説明

低アレルゲン味噌及びその製造方法

【課題】 大豆特有の風味及び栄養価を低下させることなく、大豆の主要アレルゲンが低減又は完全に除去された低アレルゲン味噌及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 アレルゲン低減型大豆を原料とし、サンドイッチELISA法及びウエスタンブロッティング法により主要アレルゲンが検出されない低アレルゲン味噌。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大豆主要アレルゲンが低減された味噌及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
大豆は、良質な蛋白質を含み植物性蛋白源として優れた食品であるが、食物性アレルギーの原因となることから、卵、牛乳と並ぶ3大アレルゲン食品の一つに挙げられている。食物アレルギーとは、特定の食品を飲食することでアレルギー状態が発生する免疫反応であり、食物アレルギーの症状としては鼻炎、湿疹、下痢、蕁麻疹等がある。食物アレルギーの治療法としては、薬物による療法や、アレルゲンとなる食物を見つけ出しその再発のおそれがなくなるまで、その原因食物を患者の食餌から取り除き体質改善を図る除去食療法が行われている。
【0003】
しかしながら、除去食療法では摂取する食品が限られるため、特に、除去食療法は成長期の子供に対して悪影響を及ぼすおそれがあると指摘する声も上がっている。また、近年では健康食品として大豆食品への注目が高まっており、食物アレルギー患者においても栄養価の高い大豆食品摂取の要望が高まっている。このため、大豆特有の栄養価をできるだけ低下させず、アレルゲンの含有量のみを低下させるための研究が行われている。
【0004】
例えば、特許文献1及び2には、アレルゲンが低減された大豆加工品として、無塩味噌若しくは減塩味噌又はこれらの抽出物を主成分とする機能性組成物が開示されている。特許文献3には、大豆蛋白食品素材に、アレルゲンの分解活性及びペプチダーゼ活性を併有する酵素を作用させることを特徴とするアレルゲン低減化大豆蛋白食品の製造方法が開示されている。また、特許文献4には、主要アレルゲンが50%以下に低下したアレルゲン低減型大豆を原料とする大豆加工食品が開示されている。特許文献5には、α’サブユニット欠失大豆を原料とし、Gly m Iを除去して得られた低アレルゲン大豆蛋白が開示されている。特許文献6には、塩類が溶解した水溶液で大豆蛋白質を酸性下に処理して、Gly m Bd30kを選択的に沈降性画分に濃縮させ、上清画分を採取する分画大豆蛋白の製造法が開示されている。さらに、特許文献7には、大豆蛋白食品に醤油麹起源のプロテアーゼを作用させて製造するアレルゲンのない大豆蛋白食品の製造法が開示されている。
【0005】
しかしながら上記技術では、大豆加工品等中の主要アレルゲンをある程度低減させることはできるものの、主要アレルゲン含量をより低減させるための改善の余地があった。大豆主要アレルゲンの中でも、特にGly m Bd30kは交配による品種改良では取り除くことができず、しかも分解されにくいため除去が困難とされている。従って、Gly m Bd30kをより低減させるか又は完全に除去した大豆加工品の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−69949号公報
【特許文献2】特開2006−70015号公報
【特許文献3】特開2001−211851号公報
【特許文献4】特開平10−4905号公報
【特許文献5】特開平9−37720号公報
【特許文献6】特開平7−236427号公報
【特許文献7】特開平7−203890号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、大豆特有の風味及び栄養価を低下させることなく、大豆の主要アレルゲンが低減又は完全に除去された低アレルゲン味噌及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、味噌の原料に大豆主要アレルゲン含量が少ない大豆(アレルゲン低減型大豆)を用い、味噌の製造過程で該大豆にプロテアーゼを作用させると、製造された味噌において大豆主要アレルゲンであるGly m Bd30kがほぼ完全に除去されることを見出した。また、アレルゲン低減型大豆としては、大豆の主要アレルゲンである7Sグロブリンのα及びα’サブユニットを欠失するものが好適であり、中でも新品種のなごみまる(旧系統名関東103号)が好適であることを見出した。さらに、プロテアーゼとして納豆菌由来のプロテアーゼを用いると、大豆主要アレルゲンが効果的に除去されることや、この低アレルゲン味噌では、大豆主要アレルゲン含量は低減されているものの、大豆特有の風味や栄養価は通常の味噌と同等であり、大豆アレルギー患者が安全に摂取できる大豆加工食品であることを見出した。本発明者は、上記知見に基づきさらに鋭意研究した結果、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、下記(1)〜(10)からなっている。
