説明

低複屈折性樹脂組成物

【課題】 本発明の目的は厚膜成形が可能であり、耐衝撃性に優れ、射出成型機やシート成型機を用いて厚さ2mmの板状に成形した時にも低複屈折性である樹脂組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】 (メタ)アクリレート(a1)を必須構成モノマーとする熱可塑性樹脂(A)、芳香族環含有ポリエステル樹脂(B)、および合成ゴム(C)を必須成分として含有し、光弾性係数の絶対値が7.0×10−12Pa−1以下であることを特徴とする樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は耐衝撃性に優れ複屈折率が低い樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶ディスプレイなどによる情報の画面表示、光ディスクによる情報記録、レーザー光学系による光ディスクへの書き込み・消去、レーザープリンターなどによる情報印刷、光ファイバーによる情報伝送など多くの分野で光学部品が使用されている。従来のガラス系材料に比べて、軽量性や耐衝撃性、成形性に優れることから、光学部品の材料として光学樹脂材料が用いられているが、成型時に起きる分子配向により複屈折が生じ、光学部品としての機能を損なう場合があり、複屈折のない光学樹脂材料が望まれている。
【0003】
複屈折を低減させる手段として種々の提案がされている。例えば、透明樹脂に層状珪酸塩を分散させる方法(例えば、特許文献1);透明樹脂に、この透明樹脂とは逆符号の固有複屈折率を有する低分子物質を添加する方法(例えば、特許文献2);ノルボルネン系樹脂に、ノルボルネン系樹脂とは逆符号の固有複屈折率を示す重合体を与える単量体でグラフト変性する方法(例えば、特許文献3)などが挙げられる。
【特許文献1】特開2005−146169号公報
【特許文献2】特開平8−110402号公報
【特許文献3】特開2001−318202号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら特許文献2、3の方法では、光学成形品および光学成形品に必要な耐衝撃性が不十分である。また、特許文献1、3の方法では射出成型機やシート成型機を用いて0.5mm以上の比較的厚目の板状に成形したときには十分に複屈折を低減できない。
【0005】
本発明の目的は厚膜成形が可能であり、耐衝撃性に優れ、射出成型機やシート成型機を用いて厚目の板状に成形した時にも低複屈折性である樹脂組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明は、(メタ)アクリレート(a1)を必須構成モノマーとする熱可塑性樹脂(A)、芳香族環含有ポリエステル樹脂(B)、および合成ゴム(C)を必須成分として含有し、光弾性係数の絶対値が7.0×10−12Pa−1以下であることを特徴とする樹脂組成物(D);並びにこの樹脂組成物(D)を成形して得られる光学成形品または光学フィルムである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の樹脂組成物は、射出成型機やシート成型機を用いて厚目の板状(例えば0.5〜2mm程度の厚さ)に成形することが要求される用途においても耐衝撃性に優れ、透明性を損ねることなく、可視光全域を含む広帯域で複屈折が低い光学成形品の提供が可能になるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の樹脂組成物は、(メタ)アクリレート(a1)を必須構成モノマーとする熱可塑性樹脂(A)、芳香族環含有ポリエステル樹脂(B)、および合成ゴム(C)を必須成分として含有し、その光弾性係数の絶対値は7.0×10−12Pa−1以下である。
【0009】
本発明の第1の必須成分である熱可塑性樹脂(A)は、(メタ)アクリレート(a1)が必須構成モノマーであり、(a1)のホモポリマー、2種以上の(a1)同士の共重合体、および(a1)と共重合が可能なモノマーとの共重合体が挙げられる。
(a1)と共重合が可能なモノマーとしては、スチレン系モノマー(a2)、(メタ)アクリル酸(a3)、不飽和多塩基酸無水物(a4)、および不飽和多塩基酸(a5)があげられる。
