〜4の整数である。)
【0016】
末端停止剤としては例えばp−tert−ブチルフェノールのような一価フェノールが使用される。使用量は使用する二価フェノールに対し、通常0.01〜10モル%、好ましくは0.03〜8モル%である。
【0017】
ホスゲンを使用する界面重縮合反応では、通常酸結合剤の水溶液に6,6’−ジヒドロキシ−3,3,3’,3’−テトラメチル−1,1’−スピロビインダン類と他の二価フェノールを溶解し、有機溶媒の存在下に反応させる。酸結合剤としては例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物等が使用され、有機溶媒としては例えば塩化メチレン、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素が使用される。反応は通常0〜40℃、好ましくは20〜30℃で10分〜10時間程度で終了する。反応の進行に伴い反応系のpHを10以上に保持することが好ましい。また、反応を促進させるために触媒を用いてもよく、触媒としては例えばトリエチルアミン、テトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイド、テトラ−n−ブチルホスホニウムブロマイドのような三級アミン、四級アンモニウム化合物、四級ホスホニウム化合物等があげられる。更に、必要に応じハイドロサルファイトのような酸化防止剤を加えることもできる。
【0018】
炭酸ジエステルを使用するエステル交換反応では、不活性ガス雰囲気下、6,6’−ジヒドロキシ−3,3,3’,3’−テトラメチル−1,1’−スピロビインダン類と他の二価フェノール化合物を炭酸ジエステルと加熱しながら撹拌して生成するアルコール又はフェノールを留出させることで行われる。反応温度は生成するアルコール又はフェノールの沸点等により異なるが、通常120〜350℃の範囲である。反応後期には系を減圧にして生成するアルコール又はフェノールの留出を容易にさせて反応を完結させる。炭酸ジエステルとしては例えばジフェニルカーボネート、ジナフチルカーボネート、ビス(ジフェニル)カーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネート等があげられる。これらのうち特にジフェニルカーボネートが好ましい。
【0019】
重合速度を速めるために重合触媒を使用することもでき、重合触媒としては水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等のアルカリ金属及びアルカリ土類金属の水酸化物類、ホウ素やアルミニウムの水酸化物のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、第4級アンモニウム塩類、アルカリ金属及びアルカリ土類金属のアルコキシド類、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の有機酸塩類、亜鉛化合物類、ホウ素化合物類、ケイ素化合物類、ゲルマニウム化合物類、有機スズ化合物、鉛化合物類、アンチモン化合物類、マンガン化合物類、チタン化合物類、ジルコニウム化合物類等の通常エステル化反応、エステル交換反応に使用される触媒を使用することができる。触媒は一種だけを用いても二種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの触媒の使用量は原料の二価フェノールに対し0.0001〜1重量%、好ましくは0.0005〜0.5重量%の範囲で選ばれる。
【0020】
本発明のポリカーボネート樹脂は、全カーボネート繰り返し単位における前記式[1]で表される繰り返し単位(A)と前記式[2]で表される繰り返し単位(B)の割合がモル比で(A):(B)=50:50〜99:1である。好ましくは(A):(B)=70:30〜95:5である。前記式[1]で表される繰り返し単位(A)の含有率が50モル%未満では、耐熱性が劣り、光弾性係数が充分に低くならず複屈折が大きくなる。また、前記式[1]で表される繰り返し単位(A)の含有率が99モル%を越えると耐熱性は向上し、複屈折は著しく低減するが、界面重縮合法では溶剤に不溶のゲル状物が多量に生成し、溶剤可溶成分の収率は高々60〜70%で生産性に劣る。
