説明

低VOCエマルションポリマー塗料組成物

構造RO−(CH2−CH2−O−)n−Hを有する少なくとも1つの低重合エチレングリコール誘導体、少なくとも1つのラテックスポリマー及び水を含有し、ここで、RはH又はC1〜C4アルキルであり、かつ好ましくはHであり、かつnは3〜9、好ましくは3〜8及びより好ましくは3〜6である、水性ラテックス塗料組成物及び水性ラテックス塗料組成物を製造する方法。前記低重合エチレングリコール誘導体は、組成物のVOC含有量に寄与しない造膜溶剤及び凍解安定剤の双方として機能する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の属する分野
本発明は、水性塗料組成物、例えばペイント及びその他の塗料組成物の揮発性有機化合物(VOC)含有量を低下させる一方で、これらの組成物の凍解安定性及び耐摩耗性(scrub resistance)を保持するエチレングリコールをベースとする添加剤の使用に関する。特に、本発明は、VOC溶剤の代わりに、水性塗料組成物のVOC含有量を低下させる一方で、これらの組成物の凍解安定性及び耐摩耗性を保持する特定のエチレングリコール誘導体の使用に関する。
【0002】
発明の背景
水性ラテックス塗料組成物、例えばラテックスペイントは、多様な用途に、典型的には表面の装飾又は保護に使用される。ラテックス塗料組成物は、液体溶剤中に保持されたラテックス結合剤、典型的にはエマルションポリマーを含有する。塗料を塗布する際に、溶剤は蒸発し、かつ結合剤は機械的に剛性の状態へ硬化する一方で、顔料、充填剤及びその他の添加剤を結合させる。
【0003】
幾つかのタイプの添加剤は、ラテックス塗料組成物にそれらの性能を改善するために添加されることができる。例えば、ラテックス組成物はしばしば、低温でかつ凍結及び融解のサイクルに暴露される際に不安定である。エチレングリコール及びプロピレングリコールは、組成物の凍結を防止するため及び低温での組成物の性能を改善するための凍結防止添加剤としてしばしば使用される。
【0004】
さらに加えて、造膜溶剤(coalescing solvents)は、コーティングをより低い温度で塗布されることを可能にする組成物の最低造膜温度(MFFT)を低下させるための添加剤としてしばしば使用される。例示的な造膜溶剤は、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチラート及び2−エチルヘキシルベンゾアートを含む。造膜溶剤は、生じるコーティングの耐摩耗性、すなわち耐久性、及び耐ブロッキング性、すなわち硬さにも影響を及ぼす。
【0005】
造膜助剤(coalescing agents)及び凍結防止剤として使用される添加剤の多くは、それらの目的のためには有効であるが、しかしますます望ましくなっている、それというもそれらはVOC類だからである。基体へのラテックス組成物の塗布後に、VOC類はゆっくりと周囲中へ蒸発する。許容VOCレベルが環境規制増加の結果として減少し続けているので、より低いVOCレベルを有するラテックス組成物を製造するという必要が当工業界において生じてきた。しかしながら、これらのより低いVOCレベルですらラテックス組成物の性能を保持する必要もある。
【0006】
さらに、良好な耐摩耗性により証明される良好な融着特性を達成する目標は、特にVOC溶剤添加剤の不在で、良好な凍解安定性を達成する目標に対立すると長くみなされてきた。耐摩耗性は一般的に悪化する、それというのも、ラテックスのMFFTは増加し、かつ周囲硬化温度に接近するからである。造膜溶剤、典型的にはVOC類は、塗料組成物のMFFTを低下させるために前記組成物の低温融着(low temperature coalescence)特性を改善するために従来添加されてきた。しかしながら、エマルションポリマーのMFFTは低下されるので、組成物の凍解安定性は減少する。乏しい凍解抵抗性は、それぞれVOCであるとみなされる、前記組成物中で凍結防止剤として作用するエチレングリコール又はプロピレングリコールの添加により伝統的に埋め合わされてきた。故に、過去において、改善された耐摩耗性及び凍解安定性を有するラテックス塗料組成物の製造は、多様なVOC溶剤の添加を必要としていた。
【0007】
VOC類を削減する一方で受け入れることができるコーティング性能を保持する最近の試みは、造膜添加剤の不在での融着を可能にするラテックス結合剤の変性に焦点が合わされてきた。しかしながら、結合剤ポリマーの変性は、VOC添加剤と共に塗布されるそれ以外は類似した未変性ポリマーと比較して、生じたコーティングの低温融着、凍解抵抗性又は耐摩耗性の少なくとも1つを減少させる傾向がある。
