説明

位置規則性のポリ−(3−置換)チオフェン、セレノフェン、チアゾール及びセレナゾールの製造方法

位置規則性の3−置換−チオフェン、3−置換−セレノフェン、3−置換−チアゾール及び/又は3−置換−セレナゾールのホモポリマー又はコポリマーの製造方法であって、
a)3−置換の2,5−ジハロチオフェン、2,5−ジハロセレノフェン、2,5−ジハロチアゾール又は2,5−ジハロセレナゾールを、反応性亜鉛、マグネシウム及び/又は有機マグネシウムハロゲン化物と反応させて、一個のハロ亜鉛又は一個のハロマグネシウム基を有する有機亜鉛又は有機マグネシウム中間体を得る工程、b)前記有機亜鉛又は有機マグネシウム中間体をNi(II)とNi(0)、Pd(II)、Pd(0)触媒に接触させて重合反応を開始させる工程、及びc)前記有機亜鉛又は有機マグネシウム中間体を重合させて、3−置換−チオフェン、3−置換−セレノフェン、3−置換−チアゾール又は3−置換−セレナゾールの位置規則性の頭−尾結合ホモポリマー又はコポリマーを得る工程により行われ、且つ前記重合反応が、温度を低温T1から高温温度T2に時間t1をかけて上昇させながら行われ、T1が−40〜5℃の範囲であり、T2が−20〜40℃の範囲であり、T2−T1が少なくとも10℃であり、平均温度上昇速度(T2−T1)/t1が0.05℃/分〜1℃/分であることを特徴とする製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位置規則性のポリ−(3−置換)チオフェンやセレノフェン、チアゾール、セレナゾールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
20世紀の後半に(マイクロ)エレクトロニクスの発展を大きく支えたものは、無機の電極や絶縁体や半導体を基にする電界効果トランジスタ(FET)である。これらの材料は、信頼性が高く高効率であり、周知のムーアの法則に従ってますます高性能となってきている。分子状材料や高分子材料からなる有機FET(OFET)は、従来のケイ素技術と競うのでなく、低性能の記憶素子や、アクティブマトリックス有機発光ダイオード表示装置内のピクセルドライブ開閉素子や、RFIDタグ、スマートIDタグ、センサーなどの集積光電子機器に大きな用途を見出すと考えられる。
【0003】
多くの導電性又は半導電性の有機ポリマーの開発の結果、それらの有機薄膜トランジスタ(OTFT)中の活性層としての、したがって半導体としての利用が、注目を集めるようになってきた。
【0004】
従来から使用されている無機半導体に比べて、OTFT中での有機半導体の使用にはいくつかの利点がある。これらは、繊維からフィルムまでいかなる形でも加工可能であり、高い機械的柔軟性を示し、低コストで生産可能で、低質量である。しかしながら、大きな利点は、全体として半導性である部品を、大気圧下で、例えば印刷法によりポリマー基板上に溶液から層を形成させて安価にFETを製造できることである。
【0005】
電子機器の性能は、実質的には半導体材料中の電荷キャリアーの移動度とオン状態の電流とオフ状態の電流との比率(オン/オフ比)により定まる。したがって、理想的な半導体では、スイッチがオフの状態で最小の導電性をもち、スイッチがオンの状態で最大の電荷キャリアー移動度をもつ(移動度:約10-3cm2-1-1、オン/オフ比:約102)。また、酸化による劣化で部品の性能が低下するため、この半導体材料は、酸化に対して比較的安定である必要があり、即ち十分に高いイオン化ポテンシャルをもつ必要がある、
先行技術においては、位置規則性の頭−尾結合ポリ(3−アルキルチオフェン)、特にポリ(3−ヘキシルチオフェン)(P3HT)が、1・10-5〜0.1cm2-1-1の電荷キャリアー移動度を示すため、その半導性材料としての利用が示唆されている。位置規則性のポリ(3−アルキルチオフェン)は、電界効果トランジスタや太陽電池セル中での活性な正孔輸送層として好ましい性能を示した。しかしながら、この電荷キャリアー移動度、従ってこれらの用途での性能は、ポリマー主鎖のアルキル側鎖の位置規則性に強く依存している。高い位置規則性とは、頭−尾結合が多く、頭−頭又は尾−尾結合が少ないこと意味する。高い位置規則性は、これらのポリマーの固体状態での充填の改善につながり、このため電荷キャリアー移動度の増加につながる。通常良好な性能のためには90%より大きな位置規則性が必要である。
