説明

体外循環回路

【課題】梱包時等の配管折れを防止できる体外循環回路を提供する。
【解決手段】体外循環回路の血液流路には分岐部11が介装されている。この分岐部11は、分岐管21に接続される分岐管接続部23と、本管24に接続される本管接続部25とから構成されている。分岐管接続部23には挿入部26が設けられ、この挿入部26が本管接続部25に挿入されて接続されている。この分岐管接続部23は本管接続部25に対して回転自在となっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工心肺血液回路等の体外循環回路に関するものであり、特に、配管折れやねじれ等を防止し、立体的構造による視認性を向上し、製作しやすくすることができる体外循環回路に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、体外で血液等を循環させるための装置として体外循環回路が知られており、この種の体外循環回路を利用した装置として人工心肺用血液回路、人工腎臓用血液回路等がある。例えば、人工心肺用血液回路では、血液流路を形成する配管が患者の脱血口から順次、リザーバ(貯血槽)、送血ポンプ、熱交換器、人工肺、動脈フィルター等を介在させて、送血口に接続されている。この配管を通じて血液が循環し、人工肺により静脈血の酸素加及び炭酸ガス除去が行われる。また、脱血口と送血口との間には再循環回路が接続されているのが一般的である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、一般に体外循環回路の主配管には、例えば図6に示すような分岐部101が設けられている。この分岐部101は本管102を2本の分岐管103,103に分岐するように例えばY字状に形成されている。一般に、本管102,103として軟質チューブが使用されている。
【0004】
しかしながら、装置の梱包時に分岐管103が例えば梱包ケースの内面に接触していたような場合には、分岐管103が折れ曲がった状態で長時間の運搬が行われることになり、曲折点P1,P2は使用時に曲がったままで狭窄部が生じるおそれがあるという欠点があった。また、P1,P2で曲がらない場合はP3付近にねじれが生じ使用時にまっすぐに復帰しない欠点があった。
【0005】
また、手術場での組立時には分岐部101に対して視認性向上のためある程度のねじれが要求される場合があるが、軟質チューブは一定の形状に復元しようとする性質があるため、製作作業が煩わしいという欠点もあった。この場合も、前記の折れ、曲がり、ねじれの問題は同様である。
【0006】
そこで、本発明は、上述したような課題を解決したものであって、梱包時等の配管折れを防止するとともに、分岐部にねじれが要求される場合でも製作が容易な体外循環回路を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の課題を解決するため、本発明の請求項1記載の体外循環回路は、血液等の循環流体を循環させる流路に分岐部が介装され、分岐部は、分岐管に接続される分岐管接続部と、本管に接続される本管接続部とからなり、分岐管接続部あるいは分岐管が本管接続部に回転自在に接続されていることを特徴とするものである。
【0008】
分岐管の一方が他の部材に接触して配管折れが生じた場合は、分岐管接続部を本管接続部に対して回転させる。これによって、他の部材等との接触が回避され、配管折れが防止されることになる。
【0009】
また、体外循環回路の手術場での組立時に、本管又は分岐管のいずれかにある程度のねじれが要求されたときにも、分岐管接続部を本管接続部に対して手術場で回転させる。これによって、製作時は配管にねじれを考慮することなく接続を行うことができるので、製作作業が容易になる。
【0010】
請求項2記載の体外循環回路は、請求項1記載の体外循環回路において、分岐管接続部が本管接続部の管軸を中心として回転自在であることを特徴とするものである。したがって、分岐管接続部を回転させても、本管に対して無理なねじれを生じさせることがない。同様に各分岐管を管軸を中心として回転自在とした場合も無理なねじれを生じさせることがない。
【0011】
請求項3記載の体外循環回路は、請求項1記載の体外循環回路において、分岐管接続部あるいは分岐管が本管接続部に対して着脱可能であることを特徴とするものである。体外循環回路の製作時やメンテナンス時には、必要に応じて分岐管接続部を本管接続部から分離して作業を行う。したがって、配管が製作作業の妨げにならず、メンテナンスが容易になる。また、手術場での回路組立時の汚染、リーク等や体外循環時のリーク、血栓生成等の部分的に緊急な交換に対処できる。
【0012】
