説明

低熱膨張性フィラー及びその製造方法

【課題】
本発明は、生産性や耐熱安定性に優れ、さらに加工性にも優れる封着材料などの熱膨張性の調整に有効な六方晶リン酸ジルコニウム系低熱膨張性フィラーを提供することである。
【解決手段】
本発明は、オキシ塩化ジルコニウムを原料とする湿式法または水熱法により合成した六方晶リン酸ジルコニウムからなり、純度が99重量%以上であることを特徴とする低熱膨張性フィラーである。本発明の低熱膨張性フィラーは、例えば電子部品の封着材料である封着ガラスに含有させることにより、ガラスの熱膨張率を低減させるのに効果がある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿式法または水熱法により合成した六方晶リン酸ジルコニウムからなる低熱膨張性フィラーおよびその製造方法に関する。また、主にブラウン管、PDP、蛍光表示管等の電子部品の封着材料に使用できる当該ガラス組成物を用いた封着ガラスに関わるものである。
【背景技術】
【0002】
リン酸ジルコニウムには、非晶質のものと2次元層状構造や3次元網目状構造をとる結晶質のものがある。このなかでも3次元網目状構造をとるリン酸ジルコニウムは、耐熱性、耐薬品性、耐放射線性および低熱膨張性などに優れており、放射性廃棄物の固定化、固体電解質、ガス吸着・分離剤、触媒、抗菌剤原料および低熱膨張性フィラーなどに検討されている。
【0003】
これまでに様々なリン酸ジルコニウムからなる低熱膨張性フィラーが知られており、封着材料などに応用されている。例えば、NaZr2(PO43、CaZr2(PO43、KZr2(PO43(例えば、特許文献1参照)、NbZr2(PO43(例えば、特許文献2参照)、Zr2(WO4)(PO42(例えば、特許文献3参照)などである。
【0004】
一方、これらリン酸ジルコニウムの合成法には、原料を混合後、焼成炉などを用いて1000℃以上で焼成することにより合成する焼成法(例えば、特許文献2、3参照)、水中または水を含有した状態で原料を混合後加圧加熱して合成する水熱法、および原料を水中で混合後、常圧下で加熱して合成する湿式法(例えば、特許文献4参照)などが知られている。
【0005】
これらの合成法のなかで焼成法により得られた様々な組成のリン酸ジルコニウムのみが低熱膨張性フィラーとして応用されている。しかし、焼成法では、原料の均一な混合が容易ではないため、均質な組成のリン酸ジルコニウムができにくい。更に、焼成後、粒子状にするには粉砕後さらに分級をしなければならないため、品質上および生産性の点で問題があった。粉砕粒度が大きい場合は、封着用ガラスに配合した場合は強度不足となり、粉砕粒度が小さい場合は熱膨張性が発現しにくくなる。また、焼成法のリン酸ジルコニウムを低熱膨張性フィラーとして使用する場合には、マイクロクラックの発生防止し気孔の低
減や熱的安定性を高めるために緻密化する必要があり、MgOなどの焼結助剤を加えなければならなかった(例えば、非特許文献1参照)。しかし、これら不純分はガラスとの溶融時に浸食される原因となることで十分な熱膨張性が発現しないうえ、根本的に生産性の改善には至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平02−267137号公報
【特許文献2】特開2000−290007号公報
【特許文献3】特開2005−035840号公報
【特許文献4】特開平05−017112号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】太田繁孝、山井巌、「低熱膨張KZr2(PO4)3セラミックの作成」、窯業協会誌、1987年、95巻、5号、p531−537
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、生産性や耐熱安定性に優れ、さらに加工性にも優れる封着材料などの熱膨張性の調整に有効な六方晶リン酸ジルコニウム系低熱膨張性フィラーを提供することおよびそれを用いたガラス組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、湿式法または水熱法で合成した六方晶リン酸ジルコニウムからなる低熱膨張性フィラーにより課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。即ち、本発明は、
