説明

位置検出装置、そのプログラム、モニタリングシステム、及び気管挿管訓練装置

【課題】 撮像装置を使わずに比較的簡単な構造で直視できない部位を視認可能にする。
【解決手段】 本発明の気管挿管訓練装置10は、舌部36に喉頭鏡18のブレード25が接触した際の押圧力を測定する力センサ47と、力センサ47の測定値から舌表面36Aの位置を求める位置検出装置15と、舌表面36Aの位置に基づき舌部36の形状を視覚的に呈示する画像生成装置16とを備えている。位置検出装置15は、舌部36内に仮想の構造体56が配置されていると仮定し、構造体56に作用する外力の大きさと舌表面36A内の各対象点Sの位置との関係を表す演算式が予め記憶された記憶手段53と、力センサ47の測定値を前記演算式に代入して各対象点Sの位置を求める演算手段54とを備えている。画像生成装置16では、所定の座標上で各対象点Sの位置を繋ぎ合わせることで、舌部36の形状を表す画像を生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性体の所定部位の位置を力センサの測定値から求める位置検出装置及びそのプログラムに関し、また、位置検出装置で求めた所定部位の位置から当該所定部位の形状を表す画像を生成することで、カメラ等の撮像装置を用いずに、前記弾性体の弾性変形状態や変位状態をモニタリングすることのできるモニタリングシステムに関し、更に、当該モニタリングシステムが適用された気管挿管訓練装置に関する。
【背景技術】
【0002】
病気や事故等により意識障害や心肺停止が発生し、また、手術の際に全身麻酔を行うと、それら患者の下顎内の筋肉が弛緩して舌の付根(舌根)が沈下する。その結果、当該患者の口内から肺に至る空気の通路(気道)が一部閉塞してしまい、患者の肺内に空気が供給されなくなってしまう。このような気道閉塞状態では、医師や救急救命士が患者の口から気道内に気管挿管チューブを差し込み、当該気管挿管チューブにより、患者の肺内に強制的に空気を送り込む処置が行われる。この処置は、先ず、側面視ほぼL字状の形状をなす喉頭鏡と呼ばれる器具を用い、その先端側に位置するブレードを口内に挿入し、沈下した舌根部分を起こして気道の閉塞部位を持ち上げ、喉頭鏡で口内の状態を確認しながら、口内から気道内に気管挿管チューブを差し込む。ここで、当該気管挿管チューブは、その最先端側に空気の吹出部が設けられたチューブ本体と、前記吹出部よりもやや後側となるチューブ本体の周囲に設けられたカフとを備えている。当該カフは、その内部に注入される空気量に応じて膨張及び収縮が可能となるバルーン状に設けられており、前記吹出部が気道中の適切な気管内位置に達したときに、外側からカフ内に空気が送り込まれて膨張し、当該カフを気管壁に接触させる。そして、この状態で、体外からの空気がチューブ本体内を通って吹出部から気管内に供給される。このとき、チューブ本体の周りにあるカフにより、当該チューブ本体の外側と気管壁との間の隙間が閉塞される。その結果、カフよりも気管内奥側に位置する吹出部から肺方向に供給された空気が、肺の逆側となる口内方向に逆流することを防止でき、併せて、口内に流出した血液や食道からの胃液等の異物が肺内に入り込むことも防止できる。
【0003】
このような気管挿管処置の際には、一刻を争うことから、気管挿管チューブを瞬時且つ適切に気道に挿入しなければならず、そのためには、日頃からの訓練が不可欠となるが、気管挿管処置には様々な留意点があり、これら留意点を考慮した訓練が必要になる。
【0004】
例えば、喉頭鏡を使って舌根を起こす際には、当該喉頭鏡の先端側のブレードを舌の適正部位に当てる必要があり、そこを支点として喉頭鏡を回転させることで、舌が上手く持ち上がる。ところが、初心者は、誤った部位を支点として喉頭鏡を回転してしまい、舌を上手く持ち上げられない場合があることから、喉頭鏡の回転支点となる正しい部位を正確に見つけ出して、当該部位にいち早くブレードを当てる訓練が必要になる。また、喉頭鏡で舌を持ち上げる際に、そのブレードが上顎前歯部分に接触して当該歯が折損する事故が発生する場合もあり、喉頭鏡の回転時に、ブレードで上顎前歯部分を押し付けないように訓練する必要もある。
