説明

位置検知装置及び磁気検知方法

【課題】注射針の脱落を簡単な構成で信頼性良く検知する位置検知装置を提供する。
【解決手段】検知対象用磁石と、磁気バイアス磁石と、磁気センサと、制御手段と、リセット部と、記憶手段と、警報部とを備え、制御手段が、リセット部から送信される開始信号に応答して、磁気センサに、初期環境の磁界強度を測定させるとともに、定期的な時間間隔で磁界強度を測定させ、記憶手段の初期磁界強度記憶手段に、初期環境の磁界強度を記憶させるとともに、計算手段に、初期環境の磁界強度と記憶手段の閾値記憶手段に記憶された閾値とに基づいて警報を出すべき警報範囲を計算させ、かつ計算された警報範囲を比較手段に送信させ、比較手段に、定期的な時間間隔で測定された磁界強度と警報範囲とを比較させるとともに、測定された磁界強度が警報範囲を越える場合には、警報信号を警報部に送信させ、警報部に、警報信号に応答して注射針の脱落に対する警報を出させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位置検知装置に関し、特に、透析治療等のために人体の腕の血管に長時間穿刺される注射針の脱落を事前に検知する位置検知装置及び磁気検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
透析治療では、一般的に、患者の動脈側から血液を取り出し、浄化された血液を静脈側から患者に戻すために、患者の腕等の血管にバスキュラーアクセス(シャント)形成しそれに穿刺した注射針を介して血液の交換を行う。この注射針が、腕の血管から脱落すると、大量の出血あるいは空気の流入などの致命的な事故を引き起こすことがあるので、注射針の血管からの脱落に対する細心の注意、および注射針が脱落したときの迅速でかつ適切な対応が必要となる。また、点滴においても同様であり、注射針の脱落は思わぬ事故に繋がる。
【0003】
注射針が血管から脱落することは、注射針に接続される注射器を腕に固定する粘着性テープなどの固定具の不備により生じることがあり、または透析治療中の患者動作等によりそのような固定具に力が加わり、腕から固定具が剥がれることにより生じることがある。この点も点滴においても同様である。
【0004】
このような透析治療中の注射針の血管からの脱落を検出するために、いくつかの方法が提案されている。例えば、特許文献1(特開平11−104233号)には、透析装置において圧脈拍を監視することによって注射針の血管からの脱落を検出する方法、および特許文献2(特開2007−621号)には、透析装置において複合インピーダンスを測定することによって注射針の血管からの脱落を検出する方法が開示されている。しかしながらこれらの方法は、透析装置を複雑にして価格を高くする欠点を有する。また、特許文献3(特開2007−151624号)には、血液の漏出を水分センサにより検知して、血液の漏出に基づき注射針の血管からの脱落を判定する方法が開示されている。しかしながらこの方法は、水分センサ自体が血液以外の液体にも反応するために、検出精度が悪い欠点を有する。
【0005】
【特許文献1】特開平11−104233号公報
【特許文献2】特開2007−621号公報
【特許文献3】特開2007−151624号公報
【0006】
そのため、簡単な構成でありしたがって価格が安く、かつ小型で装着する患者に対する違和感が少ないにも係わらず、信頼性良く注射針の血管からの脱落を検知できる検知装置が望まれていた。
【0007】
また、注射針の脱落を事前に検知に関する技術を広く検知技術として捉えれば、特許文献4(特許公開2007−205749号)には、リザーバ本体の内部に、液面の変動に応じて浮動するフロートを収容し、フロートに磁石を設置するとともに、リザーバ本体に磁力感知素子を設けて、フロート側の磁力が小さくても、フロートが設定高さまで下降したことを磁力感知素子によって検知する技術は開示されている。さらには、特許文献5(特開2006−47169号)には、連続した狭い間隔の位置検出機構であり、隣接した複数個の磁気感応スイッチが同時にON/OFFすることが無く、1スイッチずつのON/OFF動作により位置検知が可能な近接センサ機構が開示されている。
【0008】
【特許文献4】特開2007−205749号公報