【0006】
多くの高位置規則性ポリ(3−アルキルチオフェン)の製造方法が、例えばR.D. McCullough、Ad. Mater., 1998、10(2)、93−116の総説やそこに引用されている文献に報告されている。WO93/15086には、2,5−ジブロモ−3−アルキルチオフェンから出発する高位置規則性ポリ(3−アルキルチオフェン)製造が開示されており、 そこでは、この化合物を高反応性の「リーケ亜鉛」(Zn*)の溶液に加えて、2−ブロモ−3−アルキル−5−(ブロモ亜鉛)チオフェンと2−(ブロモ亜鉛)−3−アルキル−5−ブロモチオフェンの異性体混合物としている。ニッケルクロスカップリング触媒としてのNi(dppe)Cl2(1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン−ニッケル(II)クロリド)を添加すると、位置規則的な頭−尾結合(HT)ポリ(3−アルキルチオフェン)が形成される。
【0007】
【化1】

【0008】
EP1028136では、2,5−ジブロモ−3−アルキルチオフェンを、THF中でメチルマグネシウムブロマイドと反応させる。次いで、得られた有機マグネシウム中間体(これも二つの構造異性体の混合物である)をニッケル(II)触媒Ni(dppe)Cl2で反応させて、その位置規則性ポリマーを得る。
【0009】
【化2】

【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】WO93/15086
【特許文献2】EP1028136
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】R.D. McCullough、Ad. Mater., 1998、10(2)、93−116。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、3−置換の2,5−ジハロチオフェン又は2,5−ジハロセレノフェンから出発して位置規則性のポリ(3−置換−チオフェン)又はポリ(3−置換−セレノフェン)を製造する改善された方法を提供することであり、これにより、高い位置規則性をもつポリ(3−置換−チオフェン)又はポリ(3−置換−セレノフェン)が得られる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この問題は、位置規則性の3−置換−チオフェン、3−置換−セレノフェン、3−置換−チアゾール及び/又は3−置換−セレナゾールのホモポリマー又はコポリマーの製造方法であって、
a)3−置換の2,5−ジハロチオフェン、2,5−ジハロセレノフェン、2,5−ジハロチアゾール又は2,5−ジハロセレナゾールを、反応性亜鉛、マグネシウム及び/又は有機マグネシウムハロゲン化物と反応させて、一個のハロ亜鉛又は一個のハロマグネシウム基を有する有機亜鉛又は有機マグネシウム中間体を得る工程、
b)前記有機亜鉛又は有機マグネシウム中間体をNi(II)とNi(0)、Pd(II)、Pd(0)触媒に接触させて重合反応を開始させる工程、及び
c)前記有機亜鉛又は有機マグネシウム中間体を重合させて、3−置換−チオフェン、3−置換−セレノフェン、3−置換−チアゾール又は3−置換−セレナゾールの位置規則性の頭−尾結合ホモポリマー又はコポリマーを得る工程
により行われ、且つ
前記重合反応が、温度を低温T1から高温温度T2に時間t1をかけて上昇させながら行われ、T1が−40〜5℃の範囲であり、T2が−20〜40℃の範囲であり、T2−T1が少なくとも10℃であり、平均温度上昇速度(T2−T1)/t1が0.05℃/分〜1℃/分であることを特徴とする製造方法によって解決される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