【0008】
故に、VOC含有量が減少されたか又はVOC含有量を有さず、融着、凍解安定性又は耐摩耗性の減少を伴わず、かつラテックス結合剤の変性が必要とされることのない、水性ラテックス塗料組成物を製造することが望ましい。
【0009】
発明の要約
本発明は、水性ラテックス塗料組成物を提供し、前記組成物は、組成物のVOC含有量を高めることのない造膜溶剤及び凍解安定剤の双方として機能する低重合添加剤を含有する。前記組成物は、商業的に受け入れることができる性質である一方で、前記塗料組成物の内部でVOC類の必要性を実質的に減少するか又は削減するコーティングを提供する。前記塗料組成物は有利にはVOC類250g/l未満を含有し、かつより有利にはVOC類の実質的な含有量を含まない。故に、従来の水性塗料組成物よりも低いVOCレベルを有し、かつ従来のラテックスコーティングよりも環境上望ましい水性塗料組成物が製造されることができる。
【0010】
前記塗料組成物は、少なくとも1つの低重合エチレングリコール誘導体、少なくとも1つのラテックス結合剤及び水を含んでなる。前記組成物は、以下にさらに詳細に論じるように、多数の添加剤を含有していてもよい。
【0011】
前記塗料組成物の少なくとも1つの低重合エチレングリコール誘導体は、構造:
RO−(CH2−CH2−O−)n−H
を有し、ここでRはH又はC1〜C4アルキルであり、かつ好ましくはHであり;かつnは、3〜9、好ましくは3〜8及びより好ましくは3〜6である。nが変動する値を有する複数の低重合エチレングリコール誘導体である場合には、好ましくはnの平均値は、上記の保護が請求された範囲内であり、及びより好ましくは前記組成物中に含まれる全て又は実質的に全ての低重合エチレングリコール誘導体は上記で提供されたnの範囲内である。
【0012】
前記組成物のラテックスは有利にはエマルションポリマーであり、かつ純アクリル、スチレンアクリル、ビニルアクリル及びアクリル化エチレン酢酸ビニルコポリマーからなる群から選択されることができるか、又はアクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸及びメタクリル酸エステルからなる群から選択される少なくとも1つのアクリルモノマーから誘導されることができるか、又はさらに、スチレン、α−メチルスチレン、塩化ビニル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、ウレイドメタクリラート、酢酸ビニル、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、エチレン及びC4〜C8共役ジエンからなる群から選択される1つ又はそれ以上のモノマーから誘導されることができる。
【0013】
一実施態様によれば、前記組成物はペイントである。ペイントを提供するためには、少なくとも1つの無機顔料が前記組成物に添加される。そのような顔料は有利には、TiO2、粘土、CaCO3、タルク、重晶石、酸化亜鉛、亜硫酸亜鉛及びそれらの組合せからなる群から選択されることができる。
【0014】
前記組成物は、当業者に知られているように、ラテックス組成物の特性を変更するための付加的な添加剤を、それらの添加剤が前記組成物のVOC含有量をこの開示により考えられる値を上回って増加させない限り、含有していてよい。これらの添加剤は、1つ又はそれ以上の可塑剤、乾燥遅延剤、分散剤、界面活性剤又は湿潤剤、流動性改質剤(rheology modifiers)、消泡剤、増粘剤、殺生物剤、殺黴剤、着色剤、ろう、香料又は助溶剤を含んでいてよい。
【0015】
別の実施態様によれば、本発明は、乳化重合を用いてポリマーラテックス結合剤を製造し、かつ前記結合剤をエチレングリコール誘導体と組み合わせて水性組成物を形成する工程を含む水性塗料組成物を製造する方法を含む。場合により、少なくとも1つの顔料及びその他の添加剤は、生じるラテックス結合剤組成物と混合されて水性塗料組成物が製造されることができる。選択的に、本発明のエチレングリコール誘導体は、塗料組成物を製造する伝統的な方法において使用されるVOC溶剤を置換するために使用されることができる。
【0016】
別の実施態様によれば、本発明は、乾燥された塗料組成物を有するコーティングされた基体を含み、その場合に乾燥された塗料組成物は、少なくとも1つの低重合エチレングリコール誘導体及び少なくとも1つのラテックス結合剤を含有する。乾燥された塗料組成物は、本明細書においてさらに詳細に論じられるような多数の添加剤を含有していてもよいが、しかし水又はその他の溶剤を実質的に含まない。