【0005】
更に、気管挿管チューブの出し入れ時には、当該気管挿管チューブが声帯の中央に形成された隙間を通過することになるが、このとき、気管挿管チューブが声帯に接触することで当該声帯が傷付けられる場合がある。従って、気管挿管チューブを出し入れする際には、声帯との接触に十分注意しながら行わなければならない。
【0006】
また、気管挿管チューブの最先端側となる吹出部は、気管支よりも手前の気管内部分に配置される必要がある。つまり、吹出部が気管支から分岐した一方の気管内に達してしまうと、片方の肺内しか空気が供給されない片肺状態を招来することになる。従って、気管支の手前となる気管内の適正部分に吹出部を確実に配置する訓練も必要となる。
【0007】
更に、カフ内に空気を注入する際に、当該カフの膨らみが少ないと、前述したような吹出部からの供給空気の逆流等が生じる。一方、カフの膨らみが多過ぎると、気管壁の粘膜が損傷し、細胞壊死が発生する虞がある。従って、カフを適正な圧力で膨らませる訓練も必要になる。
【0008】
そこで、本出願人は、医師や救急救命士等が気管挿管訓練を行いながら、前述の様々な留意点を考慮し、気管挿管手技を客観的に評価することができる気管挿管訓練装置を提案している(特許文献1参照)。
【0009】
この気管挿管訓練装置では、訓練者による気管挿管訓練時に、前記気管挿管チューブ及び前記喉頭鏡からなる気管挿管器具がモデル内の模擬気道に挿入されると、模擬気道内の模擬部位に接触した気管挿管器具の押圧力が力センサで測定されるとともに、気管挿管チューブの先端位置が位置検出センサで測定され、これら各センサの測定値に基づいて評価値を算出するようになっている。
【特許文献1】特開2008−64824号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、前記気管挿管訓練装置では、人体を模擬している関係で、人体同様、モデルの内部に設けられた模擬気道内の状態をモデルの外側から直視できない。このため、気管挿管訓練時に気管挿管器具が模擬気道内に挿入されたときに、当該気管挿管器具の接触による前記模擬部位の弾性変形状態及び変位状態を視認することができない。例えば、前記気管挿管訓練装置では、喉頭鏡のブレードで舌部を起こす喉頭展開手技の際に、ブレードの存在により、舌部の弾性変形状態及び変位状態を直視できない部位があり、ブレードが舌部の適正位置に当たっているか否かを視覚的に確認しにくい。そこで、ブレードが舌部に当たったときの舌部の状態を完全に目視できるようにすると、訓練者の喉頭展開手技の向上に資することになる他、気管挿管訓練に立ち会う指導者にとっては、訓練者への指導が行い易くなり、総じて、気管挿管訓練の効果が更に向上すると考えられる。
【0011】
そこで、前記気管挿管訓練装置の模擬気道内にカメラ等の撮像装置を設け、当該撮像装置で模擬気道内の状態を撮像し、当該状態を訓練者や指導者がモニタ等の表示装置で目視できるようにすることも可能である。ところが、気管挿管訓練装置は、人体に模擬して形成されているため、口から肺まで延びる模擬気道の形状が複雑で、模擬気道内の状態を完全に目視可能にするためには、多くの撮像装置を様々な角度から口内部や気管部に取り付けなければならない。従って、この場合は、模擬気道内に多くの撮像装置が表出することになり、当該撮像装置が気管挿管訓練時における気管挿管器具の挿入の邪魔になる可能性があり、人体の場合に近い気管挿管訓練が行えなくなるばかりか、装置全体が大型化、複雑化してしまい、装置の製造コストの高騰化をも招来することになる。
【0012】
本発明は、このような課題に着目して案出されたものであり、その目的は、撮像装置を使わずに、比較的簡単な構造で直視できない部位を視認可能にするための位置検出装置、そのプログラム、モニタリングシステム、及び気管挿管訓練装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(1)前記目的を達成するため、本発明は、外力が与えられると弾性変形しながら変位する弾性体に設けられた力センサの測定値から、前記弾性体の所定部位の位置を求める位置検出装置であって、