【0010】
(メタ)アクリレート(a1)としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸シクロヘキシル等が挙げられる。
これらのうち、好ましくはメタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチルであり、特に好ましいのは、メタクリル酸メチルである。これらは単独または2つ以上を同時に使用することができる。
【0011】
スチレン系モノマー(a2)としては、スチレン、α−メチルスチレン、α−エチルスチレン等があげられ、そのうち、特に好ましいのはスチレンである。これらは単独または2つ以上を同時に使用することができる。
【0012】
(メタ)アクリル酸(a3)としては、アクリル酸、メタクリル酸があげられる。
【0013】
不飽和多塩基酸無水物(a4)としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水アコニット酸等挙げられる。
これらのうち、特に好ましいのは無水マレイン酸である。これらは単独または2つ以上を同時に使用することができる。
【0014】
不飽和多塩基酸(a5)としては、マレイン酸、イタコン酸、アコニット酸等があげられる。
【0015】
熱可塑性樹脂(A)は、モノマーを必要により溶剤で希釈した後、ラジカル重合開始剤によって重合を行うことで得ることができる。
【0016】
溶剤としては、グリコールエーテル類(エチレングリコールモノアルキルエーテルおよびプロピレングリコールモノアルキルエーテルなど)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンおよびシクロヘキサノンなど)、およびエステル類(ブチルアセテート、エチレングリコールアルキルエーテルアセテートおよびプロピレングリコールアルキルエーテルアセテートなど)が挙げられる。溶剤のうち好ましいのはケトン類およびエステル類である。
溶剤を使用する場合、その使用量は特に限定されない。
【0017】
重合開始剤としては、過酸化物及びアゾ化合物が挙げられる。
過酸化物としては、無機過酸化物(例えば、過酸化水素、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウムなど)、および有機過酸化物(例えば、過酸化ベンゾイル、ジ−t−ブチルパーオキサイド、クメンヒドロパーオキサイド、ラウリルパーオキシドなど)などが挙げられる。
【0018】
アゾ化合物としては、アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、アゾビスシアノ吉草酸およびその塩(例えば塩酸塩など)、およびアゾビス(2−アミジノプロパン)ハイドロクロライドなどが挙げられる。好ましいものとしては、アゾ化合物である。重合開始剤の使用量としては、モノマーの合計重量に基づいて、通常、0.0001〜20%が好ましく、さらに好ましくは0.001〜15%、特に好ましくは0.005〜10%である。反応温度および反応時間は、ラジカル重合開始剤の種類により適宜決定される。
【0019】
溶剤を使用して重合して得られた樹脂(A)の溶液は、加熱して溶剤を除去するか、もしくは大量の沈殿溶剤を加えて樹脂成分を沈殿させ取り出して乾燥させるなどの通常の精製方法で(A)を得ることができる。
【0020】
熱可塑性樹脂(A)の重量平均分子量は通常20,000〜200,000であり、好ましくは25,000〜150,000、特に好ましいのは30,000〜100,000である。重量平均分子量が20,000未満では耐衝撃性が低下し、200,000を超えると透明性が低下する。
【0021】
熱可塑性樹脂(A)の分子量の測定は、試料をテトラヒドロフラン(THF)に溶解し、不溶解分をグラスフィルターでろ別したものを試料溶液とし、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、例えば以下の条件で測定される。
装置: 東ソー(株)製 HLC−8120
カラム: TSKGEL GMH62本 〔東ソー(株)製〕
測定温度 :40℃
試料溶液 :0.25重量%のTHF溶液
溶液注入量:100μl
検出装置 :屈折率検出器