(1)オキシ塩化ジルコニウムを原料とする湿式法または水熱法により合成され、純度が99重量%以上である、下記式〔1〕で表される六方晶リン酸ジルコニウムからなる低熱膨張性フィラーであり、
M1a1M2a2M3a3ZrbHfc(PO43・nH2O 〔1〕
式〔1〕において、M1はアルカリ金属イオン、M2はアルカリ土類金属イオン、M3は水素イオンであり、a1、a2、a3、bおよびcは、1.75<(b+c)<2.25で、a1+a2×2+a3+4(b+c)=9を満たす数であり、a1〜a3は0または正数であるがa1〜a3が全て0であることはなく、bおよびcは正数であり、nは0または2以下の正数である。
(2) 前記式〔1〕において、a1>a2>a3である、前記(1)に記載の低熱膨張性フィラー。
(3) レーザー回折式粒度分布測定器による、最大粒径が20μm以下である、前記(1)または(2)に記載の低熱膨張性フィラーであり、
(4) オキシ塩化ジルコニウムを原料とする湿式法または水熱法による、前記(1)〜(3)のいずれかに記載の低熱膨張性フィラーの製造方法であり、
(5) オキシ塩化ジルコニウムとシュウ酸を共存させる湿式法である、前記(4)に記載の低熱膨張性フィラーの製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の低熱膨張性フィラーは、従来の焼成法による六方晶リン酸ジルコニウムに比較し、生産性に優れるものであることから容易に製造することができる。また、本発明の低熱膨張性フィラーは、従来の物に比べ加工性および熱膨張性の制御が優れるものであることからブラウン管、PDP、蛍光表示管等の電子部品の封着材料として好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下本発明について説明する。なお、%は重量%である。
本発明の低熱膨張性フィラーは、湿式法または水熱法により合成した六方晶リン酸ジルコニウムを用いたものである。
湿式法または水熱法とは、各種原料を水溶液中で加熱し反応させる合成方法である。具体的には、ジルコニウム化合物およびリン酸またはその塩などと、アルカリ金属および/またはアンモニウムとを所定量含有する水溶液をpH4以下に調整後、攪拌しながら100℃を超える温度で加圧加熱する方法が水熱法であり、前記各成分にシュウ酸またはその塩の共存下で攪拌しながら100℃以下の温度で加熱することで、合成する方法が湿式法である。両合成法では穏和な条件下で合成可能であるが、特別な生産設備を要しないことおよびより緩和な条件下で合成が可能であることから、シュウ酸を共存しての湿式法が水熱法よりも好ましい。
合成後の六方晶リン酸ジルコニウムは、濾別し、よく水洗後に乾燥を施し、軽く粉砕することで純度の高い立方体形状の白色結晶からなる六方晶リン酸ジルコニウムが得られる。本合成方法であれば、合成条件によりほぼ一次粒子径を制御できるため、粉砕は解ぐす程度でよく、分級の必要性はほとんどない。
【0012】
本発明の六方晶リン酸ジルコニウムの合成原料として使用することができるジルコニウム化合物は、オキシ塩化ジルコニウムであり、これにハフニウムを含有しているものが更に好ましい。
【0013】
本発明の湿式法による六方晶リン酸ジルコニウムの合成原料として使用できるシュウ酸またはその塩としては、シュウ酸2水和物、シュウ酸ナトリウム、シュウ酸カリウム、シュウ酸アンモニウム、シュウ酸水素ナトリウム、およびシュウ酸水素アンモニウムなどが例示され、好ましくはシュウ酸2水和物である。
【0014】
本発明の六方晶リン酸ジルコニウムの合成原料として使用できるリン酸またはその塩としては、可溶性または酸可溶性の塩が好ましく、リン酸、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、およびリン酸アンモニウムなどが例示され、より好ましくはリン酸である。なお、当該リン酸の濃度としては、60%〜85%程度の濃度のものが好ましい。