前記弾性体内に仮想の構造体が配置されていると仮定し、当該構造体に作用する外力の大きさと前記所定部位の位置との関係を表す演算式が予め記憶された記憶手段と、
前記外力の大きさとして前記力センサで測定された値を前記演算式に代入して前記位置を求める演算手段とを備える、という構成を採っている。
【0014】
(2)また、前記構造体は、前記弾性体の実際の変位を模擬して動作可能な仮想リンクと、前記力センサの取り付け位置と前記仮想リンクの間に仮想的に配置され、前記弾性体の実際の弾性変形を模擬した仮想ばねとにより構成される、という構成を採っている。
【0015】
(3)更に、本発明は、外力が与えられると弾性変形しながら変位する弾性体に設けられた力センサの測定値から、コンピュータを使って前記弾性体の所定部位の位置を求める位置検出装置にインストールされるプログラムであって、
前記弾性体内に仮想の構造体が配置されていると仮定し、当該構造体に作用する外力の大きさと前記所定部位の位置との関係を表す演算式が予め記憶された記憶手段と、
前記外力の大きさとして前記力センサで測定された値を前記演算式に代入して前記位置を求める演算手段として、前記コンピュータを機能させる、という構成を採っている。
【0016】
(4)また、本発明は、前記位置検出装置と、当該位置検出装置で求めた前記弾性体の所定部位の位置に基づき、当該所定部位の形状を視覚的に呈示する画像生成装置とを備えたモニタリングシステムであって、
前記位置検出装置では、前記弾性体の表面に設定された複数の対象点の位置を求め、
前記画像生成装置では、所定の座標上で前記各対象点の位置を繋ぎ合わせることで、前記所定部位の形状を表す画像を生成する、という構成を採っている。
【0017】
(5)更に、本発明は、気管挿管器具を使った気管挿管手技の訓練を行うための気管挿管訓練装置において、
生体の気道を模擬して前記気管挿管器具が挿入される模擬気道と、当該模擬気道内に表出する生体の模擬部位と、当該模擬部位に前記気管挿管器具が接触した際の押圧力を測定する力センサと、当該力センサの測定値に応じて気管挿管手技の評価を行う評価装置と、前記力センサの測定値から前記模擬部位の位置を求める位置検出装置と、当該位置検出装置で求めた前記模擬部位の位置に基づき、当該模擬部位の形状を視覚的に呈示する画像生成装置とを備え、
前記位置検出装置は、前記模擬部位内に仮想の構造体が配置されていると仮定し、当該構造体に作用する外力の大きさと前記模擬部位内に設定された複数の対象点の位置との関係を表す演算式が予め記憶された記憶手段と、
前記外力の大きさとして前記力センサで測定された値を前記演算式に代入して前記各対象点の位置を求める演算手段とを備え、
前記画像生成装置では、所定の座標上で前記各対象点の位置を繋ぎ合わせることで、前記模擬部位の形状を表す画像を生成する、という構成を採っている。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、別の用途で使っている力センサを併用しながら弾性体の所定部位の位置を求めることができる。例えば、気管挿管訓練装置では、模擬気道に表出する模擬部位に気管挿管器具が接触したときの押圧力を測定する力センサの測定値から、気管挿管訓練の評価値を算出するのみならず、気管挿管器具の接触によって弾性変形及び変位が生じた模擬部位の位置をも算出することができる。更には、カメラ等の撮像装置を別途配置することなく、既に別の用途で利用している力センサの測定値から模擬部位の状態を表す画像が生成されることから、簡単な装置構成で従来直視できなかった模擬部位の視認が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0020】