基準物質 :東ソー製 標準ポリスチレン(TSKstandard POLYSTYRENE)12点 (分子量1050 28005970 910018100 3790096400 190000355000 10900002890000 4480000)
【0022】
本発明の第2の必須成分であるポリエステル樹脂(B)は、芳香族環を含有するものであり、ポリカルボン酸(b1)とジオール(b2)から形成される重縮合体であり、(b1)、(b2)のうち少なくとも1つが主鎖中に芳香環を有していることが必要である。
【0023】
ポリカルボン酸(b1)としては、脂肪族ジカルボン酸(b11)、芳香族ポリカルボン酸(b12)、芳香族ポリカルボン酸の無水物(b13)、不飽和カルボン酸のビニル重合体(b14)などが挙げられる。
【0024】
脂肪族ジカルボン酸(b11)としては、炭素数4〜24、例えば、シュウ酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、スバリン酸、ドデカン二酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸およびメサコン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、シクロヘプタンジカルボン酸、シクロヘキセンジカルボン酸、シクロヘプテンジカルボン酸等が挙げられる。
【0025】
芳香族ポリカルボン酸(b12)としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’−ベンゾフェノンジカルボン酸、4,4’−ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルスルホンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などのジカルボン酸;トリメリット酸、ピロメリット酸等などのトリカルボン酸が挙げられる。
【0026】
芳香族ポリカルボン酸の無水物(b13)としては、炭素数9〜20、例えば無水トリメリット酸および無水トリメリット酸が挙げられる。
不飽和カルボン酸のビニル重合体(b14)としては、スチレン/マレイン酸共重合体、スチレン/アクリル酸共重合体、およびスチレン/フマル酸共重合体等が挙げられる。
【0027】
ポリカルボン酸(b1)は、(b11)〜(b14)のポリカルボン酸のアルキル(炭素数1〜24)エステルとして添加してもよい。
【0028】
ジオール(b2)としては、脂肪族ジオール(b21)、芳香族ジオール(b22)、ビスフェノール類のアルキレンオキサイド(以下、AOと略記する。)付加物(b23)、ビフェニル類のAO付加物(b24)が挙げられる。
【0029】
脂肪族ジオール(b21)としては、炭素数2〜24、例えば、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,6−シクロヘキサンジメタノールおよびこれらのAO付加物が挙げられる。
【0030】
芳香族ジオール(b22)としては、炭素数8〜24、例えば、1,2−ジフェニルエタン−1,2−ジオール、1,1,2,2,−テトラフェニルエタン−1,2−ジオール、ベンゼン−1,2−、−1,3−および−1,4−ジメタノール、およびこれらのAO付加物が挙げられる。
【0031】
ビスフェノール類のAO付加物(b23)としては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ビスフェノールAP、テトラメチルビスフェノールAおよび4,4’−ジヒドロキシジフェニル−2,2−ブタンのAO付加物が挙げられる。
【0032】
ビフェニル類のAO付加物(b24)としては、例えば、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシビフェニルのAO付加物が挙げられる。
【0033】
アルキレンオキサイド(AO)としては、炭素数2〜4のアルキレンオキサイド、例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド及びブチレンオキサイドが挙げられる。これらのうち好ましいのは、エチレンオキサイド及びプロピレンオキサイドである。アルキレンオキサイドの付加モル量は、一つの水酸基に対して、好ましいのは1〜5モルであり、更に好ましいのは1〜3モルである。1モル以上であると耐衝撃性の点で優れ、3モル以下であると複屈性の点で優れる。
