説明

低濃度過酢酸の製造方法

【課題】低濃度過酢酸水溶液を効率的に製造する方法を提供する。
【解決手段】過酸化水素、酢酸および酸触媒を、各々高い出発濃度で反応させることによって、過酢酸を含む反応混合物を急速に形成させ、次に該反応混合物をそれ自体が平衡に達する前に水で希釈して過酢酸溶液を製造する方法において、過酸化水素、酢酸および酸触媒の出発濃度が、水希釈なしで該過酢酸溶液を平衡に達するための過酸化水素、酢酸および酸触媒の出発濃度の各々1.1〜3.0倍の濃度であることを特徴とする過酢酸溶液の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工透析装置などの医療用具の殺菌、消毒剤などに使用が拡大している低濃度過酢酸水溶液の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
過酢酸は、高濃度では刺激臭が強いが、殺菌剤としての低濃度使用(一例として、過酢酸濃度0.3〜0.5重量%、酢酸5.8〜6.2重量%、過酸化水素5.6〜6.0重量%)では、刺激性や臭いも比較的弱い。医療現場では、時により市販の高濃度過酢酸品から精製水を用い、所定の低濃度に希釈してから用いる場合がある。この作業は、刺激臭が強く、作業環境上の問題があることから、低濃度過酢酸品が所望されている。
【0003】
殺菌剤に使用される低濃度過酢酸は、過酸化水素と酢酸の平衡反応から合成、製造される場合が多い(特許文献1〜3参照)。しかし、過酸化水素、酢酸を所定濃度混合し、低濃度過酢酸の製造を行う場合、所望の過酢酸濃度に達するまでには、長時間を必要とする。これに対し、酸触媒添加、温度を高くすることにより、平衡反応が速くすることができる。しかし、高濃度の酸触媒添加は、製造装置、医療設備材質などの腐蝕を起こし、温度を高くすると過酸化水素、過酢酸の分解を引き起こし、安定生産が出来ない欠点がある。
【特許文献1】特表平5−504357号公報
【特許文献2】特開平6−340617号公報
【特許文献3】特開2003−48877号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、従来技術における上記したような課題を解決し、低濃度過酢酸水溶液を効率的に製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、過酸化水素、酢酸、酸触媒を用いることにより生成する低濃度過酢酸水溶液の製造方法について、種々の研究を重ねた結果、過酸化水素、酢酸、酸触媒、安定剤を、それぞれ目的とする平衡濃度にするため出発濃度の1.1〜3.0倍の高い濃度で接触させることによって過酢酸を急速に形成させたのち、該反応混合物を水で希釈して目的の低濃度過酢酸を製造できることを見いだし、本発明に到達した。
【0006】
すなわち、本発明は、過酸化水素、酢酸および酸触媒を、各々高い出発濃度で反応させることによって、過酢酸を含む反応混合物を急速に形成させ、次に該反応混合物をそれ自体が平衡に達する前に水で希釈して過酢酸溶液を製造する方法において、過酸化水素、酢酸および酸触媒の出発濃度が、水希釈なしで該過酢酸溶液を平衡に達するための過酸化水素、酢酸および酸触媒の出発濃度の各々1.1〜3.0倍の濃度であることを特徴とする過酢酸溶液の製造方法に関するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、刺激性、臭いが比較的弱く、医療現場で取り扱い易い低濃度の過酢酸を生産設備で計画的に製造する場合において、従来に比べより高い生産効果を発揮する。本発明は、冬季の気温が低い時においても、加温設備の設置が必要なく製造することが可能である。また、過酸化水素、酢酸濃度、温度を定めることにより低濃度過酢酸の製造時間短縮が可能であることから、簡便な製造装置で、大量の低濃度過酢酸の生産が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明に使用する酢酸は、氷酢酸又は酢酸水溶液であり何れであっても使用することができ、また濃度も特に限定されるものではなく、出発酢酸濃度を与えることのできるものであればよい。どのような酢酸であっても差し支えなく使用することができる。本発明に使用する過酸化水素水溶液は、特に限定されるものではなく、出発過酸化水素濃度を与えることのできるものであればどのような過酸化水素水溶液であっても差し支えなく使用することができる。
【0009】
本発明の前提として、例えば、過酸化水素5.6〜6.0重量%、酢酸5.8〜6.2重量%、過酢酸0.35〜0.45重量%の低濃度の過酢酸溶液を製造するときは、過酸化水素6.0重量%、酢酸6.3重量%、硝酸(酸触媒)0.4重量%の仕込み組成を調整し、長期保存することにより、前記低濃度の平衡過酢酸溶液を得ることが出来る。酸触媒としては、硝酸、オルトリン酸等も用いることができる。
【0010】
この混合前仕込み組成を1倍とし、各成分濃度を順に3倍まで増加させ調整した場合の過酢酸生成速度は、仕込み倍数の3乗に正確に比例する。即ち、これは、過酢酸生成速度が、硝酸濃度にも比例するためで、仕込み倍数を上げることにより、硝酸(酸触媒)濃度が増加するためである。よって、本発明では、水希釈なしの仕込み組成の1.1〜3倍の高い出発濃度で反応させる。3倍を超えると過酢酸の生成速度が27倍以上と非常に速くなるため、大量生産時の希釈等に要する時間が、反応速度に追随できなるという問題がある。過剰に生成した過酢酸を仕込み倍数1まで希釈して平衡濃度まで低下させることは時間のロスでしかないので好ましくない。上記低濃度の過酢酸溶液の場合、過酸化水素の出発濃度は、多くとも15重量%、酢酸の出発濃度は、多くとも18重量%である。
【0011】
本発明では、保存温度と過酢酸生成速度の関係を予め求めておき、仕込み倍数を任意に設定し、目的濃度にまでに要する時間を算出することにより、所望する低濃度過酢酸を製造することが可能である。例えば、冬季保存温度7℃の場合に、1倍仕込み倍数の時に平衡濃度に要する日数は約7日間であるのに対し、仕込み倍数3倍にて調合し、7℃で保存すると、3日後に平衡濃度に達する。即ち、調合温度、仕込み倍数の生成速度をシミュレーションすることにより、最も効率的な低濃度過酢酸の製造方法を求めることが出来る。本発明は、低温下のみならず、30〜70℃程度の加温下で反応させることも当然可能である。
【0012】
本発明においては、反応過程で安定化剤を反応混合物濃度として0.1〜1.2重量%添加することが好ましい。安定剤は、金属不純物による過酸化水素および酢酸の分解を防ぎ、平衡過酢酸中の過酢酸の安定性を向上させる効果を有し、特に本発明のように高濃度で過酢酸を含有する平衡過酢酸水溶液に添加することは好ましいものである。本発明の安定化剤としては、例えば、ピロリン酸、ピロリン酸ソーダ、トリポリリン酸ソーダ、エチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、ロダンカリ、ポリアミノカルボン酸、ピコリン酸、ジピコリン酸、1−ヒドロキシエチリデン−1、1−ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、アミノトリ(メチレンホスホン酸)5ナトリウム塩、プロピレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)7ナトリウム塩等を挙げることができる。特に1−ヒドロキシエチリデン−1、1−ジホスホン酸は好ましい安定剤である。
【実施例】
【0013】
次に、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例により制限されるものではない。なお、%は重量%である。
【0014】
実施例1
過酸化水素、酢酸、硝酸、1−ヒドロキシエチリデン−1、1−ジホスホン酸(HEDP)、純水を用い、表1の仕込み1倍組成に対し、1.15倍〜2倍組成となるように、各種仕込み濃度溶液を調製した。各試験液を7℃の温度で保存し、定期的に過酢酸濃度の測定を行った。結果を図1に示す。