第一の工程a)では、3−置換−2,5−ジハロチオフェンを反応性亜鉛又は有機マグネシウムハロゲ化物と反応させて、1個のハロ亜鉛又は1個のハロマグネシウム基をもつ有機亜鉛又は有機マグネシウム中間体とする。この3−置換の2,5−ジハロチオフェン、2,5−ジハロセレノフェン、2,5−ジハロチアゾール又は2,5−ジハロセレナゾールが、一般式(I)の化合物:
【0015】
【化3】

【0016】
[式中、
Rは、独立してa)C1-20アルキル基、b)C2-20アルケニル基、c)C2-20アルキニル基、d)C1-20アルコキシ基、e)C1-20アルキルチオ基、f)−C(O)−C1-20アルキル基、g)−C(O)−C2-20アルケニル基、h)−C(O)O−C2-20アルキニル基、i)−C(O)O−C1-20アルキル基、j)−C(O)O−C2-20アルケニル基、k)−Y−C3-10シクロアルキル基、l)−Y−C6-14アリール基、m)−Y−3−12員環シクロヘテロアルキル基、又はn)−Y−5−14員環ヘテロアリール基から選ばれ(なお、上記C1-20アルキル基とC2-20アルケニル基、C2-20アルキニル基、C3-10シクロアルキル基、C6-14アリール基、3−12員環シクロヘテロアルキル基、5−14員環ヘテロアリール基のそれぞれは、任意に1−4個のR1基で置換されていても良い)、
1は、独立してa)−S(O)m−C1-20アルキル、b)−S(O)m−OC1-20アルキル、c)−S(O)m−OC6-14アリール、d)−C(O)−OC1-20アルキル、e)−C(O)−OC6-14アリール、f)C1-20アルキル基、g)C2-20アルケニル基、h)C2-20アルキニル基、i)C1-20アルコキシ基、j)C3-10シクロアルキル基、k)C6-14アリール基、l)3−12員環シクロヘテロアルキル基、又はm)5−14員環ヘテロアリール基から選ばれ、
Yは、独立して2価のC1-6アルキル基、O、S、C(O)、C(O)O、又は共有結合から選ばれ;
Vは、S又はSeであり、
Wは、CH又はNであり、
Xは、ClとBrとIから選ばれる]
であることが好ましい。
【0017】
ある好ましい実施様態においては、Rは独立して上に定義したa)C1-20アルキル基、d)C1-20アルコキシ基、f)−Y−C6-14アリール基から選ばれる。より好ましくは、Rは、上に定義したa)C−1−20アルキル基とd)C1-20アルコキシ基から選ばれる。特に、RはC1-20アルキル基である。特に好ましくは、Rは、直鎖又は分岐鎖のC6−C20アルキルであり、例えばn−ブチル、n−ペンチル、n−ヘキシル、n−ヘプチル、n−オクチル、n−ノニル、n−デシル、n−ウンデシル、n−ドデシル、n−トリデシル、n−テトラデシル、n−ペンタデシル、n−ヘキサデシル、n−ヘプタデシル、n−オクタデシル、n−ノナデシル、n−イコシル、1−メチルペンチル、1−メチルヘキシル、2−メチルペンチル、2−エチルヘキシル、又は2,7−ジメチルオクチルである。
【0018】
反応性亜鉛は、もともと微粉末状のゼロ価の亜鉛金属粒子からなる高反応性のゼロ価の亜鉛金属種であり、WO93/15086に記載のように合成できる。この反応性亜鉛は、一般的には亜鉛(II)塩を還元して作られ、その対イオンは、酸性プロトンを含まないいずれのアニオンであってもよく、例えば硫酸、硝酸、亜硝酸、酢酸、シアン化物、又はハロゲン化物イオンである。還元剤は、アルカリ金属又はアルカリ金属錯体であり、好ましくはアルカリ金属とナフタレンの錯体、特にリチウムとナフタレンの錯体である。この反応性亜鉛種は、例えば、THF又はグライム(1,2−ジメトキシエタン)中でリチウムなどのアルカリ金属と効果的触媒量のナフタレンなどの電子移動化合物の存在下でZnCl2又はZn(CN)2を還元して作ることができる。
【0019】
3−置換−2,5−ジハロチオフェンと反応性亜鉛との反応は、通常水と酸素が存在しない状態で行われる。通常この反応は、高反応性亜鉛種の製造に使われるものと同じ媒体中で行われる。この反応は、エーテル、ポリエーテル又は炭化水素系溶媒中で行われることが好ましく、THF中で行われることが最も好ましい。
【0020】