【0034】
本発明の芳香族環を含有するポリエステル樹脂(B)は、主鎖中に芳香環を有していることが必要であるが、芳香族環は、ポリカルボン酸(b1)中に含有していても、ジオール(b2)中に含有していても、あるいはその両方に含有していてもよい。
主鎖ではなく側鎖にのみ含有している場合は複屈折性の点で問題がある。
【0035】
本発明のポリエステル樹脂(B)は、熱可塑性樹脂(A)との複屈折性と透明性の観点から、脂肪族ジオール(b22)と芳香族ジカルボン酸(b12)から形成される重縮合体、ビスフェノール類のAO付加物(b23)と芳香族ジカルボン酸(b12)から形成される重縮合体が好ましい。
さらに好ましくは、ビスフェノール類のAO付加物(b23)と芳香族ジカルボン酸(b12)から形成される重縮合体である。
特に好ましくは、ビスフェノールAのAO付加物とテレフタル酸から形成される重縮合体である。
【0036】
本発明においてポリエステル樹脂(B)は、通常のポリエステル製造法と同様にして製造することができる。
例えば、不活性ガス(窒素ガス等)雰囲気中で、反応温度が好ましくは150〜280℃、さらに好ましくは160〜250℃、とくに好ましくは170〜235℃で反応させることにより行うことができる。また反応時間は、重縮合反応を確実に行う観点から、好ましくは30分以上、とくに2〜40時間である。
【0037】
このとき必要に応じてエステル化触媒を使用することもできる。
エステル化触媒の例には、スズ含有触媒(例えばジブチルスズオキシド)、三酸化アンチモン、チタン含有触媒〔例えばチタンアルコキシド、シュウ酸チタン酸カリウム、テレフタル酸チタン、テレフタル酸チタンアルコキシド、およびチタニウムジヒドロキシビス(トリエタノールアミネート)とその分子内重縮合物〕、ジルコニウム含有触媒(例えば酢酸ジルコニル)、および酢酸亜鉛等が挙げられる。
反応末期の反応速度を向上させるために減圧することも有効である。
【0038】
ポリオール成分とポリカルボン酸成分との反応比率は、水酸基とカルボキシル基の当量比[OH]/[COOH]として、好ましくは2/1〜1/2、さらに好ましくは1.5/1〜1/1.3、とくに好ましくは1.3/1〜1/1.2である。
【0039】
熱可塑性樹脂(B)の重量平均分子量は1,000〜20,000であり、好ましくは2,000〜15,000、特に好ましいのは2,500〜10,000である。重量平均分子量が1,000未満では耐衝撃性が低下し、20,000を超えると透明性が低下する。
【0040】
熱可塑性樹脂(B)の分子量の測定も、試料をテトラヒドロフラン(THF)に溶解し、不溶解分をグラスフィルターでろ別したものを試料溶液とし、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、前述の熱可塑性樹脂(A)と同じ条件で測定される。
【0041】
該熱可塑性樹脂(A)と芳香族環含有ポリエステル樹脂(B)の重量比(A)/(B)は複屈折性と透明性の観点から、好ましくは5〜100、さらに好ましくは6〜50である。
【0042】
本発明の第3の必須成分である合成ゴム(C)としてはアクリルゴム、ニトリルゴム、イソプレンゴム、ウレタンゴム、エチレンプロピレンゴム、エピクロルヒドリンゴム、クロロプレンゴム、シリコーンゴム、スチレンブタジエンゴム、フッ素ゴム、ブチルゴムなどが挙げられる。
透明性の観点から好ましいのは、少なくともブタジエンとスチレンを必須構成モノマーとする2元または3元以上の共重合体である。
【0043】
本発明の合成ゴム(C)は耐衝撃性の観点から微粒子状であることが望ましい。
さらに、透明性の観点から、合成ゴム(C)の微粒子の粒子径は好ましくは0.5μm以下、さらに好ましくは0.3μm以下、特に好ましくは0.15μm以下である。
【0044】
合成ゴム(C)の含有量は耐衝撃性と透明性の観点から、好ましくは1〜50重量%、さらに好ましくは3〜40%、特に好ましくは5〜30%である。
【0045】