【特許文献5】特開2006−47169号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
注射針の血管からの脱落は、注射針に接続される注射器を腕に固定する粘着性テープなどの固定具が、何らかの原因で腕から剥がれたりズレたりすることに起因することが多い。そこで、注射針の血管からの脱落につながるそのような固定具の腕からの剥がれ又はズレによる相対的な移動を検出することによって、注射針の脱落を事前に検出する方法が考えられる。
【0010】
そのような検出方法の一例として、本件発明者は、既に、簡単な構成で価格が安く、かつ小型で装着する患者に対する違和感が少ない小型磁石と小型磁気センサとを用いて、固定具の腕からの剥がれを検出する発明を出願済み(特願2007−232284号)である。具体的には、粘着性テープなどの固定具に小型磁石を配置して、磁石が配置される固定具の腕からの剥がれ又はズレを、磁気センサによって検知される磁界強度変化により検知する方法である。
【0011】
この本件発明者による先願発明は、単に、磁石を配置した固定具によって固定された注射器と磁気センサにより、固定具に配置した磁石の位置変化を検知しようとしても、磁気センサは、地磁気、および透析治療を受ける患者周囲に存在する磁性体の影響を強く受けるために、信頼性良く、検知対象とする磁石(注射器を固定する固定具に対して配置された磁石)の位置変化によって生起される磁界強度変化を検知ができない問題があったという課題を解決した発明であった。そこで、本件発明者による先願発明は、小型の磁石と小型の磁気センサとを用いて、簡単な構成でありしたがって価格が安く、かつ小型で装着する患者に対する違和感が少ないにも係わらず、地磁気および環境に存在する磁性体からの影響を低減することが可能な、透析治療のために人体の腕の血管に穿刺される注射針の脱落を信頼性良く事前に検知する位置検知装置及び磁気検知方法を提供することを目的とするものであった。
【0012】
これに対して、本発明は、地磁気、および透析治療を受ける患者周囲に存在する磁性体の影響を受けずに、信頼性良く、検知対象となる変位磁石の位置変化を1mm程度の精度で検知しようとすることを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1に係る発明によれば、磁気による位置検知装置であり、検知単位間隔で長手方向に沿って配置された複数の検知部を設けた基板と、該基板に設けた複数の検知部の配置と同一配置に対向された複数の微小磁石要素と、該複数の微小磁石要素に対して前記基板とは反対側であって該基板の長手方向に摺動自在に設けられた変位磁石支持ユニットと、前記基板と実質的に同一形状の磁性板状体とを備えており、
前記複数の微小磁石要素は、常時は、前記磁性板状体によって前記基板の検知部方向に吸引されており、前記変位磁石支持ユニットが摺動して直上に来ると、当該変位磁石支持ユニット直下の微小磁石要素は、前記磁性板状体との吸引力に打ち勝って当該変位磁石支持ユニットに向かって引き付けられ、その微小磁石要素の変位を当該微小磁石要素に対応した前記検知部によって検知することを特徴とする。
【0014】
請求項2に係る発明によれば、磁気による位置検知装置であり、前記各検知部は、夫々対向配置された前記微小磁石要素の離間を検知する接点部であることを特徴とする。
【0015】
請求項3に係る発明によれば、磁気による位置検知装置であり、前記各検知部は、夫々対向配置された前記微小磁石要素の離間を磁力の変化により検知するホール素子等の磁気検知手段であることを特徴とする。
【0016】
請求項4に係る発明によれば、磁気による位置検知装置であって、前記複数の微小磁石要素は、磁石要素収容体内において前記基板に対して垂直方向に同一磁極を有して配列され、各微小磁石要素が独立して摺動自在に収容されていることを特徴とする。
【0017】
請求項5に係る発明によれば、磁気による位置検知装置であって、前記複数の各微小磁石要素は、磁石要素収容体に検知単位間隔で形成された微小孔内に摺動自在に挿入されていることを特徴とする。
【0018】
請求項6に係る発明によれば、磁気による位置検知装置であって、前記変位磁石支持ユニットは、3枚の板状の磁石セットを備えており、該3枚の板状の磁石セットは、中央部に前記微小磁石要素の磁極の方向と同一の磁極方向を有する変位磁石を設け、且つ、その両側に前記微小磁石要素の磁極と反対の磁極方向を有する反発磁石を設けていることを特徴とする。
