説明

低蛋白ラスク及びその製造方法

【課題】 腎臓病患者用の低蛋白保存食となる乾パンの蛋白含有量の1/10以下の低蛋白ラスクを提供する。
【解決手段】パン生地として、低蛋白米粉又は低蛋白米粉と小麦澱粉を主成分とした粉生地に、少なくとも粉生地量に対して膜形成材として1.5%重量以上の増粘多糖類を加え、また硬化抑制材として、適宜量のα化澱粉(α化低蛋白米粉又は粳米α粉)と、βアミラーゼを添加してなる生地を使用して、常法通り製パンした後、所定時間放冷し、適宜な厚さにスライスし、常法通りの中が乾燥するまでトーストして製出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低蛋白ラスク及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ラスクは周知の通り、ビスケットの一種で油脂と砂糖を加えた発酵生地で製出したパンを薄切りにして、中が乾燥するまでキツネ色にトーストしたものを二度焼きして製造するもので、好みによって卵白に砂糖を入れて泡立てたものや、適宜な調味液を塗付し乾燥させたものが知られている。
【0003】
特別なラスクとしては、実用新案登録第3080128号公報(特許文献1)に、形状をスティック状としたラスクが開示されている。また特開平10−99012号公報(特許文献2)には、小麦生地に大豆蛋白と油脂を含ませて発酵焼成したパンを使用する高蛋白質ラスクが開示されている。
【0004】
【特許文献1】実用新案登録第3080128号公報。
【特許文献2】特開平10−99012号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで腎臓病患者用の食品として多種の低蛋白食品が提供されているが、ラスクの低蛋白食品は提供されていない。また低蛋白パンについては種々提案されているが、基本的には小麦粉の一部を澱粉に置換して低蛋白化を図っているものであるが、小麦粉を全く使用しないか若しくは極僅かの使用(主成分とせず、多少の添加は含む)の低蛋白パンは提案されていない。
【0006】
そこで先に小麦粉を全く使用しない極低蛋白パンの製造手段を提案したもので(特願2004−354799号)、更に小麦粉を全く使用しないか若しくは極僅かしか使用しない低蛋白ラスクを提案したものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る低蛋白ラスク及びその製造方法は、低蛋白米粉又は低蛋白米粉と小麦澱粉を主成分とした粉生地に、少なくとも粉生地量に対して膜形成材として1.5%重量比以上の増粘多糖類を加えた生地で、常法通りの製パンを行って製出した低蛋白パンを、所定時間放冷し、その後適宜な厚さにスライスし、常法通り中が乾燥するまでトーストして製出したことを特徴とするものである。
【0008】
また前記の製パンに際して生地に、硬化抑制材として、適宜量のα化澱粉(α化低蛋白米粉又は粳米α粉)と、βアミラーゼを添加して製出してなるものである。
【0009】
前記の低蛋白米粉は、米を乳酸発酵処理や酵素処理、或いは乳酸発酵処理及び酵素処理を併用して低蛋白化し、低蛋白化米を粉化処理して粉状としたものであり、この低蛋白米粉や、低蛋白米粉と小麦澱粉を生地の主成分とし、増粘多糖類によって膜形成を行って発酵ガスを内在させることで、常法通りの製パン手段で、低蛋白を実現したパンが製出でき、更に製出したパンを材料として、ラスクに加工すると、保存食品とし最適な低蛋白ラスクを提供できるものである。
【0010】
また本発明(請求項3、6)に係る低蛋白ラスク及びその製造方法は、澱粉を主成分とした粉生地に、少なくとも粉生地量に対して膜形成材として1.5%重量以上の増粘多糖類と、硬化抑制材としての適宜量のα化澱粉及びβアミラーゼを添加した生地で、常法通りの製パンを行って製出した低蛋白パンを、所定時間放冷し、適宜な厚さにスライス切断し、トーストによる乾燥処理を施して製出したことを特徴とするものである。
