説明

低含量の高次多量体を含むウイルスに関して安全な第VIII因子

【課題】低含量の高次多量体を含むウイルスに関して安全な第VIII因子を提供する。
【解決手段】ナノメーター濾過の後に得られるウイルス面で安全な血漿由来第VIII因子組成物に関し、この組成物は10量体およびより高次の多量体が15%以下であるフォンビルブラント因子(vWF)を含む。かかる組成物は、4log(104)倍より大きいウイルス力価の減少を示し、従って血友病の治療に適している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォンビルブラント因子(vWF)における10量体およびより高次の多量体が15%以下である、ナノメートル (nanometric) 濾過の後に得られるウイルス面で安全な血漿由来の第VIII因子組成物に関する。かかる組成物は、4log (104 )倍より大きいウイルス力価の減少を示し、従って血友病を治療するのに適している。
【背景技術】
【0002】
凝固因子の有効性はある期間社会的な健康の問題であった。要求に沿うために、製造者は組換え因子の製造のための技術を開発し、これらはより長い期間にわたり血漿プールを用いた製造に代わるであろうと考えられた。しかし、製品の質は依然として不満足なようであり、これらの製品を開発するための投資はかなりなものである。また、これらの組換え因子に対する免疫反応が患者に見られる場合があり、これは望まれる治療効果に到達するには高い用量の投与が必要であることを意味する。
【0003】
従って、血漿由来凝固因子の製造は依然として大きな挑戦である。
第VIII因子、即ち抗血友病因子は、ヒト血漿中に低濃度で存在する血漿タンパク質である。この因子は、カルシウムの存在下でトロンビンの作用を受けて可溶性フィブリノーゲンから得られる止血性フィブリンの血餅の形成に至る反応速度を向上させることにより血液凝固の生化学的反応を触媒する。第VIII因子は、フィブリノーゲンからフィブリンへの変換を担う酵素活性であるトロンビン形成に至る一連の反応に関与する。従って、凝固の重要な点は第VIII因子の存在および活性化にある。
【0004】
第VIII因子が欠損した血友病患者は、遺伝子組換えまたはヒト血漿からの抽出のいずれかにより得られた精製第VIII因子の注射により治療する。
後者の場合、これらの濃縮物で治療される血友病患者を、血液またはその誘導物により伝染するウイルス:A、B、C型肝炎ウイルス、HIV またはパロウイルス (Parovirus)B19 、による何らかの感染に対して保護するために、ウイルスの不活性化および/または除去のための方法が適用されねばならい。
【0005】
従って、血漿由来の第VIII因子の製造に関する本質的な問題の1つは、製造後に因子の最適な収率を維持しながら、少なくとも規定の基準に従い、血液中にもともと含まれるウイルスを不活性化および/または除去する必要性にある。そこで、乾燥加熱、低温加熱、溶剤洗浄処理などの多数のウイルス不活性化技術が開発された。これらの技術はすべて、エンベロープを有するウイルスには比較的効果的であるが、エンベロープをもたないウイルス、特にパロウイルスB19 やA型肝炎ウイルスなどの小さいウイルスの不活性化または除去には重大な障害がある。
【0006】
より最近の技術は、小孔径の膜によるウイルス保持能力を使用する。これらの技術は実際、パロウイルスB19 やA型肝炎ウイルスなどの小さいサイズのウイルスには顕著な効果を示し、低分子量のタンパク質に対して適用できる。しかし、900kDaより小さい分離の限界は、収量の大きな損失なしに第VIII因子のような高分子量のタンパク質またはタンパク質複合体を濾過することを考慮していない。
【0007】
第VIII因子は、高分子量のタンパク質にイオン結合および疎水結合により結合され、この高分子量のタンパク質により担持された活性タンパク質FVIII の複合タンパク質構成物である。この高分子量タンパク質は、四量体が集合した構造、さらには16より多いモノマーを含む構造にまで至る種々の多量体化の基本モノマーの群からなるフォンビルブラント
因子 (vWF)である。
【0008】
使用する第VIII因子精製法により、最終産物は種々の多量体化度でvWF を含有しうる (Metzner, Hermentin等、Haemophilia (1998), 4 (Suppl.3), 25-32) 。
我々のフランス特許第97 15888号は、少なくとも0.2 Mのカオトロピックイオンを有する約15nmの多孔度を有するフィルターを通して、20nmより大きいサイズのウイルスを保持しながら、そのサイズにかかわらず血漿由来第VIII因子をいかにして濾過しうるかを記載している。
【0009】
より最近、この方法を改良し、各種のフィルター材料を選択するために行われた検討により、フィルター孔径と技術的限界は製造者により異なるかもしれないことが分かった。従って、最終生成物が健康の要求に合致することを実証しうる、迅速で再現可能な試験を見出すことが必要であるようだ。
【0010】
