説明

低温、予混合化圧縮着火エンジン用燃料油組成物

【課題】EGRの採用で吸入空気中の酸素濃度が17体積%以下となる条件下で運転しても、低温、予混合化圧縮着火燃焼が成立し、更には、容量燃費の低下を抑制でき、且つCO2排出量を低減できる低温、予混合化圧縮着火エンジン用の燃料油組成物を提供する。
【解決手段】排気ガスの少なくとも一部を吸入空気中に再循環する排気ガス再循環装置を具え、吸入空気と再循環された排気ガスとの混合ガス中の酸素濃度が17体積%以下となる条件で運転される低温、予混合化圧縮着火エンジン用の燃料油組成物であって、硫黄分が10質量ppm以下で、90容量%留出温度が360℃以下で、セタン価(CN)が55以上で、芳香族分が10質量%以下で、CO2排出原単位が0.069 g/kJ以下で、且つ15℃での密度が0.820 g/cm3以上であることを特徴とする燃料油組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気ガス再循環装置を具え、多量のEGRを使用する低温、予混合化圧縮着火エンジン用の燃料油組成物に関し、特には、排気ガスを再循環させ、吸入空気中の酸素濃度が17体積%以下となる条件下で運転しても、低温、予混合化圧縮着火燃焼由来の有害排出ガス成分を削減できる上、燃費の低下を抑制し、CO2の排出量を抑制した燃料油組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車から排出される窒素酸化物(NOx)、粒子状物質(PM)、一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)は、大気中におけるこれら有害成分濃度に一定の寄与があるため、大気環境改善の観点から、これら有害排出ガス成分の削減が強く求められている。さらに、地球温暖化防止のためには、化石燃料の燃焼で排出されるCO2の削減が必要であり、自動車からのCO2排出の削減が求められている。一方、自動車の容量燃料消費効率(燃費)は消費者の満足度に加えて自動車の航続距離に繋がる性能であり、その向上が求められている。このように、自動車においては、有害排出ガス成分の排出削減、CO2の排出削減、燃費向上を同時に達成する必要があり、昨今、その対応技術として、低温、予混合化圧縮着火エンジンと該エンジンに供する燃料品質が注目されている。
【0003】
低温、予混合化圧縮着火エンジンでは、燃焼の開始(着火)を燃料の自己着火に依存しているので、燃焼室内の温度が低い冷機時や低負荷条件下では、着火性の向上を図る必要である。一方、燃焼室内の温度が高い高負荷条件下では、着火性の良好な燃料は、燃焼室内で多点同時着火による急激な燃焼を起こすので、緩慢な燃焼を実現するための燃焼制御が必要である。これに対し、緩慢な燃焼を実現するために、燃料噴射時期や圧縮比の最適化等に加えて、排気ガス再循環(EGR)が有益な手段として用いられている。EGRは着火や燃焼の抑制に効果があるので、多量なEGRの導入が図られるが、EGR量の増加はNOxを低減させるものの、PM、HC、COの増加や燃焼変動の増大を招いてしまう。そのため、EGR量の増加には、限界がある。
【0004】
一方、従来型ディーゼルエンジンでは、種々の有害ガス成分の排出低減に寄与するクリーン燃料が提案されているが、多量のEGRを導入した低温、予混合化圧縮着火エンジンの燃焼に最適なクリーン燃料は開発されていない。また、既存のクリーン燃料は軽質で芳香族分を低減した燃料や酸素含有化合物を混合した燃料であり、容量発熱量の低下によって容量燃費が低下しているため、改善が必要である。さらに、燃料による直接的なCO2削減のためには、CO2排出原単位を低下させる必要があり、有害排出ガスの少ない低温、予混合化圧縮着火燃焼の成立、容量燃費の向上、CO2排出原単位の低下の3者を同時達成する燃料の開発が望まれている。
【0005】
【特許文献1】特開2004−075901号公報
