説明

低級炭化水素の直接改質方法

【課題】メタンなどの低級炭化水素を直接改質して芳香族化合物と水素とを製造する反応の欠点である平衡転化率の低さを改善する。
【解決手段】低級炭化水素を原料として直接改質したガスから芳香族化合物を分離した後、芳香族化合物を分離した分離ガスから未反応の原料低級炭化水素を分離して前記直接改質に供するとともに、残余を未反応の原料低級炭化水素を分離した、水素を含むガスとする。芳香族化合物を分離した後のガス中にある未反応低級炭化水素をを通して直接改質に循環するように運転する。純度の高い原料低級炭化水素を循環利用することで転化率が向上し効率的に原料を消費できる。さらに循環利用するガスに水素や副生成物が多量に含まれることがなく、直接改質触媒を長時間、安定的に使用できる。残余は未反応の原料低級炭化水素を分離した、水素を含むガスとして回収できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタンなどの低級炭化水素を改質して直接芳香族と水素とを製造する直接改質方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、メタンなどの低級炭化水素から芳香族化合物と水素を製造するプロセスとして、例えばZSM5型ゼオライト触媒などの触媒にモリブデンなどの金属や合金触媒を担持させ、この触媒の存在下で、温度、圧力をある反応条件にして低級炭化水素を反応させることで、選択的にメタンなどの低級炭化水素からベンゼンなどの芳香族化合物と水素とを生成する技術が報告されている(特許文献1、2、3等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−316302号公報
【特許文献2】特開2001−334151号公報
【特許文献3】特開2002−336704号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、メタンから水素とベンゼンを生成するこの反応の転化率は熱力学的平衡に支配され、図3に示す様に温度、圧力により変化する。例えば、750℃、3気圧では平衡転化率は十数%にしか達しない。このため、原料であるメタンを例えば100mol反応させても90mol近いメタンが未反応オフガスとして排出されることになり、効率が悪く、水素及びベンゼンの製造コストが高くなるという欠点がある。
この欠点に対し、オフガス中の水素をPSA(圧力スイング吸着)等の水素精製装置で精製したあと、未反応メタンを再度、改質部に循環させる方式で実働転化率を上げる方法が提案されている。この方法に用いられる装置の一例を図4に示す。すなわち、この装置では、原料メタンガス1を直接改質部2に導入して直接改質し、その後、芳香族分離部3に導入して芳香族化合物を分離し、分離後のガスを水素分離部10に導入する。水素分離部10では、水素を選択的に透過させる水素透過膜などを利用して水素の精製を行って水素を分離し、他のシステムで利用する。一方、水素を分離した残余のガスは、還流路20を通して前記改質部2に還流させて転換率の向上を図っている。なお、図中4、6はコンプレッサである。
【0005】
しかし、芳香族化合物を分離したガスから高純度の水素を精製し、残りのガスを回収後、再度反応させようとすると、残りのガスにはメタンガスの他に精製しきれない水素や副生成物であるエタン、エチレン等が残存しているため、原料としてのメタン純度が低下することになる。メタン純度が低いと直接改質触媒の反応効率に深刻な影響が生じる。このため、従来は、水素を精製して該水素を分離したガスを再度改質に用いても転化率は期待される程には向上しないという問題があった。
【0006】
本発明は、上記事情を背景としてなされたものであり、ワンパスでの平衡転化率の低さを、水素と未反応低級炭化水素が含まれる混合ガスから水素を精製するのではなく原料低級炭化水素を精製してこれを改質に供することで平衡転化率を改善することができる直接改質方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため本発明の低級炭化水素の直接改質方法のうち、請求項1記載の発明は、低級炭化水素を原料として直接改質したガスから芳香族化合物を分離した後、芳香族化合物を分離した分離ガスから未反応の原料低級炭化水素を分離して前記直接改質に供するとともに、残余を未反応の原料低級炭化水素を分離した、水素を含むガスとすることことを特徴とする。
【0008】
請求項2記載の低級炭化水素の直接改質方法の発明は、請求項1記載の発明において、未反応の原料低級炭化水素が分離された、水素を含む前記残余のガスをオフガスとして系外に送出することを特徴とする。
【0009】
請求項3記載の低級炭化水素の直接改質方法の発明は、請求項2記載の発明において、系外に送出された前記オフガスを燃料として利用することを特徴とする。
【0010】