【0021】
本発明のポリカーボネート樹脂には、必要に応じて例えばトリフェニルフォスファイト、トリス(ノニルフェニル)フォスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジフォスファイト、ジフェニルハイドロジェンフォスファイト、イルガノックス1076[ステアリル−β−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]等のような安定剤、例えば2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−4’−オクトキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノン等のような耐候剤、着色剤、帯電防止剤、離型剤、滑剤等の添加剤を加えてもよい。
【0022】
本発明の位相差フィルムは、前記したような芳香族ポリカーボネート共重合体からなるフィルムを製膜後に延伸することにより製造することができる。フィルム製膜法としては公知の溶融押し出し法、溶液キャスト法等が用いられるが、膜厚むら、外観等の観点から溶液キャスト法がより好ましく用いられる。溶液キャスト法における溶剤としては、メチレンクロライド、ジオキソラン等が好適に用いられる。
【0023】
また、延伸方法も公知の縦一軸、横一軸、二軸延伸等の延伸方法を使用し得る。延伸性を向上させる目的で、延伸前のフィルム中に、公知の可塑剤であるジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート等のフタル酸エステル、トリブチルフォスフェート等のりん酸エステル、脂肪族二塩基エステル、グリセリン誘導体、グリコール誘導体等を配合することができる。先述のフィルム製膜時に用いた有機溶剤をフィルム中に残留させ延伸しても良い。この有機溶剤の量としてはポリマー固形分対比1〜20重量%であることが好ましい。
【0024】
位相差フィルム作製の延伸条件としてはガラス転移温度の−30℃から+50℃の範囲で行うことが好ましい。好ましくはガラス転移点温度の−10℃から+20℃の範囲である。
【0025】
さらに、位相差フィルム中にはフェニルサリチル酸、2−ヒドロキシベンゾフェノン、トリフェニルフォスフェート等の紫外線吸収剤や、色味を変えるためのブルーイング剤、酸化防止剤等を添加してもよい。前記の添加物の量としては高分子材料対比10重量%以下であることが好ましい。
【0026】
位相差フィルムの膜厚としては、特に制限はないが、通常1μmから400μm、好ましくは30〜200μm、さらに好ましくは50〜150μmである。
【0027】
本発明における位相差フィルムの配向とは、位相差フィルムを構成する高分子材料の高分子鎖が主として特定の方向に並んだ状態を指す。配向は、通常フィルムの延伸等によって生ずる。配向の度合いはR(650)で評価できるが、本発明の位相差フィルムは|R(650)|≧10nmを満足する。
【0028】
一般的に、高光弾性係数のポリカーボネート樹脂フィルムからの位相差フィルムは低延伸倍率のため、延伸倍率のバラツキ、斑の影響が大きい。一方、本発明のポリカーボネート共重合体より形成されたフィルムの場合、低複屈折性すなわち低光弾性係数(50×10−12/N(50×10−13cm/dyne)以下)であるため、必然的に一軸延伸の延伸倍率を高くすることができる。その結果位相差のバラツキ、斑の少ない位相差フィルムが得られる。位相差のバラツキは10nm以下であることが好ましく、6nm以下であることがさらに好ましい。また、十分に延伸されているので位相差フィルムを偏光板に貼合わせたりするなどの工程で受けるテンションによる変形が起りにくく、従来品より工程中での位相差の変化、バラツキ発生が誘起しにくい。
【0029】