図1には、本実施形態に係る気管挿管訓練装置の概略構成図が示されている。この図において、気管挿管訓練装置10は、医師や救急救命士等の訓練者が気管挿管器具12を使って気管挿管訓練を行い、その訓練の結果、気管挿管手技の評価を行えるようになっている。この気管挿管訓練装置10は、人体の上半身部分を模擬した外形を有し、気管挿管器具12を使った気管挿管訓練が行われるモデル13と、このモデル13に対して行われた気管挿管手技の評価を行う評価装置14と、モデル13内の所定部位の位置を求める位置検出装置15と、当該位置検出装置15を用いて前記所定部位の形状を視覚的に呈示する画像生成装置16とを備えて構成されている。なお、位置検出装置15と画像生成装置16は、弾性体によって形成されたモデル13内の所定部位の弾性変形状態及び変位状態を視認可能にするモニタリングシステムを構成する。
【0021】
ここで、前記気管挿管器具12としては、公知の気管挿管チューブ17及び喉頭鏡18がある。
【0022】
前記気管挿管チューブ17は、空気が通るチューブ本体20と、このチューブ本体20の最先端側に設けられた空気の吹出部21と、当該吹出部21よりもやや後側のチューブ本体20の周囲に設けられたカフ22とを備えている。当該カフ22は、その内部に外側から空気を注入できるようになっており、当該空気の注入量に応じて膨張及び収縮が可能なバルーン状に設けられている。
【0023】
前記喉頭鏡18は、その先端側に側面視ほぼL字状のブレード25を備えている。
【0024】
前記モデル13は、人体の表面部分を模擬したカバー27と、このカバー27で周囲が被われ、気管挿管訓練に必要となる人体の部位が模擬された模擬体28とを備えている。
【0025】
前記模擬体28は、人体の口部から気管支までの気道構造と口内からの食道構造とが模擬された構造となっている。具体的に、この模擬体28は、図2に示されるように、人体の頭部に相当する頭部30と、この頭部30に回転可能に連なる下顎部31と、これら頭部30及び下顎部31の間に設けられるとともに、図2中上部が開放する口内部32と、頭部30の図2中右側の上顎部33に固定された上顎前歯部34と、下顎部31の図2中左側に設けられ、口内部32内に配置される舌部36と、この舌部36の付け根となる口内部32の奥側の舌根部37付近に設けられた喉頭蓋部39と、この喉頭蓋部39の図2中右隣に設けられた声帯部41と、声帯部41を介して口内部32に連なる気管部43と、この気管部43の図2中下側に配置されて口内部32に連なる食道部44とを備えている。ここで、口内部32及び気管部43の内部空間は、人体の気道を模擬した模擬気道を構成する。また、上顎前歯部34、舌部36、舌根部37、喉頭蓋部39及び気管部43は、前記模擬気道内に表出する人体の模擬部位を構成する。
【0026】
前記上顎前歯部34には、口内部32側となる表面の複数箇所に、前記評価装置14に繋がる力センサ46が設けられており、この力センサ46では、上顎前歯部34の表面に作用した外力の大きさが測定される。
【0027】
前記舌部36は、人間の舌に近い弾性を有する弾性体により、当該舌に近い形状に形成されており、舌表面36A側から外力が与えられると、当該外力に応じて弾性変形しながら舌根部37側を支点にして変位可能になっている。また、舌部36には、前記評価装置14及び前記位置検出装置15に繋がる力センサ47が設けられており、この力センサ47では、舌表面36Aに作用した外力の大きさが測定される。この力センサ47は、特に限定されるものではないが、図3及び図4に示されるように、舌表面36A側の表層部分に埋設され、図4中左右方向5列に整列配置され、各列それぞれ同図中上下方向(舌部36の前後方向)に9個ずつ固定されている。
【0028】
前記声帯部41には、図2に示されるように、前記評価装置14(図1参照)に繋がる力センサ48が設けられており、この力センサ48では、声帯部41に作用した外力の大きさが測定される。
【0029】
前記気管部43には、その内壁面の複数箇所に、評価装置14に繋がる力センサ49及び位置検出センサ50が設けられている。ここでの力センサ49では、気管部43の内壁に作用した外力の大きさが測定され、位置検出センサ50では、当該位置検出センサ50が設けられた気管部43内の位置に気管挿管チューブ17の先端側の吹出部21が存在するか否がセンシングされる。
【0030】
前記食道部44の内壁面には、評価装置14に繋がる位置検出センサ51が設けられており、この位置検出センサ51では、気管挿管チューブ17の食道部44内への侵入が検出される。