【0017】
凍解安定性及び低温融着が同時に保持されるか又は高められる塗料組成物が発明された。これらの結果は、造膜溶剤及び凍解溶剤の双方として作用する単一のノンVOC添加剤を利用することによって得られる。本発明のこれら及びその他の特徴及び利点は、本発明の多様な実施態様を記載する次の詳細な説明を考慮した際に当業者により容易に明らかになる。
【0018】
好ましい実施態様の詳細な説明
以下の詳細な説明において、好ましい実施態様は、発明の実施を可能にするために詳細に記載される。本発明はこれらの特別な好ましい実施態様に関して記載されるけれども、本発明が、以下の詳細な説明の考慮から明らかになるように、これらの好ましい実施態様に限定されるのではなく、多数の選択肢、変更態様及び均等物を含むことが理解される。
【0019】
本発明は、造膜溶剤及び凍解安定剤の双方として機能する低重合エチレングリコール誘導体を含有する水性ラテックス塗料組成物を提供する。前記エチレングリコール誘導体は、EPA Test Method 24下での揮発性有機化合物として分類されず、かつ前記組成物のVOC含有量に不利な影響を及ぼさない。故に、好都合な融着特性及び凍解特性を有する塗料組成物は、本発明によればVOC含有量を殆ど有しないか又は有さずに製造されることができる。前記組成物は、少なくとも1つのラテックスポリマー、少なくとも1つの特別なエチレングリコール誘導体及び水を含有する。前記組成物は場合により、顔料及びその他の添加剤を含有していてよいが、しかし好ましくは、ASTM法D3960を用いて決定されるような、250g/l未満のVOC含有量を有し、かつより好ましくは、100g/l未満、50g/l未満、又は実質的にゼロですら、すなわち10g/l未満のVOC含有量を有する。
【0020】
前記水性塗料組成物において使用される少なくとも1つのラテックスポリマーは、ラテックス塗料組成物の当業者に知られているような多種多様なポリマーから選択されることができる。例えば、少なくとも1つのラテックスは、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸及びメタクリル酸エステルからなる群から選択される少なくとも1つのアクリルモノマーを含むモノマーから誘導されることができる。選択的に、前記ラテックスポリマーは、スチレン、α−メチルスチレン、塩化ビニル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、ウレイドメタクリラート、酢酸ビニル、分枝鎖状の第三級モノカルボン酸のビニルエステル(例えば、Shell Chemical Companyから標章Veova(登録商標)で商業的に入手可能であるか又はExxonMobil Chemical CompanyによりExxar(登録商標) Neo Vinyl Esterとして販売されているビニルエステル)、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸及びエチレンからなる群から選択される1つ又はそれ以上のモノマーを含んでいてよい。C4〜C8共役ジエン、例えば1,3−ブタジエン、イソプレン及びクロロプレンを含むことも可能である。好ましくは、前記モノマーは、n−ブチルアクリラート、メタクリル酸メチル、スチレン及び2−エチルヘキシルアクリラートからなる群から選択される1つ又はそれ以上のモノマーを含む。前記ラテックスポリマーは、純アクリル(主モノマーとしてアクリル酸、メタクリル酸、アクリラートエステル及び/又はメタクリラートエステルを含有する);スチレンアクリル(主モノマーとしてスチレン及びアクリル酸、メタクリル酸、アクリラートエステル及び/又はメタクリラートエステルを含有する);ビニルアクリル(主モノマーとして酢酸ビニル及びアクリル酸、メタクリル酸、アクリラートエステル及び/又はメタクリラートエステルを含有する);及びアクリル化エチレン酢酸ビニルコポリマー(主モノマーとしてエチレン、酢酸ビニル及びアクリル酸、メタクリル酸、アクリラートエステル及び/又はメタクリラートエステルを含有する)からなる群から典型的には選択される。前記モノマーは、その他の主モノマー、例えばアクリルアミド及びアクリロニトリル、及び1つ又はそれ以上の官能性モノマー、例えばイタコン酸及びウレイドメタクリラートを含んでいてもよい。前記ラテックスポリマー分散液は好ましくは、固形分約30〜約75%及び約70〜約650nmの平均ラテックス粒度を含む。前記ラテックスポリマーは好ましくは、前記水性塗料組成物中に約5〜約60質量%及びより好ましくは約8〜約40質量%の量で存在する(すなわち塗料組成物の全質量を基準とした乾燥ラテックスポリマーの質量百分率)。