(1)アレルゲン低減型大豆を原料とし、サンドイッチELISA法及びウエスタンブロッティング法により主要アレルゲンが検出されないことを特徴とする低アレルゲン味噌。
(2)アレルゲン低減型大豆が、大豆の主要アレルゲンである7Sグロブリンのα及びα’サブユニットを欠失するものである前記(1)に記載の低アレルゲン味噌。
(3)アレルゲン低減型大豆の品種が、なごみまるである前記(1)又は(2)に記載の低アレルゲン味噌。
(4)主要アレルゲンがGly m Bd 30Kである前記(1)〜(3)のいずれかに記載の低アレルゲン味噌。
(5)前記(1)〜(4)のいずれかに記載の低アレルゲン味噌を含むフリーズドライ食品。
(6)アレルゲン低減型大豆、麹及び塩を含む味噌原料を仕込む工程、並びに味噌原料を発酵及び熟成させる工程を含み、さらに、味噌原料にプロテアーゼを添加する工程を含むことを特徴とする低アレルゲン味噌の製造方法。
(7)プロテアーゼが、納豆菌由来のプロテアーゼである前記(6)に記載の製造方法。
(8)アレルゲン低減型大豆が、大豆の主要アレルゲンである7Sグロブリンのα及びα’サブユニットを欠失するものである前記(6)又は(7)に記載の製造方法。
(9)アレルゲン低減型大豆の品種が、なごみまるである前記(6)〜(8)のいずれかに記載の製造方法。
(10)低アレルゲン味噌が、サンドイッチELISA法及びウエスタンブロッティング法によりによりGly m Bd 30Kが検出されないものである前記(6)〜(9)のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、大豆特有の風味及び栄養価を低下させることなく、大豆の主要アレルゲンが実質的に含まれない味噌を製造することができるため、大豆アレルギー患者に安全で栄養価の高い大豆食品を提供することができる。本発明の低アレルゲン味噌は、大豆アレルギー患者用の食品として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】味噌の熟成過程におけるタンパク質量の変化をSDS−PAGEにより分析した結果を示す図(上)、及びGly m Bd 30K量の変化をウエスタンブロッティング法により分析した結果を示す図(下)である。
【図2】味噌の熟成過程におけるGly m Bd 30K量の変化を、ウエスタンブロッティング法により分析した結果を示す図である。
【図3】味噌の熟成過程におけるGly m Bd 30K量の変化を、ウエスタンブロッティング法により分析した結果を示す図である。
【図4】味噌の熟成過程におけるタンパク質量の変化をSDS−PAGEにより分析した結果を示す図(上)、及びGly m Bd 30K量の変化をウエスタンブロッティング法により分析した結果を示す図(下)である。
【図5】味噌の熟成過程におけるタンパク質量の変化をSDS−PAGEにより分析した結果を示す図(上)、及びGly m Bd 30K量の変化をウエスタンブロッティング法により分析した結果を示す図(下)である。
【図6】味噌の熟成過程におけるGly m Bd 30K量の変化を、SDS−PAGEにより分析した結果を示す図(A)及びウエスタンブロッティング法により分析した結果を示す図(B)である。
【図7】味噌の熟成過程におけるGly m Bd 30K量の変化を、SDS−PAGEにより分析した結果を示す図(A)及びウエスタンブロッティング法により分析した結果を示す図(B)である。
【図8】低アレルゲン味噌を使用した味噌汁及び市販の即席味噌汁(市販の味噌汁1及び2)に含まれるGly m Bd 30Kを、SDS−PAGEにより分析した結果を示す図(A)及びウエスタンブロッティング法により分析した結果を示す図(B)である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.低アレルゲン味噌