【0019】
請求項7に係る発明によれば、磁気による位置検知装置であって、前記基板に設けた複数の検知部の配置と同一配置に対向され検知単位の2倍の間隔で長手方向に沿って配置された複数の微小磁石要素は、長手方向に2列の微小磁石要素が半ピッチずらして相互の微小磁石要素がジグザグ状に配置され、前記変位磁石支持ユニットの3枚の板状の磁石セットは、前記微小磁石要素のジグザグ状に配置された2列の微小磁石要素に跨って設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
請求項1に係る発明によって、検知単位間隔で長手方向に沿って配置された複数の検知部を設けた基板と、該基板に設けた複数の検知部の配置と同一配置に対向された複数の微小磁石要素と、該複数の微小磁石要素に対して前記基板とは反対側であって該基板の長手方向に摺動自在に設けられた変位磁石支持ユニットと、前記基板と実質的に同一形状の磁性板状体とによって磁気による位置検知装置を構成したので、地磁気、および透析治療等を受ける患者周囲に存在する磁性体の影響を受けることもなく、構造が簡単で信頼性が良く、注射器等を取り付けられた検知対象となる変位磁石の位置変化を1mm程度の精度で検知することができるものである。
【0021】
請求項2に係る発明によって、各検知部を微小磁石要素の離間を検知する接点部によって構成したので、微弱な電流のON/OFFを検知することにより、正確な位置の検知を可能とするものである。
【0022】
請求項3に係る発明によって、各検知部を前記微小磁石要素の離間を磁力の変化により検知するものであるので、従来慣用されているホール素子等を使った簡単な位置検知装置が提供できるものである。
【0023】
請求項4に係る発明によって、複数の微小磁石要素において、各微小磁石要素の機械的な変位運動により位置を検知することができるものであり、地磁気、および透析治療を受ける患者周囲に存在する磁性体の影響を受けることがない。
【0024】
請求項5に係る発明によって、磁石要素収容体に検知単位間隔で形成された微小孔の形状を円筒形状にすれば、加工が簡単で安価に製作することができるものである。
【0025】
請求項6に係る発明によって、変位磁石支持ユニットは、中央部に微小磁石要素の磁極の方向と同一の磁極方向を有する変位磁石を設け、両側に微小磁石要素の磁極と反対の磁極方向を有する反発磁石を設けることにより、中央部の変位磁石に対応した微小磁石要素の位置を正確に検知できるものである。
【0026】
請求項7に係る発明によって、相互の検知部をジグザグ状に配置することにより、検知単位をより細かく設定することができるものである。別の言い方をすれば、磁石要素収容体に、検知単位の2倍の間隔で微小孔及び検知部を形成することが可能となり、微小孔及び検知部の成形の容易さを達成することが可能なものである。また、当然のことであるが、横幅が許しうるものであれば、微小孔及び検知部を3列以上で形成することも可能である。その場合には、変位磁石支持ユニットの3枚の板状の磁石セットは、全ての列の微小磁石要素の列を跨いで形成される必要がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
図1に、本発明による、透析治療等のために人体の腕の血管に穿刺された注射器90の脱落を事前に検知する位置検知装置10の一使用例を示す。これは点滴の場合も同様の仕様状態となる。いずれにしても、変移を検知しようとする検知対象物を何らかの手段により変位磁石支持ユニット30(後述)に対して不動の状態で取り付け、その変位磁石支持ユニット30の変移を検知対象物の変移として捉えようとする検知装置である。したがって、以下の具体的実施例においては、人体の腕の血管に穿刺された注射針の脱落を事前に検知することを事例として説明しているが、これは、本発明の用途が、人体に穿刺された注射針の脱落検知に限られるという意味合いのものではない。
【0028】