請求項4記載の低級炭化水素の直接改質方法の発明は、請求項1〜3のいずれかに記載の発明において、未反応の原料低級炭化水素が分離された、水素を含む前記残余のガスから水素を分離することを特徴とする。
【0011】
すなわち、本発明の直接改質方法によれば、直接改質した生成ガスから芳香族化合物を分離した後、芳香族化合物を分離したガスからさらに原料低級炭化水素を分離し、この原料低級炭化水素を直接改質に還流させるので、直接改質性能の低下を引き起こす副生成ガスや水素を極力除いた不純物の少ない低級炭化水素を連続的に供給することができ、実働転化率を上げることができるとともに良好な性能を維持した直接改質を長時間可能にする。
【0012】
上記で原料低級炭化水素を分離した残余のガスには、主として生成水素と分離しきれなかった原料低級炭化水素が含まれており(例えば約50%)、その他に、副生成物が含まれている。このガスは、そのまま燃料などとして利用することができる。また、このガスから水素を分離し、残余のガスを燃料などとして利用することもできる。
【0013】
なお、本発明は、低級炭化水素を原料ガスとして使用される。その種別は特定のものに限定されないが、代表的にはメタンが挙げられる。また、原料となる低級炭化水素は単一種の他、複数種からなるものであってもよい。
低級炭化水素を直接改質する方法も本発明としては特に限定されないが、一種または複数の金属を触媒材料として担体に担持した触媒を用いたものが例示される。改質では、低級炭化水素を原料として芳香族化合物と水素とが生成され、その他に、エタン、エチレン等が副生成物として生成される。改質されたガスには、この他に未反応の原料低級炭化水素が残存する。
【0014】
改質がなされたガスは、その後、芳香族化合物が分離される。芳香族化合物の分離方法は特に限定されるものではなく、分留や分離用液への溶解などの適宜の方法によって行うことができる。芳香族化合物を分離したガスでは、その後、原料低級炭化水を分離する。該分離においても本発明は特定の分離方法に限定されるものではなく、適宜の方法を採択することができる。例えば、PSA(圧力スイング吸着法)や透過膜などを用いた膜分離法が挙げられる。なお、低級炭化水素が複数種からなる場合など、多段で分離を行うことも可能である。
また、原料低級炭化水素を分離した残余のガスでは、所望によりさらに水素を分離することができる。この分離方法も本発明としては特に限定されるものではなく、適宜の方法を採択することができ、例えば上記と同様にPSAや膜分離法を利用することができる。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように、本発明によれば、低級炭化水素を原料として直接改質したガスから芳香族化合物を分離した後、芳香族化合物を分離した分離ガスから未反応の原料低級炭化水素を分離して前記直接改質に供するとともに、残余を未反応の原料低級炭化水素を分離した、水素を含むガスとするので、純度の高い原料ガスを直接改質部にリサイクルでき、実働転化率を上げ、安定的に長時間装置を稼動させることが出来る効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態における改質装置のフロー図である。
【図2】同じく他の実施形態における改質装置のフロー図である。
【図3】メタンから水素とベンゼンを生成する場合の平衡転化率の温度、圧力依存性を示すグラフである。
【図4】従来の改質装置のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(実施形態1)
以下、この発明の一実施形態を図1に基づいて説明する。なお、図4の従来法と同等の構成については同一の符号を付してその説明を省略または簡略化している。
この実施形態を実行する装置では、原料炭化水素(メタン)1を導入する直接改質部2と、該直接改質部2で改質されたガスが導入される芳香族分離部3と、芳香族化合物が分離された残余のガスを導入して原料低級炭化水素を分離する低級炭化水素分離部4と、該低級炭化水素分離部4で分離した原料低級炭化水素を前記直接改質部2に戻す還流ライン8を有している。また、芳香族分離部3と低級炭化水素分離部5との間にコンプレッサ4が設置され、さらに還流ライン7にコンプレッサ6が設置されている。
【0018】
該直接改質部2は、5Å程度の細孔系を持つZSM5型のゼオライトにモリブデンの様な金属を担持した触媒を充填した直接改質装置である。芳香族分離部3は、前記直接改質部2で生成した水素と未反応ガスを含むガスから芳香族(ベンゼン、トルエン、ナフタレン:BTX)を分離する分離精製装置であり、例えば分留などによって芳香族化合物を分離する。低級炭化水素分離部5は、PSAや分離膜を備えており、原料低級炭化水を分離して前記還流ライン7に排出するものである。
【0019】
次に、この実施形態の動作について説明する。