【特許文献2】特開2007−270102号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような状況下、本発明の目的は、外部クールドEGRの採用で吸入空気中の酸素濃度が17体積%以下となる条件下で運転しても、低温、予混合化圧縮着火燃焼が成立し、更には、燃費低下の抑制、CO2の排出削減を同時に達成できる低温、予混合化圧縮着火エンジン用の燃料油組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、特定の蒸留性状を有し、硫黄分、セタン価(CN)、芳香族分及び密度が特定の範囲にあり、CO2排出原単位が小さい燃料油組成物を、排気ガス再循環装置を具える低温、予混合化圧縮着火エンジンに用いた場合、該エンジンを吸入空気中の酸素濃度が17体積%以下となる条件下で運転しても、有害ガス成分の排出を削減できる上、燃費低下の抑制とCO2の排出削減が可能であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
即ち、本発明の燃料油組成物は、
・排気ガスの少なくとも一部を吸入空気中に再循環する排気ガス再循環装置を具え、吸入空気と再循環された排気ガスとの混合ガス中の酸素濃度が17体積%以下となる条件で運転される低温、予混合化圧縮着火エンジン用の燃料油組成物であって、
・硫黄分が10質量ppm以下で、
・90容量%留出温度が360℃以下で、
・セタン価(CN)が55以上で、
・芳香族分が10質量%以下で、
・CO2排出原単位が0.069 g/kJ以下で、且つ
・15℃での密度が0.820 g/cm3以上である
ことを特徴とする。
【0009】
なお、本発明において、硫黄分はJIS K2541−6に従って測定され、90容量%留出温度はJIS K2254に従って測定され、セタン価(CN)はJIS K2280に従って測定され、芳香族分は石油学会石油類試験関係規格JPI−5S−49−97に従って測定され、15℃での密度はJIS K2249に従って測定され、CO2排出原単位は、長尾不二夫,「内燃機関講義」(養賢堂発行)(1991)の記載に従い、次式で計算される。
CO2排出原単位={(15.9994×2+12.011)/12.011}×{(炭素, 質量%)/100}/(真発熱量, kJ/kg×1000)
(真発熱量, kJ/kg)=4.186×[{8100×(炭素, 質量%)/100}+29000×{(水素, 質量%)/100−(酸素, 質量%)/(8×100)}+2200×(硫黄, 質量%)/100−600×(水分, 質量%)]
ここで、水分は0.01質量%の一定値とした。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、特定の蒸留性状を有し、硫黄分、セタン価(CN)、芳香族分、CO2排出原単位及び密度が特定の範囲にある燃料油組成物を、排気ガス再循環装置を具える低温、予混合化圧縮着火エンジンに用いることで、該エンジンを吸入空気中の酸素濃度が17体積%以下となる条件下で運転しても、有害ガス成分の排出を削減することができ、また、燃費の低下を抑制し、CO2削減に寄与することも可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明を詳細に説明する。本発明の燃料油組成物は、排気ガスの少なくとも一部を吸入空気中に再循環する排気ガス再循環装置を具え、吸入空気と再循環された排気ガスとの混合ガス中の酸素濃度が17体積%以下となる条件で運転される低温、予混合化圧縮着火エンジン用の燃料油組成物であって、硫黄分が10質量ppm以下で、90容量%留出温度が360℃以下で、セタン価(CN)が55以上で、芳香族分が10質量%以下、CO2排出原単位が0.069 g/kJ以下で、且つ15℃での密度が0.820 g/cm3以上であることを特徴とする。