以下、透析治療等のために人体の腕の血管に穿刺された注射針の脱落事前検知装置に限定して説明する。患者の腕の血管には、透析治療のための注射針が穿刺される。注射針は、注射器90に接続され、注射器90は、チューブ91に接続される。注射器90およびチューブ91を介して、患者の腕の血管から血液が取り出され、かつ浄化された血液が患者の血管に戻される。点滴の場合は、チューブ91に点滴液が滴下され、注射器90から患者の腕の血管中に注入される。注射器90は、粘着性テープ39などによって患者の腕に固定され、同様にチューブ91の一部も、粘着性テープ39などによって患者の腕に固定される。このように、注射器90は粘着性テープ39などによって固定されているが、予期しない力が注射器90等に加わることにより、粘着性テープ39や注射器90の注射針が患者の腕からズレたり剥がれたりすることがある。粘着性テープ39が患者の腕からズレたり剥がれたりすると、注射器90の注射針が患者の腕の血管から脱落することにつながり、大量の出血あるいは空気の流入などの致命的な事故を引き起こすことがある。
【0029】
本発明の位置検知装置10は、注射器90の注射針が患者の腕の血管からの脱落につながる、粘着性テープ39のズレ又は剥がれによる注射器90の注射針の変移を事前に検知するものである。図1の実施例での使用例においては、検知対象物である注射器90に接続された血液或いは点滴液を給送するチューブ91を変位磁石支持ユニット30に支持した後、粘着テープ39等で固定している。本実施例の位置検知装置10は、位置検知装置10を腕に取り付けるための脚部19,19を備えている。
【0030】
本発明は、図1にその一使用方法を示し、注射器脱落の事前検知用の磁気による位置検知装置10の概略構成図を図2に示す。本発明の実施例である注射器脱落の事前検知用の磁気による位置検知装置10は、注射器90に繋がった血液或いは点滴液給送用のチューブ91に沿った方向に長手方向を合わせた全体的に長方形の箱型形状を呈している。本実施例の位置検知装置10は、長手方向に開放スリット12を形成した天井部13を備えた箱状ケーシング11を設けている(図2)。その箱状ケーシング11内には底面より順に、鉄板等の磁性板状体15、露出回路接点等の検知部50,50,50・・・を配した検知回路基板60(図6、後述)、複数の微小磁石要素20,20,20・・・を垂直方向に摺動自在に保持した磁石要素保持体25、長手方向の開放スリット12に沿って摺動自在に設けられた変位磁石支持ユニット30を設けている(図3)。図2には、複数の微小磁石要素20,20,20・・・は、2列をジグザグに配置した構成を示しているが、基本的には1列の複数微小磁石要素20,20,20・・・の配置で良い。この配置は、検知されるべき最小距離単位(検知単位間隔)と製造上の都合により決められるものである。例えば、検知単位間隔が1mmであり、微小磁石要素20を1mmφの円柱状磁石を使用するのであれば、図2に示すようにジグザグ状に2列の構成にした方が小孔或いは検知部の形成は楽である。
【0031】
位置検知装置10の箱状ケーシング11には、長手方向の開放スリット12に沿って変位磁石支持ユニット30(図3)が摺動自在に設けられている。この変位磁石支持ユニット30は上部には、チューブ91を支持するための半円筒状のチューブ支持部31を形成しており、チューブ91を支持した後、粘着テープ39等の適当な固定手段により固定される。図3(B)に示すように、変位磁石支持ユニット30の底面には、変位磁石セット40が配置されている。この変位磁石セット40は3枚の板状の微小磁石から成り、中央部の微小磁石41(変位磁石)と、その両側に配置した微小磁石42,42(反発磁石)によって形成されている。この3枚の板状の磁石セットは、中央部の変位磁石41は、微小磁石要素20,20,20・・・の磁極の方向と同一の磁極方向を有し、両側の反発磁石42,42は、微小磁石要素20,20,20・・・の磁極の方向と反対の磁極方向を有している。これにより、微小磁石要素20,20,20・・・の内の変位磁石41直下のみの微小磁石要素20を引き上げる。
【0032】
