説明

低周波治療器

【課題】簡易な構成ながら人が行う「もみ」や「さすり」により近い体感を作り出すことができ、なおかつ使い勝手に優れた低周波治療器を提供する。
【解決手段】低周波治療器は、各々が通電エリアの位置及び面積を変更可能な一対のパッド300,300と、一方のパッド300の通電エリアと他方のパッド300の通電エリアの間に治療電流を流す波形生成・出力部250と、を備える。波形生成・出力部250は、治療電流を出力しながら少なくとも1つのパッド300の通電エリアの位置及び/又は面積を変化させることによって、もみ刺激又はさすり刺激を作り出す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低周波治療器に関する。
【背景技術】
【0002】
身体に装着された電極パッド間に低周波の治療電流を通電することで治療を施す低周波治療器が知られている。従来の低周波治療器は、治療電流の波形を工夫することによって、「もみ」「たたき」「さすり」「押し」などの各種マッサージに対応する刺激を作り出している(特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、「もみ」と「さすり」に関しては、人が行うマッサージの体感と低周波治療器の体感との間に大きな隔たりがある。人が行う「もみ」や「さすり」は、力を加える角度を変化させたり、手で触れる場所を移動させたりすることでマッサージ効果を生み出すものであるのに対し、低周波治療器の場合はパッドが身体に貼付(固定)されているため、そのような刺激の移動を再現することが難しいからである。
【0004】
一方、単一のパッドに多数の電極を設け、電流経路を構成する電極の組み合わせを順番に切り替えることによって、刺激箇所を移動させる方法が提案されている(特許文献2参照)。また、4対(8個)のパッド(導子)を間隔をあけて身体に貼り付け、電流を出力するパッド対を順番に切り替えることで、刺激箇所を移動させる方法も提案されている(特許文献3参照)。
【特許文献1】特開2000−14802号公報
【特許文献2】特許第2917270号公報(特開平9−38215号公報)
【特許文献3】特開2003−245363号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、人が肩や腰などの部位をマッサージする場合には、両手を使って左右一緒に施術を行うことが通常である。低周波治療器の体感を人によるマッサージの体感により近づけるためには、このような両手でのマッサージに似た体感を作り出すことも重要と考えられる。
【0006】
その点、特許文献2のような単一のパッド構成では、身体の一部分(例えば右肩のみ)にしかパッドを貼り付けられないため、両肩や腰の両側といった離れた部位に対して同時に治療を施すことができない、という不利がある。とはいえ、特許文献3のように多数のパッド対を設けると、回路構成の複雑化と部品点数の増加、ひいてはコストの増大を招くため好ましくない。しかも、パッド数が多いと、それらを正しい組み合わせで適切な位置に貼り付けるのが困難かつ面倒になる、という使用上の問題もある。
【0007】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、簡易な構成ながら人が行う「もみ」や「さすり」により近い体感を作り出すことができ、なおかつ使い勝手に優れた低周波治療器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために本発明の低周波治療器は、以下の構成を採用する。
【0009】
本発明に係る低周波治療器は、各々が通電エリアの位置及び面積を変更可能な一対のパッドと、一方のパッドの通電エリアと他方のパッドの通電エリアの間に治療電流を流す出
力部と、を備え、前記出力部は、治療電流を出力しながら少なくとも1つのパッドの通電エリアの位置及び/又は面積を変化させることによって、もみ刺激又はさすり刺激を作り出すことを特徴とする。ここで「通電エリア」とは、パッドの全部又は一部の領域であって、治療電流が流れる範囲をいう。
【0010】
この構成によれば、通電エリアの位置や面積を変化させることで、刺激位置や力の加わる角度が変化したような体感を生み出すことができ、人が行う「もみ」や「さすり」に非常に近い体感を使用者に与えることができる。そして、パッドが2つあるので、右肩と左肩、腰や背中の右側と左側、右腕と左腕、右脚と左脚、のように互いに離れた部位に対して同時に治療を施すことができる。また2つのパッドそれぞれで通電エリアの位置や面積を変化させることができるので、両手でそれぞれの部位に「もみ」や「さすり」を施しているかのような体感を作り出すことができる。しかも、2つのパッドを貼り付けるだけでよいため、装着が簡便である。加えて、電流の経路が、一方のパッドの通電エリアと他方のパッドの通電エリアの間の一系統であるので、簡易かつ低コストな構成で実現できるという利点もある。