【0015】
本発明の六方晶リン酸ジルコニウムを合成するときのリン酸またはその塩とジルコニウム化合物とのモル比率(ジルコニウム化合物を1として)は、1.3超〜1.8未満であり、より好ましく1.41〜1.7未満であり、さらに好ましくは1.4〜1.6である。
【0016】
本発明の六方晶リン酸ジルコニウムを合成するときの反応スラリー中の固形分濃度は、3%以上が好ましく、経済性など効率を考慮すると7%〜30%の間がより好ましい。
【0017】
本発明の六方晶リン酸ジルコニウムの合成時のpHは、1〜4が好ましく、より好ましくは1.5〜3.5、更に好ましくは2〜3である。当該pHが4超であると、スラリーが増粘してしまい攪拌が困難となるうえ、六方晶リン酸ジルコニウムが合成できないことがあるので好ましくない。一方、pHが1未満であるとリン酸ジルコニウムが合成できないことがあるので好ましくない。このpHの調整には水酸化ナトリウム、水酸化カリウムまたはアンモニア水などが好ましく、より好ましくは水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムであ、特に好ましくは水酸化カリウムである。
【0018】
本発明の六方晶リン酸ジルコニウムを湿式法で合成するときの合成温度は、70℃以上が好ましく、80℃以上がより好ましく、90℃以上が更に好ましく、特に好ましくは95℃以上である。合成温度が70℃未満であると、本発明の六方晶リン酸ジルコニウムが合成できないことがあるので好ましくない。また、水熱法で合成するときの合成温度としては、200℃以下が好ましく、150℃以下がより好ましい。合成温度が200℃超えるとエネルギー的に不利であることから好ましくない。
【0019】
六方晶リン酸ジルコニウムの合成時には原料が均質に混合され、反応が均一に進むように攪拌することが望ましい。
六方晶リン酸ジルコニウムの合成時間は、合成温度により異なる。例えば、本発明の六方晶リン酸ジルコニウムの合成時間として1時間以上が好ましく、2時間〜48時間がより好ましく、3時間〜24時間が更に好ましい。
【0020】
湿式法または水熱法で合成することにより本発明における六方晶リン酸ジルコニウムのメジアン径は、0.05〜10μmの間のものを合成することが可能であり、0.1〜7μmが好ましく、0.5〜5μmがより好ましい。なお、各種製品への加工性を考慮すればメジアン径のみでなく、最大粒径も重要である。このことから、低熱膨張性フィラーの最大粒径は20μm以下にすることが好ましく、15μm以下にすることが更に好ましく、10μm以下にすることが分散性を向上することで加工性および熱膨張性調整効果を発揮できることから特に好ましい。
【0021】
本発明の低熱膨張性フィラーは高純度の六方晶リン酸ジルコニウムである。純度が高いことでガラスと加熱溶融した際にガラスの浸食による変質が少なく、効率よく熱膨張性制御が可能となる。六方晶リン酸ジルコニウムの純度は粉末X線回折により六方晶リン酸ジルコニウム結晶に起因するピ−ク以外の不純物ピークの有無の確認、さらに蛍光X線分析による含有成分量の確認により可能である。蛍光X線分析により検出された六方晶リン酸ジルコニウムに起因する成分の合計が99%以上であることが必須であり、より好ましくは99.5%以上である。
【0022】
本発明において、式(1)のアルカリ金属イオンとしては、Li、Na、K、Rb、およびCsが例示され、アルカリ土類金属イオンとしては、Ca、Sr、Baが例示される。これらは単独でも、複数混合されていてもよく、水素イオンを含有していても良い。アルカリ金属イオンとしては、Li、Na、Kが好ましく、より好ましくはNa、Kイオンであり、特に好ましくはKイオンである。アルカリ土類金属イオンとしては、Caが好ましい。
【0023】
本発明の式(1)において、アルカリ金属イオン、水素イオンまたはアルカリ土類金属イオンを単独で含有する場合は、アルカリ金属イオンまたはアルカリ土類金属イオンを含有するものがより好ましく、アルカリ金属イオンを含有するものが低熱膨張制御性が十分発現するので更に好ましい。