本発明の低アレルゲン味噌は、アレルゲン低減型大豆を原料とし、サンドイッチELISA法及びウエスタンブロッティング法により主要アレルゲンが検出されないものである。
大豆主要アレルゲンとしては、Gly m Bd 30K、Gly m Bd 28K、7Sグロブリンのα及びα’サブユニットが挙げられるが、特にGly m Bd 30Kは、交配による品種改良によって除くことができず、しかも分解されにくいため除去が困難とされている。本発明の低アレルゲン味噌は、後述するサンドイッチELISA法及びウエスタンブロッティング法によりGly m Bd 30Kが検出されないものであり、しかも大豆アレルギー患者が実際に摂取したときにアレルギー反応を起こさないものである。
【0013】
本発明におけるアレルゲン低減型大豆としては、大豆主要アレルゲンのうち7Sグロブリンのαサブユニット及びα’サブユニットを欠失しているものが好ましい。このようなアレルゲン低減型大豆としては、なごみまる(旧系統名関東103号)が好適である。この品種は、独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構 作物研究所 大豆研究チームで開発されたものであり、作物研究所から入手可能である。
【0014】
本発明におけるサンドイッチELISA法による大豆主要アレルゲンの検出は、SDS−PAGEとイムノブロットとにより、以下の方法で行う。
(I)サンプルの調製
サンプルの調製は、味噌約5gに対し、蒸留水50mLを加えて、ミル等により味噌を水に懸濁させて行なう。
【0015】
(II)SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)
SDS−PAGEは、Laemmliらの方法(Laemmli UK, (1970) Nature, 227, 680-685)に準じて実施する。
【0016】
(III)イムノブロット
Ogawa et al., (1991) J Nutr Sci Vitaminol, 37, 555-565及びTsuji et al., (1995) Biosci Biotech Biochem, 59, 150-151に記載の方法に従って、大豆アレルギー患者血清又はマウス抗体によるイムノブロットを行なう。
【0017】
本発明の低アレルゲン味噌は、サンドイッチELISA法により測定される大豆主要アレルゲン、特にGly m Bd 30K含量が50ng/mg以下であることが好ましく、5ng/mg以下であることがより好ましく、サンドイッチELISA法でGly m Bd 30Kが検出されないことが最も好ましい。サンドイッチELISA法によるGly m Bd 30Kの測定は、J. Nutr. 135:1738-1744, July 2005に記載されている方法により行うことができる。
【0018】
本発明におけるウエスタンブロッティング法は、以下の方法により行う。
(I)サンプルの調製
サンプルの調製は、味噌5gに対し、蒸留水50mLを加えて、ミルにより味噌を水に懸濁させて行う。
【0019】
(II)SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)
(I)で得られた懸濁液を用いて、Laemmliらの方法(Laemmli UK, (1970) Nature, 227, 680-685)に従いSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)を行う。
【0020】
(III)ブロッキング及びイムノブロット
泳動後、セミドライ法によってPVDF膜へ電気的に転写し、転写後の膜を5%スキムミルクを含むPBST(ブロッキング液)中にて1時間振とうすることによりブロッキングを行う。ブロッキング後、ブロットを、ブロッキング液にて2万倍に希釈した抗体(Gly m Bd 30Kに対するマウスモノクローナル抗体)と室温で1時間反応させる。反応後、ブロットをPBSTにて10分間4回洗浄した後、ペルオキシダーゼ標識抗マウスIgG抗体(2次抗体)をブロッキング液にて400倍希釈した2次抗体反応液中でさらに室温で1時間反応させる。反応後、ブロットをPBSTにて10分間4回洗浄し、ECL化学発光検出試薬(GEヘルスケア)にて反応させる。発光シグナルはX線フィルムに露光させて検出できる。
大豆主要アレルゲンGly m Bd 30Kが存在していると、対応する位置にバンドとして検出される。
【0021】
