説明

低酸素濃度防火システム

【課題】対象空間の酸素濃度の調整を迅速に行うことで、当該対象空間の防火性や安全性を高めることを課題とする。
【解決手段】対象空間1の酸素濃度を低酸素濃度化することによって当該対象空間1の防火を行う低酸素濃度防火システムであって、対象空間1に窒素富化ガスを供給するための窒素ガス供給ライン130と、対象空間1に酸素富化ガスを供給するための酸素供給ライン140と、対象空間1への窒素富化ガスの供給と酸素富化ガスの供給を制御する制御装置160と、対象空間1における火災の発生を検知するためのセンサ4と、対象空間1で発生した火災を消火する消火装置201とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象空間の酸素濃度を調整するためのシステムに関し、特に、酸素濃度を低酸素濃度に調整することによって、対象空間の防火を行う低酸素濃度防火システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、人間の出入りが少ない空間を低酸素濃度化することによって、この空間における火災を未然に防ぐことができる低酸素濃度防火システムが提案されている。このような従来の低酸素濃度防火システムは、例えば、対象空間に対して不活性ガスを供給する不活性ガス供給装置と、対象空間に外気を供給する外気供給装置とを備えて構成されていた(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
そして、人間の不在時には、不活性ガス供給装置を用いて対象空間に不活性ガスを充満させることによって、この対象空間を不燃焼雰囲気にし、人間の在室時には、外気供給装置を用いて対象空間に外気を供給することによって、この対象空間を人間が生存できる酸素濃度にしていた。このようなシステムによれば、不燃焼雰囲気にしている時には、対象空間での火災発生を防止でき、人間が生存できる酸素濃度にしている時には、対象空間に人間が入っても健康上の支障を生じることがないという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−102858号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の低酸素濃度防火システムにおいては、不活性ガス供給装置から供給された不活性ガスや、外気供給装置から供給された外気を、対象空間に単に直接的に導入していたので、種々の不具合があった。例えば、従来の低酸素濃度防火システムにおいては、対象空間の酸素濃度を通常の酸素濃度から低酸素濃度に切り替えたい場合、不活性ガス供給装置を始動し、この不活性ガス供給装置にて酸素から分離等された窒素等の不活性ガスを対象空間に送出していた。しかし、低酸素濃度に切り替えたい状況になってから、不活性ガス供給装置を始動したり、不活性ガスの生成や送出を開始したのでは、これら始動や生成等に時間を要するために、酸素濃度の調整時間が比較的長時間になる。また、逆に、低酸素濃度から通常の酸素濃度に復帰させたい場合にも、外気供給装置の始動や酸素の生成等に時間を要することから、酸素濃度の調整時間が比較的長時間になる。
【0006】
このように酸素濃度の調整時間が長くなった場合、この調整時間分だけ、対象空間を所要濃度に保持しておくことができる時間が短くなる。従って、低酸素濃度に保持できる時間が短くなるために、防火環境を十分に確保できなかったり、あるいは、低酸素濃度空間に人間が入り込んだような場合に、酸素濃度を人体に安全なレベルに復帰するまでに長時間を要するために、安全性を十分に確保できない可能性があった。さらに、酸素濃度の調整時間の長時間化に伴って、給気用のコンプレッサ等の各種装置の運転時間も長時間化するため、各種装置のランニングコストが増大するという問題もあった。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、酸素濃度の調整を迅速に行うことを可能にすることで、防火性や安全性を高めること及び装置のランニングコストを低減すること等ができる、低酸素濃度防火システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、請求項1に記載の低酸素濃度防火システムは、対象空間の酸素濃度を低酸素濃度化することによって当該対象空間の防火を行う低酸素濃度防火システムであって、前記対象空間に窒素富化ガスを供給するための窒素富化ガス供給ラインと、前記対象空間に酸素富化ガスを供給するための酸素富化ガス供給ラインと、前記対象空間に外気を供給するための外気供給ラインと、前記窒素富化ガス供給ラインによる前記対象空間への前記窒素富化ガスの供給と、前記酸素富化ガス供給ラインによる前記対象空間への前記酸素富化ガスの供給と、前記外気供給ラインによる前記対象空間への前記外気の供給とを制御する制御手段と、前記対象空間における火災の発生を検知するための火災検出器と、前記対象空間で発生した火災を消火する消火装置とを備え、前記制御手段は、前記対象空間における防火の必要性が高い場合には、窒素富化ガスを前記対象空間に導入するように前記窒素富化ガス供給ラインを制御することにより、前記対象空間の酸素濃度を通常酸素濃度よりも低下させ、前記対象空間における防火の必要性が低い場合には、酸素富化ガスを前記対象空間に導入するように前記酸素富化ガス供給ラインを制御することにより、あるいは、外気を前記対象空間に導入するように前記外気供給ラインを制御することにより、前記対象空間の酸素濃度を通常酸素濃度とし、前記火災検出器によって前記対象空間における火災の発生が検知された場合には、前記消火装置を介して前記対象空間で発生した火災を消火するための所定の制御を行う。
【0009】