本発明において、式(1)にアルカリ金属イオン、水素イオンおよびアルカリ土類金属イオンを複合して含有する場合は、アルカリ金属イオン、水素イオンおよびアルカリ土類金属イオンを含有するもの、アルカリ金属イオンおよびアルカリ土類金属イオンを含有するもの、アルカリ金属イオンおよび水素イオンを含有するもの、並びにアルカリ土類金属イオンおよび水素イオンを含有するものが例示することができ;アルカリ金属イオン、水素イオンおよびアルカリ土類金属イオンを含有するもの、またはアルカリ金属イオンおよびアルカリ土類金属イオンを含有するものが好ましく;アルカリ金属イオンおよびアルカ
リ土類金属イオンを含有するものがより好ましい。
即ち、本発明において、式(1)はアルカリ金属イオンおよびアルカリ土類金属イオンを含有するもの、またはアルカリ金属イオンを含有するものが更に好ましく、アルカリ金属イオンを含有するものが特に好ましい。本発明の式(1)においては、水素イオンは少ない方が低熱膨張制御性が十分発現するので好ましいものである。
【0024】
本発明の式(1)において、アルカリ金属イオンにおけるa1は、0または2未満の正数であり、式(1)にアルカリ金属イオンを含むときは、0.1〜1.8が好ましく、0.2〜1.77がより好ましく、0.6〜1.5が更に好ましい。a1がこの範囲であると低熱膨張制御性が十分発現するので好ましい。
本発明の式(1)において、アルカリ土類金属イオンにおけるa2は、0または1未満の正数であり、式(1)にアルカリ土類金属イオンを含むときは、0.1〜0.7が好ましく、0.2〜0.6がより好ましい。a2がこの範囲であると低熱膨張制御性が十分発現するので好ましい。
本発明の式(1)において、水素イオンにおけるa3は、0または2未満の正数であり、式(1)に水素イオンを含むときは、0.1〜1.6が好ましく、0.1〜1.5がより好ましい。a3がこの範囲であると低熱膨張制御性が十分発現するので好ましい。
【0025】
本発明の式(1)において、アルカリ金属イオン、水素イオンおよびアルカリ土類金属イオンを複合して含有する場合、a1、a2および/またはa3は、a1>a2>a3であると低熱膨張制御性が十分発現するので好ましい。
【0026】
式〔1〕において、bおよびcは、1.75<(b+c)<2.25、a1+a2×2+a3+4(b+c)=9を満たす数である。bは、1.75超であり、好ましくは1.85以上であり、より好ましくは1.9以上である。またcは、0.2以下が好ましく、0.001〜0.15がより好ましく、更に好ましくは0.005〜0.1である。この範囲であると、本発明の低熱膨張性フィラーが得られることになるので好ましい。
【0027】
式〔1〕においてnは、1以下が好ましく、より好ましくは0.01〜0.5であり、0.03〜0.3の範囲が更に好ましい。nが2超では、本発明の低熱膨張性フィラーに含まれる水分の絶対量が多く、加工時等に発泡や加水分解などを生じる恐れがあり好ましくない。
【0028】
本発明における低熱膨張性フィラーは、湿式法または水熱法により得られた六方晶リン酸ジルコニウムに対しイオン交換を実施した物を用いてもよい。イオン交換する方法は、適切な濃度の金属イオンを含有する水溶液に六方晶リン酸ジルコニウムを浸漬することにより行うことができる。また、当該浸漬時には、攪拌等することで均一に混合される状態をつくることが好ましい。浸漬する量は、水溶液に対し均一に混合できる濃度であればよく、そのためには六方晶リン酸ジルコニウムが20重量%以下が好ましい。金属イオンを含有する水溶液の調整には、イオン交換水に目的とする金属などの硝酸塩を溶解した水溶
液を使用することが好ましい。イオン交換時の水溶液の温度は、0〜100℃で可能であり、好ましくは20〜80℃である。このイオン交換は速やかに行われるので、浸漬時間は5分以内でも可能であるが、均一で高いイオン交換率を得るためには30分〜5時間が好ましい。これを5時間以上行っても、イオンの交換がそれ以上進まない。イオン交換終了後には、これをイオン交換水などでよく水洗後、乾燥する。
【0029】
本発明の低熱膨張性フィラーとしては下記のものが例示できる。
1.36Zr1.87Hf0.04(PO43
KZr1.96Hf0.04(PO43
1.48Zr1.86Hf0.02(PO43
