説明

低膨張、高強度、耐クラック伸展性を有する不定形耐火物

【課題】セラミックス製品に適用される不定形耐火物に関し、特に、低膨張のセラミックス製品の表面を保護・改質する目的で使用される低膨張、高強度、耐クラック伸展性を有する不定形耐火物を提供する。
【解決手段】メジアン径が10〜50μmの範囲で、10μm未満の粒度含有量が1%以上36%以下、10μm以上50μm以下の粒度含有量が50%以上75%以下、51μm以上の粒度含有量が1%以上14%以下であるシャープな山形状の粒度分布を有するコージライト粉末と、水およびアルミナゾルまたはシリカゾル溶液からなる溶媒とを混練して不定形耐火物とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐火物などの耐火性のあるセラミックス製品に適用される不定形耐火物に関し、特に、低膨張の耐火煉瓦および耐火セラミックス製品の表面や接着面や界面や目地を補修・保護・改質・充填・成形する目的で使用される低膨張、高強度、耐クラック伸展性を有する不定形耐火物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、耐火物同士の接着剤として不定形耐火物を使用することが知られている。このような不定形耐火物は、特許文献1や特許文献2に示されるように、用途に合わせて選択した無機骨材および微粉末を水で混練したものが普通である。しかしながら、溶媒として水を使用するため十分な強度を発現することができないという問題があり、また、耐火性や耐浸食性を重視するために高融点の骨材等を用いており、低膨張、高強度、耐クラック伸展性の全てを満足する不定形耐火物は存在しないというのが現状である。
【0003】
一方、不定形耐火物を低膨張のセラミックス製品の表面を補修・保護・改質・充填するための補修材、保護材、改質、充填材などとして使用することも提案されている。このようなモルタルでは、炭化珪素を添加して熱膨張を調整し低膨張を維持している。しかしながら、炭化珪素は非酸化物であるため酸化の問題があり恒久的に低膨張を維持できないうえに、酸化劣化による接合強度の低下の問題もあった。更に、溶媒に水を使用するため接着強度が低くなるというという問題もあった。そこで、強度の改善を図るために酸化物添加剤を加えることが行われているが、この場合は熱膨張が大きくなってしまうという問題が生じた。
特許文献1に示されるように、粒径2mm以上の骨材とポルトランドセメントなどを配合した超高じん性モルタルが提案されているが、高強度は達成できるものの低膨張、耐クラック進展性は改善することができないものであった。
また、特許文献3に示されるように、セラミックス製品の表面を改質するためのコート材としてコージライト粉末と水からなるものが提案されているが、低膨張、高強度は達成できるものの、耐クラック伸展性は改善することができないものであった。
【特許文献1】特開2005−67945号公報
【特許文献2】特開平3−75275号公報
【特許文献3】特開2004−231506号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記のような問題点を解決して、特に低膨張のセラミックス製品の表面を保護・改質する目的で使用される不定形耐火物であって、低膨張、高強度を有しかつ耐クラック伸展性も有していて良好な組織状態を維持することができる低膨張、高強度、耐クラック伸展性を有する不定形耐火物を提供することを目的として完成されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するためになされた本発明の低膨張、高強度、耐クラック伸展性を有するモルタルは、メジアン径が10〜50μmの範囲で、10μm未満の粒度含有量が1%以上36%以下、10μm以上50μm以下の粒度含有量が50%以上75%以下、51μm以上の粒度含有量が1%以上14%以下であるシャープな山形状の粒度分布を有するコージライト粉末と、水およびシリカゾル溶液からなる溶媒とを混練したことを特徴とするものである。
【0006】
また、前記アルミナゾル又はシリカゾル溶液のシリカ含有量またはアルミナ含有量は、それぞれ10〜70%の範囲が好ましく、これを請求項2および請求項3にかかる発明とし、更に、アルミナゾル・シリカゾル溶液中のアルカリ酸化物含有量が、0.01%以上2%以下であることが好ましく、これを請求項4にかかる発明とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明では、メジアン径が10〜50μmの範囲で、10μm未満の粒度含有量が1%以上36%以下、10μm以上50μm以下の粒度含有量が50%以上75%以下、51μm以上の粒度含有量が1%以上14%以下であるシャープな山形状の粒度分布を有するコージライト粉末と、水およびアルミナゾル又はシリカゾル溶液からなる溶媒とを混練したので、コージライト粉末により低膨張性を確保し、また溶媒としてアルミナゾル又はシリカゾル溶液を用いることで高強度を発現する。更に、シャープな山形状の粒度分布を有するコージライト粉末を用いることで高強度を発現するとともに、不定形耐火物の伸展を防ぐことができる。
【0008】
また、アルミナゾルまたはシリカゾル溶液のアルミナまたはシリカ含有量を、それぞれ10〜70%の範囲とすること、またアルミナゾル又はシリカゾル溶液中のアルカリ酸化物含有量を0.01%以上2%以下とすることで、高強度を発現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に、本発明の好ましい実施の形態を示す。
本発明では、低膨張性を確保するためにコージライト材料を用いる。コージライトの熱膨張係数は、900℃で1.6〜2.0×10−6と低いため、低膨張のセラミックス製品の表面に適用した場合に、膨張率の差が小さく割れ等の発生を防止でき、またコージライト自身がクラックを発生しにくい材質であり、不定形耐火物のクラック発生を防ぐことができる。