本発明の低アレルゲン味噌は、例えば、米麹、大豆及び塩を原料とした米味噌;麦麹、大豆及び塩を原料とした麦味噌;豆麹及び塩を原料とした豆味噌;更に米味噌、麦味噌及び豆味噌の2種以上を組み合わせるか又は各種麹を組み合わせて作られる調合味噌の何れの味噌であってもよい。好ましくは、米味噌である。
【0022】
本発明の低アレルゲン味噌は、例えばフリーズドライ等の手法により水分量を約5質量%以下とすることにより、保存性が向上する。本発明の低アレルゲン味噌を粉末化した食品又は低アレルゲン味噌を含むフリーズドライ食品は、本発明の好ましい実施形態1つである。
【0023】
2.低アレルゲン味噌の製造方法
本発明の低アレルゲン味噌の製造方法としては、原料の大豆として上記アレルゲン低減型大豆を使用すればよく、特に限定されないが、アレルゲン低減型大豆、麹及び塩を含む味噌原料を仕込む工程、及び味噌原料を発酵及び熟成させる工程を含み、さらに、プロテアーゼを添加する工程を含む方法が好適である。このような製造方法も、本発明の1つである。アレルゲン低減型大豆にプロテアーゼを添加することにより、アレルゲン低減型大豆にプロテアーゼが作用して上述した大豆主要アレルゲンが分解される。このため、Gly m Bd 30K等の大豆主要アレルゲンが完全に除去された低アレルゲン味噌を製造することができる。
【0024】
本発明の製造方法は、原料大豆としてアレルゲン低減型大豆を使用し、さらにプロテアーゼを添加する工程を含む以外は、通常の味噌の製造方法と同様に行うことができる。
通常の味噌は、蒸したり煮たりした大豆をつぶす工程、つぶした大豆に麹及び塩を加えて容器に仕込む工程、及びこれを発酵及び熟成させる工程を行なうことにより製造される。本発明においては、大豆をつぶす工程、仕込み工程から発酵及び熟成工程の間のいずれかの時点において味噌原料中にプロテアーゼが存在すればよく、プロテアーゼを添加する時期は特に限定されない。例えば、蒸したり煮たりした大豆をつぶす前又はつぶした後にプロテアーゼを添加し、これに麹と塩を加えて仕込み工程を行なった後、発酵及び熟成工程を行なってもよく、仕込み工程においてアレルゲン低減型大豆に麹、塩及びプロテアーゼを添加してもよい。さらに、仕込み工程を行なった後、熟成工程においてプロテアーゼを添加してもよい。好ましくは、仕込み工程においてプロテアーゼを添加する。プロテアーゼの添加は、2回以上に分けて行ってもよい。
【0025】
本発明で用いられるプロテアーゼとしては、大豆主要アレルゲンを分解することができるものであればよいが、納豆菌(Bacillus subtilis var. natto)由来のプロテアーゼが好ましい。納豆菌由来のプロテアーゼには、市販品を用いることもでき、例えば、天野エンザイム社製のプロテアーゼN「アマノ」G、プロテアーゼNL「アマノ」、プロレザーFG−F等が好適である。
【0026】
プロテアーゼを添加する方法として、プロテアーゼをそのまま添加する方法、プロテアーゼ含有溶液を添加する方法のいずれでもよい。添加するプロテアーゼの量としては、プロテアーゼの種類により選択すればよいが、例えば、納豆菌由来のプロテアーゼを用いる場合には、蒸した又は煮た低アレルゲン大豆に対して、プロテアーゼ(乾燥質量)を約0.001〜0.1質量%とすることが好ましく、約0.005〜0.05質量%とすることがより好ましい。
【0027】
本発明の製造方法に用いられる材料は、大豆として上記アレルゲン低減型大豆を用い、さらにプロテアーゼを使用することを除き、味噌の製造に通常用いられるものを使用することができる。
【0028】
麹としては特に限定されず、米、麦若しくは大豆の麹、又は、これら麹を2種以上混合したものを使用することができる。好ましくは、米麹である。麹は、上記米、麦などの穀類又は豆類を蒸煮したものに麹菌を添加して培養することにより各種麹を得ることができる。麹菌としては、味噌の製造に用いられる麹菌であれば特に限定されない。麹菌は、種麹の形態で穀類及び/又は豆類を蒸煮したものに添加されてもよい。麹菌を添加して培養する温度は、使用する麹菌の最適生育温度に依存するが、例えば、約30〜45℃、好ましくは約34〜40℃である。麹の添加量としては、麹の種類や製造する味噌の種類により適宜設定すればよく、特に限定されない。
【0029】
本発明で味噌の材料として用いられる塩は何れの食用塩であってもよく、例えば食塩、特級塩、岩塩、並塩、白塩などが挙げられる。塩分量としては、アレルゲン低減型大豆、麹及び塩の合計に対して通常約5〜14質量%、好ましくは約10〜12質量%とするが、特に限定されない。