また、請求項2に記載の低酸素濃度防火システムは、請求項1に記載の低酸素濃度防火システムにおいて、前記制御手段は、前記対象空間の酸素濃度を、前記通常酸素濃度と、前記通常酸素濃度より低い酸素濃度であって人間の生存が可能であるが前記通常酸素濃度より燃焼性が低い不燃焼生存酸素濃度と、前記不燃焼生存酸素濃度より低い酸素濃度であって人間の生存は困難ではあるが前記不燃焼生存酸素濃度より燃焼性が低い不燃焼酸素濃度とのいずれかに切り替えるための制御を行うものであり、窒素富化ガスを前記対象空間に導入するように前記窒素富化ガス供給ラインを制御することにより、前記対象空間の酸素濃度を、前記通常酸素濃度から前記不燃焼生存酸素濃度に低下させる制御と、前記不燃焼生存酸素濃度から前記不燃焼酸素濃度に低下させる制御とを行い、酸素富化ガスを前記対象空間に導入するように前記酸素富化ガス供給ラインを制御することにより、前記対象空間の酸素濃度を、前記不燃焼酸素濃度から前記不燃焼生存酸素濃度に上昇させる制御と、酸素富化ガスを前記対象空間に導入するように前記酸素富化ガス供給ラインを制御することにより、あるいは、外気を前記対象空間に導入するように前記外気供給ラインを制御することにより、前記不燃焼生存酸素濃度から前記通常酸素濃度に上昇させる制御とを行う。
【0010】
また、請求項3に記載の低酸素濃度防火システムは、請求項2に記載の低酸素濃度防火システムにおいて、前記制御手段は、前記対象空間における防火の必要性が低い時間帯であって、前記対象空間への人の出入りが予想される所定の時間帯には、前記対象空間の酸素濃度を前記通常酸素濃度に制御し、前記対象空間における防火の必要性が高い時間帯であって、前記対象空間へ人が出入りする可能性がある所定の時間帯には、前記対象空間の酸素濃度を前記不燃焼生存酸素濃度に制御し、前記対象空間における防火の必要性が高い時間帯であって、前記対象空間へ人が出入りする可能性がない所定の時間帯には、前記対象空間の酸素濃度を前記不燃焼酸素濃度に制御する。
【0011】
また、請求項4に記載の低酸素濃度防火システムは、請求項1から3のいずれか一項に記載の低酸素濃度防火システムにおいて、前記制御手段は、前記対象空間の酸素濃度を前記通常濃度に制御している状態において、前記火災検出器によって前記対象空間における火災の発生が検知された場合には、前記消火装置を介して前記対象空間で発生した火災を消火するための所定の制御を行う。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施の形態に係る低酸素濃度防火システムの全体構成を示す系統図である。
【図2】対象空間の酸素濃度変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に添付図面を参照して、この発明に係る低酸素濃度防火システムの実施の形態を詳細に説明する。まず、〔I〕本発明の基本的概念を説明した後、〔II〕本発明の実施の形態について説明し、〔III〕最後に、本発明の実施の形態に対する変形例について説明する。
【0014】
〔I〕本発明の基本的概念
まず、本発明の基本的概念について説明する。本発明は、対象空間の酸素濃度を低酸素濃度化することによって当該対象空間における防火を行う低酸素濃度防火システムに関するものである。
【0015】
ここで、対象空間は、基本的に任意であるが、例えば、データセンター、美術館、博物館、文化財保管施設、貴重品倉庫等、火災発生時の消火によるダメージを避けたいとの要求が強い場所や、超高層タワーの電気室等、通常の防火設備を設けることが困難な場所、あるいは、低酸素濃度を保持することで劣化を防止したい貴重品等を保管するような施設が該当する。
【0016】
また、低酸素濃度とは、基本的には、一般大気の酸素濃度(約21%、以下、「通常酸素濃度」と称する)よりも低い全ての酸素濃度を含む概念である。以下の実施の形態では、低酸素濃度を2つのレベル、すなわち、(1)人間の生存が可能で、通常酸素濃度よりは低酸素濃度であるために燃焼性が低い酸素濃度(例えば、酸素濃度15%であり、以下、「不燃焼生存酸素濃度」と称する)と、(2)人間の生存は困難ではあるが、不燃焼生存酸素濃度よりさらに低い酸素濃度であるために燃焼性が一層低い酸素濃度(例えば、酸素濃度12%であり、以下、「不燃焼酸素濃度」と称する)とに切り替える例を説明する。
【0017】
このように酸素濃度を調整するため、本発明では、対象空間に、各種の気体を導入する。具体的には、酸素濃度を低下させる場合には、不活性ガス又は不活性ガスを高濃度で含んだガスを導入する。ここで、不活性ガスの種類は任意であるが、以下では、窒素ガスを用いた例を説明するものとし、窒素ガス、又は、窒素ガスを通常よりも高濃度で含んだガスを、「窒素富化ガス」と称する。また、酸素濃度を上昇させる場合には、外気、酸素、酸素を通常よりも高濃度で含んだガス、又は、対象空間における酸素濃度よりも高い酸素濃度のガスを導入する。以下では、酸素又は酸素を高濃度で含んだガスを、「酸素富化ガス」と称する。なお、特許請求の範囲における不活性ガスとは窒素富化ガスを含む概念であり、特許請求の範囲における酸素とは酸素富化ガスや外気を含む概念である。
【0018】
ここで、本発明の特徴の一つは、不活性ガス又は酸素を貯留するための貯留手段を設けている点にある。この貯留手段によって不活性ガス又は酸素を貯留しておくことにより、低酸素濃度に調整したい場合には貯留手段から不活性ガスを供給し、通常酸素濃度に復帰させたい場合には貯留手段から酸素を供給する。この結果、酸素濃度の調整時に必要な各種装置の始動時間等を待つことなく不活性ガスや酸素を供給でき、あるいは、各種装置にて供給される不活性ガスや酸素に加えて貯留手段からの不活性ガスや酸素を供給することで、酸素濃度調整の迅速化を図ること等ができる。この貯留手段の配置位置や構造については、後述するように、状況に応じた種々のバリエーションを取ることができる。
【0019】
また、本発明の他の特徴の一つは、対象空間の湿度を調整するための湿度調整手段を設けている点にある。この湿度調整手段にて湿度調整を行うことにより、対象空間が過乾燥することを防ぐことで、燃焼性を抑え、防火効率を向上させること等ができる。
【0020】
〔II〕本発明の実施の形態
以下、本発明に係る低酸素濃度防火システムの実施の形態について説明する。この実施の形態においては、低酸素濃度防火システム等の全体構成について説明した後、この低酸素濃度防火システムによって行われる酸素濃度調整について説明する。