上述のように、従来の燃料を用いて、高EGR率で、特には、吸入空気中の酸素濃度が17体積%以下となる条件下でPCCIエンジンを運転すると、PM、HC、COが増加する問題があったが、本発明の燃料油組成物は、セタン価が十分に高く、且つ90容量%留出温度が低い上、硫黄分や芳香族分も十分少ないため、高EGR率でPCCIエンジンを運転しても、PM、HC、CO等の有害排出ガス成分の増加を抑制することができる。また、硫黄分が低いので酸化力の強い酸化触媒を利用できる。さらに、本発明の燃料油組成物は、密度が十分高いため、発熱量が大きく、容量燃費の低下も抑制でき、且つCO2排出原単位が小さいのでCO2の排出削減にも寄与できる。
【0012】
<硫黄分>
本発明の低温、予混合化圧縮着火エンジン用燃料油組成物は、硫黄分が10質量ppm以下であり、好ましくは1質量ppm以下である。本発明の燃料油組成物は、硫黄分が10質量ppm以下であるため、燃焼生成物である硫黄酸化物が少なく、環境負荷の低減に寄与できる。また、硫黄分は、排出ガス浄化触媒を被毒するので、硫黄分の低減は、排出ガス浄化触媒の性能の維持を通じても、環境負荷の低減に寄与できる。更に、NOx吸蔵還元触媒を装着した車輌においては、該触媒の硫黄被毒の再生に燃料を使用するので、硫黄分の低減は、燃費の向上にも寄与する。そして、これらの効果は、硫黄分が低い程顕著であるため、本発明の燃料油組成物中の硫黄分は、1質量ppm以下であることが好ましい。
【0013】
<90容量%留出温度(T90)>
本発明の低温、予混合化圧縮着火エンジン用燃料油組成物は、90容量%留出温度(T90)が360℃以下であり、好ましくは340℃以下である。90容量%留出温度(T90)が360℃を超えると、粒子状物質(PM)の排出量が増加して、環境負荷を十分に低減できない。また、燃料油組成物の後留部分の揮発性は、燃料油組成物と空気との混合気の形成や燃焼性に影響し、90容量%留出温度(T90)が360℃を超えると、燃料油組成物と空気との混合気の形成に支障をきたしたり、該混合気の燃焼性が低下してしまう。更に、ディーゼルエンジンに比べて燃料を早期に噴射するPCCIエンジンでは、燃料の一部がシリンダーライナーに到達し、ピストンの下降で掻き落とされてオイルパンへと流れ込み、エンジンオイルの希釈を引き起こすことがあるが、90容量%留出温度(T90)が360℃以下の燃料組成物は、気化し易く、ピストンの下降前に十分気化するため、エンジンオイルの希釈を引き起こすことがない。従って、低温、予混合化圧縮着火エンジン用燃料の性状としては、90容量%留出温度(T90)が360℃以下であることが必要である。そして、上記の問題に対応するには、90容量%留出温度(T90)が低いほど好ましいため、本発明の燃料油組成物は、90容量%留出温度(T90)が330℃以下であることが好ましい。また、特に限定されるものではないが、90容量%留出温度(T90)が低くなると密度が小さくなるので、本発明の燃料油組成物は、密度からの制約を受ける事となる。
【0014】
<セタン価(CN)>
本発明の低温、予混合化圧縮着火エンジン用燃料油組成物は、低負荷条件下で低温、予混合化圧縮着火燃焼を確保する観点から、セタン価(CN)が55以上である。セタン価(CN)が低過ぎると、着火・燃焼が不十分で燃焼変動が大きくなるので、本発明の燃料油組成物は、セタン価(CN)が55以上である。なお、セタン価を調整するために、本発明の燃料油組成物には、セタン価向上剤を添加してもよい。
【0015】
<セタン価向上剤>
上記セタン価向上剤としては、アルキルナイトレート系セタン価向上剤、有機過酸化物系セタン価向上剤が挙げられる。上記アルキルナイトレート系セタン価向上剤としては、炭素数6〜12のアルキルナイトレートが好ましく、2-メチルヘキシルナイトレートが特に好ましい。また、上記有機過酸化物系セタン価向上剤としては、炭素数6〜12のジアルキルパーオキサイドが好ましく、ジ-t-ブチルパーオキサイドが特に好ましい。これらセタン価向上剤の添加量は、0.5質量%以下の範囲が好ましく、0.1質量%以下の範囲が更に好ましい。