本実施例においては、複数の微小磁石要素20,20,20・・・は、円筒形状を呈しており、磁石要素保持体25に形成された複数の微小孔26,26,26・・・内に夫々挿入保持されている(図4)。複数の微小磁石要素20,20,20・・・及び変位磁石セット40の3枚の板状の微小磁石41,42,42の磁極の方向は、その一例を図7に示すように、複数の微小磁石要素20,20,20・・・と板状微小磁石41の磁極の方向が同一方向に配置されており、他の2枚の板状微小磁石42,42は、板状微小磁石41を挟んで配置され、その磁極の方向は、それと反対の方向に配置されている。これにより、中央部に配置された板状微小磁石41の吸引力と、2枚の板状微小磁石42,42による反発力により、板状微小磁石41の直下にある微小磁石要素20のみが引き上げられ、他の周辺の磁石は2枚の板状微小磁石42,42による強い反発力と磁性板状体15への吸引力によって押し下げられた状態を維持するものである。これにより、複数の微小磁石要素20,20,20・・・下部に、それらの配置に対応して設けられた複数の検知部50,50,50・・・によって、板状微小磁石41の直下にある検知部50が微小磁石要素20の離間を検知するものである。図4(A),(B)及び(C)は、複数の微小磁石要素20,20,20・・・を挿入する微小孔26,26,26・・・の配置方法と、検知単位間隔aとの関係を示したものである。図4(A)は、検知単位間隔aに対して微小孔26,26,26・・・を間隔を空けて配置したもの、図4(B)は、検知単位間隔aに対して微小孔26,26,26・・・を間隔を空けずに配置したもの、図4(C)は、検知単位間隔aに対して2列の微小孔26,26,26・・・を間隔を空けてジグザグに配置したものである。
【0033】
図4(A)の配置に代えて、図4(C)に示すように、複数の微小磁石要素20,20,20・・・を挿入する複数の微小孔26,26,26・・・は2列に構成すると、各列の微小孔26,26,26・・・の間隔は、検知単位をamm(披検査対象物の移動を検知する最小単位)とすると、2ammの間隔で形成される。このように、2ammの間隔の複数の微小磁石要素20,20,20・・・がジグザグに2列設けられることによって、長手方向で隣り合う微小磁石要素20及び20の間隔はammとなる。もちろん、複数の微小磁石要素20,20,20・・・を挿入する複数の微小孔26,26,26・・・は2列に構成することは必須ではなく、図4(B)に示すように、1列の複数の微小孔26,26,26・・・を形成するものであっても良い。この場合は、検知単位がammで、微小孔26,26,26・・・の間隔もammであるので、微小孔26と26は接することとなるが、これらの微小孔26,26,26・・・に挿入された微小磁石要素20,20,20・・・の摺動を阻害されない程度の公差を持たせて加工することにより、装置の実現には問題が起きない。また、当然のことであるが、横幅が許しうるものであれば、微小孔及び検知部を3列以上で形成することも可能である。
【0034】
ここで、変位磁石支持ユニット30の変形例を説明する。変位磁石支持ユニット30に要求される主な機能は、変位磁石セット40の保持機能と、変移の検知対象である注射器90に接続されたチューブ91の固定機能である。このチューブ91の固定機能に着目して、他の変形例を図5(A),(B)及び(C)に示す。図5(A),(B)及び(C)に示す変形例は、全て、合成樹脂の射出成形によって成形することが可能である。図5(A)は、チューブ91を支持するための半円筒状の2片のチューブ支持部31,31がチューブ91の直径よりも小さな直径で丸め込まれた構成になっており、一旦、2片のチューブ支持部31,31を広げて、その中にチューブ91を入れ、2片のチューブ支持部31,31を開放した状態で上から粘着テープ等でしっかりと固定する。図5(B)は、図52片のチューブ支持部31,31の接合される面同士(一方は表面、他方は裏面)に長手方向の凹凸形状32が形成されており、一旦、2片のチューブ支持部31,31を広げて、その中にチューブ91を入れ、2片のチューブ支持部31,31を開放して表裏の凹凸形状32,32を係合させた状態で上から粘着テープ等でしっかりと固定する。図5(C)は、チューブ91の固定に粘着テープ等を不要にしたものであり、適当数(図面では2個)の結束バンド部33,33を形成している。
【0035】