【0030】
本発明の製造方法においては、本発明の効果を奏する限り、アレルゲン低減型大豆、麹及び塩以外の材料を使用してもよい。その他の材料としては、例えば、味噌の材料として使用される穀類としては米、麦などが代表的であるが、トウモロコシ、ソバ、アワ、ヒエといった他の穀類を用いることもできる。麦としては、大麦、裸麦、はと麦、ライ麦、小麦といった食用とされる麦のいずれをも用いることができる。
【0031】
発酵及び熟成工程においては、例えば、温度約25〜30℃で熟成させた場合には、約3〜6ヶ月間熟成させることが好ましい。また、上記サンドイッチELISA法及びウエスタンブロッティング法によりGly m Bd 30Kが検出されなくなるまで熟成させることが好ましい。
【0032】
味噌原料にプロテアーゼを作用させ、発酵及び熟成させることにより得られた低アレルゲン味噌は、そのまま保存、調理又は摂取することができるものであるが、例えば、味噌の水分含量を低くすることにより、保存性を向上させることができる。水分含量を低くする際は、例えば、味噌全体に対して水分含量を約5質量%以下とすることが好ましく、約1.5〜3.5質量%とすることがより好ましい。水分含量を低くする際には、製造方法において熟成した味噌を乾燥する工程を行なえばよい。乾燥方法としては、例えば、ドラムドライ、フリーズドライ等が挙げられ、フリーズドライが好ましい。
【0033】
本発明の低アレルゲン味噌を含むフリーズドライ食品は、ビタミン等の栄養成分や風味の変化が少なく常温で長期保存ができ、しかも低水分であるため軽く、輸送性が高いものである。このため、大豆アレルギー患者においしく、安全でしかも栄養価の高い大豆食品を提供することができる。
実施例
【0034】
以下に本発明を実施例に基づいて、より具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0035】
低アレルゲン大豆を用い、プロテアーゼを添加した製造例
(1)米麹の製造
白米30kgを洗浄し、一晩水に浸漬した。この白米の水を切り、無圧で1時間蒸し煮することにより蒸米を作製した。蒸米を冷却した後、これに種麹(米白、ビオック社製)3gを混ぜ込んで34℃で製麹を開始し、切り返しを21時間後、29時間後及び36時間後に行い、約44時間後に米麹を得た。
【0036】
(2)蒸し煮大豆の製造
なごみまる26kgを洗浄し、一晩水に浸漬した。この大豆を、無圧で5時間蒸し煮することにより、蒸煮大豆を得た。
【0037】
(3)仕込み、発酵及び熟成
(1)で製造した米麹及び(2)で得られた蒸し煮大豆に、食塩12.7kg及び種水4Lを加えて混合し、さらに、納豆菌(Bacillus subtilis)由来のプロテアーゼ(天野製薬社製、商品名「プロテアーゼN「アマノ」G」)を添加して味噌材料を仕込み、室温で約5ヶ月発酵及び熟成を行なって、味噌を製造した。納豆菌由来のプロテアーゼは、該プロテアーゼ1.3gを100ccの水に混合した酵素含有水溶液を調製し、該プロテアーゼが大豆に対して0.01%となるように添加した。添加発酵及び熟成中、並びに熟成後の味噌をサンプリングし、後述する方法によりアレルゲンの分析を行なった。
【実施例2】
【0038】
低アレルゲン大豆を用い、プロテアーゼを追加添加した製造例
実施例1(3)の仕込み工程において、仕込み後、8週間経過後に、再度納豆菌由来のプロテアーゼを、大豆に対して0.01%となるように添加したこと以外は、実施例1と同様にして味噌を製造した。納豆菌由来のプロテアーゼの追加には、仕込み時に用いたのと同じ酵素含有水溶液を用いた。
発酵及び熟成中、並びに熟成後の味噌をサンプリングし、後述する方法によりアレルゲンの分析を行なった。
【0039】
比較例1
低アレルゲン大豆を用い、プロテアーゼを添加しなかった製造例
実施例1(3)の仕込み工程において、納豆菌由来のプロテアーゼを添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にして味噌を製造した。
発酵及び熟成中、並びに熟成後の味噌をサンプリングし、後述する方法によりアレルゲンの分析を行なった。
【0040】
比較例2
通常の大豆を用い、プロテアーゼを添加しなかった製造例
実施例1において、低アレルゲン大豆(なごみまる)に代えて通常の大豆ハタユタカを用い、納豆菌由来のプロテアーゼを添加しなかったこと以外は、同様にして味噌を製造した。