【0016】
<芳香族分>
本発明の低温、予混合化圧縮着火エンジン用燃料油組成物は、芳香族分が10質量%以下である。芳香族分が増加すると、排出ガス中の一酸化炭素(CO)や粒子状物質(PM)が増加するため、本発明の燃料油組成物は、芳香族分が10質量%以下、好ましくは5質量%以下である。
【0017】
<密度>
本発明の低温、予混合化圧縮着火エンジン用燃料油組成物は、容量燃費の維持のために15℃での密度が0.820 g/cm3以上、好ましくは0.830 g/cm3以上である。容量燃費は燃料の密度に依存するので、本発明の燃料油組成物は、密度が0.820 g/cm3以上であることを要する。
【0018】
<CO2排出原単位>
本発明の低温、予混合化圧縮着火エンジン用燃料油組成物は、CO2排出原単位が0.069 g/kJ以下である。パラフィン系燃料であるFT合成燃料GTLでは、CO2排出原単位は小さいが、15℃での密度が0.79 g/cm3と小さく、上記密度の規定を遵守できないので、芳香族分が低い燃料では、ナフテン分を増加させることで、密度とCO2排出原単位の規定を遵守できる。低芳香族燃料中のナフテン分は規定しないが、密度とCO2排出原単位が規定される事で、結果的にパラフィン分とナフテン分が制御される。
【0019】
<燃料油組成物の調製>
本発明の低温、予混合化圧縮着火エンジン用燃料油組成物は、上記の性状を満たすように、例えば、90容量%留出温度(T90)の規定を満たす軽油基材をコバルト、ニッケル、モリブデンを含有し、リンを担持した触媒の存在下で、水素圧力2.5〜7.0 MPa、空間速度0.9〜6.0 h-1、水素/オイル比130〜500 Nm3/kLの条件の範囲で飽和水素化して製造される。また、本発明の燃料油組成物は、低芳香族軽油基材に、ナフテン溶剤等のナフテン分が豊富な炭化水素油を配合して調製することもできる。
【0020】
<その他の添加剤>
本発明の低温、予混合化圧縮着火エンジン用燃料油組成物には、上記セタン価向上剤以外の添加剤として、燃料油組成物の安定性を確保するための酸化防止剤、低温流動性を確保するための低温流動性向上剤、潤滑性を確保するための潤滑性向上剤、エンジンの清浄性を確保するための清浄剤等を適宜添加することができる。
【0021】
上記酸化防止剤としては、2,6-ジ-t-ブチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、2,4-ジメチル-6-t-ブチルフェノール、2,4,6-トリ-t-ブチルフェノール、2-t-ブチル-4,6-ジメチルフェノール、2-t-ブチルフェノール等のフェノール系酸化防止剤や、N,N'-ジイソプロピル-p-フェニレンジアミン、N,N'-ジ-sec-ブチル-p-フェニレンジアミン等のアミン系酸化防止剤、及びこれらの混合物が挙げられる。これら酸化防止剤の添加量は、特に限定されず、目的に応じて、適宜選択することができる。
【0022】
上記低温流動性向上剤としては、公知のエチレン共重合体等を用いることができるが、特には、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル等の飽和脂肪酸のビニルエステルが好ましく用いられる。これら低温流動性向上剤の添加量は、特に限定されず、目的に応じて、適宜選択することができる。
【0023】
上記潤滑性向上剤としては、例えば、長鎖(例えば、炭素数12〜24)の脂肪酸又はその脂肪酸エステルが好ましく用いられる。該潤滑性向上剤を10〜500質量ppmの範囲、好ましくは50〜100質量ppmの範囲で添加することで、耐摩耗性を十分に向上させることができる。
【0024】
上記清浄剤としては、コハク酸イミド、ポリアルキルアミン、ポリエーテルアミン等が挙げられる。これら清浄剤の添加量は、特に限定されず、目的に応じて、適宜選択することができる。