0.920.44Zr1.87Hf0.04(PO43
0.60.6Zr1.9Hf0.05(PO43・0.1H2
Na0.72KZr1.80Hf0.02(PO43・0.2H2
Na0.3KH0.34Zr1.8Hf0.04(PO43・0.1H2
NaK0.76Zr1.73Hf0.08(PO43
Na0.60.420.3Zr1.90Hf0.02(PO43・0.2H2
Na0.60.4(NH40.6Zr1.83Hf0.02(PO43・0.3H2
Na1.2Zr1.93Hf0.02(PO43・0.1H2
Na0.241.3Zr1.85Hf0.015(PO43・0.11H2
Na10.12Zr1.95Hf0.02(PO43
Ca0.24KZr1.86Hf0.02(PO43
Na0.6Ca0.56Zr1.80Hf0.02(PO43
1.24Zr1.92Hf0.02(PO43・0.15H2
1.4Zr1.88Hf0.02(PO43・0.15H2
【0030】
本発明の低熱膨張性フィラーは、加熱減分を低減するために焼成処理を実施してもよい。焼成温度は、400℃〜1000℃が好ましく、500〜900℃がより好ましい。また、焼成時間は、1時間以上〜48時間以下が好ましく、2時間以上〜36時間以下がより好ましい。
【0031】
本発明の低熱膨張性フィラーの使用形態は特に制限がなく、用途に応じて適宜他の成分と混合させたり、他の材料と複合させることができる。例えば、粉末、粉末含有分散液、粉末含有粒子、粉末含有塗料、粉末含有繊維、粉末含有プラスチックおよび粉末含有フィルム等の種々の形態で用いることができ、熱膨張性の制御が必要な材料に適宜使用が可能である。更に、本発明の低熱膨張性フィラーには、加工性や熱膨張性を調整するため、必要に応じて他の低熱棒調整性フィラーを混合することもできる。具体例としては低熱膨張性フィラーであるコーディエライト、βスポジューメン、βユークリプトライト、チタン
酸鉛、チタン酸アルミニウム、ムライト、ジルコン、シリカ、セルシアン、ウィレマイトおよびアルミナなどがあげられる。
【0032】
本発明の低熱膨張性フィラーの用途としては、ブラウン管、プラズマディスプレーパネル、蛍光表示管、FEDや半導体集積回路、水晶振動子、SAWフィルタ等の素子を搭載した高信頼性パッケージ等の電子部品の封着材料である封着ガラスがあげられる。
ブラウン管、プラズマディスプレーパネル、蛍光表示管等の電子部品を気密に封着するための封着ガラスは、封着物に対して悪影響を生じないようにできるだけ低温で封着を行うことができるものが望ましい。このため鉛を含有する低融点ガラスを構成成分とした封着材料がこれまでは広く用いられてきた。しかし、近年においては環境への配慮から鉛を含まない封着材料の開発が求められている。
【0033】
一方、これら封着ガラスには主成分として用いられている低融点ガラスは、封着対象となるガラス等よりも熱膨張性が大きいことから、一般に低熱膨張性のフィラーを添加して熱膨張性を調整することが行われている。ところが、鉛を含まないリン酸塩系ガラスやビスマス系ガラス等の無鉛ガラスは、従来の鉛ガラスに比べて熱膨張性がさらに大きいため、従来の低熱膨張性フィラーを添加しても封着材料の熱膨張係数を所期の値に制御することができなかったり、流動性が損なわれる問題もあった。
【0034】
本発明におけるガラス組成物は、封着用ガラスであり低融点ガラスと低熱膨張性フィラーの配合物からなる。低融点ガラス粉の主成分は、従来より公知の組成が使用できる。例えばガラス組成としては、次のものが例示されるが、環境への影響を考慮すると無鉛のガラス組成が好ましい
・Bi23(50〜85%)−ZnO(10〜25%)−Al23(0.1〜5%)−B23(2〜20%)−MO(0.2〜20%、Mはアルカリ土類金属)
・SnO(30〜70%)−ZnO(0〜20%)−Al23(0〜10%)−B23(0〜30%)−P25(5〜45%)
・PbO(70〜85%)−ZnO(7〜12%)−SiO2(0.5〜3%)−B23(7〜10%)−BaO(0〜3%)V25(28〜56%)−ZnO(0〜40%)−P25(20〜40%)−BaO(7〜42%)
【0035】