【0021】
少なくとも1つの低重合エチレングリコール誘導体は、構造:
RO−(CH2−CH2−O−)n−H
を有し、ここでRはH又はC1〜C4アルキルであり、かつ好ましくはHであり;かつnは、3〜9、好ましくは3〜8及びより好ましくは3〜6である。nが変動する値を有する複数の低重合エチレングリコール誘導体である場合には、好ましくはnの平均値は、上記の保護が請求された範囲内であり、及びより好ましくは前記組成物中に含まれる全て又は実質的に全ての低重合エチレングリコール誘導体は上記で提供されたnの範囲内である。前記誘導体は、前記塗料組成物の別個の成分として使用され、かつ前記ラテックス結合剤の高分子構造中へ組み込まれない。前記低重合添加剤は有利には、塗料組成物内部で、ラテックスポリマーの乾燥質量を基準として、約1質量%〜約10質量%、より有利には2質量%〜8質量%、及びさらにより有利には3質量%〜7質量%の量で存在する。
【0022】
前記水性塗料組成物は、少なくとも1つの顔料を含んでいてよい。本明細書で使用されるような"顔料"という用語は、非塗膜形成固形分、例えばエキステンダー及び充填剤を含む。少なくとも1つの顔料は好ましくは、TiO2(アナスターゼ(anastase)及びルチルの双方の形で)、粘土(ケイ酸アルミニウム)、CaCO3(粉砕及び沈降の双方の形で)、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素、酸化マグネシウム、タルク(ケイ酸マグネシウム)、重晶石(硫酸バリウム)、酸化亜鉛、亜硫酸亜鉛、酸化ナトリウム、酸化カリウム及びそれらの混合物からなる群から選択される。適した混合物は、金属酸化物のブレンド、例えば、標章Minex(登録商標)(Unimin Specialty Mineralsから商業的に入手可能なケイ素、アルミニウム、ナトリウム及びカリウムの酸化物)、Celites(登録商標)(Celite Companyから商業的に入手可能な酸化アルミニウム及び二酸化ケイ素)、Atomites(登録商標)(English China Clay Internationalから商業的に入手可能)、及びAttagels(登録商標)(Engelhardから商業的に入手可能)で販売されているものを含む。より好ましくは、少なくとも1つの顔料は、TiO2、CaCO3又は粘土を含む。一般的に、前記顔料の平均粒度は、約0.01〜約50ミクロンである。例えば、前記水性塗料組成物において使用されるTiO2粒子は典型的に、約0.15〜約0.40ミクロンの平均粒度を有する。前記顔料は、粉末として又はスラリー形で水性塗料組成物に添加されることができる。前記顔料は好ましくは、前記水性塗料組成物中に約5〜約50質量%、より好ましくは約10〜約40質量%の量で存在する(すなわち、塗料組成物の全質量を基準とした顔料の質量百分率)。
【0023】
前記塗料組成物は場合により、常用のコーティング添加剤、例えば、分散剤、付加的な界面活性剤(すなわち湿潤剤)、流動性改質剤、消泡剤、増粘剤、殺生物剤、殺黴剤、着色剤、例えば着色顔料及び染料、ろう、香料、助溶剤等を含有していてよい。任意の添加剤は、常用のラテックス組成物の当業者に知られているような方法及び量で使用されることができるが、しかし添加剤は好ましくは、本明細書で提供された好ましい値を上回って前記組成物の全VOC含有量を増加させない。
【0024】
前記塗料組成物は、付加的に凍結防止剤、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン(1,2,3−トリヒドロキシプロパン)、エタノール、メタノール、1−メトキシ−2−プロパノール、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール及びFTS-365(Inovachem Specialty Chemicalsからの凍解安定剤)を含んでいてよい。そのうえ、前記塗料組成物は、付加的な造膜溶剤、例えば2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチラート(すなわちEastman Chemicalから商業的に入手可能なTexanol(登録商標))、2−エチルヘキシルベンゾアート(すなわちVesicol Corporationから商業的に入手可能なVelate(登録商標) 378)、ジエチレングリコール及びジプロピレングリコールアルキルエーテルを含んでいてよい。より好ましくは、前記水性塗料組成物は、付加的な凍結防止剤及び造膜溶剤を1.0%未満含むか又は実質的に含まない(例えば0.1%未満)。使用される場合に付加的な凍結防止剤及び造膜溶剤は、本明細書で提供された好ましい値を上回って前記組成物の全VOC含有量を増加させない。