【0031】
なお、以上の各センサ46〜51としては、本出願人が提案した前記特許文献1に開示された構造のものが採用されているが、本発明はこれに限らず、力センサ46〜49については、各力センサ46〜49が取り付けられた部位に付加された外力の大きさを測定可能となる限りにおいて、他の圧力センサ(感圧センサ)等に代替することも可能である。また、位置検出センサ50,51についても、本実施形態と同様の位置検出ができる限りにおいて、他の構造のセンサに代替可能である。
【0032】
前記評価装置14、前記位置検出装置15、及び前記画像生成装置16は、一台若しくは複数台のコンピュータにより構成されており、プロセッサ、メモリ、ハードディスク、複数のプログラムモジュール及び処理回路等からなり、コンピュータを以下のように機能させるプログラムがインストールされている。
【0033】
前記評価装置14は、前記各力センサ46〜49及び各位置検出センサ50,51からの測定値に基づいて、予め記憶された評価関数を使って気管挿管手技の評価値を算出するようになっている。この評価値の算出は、前記特許文献1に開示された手法が採用されており、また、本発明の本質でないため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0034】
前記位置検出装置15は、舌部36に設けられた力センサ47の測定値に基づき、舌表面36A(所定部位)の位置を求めるようになっている。すなわち、気管挿管訓練時に、訓練者は、喉頭鏡18のブレード25を口内部32に差し込み、図3に示されるように、当該ブレード25を舌表面36Aに当てながら舌部36を同図中上方に持ち上げて、口内部32側から気管部43の開口端43Aを開放させる喉頭展開手技を行うが、このときに、弾性変形しながら変位した舌部36の表面位置が位置検出装置15で求められることになる。
【0035】
前記位置検出装置15は、舌部36に設けられた45個の力センサ47でそれぞれ測定された外力の大きさと当該各力センサ47が取り付けられた舌表面36Aの対象点Sの位置との関係を表す演算式が予め記憶された記憶手段53(図1参照)と、力センサ47の測定値を前記演算式に代入して対象点Sの位置を求める演算手段54(図1参照)とを備えている。
【0036】
前記演算式は、図4及び図5に示される仮想の構造体56が舌部36内に配置されていると仮定し、当該構造体56を使って、舌部36の対象点Sに作用する外力fと当該対象点Sの位置(座標)との関係を力学的に導出したものである。なお、本演算式で用いられる座標系は、所定地点を原点とする図5のx−y座標系が用いられ、図5中紙面直交方向の座標(z軸)は考慮されない。また、以下の説明の便宜上、図5中の各対象点Sのうち、舌部36の最も先端側に位置する対象点Sを対象点Sとし、喉頭蓋部39側となる基端側に向かって順に対象点S〜Sとする。また、各対象点S〜Sにそれぞれ作用する外力fの大きさをf〜fとし、対象点Sの下付き数字と同一の下付き数字が付加された外力fが、該当する対象点Sに作用する外力fの大きさを意味する。
【0037】
前記構造体56は、図4中一点鎖線で示されるように、舌表面36Aの5箇所でそれぞれ前後方向(同図中上下方向)に延びており、各力センサ47の下方となる舌部36内に存在すると仮定される。
【0038】
前記各構造体56は、それぞれ同一の構造となっており、図5に示されるように、外力fが作用したときの舌部36の変位を模擬して動作可能な構造の仮想リンク58と、この仮想リンク58の複数箇所に取り付けられた仮想ばね59とを備えて構成されている。なお、構造体56としては、必要に応じてダンパ要素を付加することもできる。
【0039】
前記仮想リンク58は、弾性変形しない剛体からなる第1、第2、第3及び第4の棒状体61,62,63,64と、これら第1〜第4の各棒状体61〜64を回転可能に連結する第1、第2及び第3の連結点P,P,Pとからなる。
【0040】
前記第1〜第3の棒状体61〜63は、相互に等しい長さとされ、舌部36の先端側から基端側となる喉頭蓋部39側に向かって順に接続される。また、第4の棒状体64は、喉頭蓋部39の内部に延びるように第3の棒状体63に接続されている。