図6に示すように、検知回路基板60には、複数の微小磁石要素20,20,20・・・の配置と対応して、検知部50,50,50・・・を配している。図6(A)は、図5(A)の微小磁石要素20,20,20・・・配置に対応しており、図6(B)は、図5(C)の微小磁石要素20,20,20・・・配置に対応している。検知部50の詳細部は、図6(C)に示すように、基板60に露出した内外の回路接点51,52によって形成されている。内外の回路接点51,52からは、夫々回路配線53,53が延びている。これらの内外回路接点51,52の上には、微小磁石要素20,20,20・・・が配置されているので、この微小磁石要素20の上下の変移が、内外回路接点51,52のON/OFF信号となって外部に取り出される。
【0036】
複数の微小磁石要素20,20,20・・・と変位磁石セット40の3枚の板状の微小磁石41,42,42の関係を分かり易く示したのが図7である。変位磁石セット40は、変位磁石支持ユニット30に支持された状態で、位置検知装置10の箱状ケーシング11の長手方向の開放スリット12に沿って摺動可能であり、検知対象物の変移に応じて摺動変移可能である。すると、変位磁石41の直下に存在する微小磁石要素20のみが、変位磁石41の磁力により吸引されて上昇する。他の微小磁石要素20は、両側に配置された反発磁石42,42の磁力(反発力)と鉄板等の磁性板状体15の吸引力により上昇してこない。したがって、各微小磁石要素20,20,20・・・の下に配置された基板60上の検知部50,50,50・・・により変移の検出が可能なものである。
【0037】
本発明の位置検知装置10は、制御手段70に繋いで使用することが可能であり、制御手段70には、初期状態を記憶する記憶手段80が接続されている。本発明の位置検知装置10は、外部から給電されるか、あるいは内蔵された電池から給電されることもできる。各微小磁石要素20,20,20・・・は、非常に小さい磁石であり、実施例として示しているものは、例えば1mmφ程度の円柱状であって、一例としてネオジウムを含む永久磁石などである。
【0038】
図8に、本実施例の位置検知装置10を制御手段70の入力ポート72の一つに接続されたシステム構成の一例を示す。図8には、位置検知装置10の動作を開始する開始信号を制御手段70に送信するリセット部73が設けられている。図8においては、リセット部73を制御手段70内に設ける例を示したが、制御手段70が入力ポート72のどのポートに接続された位置検知装置の動作を開始するかを認識する必要があるので、何らかの手段により、どの入力ポートに接続された位置検知装置の動作を開始するかの信号を入力する必要がある。その操作を簡単にするには、リセット部73を各位置検知装置10に設けることも可能である。リセット部73により、該当の位置検知装置10の動作開始信号が発せられると、演算手段71は動作開始時点での当該位置検知装置10の検知部50でOFF状態になっている微小磁石要素の位置を取り込み、初期磁界強度記憶手段75にその位置を記憶する。さらには、検知すべき変移量を閾値として記憶する閾値記憶手段76を備え、検知すべき変移量に達すると、警報を発する警報部74を備えている。
【0039】
次に、図9に示されるフローチャートを参照して、本発明による位置検知装置の動作を説明する。
【0040】
ステップS1(検知準備作業)で、まず注射器90の注射針の脱落事前検知のために行う準備作業を行う。具体的には、患者の腕の血管に注射器90の注射針を穿刺して、粘着性テープ39などを用いて注射器90を固定し、さらにチューブ91も固定する。この際に、本実施例の磁気による位置検知装置10の脚部19,19も粘着性テープ39などを用いて患者の腕に固定する。位置検知装置10は制御手段70の適当な入力ポート72に接続される。
【0041】
ステップS2(検知動作開始)で、制御手段70に設けられたスイッチなどのリセット部73を作動させることにより、位置検知装置10の動作は開始される。リセット部73を作動させると、開始信号が制御手段70で作り出される。このリセット部73は位置検知装置10側に設けても良い。その場合には、リセット部73を作動させると、開始信号が位置検知装置10から制御手段70に送信される。
【0042】
ステップS3(初期値記憶)で、演算手段71が、開始信号を受けたタイミング(初期状態)での位置検知装置10の位置を検出する。位置検知装置10での位置の検知とは、変位磁石支持ユニット30の位置を検知することであり、それは変位磁石41の直下に存在する微小磁石要素20が持ち上げられることによる基板60上の検知部50のOFF状態で検知される。検知された初期状態は初期状態記憶手段75に記憶される。