【0025】
前記水性塗料組成物の残部は水である。水の多くが、前記ポリマーラテックス分散液及び前記水性塗料組成物のその他の成分中に存在するけれども、水は、一般的に水性塗料組成物に別個にも添加される。典型的には、前記水性塗料組成物は、水約10質量%〜約85質量%及びより好ましくは約35質量%〜約80質量%を含む。変えて述べると、前記水性塗料組成物の全固形分含有量は、典型的には約15%〜約90%、より好ましくは、約20%〜約65%である。
【0026】
前記塗料組成物は典型的には、乾燥されたコーティングが、乾燥ポリマー固体及び低重合エチレングリコール誘導体少なくとも5体積%及び顔料の形の非高分子固形分5〜90体積%を含有するようにペイントとして配合される。乾燥されたコーティングは、前記塗料組成物の乾燥の際に蒸発しない添加剤、例えば可塑剤、分散剤、界面活性剤、流動性改質剤、消泡剤、増粘剤、殺生物剤、殺黴剤、着色剤、ろう等を含んでいてもよい。
【0027】
前記塗料組成物は、特に低温での、本明細書に記載された低重合エチレングリコール誘導体を有しないそれ以外は類似した組成物と比較して匹敵しうるか又は改善された融着を示す。低温融着は、水の凝固点近くの温度、典型的に35〜40°F(1.7〜4.4℃)でのペイント塗布にあてはまる。前記ペイントは、通常そのような温度で融着し、かつさもなければ実施することが予想される。
【0028】
前記塗料組成物は有利に、凝集なしにASTM法D2243-82を用いる凍解サイクルにかけられることができる。さらに、本発明の水性塗料組成物は、良好な熱貯蔵安定性を示す。
【0029】
本発明は、少なくとも1つのラテックスポリマー、低重合体あたり3〜9個のグリコール単位を有する少なくとも1つの低重合エチレングリコール誘導体及び水と共に混合することによって塗料組成物を製造する方法を含む。顔料は有利には、水性ラテックスペイントを提供するために添加されることができる。有利には、前記ラテックスポリマーは、ラテックスポリマー分散液の形である。上記で論じた添加剤は、前記水性塗料組成物中のこれらの添加剤を提供するために、いずれかの適した順序で、ラテックスポリマー、顔料又はそれらの組合せに添加されることができる。ペイント配合物の場合に、前記水性塗料組成物は好ましくは、7〜10のpHを有する。
【0030】
前記ラテックスポリマーは、前記水性塗料組成物中で重合可能であるか又は重合可能でないその他のイオン性又は非イオン性のタイプの界面活性剤との組合せで使用されることができる。例えば、前記ポリマーラテックス結合剤は、当業者に知られているような開始剤、例えば過硫酸アンモニウム又は過硫酸カリウム、又は典型的には酸化体及び還元剤を含むレドックス系での乳化重合を用いて製造されることができる。通常使用されるレドックス開始系は、例えば、A.S. Saracにより、Progress in Polymer Science 24 (1999), 1149-1204に記載されている。
【0031】
前記組成物は、少なくとも1つの低重合エチレングリコール誘導体、少なくとも1つのラテックス結合剤及び水から本質的になるとみなされることができ、ここで前記塗料組成物の少なくとも1つの低重合エチレングリコール誘導体は、構造RO−(CH2−CH2−O−)n−Hを有し、ここでRはH又はC1〜C4アルキルであり、かつ好ましくはHであり、かつnは、3〜9、好ましくは3〜8及びより好ましくは3〜6である。本明細書で使用されるように、"から本質的になる"という文言は、本明細書で定義された添加剤に加えて、しかし造膜溶剤又は凍解改質剤として機能する添加剤を除いた、ラテックス結合剤、エチレングリコール誘導体及び水を包含する。
【0032】
前記水性塗料組成物は、多種多様な材料、例えば紙、木材、コンクリート、金属、ガラス、セラミック、プラスチック、プラスター及び屋根用基体、例えばアスファルトコーティング、ルーフィングフェルト、発泡ポリウレタン断熱材;又は予めペイントされたか、プライマーコーティングされたか、アンダーコーティングされたか、摩耗されたか又は風化された基体に塗布されることができる安定な流体である。前記水性塗料組成物は材料に、当業者に十分知られた多様な技術、例えば、ブラシ、ローラー、モップ、エアアシストスプレー又はエアレススプレー、静電スプレー等により塗布されることができる。