【0011】
もみ刺激の場合、前記出力部は通電エリアを0.5秒〜5秒に1回の速度で変化させるとよい。このように比較的遅い速度で通電エリアを変化させると、人が行う「もみ」に非常に近い体感が得られる。
【0012】
一方、さすり刺激の場合、前記出力部は通電エリアを0.1秒〜0.5秒に1回の速度で変化させるとよい。このように比較的速い速度で通電エリアを変化させると、人が行う「さすり」に非常に近い体感が得られる。
【0013】
前記パッドは、導通/切断を個別に切替可能な複数の電極を有しており、導通させる電極を変えることによって通電エリアの位置及び面積を変更するものであることが好ましい。この構成により、通電エリアの位置や面積の変更を簡易に実現できる。
【0014】
前記パッドが端部の電極と中央部の電極とを有する場合、前記出力部は、前記端部の電極と前記中央部の電極とを交互に導通させることによってもみ刺激を作り出すとよい。あるいは、前記出力部は、パッドの全ての電極と一部の電極とを交互に導通させることによってもみ刺激を作り出してもよい。このような制御によって、人の行う「もみ」に非常に近い体感を作り出すことができる。
【0015】
前記出力部は、パッド内で、導通させる電極を一つずつ移動させることによってさすり刺激を作り出すとよい。このような制御によって、人の行う「さすり」に非常に近い体感を作り出すことができる。
【0016】
前記出力部は、2つのパッドの通電エリアの変化パタンを一致又は反転させることにより、両方のパッドから対称的なもみ刺激又はさすり刺激を出力することが好ましい。このような制御によって、あたかも両手で同時にマッサージをしているかのような体感を作り出すことができる。
【0017】
前記出力部は、一方のパッドの通電エリアの面積を最大で固定し、他方のパッドからもみ刺激又はさすり刺激を出力するようにしてもよい。通電エリアの面積が小さくなるほど刺激が強まる特性があるので、面積が固定された側のパッドからは弱めの静的な刺激が出力され、他方のパッドからは動的なもみ刺激又はさすり刺激が出力される。よって、あたかも、人が片方の手のひらを治療部位にやさしく当てて、他方の手でもみ又はさすりを行っているかのような体感を使用者に与えることができる。このとき、前記出力部は、通電エリアの面積を固定する側のパッドと、もみ刺激又はさすり刺激を出力する側のパッドを
周期的に切り替えるとよい。これにより、交互にマッサージを行っているような体感を使用者に与えることができる。
【0018】
前記出力部は、治療電流を出力しながら少なくとも1つのパッドの通電エリアの位置及び/又は面積を変化させることによって、もみ刺激又はさすり刺激を作り出す第1のモードと、通電エリアの位置及び面積を固定した状態で、治療電流の波形を変化させることによってもみ刺激又はさすり刺激を作り出す第2のモードとを切替可能であることが好ましい。これにより、使用者は自分の好みに応じて2つのモード(刺激)を使い分けることができ、利便性が向上する。
【0019】
各パッドにおける通電エリアを表す表示部をさらに備えることが好ましい。かかる表示を見ることで、使用者はどのようなマッサージが行われているかを容易に確認できる。
【0020】
本発明は、上記手段の少なくとも一部を有する低周波治療器として捉えてもよいし、上記処理の少なくとも一部を含む低周波治療器の刺激生成方法、または、かかる方法を実現するためのプログラムやそのプログラムを記録した記録媒体として捉えることもできる。なお、上記手段及び処理の各々は可能な限り互いに組み合わせて本発明を構成することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、簡易な構成ながら人が行う「もみ」や「さすり」により近い体感を作り出すことができ、なおかつ使い勝手に優れた低周波治療器を提供可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に図面を参照して、この発明の好適な実施の形態を例示的に詳しく説明する。
【0023】
<低周波治療器の外観>
図1を参照して、本発明の実施形態に係る低周波治療器について説明する。図1は低周波治療器の外観を示す図である。
【0024】