【0041】
前記各連結点P,P,Pでは、各棒状体61〜64を舌部36の上下方向(図5中紙面に沿う方向)のみに回転させるようになっており、当該回転に対して同図中矢印方向に付勢する回転用ばね65が設けられているとする。この回転用ばね65は、舌部36に外力が付加されてない場合、第1〜第3の棒状体61〜63が相互に所定の角度で連なった初期状態になるように設定される。
【0042】
前記仮想ばね59は、力センサ47が取り付けられた対象点S〜Sと第1〜第3の棒状体61〜63との間にそれぞれ配置された表面連結ばね68と、前記x−y座標系のx軸方向に沿って、第3の連結点Pから仮想固定端69に延びる第1の支持ばね70と、同y軸方向に沿って、第3の連結点Pから仮想固定端71に延びる第2の支持ばね72とからなる。
【0043】
前記表面連結ばね68は、対象点S〜Sから第1の棒状体61に接続され、対象点S〜Sから第2の棒状体62に接続され、対象点S〜Sから第3の棒状体63に接続されている。ここで、対象点Sから延びる表面連結ばね68は、第1の連結点Pまでの距離が第1の棒状体61の5/6の長さとなる第1の棒状体61の位置に取り付けられており、対象点Sから延びる表面連結ばね68は、第1の連結点Pまでの距離が第1の棒状体61の1/2の長さとなる第1の棒状体61の位置に取り付けられており、対象点Sから延びる表面連結ばね68は、第1の連結点Pまでの距離が第1の棒状体61の1/6の長さとなる第1の棒状体61の位置に取り付けられている。同様に、対象点S〜Sから延びる表面連結ばね68は、第2の連結点Pまでの距離が第2の棒状体62の5/6、1/2、1/6の長さとなる第2の棒状体62の位置にそれぞれ取り付けられている。また、対象点S〜Sから延びる表面連結ばね68は、第3の連結点Pまでの距離が第3の棒状体63の5/6、1/2、1/6の長さとなる第3の棒状体63の位置にそれぞれ取り付けられている。また、各表面連結ばね68は、第1〜第3の棒状体61〜63に対して全て90度の角度で固定されているとする。
【0044】
前記演算式は、以下の各式によって構成される。
【0045】
先ず、図5に示されるように、第1の棒状体61に対する第2の棒状体62の相対角度を第1の角度θとし、第2の棒状体62に対する第3の棒状体63の相対角度を第2の角度θとし、y軸に対する第3の棒状体63の角度を第3の角度θとする。そして、各対象点S〜Sに外力が加わっていない初期状態における第1、第2及び第3の角度θ,θ,θは、予め設定された定数A,A,Aとする。
【0046】
そして、第1〜第3の連結点P,P,Pの回りのモーメントM,M,Mと、各対象点S〜Sに外力f〜fが作用したときにおける第1、第2及び第3の角度θ,θ,θは、次の通りである。ここで、第1〜第3の棒状体61〜63の長さを予め設定された一定値lとし、第1の連結点Pに設けられた回転用ばね65のばね定数をk、第2の連結点Pに設けられた回転用ばね65のばね定数をk、第3の連結点Pに設けられた回転用ばね65のばね定数をkとする。これらばね定数k,k,kは、予め設定された一定値とする。
【数1】

【0047】
次に、各対象点S〜Sに外力f〜fが作用したときに、第1〜第3の連結点P〜Pの前記x−y座標系における位置は、次の通りである。ここで、第1の連結点Pの座標を(x,y)とし、第2の連結点Pの座標を(x,y)とし、第3の連結点Pの座標を(x,y)とする。また、前記初期状態における第3の連結点Pの座標は、予め設定された一定値(a,b)とする。また、第1の支持ばね70のばね定数をk、第2の支持ばね72のばね定数をkとする。これらばね定数k,kも、予め設定された一定値とする。
【数2】

【0048】
更に、各対象点S〜Sに外力f〜fが作用したときに、各対象点S〜Sと第1〜第3の棒状体61〜63との最短距離l(n=1〜9の整数)は、次の通りである。ここで、各表面連結ばね68のばね定数をK(n=1〜9の整数)とし、前記初期状態における各表面連結ばね68の長さをL(n=1〜9の整数)とし、これらばね定数Kとばね長さLは、予め設定された一定値とする。なお、ここでの下付き文字nは、各対象点S〜Sの下付き数字に対応しており、例えば、対象点Sでは、外力f、最短距離l、ばね定数K、ばね長さLになり、対象点Sでは、外力f、最短距離l、ばね定数K、ばね長さLになるという意味である。
