説明

低蛋白玄米及びその製造方法

【課題】 食物繊維やビタミン等が豊富である玄米の利点をそのまま維持して低蛋白化を行い、低蛋白の玄米ご飯とすることができる低蛋白玄米を提供する。
【解決手段】 玄米を精白率0.1〜2%程度の搗精を行って玄米表皮に傷を付けた後、除菌洗浄を行い、殺菌清浄玄米を、乳酸菌(乳酸菌の単独使用又はヘテロ発酵乳酸菌とホモ発酵乳酸菌の組み合わせ使用)と蛋白分解酵素含有の仕込み液により、嫌気状態で所定時間発酵処理を行い、発酵処理後に水洗して余剰物を除去し、更に低温水で水洗冷却して製出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低蛋白処理を行った玄米及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に玄米には蛋白質が7〜8%含まれている。搗精してもその減少率がゆるやかで、搗精歩留り60%に搗精した米にも4〜5%は残ってしまう。そこで、腎臓病患者や所定の蛋白アレルギー患者などの飲食用として、残存蛋白質を低減した低蛋白米(精白米)が提供されていた。
【0003】
この残存蛋白質の低減手段として、特定の精白処理(特許文献1:特開平11−9203号公報)、蛋白分解酵素による蛋白分解処理(特許文献2:特開平9−65840号公報)、乳酸発酵による低蛋白化(特許文献3:特開平6−217719号公報)、酵素処理と乳酸発酵処理の併用(特許文献4:特開平6−303925号公報)などが提案されている。
【0004】
更に詳細に説明すると、特許文献1には、原料玄米から、果皮及び種皮の全部と、主として米粒側面部の胚乳とを除去し、更にこれを水洗し、乾燥させて低蛋白米を得る手段が開示され、特許文献2には、蛋白質分解酵素による蛋白質分解処理と、アルカリ浸漬による処理の両方を組み合わせ、酵素分解単独で分解を行う時よりも蛋白質の除去率が上昇し、また官能的にすぐれた低蛋白質米を製造することができることが開示されている。
【0005】
また特許文献3には、米粒表面の雑菌を除去した水洗米を、嫌気的条件で乳酸菌の発酵適温を維持して1日〜7日発酵させ、低蛋白米を得ることが開示されており、特許文献4には、水洗いした原料米を、糖類、プロテアーゼ、乳酸菌を分散した浸漬水と共に混合し、乳酸発酵を行って低蛋白米を得る手段が開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開平11−9203号公報。
【特許文献2】特開平9−65840号公報。
【特許文献3】特開平6−217719号公報。
【特許文献4】特開平6−303925号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記の低蛋白米は、すべて精白米に対する処理によって製出したものである。一方玄米は、食物繊維量が精白米に比較して6倍と多く、そのほかミネラルやビタミン類の含有量も多いが、蛋白質の含有量が多く、そして玄米の低蛋白処理はなされていなかった。しかも玄米は表皮の内側に好気性芽胞菌等の雑菌による汚染がひどく、蛋白分解酵素による低蛋白化処理した玄米をパックご飯に加工しても、前記の芽胞菌等の雑菌による汚染が解消されない虞がある。
【0008】
そこで本発明は、乳酸発酵処理による玄米の低蛋白化手段を提案したものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る低蛋白玄米及びその製造方法は、玄米を精白率0.1〜2%の搗精を行って玄米表皮に傷を付けた後、除菌洗浄を行い、清浄玄米を、乳酸菌又は乳酸菌と蛋白分解酵素含有の仕込み液により、所定期間嫌気状態で発酵処理を行い、発酵処理後に水洗して余剰物を除去し、更に低温水で水洗冷却して製出したことを特徴とするものである。
【0010】
即ち玄米を精白率0.1〜2%の搗精を行うと玄米表皮に傷がつき、この結果玄米の胚乳部に乳酸菌や酵素が侵入し易くなって乳酸発酵や酵素による蛋白分解がなされ、玄米の利点を損なうことなく低蛋白化を実現すると共に、乳酸発酵による表皮の軟化並びに表皮の浮き上がりによって、口当たりの良い玄米となる。
【0011】
また特に本発明は、前記乳酸菌発酵において、ヘテロ発酵乳酸菌とホモ発酵乳酸菌を組み合わせて使用することを特徴とするものである。
【0012】
即ちホモ発酵においては、乳酸産生能が高く、発酵初期に急速にpHを低下させて、酸性プロテアーゼの活性が高くなる至適pH域となり、蛋白質分解が促進されるし、pHの急激な低下は、他の雑菌の繁殖を抑制することが期待できる。
【0013】