【0025】
<低温、予混合化圧縮着火エンジン>
上述した本発明の燃料油組成物は、低温、予混合化圧縮着火エンジンに用いられる。該エンジンは、予混合圧縮着火エンジンであるPCCI(Premixed Charge Compression Ignition)やHCCI(Homogeneous Charge Compression Ignition)エンジンを包含するものであり、予混合燃焼を主に多量のEGRによって達成するものである。低温、予混合化燃焼は、従来のディーゼルエンジンと同様に圧縮着火であるが、燃料噴射時期、燃料噴射圧力や噴射パターン、圧縮比、燃焼室構造などを最適化して達成される燃料と空気が十分に混合した予混合気の燃焼で形成される予混合火炎のみで燃焼を完結する燃焼方式であり、また、該低温、予混合化燃焼は、予混合気の形成に必要な長い着火遅れを多量のEGRで達成するものであり、多量のEGRが必須な予混合燃焼である。従来のディーゼルエンジンでは、予混合火炎に加えて燃料と空気の境界層に火炎が形成される拡散火炎が観察されるが、低温、予混合化圧縮着火エンジンでは、この拡散火炎が観察されない。すなわち、該低温、予混合化燃焼は、熱発生率曲線を観察すると、冷炎に伴う微弱な熱発生に続く主燃焼による熱発生のピークが予混合火炎に対応する1つのピークだけの燃焼であり、NOxやPMが抑制されている。一方、実際の熱発生曲線では熱発生の後半がテーリングする事があるため、低温、予混合化圧縮着火エンジンは、予混合燃焼に伴う熱発生が全体の90%以上(予混合燃焼か拡散燃焼かが明確でない後半の燃焼が10%以下)のエンジンと定義される。また、該予混合化圧縮着火エンジンは、高圧縮比で運転できることなどから、ガソリンエンジン(火花点火式エンジン)に比べて高効率であるという特徴を有する。
【0026】
また、上記低温、予混合化圧縮着火エンジンは、排気ガス再循環装置を具え、排気ガス再循環(EGR)により着火や燃焼を抑制して、高負荷条件下でも緩慢な燃焼を実現できる上、NOxの排出を低減できる。しかしながら、従来の燃料を用いてEGR量を増加させると、粒子状物質(PM)、一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)が増加し、また、燃焼変動が増大する問題がある。この問題に対して、軽質で芳香族分を低減したクリーン燃料や酸素含有化合物を混合したクリーン燃料を使用すると、燃料の発熱量が低いため、容量燃費の低下を招いてしまう。これに対して、特定の蒸留性状を有し、硫黄分、セタン価(CN)、芳香族分及び密度が特定の範囲にある本発明の燃料油組成物を用いることで、燃焼変動を小さくしつつ、PM、HC、CO等の有害ガス成分の排出を抑制できる上、燃費の低下も抑制できる。そして、この効果は、例えば、排気ガス再循環(EGR)率を35体積%以上、更には、45体積%以上とし、吸入空気と再循環された排気ガスとの混合ガス中の酸素濃度が17体積%以下となる条件で運転した際に顕著となる。より具体的には、本発明の燃料油組成物を用いることにより、吸入空気中の酸素濃度が17体積%以下となる条件下で低温、予混合化圧縮着火燃焼運転をしても、有害ガス成分の排出を削減することができ、また、燃費の低下を抑制することも可能となる。さらに、CO2排出原単位が小さい本発明の燃料油組成物を用いることで、CO2の削減が可能となる。
【実施例】
【0027】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0028】
以下の供試燃料に対して、下記の方法で性状分析を行い、更に、下記のエンジンを下記の条件で運転して、排出ガス中のスモーク、窒素酸化物(NOx)、炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO2)の各濃度、図示平均有効圧力、着火遅れ、dP/dtの最大値、容量燃費を下記の方法で測定・評価した。なお、燃料の性能評価は、EGR率を0から70%まで(酸素濃度22体積%から8体積%まで)変化させた。結果を表1に示す。評価結果は現行JIS 2号軽油をベースとして、優れていた燃料を(○)、同等を(△)、悪化してものを(×)として表現した。