【0033】
造膜溶剤及び凍解安定剤の双方が、VOCに寄与しないが、しかし耐摩耗性を改善する一方で、凍解抵抗性及び低温硬化を保持する単一の添加剤で置換されることができることを見出したのは意外である。そのような場合において、当業者は、凍解抵抗性及び耐摩耗性の同時の減少を予想するだろう。それにもかかわらず、前記低重合エチレングリコールは、予期せずに、凍解抵抗性及び耐摩耗性の双方を保持するか又は改善する。
【0034】
本発明は、目下、次の限定されない例によりさらに記載される。
【0035】
実施例
例1:エチレングリコール誘導体の低揮発性の証明
全てのアクリルラテックスを、ポリマー固体の全量を基準として1質量%の量で、エチレングリコール(EG)又はその低重合体であるジエチレングリコール(DEG)又はトリエチレングリコール(TEG)とブレンドした。これらのブレンドのアリコート及びラテックスのみの対照を、ヘッドスペースGC法により特性決定した。次の表にはどの物質を調査したかが示されており、かつ全てのVOCの結果は第1表にppmで与えられている:
【表1】

【0036】
ラテックスのみの対照は、全VOC 6790ppmを記録した。エチレングリコール1%の添加は、ヘッドスペース法により、インクリメンタルVOC 8474ppmを加算する。上記で示されるように、TEGは本質的に、ヘッドスペース法を用いてさえ測定可能なインクリメンタルVOCを記録しない。
【0037】
例2:エチレングリコール低重合体を用いる凍解安定性の証明
この例において示されるように、本発明のオリゴマーでエチレングリコールを直接置換することは、凍解安定で本質的にゼロVOCのコーティングを生じさせる。以下の表は、本発明による異なるエチレングリコール低重合体を含有する水性ラテックスペイント配合物(1b〜1e)及び凍解安定性へのそれらの影響を示す。体積あたり等しい質量でエチレングリコール溶剤(1a)又はエトキシル化界面活性剤(1f〜1h)のいずれかを含有する比較配合物も、第2表に示されている。成分の数値は質量基準で与えられる。ペイント配合物はそれぞれ、質量固形分約46.9%、体積固形分33.8%、PVC 21.4、10.395lbs/galの密度、EGを有する場合の41.8g/LのVOC含有量及びEGを有しない場合の4.3g/LのVOCを有していた。
【0038】
【表2】

【0039】
【表3】

1 Dexter Chemical Co., Bronx, NY
2 Cognis Corporation, Ambler, PA
3 Avecia Biocides, Wilmington, DE
4 Rohm and Haas Co., Springhouse, PA
5 Dow Chemical Co., Midland, MI
6 Kronos Worldwide Inc., Cranberry, NJ
7 Engelhard Corp., Iselin, NJ
8 Aqualon Co., Wilmington, DE
9 E.I. du Pont de Nemours and Company, Wilmington, DE
10 Equistar, Houston TX
11 BASF Corp., Florham Park, NJ。
【0040】
前記ペイントからのEGの除去は、前記ペイントのVOC含有量を約42g/lから約4g/lへ減少させる。残留VOCは、AMP 95、アミノメチルプロパノールに主に起因し、これはペイントpHを調節するために使用される。AMP 95の除去は、VOCレベルを約1g/lに低下させる。任意の残留VOCは、その他の添加剤、例えば界面活性剤、分散剤及び消泡剤のVOC含有量に起因するので、EGの除去は、本質的に全ての揮発性凍解増強剤の除去を表す。前記ペイントは、揮発性造膜溶剤を欠くように既に配合されている。
【0041】
凍解データは明らかに、不揮発性EG低重合体、例えばTEG及びPluracol(登録商標) E200でのEGの置換が、ストーマー粘度の上昇により測定されるような本質的に等価な凍解安定性となることを示す。より長い低重合体(Pluracol(登録商標) P425、試料1e)及びエトキシル化界面活性剤(Pluronic(登録商標)グレード、試料1f〜1h)は、効率的な凍解安定剤とはいえない、なぜなら完全な凝集が、使用不能にすることを引き起こすからである(失敗の評点により示される)。プロピレンオキシド及びエチレンオキシドのブロックコポリマーであるPluronic(登録商標)グレードは、本発明の低重合体ほど有効ではなかった。