低周波治療器100は、概略、治療器本体200と、治療部位に貼り付けるための一対のパッド300と、治療器本体200とパッド300とを電気的に接続するためのコード400とから構成される。
【0025】
パッド300は、薄くかつ柔軟性の高い部材により構成されている。パッド300の一方の面(身体との接触面)には、複数の電極301が形成されている。本実施形態では、3つの電極301がパッド300の長手方向に並んで配置されている。パッド300の長手方向の一方の端部には凸状の把持部300aが設けられている。この把持部300aはパッド300の上下を判断する目印の役目も果たしている。
【0026】
パッド300の電極側の表面は粘着性を有するゲル状材料によって被覆されている。このゲル状材料の膜はパッド全面に一様に形成されており、電極同士の間はゲル状材料の膜を介すことにより特に電気的に絶縁されてはいない。
【0027】
パッド300の他方の面には、各電極301に対応したスナップ302が設けられている。コード400のスナップ402をパッド300側のスナップ302に留め、コード400のプラグ401を治療器本体200のジャックに差し込むことで、治療器本体200とパッド300(電極301)との接続がはかられる。
【0028】
治療器本体200には、スイッチやダイヤルで構成される操作部210と、LCD(液
晶ディスプレイ)で構成される表示部220とが設けられている。操作部210には、図2に示すように、電源のオン/オフを切り替えるための電源スイッチ211、治療モードの選択を行うためのモード選択スイッチ212、強さの調整を行うための強さ調整ダイヤル213、通電エリアを移動させるための位置変更スイッチ214、通電エリアの大きさ(面積)を変更するためのサイズ変更スイッチ215、電極301を個別に選択するための電極スイッチ216などが設けられている。表示部220のLCDには、現在の動作状態が表示されたり、操作やパッド貼り付けのナビゲートやメッセージが表示されたりする。
【0029】
<低周波治療器の内部構成>
図3は低周波治療器のハードウエア構成を模式的に示すブロック図である。図3に示すように、治療器本体200には、概略、操作部210、表示部220、CPU(制御部)230、電源部240、波形生成・出力部250が設けられている。
【0030】
操作部210には上述のように各種のスイッチ及びダイヤルが設けられている。使用者によってスイッチやダイヤルが操作されると、その信号がCPU230に入力される。また表示部220には、LCD221と、CPU230からの信号に従ってLCD221を制御するLCD制御部222とが設けられている。
【0031】
電源部240には、電源回路242及び電源状態監視回路243が設けられている。この低周波治療器は電源241として4本の単3アルカリ乾電池を用いる。電池電圧は電池の消耗に応じて大きく変動する(約7V〜3.5V)ため、電源回路242が電池電圧を降圧・安定化してCPU230に供給する駆動電圧(DC3.3V)を生成する。電源回路242からのDC出力はCPU230に供給されるとともに、電源状態監視回路243にも入力される。電源状態監視回路243は、電源回路242からの出力電圧を監視し、その電圧が3.3Vより低下した場合にCPU230(治療器本体200)を停止させる回路である。
【0032】
波形生成・出力部250は、電源電圧の昇圧や治療電流(治療波形)の生成・出力を担う機能ブロックであり、電源切替回路251、昇圧回路252、強さ調整回路253、出力回路254、ジャック255、人体装着検知回路256などを備えている。電源切替回路251は、昇圧回路252へ供給する電源電圧を切り替えるための回路であって、治療動作中は電源(電池)241からの電圧を、治療時以外は電源回路242からの3.3V電圧を選択する。昇圧回路252は、電源電圧を所定の電圧に昇圧する回路である。強さ調整回路253は、昇圧回路252で昇圧された電圧を設定された強さにあった電圧になるように調整する回路である。本実施形態では、強さ調整ダイヤル213で0〜20の21段階の強さ調整が可能であり、そのダイヤルで設定された強さ段階指示値がCPU230を介して強さ調整回路253に入力される。出力回路254は、強さ調整回路253で調整された電圧をもとに、治療モードに応じた波形を生成し、その治療波形をジャック255を介してパッド300の電極301に出力する回路である。操作部210で治療モードの切替、通電エリアの変更、電極の選択などの操作が行われると、その操作内容に応じた制御信号がCPU230から出力回路254に入力される。出力回路254は、その制御信号に従って、治療波形の生成、極性の切替、電極それぞれの導通/切断の切替を行う。