透明性の観点から、本発明の樹脂組成物(D)から合成ゴム(C)を除いた樹脂混合物の屈折率と合成ゴム(C)の屈折率との屈折率差が0.01以下であることが望ましい。
【0046】
本発明の樹脂組成物(D)は、必要により(メタ)アクリレート(a1)を必須構成モノマーとする熱可塑性樹脂(A)以外の熱可塑性樹脂(A’)を、本発明の効果を損なわない範囲で(A)と併用することができる。
本発明の樹脂組成物(D)は、必要により芳香族環含有ポリエステル樹脂(B)以外のポリエステル樹脂(B’)を、本発明の効果を損なわない範囲で(B)と併用することができる。
【0047】
(メタ)アクリレート(a1)を必須構成モノマーとしないが(A)と併用できる熱可塑性樹脂(A’)としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリスチレン、スチレン(無水)マレイン酸共重合体、スチレンアクリロニトリル共重合体等のスチレン系樹脂、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアセタール等の熱可塑性樹脂、およびフェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂などが挙げられる。
芳香族環を含有しないポリエステル樹脂(B’)としては脂肪族ポリエステルが挙げられる。
【0048】
さらに、本発明の効果を損なわない範囲内で、各種目的に応じて任意の添加剤を配合することができる。
添加剤の種類は,樹脂やゴム状重合体の配合に一般的に用いられるものであれば特に制限はない。
無機充填剤;酸化鉄等の顔料;ステアリン酸、ベヘニン酸、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、エチレンビスステアロアミド等の滑剤;離型剤;パラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、芳香族系プロセスオイル、パラフィン、有機ポリシロキサン、ミネラルオイル等の軟化剤・可塑剤;ヒンダードフェノール系酸化防止剤、リン系熱安定剤等の酸化防止剤;ヒンダードアミン系光安定剤;ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤;難燃剤;帯電防止剤;有機繊維、ガラス繊維、炭素繊維、金属ウィスカ等の補強剤;着色剤;その他添加剤或いはこれらの混合物等が挙げられる
【0049】
本発明の樹脂組成物(D)の光弾性係数の絶対値は、複屈折性の観点から、7.0×10−12Pa−1以下、さらに好ましくは5.0×10−12Pa−1以下である。
該熱可塑性樹脂(A)と芳香族環含有ポリエステル樹脂(B)の重量比(A)/(B)と合成ゴム(C)の含有量を上記の条件にすることで達成することができる。
【0050】
本発明の樹脂組成物の光弾性係数の絶対値は、樹脂組成物を厚さ100±0.3μmの試験片に熱プレスすることで成型し、様々な荷重を加えながら大塚電子社製LETS−100を用いて測定波長550nmにおけるリタデーションを測定する。
この測定結果から、荷重とリタデーションを軸とするグラフを作成し、その傾きから求めることができる。
【0051】
本発明の樹脂組成物の製造方法としては、
(1)(A)、(B)、(C)をそれぞれ全量溶融混合する方法、
(2)(A)に対して、少量の(B)〜(C)の少なくとも1種を溶融混合してマスターバッチを製造した後、(A)と溶融混合する方法
(3)(A)、(B)、(C)をアセトン等の有機溶剤に溶解または分散し混合した後、溶剤を留去する方法
などが挙げられる。
【0052】
溶融温度は(A)、(B)の溶融温度および分解温度の観点から、通常110〜330℃、好ましくは150〜300℃である。
【0053】
上記有機溶剤としては、例えば炭化水素、エーテル、セロソルブ、ケトン、アルコール、エステルおよびアミドが挙げられる。
溶解性および溶剤留去のし易さの観点から好ましいのは炭化水素、エーテル、アミドおよびケトン、さらに好ましいのは炭化水素およびケトンである。
【0054】
溶融混合装置としては、例えばバッチ混練機〔例えばバンバリー[商品名:Farrel(株)製]およびニーダー〕、連続混練機〔例えばFCM[商品名:Farrel(株)製]、LCM[商品名:(株)神戸製鋼所製]およびCIM[商品名:(株)日本製鋼所製]〕、単軸押出機および二軸押出機が挙げられる。