発酵及び熟成中、並びに熟成後の味噌をサンプリングし、後述する方法によりアレルゲンの分析を行なった。
【0041】
試験例1
ウエスタンブロッティング法による味噌中のアレルゲンの測定
味噌サンプルの調製は、味噌5gに対し、蒸留水50mLを加えて、ミルにより味噌を水に懸濁させて行なった。得られた懸濁液を用いて、Laemmliらの方法(Laemmli UK, (1970) Nature, 227, 680-685)に従いSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)を行った。泳動後、セミドライ法によってPVDF膜へ電気的に転写し、転写後の膜を5%スキムミルクを含むPBST(ブロッキング液)にて1時間振とうすることによりブロッキングを行った。ブロッキング後、ブロットを、ブロッキング液にて2万倍に希釈した抗体(Gly m Bd 30Kに対するマウスモノクローナル抗体)と室温で1時間反応させた。反応後、ブロットをPBSTにて10分間4回洗浄した後、ペルオキシダーゼ標識抗マウスIgG抗体(2次抗体)をブロッキング液にて400倍希釈した2次抗体反応液中で、室温で1時間反応させた。反応後、ブロットをPBSTにて10分間4回洗浄し、ECL化学発光検出試薬(GEヘルスケア社製)にて反応させた。発光シグナルはX線フィルムに露光させた。大豆主要アレルゲンGly m Bd 30Kが存在していると、対応する位置にバンドとして検出される。
【0042】
サンドイッチELISA法による味噌中のアレルゲンの測定
味噌サンプルの調製は、味噌5gに対し、蒸留水50mLを加えて、ミルにより味噌を水に懸濁させて行なった。得られた懸濁液を適宜PBSにて段階希釈し、J. Nutr. 135:1738-1744, July 2005に記載されている方法によりサンドイッチELISA法によるGly m Bd 30Kの測定を行なった。
【0043】
結果
仕込み時の味噌、並びに発酵及び熟成過程(熟成期間は、図中に記載)における味噌中のアレルゲンタンパク質Gly m Bd 30K量の変化を、図1〜7にそれぞれ示す。
なお、図中、「酵素あり」は、実施例1で製造した、原料になごみまるを使用し、納豆菌由来のプロテアーゼを添加して製造した味噌である。図中、「酵素追加」は、実施例2で製造した、原料になごみまるを使用し、仕込み時及び発酵・熟成時(仕込み後8週間経過後)に納豆菌由来のプロテアーゼを添加して製造した味噌である。「酵素なし」は、比較例1で製造した、原料になごみまるを使用し、味噌製造時に納豆菌由来のプロテアーゼを添加しなかった味噌である。「対照」は、比較例2で製造した通常の大豆を用いた味噌である。
【0044】
図1〜7より、仕込み時には味噌中に存在したGly m Bd 30Kが、納豆菌由来のプロテアーゼを添加することにより効率よく分解除去されることが分かる。
【0045】
試験例2
市販の味噌汁とのアレルゲン量の比較
実施例1で作製した味噌(低アレルゲン味噌)を使った味噌汁を調製し、上記と同様の方法によりアレルゲンタンパク質Gly m Bd 30Kを分析した。比較のため、市販の即席みそ汁を調製し、味噌汁に含まれるGly m Bd 30Kを分析した。結果を図8に示す。
低アレルゲン味噌を使用した味噌汁の原材料:低アレルゲン味噌、かつおだし、グルゾウ、鰹節粉、ねぎ、調味料(アミノ酸等)、酸化防止剤(ビタミンE)、クエン酸
【0046】
使用した市販の即席みそ汁は、以下の通りである。
市販の味噌汁1:商品名「あさげ」(永谷園社製)1食分に、160mLの熱湯を注いで味噌汁を調製した。
市販の味噌汁2:商品名「なすのおみそ汁」(天野実業社製)1食分に、160mLの熱湯を注いで味噌汁を調製した。
図8より、低アレルゲン味噌を使用した味噌汁では、市販の即席味噌汁を使用した市販の味噌汁1及び2よりもアレルゲンタンパク質Gly m Bd 30Kが低減されていることが分かる。
【0047】
試験例3
大豆アレルギー患者による味噌の摂取
実施例1で製造したGly m Bd 30Kが検出されない味噌を、フリーズドライにより水分含量5質量%以下のフリーズドライ味噌(1食分につき、乾燥前の味噌質量12g)とした。このフリーズドライ味噌1食分に熱湯160mLを注いで味噌汁を調製した。この味噌汁を、医師の監督下で、了解を得た大豆アレルギー患者に摂取していただき、アレルギー反応が起こるかを確認した。
【0048】
結果
実施例1で製造した味噌を用いた味噌汁を摂取した患者にはアレルギー反応が起こらなかった。この結果から、本発明の低アレルゲン味噌は、大豆アレルギー患者用の安全な食品として有用であることが分かった。