【0033】
人体装着検知回路256は、一対のパッド300間に電流が流れているか否かを検知することで、パッド300が人体に正しく装着されているかどうかを判定する回路である。パッド300が正しく貼られていない場合には、一方のパッド300から出力され、人体を通り、他方のパッド300に戻るという電流ループが成立しないため、電流が流れない、という原理を利用している。
【0034】
<治療時の動作>
低周波治療器100の操作方法及び治療動作について説明する。
【0035】
使用者は、操作部210(モード選択スイッチ212)を操作することで、治療モードを選択できる。治療モードとしては、「もみ」「たたき」「押し」「さすり」といった治療方法や、「肩」「腕」「腰」といった治療部位などを指定できる。治療方法が予めプログラムされた「自動」モードを選択することもできる。また使用者は、ダイヤルを操作することで、強さの調整も可能である。
【0036】
さらに「もみ」と「さすり」については、モード選択スイッチ212を操作することで、「通常モード」と「3Dモード」の切り替えが可能である。「通常モード」とは、通電エリアの位置及び面積を固定した状態で、治療電流の波形を変化させることによってもみ刺激又はさすり刺激を作り出すモードであり、従来の低周波治療器と同等の体感が得られるモードである。「3Dモード」(立体モード)とは、治療電流を出力しながら通電エリアの位置及び/又は面積を変化させることによって、もみ刺激又はさすり刺激を作り出すモードであり、従来の低周波治療器には無かった動的かつ立体的な体感が得られるモードである。通常モードと3Dモードの切替を可能としたのは、使用者が好みに応じて2つのモード(刺激)を使い分けられるようにすることで、低周波治療器の利便性を向上させるためである。
【0037】
まず、通常モードと3Dモードに共通する動作について説明し、その後で各モードに特有の動作を説明する。
【0038】
(共通の動作)
出力回路254は、CPU230からの制御信号に従って低周波の治療電流を生成する。図4はパルス電流を用いた治療波形の一例を示している。パルスとしては、パルス幅約100μsecの極めて短いものを用いている。パルス振幅の最大値は約100Vである。このパルスの波形(極性、間隔、配列含む)などを変えることで、「もみ」「たたき」「押し」「さすり」といった様々な種類の刺激を作り出すことができる。また、パルスの振幅やパルス幅を変えることで「強さ」の調整が、パルス群の出現サイクルを変えることで「速さ」の調整が可能である。具体的な波形については従来のもの(例えば、特開2000−14802号公報参照)を利用できるので、ここでは詳しい説明を省略する。なお、治療電流としてはパルス電流でなく交流を用いてもよい。
【0039】
治療電流は高電位側のパッド300の電極301に出力される(複数の電極が導通状態にある場合は一系統の電流がそれら導通電極に分配されることになる)。そして、高電位側のパッド300の電極301から、人体を介して、低電位側のパッド300の電極301に電流が流れる。このパッド間を流れる治療電流によって筋肉が電気的刺激を受け、収縮と弛緩を繰り返し、マッサージと同じような治療効果が得られる。
【0040】
(通常モード)
通常モードでは、通電エリアの位置及び面積は固定であり、自動的には変わらない。ただし、使用者は、操作部210の位置変更スイッチ214やサイズ変更スイッチ215を操作することで(つまり手動で)、通電エリアの位置や面積を変更することができる。
【0041】
治療動作の開始時点(標準状態)では、6つ全ての電極301が導通状態にあり、パッド300の全面が通電エリアとなっている。図5(a)は標準状態における表示部220の表示例を示している。表示部220にはパッド300の外形を示すフレームが描かれており、導通状態にある電極に対応するマークが点灯状態となる。(以下、説明の便宜上、
表示部220での表示に対応させて、パッド300の3つの電極301を「上電極」「中電極」「下電極」とよぶ。)
【0042】
ここで位置変更スイッチ214(又はサイズ変更スイッチ215)が1回押されると、出力回路254は各パッド300の上電極及び中電極を導通状態にし、下電極を切断状態にする(図5(b)参照)。これによりパッド300の上側2/3の領域が治療電流の流れる通電エリアとなる。この状態でさらに位置変更スイッチ214が押されると、出力回路254は各パッド300の上電極を切断状態にし、中電極及び下電極を導通状態にする(図5(c)参照)。これにより通電エリアが下方向に1電極分移動し、パッド300の下側2/3の領域にのみ治療電流が流れるようになる。以降、位置変更スイッチ214が押されるたびに、通電エリアは図5(b)の状態と図5(c)の状態の間を移動する。