ガラスと低熱膨張性フィラーの配合割合は、5〜40%が好ましく、より好ましくは10〜35%である。低熱膨張性フィラーが5%未満では熱膨張性の制御が不十分であり、40%以上では封着が困難となる。封着ガラスはビヒクルと混合することでペースト組成物として使用されることが多い。ビヒクルは、溶質としてニトロセルロース0.5〜2質量%と溶媒である酢酸イソアミルまたは酢酸ブチル98〜99.5質量%からなることが好ましい。
【0036】
本発明の低熱膨張性フィラーを封着ガラスへ配合する方法は、公知の方法がどれも採用できる。例えば、ガラス粉末と低熱膨張性フィラーをミキサーで直接混合する方法、塊状のガラスを粉砕する場合に低熱膨張性フィラーを一緒に入れて、粉砕と混合を同時に行う方法およびビヒクルなどのペースト材料にガラス粉末と低熱膨張性フィラーを別々に添加混合する方法などがある。
【0037】
○用途
本発明の低熱膨張性フィラーは、ブラウン管、プラズマディスプレーパネル、蛍光表示管、FEDや半導体集積回路、水晶振動子、SAWフィルタ等の素子を搭載した高信頼性パッケージ等の電子部品の封着材料として封着ガラスに有効に使用できる。封着ガラスとビヒクルとを混合することでペースト組成物として使用されることも多い。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。 化学式は、合成した低熱膨張性フィラーAをフッ化水素酸および硝酸に溶解し、これについてICP発光分析法にて各種成分含有量を測定して算出した。他の物についても同様に分析して算出した。
純度は、蛍光X線分析計を用いて測定した。
平均粒径および最大粒径は、レーザー回折式粒度分布測定器を用いて分析した。
【0039】
<実施例1>
○低熱膨張性フィラーAの合成
純水300mlにシュウ酸2水和物0.1モルと、ハフニウム2.1%含有オキシ塩化ジルコニウム8水和物0.195モルとを溶解後、攪拌しながらリン酸0.3モルを加えた。この溶液に20%水酸化カリウム水溶液を用いてpHを2.2に調整後、98℃で6時間攪拌した。その後、得られた沈殿物をよく洗浄し、120℃で乾燥することにより六方晶リン酸ジルコニウム化合物を合成した。この六方晶リン酸ジルコニウムの化学式、純度、および平均粒径などを測定した結果を表1に示した。
【0040】
<実施例2>
○低熱膨張性フィラーBの合成
純水300mlにシュウ酸2水和物0.1モルと、ハフニウム2.1%含有オキシ塩化ジルコニウム8水和物0.197モルとを溶解後、攪拌しながらリン酸0.3モルを加えた。この溶液に15%水酸化ナトリウム水溶液を用いてpHを2.7に調整後、98℃で10時間攪拌した。その後、得られた沈殿物をよく洗浄し、120℃で乾燥することにより六方晶リン酸ジルコニウム化合物を合成した。この六方晶リン酸ジルコニウムの化学式、純度、および平均粒径などを測定した結果を表1に示した。
【0041】
<実施例3>
○低熱膨張性フィラーCの合成
純水300mlにハフニウム1.9%含有オキシ塩化ジルコニウム8水和物0.195モルを溶解後、攪拌しながらリン酸0.3モルを加えた。この溶液に15%水酸化ナトリウム水溶液を用いてpHを3.0に調整後、120℃の飽和蒸気圧下で10時間攪拌した。その後、得られた沈殿物をよく洗浄し、120℃で乾燥することにより六方晶リン酸ジルコニウム化合物を合成した。この六方晶リン酸ジルコニウムの化学式、純度、および平均粒径などを測定した結果を表1に示した。
【0042】
<比較例1>
炭酸カリウム0.1モル、ジルコニア0.2モル、リン酸水素2アンモニウム0.3モルを混合後、さらに焼結助剤として酸化マグネシウムを2%配合し、この配合物を1450℃で15時間焼成した。得られた塊状の六方晶リン酸ジルコニウムをボールミルにて粉砕し、さらに325メッシュの篩を通した。得られた六方晶リン酸ジルコニウムの化学式、純度、および平均粒径などを測定した結果を表1に示した。
【0043】
<比較例2>
炭酸ナトリウム0.12モル、ハフニウム1.9%含有ジルコニア0.195モル、リン酸水素2アンモニウム0.3モルを混合後、さらに焼結助剤として酸化マグネシウムを2重量%配合し、この配合物を1450℃で12時間焼成した。得られた塊状の六方晶リン酸ジルコニウムをボールミルにて粉砕し、さらに325メッシュの篩を通した。得られた六方晶リン酸ジルコニウムの化学式、純度、および平均粒径などを測定した結果を表1に示した。