【0021】
(低酸素濃度防火システムの構成)
図1は、本実施の形態に係る低酸素濃度防火システムの全体構成を示す系統図である。この図1において、対象空間1の近傍には、酸素濃度調整ユニット100及び消火ユニット200が配置されている。
【0022】
このうち、対象空間1は、上下左右を壁面にて囲繞された閉鎖空間として構成されている。この対象空間1の上部には、天井壁を隔てて天井裏スペース2が設けられており、また、対象空間1の下部には、床板を隔てて床下スペース3が設けられている。これら天井裏スペース2と床下スペース3とは、特許請求の範囲における天井部と床部にそれぞれ対応する。そして、天井裏スペース2と床下スペース3には、後述する貯留タンク125、126がそれぞれ配置されている。
【0023】
また、対象空間1の内部には、当該対象空間1の内部の酸素濃度を測定するための酸素センサ、一酸化炭素(CO)濃度を測定するための一酸化炭素センサ、二酸化炭素(CO2)濃度を測定するための二酸化炭素センサ、湿度を測定するための湿度センサ、人間の有無を検知するための人感センサ、及び、火災有無を検知するための火災検出器が配置されている(なお、これら各種のセンサを以下では必要に応じて「センサ4」と総称し、また図1においてセンサ4を集合的に図示する)。また、対象空間1の内部には、当該対象空間1が過加圧された場合に圧力を部分的に開放する避圧口5と、対象空間1の内部空気を循環させるための攪拌機6とが設けられている。
【0024】
また、対象空間1の一側方には、この対象空間1に隣接する前室10が設けられている。この前室10は、対象空間1に人間や物が出入りする際における当該対象空間1の気体の流入出を緩和する緩衝スペースである。この前室10は、特許請求の範囲における貯留手段に対応する。この前室10の外壁には第1の扉11が設けられ、前室10と対象空間1との間には第2の扉12が設けられており、これら第1の扉11と第2の扉12とを介して、人間や物が対象空間1に出入りすることができる。ここで、第1の扉11には、対象空間1の内部の酸素濃度を表示するための酸素濃度表示装置13、前室10又は対象空間1における人間の有無を管理するための入室管理システム14、及び、前室10が過加圧された場合に圧力を部分的に開放するリリースダンパ15が設けられている。
【0025】
また、酸素濃度調整ユニット100は、対象空間1の酸素濃度を調整するためのもので、酸素濃度を調整するための各種装置を、1つの筐体110の内部に収容してユニット構成されている。具体的には、筐体110に、共通ライン120、窒素ガス供給ライン130、酸素供給ライン140、湿度調整ライン150、及び、制御装置160を収容して構成されている。
【0026】
ここで、筐体110は、酸素濃度調整ユニット100の各部を保護する保護構造体として機能する他、その内部に酸素富化ガスを貯留し、この酸素富化ガスを必要に応じて対象空間1に供給する収容手段として機能する。すなわち、筐体110は、特許請求の範囲における収容手段及び貯留手段に対応する。この筐体110には、リリースダンパ111が設けられており、筐体110が過加圧された場合には、その圧力の一部がこのリリースダンパ111を介して外部に開放される。
【0027】
また、共通ライン120は、酸素濃度調整ユニット100の外部から内部に至る配管P1に、バルブV1、コンプレッサ121、空気タンク122、及び、酸素/窒素分離フィルタ123を順次配置して構成されている。このうち、コンプレッサ121は、配管P1の端部から取り込まれた外気を加圧するもので、特許請求の範囲における加圧手段に対応する。また、空気タンク122は、コンプレッサ121にて加圧された外気を貯留する貯留手段であり、このように外気を貯留することで、当該外気を安定的に後段へ供給可能とする。また、酸素/窒素分離フィルタ123は、空気タンク122から供給された外気から、酸素と窒素とを分離して窒素富化ガスと酸素富化ガスとを生成する酸素/窒素分離手段である。この酸素/窒素分離フィルタ123の具体的構成は任意であるが、例えば、酸素/窒素分離フィルタ123は酸素富化膜を備え、この酸素富化膜に酸素分子と窒素分子とが溶ける速度の差を利用することで、外気から酸素と窒素とを分離する。このように生成される窒素富化ガスや酸素富化ガスにおける酸素濃度は任意であるが、酸素濃度調整を迅速に行うためには通常酸素濃度から離れた濃度であることが好ましく、例えば、窒素富化ガスの酸素濃度は約11%、酸素富化ガスの酸素濃度は約30%とすることが好ましい。
【0028】
また、空気タンク122と酸素/窒素分離フィルタ123との間からは、対象空間1に至る配管P2が引き出されている。この配管P2には、バルブV2、バルブV3、流量計124が順次配置されている。また、配管P2から分岐して対象空間1の天井裏スペース2に至る配管P3には、バルブV4と貯留タンク125とが順次配置されており、この貯留タンク125には、対象空間1の内部に配置されたバルブV5が連結されている。また、配管P2から分岐して対象空間1に至る配管P4には、バルブV6が配置されている。また、配管P2から分岐して対象空間1の床下スペース3に至る配管P5には、バルブV7と貯留タンク126とが順次配置されており、この貯留タンク126には、対象空間1に配置されたバルブV8が連結されている。ここで、これら貯留タンク125及び貯留タンク126は、特許請求の範囲における貯留手段に対応する。また、バルブV1とコンプレッサ121との間からは、対象空間1に至る配管P6が引き出されており、この配管P6にはバルブV9が配置されている。
【0029】