さらに、このフィルムは視野角特性に優れており、フィルム法線方向の複屈折と法線から40°斜め入射したときの複屈折との差のフィルム法線方向のレタデーションに対する割合が10%以下であることが好ましく、8%以下であることがより好ましい。
【0030】
また、位相差フィルムは透明であることが好ましく、へーズ値は3%以下、全光線透過率は85%以上であることが好ましい。さらに、無色透明であることが好ましく、C光源を用いた測定でb*が1.2以下、より好ましくは1以下であることが望ましい。
【0031】
本発明の位相差フィルムは、例えば、通常のヨウ素や染料等の二色性吸収物質を含有する偏光フィルムや、誘電体多層膜やコレステリック高分子液晶からなる片側の偏光だけを反射または散乱させるような反射型偏光フィルム等と貼り合せ位相差フィルム一体型偏光フィルムとしてもよい。この場合には偏光フィルムの視角特性も改善することが可能である。
【0032】
位相差フィルムを偏光フィルムまたは液晶表示装置へ実装する場合は粘着剤が必要だが、粘着剤としては公知のものが用いられる。粘着剤の屈折率は積層するフィルムの屈折率の中間のものが、界面反射を抑える点で好ましい。
【0033】
上述した位相差フィルムや位相差フィルム一体型偏光フィルムを液晶表示装置等に使用することにより画質の向上が実現可能である。また、液晶セルを構成するガラス基板の代わりに本発明の位相差フィルムを使用しても良い。この場合、液晶表示装置の光学部材を減らすことが出来る上、ガラス基板の欠点である厚みを薄く出来るので、特に反射型液晶表示装置で問題となるガラスの厚みに起因する視差による画像のぼけを防ぐことが可能であるし、ガラス基板の割れ易さを補うことができるといった効果を有する。
【0034】
以上のようにして得られる本発明の芳香族ポリカーボネート共重合体から形成された位相差フィルムは高耐熱性、低複屈折性で且つ優れた透明性を示す。
【発明の効果】
【0035】
本発明のポリカーボネート樹脂から形成された位相差フィルムは高耐熱性、低複屈折で且つ透明性にも優れるので位相差フィルムとして極めて有用である。
【実施例】
【0036】
以下に実施例をあげて本発明を更に説明する。なお、実施例中の部及び%は特に断らない限り重量部及び重量%である。また比粘度、ガラス転移温度、全光線透過率、光弾性係数の測定、及び位相差フィルムの特性評価は下記の方法で実施した。
【0037】
(1)比粘度
塩化メチレン100mlにポリカーボネート樹脂パウダーを0.7g溶解し、その溶液の20℃における比粘度を測定した。
【0038】
(2)ガラス転移温度
ポリカーボネート樹脂パウダーを使用してTAインスツルメント社製の熱分析システム DSC−2910を使用して、窒素雰囲気下(窒素流量:40ml/min)、昇温速度20℃/minの条件下で測定した。
【0039】
(3)全光線透過率
塩化メチレン100mlにポリカーボネート樹脂5.0gを溶解させ、その溶液を平坦なガラス板上にキャストして一晩放置し、キャストフィルムを作成した。該フィルムを120℃、2時間乾燥させた後、全長50mm、幅50mm、平均厚み150μmのサンプルを作成し、ASTMD−1003に準拠して日本電色(株)製Σ80により測定した。
【0040】
(4)光弾性係数
塩化メチレン100mlにポリカーボネート樹脂5.0gを溶解させ、その溶液を平坦なガラス板上にキャストして一晩放置し、キャストフィルムを作成した。該フィルムを120℃、2時間乾燥させた後、全長50mm、幅20mm、平均厚み150μmのサンプルを作成し、日本分光社製エリプソメーターM−220にて測定を行った。
【0041】
(5)位相差フィルムの評価
作製した位相差フィルムについて、フィルム幅方向71mmに亘り10mm間隔で650nmにおけるレタデーション値を日本分光社製エリプソメーターM−220にて測定し、そのレタデーションの最大値と最小値の差を延伸フィルムの位相差のバラツキとした。
【0042】
(6)視野角特性の評価