ウイルスが濾過により除去されたことの確実さは、第VIII因子溶液を通過させた後にフィルターに対して行う確認方法により保証される。これらの方法は、膜、例えば銅に似たフィルターを通したガス拡散の測定、較正した、フィルターを通過するコロイド状金粒子の測定を必要とする。
【0011】
しかし、いずれの方法も、規定の制限内にウイルスを保持しうる濾過を受けたかどうかを決定するための、実際の濾過生成物それ自体には言及していない。
濾過の前および後の第VIII因子多量体の組成のより詳しい分析を、第VIII因子の濾過により提供されるウイルス力価の減少の測定と同時に行った。
【0012】
我々は予想外にも、第VIII因子の濾液において測定した、高分子量vWF 多量体の減少は、フィルターによるウイルス保持の効果と関連していることを見出した。さらに、多量体の含有量を実証することにより、約20nmで濾過しうることを見出した。従って、我々は、ナノメーター濾過によるウイルス除去の要求を満足する第VIII因子の高収率の製造および特性決定のための新規な手段を提案する。
【発明の開示】
【0013】
第1の特徴によれば、本発明は、ウイルスの面での安全性が、濾過によるウイルス除去の安全性要求を満たしている4log より大きい減少倍率に相当する、血漿由来の第VIII因子薬剤組成物に関する。ウイルス面で安全にされた第VIII因子組成物は、高多量体化vWF の低い残存量を特徴とする。
【0014】
より詳しくは、本発明は、公称孔径15±2nmから23±2nmのナノメーターフィルターを通して濾過した後に得られる、血漿由来第VIII因子組成物に関し、含有されるフォンビルブラント因子 (vWF)における10量体およびより高次の多量体が15%以下であることを特徴とする。この組成物において、27±3nmのサイズのウイルスの力価は、濾過前の溶液に比べて4log 倍以上、好ましくは5log 倍、有利には6log 倍減少している。
【0015】
この組成物は、例えば静脈内、筋肉内、または皮下の経路により注射可能な溶液の形態でありうる。
本発明はまた、vWF の10量体およびより高次の多量体の15%以下の存在と、少なくとも4log 倍のウイルス力価の減少との関連に関する。
【0016】
従って、第2の特徴によれば、本発明は、血漿由来第VIII因子組成物のウイルス面での安全性を試験する方法に関し、この方法は、高多量体化vWF の残存含量を決定することからなる工程を含む。特に、15%より少ないvWF 10量体およびより高次の多量体が検出され
れば、組成物はウイルスについて安全であると考えられるであろう。
【0017】
別の特徴によれば、本発明は、多量体化が10以上であるvWF 多量体の解析のための必要試薬を含む、上記方法を実施するために使用できる試験キットに関する。
本発明はまた、公称孔径15±2nmから23±2nm、即ち13nm〜25nmの範囲のナノメーターフィルターを通して濾過する工程、およびフォンビルブラント因子 (vWF)の10量体およびより高次の多量体を解析する工程を含む、ウイルスについて安全な第VIII因子溶液を製造する方法に関する。解析工程は好ましくは、vWF 10量体およびより高次の多量体の含有量が15%以下であることを実証することからなる。例えば、試料をゲル電気泳動にかけ、サイズにより多量体を分離する。多量体はI-125 標識した抗-vWF抗体またはその他の標識物を用いて可視化する。それぞれvWF 多量体に相当する各片の光の強度を決定し、より高次多量体の制限含有量を算出する。ウサギ抗-vWFも使用でき (Darko Corp, 米国) 、第2のウサギ抗- Ig抗体に西洋ワサビペルオキシダーゼ (HRP)を結合し、市販の化学ルミネッセンスキット (ECL detection kit, Amersham Phamacia) を用いて多量体を可視化し、ウエスタンブロットでHRP を検出する。
【0018】
完了すると、サイズ27±3nmのウイルスについてウイルス力価の減少が4log 倍以上、好ましくは5log 倍、有利には6lo倍g である第VIII因子溶液が得られる。濾過の前は、第VIII因子溶液は最適にはカオトロピックイオン、例えばカルシウムを0.2 M以上、例えば0.25または0.35Mの濃度で含む。
【0019】
本発明はまた、血液凝固に関連する疾患、特に血友病の治療のための医薬品を製造するための、上記組成物の使用に関する。
【実施例1】
【0020】
15nmのナノメートルフィルターでの濾過による安全なFVIII の製造方法および>10多量体化vWF 含量の実証
試験するウイルスは、直径27±3nmのエンベロープ非含有Phi X 174 バクテリオファージである。ウイルスの培養およびアッセイはAFNOR norm NF T 72-181により行う。
【0021】
FVIII をToyopearl DEAEカラム上に残すことにより集め、pH6にする;CaCl2 濃度を0.35モルとする。溶液とフィルターの温度を35℃に調節し、濾過の圧力を100mbar より低く調節する。これらの条件下で流量はm2当たり1.2 l/h である。
【0022】
FVIII :Cの収量は濾過前のFVIII :Cに対して約70%である。以下の表1はvWF 多量体の分布を示す。
【0023】
【表1】