またヘテロ発酵においては、乳酸産生能が低いが二酸化炭素が放出されることになり、発酵タンク内が早期に嫌気状態となり、且つヘテロ発酵乳酸菌が糠部分に入り込んで発酵して二酸化炭素を産生するので、糠と胚乳部分の間に空隙を作り易く、酵素や乳酸菌の侵入が促進され、当該箇所での乳酸発酵並びに蛋白分解処理が効率的になされる。更にエタノールを産生することによって比較的乳酸に耐性のある好気性細菌の増殖を抑えることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、前記の通りで、食物繊維やビタミン等が豊富である玄米の利点をそのまま維持して低蛋白化を実現できたもので、そのまま低蛋白玄米とし、或いは炊飯処理をして低蛋白玄米ご飯として提供できるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
次に本発明の実施形態について説明する。実施形態に示した製造工程は、原料玄米に対して搗精処理、除菌洗浄処理、発酵処理、除去洗浄処理、冷却処理の順でなされるものである。
【0016】
搗精処理は、玄米の表面に傷を付けることが目的で、0.1〜2%(下記の実施例では0.5%とした)の搗精を行うものである。そしてこの表皮(果皮及び種皮)に傷を付けた玄米の除菌洗浄処理を行う。
【0017】
除菌洗浄処理は、精白処理玄米を60〜100℃に加熱したクエン酸水溶液に入れて攪拌し、玄米に混じった夾雑物や玄米表面に付着した雑菌や汚れを除去するものである。具体的には、70(第1,2実施例)〜100(第3,4実施例)℃の0.2%クエン酸液に玄米を入れて3分間撹拌し、その後水切り(1分間)を行い、更にオーバーフロー状態で水洗してゴミ等を洗い流し、再度水切り(1分間)を行った。
【0018】
発酵処理は、浸漬処理、一次仕込み、一次発酵、液切り、二次仕込み、二次発酵、液切りの順でなされる。尚浸漬処理、再仕込み、再発酵は、玄米の状態や意図する低蛋白玄米の状態に対応して任意に選択実施するものである。
【0019】
前記発酵処理に使用する乳酸菌は、ホモ型でもヘテロ型の何れでも使用することができ、例えば「ストレプトコッカス ラクティス」「ストレプトコッカス クレモリス」「ストレプトコッカス フェカリス」等のストレプトコッカス属の菌、「レコノストック メセンテロイデス」等のレコノストック属の菌、「ラクトバチルス ブルガリア」「ラクトバチルス アシドフィルス」「ラクトバチルス デルブルエッキィ」「ラクトバチルス プランタルム」等のラクトバチルス属の菌、「スホロラクトバチルス イヌリナス」等のスホロラクトバチルス属の菌等が使用対象となる。
【0020】
本発明の実施例として、「ラクトバチルス プランタルム:Lactobacillus plantarum(KT株)」を単独使用した第一実施例(「KT株区」と表示)、「ラクトコッカス ラクテス:Lactococcus lacts(Cu−1株)」を単独使用した第二実施例(「Cu−1株区」と表示)、「レコノストック メセンテロイデス:Leconostoc mesenteroides(MP4A株)」と前記KT株との組み合わせ使用とした第三実施例(「MP4A株区」と表示)、MP4A株とKT株の混合使用とした第四実施例(「MP4A+KT株区」と表示)を実施した。
【0021】
また酵素としては、各種プロテアーゼ(蛋白分解酵素)を使用するもので、これらのプロテアーゼとしては、植物に起源を有する植物性蛋白分解酵素、温血動物の膵臓から分泌される酵素、パンクレアチンより得るもの、その他動物を起源とする動物性蛋白分解酵素、放射菌プロテアーゼや麹菌プロテアーゼのような微生物生産蛋白分解酵素などが使用できる。特に酸性プロテアーゼが望ましい。
【0022】
浸漬処理は、発酵処理仕込み液の2〜3倍濃度の浸漬液に2〜3時間浸漬して、乳酸菌や酵素を玄米内部に浸透しやすくするために行うものである。具体的には、図2の表のとおりの浸漬液を使用し、所定時間浸漬した。
【0023】
一次発酵は、前記の浸漬液に仕込み液(希釈を行う水)を加えて、密封状態で第一実施例は37℃、第2〜4実施例では30℃で3日間の一次発酵を行う。発酵液は、乳酸菌が1×10〜1×10個/mlの範囲が好ましく、また酵素は0.01〜1.0重量%の範囲が好ましい。
【0024】
一次発酵を終了すると、発酵液の液切りを行い、二次仕込み液に浸漬密封して、第一実施例では37℃、第2〜4実施例では30℃で一晩(18時間)の発酵を行った。
【0025】
前記の発酵処理において、図3の表のとおり液切り後の発酵液pHと乳酸菌及び他の菌類に関して測定した結果、発酵液のpH低下から充分な乳酸発酵がなされたこと、発酵液の微生物測定から第1,2実施例は乳酸菌以外の菌が検出されず、第3,4実施例は僅かに検出されたに過ぎないことから、乳酸菌が優占種となって、他の雑菌の繁殖が抑えられたことが確認できた。
【0026】
発酵処理の後には、除去洗浄処理を行うもので、除去洗浄処理は、流水で3時間の洗浄を行い、発酵中に生じた有機酸などの発酵生成物や除去された蛋白分解物質を洗い流すものである。