【0011】
前記の澱粉は、小麦澱粉の他、馬鈴薯澱粉や米澱粉等の適宜な澱粉を使用するもの、またα化澱粉として粳米α粉やその他のアルファ化澱粉)を加えることで、蛋白を殆ど含有していない澱粉を生地の主成分とし、増粘多糖類によって膜形成を行って発酵ガスを内在させ、同時に製出されるパンの硬化を抑制して、パン風味(パン食感)を備えた低蛋白パンが製出でき、更に製出したパンを材料として、ラスクに加工すると、保存食品とし最適な低蛋白ラスクを提供できるものである。
【発明の効果】
【0012】
以上のとおり本発明は、パン生地として、低蛋白米粉又は低蛋白米粉と小麦澱粉を主成分とした粉生地や、澱粉を主成分とした粉生地で、所定の製パンを行って製出したパンをラスクに加工したもので、蛋白量を小麦粉製の乾パンに比較して1/10以下まで低減させ、腎臓病患者に対応できる低蛋白保存食品を提供することができたものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
次に本発明の実施の形態について説明する。本発明の第一実施形態は、低蛋白丸パンを製出した後、ラスクに加工したもので、製パン生地の主成分を図1に示したとおり、低蛋白米粉と小麦澱粉と少量の粳米α粉を使用したものである。
【0014】
尚低蛋白米粉は、乳酸発酵処理や酵素処理或いは両者を併用して低蛋白化した米を粉化処理したものである。具体的には、洗米を乳酸発酵させると、発酵過程で蛋白質の変性が認められ、低蛋白化する。また、洗米を蛋白分解酵素液に所定環境下で浸漬すると、米組織内の蛋白質が分解して低蛋白化する。
【0015】
前記の混合粉(粉状生地)に図示したとおりの添加物を、粉状生地100に対する所定重量比率で添加混合して生地とするものである。
【0016】
添加物である増粘多糖類は、発酵ガスを内在させる膜生成物であり、粳米α粉並びにβアミラーゼは、パンの硬化抑制のために添加し、焼成後にも優れたパン組織を維持するために、親水性の高い乳化剤を添加する。
【0017】
そして全材料をミキシング(ビータM10分)して捏ね上げ(捏上温度27℃)、15分発酵させる(28℃、湿度75%の雰囲気下で行う)。
【0018】
発酵後に、所定の大きさ(60g)に分割し型詰めし、ホイロ工程(38℃、湿度80%雰囲気下で50分放置)後、焼成(200〜280℃、15分)する。
【0019】
製出されたパンは、放冷し、0.8〜1cmの厚さにスライス切断し、150℃、30分の焼成を行い、シュガータイプは、表面にマーガリンを塗ってグラニュー糖を振り掛け、ガーリックタイプは、ガーリックスプレッドを塗布し、それぞれ更に5分程度の焼成を行い、乾燥加工品であるラスクを製出したものである。
【0020】
前記の製出されたラスクの蛋白含有量は、シュガータイプで0.9%、ガーリックタイプで0.8%であった。五訂食品成分表に記載されている乾パンの蛋白含有量9.5%に比較して1/10以下となり、しかも小麦を全く使用しないものであるから、小麦アレルギーの患者にも対応できる保存食品を提供できたものである。
【0021】
また図2の表は、本発明の第二実施形態の材料表で、食パンを製出した後にラスク加工を実施したもので、粉状生地や添加物は基本的に第一実施形態と同様で、添加物の食塩と砂糖の量が相違するのみである。
【0022】
前記の生地を持って常法とおりの手段で食パンを製出するもので、発酵条件、ホイロ工程、焼成条件は図2に示したとおりである。
【0023】
製出された食パンを放冷し前記第一実施形態と同様に、0.8〜1cmの厚さにスライス切断し、所定の焼成(乾燥)を行い、シュガータイプ及びガーリックタイプのラスクを製出したものである。
【0024】
前記の製出されたラスクの蛋白含有量も、第一実施形態と同様に乾パンの蛋白含有量に対して1/10の低蛋白ラスクが製出されたものである。
【0025】