請求項4記載の体外循環回路は、請求項1記載の体外循環回路において、分岐管接続部と本管接続部とが共に硬質合成樹脂で形成されていることを特徴とするものである。したがって、分岐管接続部と本管接続部が変形することによる液漏れや狭窄部の発生が防止されるようになる。また、操作性も良好となる。
【0013】
請求項5記載の体外循環回路は、請求項3記載の体外循環回路において、分岐管接続部に接続用の筒状挿入部が設けられ、筒状挿入部の外面に係合用の凹又は凸部が設けられ、本管接続部が筒状に形成され、筒状挿入部を本管接続部の筒内に挿入したとき、凹又は凸部が本管接続部の内面に係合することにより接続されることを特徴とするものである。すなわち、簡易な構成で両部品が確実に接続される。
【0014】
請求項6記載の体外血液循環回路は、請求項5記載の体外循環回路において、本管接続部の筒内にOリング又はリップシールが取り付けられ、本管接続部の筒内に挿入された筒状挿入部の先端がOリング又はリップシールに当接して、分岐管接続部と本管接続部との接続部分が封止されることを特徴とするものである。分岐管接続部と本管接続部とを接続した状態では、Oリング又はリップシールによって液漏れが防止されるようになる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の請求項1記載の体外循環回路によれば、分岐管接続部あるいは分岐管が本管接続部に対して回転自在であるので、本管又は分岐管が他の部材に接触する場合でも、分岐管接続部を本管接続部に対して回転させることによって、他の部材との接触を回避して配管折れを防止することができる。したがって、配管折れに起因する配管の材質劣化や狭窄部の発生による循環障害の発生等を防止することができる。また、装置の製作時で配管のねじれが要求される場合であっても、分岐管接続部を回転させることにより対応できるので、製作時はねじれ考慮の不要となるので製作作業が容易になる。
【0016】
請求項2記載の体外循環回路によれば、分岐管接続部が本管接続部の管軸を中心として回転自在であるため、分岐管接続部を回転させても本管に対して無理なねじれが生じることがなくなる。同様に各分岐管を管軸を中心として回転自在として場合も無理なねじれを生じさせない。
【0017】
請求項3記載の体外循環回路によれば、分岐管接続部あるいは分岐管を本管接続部に対して着脱可能であるので、装置の製作やメンテナンスを容易にすることができる。
【0018】
請求項4記載の体外循環回路によれば、分岐管接続部と本管接続部とが共に硬質合成樹脂で形成されているので、部材の変形による液漏れや狭窄部の発生を防止することができる。
【0019】
請求項5記載の体外循環回路によれば、分岐管接続部の凹又は凸部が本管接続部の筒内に係合して接続するので、簡易な構成により両部品を接続することができる。
【0020】
請求項6記載の体外循環回路によれば、分岐管接続部と本管接続部の接続部分がOリング又はリップシールによって封止されるので、簡易な構成で液漏れを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
続いて、本発明に係る体外循環回路を人工心肺用血液回路に適用した場合の実施の形態を図面を参照して詳細に説明する。
【0022】
本発明の体外循環回路では、図1に示すように、血液流路を形成する第1の配管10が、患者の脱血口2から順次、リザーバ(フィルター付)13、遠心ポンプ6、熱交換器8、人工肺9、動脈フィルター16(バイパス回路)を介在させて、送血口3に接続されている。この第1の配管10を通じて血液が循環し、人工肺により静脈血の酸素加及び炭酸ガス除去が行われる。
【0023】
また、リザーバ(フィルター付)13にはローラポンプ14を介在させて術野の出血場所から血液を吸引している。また、再循環回路17が脱血口2と送血口3の間に接続されている。
【0024】
分岐部11は、その一例を図2に示すように、2本の分岐管21,21が接続されている分岐管接続部23と、本管24が接続されている筒状の本管接続部25とから構成されている。
【0025】
分岐管接続部23は本管24から流入する液体を分岐管21,21に分岐する硬質合成樹脂製のY字管であり、本管24と分岐管21,21のそれぞれに対応する端部には血液等を流通させるための開口が設けられている。分岐側の端部は小径部27,27となっており、ここに軟質チューブである分岐管21,21が接続されている。分岐管21,21の接続部分はバンド34,34で締め付けられている。
【0026】
分岐管接続部23の本管24側の端部は、本管接続部25に挿入嵌合される挿入部26となっている。挿入部26の外周には断面半円状の係合用の凸部27が周方向に形成されている。
【0027】
一方、本管接続部25は硬質合成樹脂製の筒状体であり、その一端には小径部31が形成されて、ここに軟質チューブである本管24が接続されている。なお、本管24の接続部分はバンド34で締め付けられている。