【0043】
また、図5(b)の状態で、サイズ変更スイッチ215が押されると、出力回路254は各パッド300の上電極のみを導通状態にし、中電極及び下電極を切断状態にする(図5(d)参照)。これにより通電エリアはさらに小さくなり、パッド300の上側1/3の領域にのみ治療電流が流れる。この状態では、位置変更スイッチ214が押されるたびに、上電極→中電極→下電極→上電極→・・・という順に、通電エリアが1電極ずつ移動していく(図5(d)〜(f)参照)。またサイズ変更スイッチ215が押されると、全ての電極が導通状態となり、標準状態に戻る。
【0044】
このように通常モードでは、治療動作中に、広範囲な治療とピンポイントの治療の切り替えや刺激位置の調整を使用者が自由に行うことができる。よって低周波治療器の操作性及び利便性が高まる。
【0045】
(3Dモード)
3Dモードでは、CPU230が、予め設定されたプログラムに従って通電エリアの位置や面積を自動で変化させる。通電エリアの位置や面積を変化させることで、刺激位置や力の加わる角度が変化したような体感を生み出すことができ、人が行う「もみ」や「さすり」に非常に近い体感を使用者に与えることができるのである。
【0046】
通電エリアの変化のさせ方(「変化パタン」あるいは「通電パタン」という)は無数に考えられるが、本発明者らの実験によれば、約0.5秒〜5秒に1回という比較的遅い速度で通電エリアの位置もしくは面積又はその両方を変化させると、人が行う「もみ」に近い体感が得られることが分かった。また、約0.1秒〜0.5秒に1回という比較的速い速度で通電エリアの位置もしくは面積又はその両方を変化させると、人が行う「さすり」に近い体感が得られることも分かった。さらに、パッドの端部の電極と中央部の電極とを交互に導通させたり、あるいは、パッドの全ての電極と一部の電極とを交互に導通させたりすることで、人が行う「もみ」に非常に近い体感が得られること、パッド内で導通させる電極を一つずつ移動させると、人が行う「さすり」に非常に近い体感が得られることも分かった。これらの実験結果に基づいて、「もみ」「さすり」それぞれの通電パタンを設計するとよい。以下、具体例を挙げる。
【0047】
(1)「もみ」の通電パタン
図6〜図8は、3Dモードの「もみ」の通電パタンの例を示している。
【0048】
図6は、2つのパッドの通電パタンを一致させて、左右両方のパッドから対称的なもみ刺激を出力する例である。表中、「休止」は治療電流が出力されない状態を示している。「上もみ」「下もみ」の間は左右のパッド間にもみ波形の治療電流が流れる。「正極」欄における「左」「右」は高電位側を示しており、「左」の場合は左パッドから右パッドに電流が流れ、「右」の場合は右パッドから左パッドに電流が流れる。「交互」の場合は、
左右の極性が高速に(例えば、1msec毎に)切り替えられることを示している。「◎(導通)」と「×(切断)」の記号は各電極の状態を表しており、左から順に、左パッドの下電極・中電極・上電極、右パッドの下電極・中電極・上電極に対応している。表の右側には、表示部220の表示例が併記されている。
【0049】
治療動作がスタートすると、1000msecの休止の後、2000msecの間、左パッドの全電極から右パッドの全電極に電流が流れ、続いて、両パッドの下電極が切断状態となり、2000msecの間、左パッドの上・中電極から右パッドの上・中電極に電流が流れる。最初の2000msecの間はパッド全面に刺激があるが、次の2000msecの間は通電エリアの面積が小さくなるとともに、その中心位置が上方向にシフトするので、パッドの上側に比較的強めの刺激が生じる。これにより、パッドの上側にゆっくり力が加えられたような体感が生まれる。これが1回の「上もみ」に対応する。1000msecの休止を挟みながら3回の「上もみ」が実行される。
【0050】
続いて、3回の「下もみ」が実行される。このときの体感は、パッドの下側にゆっくり力が加えられたような体感となる。なお、表示部220には各パッドにおける通電エリアの変化の様子が表示されるので、使用者はどのようなマッサージが行われているかを容易に確認できる。
【0051】