【0024】
10量体/15量体における顕著な減少が見られる:分布は15%から9%に減少する。
16量体以上については減少はさらに顕著である:11%から4%。
【0025】
Phi X 174 ウイルスのアッセイにより、濾過すると6log 減少することが示される。
【実施例2】
【0026】
20nmk ナノメートルフィルターでの濾過による安全なFVIII の製造方法および>10多量体化vWF 含量の実証
濾過は、同じ種類 (cuprophane, Planova)だが多孔率が異なる (20〜22nm) フィルターにより行い、実施例1で得られたFVIII 溶液をpH6に調整し、0.45 MのCaCl2 を添加する。圧力を17mbarに調整し、溶液およびフィルターアセンブリーを35℃に調節する。
【0027】
これらの条件下で流量はm2当たり1.2 l/h であり、FVIII の収量は最初のFVIII に対して80%である。以下の表2はvWF 多量体の組成を示す。
【0028】
【表2】

【0029】
10量体−15量体は13%から10%へと顕著に減少する。
16量体は11%から2%へと劇的に減少する。
【0030】
ウイルス力価の減少倍率は4.3 log である。
【実施例3】
【0031】
約20nmの多孔率での高圧濾過
より高圧の条件下および室温でのPlanova 21フィルターの性能を調べる目的で、FVIII 溶液をpH6に調整し、CaCl2 濃度を0.35 Mにする。温度は22℃であり、圧力を400 mbarに調整する。
【0032】
これらの条件下で濾過流量はm2当たり5 l/hであり、FVIII の収量は出発製品に対して64%である。表3はvWF 多量体の組成を示す。
【0033】
【表3】

