説明

低透過性布帛

【課題】 個々の繊維同士が過度に一体化することなく柔軟であって、しかも繊維同士が動いても繊維の密着関係が失われることがなく、長期に亙って透過性の抑制効果が損なわれることのない、低透過性布帛を提供する。
【解決手段】 弾性繊維成分4と非弾性繊維成分5とよりなり、弾性繊維成分4が表面に露出している複合繊維3により構成した。複合繊維3は非弾性繊維成分5を芯成分とし、弾性繊維成分4を鞘成分とする芯−鞘型複合繊維とするのが好ましい。
【効果】 布帛の流体の透過性が低く、且つ布帛として十分に柔軟であって、しかも布帛を揉んだり折り畳んだりすることにより透過性が変化することがない、極めて優れた低透過性布帛となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体に対して低い透過性を有する布帛に関するものであって、特に自動車用エアバッグ、フィルター、ホースなどの素材として、空気やガス、液体などの透過性を制限した布帛の構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に織物や編物、不織布などの布帛は、繊維の交差によって平面形状を維持しており、気体や液体などの流体に対して高い透過性を有し、その透過量は事実上無制限と考えてもよい程度に透過する。
【0003】
かかる布帛に対して流体の透過性を減少させるためには、通常各種のコーティングやライニングを施すことが行われるが、一部の用途においては、布帛のみにより流体の透過を抑制することも行われている。
【0004】
例えば消防用麻ホースは、麻繊維を筒状に織成したものであって、ライニングなどの処理は施されていないが、麻繊維が水を吸って膨潤することにより繊維の間隔が詰まり、漏水が大幅に抑制されて送水し得るものである。また麻布を使用した布バケツなども同じ原理に基づくものである。しかしながらこのものは流体が水に限定され、また麻繊維は水を吸って膨潤するため織物が固くなる。
【0005】
また他の方法として、特開平8−176932号公報や特開2002−181251号公報に示されるように、芯成分1の周囲を低融点成分である鞘成分2で取り巻いた芯−鞘構造の複合繊維3を使用して織物を形成し、これを織成後に加熱して鞘成分2を熔融させることにより、図1に示すように繊維同士を合体させ、透過性を抑制するものが知られている。
【0006】
しかしながらこのものは、繊維同士が互いに溶着して合体し、織物全体が一体化してしまうため、繊維同士が相互に動くことができなくなり、織物特有の柔軟性が損なわれ、極めて堅いものとなる。
【0007】
さらに特開平4−201646号公報に示されるように、芯−鞘構造の複合繊維3の鞘成分2として低融点成分を使用し、織成後に前記低融点成分が軟化する程度の温度に加熱して圧縮し、図2(a)に示すように繊維同士を圧着させて、透過性を抑制したものも知られている。
【0008】
このものは、図2(a)に示されるように芯−鞘複合繊維3の鞘成分2が軟化して圧着した状態では、流体の通り道が少なくなって透過性が抑制されるが、この織物が動かされると図2(b)に示すように繊維の圧着部分が剥がれ、透過性の抑制効果が失われてしまう。また繊維の圧着が容易に剥がれないように強固に圧着すれば、先に述べた図1の例と同様に極めて堅い織物となる。
【特許文献1】特開平8−176932号公報
【特許文献2】特開2002−181251号公報
【特許文献3】特開平4−201646号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明はかかる事情に鑑みなされたものであって、個々の繊維同士が過度に一体化することなく柔軟であって、しかも繊維同士が動いても繊維の密着関係が失われることがなく、長期に亙って透過性の抑制効果が損なわれることのない、低透過性布帛を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
而して本発明は、弾性繊維成分と非弾性繊維成分とよりなり、弾性繊維成分が表面に露出している複合繊維により構成したことを特徴とするものである。本発明においては、前記複合繊維が、前記非弾性繊維成分を芯成分とし、前記弾性繊維成分を鞘成分とする、芯−鞘型複合繊維であることが好ましい。
【0011】
また本発明の低透過性布帛においては、前記非弾性繊維成分が加熱により収縮する性質を有し、布帛が前記非弾性繊維成分が収縮する温度で加熱されているものとすることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、布帛を構成する複合繊維3が弾性繊維成分4と非弾性繊維成分5とよりなり、弾性繊維成分4が表面に露出しているので、布帛中において圧力がかかると、図3に示すように弾性繊維成分4同士が圧接するようになり、複合繊維3間の隙間を通して流体が透過することが減少する。
【0013】
また布帛が動いて個々の繊維の位置関係が変化した場合においても、複合繊維3同士は弾性的に接触しているだけであって一体化していないので、その位置関係を容易に変化させることができ、布帛の柔軟性は失われない。また繊維の位置が変化した後もその位置で新たな圧接関係が生じるため、低透過性が損なわれることもない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図3は本発明の布帛を構成する複合繊維3よりなる糸条を示すものであって、この例においては前記複合繊維3は、非弾性繊維成分5を芯成分とし、弾性繊維成分4を鞘成分とする芯−鞘複合繊維である。