【0028】
本管接続部25の内径は挿入部26の外径より僅かに大きい程度となっており、挿入された挿入部26が隙間なく嵌合する。本管接続部25の内周面には断面半円弧状の凹部32が設けられ、ここに分岐管接続部23の凸部27が係合して連結されている。また、本管接続部25の内周面にはOリング33が嵌め込まれ、これに対して分岐管接続部23の開口先端が当接して封止され、流通する液体の漏出が防止されている。
【0029】
また、分岐管接続部23は本管接続部25に対して、本管接続部25の管軸を中心として回転自在となっている。詳細は後述するが、これは装置の梱包時等の配管折れを防止し、また製作時に分岐部11に要求されるねじれ等に対応するためである。また、本管24と分岐管21の関係は逆もあり、すなわち、分岐管21の片方もしくは両方が本管接続部25と同様の構造で連結されている場合もある。
【0030】
以上のように構成された体外循環回路についてその作用について説明する。図3に示すように、体外循環回路を梱包ケース39等に収納したとき、分岐管21の一方がケース39の内面に接触する場合がある。このとき、分岐管接続部23を本管接続部25に対して回転させることによって、容易にケース39との接触を回避して、配管折れを防止することができる。このように、本発明によれば配管折れに起因する狭窄部の発生を防ぎ、材質の劣化を防止することができる。なお、分岐管接続部23は本管接続部25の管軸を中心として回転自在であるので、本管24に対して無理なねじれを生じさせることがない。分岐管の管軸の中心回転に関しても同様である。
【0031】
また、体外血液循環装置を手術室等に設置したとき、本管24又は分岐管21が他の装置と接触する場合や視認性が悪い場合でも、分岐管接続部23を回転させることにより、配管折れが防止され、狭窄部による循環障害等の事態を回避して安全性と良好な視認性による異状の早期発見を確保することができる。
【0032】
さらに、体外循環回路の製作時には、本管24又は分岐管21,21のいずれかにある程度のねじれが要求される場合があるが、分岐管接続部23を回転させることによって手術現場で対応でき、製作時はねじれの考慮が不要なので製作作業が容易になる。
【0033】
図4に示すように本発明の体外循環回路では、分岐管接続部23が本管接続部25に対して着脱可能となっている。すなわち、分岐管接続部23を引くと、凸部27が弾性変形して凹部32から外れ、本管接続部25から分離する。本管と分岐管の関係は逆であってもよい。
【0034】
このように、分岐管接続部23を本管接続部25から必要に応じて外すことによって、配管が製作やメンテナンスの作業の妨げにならない。また、動脈フィルター16にリーク等の事故が生じた場合でも、体外循環中であってもバイパス回路を使用し動脈フィルターの交換が可能である。なお、接続を行うときは、分岐管接続部23を本管接続部25に挿入することによって、凸部27が弾性変形して凹部32に係合する。
【0035】
また、分岐管接続部23と本管接続部25とは硬質合成樹脂で形成されており、部品の変形による液漏れや狭窄部の発生や不慮の抜けを防止することができる。操作性も良好である。また、分岐管接続部23と本管接続部25とはOリング33によって隙間が封止されているので、液漏れ等を防止することができる。さらに、この分岐部11は、分岐管接続部23、本管接続部25、及びOリング33の3個の部品のみで構成されており、構成がきわめて簡易である。
【0036】
図5に本発明の他の実施の形態の一例を示す。上述した実施の形態では分岐管接続部23はY字状に形成されていたが、図1の再循環回路17の両端の接続部18(40)に示されたように、この実施の形態では分岐管接続部43をT字状にしたものである。
【0037】
分岐部40は、1本の分岐管41が接続されている分岐管接続部43と、2本の本管44,44に接続されている筒状の本管接続部45,45とから構成されている。
【0038】
分岐管接続部43は本管44,44から流入する液体を分岐管41に分岐するT字管であり、本管44,44と分岐管41のそれぞれについて液体を流通させるための開口が設けられている。分岐側の端部は小径部47となっており、ここに軟質チューブである分岐管41が接続されている。分岐管41の接続部分はバンド54で締め付けられている。
【0039】
分岐管接続部43の本管44,44側の端部は、本管接続部45,45に挿入嵌合される挿入部46,46となっている。挿入部46,46の外周には断面半円状の係合用の凸部47,47が周方向に形成されている。
【0040】
一方、本管接続部45,45は筒状体であり、その一端には小径部51,51が形成されており、ここに軟質チューブである本管44,44が接続されている。なお、本管44,44の接続部分はバンド54,54で締め付けられている。