【0015】
【表1】

【0016】
比較例1
過酸化水素、酢酸、1−ヒドロキシエチリデン−1、1−ジホスホン酸、純水を用い、硝酸を含まない表1の仕込み1倍組成の仕込み濃度溶液を調製した。試験液を7℃の温度で保存し、定期的に過酢酸濃度の測定を行った。過酢酸濃度は、10日後0.05%、17日後0.07%であった。
【0017】
実施例2
過酸化水素、酢酸、硝酸、1−ヒドロキシエチリデン−1、1−ジホスホン酸、純水を用い、表1の仕込み1倍組成に対し、2倍の組成となるように調製した。試験液を室温で保存し、定期的に過酢酸濃度の測定を行った。結果を図2に示す。
【0018】
比較例2
過酸化水素、酢酸、硝酸、1−ヒドロキシエチリデン−1、1−ジホスホン酸、純水を用い、表1の仕込み1倍組成になるように調製した。試験液を室温で保存し、定期的に過酢酸濃度の測定を行った。結果を図2に示す。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施例1の結果
【図2】実施例2、比較例2の結果

【特許請求の範囲】
【請求項1】
過酸化水素、酢酸および酸触媒を、各々高い出発濃度で反応させることによって、過酢酸を含む反応混合物を急速に形成させ、次に該反応混合物をそれ自体が平衡に達する前に水で希釈して過酢酸溶液を製造する方法において、過酸化水素、酢酸および酸触媒の出発濃度が、水希釈なしで該過酢酸溶液を平衡に達するための過酸化水素、酢酸および酸触媒の出発濃度の各々1.1〜3.0倍の濃度であることを特徴とする過酢酸溶液の製造方法。
【請求項2】
過酸化水素、酢酸および酸触媒を反応させる過程で、安定化剤を添加する請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
過酸化水素の出発濃度が多くとも15重量%、酢酸の出発濃度が多くとも18重量%である請求項1または2記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−52179(P2006−52179A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−235870(P2004−235870)
【出願日】平成16年8月13日(2004.8.13)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】