原料低級炭化水素1は、直接改質部2に導入され、該直接改質部2において水素と芳香族化合物とエタンなどの副生成物を生成する。また、一部の原料低級炭化水素は反応することなく未反応のままとなる。これらのガスは直接改質部2から排出されて芳香族分離部3に導入される。芳香族分離部3では、ベンゼン等の芳香族化合物(BTX)が分離されて系外に取り出される。芳香族化合物を分離した残余は、コンプレッサ4を介して低級炭化水素分離部5に送出され、この実施形態では原料低級炭化水素としてメタンが分離される。この原料低級炭化水素は、還流ライン7においてコンプレッサ6によって前記直接改質部2に送出される。また、低級炭化水素分離部5では前記原料低級炭化水素を分離した残余のガスは、系外に排出され、一部は燃焼用オフガスとなり、その他は他のシステム8において余剰熱供給分のオフガス(熱供給をして余ったオフガス)として利用される。
【0020】
直接改質部2に返送された未反応の原料低級炭化水素は、さらに改質反応に供されて転化率の向上に寄与する。また、返送された未反応の原料低級炭化水素中には、水素や副生成物の含有は少なく、直接改質部2における悪影響をさけることができる。
【0021】
(実施形態2)
なお、上記実施形態では、原料のガスを分離した残余のガスはオフガスとして他のシステムでの利用を図るものとしたが、上記残余のガスから水素を分離してこの水素の積極的な利用を図ることも可能である。
図2は、メタンを分離した残余のガスから水素を分離することを可能にした装置を示すものである。なお、上記実施形態1と同様の構成については同一の符号を付してその説明を省略または簡略化する。
【0022】
この実施形態においても、上記実施形態1と同様に、直接改質部2と、該直接改質部2で改質されたガスが導入される芳香族分離部3と、芳香族化合物が分離された残余のガスを導入して低級炭化水素を分離する低級炭化水素分離部5と、該低級炭化水素分離部5で分離した原料低級炭化水素を前記直接改質部2に戻す還流ライン7とを有している。さらにこの実施形態では、低級炭化水素分離部5において原料低級炭化水素を分離した残余のガスが導入され、該ガスから水素を分離する水素分離部10が設けられている。該水素分離部10における分離方法は本発明としては特に限定されるものではなく、例えば、PSAや水素を透過させる膜分離方法などの適宜の方法を採用することができる。
【0023】
この装置においても、直接改質部2で低級炭化水素の改質がなされ、改質によって生成された芳香族化合物が芳香族分離部3で分離される。芳香族化合物を分離したガスは、低級炭化水素分離部5で低級炭化水素が分離されて上記実施形態と同様に直接改質部2に還流される。低級炭化水素を分離した残余のガスは、水素分離部10に送られ、ここで水素が分離されて系外に取り出される。水素を除いたガスは、上記実施形態1と同様に燃料として用いたり、他のシステム8で利用することができる。
【符号の説明】
【0024】
1 原料メタンガス
2 直接改質部
3 芳香族分離部
4、6 コンプレッサ
5 低級炭化水素分離部
7 還流ライン
8 その他のシステム
10 水素分離部
20 還流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低級炭化水素を原料として直接改質したガスから芳香族化合物を分離した後、芳香族化合物を分離した分離ガスから未反応の原料低級炭化水素を分離して前記直接改質に供するとともに、残余を未反応の原料低級炭化水素を分離した、水素を含むガスとすることを特徴とする低級炭化水素の直接改質方法。
【請求項2】
未反応の原料低級炭化水素が分離された、水素を含む前記残余のガスをオフガスとして系外に送出することを特徴とする請求項1記載の低級炭化水素の直接改質方法。
【請求項3】
系外に送出された前記オフガスを燃料として利用することを特徴とする請求項2記載の低級炭化水素の直接改質方法。
【請求項4】
未反応の原料低級炭化水素が分離された、水素を含む前記残余のガスから水素を分離することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の低級炭化水素の直接改質方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−102426(P2009−102426A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−25687(P2009−25687)
【出願日】平成21年2月6日(2009.2.6)
【分割の表示】特願2003−167659(P2003−167659)の分割
【原出願日】平成15年6月12日(2003.6.12)
【出願人】(000004215)株式会社日本製鋼所 (840)
【出願人】(501218810)独立行政法人北海道開発土木研究所 (10)
【Fターム(参考)】