作製した位相差フィルムについて、フィルム法線方向のレタデーションと法線から40°斜め入射したときのレタデーションとの差のフィルム法線方向のレタデーションに対する割合をフィルム幅方向71mmに亘り10mm間隔で日本分光社製エリプソメーターM−220を用いて測定し、その平均値を延伸フィルムの視野角特性とした。
【0043】
[位相差フィルムの製造方法]
ポリカーボネート樹脂パウダーを塩化メチレンに溶解させ、固形分濃度15重量%の溶液を調製し、平坦なガラス板上にドープをキャストして平均厚み60μm、幅方向の厚さのバラツキが1.1μmのフィルムを作製した。本フィルムの端部を切り落として幅100mm、長さ100mmとし、塩化メチレン溶液を除去するため該フィルムを120℃、2時間乾燥させた。得られたフィルムを所定延伸温度(ガラス転移温度+10℃)にて長さ方向に延伸速度15mm/minで2.0倍一軸延伸を行い、幅71mm、平均厚み42μm、長さ200mmの延伸フィルムを得た。該フィルムを偏光板にて観察を行ったところ、全幅方向で均一に延伸されていることを確認した。
【0044】
[実施例1]
6,6’−ジヒドロキシ−3,3,3’,3’−テトラメチル−1,1’−スピロビインダン19.5部、ビスフェノールA2.54部、48.5%苛性ソーダ水溶液24.6部及び蒸留水107.7部を撹拌器付き反応器に仕込み溶解した。これに塩化メチレン82.6部を加え、混合溶液が20℃になるように冷却し、ホスゲン10.0部を40分で吹込んだ。その後反応液にp−tert−ブチルフェノール0.11部を塩化メチレンに溶解した溶液で加え、48.5%苛性ソーダ水溶液3.09部およびトリエチルアミン0.03部を加えて2時間撹拌を続けて反応を終了した。反応終了後反応液から下層のポリカーボネートの塩化メチレン溶液を分液し、この溶液を塩酸水溶液、蒸留水によって洗浄した後、塩化メチレンを蒸発除去させてポリカーボネートパウダーを得た。得られたパウダーを用いて比粘度・ガラス転移温度・全光線透過率・光弾性係数を測定し、表1に記載した。該パウダーにて上述の手法に従いフィルム延伸を行い、位相差フィルムとしての特性評価を実施し、表1に記載した。
【0045】
[実施例2]
6,6’−ジヒドロキシ−3,3,3’,3’−テトラメチル−1,1’−スピロビインダンを16.1部及びビスフェノールAを5.1部使用する以外は実施例1と同様にしてパウダーを得た。得られたパウダーを用いて比粘度・ガラス転移温度・全光線透過率・光弾性係数を測定し、表1に記載した。該パウダーにて上述の手法に従いフィルム延伸を行い、位相差フィルムとしての特性評価を実施し、表1に記載した。
【0046】
[実施例3]
6,6’−ジヒドロキシ−3,3,3’,3’−テトラメチル−1,1’−スピロビインダンを11.5部及びビスフェノールAを8.5部使用する以外は実施例1と同様にしてパウダーを得た。得られたパウダーを用いて比粘度・ガラス転移温度・全光線透過率・光弾性係数を測定し、表1に記載した。該パウダーにて上述の手法に従いフィルム延伸を行い、位相差フィルムとしての特性評価を実施し、表1に記載した。
【0047】
[比較例1]
6,6’−ジヒドロキシ−3,3,3’,3’−テトラメチル−1,1’−スピロビインダンを2.3部及びビスフェノールAを15.2部使用する以外は実施例1と同様にしてパウダーを得た。得られたパウダーを用いて比粘度・ガラス転移温度・全光線透過率・光弾性係数を測定し、表1に記載した。該パウダーにて上述の手法に従いフィルム延伸を行い、位相差フィルムとしての特性評価を実施し、表1に記載した。
【0048】
[比較例2]
比粘度が0.451のビスフェノールAポリカーボネートパウダー[帝人化成(株)製パンライトL−1250]を用いて実施例1と同様に比粘度・ガラス転移温度・全光線透過率・光弾性係数を測定し、表1に記載した。該パウダーにて上述の手法に従いフィルム延伸を行い、位相差フィルムとしての特性評価を実施し、表1に記載した。
【0049】
[比較例3]
6,6’−ジヒドロキシ−3,3,3’,3’−テトラメチル−1,1’−スピロビインダンを8.1部及びビスフェノールAを11.0部使用する以外は実施例1と同様にしてパウダーを得た。得られたパウダーの比粘度・ガラス転移温度・全光線透過率・光弾性係数を測定し、表1に記載した。該パウダーにて上述の手法に従いフィルム延伸を行い、位相差フィルムとしての特性評価を実施し、表1に記載した。