【数3】

【0049】
そして、各対象点S〜Sに外力f〜fが作用したときの各対象点S〜Sの座標は、次の通りである。ここで、対象点Sの座標を(xS1,yS1)とし、対象点Sの座標を(xS2,yS2)とし、対象点Sの座標を(xS3,yS3)とし、対象点Sの座標を(xS4,yS4)とし、対象点Sの座標を(xS5,yS5)とし、対象点Sの座標を(xS6,yS6)とし、対象点Sの座標を(xS7,yS7)とし、対象点Sの座標を(xS8,yS8)とし、対象点S9の座標を(xS9,yS9)とする。
【数4】

【0050】
前記演算手段54では、各対象点S〜Sに作用した外力f〜fが力センサ47で測定されると、記憶手段53に記憶された前述の数式を使って、各対象点S〜Sの座標(xS1,yS1)〜(xS9,yS9)が求められることになる。
【0051】
前記画像生成装置16では、5個の各構造体56について、位置検出装置15により各対象点S〜Sの座標(xS1,yS1)〜(xS9,yS9)がそれぞれ求められると、スプライン補間法等の公知の手法により、各対象点Sが繋ぎ合わされ、舌部36の外形形状が推定される。そして、当該推定に基づいて舌部36の3Dグラフィックス画像が形成され、当該画像が図示省略したモニタ等の表示装置に呈示される。その結果、訓練者や指導者は、訓練時における舌部36の実際の弾性変形及び変位に相当する形状の3Dグラフィックス画像を目視しながら、喉頭展開手技の様子を目で確認することができる。
【0052】
従って、このような実施形態によれば、訓練時における舌部36の実際の弾性変形及び変位を撮像するカメラ等の撮像装置を用いなくても、気管挿管手技評価に用いる力センサ47を併用することで、前記弾性変形及び変位に相当する3Dグラフィックス画像を訓練者及び指導者に呈示することができる。その結果、このような画像呈示機能を従来の気管挿管訓練装置に新たに追加しても、必要最小限の装置構成の追加で済み、装置全体の大型化や複雑化を回避することができる。
【0053】
なお、前記実施形態では、舌部36の3Dグラフィックス画像を生成したが、外力が与えられると弾性変形しながら変位する弾性体からなるその他の模擬部位についても、前記実施形態のように構造体56を仮想的に配置し、外力が与えられたときの前記模擬部位の位置を力学的に求め、当該位置に基づき、前記模擬部位の3Dグラフィックス画像を生成してもよい。例えば、気管挿管チューブ17のカフ22が気管部43の内壁を押圧したときに、当該内壁部分の弾性変形及び変位を表現する3Dグラフィックス画像の生成も可能である。
【0054】
また、前記位置検出装置15は、3Dグラフィックス画像を生成するための利用に限らず、弾性変形及び変位を伴う弾性体の位置を求める必要がある他の用途にも利用できる。
【0055】
更に、前記位置検出装置15及び画像生成装置16は、気管挿管訓練装置10への適用に限らず、単独利用若しくは他の装置への適用も可能である。
【0056】
その他、本発明における装置各部の構成は図示構成例に限定されるものではなく、実質的に同様の作用を奏する限りにおいて、種々の変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本実施形態に係る気管挿管訓練装置の概略構成図。
【図2】模擬体の拡大断面図。
【図3】舌部の概略側面図。
【図4】舌部の概略正面図。
【図5】舌部内に仮想的に配置された構造体の構成を説明するための拡大側面図。
【符号の説明】
【0058】
10 気管挿管訓練装置
12 気管挿管器具
14 評価装置
15 位置検出装置
16 画像生成装置
32 口内部(模擬気道)
34 上顎前歯部(模擬部位)
36 舌部(弾性体、模擬部位)
36A 舌表面(所定部位)
37 舌根部(模擬部位)
39 喉頭蓋部(模擬部位)
41 声帯部(模擬部位)
43 気管部(模擬気道)
44 食道部(模擬食道)