次に本発明の第三実施形態について説明する。第三実施形態は、生地主成分として蛋白質を殆ど含有しない小麦粉澱粉(小麦澱粉の他、馬鈴薯澱粉や米澱粉等の適宜な澱粉を使用することもできる)に、図3に示した比率でα化澱粉(粳米α粉やその他のアルファ化澱粉)を加え、更に図3で示した添加物を、粉状生地100に対する所定重量比率で添加混合して生地とするもので、基本的には第一実施形態と同様である。
【0026】
図3の材料表の通り生地を作成し、同図に示した発酵条件、ホイロ工程、焼成条件によって常法通りの製パンを行う。
【0027】
製出されたパンは、放冷し前記第一実施形態と同様に、0.8〜1cmの厚さにスライス切断し、ガーリックススプレット等で味付けをし、所定の焼成(乾燥:上下150℃、30分)を行い、低蛋白ラスクを製出したものである。
【0028】
前記の製出されたパンの蛋白含有量は、0.8%であった。五訂食品成分表に記載されている市販乾パンの蛋白含有量9.3%に比較して1/10以下となり、しかも小麦粉を全く使用しないものであるから、小麦アレルギーの患者にも対応できるパンを提供できたものである。
【0029】
第一、二、三実施形態の低蛋白ラスクは、健常者が食する通常のラスクに比較して、やや食感が硬いが、食味は良好で、通常のラスクに劣ることなく美味であった。
【0030】
本発明は前記各実施形態に限定されず、低蛋白パンの製出においては、例えば使用する澱粉やα化澱粉の種別は任意であるし、またその添加比率は適宜選択できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の第一実施形態の使用材料表及び工程表。
【図2】本発明の第二実施形態の使用材料表及び工程表。
【図3】本発明の第三実施形態の使用材料表及び工程表。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低蛋白米粉又は低蛋白米粉と小麦澱粉を主成分とした粉生地に、少なくとも粉生地量に対して膜形成材として1.5%重量以上の増粘多糖類を加えた生地で、常法通りの製パンを行って製出した低蛋白パンを、所定時間放冷し、適宜な厚さにスライス切断し、常法通りに中が乾燥するまでトーストしてなることを特徴とする低蛋白ラスクの製造方法。
【請求項2】
生地に、硬化抑制材として、適宜量のα化澱粉(α化低蛋白米粉又は粳米α粉)と、βアミラーゼを添加してなる請求項1記載の低蛋白ラスクの製造方法。
【請求項3】
澱粉を主成分とした粉生地に、少なくとも粉生地量に対して膜形成材として1.5%重量以上の増粘多糖類と、硬化抑制材としての適宜量のα化澱粉及びβアミラーゼを添加した生地で、常法通りの製パンを行って製出した低蛋白パンを、所定時間放冷し、適宜な厚さにスライス切断し、常法通りに中が乾燥するまでトーストしてなることを特徴とする低蛋白ラスクの製造方法。
【請求項4】
低蛋白米粉又は低蛋白米粉と小麦澱粉を主成分とした粉生地に、少なくとも粉生地量に対して膜形成材として1.5%重量以上の増粘多糖類を加えた生地で製出した低蛋白パンを、適宜な厚さにスライス切断し、トーストによる乾燥処理を施して製出したことを特徴とする低蛋白ラスク。
【請求項5】
生地に、硬化抑制材として、適宜量のα化澱粉(α化低蛋白米粉又は粳米α粉)と、βアミラーゼを添加してなる請求項3記載の低蛋白ラスク。
【請求項6】
澱粉を主成分とした粉生地に、少なくとも粉生地量に対して膜形成材として1.5%重量以上の増粘多糖類と、硬化抑制材としての適宜量のα化澱粉及びβアミラーゼを添加した生地で、常法通りの製パンを行って製出した低蛋白パンを、所定時間放冷し、適宜な厚さにスライス切断し、トーストによる乾燥処理を施して製出したことを特徴とする低蛋白ラスク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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