また、コージライト粉末はメジアン径が10〜50μmの範囲のものとする。メジアン径を管理することで、施工性、強度、耐クラック伸展性の良好なモルタルが得られるからである。メジアン径が10μm未満では溶媒の添加量が多くなって強度低下につながり、50μmより大きいと施工性は良好であるが、強度が低下してしまう。
【0010】
更に、コージライト粉末は10μm未満の粒度含有量が1%以上36%以下、10μm以上50μm以下の粒度含有量が50%以上75%以下、51μm以上の粒度含有量が1%以上14%以下であるシャープな山形状の粒度分布を有するものとする。これは本発明者が研究した結果、コージライト粉末の粒度分布を制御することで接着強度および耐クラック伸展性を向上させることができることを見出したことによる。
図1に本発明のコージライト粉末の粒度分布、図2に従来技術のコージライト粉末の粒度分布を示す。メジアン径は、図1のものが16.367±5μmで、メジアン径頻度は7.5%以上であり、一方、図2のものではメジアン径が17.573μmで、メジアン径頻度は5.0%以下である。そして、本発明者の研究によれば、従来のように粒子径にバラツキのあるブロードな山形状の粒度分布では、不定形耐火物とした場合に空隙が多くなり十分な強度が得られないのに対し、本発明のように粒子径が揃っていてシャープな山形状の粒度分布の場合は、最密充填となって十分な強度が発現し、かつクラックの伸展も防止することが可能となることが判った。
なお、メジアン径頻度の上限は11%以下であることが好ましい。
【0011】
また、本発明では溶媒として水およびアルミナゾル又はシリカゾル溶液からなる溶液を用いる。
従来のように、溶媒として水のみを使用した場合は、十分な強度が得られないのに対し、コロイダル状態のアルミナ又はシリカを溶媒として用いた場合は、十分な強度を得ることができることを究明したからである。
【0012】
前記アルミナまたはシリカゾル溶液のアルミナまたはシリカ含有量は、それぞれ10〜70%であることが好ましい。10%未満では十分な強度を確保するのが難しく、一方、70%より多いと価格的に高くなって実用ベースから乖離するからである。
また、シリカゾル溶液中のNaOやKO等のアルカリ酸化物含有量は、0.01%以上2%以下であることが好ましい。2%より多いと、強度が低下するからである。
【0013】
その他、必要に応じて粘性調整用の有機バインダーやコート材の“だれ”防止や弾性率低下用のファイバー等を数%以下の範囲で適宜含有させることもできる。
【0014】
以上の説明からも明らかなように、本発明のモルタルは低膨張のコージライトと溶媒としてシリカゾル溶液を用い、かつ前記コージライト粉末の粒度分布を所定のものに制御することにより、低膨張性と高強度を確保し、低膨張のセラミックス製品の表面保護・改質用コート材として優れた効果を発揮することができる。また、耐クラックの伸展性も抑えることができるので、良好な組織状態を維持できる不定形耐火物としての効果も奏するものである。
【実施例】
【0015】
表1に示す組成から成り、かつメジアン径が10〜50μmの範囲で、10μm未満の粒度含有量が1%以上36%以下、10μm以上50μm以下の粒度含有量が50%以上75%以下、51μm以上の粒度含有量が1%以上14%以下であるシャープな山形状の粒度分布を有するコージライト粉末を用いて不定形耐火物を作成した。これを、低膨張の多孔質セラミックス製品の表面に塗布し保護・改質を図った。得られた不定形耐火物の強度、施工性、クラック発生数などを測定した結果を表1に示す。なお、抗折強度および熱膨張係数については不定形耐火物を乾燥させた後に測定した。
比較例として、メジアン径頻度が5%以下であるブロードな山形状の粒度分布を有する従来のコージライト粉末を用いてモルタルを作成した場合の、不定形耐火物の強度、施工性、クラック発生数などを測定した結果を表1に示す。
この結果、本発明の不定形耐火物が従来例に比べて低膨張性、高強度性、耐クラック伸展性において、優れた特性を有していることが確認できた。
【0016】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明のコージライト粉末の粒度分布を示すグラフである。
【図2】従来例のコージライト粉末の粒度分布を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メジアン径が10〜50μmの範囲で、10μm未満の粒度含有量が1%以上36%以下、10μm以上50μm以下の粒度含有量が50%以上75%以下、51μm以上の粒度含有量が1%以上14%以下であるシャープな山形状の粒度分布を有するセラミックス粉末と、水および非晶質コロイド溶液からなる溶媒とを混練したことを特徴とする低膨張、高強度、耐クラック伸展性を有する不定形耐火物。
【請求項2】
非晶質コロイド溶液のシリカ含有量が、10〜70%である請求項1に記載の低膨張、高強度、耐クラック伸展性を有する不定形耐火物。
【請求項3】
非晶質コロイド溶液のアルミナ含有量が、10〜70%である請求項1に記載の低膨張、高強度、耐クラック伸展性を有する不定形耐火物。
【請求項4】
非晶質コロイド溶液中のアルカリ酸化物含有量が、0.01%以上2%以下である請求項2または3に記載の低膨張、高強度、耐クラック伸展性を有する不定形耐火物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−137808(P2009−137808A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−317900(P2007−317900)
【出願日】平成19年12月10日(2007.12.10)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【出願人】(000237868)エヌジーケイ・アドレック株式会社 (37)
【Fターム(参考)】