【0055】
本発明の光学成形品は、上記の樹脂組成物を成形することにより得られる。
成形方法としては、例えば押出成形、射出成形、圧縮成形、トランスファー成形、スタンパブル成形、ブロー成形、延伸フィルム成形、積層成形およびカレンダー成形が挙げられる。
【0056】
本発明の光学フィルムは、上記の樹脂組成物を成形することにより得られる。
成形方法としては、例えば押出成形、キャスト成形、インフレーション成形が挙げられる。押出成形ではTダイ、円形ダイ等が装着された押出機等を用いて、未延伸フィルムを成形する。
また、キャスト成形では、前述の有機溶媒に上記の樹脂組成物を溶解した後、溶解液をシャーレ等に展開、溶媒を蒸発させ固化させることにより未延伸フィルムを得ることできる。
【0057】
この未延伸フィルムは、機械的流れ方向に縦一軸延伸する方法、機械的流れ方向に直交する方向に横一軸延伸する方法等によって一軸延伸フィルムを製造することができ、またロール延伸とテンター延伸の逐次二軸延伸法、テンター延伸による同時二軸延伸法、チューブラー延伸による二軸延伸法等によって二軸延伸フィルムを製造することができる。
本発明の光学フィルムの延伸温度は、該未延伸フィルムのガラス転移温度をTgとすると、Tg+5℃〜Tg+40℃である。延伸光学フィルムの透明性およびフィルムの厚み精度の観点から、Tg+5℃〜Tg+35℃であることがさらに好ましく、Tg+10℃〜Tg+30℃であることが最も好ましい。
【0058】
本発明の光学成型品および光学フィルムは通常0.01〜5mm、透明性と耐衝撃性の観点から、好ましくは0.01〜3mm、特に好ましくは0.02〜2mmである。
【実施例】
【0059】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下、特に定めない限り、%は重量%、部は重量部を示す。
【0060】
製造例1
冷却管、撹拌機、温度計および窒素導入管の付いた反応槽中にメタクリル酸メチル100部、n−ブチルメルカプタン0.3部、メチルエチルケトン200部およびベンゾイルパーオキサイド0.5部を加え、窒素ガスで充分置換したのち、少量の窒素ガスを通しながら70℃で6時間重合させた。冷却後、重合物を大量のヘキサン中に加え、沈澱したポリマーをろ過、100℃で乾燥し、本発明の熱可塑性樹脂(A−1)を得た。なお、得られた(A−1)の重量平均分子量は46,000であった。
【0061】
製造例2
冷却管、撹拌機、温度計および窒素導入管の付いた反応槽中にメタクリル酸メチル54部、無水マレイン酸33部、スチレン13部、n−ブチルメルカプタン0.3部、メチルエチルケトン200部およびベンゾイルパーオキサイド0.5部を加え、窒素ガスで充分置換したのち、少量の窒素ガスを通しながら70℃で6時間重合させた。冷却後、重合物を大量のヘキサン中に加え、沈澱したポリマーをろ過、100℃で乾燥し、本発明の熱可塑性樹脂(A−2)を得た。なお、得られた(A−2)の重量平均分子量は40,000であった。
【0062】
製造例3
冷却管、撹拌機、温度計および窒素導入管の付いた反応槽中にメタクリル酸メチル90部、スチレン10部、n−ブチルメルカプタン0.3部、メチルエチルケトン200部およびベンゾイルパーオキサイド0.5部を加え、窒素ガスで充分置換したのち、少量の窒素ガスを通しながら70℃で6時間重合させた。冷却後、重合物を大量のヘキサン中に加え、沈澱したポリマーをろ過、100℃で乾燥し、本発明の熱可塑性樹脂(A−3)を得た。なお、得られた(A−3)の重量平均分子量は62,000であった。
【0063】
製造例4
冷却管、撹拌機、温度計および窒素導入管の付いた反応槽中に、ビスフェノールA・プロピレンオキシド2モル付加物42部、テレフタル酸ジメチルエステル17部、合成触媒としてジブチル錫オキシド0.3部を入れ、210℃まで徐々に昇温しながら、窒素気流下で、生成するメタノール、水を留去しながら4時間反応させ、さらに5〜20mmHgの減圧下で反応させ、軟化点が90℃になった時点で常圧に戻し、180℃に冷却、冷却後、窒素気流下で無水トリメリット酸1.9部を加え、1.5時間反応させて、本発明の芳香族系ポリエステル樹脂(B−1)を得た。なお、得られた(B−1)の重量平均分子量は6,000であった。