【0027】
除去洗浄処理を行った後冷却処理を行う。冷却処理は0〜10℃の清浄水に浸漬して発酵玄米の発酵を完全に停止させるものである。
【0028】
そして前記の低蛋白玄米は、そのまま水分調整を行って粒状の低蛋白玄米として流通させても良いし、以下のとおりパックご飯に加工しても良い。
【0029】
パックご飯への加工は、トレーに1食分(114g)の発酵玄米を充填し、蒸し器で10分間の蒸しを行い、更に80mlのお湯(70℃)を加え、再度蒸し器で20分間の蒸しを行い、熱い状態で密封とし、更に85℃の恒温水槽に30分漬けて殺菌を行い、その後放冷する。
【0030】
前記のバックご飯(玄米ご飯)の蛋白質含有量を通常の玄米を炊飯したご飯と比較すると図4の表のとおりで、約1/3以下まで減少した。特に乳酸菌の単独使用に比較して、 ヘテロ発酵乳酸菌とホモ発酵乳酸菌を組み合わせて使用した場合が、より以上の低蛋白化が実現するものである。
【0031】
更にその官能試験を行った結果「KT株区」及び「Cu−1株区」のご飯は、ともに、やや後味に酸味が残り、僅かに酸臭がする、ご飯の硬さは丁度良い、との結果が得られた。また「MP4A株区」においては、ご飯は柔らかく、酸味及び酸臭は感じなかった、「MP4A+KT株区」においは、ご飯は柔らかく、少し酸味酸臭を感じた、との結果を得た。
【0032】
以上の実施例から、玄米であっても充分低蛋白化が可能であり、しかも玄米ご飯として充分に喫食することができるものである。
【0033】
尚ヘテロ発酵乳酸菌とホモ発酵乳酸菌を組み合わせる場合は、前記第三、四実施例に限定されるものではなく、二次発酵の繰り返し発酵に際して、異なる乳酸菌を採用するようにしても良いし、一方の乳酸菌を使用して発酵処理を行った後、他方の乳酸菌を添加して、再度発酵処理を行うようにしても良い。勿論全ての発酵に際して混合使用するようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の実施形態の製造工程の説明図。
【図2】同発酵処理時の仕込み液などの配合表。
【図3】同発酵終了時の仕込み液の分析表。
【図4】同玄米ご飯の分析表。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
玄米を精白率0.1〜2%の搗精を行って玄米表皮に傷を付けた後、除菌洗浄を行い、除菌清浄玄米を、乳酸菌と蛋白分解酵素含有の仕込み液により、嫌気状態で発酵処理を行い、発酵処理後に水洗して余剰物を除去し、更に低温水で水洗冷却してなることを特徴とする低蛋白玄米の製造方法。
【請求項2】
発酵処理を30〜40℃下で、1〜6日間嫌気状態で行い、発酵処理して余剰物を除去した後の水洗冷却を、0〜10℃の低温水で行う請求項1記載の低蛋白玄米の製造方法。
【請求項3】
発酵処理仕込み液の2〜3倍濃度の浸漬液に2〜3時間浸漬した後、所定の発酵を行ってなる請求項1又は2記載の低蛋白玄米の製造方法。
【請求項4】
仕込み液を取り替えて発酵を複数回繰り返してなる請求項1乃至3記載の何れかの低蛋白玄米の製造方法。
【請求項5】
ヘテロ発酵乳酸菌とホモ発酵乳酸菌を組み合わせて使用する請求項1乃至4記載の何れかの低蛋白玄米の製造方法。
【請求項6】
浸漬液に使用する乳酸菌と発酵に使用する乳酸菌を異ならせて、ヘテロ発酵乳酸菌とホモ発酵乳酸菌の組み合わせ使用を実現する請求項5記載の低蛋白玄米の製造方法。
【請求項7】
仕込み液を取り替えて発酵を複数回繰り返す際に、ヘテロ発酵乳酸菌とホモ発酵乳酸菌の各単独使用によって、組み合わせ使用を実現する請求項5記載の低蛋白玄米の製造方法。
【請求項8】
ヘテロ発酵乳酸菌若しくはホモ発酵乳酸菌のいずれかを含有させた仕込液で発酵を行った後、他方の乳酸菌を添加して、再度発酵を行う請求項5記載の低蛋白玄米の製造方法。
【請求項9】
玄米を精白率0.1〜2%の搗精を行って玄米表皮に傷を付けて除菌洗浄を行い、除菌清浄玄米を、乳酸菌と蛋白分解酵素含有の仕込み液により、所定の期間嫌気状態で静置してなる発酵処理を行い、発酵処理後に水洗して余剰物を除去し、更に低温水で水洗冷却して製出したことを特徴とする低蛋白玄米。
【請求項10】
乳酸菌による発酵処理に際して、ヘテロ発酵乳酸菌とホモ発酵乳酸菌を組み合わせて使用した請求項9記載の低蛋白玄米。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−166767(P2006−166767A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−362442(P2004−362442)
【出願日】平成16年12月15日(2004.12.15)
【出願人】(595093049)株式会社バイオテックジャパン (15)
【Fターム(参考)】