また、窒素ガス供給ライン130は、対象空間1に窒素富化ガスを供給することによって当該対象空間1の酸素濃度を低下させるものであり、特許請求の範囲における不活性ガス供給ラインに対応する。この窒素ガス供給ライン130は、具体的には、配管P1における酸素/窒素分離フィルタ123の後段に、窒素富化タンク(図1においてはN2富化タンク)131及びバルブV10を備えて構成されている。ここで、窒素富化タンク131は、酸素/窒素分離フィルタ123にて生成された窒素富化ガスを貯留するためのもので、特許請求の範囲における貯留手段に対応する。この窒素富化タンク131に貯留された窒素富化ガスは、配管P7を介して上述の配管P2に導入可能である。また、バルブV10には、配管P8が接続され、この配管P8にはバルブV12が接続されている。このバルブV12は、外部から前室10に引き込まれた配管P10に配置されており、この配管P10には、さらにバルブV13及び送風機132が配置されている。
【0030】
また、酸素供給ライン140は、対象空間1に酸素を供給することによって当該対象空間1の酸素濃度を上昇させるものであり、具体的には、酸素/窒素分離フィルタ123から引き出されて配管P7に至る配管P11に、加圧装置141、バルブV14、酸素富化タンク(図1においてはO2富化タンク)142、バルブV15を順次配置して構成されている。この加圧装置141は、酸素/窒素分離フィルタ123にて生成された酸素富化ガスを加圧する加圧手段である。また、酸素富化タンク142は、加圧装置141にて加圧された酸素富化ガスを貯留するもので、特許請求の範囲における貯留手段に対応する。また、バルブV14から外部に配管P12が引き出されている。
【0031】
また、湿度調整ライン150は、対象空間1の湿度を調整するためのもので、特許請求の範囲における湿度調整手段に対応する。この湿度調整ライン150は、具体的には、配管P7に、湿度調整装置151とバルブV16とを順次配置して構成されている。湿度調整装置151は、加湿又は除湿を行った空気を対象空間1に供給することにより、対象空間1の湿度を調整する。ここで、湿度調整装置151には配管P13を介してコンプレッサ121が接続されており、コンプレッサ121にて外気を凝縮した際に生じた凝縮水が湿度調整装置151に供給可能とされている。そして、湿度調整装置151においては、コンプレッサ121から供給された凝縮水を用いて加湿可能となっている。
【0032】
また、制御装置160は、酸素濃度調整ユニット100及び消火ユニット200の各部を制御するための制御手段であり、これら各部と電気的に接続されている(図1において電気的接続を点線にて示す)。この制御装置160の具体的構成は任意であるが、例えば、各部との信号の送受信を行う送受信インターフェースと、CPU(Central Processing Unit)及びこのCPU上で動作するプログラムとから構成される。
【0033】
また、消火ユニット200は、対象空間1で発生した火災を消火するためのもので、具体的には、消火装置201と消火装置制御部202とを備えて構成されている。このうち、消火装置201は、配管P14及びバルブV17を介して対象空間1に接続され、この対象空間1に消火ガスや消火剤を放出する。また、消火装置制御部202は、消火装置201に電気的に接続され、この消火装置201による消火ガスや消火剤の放出を制御する。
【0034】
(酸素濃度調整)
次に、このように構成された低酸素濃度防火システムを用いて行われる酸素濃度調整について説明する。この調整は、主として、制御装置160の制御下にて自動的に行われるものである。以下の説明では、特に説明なき装置は停止状態にあり、特に説明なきバルブは閉状態にあるものとする。また、制御装置160の制御は、センサ4にて感知された対象空間1の酸素濃度を参照して行われるものとする。図2は、対象空間1の酸素濃度変化を示すグラフであり、横軸は時間、縦軸は対象空間1の酸素濃度をそれぞれ示す。
【0035】
まず、通常時(図2の時間T0〜T1)の調整について説明する。通常時とは、例えば、対象空間1への人間の出入りが予想される時間帯であり、かつ、防火の必要性が低い時間帯で、一例としては昼間帯が該当する。この場合、対象空間1の酸素濃度を通常酸素濃度に調整するため、外気を循環させる。具体的には、制御装置160は、バルブV1、V2、及び、V6を開くことにより、外気をコンプレッサ121に導入する。また、制御装置160は、コンプレッサ121を始動させ、導入された空気を圧縮させて、空気タンク122に貯留させる。このように貯留された外気は、配管P2、P4を介して対象空間1に導入される。このような外気導入は、例えば、センサ4にて検出された酸素濃度が通常酸素濃度に維持されるように、断続的に又は継続して行われる。また、この通常時において、制御装置160は、入室管理システム14を制御して第1の扉11を開閉可能として、対象空間1への人間の出入りを許容する。
【0036】
さらに、制御装置160は、この通常時及び他のタイミングにおいて可能な場合には、窒素富化ガス及び酸素富化ガスを貯留する。具体的には、制御装置160は、バルブV1を開き、配管P1を介して外気をコンプレッサ121に導入する。そして、コンプレッサ121を始動させ、このコンプレッサ121にて圧縮された外気を空気タンク122に貯留させる。このように貯留された空気は、酸素/窒素分離フィルタ123に導入され、この酸素/窒素分離フィルタ123によって生成された窒素富化ガスは、配管P1を介して窒素富化タンク131へ導入されて貯留される。この際、酸素/窒素分離フィルタ123によって生成された窒素富化ガスは、コンプレッサ121にて外気が加圧された際の圧力によって窒素富化タンク131に圧入されるが、この窒素富化ガスに対してさらに加圧を行う必要がある場合には、酸素/窒素分離フィルタ123と窒素富化タンク131との間等に加圧装置を設けても良い。また、酸素/窒素分離フィルタ123によって生成された酸素富化ガスは、配管P11を介して加圧装置141に導入され、この加圧装置141にて加圧された後、バルブV14を介して酸素富化タンク142へ導入されて貯留される。なお、余剰の酸素富化ガスは、バルブV14及び配管P12を介して外部に排出する。
【0037】