【0041】
本管接続部45,45の内径は挿入部46,46の外径より僅かに大きい程度となっており、挿入された挿入部46,46が隙間なく嵌合する。本管接続部45,45の内周面には断面半円弧状の凹部52,52が設けられ、ここに分岐管接続部43の凸部47,47が係合して連結されている。また、本管接続部45,45の内周面にはOリング53,53が嵌め込まれ、これらに対して分岐管接続部43の開口先端が当接して封止され、流通する液体の漏出が防止されている。
【0042】
この分岐部40では、分岐管接続部43は本管接続部45,45の管軸を中心に回転自在となっている。したがって、この実施の形態においても、上述と同様配管折れの防止、ねじれへの対応等の効果が得られる。また、分岐管接続部43は本管接続部45,45に対して着脱自在であり、装置の製作やメンテナンスを容易にすることができる。さらに、本管44と分岐管41との関係は逆もあり、すなわち、分岐管41が本管接続部45と同様の構造で連結されている場合もある。この場合でも、分岐管の管軸の中心回転に関して同様の効果が得られる。
【0043】
なお、この実施の形態では、分岐管接続部43の両端に本管接続部45,45を接続するようにしたが、片側のみ接続するようにしてもよい。上述した2つの実施の形態では、人工肺用血液回路に適用した場合について説明したが、他の体外循環回路、例えば人工腎臓用血液回路に適用してもよい。また、液漏れを防止するためにOリング33,53を使用したが、リップシールを用いてもよい。さらに、分岐管接続部23,43を係合する手段として凸部27,47を設けたが、分岐管接続部23,43に凹部を設け、本管接続部25,45側に凸部を設けてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の一実施の形態である体外循環回路を示す概略構成図である。
【図2】分岐部の構成を示す断面図である。
【図3】分岐管接続部を回転させた状態を示す図である。
【図4】分岐管接続部と本管接続部とを分離させた状態を示す断面図である。
【図5】分岐部の他の実施の形態を示す断面図である。
【図6】従来例で配管折れが生じている状態を示す図である。
【符号の説明】
【0045】
6 遠心ポンプ
8 熱交換器
9 人工肺
11,18(40),101 分岐部
14 ローラーポンプ
13 リザーバ(フィルター付)
16 動脈フィルター
17 再循環回路
21,41,103 分岐管
23,43 分岐管接続部
24,44,102 本管
25,45 本管接続部
26,46 挿入部
27,47 凸部
32,52 凹部
33,53 Oリング




【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液等の循環流体を循環させる流路に分岐部が介装され、
前記分岐部は、分岐管に接続される分岐管接続部と、本管に接続される本管接続部とからなり、
前記分岐管接続部あるいは分岐管が前記本管接続部に回転自在に接続されていることを特徴とする体外循環回路。
【請求項2】
前記分岐管接続部が前記本管接続部の管軸を中心としてあるいは分岐管接続部の管軸を中心として回転自在であることを特徴とする請求項1記載の体外循環回路。
【請求項3】
前記分岐管接続部あるいは分岐管が前記本管接続部に対して着脱可能であることを特徴とする請求項1記載の体外循環回路。
【請求項4】
前記分岐管接続部と前記本管接続部とが共に硬質合成樹脂で形成されていることを特徴とする請求項1記載の体外循環回路。
【請求項5】
前記分岐管接続部に接続用の筒状挿入部が設けられ、
前記筒状挿入部の外面に係合用の凹又は凸部が設けられ、
前記本管接続部が筒状に形成され、
前記筒状挿入部を前記本管接続部の筒内に挿入したとき、前記凹又は凸部が前記本管接続部の内面に係合することにより接続されることを特徴とする請求項3記載の体外循環回路。
【請求項6】
前記本管接続部の筒内にOリング又はリップシールが取り付けられ、
前記本管接続部の筒内に挿入された前記筒状挿入部の先端が前記Oリング又はリップシールに当接して、前記分岐管接続部と前記本管接続部との接続部分が封止されることを特徴とする請求項5記載の体外循環回路。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−167672(P2007−167672A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−30680(P2007−30680)
【出願日】平成19年2月9日(2007.2.9)
【分割の表示】特願平9−78450の分割
【原出願日】平成9年3月28日(1997.3.28)
【出願人】(000200677)泉工医科工業株式会社 (56)
【Fターム(参考)】