【0049】
試験例4
冷凍味噌の評価試験
冷凍味噌の味を、味認識装置により評価した。
(1)試料
実施例1、比較例1及び比較例2で調製中の味噌を熟成中に採取し、冷凍した。試料に用いた味噌を、表1に示した。
【0050】
【表1】

【0051】
(2)試料調製
表1に示した冷凍味噌10gを沸騰した純粋110gでよく分散させた後、それから100g採取し、常温の純水100gを加え希釈した。室温まで放冷後、遠心分離(3000rpm、10分間、20℃)を行ない、水相部分を測定試料とした。
【0052】
(3)評価
味認識装置SA402B(Insent社製)を用いて、人間の唾液に近いほぼ無味の基準溶液(30mM−KCl+0.3mM−酒石酸溶液)に対する味強度(絶対値)を室温で測定した。絶対値から対照試料「05TA」の味強度を0になるよう換算した相対値を用いて試料間の味の違いを評価した。味認識装置で数値化を行なった項目は、表2に示すとおりである。
【0053】
【表2】

【0054】
表2に記載の先味は、食品を口に入れた瞬間の味覚を、後味は、食品を飲み込んだ後に広がる味を表す。
【0055】
上記測定の結果、試料C1及びC5(対照品)よりなごみまるを使用した味噌(試料A1、A5、B1及びB5)の方が旨味が強いと評価された。また、対照品及びなごみまるを使用した味噌において、苦味、苦味雑味は同程度であると評価された。
したがって、低アレルゲン味噌は、従来の味噌と比較して、旨味が強い味噌であると考えられた。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の低アレルゲン味噌は、大豆アレルギー患者用の食品として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アレルゲン低減型大豆を原料とし、サンドイッチELISA法及びウエスタンブロッティング法により主要アレルゲンが検出されないことを特徴とする低アレルゲン味噌。
【請求項2】
アレルゲン低減型大豆が、大豆の主要アレルゲンである7Sグロブリンのα及びα’サブユニットを欠失するものである請求項1に記載の低アレルゲン味噌。
【請求項3】
アレルゲン低減型大豆の品種が、なごみまるである請求項1又は2に記載の低アレルゲン味噌。
【請求項4】
主要アレルゲンがGly m Bd 30Kである請求項1〜3のいずれかに記載の低アレルゲン味噌。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の低アレルゲン味噌を含むフリーズドライ食品。
【請求項6】
アレルゲン低減型大豆、麹及び塩を含む味噌原料を仕込む工程、並びに味噌原料を発酵及び熟成させる工程を含み、さらに、味噌原料にプロテアーゼを添加する工程を含むことを特徴とする低アレルゲン味噌の製造方法。
【請求項7】
プロテアーゼが、納豆菌由来のプロテアーゼである請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
アレルゲン低減型大豆が、大豆の主要アレルゲンである7Sグロブリンのα及びα’サブユニットを欠失するものである請求項6又は7に記載の製造方法。
【請求項9】
アレルゲン低減型大豆の品種が、なごみまるである請求項6〜8のいずれかに記載の製造方法。
【請求項10】
低アレルゲン味噌が、サンドイッチELISA法及びウエスタンブロッティング法によりによりGly m Bd 30Kが検出されないものである請求項6〜9のいずれかに記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−166842(P2010−166842A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−11284(P2009−11284)
【出願日】平成21年1月21日(2009.1.21)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、生物系特定産業技術研究支援センター「生物系産業創出のための異分野融合研究支援事業」、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(500338159)学校法人玉手山学園 (1)
【出願人】(396022837)株式会社タスク (1)
【出願人】(000216151)天野実業株式会社 (9)