また、制御装置160は、筐体110と天井裏スペース2の貯留タンク125とに酸素富化ガスを貯留する。具体的には、制御装置160は、バルブV15を開くことで、酸素富化タンク142から筐体110に酸素富化ガスを導入する。あるいは、制御装置160は、バルブV15、V3、及び、V4を開くことで、酸素富化タンク142から貯留タンク125に酸素富化ガスを導入する。また、制御装置160は、床下スペース3の貯留タンク126に窒素富化ガスを貯留する。具体的には、制御装置160は、バルブV10、V3、及び、V7を開くことで、窒素富化タンク131から貯留タンク126に窒素富化ガスを導入する。
【0038】
次に、防火の必要性が高い時間帯で、かつ、人間が出入りする可能性がある時間帯(図2の時間T1〜T2)の調整について説明する。この時間帯では、防火性を高める一方で、対象空間1に人間が出入りしても安全な状態を作り出すため、対象空間1の酸素濃度を不燃焼生存酸素濃度に調整する。具体的には、制御装置160は、図2の時間T1が到来すると、バルブV10、V3、V6を開放することで、窒素富化タンク131に貯留されていた窒素富化ガスを対象空間1に導入する。そして、制御装置160は、センサ4にて検出された対象空間1の酸素濃度が所定の不燃焼生存酸素濃度になるまで、バルブV10、V3、V6の開放を継続し、不燃焼生存酸素濃度になった時点で、バルブV10、V3、V6を遮断する。また、このような窒素富化ガスの導入に代えて、あるいは、この導入と共に、制御装置160は、バルブV8を開放することで、貯留タンク126に貯留されていた窒素富化ガスを対象空間1に放出させる。
【0039】
このように、酸素/窒素分離フィルタ123にて生成された窒素富化ガスを直接的に対象空間1に導入するのではなく、窒素富化タンク131や貯留タンク126に貯留されていた窒素富化ガスを対象空間1に導入することで、窒素富化ガスの供給速度を向上し、酸素濃度を迅速に低下させることができる。すなわち、図2に示すように、通常酸素濃度から不燃焼生存酸素濃度に至る所要時間Taを、従来のシステムにおける所要時間Ta’(図2では、従来のシステムにおける酸素濃度変化を想像線にて示す。以下同じ)に比べて、大幅に短縮できる(Ta<Ta’)。従って、不燃焼生存酸素濃度を維持できる時間(図2の時間T2−T1−Ta)を従来より長くすることができる。また、貯留タンク126を床下スペース3に配置したので、空気に比べて比重が軽い窒素富化ガスは、貯留タンク126から放出された後、対象空間1を上昇して自然拡散される。
【0040】
また、この不燃焼生存酸素濃度状態においては、対象空間1に人間が出入りする可能性があるため、この出入りに伴う気体の流入出により、対象空間1の酸素濃度が不用意に変動してしまう可能性がある。このため、制御装置160は、バルブV10及びV12を開放することで、窒素富化タンク131に貯留された窒素富化ガスを前室10にも導入し、この前室10の酸素濃度についても不燃焼生存酸素濃度に調整する。従って、外気が対象空間1に直接的に流入すること等が低減され、対象空間1の酸素濃度が不用意に変動することが防止される。
【0041】
また、前室10の酸素濃度を維持するため、前室10が開放されて窒素富化ガスが流出した場合には、この分を急速に補充することが好ましい。このため、制御装置160は、第1の扉11の開閉状態を入室管理システム14を介して監視しており、第1の扉11が開かれた場合には、バルブV10又はV12の開度や開放時間等を制御することで、前室10に対する窒素富化ガスの供給量を増やす。なお、前室10を不燃焼生存酸素濃度にする必要がない場合には、バルブV13及びV12を開放し、送風機132を始動させることで、外気を前室10に取り込んでも良い。
【0042】
次に、防火の必要性が高い時間帯で、かつ、人間が出入りする可能性がない時間帯(図2の時間T2〜T3。例えば、夜間が該当する)の調整について説明する。この時間帯では、防火性が最も高い状態を作り出すため、対象空間1の酸素濃度を不燃焼酸素濃度に調整する。具体的には、制御装置160は、図2の時間T2が到来し、かつ、入室管理システム14を介して対象空間1に人間が入室していないことが確認された時点で、上述した不燃焼生存酸素濃度への調整時と同様に、窒素富化タンク131や貯留タンク126に貯留されていた窒素富化ガスを対象空間1に導入する。従って、不燃焼生存酸素濃度への調整時と同様に、窒素富化ガスの供給速度を向上し、酸素濃度を迅速に低下させることができる。すなわち、図2に示すように、不燃焼生存酸素濃度から不燃焼酸素濃度からに至る所要時間Tbを、従来のシステムにおける所要時間Tb’に比べて、大幅に短縮できる(Tb<Tb’)。従って、不燃焼酸素濃度を維持できる時間(図2の時間T3−T2−Tb)を従来より長くすることができる。
【0043】
また、この不燃焼酸素濃度状態において、制御装置160は、入室管理システム14を介して第1の扉11を閉鎖することで、対象空間1へ人間が不用意に入室することを防止する。なお、窒素富化ガスが過供給され、対象空間1が過加圧状態になった場合には、避圧口5が自動的に開放されることで対象空間1の圧力が一部開放され、過加圧状態が解消される。
【0044】
ここで、このような不燃焼酸素濃度状態において、何らかの理由によって対象空間1に人間が在室していることがセンサ4によって検知された場合、制御装置160は、対象空間1の酸素濃度を不燃焼生存酸素濃度以上に極力早く復帰させ、人命の安全確保を図る。具体的には、制御装置160は、バルブV15、V3、V6を開放することで、酸素富化タンク142に貯留されていた酸素富化ガスを対象空間1に導入する。また、このような窒素富化ガスの導入に代えて、あるいは、この導入と共に、制御装置160は、バルブV5を開くことで、貯留タンク125に貯留していた酸素富化ガスを対象空間1に放出させる。さらに必要に応じて、制御装置160は、筐体110に貯留していた酸素富化ガスをバルブV3から取り入れ、バルブV6を介して対象空間1に放出させる。このように酸素富化タンク142、貯留タンク125、あるいは、筐体110に貯留していた酸素富化ガスを用いて酸素濃度を上昇させることで、急速に酸素濃度を高めることができ、人間の安全性を確保することができる。
【0045】