【0015】
複合繊維3における非弾性繊維成分5としては、通常の合成繊維の成分を使用することができ、ポリエステル繊維、ナイロン繊維など、過度の伸長性や弾性を有しない繊維成分を使用することができる。
【0016】
またこの非弾性繊維成分5として、加熱により収縮する性質を有する素材を使用することも好ましいことである。通常市販されているポリエステル繊維やナイロン繊維も、その製造過程において延伸されているため、加熱することにより多かれ少なかれ収縮する性質を有している。
【0017】
而してこのような性質を有する非弾性繊維成分5を使用した複合繊維3で布帛を形成した後、この布帛を前記非弾性繊維成分5が収縮する温度で加熱することにより、当該非弾性繊維成分5が収縮することによって布帛の密度が高まり、透過性をさらに低いものとすることができる。
【0018】
また鞘成分としての弾性繊維成分4としては、通常の合成繊維に比べて十分に柔軟であって伸長性を有し、外力に対して大きな弾性変形をし得る素材が使用される。弾性繊維成分4の具体例としては、ポリウレタン系弾性素材、ポリエステル系弾性素材、ポリアミド系弾性素材、ポリオレフィン系弾性素材などの素材を使用することができる。
【0019】
複合繊維3は前記非弾性繊維成分5と弾性繊維成分4との複合繊維であるが、その複合形態として前述のような、非弾性繊維成分5を芯成分とし、弾性繊維成分4を鞘成分とする芯−鞘型複合繊維とするのが好ましい。
【0020】
しかしながら本発明はかかる芯−鞘型複合繊維に限定されるものではなく、サイドバイサイド型などの他の複合形態であってもよいが、少なくとも弾性繊維成分4が表面に露出するものであることが必要である。
【0021】
本発明においては、布帛を構成する繊維が非弾性繊維成分5と弾性繊維成分4とよりなる複合繊維3であって、弾性繊維成分4が表面に露出しているので、この複合繊維3で布帛を構成したとき、布帛内において図3に示されるように複合繊維3同士が弾性的に圧接して繊維の隙間が減少し、布帛の透過性が減少する。
【0022】
しかしながら個々の複合繊維3は単に弾性的に接触しているだけであって、溶着などにより一体化していることがないので、繊維同士が容易にその位置を変更することができ、布帛は柔軟なものとなる。
【0023】
また繊維同士の位置が変更された場合においても、その変更後の位置で繊維同士に新たな圧接関係が生じ、その新たな圧接関係も弾性的であるため、布帛の低透過性が維持され、布帛が動くことにより透過性が増大することはない。
【0024】
従って本発明によれば、布帛の流体の透過性が低く、且つ布帛として十分に柔軟であって、しかも布帛を揉んだり折り畳んだりすることにより透過性が変化することがない、極めて優れた低透過性布帛となるのである。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明の布帛は、流体に対して低い透過性を有する点に特徴を有するものであって、その性質を利用して、自動車用エアバッグ、フィルター、ホースなどの素材として、種々の用途に使用することができる。
【0026】
またこれらの用途において、布帛としての組織のみならず、複合繊維3における非弾性繊維成分5や弾性繊維成分4の種類や複合繊維3の構造により、布帛の流体に対する透過性を張設することも可能であり、広範囲の用途に使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】従来の低透過性布帛の一部を拡大して示す断面図
【図2】従来の他の形態の低透過性布帛の一部を拡大したものであって、(a)は製造直後の状態を示し、(b)は布帛が過度に動いた状態を示す。
【図3】本発明の低透過性布帛の一部を拡大して示す断面図
【符号の説明】
【0028】
3 複合繊維
4 弾性繊維成分
5 非弾性繊維成分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性繊維成分(4)と非弾性繊維成分(5)とよりなり、弾性繊維成分(4)が表面に露出している複合繊維(3)により構成したことを特徴とする、低透過性布帛
【請求項2】
前記複合繊維(3)が、前記非弾性繊維成分(5)を芯成分とし、前記弾性繊維成分(4)を鞘成分とする、芯−鞘型複合繊維であることを特徴とする、請求項1に記載の低透過性布帛
【請求項3】
前記非弾性繊維成分(5)が加熱により収縮する性質を有し、当該非弾性繊維成分(5)が収縮する温度で加熱されていることを特徴とする、請求項1、2、3又は4に記載の低透過性布帛

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−111978(P2006−111978A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−297071(P2004−297071)
【出願日】平成16年10月12日(2004.10.12)
【出願人】(000117135)芦森工業株式会社 (447)
【Fターム(参考)】