やや過剰の反応性亜鉛が用いられる。3−置換の2,5−ジハロチオフェン又は2,5−ジハロセレノフェンの1当量に対して、少なくとも1.2当量の反応性亜鉛を使用することが好ましい。この反応性亜鉛は位置規則的に3−置換−2,5−ジハロチオフェンと反応し、その位置規則性は通常少なくとも80%である。例えば、反応性亜鉛は3−ヘキシル−2,5−ジブロモチオフェンと反応して、2−ブロモ−5−ブロモ亜鉛−3−ヘキシルチオフェン(IIa)と5−ブロモ−2−ブロモ亜鉛−3−ヘキシルチオフェン(IIb)の、室温で約9:1の比率の構造異性体混合物を与える。
【0021】
【化4】

【0022】
あるいは、3−置換−2,5−ジハロチオフェンを有機マグネシウムハロゲン化物と反応させることもできる。この有機マグネシウムハライドは、いずれのグリニャール試薬R−MgXであってもよい。なお式中、XはCl、Br又はI、通常Cl又はBrであり、Rは、通常アルキル、ビニル又はフェニル基のいずれか、例えば、CH2−CH=CH2、−C37、−C613、−C1225、イソプロピル又はtertブチル基である。この3−置換の2,5−ジハロチオフェン又は2,5−ジハロセレノフェンは有機溶媒中に溶解していることが好ましく、不活性ガス雰囲気下で、好ましくは0℃〜25℃の温度で、この有機マグネシウムハライドを溶液に加えることが好ましい。あるいは、この有機マグネシウムハライドをある有機溶媒中に溶解し、これをその溶液に添加してもよい。溶液に添加するこの化合物自体も、その溶液に溶解可能であり、これら二つの溶液が次いで混合される。この有機マグネシウムハライドは、製品に対して0.9〜1.05当量、最も好ましくは0.95〜0.98当量の比率で加えることが好ましい。好ましい溶媒は、鎖状又は環状の有機エーテルから選ばれ、ジエチルエーテルやTHF、2−メチルテトラヒドロフラン、テトラハイドロピラン、ジオキサンが含まれる。この反応は、通常酸素と水の非存在下で行われる。この製品と有機マグネシウムハライドは反応してグリニャール中間体となる。これは、通常式IIIaとIIIbの構造異性体の混合物である。
【0023】
【化5】

【0024】
WO2005/014691に記載のように、有機マグネシウムハライドに代えて純粋なマグネシウムを使用して、この有機マグネシウム中間体、即ち式IIIaとIIIbの中間体の混合物を合成することもできる。
【0025】
工程b)では、この有機亜鉛又は有機マグネシウム中間体をNi(O)、Ni(II)、Pd(O)又はPd(II)触媒に接触させて、重合反応を開始させる。好適なNi(O)又はNi(II)触媒は、例えばNi(dppp)Cl2(式中、dppp=1,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン)や、Ni(dppe)Cl2(式中、dppe=1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)ニッケル(O)、Ni(acac)Cl2(式中、acac=アセチルアセトネート)、ビス(トリフェニルホスフィン)ジカルボニルニッケル(O)、ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル(O)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)ニッケル(O)である。この触媒を、通常有機亜鉛又は有機マグネシウム中間体に対して0.1〜1モル%の量で添加できる。このNi(II)触媒は、一般的には溶媒中のスラリーとして、通常炭化水素、エーテル又はTHFなどの環状エーテル系溶剤中のスラリーとして使用される。本発明によると、工程a)からの有機亜鉛又は有機マグネシウム中間体を含む溶液を−40℃から5℃以下の範囲の温度に冷却し、この触媒、例えばNi(II)触媒を含む溶液を、混合物の温度が初期温度T1を超えないように添加する。通常、この混合工程b)は、例えば触媒含有溶液を一度に加えて、あるいは例えば1〜120秒間の短時間で加えて、迅速に行なわれる。
【0026】