【0042】
例3:エチレングリコール低重合体を用いる凍解抵抗性及び耐摩耗性の証明
ペイントを、造膜溶剤を用いずに第2表と同じ配合表を用いて製造した。エチレングリコール(試料1)12lb/100galを含有する対照ペイントを製造し、かつEGの低分子量低重合体(試料2〜4)又はPluronic(登録商標)界面活性剤(試料5)のいずれかの等しい質量百分率を含有するペイントと比較した。
【0043】
以下の第3表中のデータは明らかに、トリ−エチレングリコール(TEG)及びPluracol(登録商標) E200及びP425が摩耗改善をもたらすことを示す。TEG及びPluracol(登録商標) E200は、これをする一方で凍解抵抗性を保持するが、しかしPluracol(登録商標) P425は、凍解安定性を保持することができない。比較のために含まれていた、界面活性剤Pluronic(登録商標) F38(プロピレンオキシド及びエチレンオキシドのブロックコポリマー)は、凍解安定性を促進するが、しかし先行技術のように耐摩耗性を犠牲している。フロー及びレベリング、垂れ下がり抵抗、光沢、隠ぺい率、膨れ抵抗性、アルキドに対する湿潤及び乾燥接着及び耐ブロック性は、低重合体、TEG及びE 200でのエチレングリコールの置換の際に変わらない。しかしながら、Pluracol(登録商標) P425は、受け入れることができない耐ブロッキング性をまねき、かつPluracol(登録商標) P425及びPluronic(登録商標) F38の双方は前記ペイントの受け入れることができないたるみを引き起こす。
【0044】
【表4】

【0045】
【表5】

【0046】
貯蔵後の低重合体の効力を確認するために、ペイント試料を50℃で二週間貯蔵し、ついで凍解サイクルにかけた。ASTM法D2243-82を用いて製造した以下の第4表中のデータは、TEG及びPluracol(登録商標) E200試料が凍解の幾つかのサイクルに耐えることができることを示している。
【0047】
【表6】

【0048】
本発明の上記の説明を読んだ際に、当業者が、それらから変更及び変形がなされることができることが理解される。これらの変更及び変形は、以下に添付された特許請求の範囲の精神及び範囲に含まれるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)次の構造:
RO−(CH2−CH2−O−)n−H
を有する少なくとも1つの低重合エチレングリコール誘導体、ここで、RはH又はC1〜C4アルキルであり、かつnは3〜9である;
(b)少なくとも1つのラテックスポリマー;及び
(c)水
を含んでなることを特徴とする、水性塗料組成物。
【請求項2】
さらに少なくとも1つの無機顔料を含有する、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
無機顔料が、TiO2、粘土、CaCO3、タルク、重晶石、酸化亜鉛及び亜硫酸亜鉛からなる群から選択される、請求項2記載の組成物。
【請求項4】
RがHである、請求項1記載の組成物。
【請求項5】
nが3〜8である、請求項1記載の組成物。
【請求項6】
nが3〜6である、請求項1記載の組成物。
【請求項7】
RがHである、請求項6記載の組成物。
【請求項8】
少なくとも1つのラテックスポリマーが、純アクリル、スチレンアクリル、ビニルアクリル及びアクリル化エチレン酢酸ビニルコポリマーからなる群から選択される、請求項1記載の組成物。
【請求項9】
少なくとも1つのラテックスポリマーが、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸及びメタクリル酸エステルからなる群から選択される少なくとも1つのアクリルモノマーから誘導される、請求項1記載の組成物。
【請求項10】
少なくとも1つのラテックスポリマーが、スチレン、α−メチルスチレン、塩化ビニル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、ウレイドメタクリラート、酢酸ビニル、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、エチレン及びC4〜C8共役ジエンからなる群から選択される1つ又はそれ以上のモノマーからさらに誘導される、請求項9記載の組成物。
【請求項11】
250g/l未満の揮発性有機化合物(VOC類)を含有する、請求項1記載の組成物。
【請求項12】
100g/l未満のVOC類を含有する、請求項11記載の組成物。