図7は、2つのパッドの通電パタンを反転させて、左右両方のパッドから対称的なもみ刺激を出力する例である。この例の「上もみ」では、最初の2000msecの間は右パッドの全電極から左パッドの上・中電極に電流が流れ、続く2000msecの間は左パッドの全電極から右パッドの上・中電極に電流が流れる。図6のように両パッドの通電パタンを一致させた場合には、左右の治療部位が同時にもまれているような体感が得られるのに対し、図7のように両パッドの通電パタンを反転させた場合には、左右の治療部位が1回ずつ交互にもまれているような体感が得られる。なお、面積が大きい側のパッドを正極にしたのは、負極のほうが強い体感が得られるためである。
【0052】
図8は、一方のパッドの通電エリアの面積を最大で固定し、他方のパッドからもみ刺激を出力する例である。また、図8では、通電エリアの位置のみを変化させることでもみ刺激が作り出されている。
【0053】
治療動作がスタートすると、500msecの休止の後、1000msecの間、左パッドの全電極から右パッドの下電極に電流が流れ、続く1000msecの間、左パッドの全電極から右パッドの中電極に電流が流れる。これが1回の「右もみ」に対応する。通電エリアの面積が小さくなるほど刺激が強まる特性があるので、左パッドからは弱めの静的な刺激が出力され、右パッドからは動的なもみ刺激が出力される。よって、あたかも、人が片方の手のひらを治療部位にやさしく当てて、他方の手でもみを行っているかのような体感を使用者に与えることができる。
【0054】
そして、500msecの休止を挟みながら2回の「右もみ」が実行された後は、左右が入れ替わり、2回の「左もみ」が実行される。「左もみ」では、1000msecの間、右パッドの全電極から左パッドの下電極に電流が流れ、続く1000msecの間、右パッドの全電極から左パッドの中電極に電流が流れる。このように面積を固定する側と刺激を作り出す側のパッドを周期的に切り替えることで、交互にマッサージを行っているような体感を使用者に与えることができる。
【0055】
(2)「さすり」の通電パタン
図9は、3Dモードの「さすり」の通電パタンの一例を示している。
【0056】
治療動作がスタートすると、「左さすり」、「右さすり」、「両さすり」の順で実行される。「左さすり」では、右パッドの通電エリアの面積が最大で固定され、左パッドからさすり刺激が出力される。具体的には、右パッドの全電極が導通状態に保たれた状態で、200msec毎に左パッドの通電エリア(電極1つ)が1電極ずつ移動していく。これにより、左パッドにおける刺激位置が上下に往復動し、人が行う「さすり」に極めて近い体感を作り出すことができる。
【0057】
続く「右さすり」では、左右が入れ替わり、左パッドの全電極が導通状態に保たれた状態で、右パッドの通電エリアが往復動し、右側の治療部位にさすり刺激が出力される。そして「両さすり」では、両パッドの通電エリアが同じように変化(移動)し、両方のパッドから対称的なさすり刺激が出力される。
【0058】
以上述べたように、3Dモードでは、刺激位置や力の加わる角度が変化したような体感を生み出すことができ、人が行う「もみ」や「さすり」に非常に近い体感を使用者に与えることができる。そして、パッドが2つあるので、右肩と左肩、腰や背中の右側と左側、右腕と左腕、右脚と左脚、のように互いに離れた部位に対して同時に治療を施すことができる。また2つのパッドそれぞれで通電エリアの位置や面積を変化させることができるので、両手でそれぞれの部位に「もみ」や「さすり」を施しているかのような体感を作り出すことができる。しかも、2つのパッドを貼り付けるだけでよいため、装着が簡便である。加えて、電流の経路が、一方のパッドの通電エリアと他方のパッドの通電エリアの間の一系統であるので、簡易かつ低コストな構成で実現できるという利点もある。
【0059】
なお、上記実施形態は本発明の一具体例を示したものにすぎない。本発明の範囲は上記実施形態に限られるものではなく、その技術思想の範囲内で種々の変形が可能である。
【0060】
例えば、パッドの電極数は3つに限られない。2つでもよいし、3つより多くてもよい。電極の形状や分割の仕方についても任意である。長手方向に分割するだけでなく、短手方向にも分割して、二次元的に通電エリアの位置及び大きさを変更できるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】図1は、低周波治療器の外観を示す図である。
【図2】図2は、操作部の外観を示す図である。
【図3】図3は、低周波治療器の構成を模式的に示すブロック図である。
【図4】図4は、パルス電流を用いた治療波形の一例を示す図である。
【図5】図5(a)〜図5(f)は、通電エリアの変更に伴う表示部の表示例を示す図である。