次に、再び、防火の必要性が高い時間帯で、かつ、人間が出入りする可能性がある時間帯(図2の時間T3〜T4)になった場合の調整について説明する。制御装置160は、図2の時間T3が到来すると、バルブV15、V3、V6を開放することで、酸素富化タンク142に貯留されていた酸素富化ガスを対象空間1に導入する。そして、制御装置160は、センサ4にて検出された対象空間1の酸素濃度が所定の不燃焼生存酸素濃度に復帰するまで、バルブV15、V3、V6の開放を継続し、不燃焼生存酸素濃度に復帰した時点で、バルブV15、V3、V6を遮断する。また、このような酸素富化ガスの導入に代えて、あるいは、この導入と共に、制御装置160は、バルブV5を開くことで、貯留タンク125に貯留していた酸素富化ガスを対象空間1に放出させる。さらに必要に応じて、制御装置160は、筐体110に貯留していた酸素富化ガスをバルブV3から導入して、バルブV6を介して対象空間1に放出させる。
【0046】
このように、酸素/窒素分離フィルタ123にて生成された酸素富化ガスを直接的に対象空間1に導入するのではなく、酸素富化タンク142、貯留タンク125、あるいは、筐体110に貯留されていた酸素富化ガスを対象空間1に導入することで、酸素富化ガスの供給速度を向上し、酸素濃度を迅速に上昇させることができる。すなわち、図2に示すように、不燃焼酸素濃度から不燃焼生存酸素濃度に至る所要時間Tcを、従来のシステムにおける所要時間Tc’に比べて、大幅に短縮できる(Tc<Tc’)。従って、不燃焼生存酸素濃度を維持できる時間(図2の時間T4−T3−Tc)を従来より長くすることができる。なお、このように不燃焼生存酸素濃度に復帰した場合、制御装置160は、入室管理システム14を制御して第1の扉11を開閉可能として、対象空間1への人間の出入りを再び許容する。
【0047】
更に、通常時(図2の時間T4以降)になった場合の調整について説明する。制御装置160は、図2の時間T4が到来すると、対象空間1の酸素濃度を通常酸素濃度に復帰させる。具体的には、不燃焼生存酸素濃度に復帰させた場合と同様の制御を行って酸素富化ガスを対象空間1に導入することにより、あるいは、時間T0〜T1の場合と同様の制御を行って外気を対象空間1に導入することにより、対象空間1の酸素濃度を通常酸素濃度に復帰させる。特に、不燃焼生存酸素濃度に復帰させた場合と同様の制御を行った場合には、酸素富化ガスの供給速度を向上し、酸素濃度を迅速に上昇させることができる。つまり、図2に示すように、不燃焼生存酸素濃度から通常酸素濃度に復帰する所要時間Tdを、従来のシステムにおける所要時間Td’に比べて、大幅に短縮できる(Td<Td’)。
【0048】
なお、これまでの各時間帯での調整時に、制御装置160は、対象空間1の湿度を調整する。具体的には、制御装置160は、対象空間1の湿度をセンサ4を介して定期的に監視しており、湿度が所定湿度以上又は所定湿度以下になった場合には、湿度調整装置151を駆動すると共に、バルブV16、V3、V6を開き、加湿空気又は乾燥空気を対象空間1に放出する。ここで、加湿空気の生成は、コンプレッサ121から供給された凝縮水を用いて行われる。このように、凝縮水を加湿用水として利用することで、加湿用水を別個に供給する必要がなくなり、湿度調整のコストを低減できる。
【0049】
なお、これまでの各時間帯での調整時に、制御装置160は、攪拌機6を作動させることで、対象空間1の内部の酸素濃度を均一化する。また、対象空間1が過加圧状態になった場合には避圧口5、前室10が過加圧状態になった場合にはリリースダンパ15、筐体110が過加圧状態になった場合にはリリースダンパ111がそれぞれ開放され、その圧力が部分的に開放されて、過加圧状態が解消される。
【0050】
また、通常酸素濃度状態において、対象空間1で火災が発生した場合には、火災検出器から制御装置160に火災報知信号が出力される。この火災報知信号を受信した制御装置160は、消火装置制御部202に消火信号を送出する。この消火信号を受けた消火装置制御部202は、消火装置201を制御すると共にバルブV17及びV6を開放して、消火ガス又は消火剤を対象空間1に放出させる。これにて火災消火が行われる。
【0051】
〔III〕実施の形態に対する変形例
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明の具体的な構成及び方法は、特許請求の範囲に記載した各発明の技術的思想の範囲内において、任意に改変及び改良することができる。以下、このような変形例について説明する。
【0052】
(解決しようとする課題や発明の効果について)
まず、発明が解決しようとする課題や発明の効果は、上記した内容に限定されるものではなく、本発明によって、上記に記載されていない課題を解決したり、上記に記載されていない効果を奏することもでき、また、記載されている課題の一部のみを解決したり、記載されている効果の一部のみを奏することがある。例えば、対象空間1の最終的な防火性や安全性が従来システムと同程度であっても、対象空間1の酸素濃度調整を従来システムより迅速に行うことができている限りにおいて、本願の課題は達成されている。
【0053】
(対象空間1について)
対象空間1の具体的構成や、対象空間1と酸素濃度調整ユニット100との相互構成については、上記実施の形態に示した構成以外にも種々の異なる構成を取り得る。例えば、1つの対象空間1に対して複数の酸素濃度調整ユニット100を配置しても良く、あるいは、複数の対象空間1に対して1つの酸素濃度調整ユニット100を配置してよい。また、酸素濃度調整ユニット100の構成要素の一部を対象空間1に配置しても良く、あるいは、対象空間1に配置された構成要素の一部を酸素濃度調整ユニット100に配置しても良い。また、対象空間1の天井裏スペース2や床下スペース3の両方又は片方を省略しても良い。あるいは、対象空間1の側壁部の内部を中空状として、この内部に貯留手段を設けても良い。また、前室10は、1つの対象空間1に対して複数設けても良く、あるいは、前室10を省略しても良い。
【0054】
(酸素濃度調整ユニット100について)