【0064】
製造例5
冷却管、撹拌機、温度計および窒素導入管の付いた反応槽中に、ビスフェノールA・プロピレンオキシド2モル付加物56部、ビスフェノールA・プロピレンオキシド3モル付加物21.6部、テレフタル酸ジメチルエステル27部、コハク酸1部、合成触媒としてジブチル錫オキシド0.3部を入れ、210℃まで徐々に昇温しながら、窒素気流下で、生成するメタノール、水を留去しながら4時間反応させ、さらに5〜20mmHgの減圧下で反応させ、軟化点が90℃になった時点で常圧に戻し、180℃に冷却、冷却後、窒素気流下で無水トリメリット酸3.4部を加え、1.5時間反応させて、本発明の芳香族系ポリエステル樹脂(B−2)を得た。なお、得られた(B−2)の重量平均分子量は3,000であった。
【0065】
比較製造例1
冷却管、撹拌機、温度計および窒素導入管の付いた反応槽中にスチレン78部、無水マレイン酸22部、メチルエチルケトン200部およびアゾビスイソブチロニトリル0.2部を加え、窒素ガスで充分置換したのち、少量の窒素ガスを通しながら75℃で6時間重合させた。冷却後、重合物を大量のヘキサン中に加え、沈澱したポリマーをろ過し、100℃で乾燥し、比較のための熱可塑性樹脂(A’−1)を得た。なお、得られた(A’−1)の重量平均分子量は60,000であった。
【0066】
比較製造例2
冷却管、撹拌機および窒素導入管の付いた反応槽中に、1,4ブタンジオール99部、アジピン酸199部、合成触媒としてジブチル錫オキシド0.3部を入れ、210℃まで徐々に昇温しながら、窒素気流下で、生成する水を留去しながら4時間反応させ、さらに5〜20mmHgの減圧下で反応させて冷却し、比較のための脂肪族ポリエステル樹脂(B’−1)を得た。なお、得られた(B’−1)の重量平均分子量は3,000であった。
【0067】
比較製造例3
ノルボルネン系樹脂(ゼオノア1420R、日本ゼオン(株)製)30部にシクロヘキシルメタクリレート2.5部および1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン0.325部をドライブレンドし、プラストミルを用いて50rpmの回転速度の下、200℃で5分間混練して、比較例6に用いるグラフト変性ノルボルネン系樹脂(E−1)を得た。
【0068】
なお、本発明の合成ゴム(C−1)としてパラロイドBTA−771[ローム・アンド・ハースジャパン(株)製、メタクリル酸メチル・ブタジエン・スチレン樹脂の微粒子、粒子径0.08μm]、(C−2)としてカネエースB−11A[(株)カネカ製、メタクリル酸メチル・ブタジエン・スチレン樹脂の微粒子、粒子径0.11μm]を使用した。
【0069】
実施例1〜4、および比較例1〜6
(A−1)〜(A−3)、(A’−1)、(B−1)〜(B−2)、(B’−1)、(C−1)〜(C−2)、(E−1)を表1に示す配合量(重量部)に従ってヘンシェルミキサーで3分間ブレンドした後、ベント付き2軸押出機にて、210℃、50rpm、滞留時間5分の条件で溶融混練してストランド状に押出し、ペレタイザーで切断して透明樹脂組成物ペレットを得た。
なお、各実施例と比較例の樹脂組成物の光弾性係数を表1に示す。
これらを用い、以下の条件で射出成形を行い、樹脂成型体を作製して透明性、耐衝撃性、複屈折性の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0070】
【表1】

【0071】
射出成形には、射出成形機として日精樹脂工業製PS40ESASEを用いた。
成形条件は240℃に樹脂を加熱し、80℃の金型へ射出し5秒間冷却後、成形品を取り出した。射出時の射出圧および射出速度は、充填不足や板の歪みが無い条件に適宜調整した。
以下に示す方法で、光弾性係数、透明性、耐衝撃性、複屈折性を測定・評価した。
【0072】
<光弾性係数>
樹脂組成物を厚さ100±0.3μmの試験片に熱プレスすることで成型し、様々な荷重を加えながら大塚電子社製LETS−100を用いて測定波長550nmにおけるリタデーションを測定した。この結果から荷重−リタデーショングラフを作成し、その傾きから光弾性係数(単位はPa−1)を求めた。