【図6】図6は、「もみ」の通電パタンの一例を示す図である。
【図7】図7は、「もみ」の通電パタンの一例を示す図である。
【図8】図8は、「もみ」の通電パタンの一例を示す図である。
【図9】図9は、「さすり」の通電パタンの一例を示す図である。
【符号の説明】
【0062】
100 低周波治療器
200 治療器本体
210 操作部
211 電源スイッチ
212 モード選択スイッチ
213 強さ調整ダイヤル
214 位置変更スイッチ
215 サイズ変更スイッチ
216 電極スイッチ
220 表示部
221 LCD
222 LCD制御部
230 CPU
240 電源部
241 電源
242 電源回路
243 電源状態監視回路
250 波形生成・出力部
251 電源切替回路
252 昇圧回路
253 強さ調整回路
254 出力回路
255 ジャック
256 人体装着検知回路
300 パッド
300a 把持部
301 電極
302 スナップ
400 コード
401 プラグ
402 スナップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
各々が通電エリアの位置及び面積を変更可能な一対のパッドと、
一方のパッドの通電エリアと他方のパッドの通電エリアの間に治療電流を流す出力部と、を備え、
前記出力部は、治療電流を出力しながら少なくとも1つのパッドの通電エリアの位置及び/又は面積を変化させることによって、もみ刺激又はさすり刺激を作り出すことを特徴とする低周波治療器。
【請求項2】
もみ刺激の場合、前記出力部は通電エリアを0.5秒〜5秒に1回の速度で変化させることを特徴とする請求項1に記載の低周波治療器。
【請求項3】
さすり刺激の場合、前記出力部は通電エリアを0.1秒〜0.5秒に1回の速度で変化させることを特徴とする請求項1又は2に記載の低周波治療器。
【請求項4】
前記パッドは、導通/切断を個別に切替可能な複数の電極を有しており、導通させる電極を変えることによって通電エリアの位置及び面積を変更するものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の低周波治療器。
【請求項5】
前記パッドは、端部の電極と中央部の電極とを有し、
前記出力部は、前記端部の電極と前記中央部の電極とを交互に導通させることによってもみ刺激を作り出すことを特徴とする請求項4に記載の低周波治療器。
【請求項6】
前記出力部は、パッドの全ての電極と一部の電極とを交互に導通させることによってもみ刺激を作り出すことを特徴とする請求項4に記載の低周波治療器。
【請求項7】
前記出力部は、パッド内で、導通させる電極を一つずつ移動させることによってさすり刺激を作り出すことを特徴とする請求項4〜6のいずれかに記載の低周波治療器。
【請求項8】
前記出力部は、2つのパッドの通電エリアの変化パタンを一致又は反転させることにより、両方のパッドから対称的なもみ刺激又はさすり刺激を出力することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の低周波治療器。
【請求項9】
前記出力部は、一方のパッドの通電エリアの面積を最大で固定し、他方のパッドからもみ刺激又はさすり刺激を出力することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の低周波治療器。
【請求項10】
前記出力部は、通電エリアの面積を固定する側のパッドと、もみ刺激又はさすり刺激を出力する側のパッドを周期的に切り替えることを特徴とする請求項9に記載の低周波治療器。
【請求項11】
前記出力部は、
治療電流を出力しながら少なくとも1つのパッドの通電エリアの位置及び/又は面積を変化させることによって、もみ刺激又はさすり刺激を作り出す第1のモードと、
通電エリアの位置及び面積を固定した状態で、治療電流の波形を変化させることによってもみ刺激又はさすり刺激を作り出す第2のモードとを切替可能であることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の低周波治療器。
【請求項12】
各パッドにおける通電エリアを表す表示部をさらに備えることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の低周波治療器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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