【0043】
ステップS4(警報範囲設定)で、どの程度の注射器90の注射針のズレを異常と検知して警報等を発するかを設定する。例えば、ammのズレで異常と検出したい場合には、適当な入力手段によりammを閾値として入力し、閾値記憶手段76に記憶しておく。閾値の所定値は、固定した注射器のズレ又は剥がれの位置変化の検出目標となる変移距離(5mm或いは1cm等)によって適宜決定される。また、閾値が一定の目標値が事前に定められているのであれば、その度毎に設定する必要はなく、システムを立ち上げる段階で装置内に取り込んでおくことも可能である。警報は、1段階の警報のみでなく、複数段階の警報を設定することが可能である。例えば、ammのズレの場合は「ズレ予告」、2ammのズレは「危険予告」、3ammのズレは「警報」という具合に段階的に警報を発することができる。その場合には、amm,2amm,3ammの値を、それぞれ閾値として閾値記憶手段76に記憶しておく。
【0044】
ステップS5(検知開始)で、制御手段70は、検知動作開始と共に位置検知装置10の初期状態を検知し、サンプリングタイム毎の定期的な時間間隔での位置検知装置10の位置を検知(基板60上の検知部50のOFF状態検知)する。固定した注射器90のズレの検知の度合いは、どの程度ずれた際に異常と検出するか、どの程度のタイミングで異常を検出すれば安全を確保できるかによって決まる。つまり、固定した注射器90のズレの位置変化の検出は、検出する必要がある距離(1cm或いは5mm等)により決まる。位置検知装置10の位置検知を行う定期的な時間間隔は、制御手段70のサンプリングタイム以上であれば適宜設定することができる。このような定期的な位置検知装置10の位置検知は、透析治療又は点滴に必要な所定の時間期間、例えば数時間にわたって継続して行われる。
【0045】
3段階の警報が設定された場合を説明する。ステップS6−1〜ステップS6−3(測定範囲は各警報範囲を越えるか?)で、制御手段70は、演算手段71によって、初期状態記憶手段75に記憶された位置検知装置10の初期状態と、定期的な時間間隔で検知された位置検知装置10の位置情報と、3段階に設定された第1,第2及び第3の閾値との比較を行う。比較の結果、検知情報が何れの閾値も越えない場合は、ステップS6−1からステップS6−3を繰り返す。比較の結果、検知情報が何れかの警報範囲を越える場合には、夫々のステップS7−1からステップS7−3に進む。
【0046】
ステップS7−1〜ステップS7−3(警報を出す)で、制御手段20は、各ステップに対応した警報信号を警報部74へ送信し、警報部74は、注射針の脱落に対する各段階に応じた警報を出す。この警報は、例えば、警報音によっても、ランプ等の視覚的表示によっても良く、透析治療等を行っている患者が居住する家屋にいる家族などの他の人物に、または患者を収容している病院の医療従事者に知らされる。家族に対しても病院の医療従事者に対しても、個々に所持する携帯電話機等に直接連絡することも可能である。知らされた家族または医療従事者は、患者に対して適切な処置を行うことができる。
【0047】
その後、ステップS8で終了する。
【0048】
本発明の変形実施形態として、本発明の位置検知装置10を、複数の患者の透析治療等を行う病院などで使用することができる。その場合には、各患者に位置検知装置10を設置して、それらを制御手段70の各入力ポート72を介して接続する。その際、各入力ポート72に識別情報を割り当て、どの位置検知装置10から開始信号が送信されているかを識別できるように構成することもできる。開始信号に識別情報を付して送信することも可能であり、その識別情報に患者名を含むこともできる。
【0049】
本発明の位置検知装置は、本明細書で記載された構成以外にも、様々な変形実施形態が可能であり、例えば、本発明の位置検知装置が備える各構成要素の構成、および制御手段が行う処理には、様々な変更が可能である。
【0050】
さらに本発明は、上述したように透析治療用や点滴等の医療現場だけでなく、一般産業用としても微小の位置変動を検知する手段として広い分野において、例えば、美術館での展示品の盗難防止のための微小位置ズレ検知や、各種液面計等として、基準位置に対して被測定位置が微小距離変移したか否かを検知する位置検知装置に利用が可能なものである。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の位置検知装置の使用例を示す斜視図。