【0073】
<透明性>
樹脂組成物を厚さ2±0.2mmの試験片に射出成型した試験片をJIS K 7361−1に記載のシングルビーム法で全光線透過率を測定した。全光線透過率が85%以上であることを合格と判定した。
なお、透過率の測定には日本電色工業製、NDH−300Aを使用した。
【0074】
<耐衝撃性>
樹脂組成物を厚さ3.2±0.3mmの試験片に射出成型した試験片をJIS−K7110(ノッチ付)に準拠して衝撃強度を測定した。衝撃強度が2.5KJ/m以上であることを合格と判定した。
なお、衝撃強度の測定には保田精機製作所製、衝撃試験機258−Dを使用した。
【0075】
<複屈折性>
樹脂組成物を厚さ2±0.2mmの試験片に射出成型した試験片を大塚電子社製LETS−100を用いて測定波長550nmにおけるリタデーションを測定した。リタデーションが100nm以下であることを合格と判定した。
【0076】
表1から明らかなように、実施例1〜4では、透明性、耐衝撃性、複屈折性のいずれにおいても良好な性能を達成している。
一方、合成ゴム(C)を含んでいない比較例1では耐衝撃性不十分である。
芳香族環含有ポリエステル(B)を含んでいない比較例2は、透明性、複屈折性の点で問題がある。光弾性係数の絶対値が7.0×10−12Pa−1より大きい比較例3は複屈折性の点で問題がある。(メタ)アクリレート(a1)を構成モノマーとしていない熱可塑性樹脂(A’−1)を使用した比較例4は、複屈折性が不十分である。芳香族環含有ポリエステル(B)のかわりに脂肪族ポリエステル(B’−1)を使用した比較例5は、複屈折性の点で問題がある。 グラフト変性ノルボルネン系樹脂を使用した比較例6は耐衝撃性、複屈折性の点で問題がある。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の透明樹脂組成物を成型して得られる光学フィルムおよび光学成形品は、低複屈折性であり、かつ耐衝撃性に優れるため、各種光ディスク(VD、CD、DVD、MD、LD等)基板保護フィルム、偏光板保護フィルム、位相差フィルム、光拡散フィルム、視野角拡大フィルム、反射フィルム、反射防止フィルム、防眩フィルム、輝度向上フィルムなどのフィルム、光ピックアップレンズ、カメラ用レンズ、レンチキュラーレンズなどの光学レンズ、タッチパネル用基板、導光板などの光学基板などに有用である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリレート(a1)を必須構成モノマーとする熱可塑性樹脂(A)、芳香族環含有ポリエステル樹脂(B)、および合成ゴム(C)を必須成分として含有し、光弾性係数の絶対値が7.0×10−12Pa−1以下であることを特徴とする樹脂組成物(D)。
【請求項2】
粒子径が0.5μm以下である合成ゴム(C)の微粒子が分散している請求項1記載の樹脂組成物(D)。
【請求項3】
合成ゴム(C)が少なくともブタジエンとスチレンを必須構成モノマーとする共重合体である請求項1または2記載の樹脂組成物(D)。
【請求項4】
該熱可塑性樹脂(A)と芳香族環含有ポリエステル樹脂(B)の重量比(A)/(B)が5〜100である請求項1〜3いずれかに記載の樹脂組成物(D)。
【請求項5】
合成ゴム(C)の含有量が1〜50重量%である請求項1〜4いずれかに記載の樹脂組成物(D)。
【請求項6】
熱可塑性樹脂(A)の重量平均分子量が20,000〜200,000であり、芳香族環含有ポリエステル樹脂(B)の重量平均分子量が1,000〜20,000である請求項1〜5いずれかに記載の樹脂組成物(D)。
【請求項7】
請求項1〜6いずれかに記載の樹脂組成物(D)を成形して得られる成形品。
【請求項8】
請求項1〜6いずれかに記載の樹脂組成物(D)を成形して得られる学フィルム。

【公開番号】特開2011−105823(P2011−105823A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−260861(P2009−260861)
【出願日】平成21年11月16日(2009.11.16)
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)
【Fターム(参考)】