酸素濃度調整ユニット100は、必ずしもユニット構成する必要はなく、例えば、複数の筐体110に分割して配置しても良い。また、酸素濃度調整ユニット100の配管系統や制御系統は、任意に改変することができる。また、酸素濃度調整ユニット100の各構成要素についても統合又は分割することができ、例えば、窒素富化タンク131や酸素富化タンク142をそれぞれ複数設けても良い。また、酸素供給ライン140を省略して、酸素濃度を向上させる際には外気のみを導入するようにしても良い。
【0055】
(貯留手段について)
実施の形態で示した各貯留手段の一部を分割構成したり省略しても良い。また、貯留手段に貯留する気体の種類を変更しても良く、例えば、筐体110や貯留タンク125に窒素富化ガスを貯留し、貯留タンク126に酸素富化ガスを貯留しても良い。また、貯留手段の具体的構成としては、タンク構造以外にも種々の異なる構成を取り得る。例えば、貯留手段を弾性的に伸縮可能な風船構造とし、窒素富化ガスや酸素富化ガスの非充満時には貯留手段を自己収縮させることで、省スペース化を図ることもできる。また、「貯留手段を、天井部、床部、又は、壁面部に配置する」とは、これら天井部、床部、又は、壁面部自体を貯留手段として構成することを含む。例えば、天井裏スペース2や床下スペース3をシーリング等にて気密構造(あるいは、許容できる程度の量の気体の流出が生じ得る非完全な気密構造)とし、これら天井裏スペース2や床下スペース3に窒素富化ガスや酸素富化ガスを貯留しても良い。そして、天井壁や床板に開閉自在のダンパを設け、必要に応じてこのダンパを開くことで、窒素富化ガスや酸素富化ガスを対象空間1に供給できる。また、ダンパの近傍位置やその他の任意の位置にファンを設け、ダンパを開いた際にこのファンを回転させることで、天井裏スペース2や床下スペース3に貯留した窒素富化ガスや酸素富化ガスが対象空間1に流入することを促進し、あるいは、流入した窒素富化ガスや酸素富化ガスの混合を促進しても良い。この場合、天井裏スペース2や床下スペース3の略全域を貯留空間として利用できるので、一層の省スペース化を図ることができる。
【0056】
〔付記〕
付記1に記載の低酸素濃度防火システムは、対象空間の酸素濃度を低酸素濃度化することによって当該対象空間の防火を行う低酸素濃度防火システムであって、前記対象空間に不活性ガスを供給するための不活性ガス供給ラインと、前記対象空間に酸素を供給するための酸素供給ラインと、前記不活性ガス供給ライン又は前記酸素供給ラインの少なくとも一方に設けられ、前記不活性ガス又は前記酸素を貯留するための貯留手段とを備えたことを特徴とする。
また、付記2に記載の低酸素濃度防火システムは、付記1に記載の低酸素濃度防火システムにおいて、前記貯留手段を、前記対象空間の天井部、床部、又は、壁面部の少なくとも一つに配置したことを特徴とする。
また、付記3に記載の低酸素濃度防火システムは、付記1又は2に記載の低酸素濃度防火システムにおいて、前記貯留手段を、前記対象空間に隣接して設けられた前室に配置したことを特徴とする。
また、付記4に記載の低酸素濃度防火システムは、付記1から3のいずれか一項に記載の低酸素濃度防火システムにおいて、前記不活性ガス供給ライン及び前記酸素供給ラインの少なくとも一部を収容する収容手段を備え、前記収容手段を、前記貯留手段としたことを特徴とする。
また、付記5に記載の低酸素濃度防火システムは、付記1から4のいずれか一項に記載の低酸素濃度防火システムにおいて、前記対象空間の湿度を調整するための湿度調整手段を備えたことを特徴とする。
また、付記6に記載の低酸素濃度防火システムは、付記5に記載の低酸素濃度防火システムにおいて、前記不活性ガス、前記酸素、又は、これら不活性ガス若しくは酸素を生成するための空気を加圧する加圧手段を設け、前記加圧手段を前記湿度調整手段に接続し、前記加圧手段における加圧時に生成される凝縮水を前記湿度調整手段における加湿用水として導入可能としたことを特徴とする。
付記に係る低酸素濃度防火システムによれば、酸素濃度の調整時に必要な各種装置の始動時間等を待つことなく不活性ガスや酸素を供給でき、あるいは、各種装置にて供給される不活性ガスや酸素に加えて貯留手段からの不活性ガスや酸素を供給することで、酸素濃度調整の迅速化を図ることができる。従って、対象空間の酸素濃度を所要の酸素濃度に維持できる実効時間を長期化でき、対象空間の防火性や安全性を高めることができる。また、対象空間への人間の出入り等に伴う微小な酸素濃度変動を即座に吸収できるので、対象空間の防火性や安全性を一層高めることができる。さらに、濃度調整時間を短縮化することで、濃度調整に必要な各種装置の運転時間を短縮化でき、装置のランニングコストを低減することができる。また、貯留手段を設けることで、不活性ガス供給装置等の各種装置のみを設けた場合に比べて、対象空間に供給する不活性ガスや酸素の量を精度よく制御できるため、対象空間における酸素濃度を従来よりも高精度で制御することができる。
また、付記に係る低酸素濃度防火システムによれば、対象空間の天井部、床部、又は、壁面部に配置した貯留手段から不活性ガスや酸素を供給できるので、対象空間の周辺スペースを貯留手段の設置スペースとして有効活用できる。また、対象空間の近傍から不活性ガスや酸素を供給できるので、これら不活性ガスや酸素の供給を一層迅速に行うことができる。
また、付記に係る低酸素濃度防火システムによれば、貯留手段を対象空間の前室に配置したので、前室を貯留手段の設置スペースとして有効活用できる。また、対象空間の近傍から不活性ガスや酸素を供給できるので、これら不活性ガスや酸素の供給を一層迅速に行うことができる。
また、付記に係る低酸素濃度防火システムによれば、不活性ガス供給ラインや酸素供給ラインの収容手段を貯留手段としたので、この収容手段の内部スペースを貯留手段として有効活用できる。
また、付記に係る低酸素濃度防火システムによれば、湿度調整手段にて対象空間の湿度を調整できるので、対象空間が過乾燥することを防ぐことで、対象空間の内部の燃焼性を抑え、防火性を向上させることができる。さらには、対象空間で管理されている貯蔵物の保存性を高めることができ、あるいは、対象空間に入室している人間の健康状態を維持することができる。