【図2】本発明の位置検知装置の外観構成を示す斜視図。
【図3】(A)(B) 本発明の位置検知装置の変位磁石支持ユニットの詳細断面図。
【図4】(A)(B)(C) 本発明の位置検知装置の磁石要素収容体の斜視図。
【図5】(A)(B)(C) 本発明の位置検知装置の変位磁石支持ユニットの別実施例を示す斜視図。
【図6】本発明の位置検知装置の基板構成を示す平面図。
【図7】本発明の位置検知装置の磁石要素収容体と3枚の板状磁石セットの関係を示す概念図。
【図8】本発明の位置検知装置の制御手段の一例を示すブロック構成図。
【図9】本発明による位置検知装置の動作を説明するフローチャート。
【符号の説明】
【0052】
10 位置検知装置
11 箱状ケーシング
12 開放スリット
13 天井部
15 磁性板状体
20 微小磁石要素
25 磁石要素保持体
26 微小孔
30 変位磁石支持ユニット
31 チューブ支持部
39 粘着性テープ
40 変位磁石セット
41 変位磁石
42 反発磁石
50 検知部
60 検知回路基板
70 制御手段
71 演算手段
72 入力ポート
73 リセット部
74 警報手段
75 初期状態記憶手段
90 注射器
91 チューブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気による位置検知装置であって、検知単位間隔で長手方向に沿って配置された複数の検知部を設けた基板と、該基板に設けた複数の検知部の配置と同一配置に対向された複数の微小磁石要素と、該複数の微小磁石要素に対して前記基板とは反対側であって該基板の長手方向に摺動自在に設けられた変位磁石支持ユニットと、前記基板と実質的に同一形状の磁性板状体とを備えており、
前記複数の微小磁石要素は、常時は、前記磁性板状体によって前記基板の検知部方向に吸引されており、前記変位磁石支持ユニットが摺動して直上に来ると、当該変位磁石支持ユニット直下の微小磁石要素は、前記磁性板状体との吸引力に打ち勝って当該変位磁石支持ユニットに向かって引き付けられ、その微小磁石要素の変位を当該微小磁石要素に対応した前記検知部によって検知することを特徴とする磁気による位置検知装置。
【請求項2】
前記各検知部は、夫々対向配置された前記微小磁石要素の離間を検知する接点部であることを特徴とする請求項1記載の磁気による位置検知装置。
【請求項3】
前記各検知部は、夫々対向配置された前記微小磁石要素の離間を磁力の変化により検知するホール素子等の磁気検知手段であることを特徴とする請求項1記載の磁気による位置検知装置。
【請求項4】
前記複数の微小磁石要素は、磁石要素収容体内において前記基板に対して垂直方向に同一磁極を有して配列され、各微小磁石要素が独立して摺動自在に収容されていることを特徴とする請求項2又は請求項3記載の磁気による位置検知装置。
【請求項5】
前記複数の各微小磁石要素は、磁石要素収容体に検知単位間隔で形成された微小孔内に摺動自在に挿入されていることを特徴とする請求項4記載の磁気による位置検知装置。
【請求項6】
前記変位磁石支持ユニットは、3枚の板状の磁石セットを備えており、該3枚の板状の磁石セットは、中央部に前記微小磁石要素の磁極の方向と同一の磁極方向を有する変位磁石を設け、且つ、その両側に前記微小磁石要素の磁極と反対の磁極方向を有する反発磁石を設けていることを特徴とする請求項1乃至請求項5の内の一つの請求項記載の磁気による位置検知装置。
【請求項7】
前記基板に設けた複数の検知部の配置と同一配置に対向され検知単位の2倍の間隔で長手方向に沿って配置された複数の微小磁石要素は、長手方向に2列の微小磁石要素が半ピッチずらして相互の微小磁石要素がジグザグ状に配置され、前記変位磁石支持ユニットの3枚の板状の磁石セットは、前記微小磁石要素のジグザグ状に配置された2列の微小磁石要素に跨って設けられていることを特徴とする請求項6記載の磁気による位置検知装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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