工程c)では、有機亜鉛又は有機マグネシウム中間体を触媒存在下で重合して、位置規則性の頭−尾結合ポリ(3−置換−チオフェン)、ポリ(3−置換−セレノフェン)、ポリ(3−置換−チアゾール)又はポリ(3−置換−セレナゾール)を得る。この重合反応は、−40〜5℃の範囲の低温T1から−20〜40℃の高温T2へ時間t1をかけて温度を上げながら行われる。なお、T2−T1は少なくとも10℃であり、平均温度上昇速度(T2−T1)/t1は、0.05℃/分〜1℃/分である。初期温度T1は、用いる触媒の反応性により異なる。ある好ましい実施様態では、T1の範囲は0〜5℃であり、T2の範囲が10〜40℃であり、(T2−T1)/t1の範囲が0.1℃/分〜1℃/分である。したがって、t1の範囲は10分から400分である。一般に、t1は15〜240分であり、好ましくは15〜120分、より好ましくは20〜90分である。一般に、温度を非連続的に上昇させる場合は、t1の時間にわたって温度を着実に上昇させる。期間t1内のどの時点であっても実際の温度上昇速度が10℃/分を超えないことが好ましい。実際の温度上昇速度は直線状であっても、指数関数的あるいは他の状態であってもよいが、平均温度上昇速度は上記の範囲内である。
【0027】
通常、温度がT2に達した後も、T2でさらにt2の時間、重合反応を続ける。一般に、t2の範囲は0〜600分である。通常、t2の範囲は30〜240分である。
【0028】
本発明により加熱しながら重合反応を行うことで、高い位置規則性が達成される。1H−NMRで求めた位置規則性は、通常>97%であり、好ましくは>98%、特に>99%である。対照的に反応を重合初期から温度T2で行うと、低い位置規則性(<97%)が得られる。
【0029】
生成物はヘキサンとアセトンを抽出剤とするソックスレー抽出で精製できる。この生成物をさらに沈澱で精製してもよい。
【0030】
これらのポリマーは、先行技術に知られるいろいろな基で末端封鎖してもよい。好ましい末端基としては、H、置換又は非置換のフェニル、又は置換又は未置換のチオフェンがあげられるが、これらに限定されるのではない。
【0031】
本発明により得られるコポリマーは、光学材料や電子材料、半導体材料の製造に使用でき、特に電界効果トランジスタ(FET)中の電荷輸送材料として、例えば集積回路(IC)やRFIDタグ、背面ピクセルドライブの部品としてのこれらの材料の製造に使用できる。特にこれらは有機光起電装置に使用できる。また、これらは、エレクトロルミネセンスディスプレイの有機発光ダイオード(OLED)中で使用でき、また液晶ディスプレイ機器(LCD)などのバックライトとして、光起電用途又はセンサー用に、電子写真記録や他の半導体用途向けに使用できる。
【0032】
本発明のもう一つの側面は、本発明のポリマーの酸化型と還元型の両方に関係する。電子を獲得あるいは損失すると、高度に非局在化した高導電性のイオン状態が形成されることとなる。通常のドーパントに曝されるとこれが起こる。好適なドーパントやドーピング方法は、例えばEP0528662、US5,198,153あるいはWO96/21659より当業界の熟練者には既知である。
【0033】
導電性形態の本発明のポリマーは、有機「金属」として、有機発光ダイオード用途での電荷注入層やITO平坦化層、フラットパネルディスプレイやタッチスクリーン用のフィルム、静電防止フィルム、印刷導電性基板、プリント基板やコンデンサなどの電子用途におけるパターンや回路などの用途に使用できるが、利用分野がこれらに限定されるわけではない。
【0034】
本発明で生産されるポリマーは有機溶媒又は水に溶解するため、これらは溶液として基材に塗布される。したがって、安価なプロセスで、例えばスピンコートなどの塗布方法又はグラビア印刷などの印刷技術で、層が形成できる。
【0035】
好適な溶媒又は溶媒混合物としては、例えばエーテルや芳香族溶媒が、特に塩素化溶媒があげられる。
【0036】
FETや、半導体材料、例えばダイオードを含む部品は、紙幣やクレジットカードなどの有価物やIDカードや運転免許証などの証明文書、他のゴム印や郵税切手や切符などのついた文書が本物であることを示して偽造防止するため用いられるIDタグやセキュリティラベルの中で有利に使用できる。