【0050】
[比較例4]
6,6’−ジヒドロキシ−3,3,3’,3’−テトラメチル−1,1’−スピロビインダンを23.1部を使用する以外は実施例1と同様にしてパウダーを得た。得られたパウダーの比粘度・ガラス転移温度・全光線透過率・光弾性係数を測定し、表1に記載した。該パウダーにて上述の手法に従いフィルム延伸を行い、位相差フィルムとしての特性評価を実施し、表1に記載した。
【0051】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式[1]
【化1】

(式中、R及びRは水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1〜6のアルキル基、炭素原子数6〜10のアリール基、又は炭素原子数1〜6のアルコキシ基、であって、同一又は異なっていてもよい。)
で表される繰り返し単位(A)と
下記式[2]
【化2】

(式中、Wは単結合、アルキリデン基、シクロアルキリデン基、フェニル基置換アルキリデン基、スルホン基、スルフィド基又はオキシド基であり、R及びRは水素原子、ハロゲン原子、フェニル基、炭素原子数1〜3のアルキル基であって、同一又は異なっていてもよく、m及びnは夫々1〜4の整数である。)
で表される繰り返し単位(B)より実質的に構成され、全カーボネート繰り返し単位における単位(A)と単位(B)の割合がモル比で(A):(B)=50:50〜99:1である芳香族ポリカーボネート共重合体から形成された位相差フィルム。
【請求項2】
光弾性係数が50×10−12 /N(50×10−13 cm/dyne)以下で且つ0.7gを100mlの塩化メチレンに溶解し20℃で測定した比粘度が0.19以上である芳香族ポリカーボネート共重合体より形成された請求項1記載の位相差フィルム。
【請求項3】
全カーボネート繰り返し単位における単位(A)と単位(B)の割合がモル比で(A):(B)=70:30〜95:5である芳香族ポリカーボネート共重合体より形成された請求項1または2記載の位相差フィルム。
【請求項4】
上記式[1]においてR及びRが同一もしくは異なり、水素原子、炭素原子数1〜3のアルキル基、フェニル基である芳香族ポリカーボネート共重合体より形成された請求項1〜3のいずれかに記載の位相差フィルム。
【請求項5】
上記式[2]においてWがアルキリデン基であり、R及びRが水素原子である芳香族ポリカーボネート共重合体より形成された請求項1〜4のいずれかに記載の位相差フィルム。
【請求項6】
下記式[1]
【化3】

(式中、R及びRは水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1〜6のアルキル基、炭素原子数6〜10のアリール基又は炭素原子数1〜6のアルコキシ基、であって、同一又は異なっていてもよい。)
で表される繰り返し単位(A)と
下記式[2]
【化4】

(式中、Wは単結合、アルキリデン基、シクロアルキリデン基、フェニル基置換アルキリデン基、スルホン基、スルフィド基又はオキシド基であり、R及びRは水素原子、ハロゲン原子、フェニル基、炭素原子数1〜3のアルキル基であって、同一又は異なっていてもよく、m及びnは夫々1〜4の整数である。)
で表される繰り返し単位(B)より実質的に構成され、全カーボネート繰り返し単位における単位(A)と単位(B)の割合がモル比で(A):(B)=50:50〜99:1であるフィルム用芳香族ポリカーボネート共重合体。

【公開番号】特開2006−131789(P2006−131789A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−323477(P2004−323477)
【出願日】平成16年11月8日(2004.11.8)
【出願人】(000215888)帝人化成株式会社 (504)
【Fターム(参考)】