【0044】
<比較例3>
炭酸ナトリウム0.12モル、ハフニウム1.9%含有ジルコニア0.195モル、リン酸水素2アンモニウム0.3モルを混合後、この配合物を1450℃で12時間焼成した。得られた塊状の六方晶リン酸ジルコニウムをボールミルにて粉砕し、さらに325メッシュの篩を通した。得られた六方晶リン酸ジルコニウムの化学式、純度、および平均粒径などを測定した結果を表1に示した。
【0045】
<比較例4>
市販の低熱膨張性フィラーに使用されているコーディライト粉末の平均粒径を測定した結果を表1に示した。
【0046】
【表1】

【0047】
<参考例1>
○ガラス組成物での評価
実施例1で得られた低熱膨張性フィラーAを無鉛低融点リン酸系ガラス(SnO−P2O3−ZnO−Al2O3−B2O3)粉末に20%混合し、これを直径15mm×高さ5mmの円柱状に成形し、成形体aを作成した。この成形体aを板ガラス上に置いて、電気炉にて500℃で10分間保持し、焼成した。この焼成により流動した成形体aの直径を測定し、求めた流動径を表2に示した。流動径を測定した成形体aの表面を平滑化し、熱機械分析装置TMA2940(TA Istruments社製)を用いて、昇温速度10℃/分で100℃〜300℃の熱膨張係数を測定し、この結果を表2に示した。
同様に、実施例2〜3で作製した低熱膨張性フィラーBとCおよび比較例1〜3で作製した六方晶リン酸ジルコニウムを用いて、ガラス成形品b〜gを作製した。また、フィラーを用いずに同様に成形した成形体hも作製した。作製した各種成形体の流動性および熱膨張性係数を測定した結果を表2に示した。
【0048】
【表2】

【0049】
表2からも明らかな様に、本発明の低熱膨張性フィラーを用いたガラス成形体は、流動性および熱膨張性も良好で優れていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の新規の低熱膨張性フィラーは、生産性、加工性に優れており、しかも低融点ガラスなどに適用した際の熱膨張性制御に優れるため、主にブラウン管、PDP、蛍光表示管等の電子部品用の封着ガラス等として使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オキシ塩化ジルコニウムを原料とする湿式法または水熱法により合成され、純度が99重量%以上である、下記式〔1〕で表される六方晶リン酸ジルコニウムからなる低熱膨張性フィラー。
M1a1M2a2M3a3ZrbHfc(PO43・nH2O 〔1〕
式〔1〕において、M1はアルカリ金属イオン、M2はアルカリ土類金属イオン、M3は水素イオンであり、a1、a2、a3、bおよびcは、1.75<(b+c)<2.25で、a1+a2×2+a3+4(b+c)=9を満たす数であり、a1〜a3は0または正数であるがa1〜a3が全て0であることはなく、bは正数であり、cは0または正数であり、nは0または2以下の正数である。
【請求項2】
前記式〔1〕において、a1>a2>a3である、請求項1に記載の低熱膨張性フィラー。
【請求項3】
レーザー回折式粒度分布測定器による最大粒径が20μm以下である、請求項1または2に記載の低熱膨張性フィラー。
【請求項4】
オキシ塩化ジルコニウムを原料とする湿式法または水熱法による、請求項1〜3のいずれかに記載の低熱膨張性フィラーの製造方法。
【請求項5】
オキシ塩化ジルコニウムとシュウ酸を共存させる湿式法である、請求項4に記載の低熱膨張性フィラーの製造方法。

【公開番号】特開2011−168491(P2011−168491A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−107785(P2011−107785)
【出願日】平成23年5月13日(2011.5.13)
【分割の表示】特願2006−134317(P2006−134317)の分割
【原出願日】平成18年5月12日(2006.5.12)
【出願人】(000003034)東亞合成株式会社 (548)