47 力センサ
53 記憶手段
54 演算手段
56 構造体
58 仮想リンク
59 仮想ばね
S 対象点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外力が与えられると弾性変形しながら変位する弾性体に設けられた力センサの測定値から、前記弾性体の所定部位の位置を求める位置検出装置であって、
前記弾性体内に仮想の構造体が配置されていると仮定し、当該構造体に作用する外力の大きさと前記所定部位の位置との関係を表す演算式が予め記憶された記憶手段と、
前記外力の大きさとして前記力センサで測定された値を前記演算式に代入して前記位置を求める演算手段とを備えたことを特徴とする位置検出装置。
【請求項2】
前記構造体は、前記弾性体の実際の変位を模擬して動作可能な仮想リンクと、前記力センサの取り付け位置と前記仮想リンクの間に仮想的に配置され、前記弾性体の実際の弾性変形を模擬した仮想ばねとにより構成されていることを特徴とする請求項1記載の位置検出装置。
【請求項3】
外力が与えられると弾性変形しながら変位する弾性体に設けられた力センサの測定値から、コンピュータを使って前記弾性体の所定部位の位置を求める位置検出装置にインストールされるプログラムであって、
前記弾性体内に仮想の構造体が配置されていると仮定し、当該構造体に作用する外力の大きさと前記所定部位の位置との関係を表す演算式が予め記憶された記憶手段と、
前記外力の大きさとして前記力センサで測定された値を前記演算式に代入して前記位置を求める演算手段として、前記コンピュータを機能させることを特徴とする位置検出装置のプログラム。
【請求項4】
請求項1又は2に記載された位置検出装置と、当該位置検出装置で求めた前記弾性体の所定部位の位置に基づき、当該所定部位の形状を視覚的に呈示する画像生成装置とを備えたモニタリングシステムであって、
前記位置検出装置では、前記弾性体の表面に設定された複数の対象点の位置を求め、
前記画像生成装置では、所定の座標上で前記各対象点の位置を繋ぎ合わせることで、前記所定部位の形状を表す画像を生成することを特徴とするモニタリングシステム。
【請求項5】
気管挿管器具を使った気管挿管手技の訓練を行うための気管挿管訓練装置において、
生体の気道を模擬して前記気管挿管器具が挿入される模擬気道と、当該模擬気道内に表出する生体の模擬部位と、当該模擬部位に前記気管挿管器具が接触した際の押圧力を測定する力センサと、当該力センサの測定値に応じて気管挿管手技の評価を行う評価装置と、前記力センサの測定値から前記模擬部位の位置を求める位置検出装置と、当該位置検出装置で求めた前記模擬部位の位置に基づき、当該模擬部位の形状を視覚的に呈示する画像生成装置とを備え、
前記位置検出装置は、前記模擬部位内に仮想の構造体が配置されていると仮定し、当該構造体に作用する外力の大きさと前記模擬部位内に設定された複数の対象点の位置との関係を表す演算式が予め記憶された記憶手段と、
前記外力の大きさとして前記力センサで測定された値を前記演算式に代入して前記各対象点の位置を求める演算手段とを備え、
前記画像生成装置では、所定の座標上で前記各対象点の位置を繋ぎ合わせることで、前記模擬部位の形状を表す画像を生成することを特徴とする気管挿管訓練装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−85687(P2010−85687A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−254328(P2008−254328)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18〜20年度、文部科学省 地域科学技術振興事業費補助金に係る委託研究(知的クラスター創成事業「岐阜・大垣地域ロボティック先端医療クラスター」)、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(899000068)学校法人早稲田大学 (602)
【出願人】(591179639)株式会社京都科学 (10)
【Fターム(参考)】