【0029】
<供試燃料の調製>
・軽油:市販の軽油(JIS 2号)を準備した。
・燃料−1:軽油基材を深度脱硫して調製した(水素化分解軽油)。
・燃料−2:燃料−1(水素化分解軽油)60容量%に市販ナフテン溶剤エクソールD80を40容量%混合した。
・燃料−3:FT合成したパラフィン系軽油(GTL)。
・燃料−4:市販軽油のT90を300℃以下とした(軽質油)。
・燃料−5:市販軽油に分解軽油基材(LCO)を混合して調製した(分解油)。
【0030】
<燃料の性状分析法>
・密度:JIS K2249「原油及び石油製品密度試験法」
・蒸留性状:JIS K2254「蒸留試験法」
・硫黄分:JIS K2541−6「硫黄分試験法(紫外蛍光法)」
・セタン価(CN):JIS K2280「石油製品−燃料油−オクタン価及びセタン価試験方法並びにセタン指数算出方法」に規定された実測法(指数は適用できない)
・芳香族分:JPI−5S−49−97「石油製品−炭化水素タイプ試験方法−高速液体
・CO2排出原単位:長尾不二夫,「内燃機関講義」(養賢堂発行)(1991)
【0031】
<供試機関諸元>
・気筒数:1
・ボア、ストローク(mm):110、106
・排気量(cm3):1007
・圧縮比:16
・燃料供給方式:筒内噴射(コモンレール)
【0032】
<運転条件>
・回転速度(rpm):1320
・燃料噴射量(mm3):可変(PCCI燃焼範囲をカバー)
・燃料噴射圧力(MPa):40〜120
・着火時期:上死点(TDC)(噴射時期を調整)
・EGR率(%):0〜70
【0033】
<性能評価方法>
(1)排出ガス測定
堀場製排出ガス分析系を用いて、排出ガス中の二酸化炭素(CO2)、窒素酸化物(NOx)、炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)の各濃度を測定した。また、スモークは、小野測器製スモークメータ(透過光式)を用いて測定した。
【0034】
(2)燃焼解析
小野測器製燃焼解析装置を用いて、図示平均有効圧力、着火遅れ、dP/dtの最大値を測定した。
【0035】
(3)容量燃費
図示平均有効圧力と燃料消費量の測定値から算出した。
【0036】
【表1】

【0037】
表1から明らかなように、本発明で規定する性状を満たす燃料油組成物を用いた場合、EGRの採用で吸入空気中の酸素濃度が17体積%以下となる条件下でPCCIエンジンを運転しても、PM、HC、CO等の有害ガス成分の排出を削減できる上、燃費低下の抑制、CO2排出の削減が可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気ガスの少なくとも一部を吸入空気中に再循環する排気ガス再循環装置を具え、吸入空気と再循環された排気ガスとの混合ガス中の酸素濃度が17体積%以下となる条件で運転される低温、予混合化圧縮着火エンジン用の燃料油組成物であって、
硫黄分が10質量ppm以下で、90容量%留出温度が360℃以下で、セタン価(CN)が55以上で、芳香族分が10質量%以下で、CO2排出原単位が0.069 g/kJ以下で、且つ15℃での密度が0.820 g/cm3以上であることを特徴とする燃料油組成物。

【公開番号】特開2009−242473(P2009−242473A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−88152(P2008−88152)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(304003860)株式会社ジャパンエナジー (344)