【請求項13】
50g/l未満のVOC類を含有する、請求項11記載の組成物。
【請求項14】
10g/l未満のVOC類を含有する、請求項11記載の組成物。
【請求項15】
可塑剤、乾燥遅延剤、分散剤、界面活性剤又は湿潤剤、流動性改質剤、消泡剤、増粘剤、殺生物剤、殺黴剤、着色剤、ろう、香料及び助溶剤からなる群から選択される1つ又はそれ以上の添加剤をさらに含有する、請求項1記載の組成物。
【請求項16】
(a)次の構造:
RO−(CH2−CH2−O−)n−H
を有する少なくとも1つの低重合エチレングリコール誘導体、ここで、RはH又はC1〜C4アルキルであり、かつnが3〜9である;
(b)少なくとも1つのラテックスポリマー;
(c)少なくとも1つの無機顔料;及び
(d)水
を含んでなることを特徴とする、ラテックスペイント組成物。
【請求項17】
ラテックスポリマーがアクリルラテックスポリマーである、請求項16記載のペイント組成物。
【請求項18】
ラテックスポリマーがブチルアクリラート/メタクリル酸メチルコポリマーである、請求項17記載のペイント組成物。
【請求項19】
RがHである、請求項16記載のペイント組成物。
【請求項20】
nが3〜6である、請求項16記載のペイント組成物。
【請求項21】
50g/l未満の揮発性有機化合物(VOC類)を含有する、請求項16記載のペイント組成物。
【請求項22】
実質的にVOC類を含有しない、請求項21記載のペイント組成物。
【請求項23】
(a)次の構造:
RO−(CH2−CH2−O−)n−H
を有する少なくとも1つの低重合エチレングリコール誘導体、ここで、RはH又はC1〜C4アルキルであり、かつnは3〜9である;
(b)少なくとも1つのラテックスポリマー;
(c)場合により少なくとも1つの無機顔料;
(d)場合により1つ又はそれ以上の添加剤;及び
(e)水
を含んでなる低揮発性成分から本質的になることを特徴とする、VOC不含の水性塗料組成物。
【請求項24】
RがHである、請求項23記載の組成物。
【請求項25】
nが3〜6である、請求項23記載の組成物。
【請求項26】
次の構造:
RO−(CH2−CH2−O−)n−H
を有する少なくとも1つの低重合エチレングリコール誘導体、ここで、RはH又はC1〜C4アルキルであり、かつnは3〜9である;
少なくとも1つのラテックスポリマー;及び

を含んでなる水性塗料組成物;
であって、前記組成物は付加的な造膜溶剤及び凍解安定剤を実質的に含まないことを特徴とする、水性塗料組成物。
【請求項27】
RがHである、請求項26記載の組成物。
【請求項28】
nが3〜6である、請求項26記載の組成物。
【請求項29】
基体;及び
基体上へコーティングされた乾燥された塗料組成物を有し、ここで前記乾燥されたコーティングは、構造RO−(CH2−CH2−O−)n−H[ここで、RはH又はC1〜C4アルキルであり、かつnは3〜9である]を有する少なくとも1つの低重合エチレングリコール誘導体及び少なくとも1つのラテックス結合剤を含有する
ことを特徴とする、コーティングされた基体。
【請求項30】
RがHである、請求項29記載のコーティングされた基体。
【請求項31】
nが3〜6である、請求項29記載のコーティングされた基体。
【請求項32】
乳化重合を用いてポリマーラテックス結合剤を製造する工程;及び
前記結合剤を、次の構造:
RO−(CH2−CH2−O−)n−H
[ここで、RはH又はC1〜C4アルキルであり、かつnは3〜9である]を有するエチレングリコール誘導体と組み合わせて水性組成物を形成させる工程
を含むことを特徴とする、水性塗料組成物を製造する方法。
【請求項33】
前記混合工程が、RがHである少なくとも1つのエチレングリコール誘導体の混合を含む、請求項32記載の方法。
【請求項34】
前記混合工程が、nが3〜6である少なくとも1つのエチレングリコール誘導体の混合を含む、請求項32記載の方法。
【請求項35】
少なくとも1つの顔料を水性組成物に添加する工程をさらに含む、請求項32記載の方法。

【公表番号】特表2008−537007(P2008−537007A)
【公表日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−507646(P2008−507646)
【出願日】平成18年1月6日(2006.1.6)
【国際出願番号】PCT/US2006/000150
【国際公開番号】WO2006/115550
【国際公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】