【0034】
10量体−15量体は13%から8%へと減少する。
16量体以上はは10%から7%へと減少する。
【0035】
ウイルス力価の減少倍率は6.1 log である。
【実施例4】
【0036】
高圧での20nmポリスルホン型のフィルターでの試験
別の種類のフィルターの検証の目的で、FVIII フィルター試験をポリスルホンDV20 (Pall) 型のフィルターで行った。この種のフィルターはcuprophaneフィルターよりも高圧に耐える。従って、実施例3は同様の条件下での観察結果を集めるためにより高圧でのcuprophaneフィルターの性能を評価するために計画した。
【0037】
FVIII 溶液を0.35 M CaCl2の存在下でpH6に調整する。溶液およびフィルターは35℃に温度調節する。フィルターの作動に必要な圧力は950 mbarである。これらの条件下で平均流量はm2当たり7 l/hである。
【0038】
第VIII因子の収量は最初のFVIII に対して70%である。表4はvWF 多量体の組成を示す。
【0039】
【表4】

【0040】
16量体が10%から6%へと劇的に減少する。
しかし、ウイルス力価の減少は2.1 log にすぎす、これはヒト血漿由来製品の可能なウイルス含量を減少させる目的のウイルス除去法の効果を実証するために指導的権威者により確定された基準 (>4log)よりずっと低い。
結論
表5は10量体以上の多量体の値の合計をまとめている。vWF 10量体およびより高次の多量体の合計が15%以下である場合、ウイルス力価の減少は常に4log より大きいことが分かる。
【0041】
他方、この合計が16%を越えると、ウイルス力価の減少は4log より低い。
10のオーダーより大きいvWF 多量体とウイルスの存在との間のこの関係は、濾過条件、多孔率、濾過材の種類、フィルター組織、細孔の幾何的構造によるフィルター通過現象におそらく関連する。これらのパラメーターはすべてウイルスの保持または非保持に影響を有する。使用後フィルターに対して行う試験は、その効果を示すが、濾過された製品であるFVIII 多量体を伴う第VIII因子が、多量体化の程度によりウイルス保持のための有効な濾過が保証されることを特徴とするのは本発明の場合のみである。
【0042】
従って、4log より大きいウイルス保持効果は、濾液中の、10以上多量体化した多量体が15%以下のvWF 多量体の分布に関連する。これらのデータは表5にまとめられる。
【0043】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
公称孔径15±2nmから23±2nmのナノメーターフィルターを通して濾過する工程、フォンビルブラント因子 (vWF)の10量体およびより高次の多量体を解析する工程、およびvWF 10量体およびより高次の多量体の含有量が15%以下である第VIII因子溶液を選択することを含む、ウイルスについて安全な第VIII因子溶液を製造する方法。
【請求項2】
vWF 10量体およびより高次の多量体の含有量が15%以下であることが、サイズ27±3nmのウイルスの力価減少が4log 倍以上であることを示すことを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
vWF 10量体およびより高次の多量体の含有量が15%以下であることが、サイズ27±3nmのウイルスの力価減少が5log 倍以上であることを示すことを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項4】
vWF 10量体およびより高次の多量体の含有量が15%以下であることが、サイズ27±3nmのウイルスの力価減少が6log 倍以上であることを示すことを特徴とする、請求項1記載の方法。

【公開番号】特開2011−252016(P2011−252016A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−177898(P2011−177898)
【出願日】平成23年8月16日(2011.8.16)
【分割の表示】特願2006−536134(P2006−536134)の分割
【原出願日】平成16年10月25日(2004.10.25)
【出願人】(506129544)ラボラトワール・フランセ・デュ・フラクシオンマン・エ・デ・ビョテクノロジー (5)
【氏名又は名称原語表記】LABORATOIRE FRANCAIS DU FRACTIONNEMENT ET DES BIOTECHNOLOGIES
【Fターム(参考)】