【0037】
あるいは、本発明で生産されるポリマーは、有機発光ダイオード(OLED)中で、例えばディスプレイ中で、あるいは液晶ディスプレイ装置(LCD)のバックライトとして使用できる。通常、OLEDは多層構造をとる。一般的には発光層が、一層以上の電子輸送層及び/又は正孔輸送層の間に設けられる。電圧が印加されると、電子又は正孔が発光層の方向に移動し、そこで再結合して励起し、発光層中の発光性化合物の発光が起こる。電気的光学的性質に応じて、これらのポリマーや材料や層が、一種以上の輸送層及び/又は発光層中で使用される。これらの化合物、材料又は層がエレクトロルミネセンスを示す場合、あるいはエレクトロルミネセンスを示す基又は化合物をもつ場合、これらは特に発光層に好適である。
【0038】
OLED用に適当なポリマーの加工法と同様に、その選択方法は公知であり、例えば、Synthetic Materials, 111−112 (2000), 31−34又はJ. Appl. Phys.、88 (2000) 7124−7128に記載されている。
【実施例】
【0039】
特に断らない限り、すべての数量データ(百分率、ppm等)は、混合物の総質量に対する質量比である。
【0040】
[実施例1]
(有機亜鉛化合物の合成)
電磁攪拌器を備えた5lのフラスコを脱気とアルゴンガス導入を繰り返して不活性化し、プラスチック管を用いて活性亜鉛の懸濁液(100g/l、226gの亜鉛、リーケメタル社)を投入する。冷却して内部温度を約−10℃とし、958.0gの2,5−ジブロモ−3−ヘキシルチオフェン(2.873mol)を、内部温度が0℃を超えないように注意しながら滴下する。この反応混合物をゆっくり室温に戻し、さらに10時間攪拌する。攪拌器のスイッチを切り未反応の亜鉛を沈降させる。スチール管を用いて上澄溶液を注意して抜き出し、無水THFで0.5M濃度まで希釈する。生成物混合物の変換率と組成は、ガスクロマトグラフィーで決定する。変換率は>99%であり、モル比が9:1の2−ブロモ−3−ヘキシル−5−チエニル亜鉛ブロマイドと5−ブロモ−3−ヘキシル−2−チエニル亜鉛ブロマイドの異性体混合物が得られる。
【0041】
[実施例2a〜2g]
(ポリ(3−ヘキシルチオフェン)への重合)
窒素雰囲気下で、140gの実施例1の溶液(70mmolの異性体混合物)を、不活性化したフラスコに入れ、開始温度(表参照)とする。131.2mgの[1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン]ジクロロニッケル(II)(0.249mmol)の15gのTHF中の懸濁液を、速やかにこの溶液に添加する。次いでこの反応混合物の温度を、特定の期間で特定速度で上昇させる(表1参照)。反応の変換率をサンプリングとGC分析で追跡する。最後に5mLの濃塩酸を添加して反応を停止し、直ちに1.5lのメタノール中でポリマーを沈殿させる。このポリマーを固体としてろ別し、洗浄乾燥する。
【0042】
(分子量の決定)
ポリ(3−ヘキシルチオフェン)をクロロホルム(約0.05質量%)に溶解し、標準的なGPC装置で、THFを溶離液に用いて分析する(試料注入器:ウォータース717オートサンプラー;体積:100μl;流速:1mL/分;ポンプ:ウォータース515型ダブルピストンポンプ;検出器:ウォータース・ラムダ−マックス481UV検出器(450nm)、ウォータース410示差屈折計、測定温度:35℃、カラムセット:PL−ゲルカラム(ポリマーラボラトリーズ社)、各々長さが30cmで直径が0.77の四本カラム、架橋ポリスチレン−ジビニルベンゼンマトリックス、粒度:5μm、孔径:2×500Å、1×1000Å、1×10000Å、校正:PL社の312〜450000g/molの範囲のPS標準品、評価:PSSWinGPC Unity)
【0043】
(位置規則性の決定)