また、付記に係る低酸素濃度防火システムによれば、加圧手段における加圧時に生成される凝縮水を湿度調整手段における加湿用水としたので、加圧手段のための加湿用水を別個に供給する必要がなくなり、湿度調整のコストを低減できる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
以上のように、本発明に係る低酸素濃度防火システムは、対象空間の酸素濃度を調整することによって当該対象空間の防火性や安全性を高めることに有用である。
【符号の説明】
【0058】
1 対象空間
2 天井裏スペース
3 床下スペース
4 センサ
5 避圧口
6 攪拌機
10 前室
11 第1の扉
12 第2の扉
13 酸素濃度表示装置
14 入室管理システム
15 リリースダンパ
100 酸素濃度調整ユニット
110 筐体
111 リリースダンパ
120 共通ライン
121 コンプレッサ
122 空気タンク
123 酸素/窒素分離フィルタ
124 流量計
125、126 貯留タンク
130 窒素ガス供給ライン
131 窒素富化タンク
132 送風機
140 酸素供給ライン
141 加圧装置
142 酸素富化タンク
150 湿度調整ライン
151 湿度調整装置
160 制御装置
200 消火ユニット
201 消火装置
202 消火装置制御部
P1〜P14 配管
V1〜V17 バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象空間の酸素濃度を低酸素濃度化することによって当該対象空間の防火を行う低酸素濃度防火システムであって、
前記対象空間に窒素富化ガスを供給するための窒素富化ガス供給ラインと、
前記対象空間に酸素富化ガスを供給するための酸素富化ガス供給ラインと、
前記対象空間に外気を供給するための外気供給ラインと、
前記窒素富化ガス供給ラインによる前記対象空間への前記窒素富化ガスの供給と、前記酸素富化ガス供給ラインによる前記対象空間への前記酸素富化ガスの供給と、前記外気供給ラインによる前記対象空間への前記外気の供給とを制御する制御手段と、
前記対象空間における火災の発生を検知するための火災検出器と、
前記対象空間で発生した火災を消火する消火装置とを備え、
前記制御手段は、
前記対象空間における防火の必要性が高い場合には、窒素富化ガスを前記対象空間に導入するように前記窒素富化ガス供給ラインを制御することにより、前記対象空間の酸素濃度を通常酸素濃度よりも低下させ、
前記対象空間における防火の必要性が低い場合には、酸素富化ガスを前記対象空間に導入するように前記酸素富化ガス供給ラインを制御することにより、あるいは、外気を前記対象空間に導入するように前記外気供給ラインを制御することにより、前記対象空間の酸素濃度を通常酸素濃度とし、
前記火災検出器によって前記対象空間における火災の発生が検知された場合には、前記消火装置を介して前記対象空間で発生した火災を消火するための所定の制御を行う、
低酸素濃度防火システム。
【請求項2】
前記制御手段は、
前記対象空間の酸素濃度を、前記通常酸素濃度と、前記通常酸素濃度より低い酸素濃度であって人間の生存が可能であるが前記通常酸素濃度より燃焼性が低い不燃焼生存酸素濃度と、前記不燃焼生存酸素濃度より低い酸素濃度であって人間の生存は困難ではあるが前記不燃焼生存酸素濃度より燃焼性が低い不燃焼酸素濃度とのいずれかに切り替えるための制御を行うものであり、
窒素富化ガスを前記対象空間に導入するように前記窒素富化ガス供給ラインを制御することにより、前記対象空間の酸素濃度を、前記通常酸素濃度から前記不燃焼生存酸素濃度に低下させる制御と、前記不燃焼生存酸素濃度から前記不燃焼酸素濃度に低下させる制御とを行い、
酸素富化ガスを前記対象空間に導入するように前記酸素富化ガス供給ラインを制御することにより、前記対象空間の酸素濃度を、前記不燃焼酸素濃度から前記不燃焼生存酸素濃度に上昇させる制御と、
酸素富化ガスを前記対象空間に導入するように前記酸素富化ガス供給ラインを制御することにより、あるいは、外気を前記対象空間に導入するように前記外気供給ラインを制御することにより、前記不燃焼生存酸素濃度から前記通常酸素濃度に上昇させる制御とを行う、
請求項1に記載の低酸素濃度防火システム。
【請求項3】
前記制御手段は、
前記対象空間における防火の必要性が低い時間帯であって、前記対象空間への人の出入りが予想される所定の時間帯には、前記対象空間の酸素濃度を前記通常酸素濃度に制御し、
前記対象空間における防火の必要性が高い時間帯であって、前記対象空間へ人が出入りする可能性がある所定の時間帯には、前記対象空間の酸素濃度を前記不燃焼生存酸素濃度に制御し、
前記対象空間における防火の必要性が高い時間帯であって、前記対象空間へ人が出入りする可能性がない所定の時間帯には、前記対象空間の酸素濃度を前記不燃焼酸素濃度に制御する、
請求項2に記載の低酸素濃度防火システム。
【請求項4】
前記制御手段は、
前記対象空間の酸素濃度を前記通常濃度に制御している状態において、前記火災検出器によって前記対象空間における火災の発生が検知された場合には、前記消火装置を介して前記対象空間で発生した火災を消火するための所定の制御を行う、
請求項1から3のいずれか一項に記載の低酸素濃度防火システム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−50794(P2011−50794A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−282217(P2010−282217)
【出願日】平成22年12月17日(2010.12.17)
【分割の表示】特願2004−315267(P2004−315267)の分割
【原出願日】平成16年10月29日(2004.10.29)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【出願人】(000003403)ホーチキ株式会社 (792)
【Fターム(参考)】