少量の粗製ポリマー(約5mg)を1mLの重水素化クロロホルムに溶解し、NMRチューブに入れる。試料の1NMRスペクトルを記録し、ソフトウェアのMestre−C(Ver.2.3)で評価する。ポリマー主鎖の位置規則性を決めるのに、頭−尾結合と頭−頭結合の比率を用いる。α−メチレンプロトンのシグナルは、頭−尾結合の場合は2.80ppmで、頭−頭結合の場合は2.59ppmであり、この目的に好適である。この分析ソフトウェアを用いて該当するシグナルAの面積を積分する。位置規則性は次式で計算される:
【0044】
【数1】

【0045】
この結果を下の表に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
[実施例3]
(パイロットプラントスケールでの合成)
60lのスチール製タンク中を、溶媒を沸騰させて洗浄し、減圧下(10mbar)80℃で乾燥し、窒素置換を繰り返す。まず、24kgの2−ブロモ−3−ヘキシル]−5−チエニル亜鉛ブロマイドと5−ブロモ−3−ヘキシル−2−チエニル亜鉛ブロマイドとの異性体混合物のTHF溶液(0.5M、異性体比率:約9:1)を投入し、攪拌しながら4℃に冷却する。冷却後、23.68gの[1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン]ジクロロニッケル(II)(44.84mmol)の400gのTHF中の懸濁液を、不活性化したボンベチューブから速やかに注入する。次いで反応混合物を、90分以内で30℃に暖める。タンクの内容物を、希釈せずに250kgのメタノール中に送り、このタンクを少量(約5kg)のTHFで洗う。固体をSeitzフィルター(直径3.0cm、40μm金属メッシュフィルター)でろ別し、さらに250kgのメタノールで洗う。これにより、1.6kgの質量平均分子量が30kg/mol(多分散度:約1.9)であるポリマーが得られる。
【0048】
[実施例4]
(電子部品で使用するための、試験室スケールでのポリ(3−ヘキシルチオフェン)の精製)
10gの上記粗製ポリマーを、まずヘキサンを用いて、次いでアセトンを用いてソックスレー抽出する。次いでこの固体残基をクロロホルムに溶解し、メタノールから沈殿し、メタノールで洗浄ろ別後、減圧下40℃で乾燥させる。この方法をもう一度繰り返す。これにより、残留モノマーを含まず、残留金属含量が10ppm未満である純粋なポリ(3−ヘキシルチオフェン)が得られる。
【0049】
[実施例5]
(FET中でのポリ(3−ヘキシルチオフェン)の特性評価)
電界効果トランジスタ(FET)の製造のために、厚みが200nmの熱成長させた二酸化ケイ素をもつドープしたシリコンウエハーを基板として用いる。金製のソース/ドレイン電極(厚み:約40mm)を、リソグラフィーで形成する。この誘電体境界層を、蒸着によりヘキサメチルジシラザンで変性する。スピンコート法(5000rpm、30秒)で、ポリ(3−ヘキシルチオフェン)層を、クロロベンゼン中40mg/mlの溶液で塗布した。特性評価の前に、このフィルムを90℃で短時間乾燥させた。
【0050】
すべての工程を、保護ガス雰囲気を使用せずに実施した。ケースレー4200半導体パラメーター分析計を用いて黄色光下のFET特性を記録し平均をとる。その結果を下の表2に示す。
【0051】
【表2】

【0052】
本発明により生産された高位置規則性材料は、FET中において、比較例の材料よりかなり大きな電荷移動度をもつことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
位置規則性の3−置換−チオフェン、3−置換−セレノフェン、3−置換−チアゾール及び/又は3−置換−セレナゾールのホモポリマー又はコポリマーの製造方法であって、
a)3−置換の2,5−ジハロチオフェン、2,5−ジハロセレノフェン、2,5−ジハロチアゾール又は2,5−ジハロセレナゾールを、反応性亜鉛、マグネシウム及び/又は有機マグネシウムハロゲン化物と反応させて、一個のハロ亜鉛又は一個のハロマグネシウム基を有する有機亜鉛又は有機マグネシウム中間体を得る工程、
b)前記有機亜鉛又は有機マグネシウム中間体をNi(II)とNi(0)、Pd(II)、Pd(0)触媒に接触させて重合反応を開始させる工程、及び
c)前記有機亜鉛又は有機マグネシウム中間体を重合させて、3−置換−チオフェン、3−置換−セレノフェン、3−置換−チアゾール又は3−置換−セレナゾールの位置規則性の頭−尾結合ホモポリマー又はコポリマーを得る工程
により行われ、且つ
前記重合反応が、温度を低温T1から高温温度T2に時間t1をかけて上昇させながら行われ、T1が−40〜5℃の範囲であり、T2が−20〜40℃の範囲であり、T2−T1が少なくとも10℃であり、平均温度上昇速度(T2−T1)/t1が0.05℃/分〜1℃/分であることを特徴とする製造方法。
【請求項2】
1が0〜5℃の範囲であり、T2が10〜40℃の範囲である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
1が15〜120分である請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記重合反応が、T2でt2の時間継続される請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
2が30〜240分である請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記3−置換の2,5−ジハロチオフェン、2,5−ジハロセレノフェン、2,5−ジハロチアゾール又は2,5−ジハロセレナゾールが、一般式(I)の化合物:
【化1】

[式中、
Rは、独立してa)C1-20アルキル基、b)C2-20アルケニル基、c)C2-20アルキニル基、d)C1-20アルコキシ基、e)C1-20アルキルチオ基、f)−C(O)−C1-20アルキル基、g)−C(O)−C2-20アルケニル基、h)−C(O)O−C2-20アルキニル基、i)−C(O)O−C1-20アルキル基、j)−C(O)O−C2-20アルケニル基、k)−Y−C3-10シクロアルキル基、l)−Y−C6-14アリール基、m)−Y−3−12員環シクロヘテロアルキル基、又はn)−Y−5−14員環ヘテロアリール基から選ばれ(なお、上記C1-20アルキル基とC2-20アルケニル基、C2-20アルキニル基、C3-10シクロアルキル基、C6-14アリール基、3−12員環シクロヘテロアルキル基、5−14員環ヘテロアリール基のそれぞれは、任意に1−4個のR1基で置換されていても良い)、
1は、独立してa)−S(O)m−C1-20アルキル、b)−S(O)m−OC1-20アルキル、c)−S(O)m−OC6-14アリール、d)−C(O)−OC1-20アルキル、e)−C(O)−OC6-14アリール、f)C1-20アルキル基、g)C2-20アルケニル基、h)C2-20アルキニル基、i)C1-20アルコキシ基、j)C3-10シクロアルキル基、k)C6-14アリール基、l)3−12員環シクロヘテロアルキル基、又はm)5−14員環ヘテロアリール基から選ばれ、
Yは、独立して2価のC1-6アルキル基、O、S、C(O)、C(O)O、又は共有結合から選ばれ;
Vは、S又はSeであり、
Wは、CH又はNであり、
Xは、ClとBrとIから選ばれる]
で表される請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
VがSである請求項6に記載の方法。
【請求項8】
WがCHである請求項7に記載の方法。
【請求項9】
Rが、C1-20アルキル基又はC1-20アルコキシ基である請求項7又は8に記載の方法。

【公表番号】特表2012−530148(P2012−530148A)
【公表日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−514494(P2012−514494)
【出願日】平成22年6月14日(2010.6.14)
【国際出願番号】PCT/EP2010/058300
【国際公開番号】WO2010/146013
【国際公開日】平成22年12月23日(2010.12.23)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【出願人】(508015391)リーケ メタルズ インコーポレイテッド (4)
【氏名又は名称原語表記】RIEKE METALS INC.
【Fターム(参考)】