体液浄化処理用吸着カラム
【課題】 吸着対象物質の飽和吸着量を増大或いは飽和吸着に至るまでの時間を短縮可能で、カラム容量を大幅に低減可能で治療時間の大幅な短縮が可能な体液浄化処理用の吸着カラムを提供する。
【解決手段】 少なくとも低密度リポタンパクを含む吸着対象物質に特異的に結合する官能基6を多孔質担体5の表面に固定してなる体液浄化処理用の吸着カラムであって、多孔質担体5が、3次元網目構造のシリカゲルまたはシリカガラスからなる骨格体7と、骨格体の間隙に形成された水銀圧入法で測定した平均孔径が1μm以上4μm未満の範囲内の3次元網目状の貫通孔8を有し、且つ、水銀圧入法で測定した平均孔径が吸着対象物質の粒径より大きい細孔9を骨格体の表面に分散して有する2重細孔構造を備える。
【解決手段】 少なくとも低密度リポタンパクを含む吸着対象物質に特異的に結合する官能基6を多孔質担体5の表面に固定してなる体液浄化処理用の吸着カラムであって、多孔質担体5が、3次元網目構造のシリカゲルまたはシリカガラスからなる骨格体7と、骨格体の間隙に形成された水銀圧入法で測定した平均孔径が1μm以上4μm未満の範囲内の3次元網目状の貫通孔8を有し、且つ、水銀圧入法で測定した平均孔径が吸着対象物質の粒径より大きい細孔9を骨格体の表面に分散して有する2重細孔構造を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸着対象物質に特異的に結合する官能基を多孔質担体の表面に固定してなる体液浄化処理用の吸着カラムに関し、特に、血液中のLDL(低密度リポタンパク)等の病因物質の吸着除去を目的とするアフェレシス治療用の吸着カラムに関する。
【背景技術】
【0002】
アフェレシス治療は、体外循環によって血中から病気の原因となる液性因子(タンパク質やタンパクと結合して血中に存在する抗体やサイトカイン等の免疫関連物質等)や細胞(リンパ球、顆粒球、ウイルス等)を除去し、病態の改善を図る治療法である。
【0003】
血液中に存在するリポタンパク中のLDLはコレステロールを多く含み、LDLの血中濃度が上昇する高LDL血症が、動脈硬化のリスクを高め心筋梗塞や脳梗塞のリスクを高めることは良く知られている。高LDL血症の治療法の一つとして、LDLアフェレシス治療が実用されているが、治療費が高いことと患者への負担が大きいことから、専ら家族性(遺伝性)高LDL血症、閉塞性動脈硬化症、巣状糸球体硬化症等の患者の内の薬物治療が効かない重度の患者にのみ実施されているのが現状である。
【0004】
LDLアフェレシス治療は、吸着方式のアフェレシス治療で、吸着対象物質であるLDLに対して親和性を有する官能基を担体の表面に固定してなる吸着カラムに、患者の血液または血漿を灌流させることで、体外循環させた患者の血中からLDLを吸着除去する治療法である。LDL吸着カラムとしては、株式会社カネカのリポソーバ(登録商標)(下記の特許文献1、非特許文献1参照)、フレゼニウス社(ドイツ)のDALIシステム等(下記の特許文献2参照)がある。これらのLDL吸着カラムは、多数の細孔を有するビーズ状の多孔質セルロースゲル或いはポリアクリルアミドからなる担体表面に、LDLに対して親和性を有する官能基(リガンド)としてデキストラン硫酸、ポリアクリル酸等の鎖状多価酸を表面修飾して固定化し、当該表面修飾されたビーズをカラム容器内に充填して構成される。ビーズ径は、直接血液灌流法の場合250μm程度、血漿灌流法の場合50μm程度である。
【0005】
【特許文献1】特公平4−511430号公報
【非特許文献1】谷敍孝、「血液吸着装置の開発」、医器学、Vol.58、No.6、266〜273頁、1988年
【特許文献2】特公平3−254756号公報
【特許文献3】特公平3−39736号公報
【特許文献4】特開平7−41374号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、現在実用化されている多孔質セルロースゲルビーズ等を担体として使用したLDL吸着カラムには、以下に示すような問題がある。
【0007】
第1に、多孔質セルロースゲルビーズがセルロース繊維の絡まった糸鞠状で、ビーズ内の細孔径の分布が0.1〜1μmと球状のLDL分子の直径(約26〜27μm)より4〜40倍と大きく且つブロードであるため(非特許文献1(4.1担体)参照)、細孔径の拡大とともに細孔容積当たりの表面積が小さくなり、吸着効率が低下する。また、ビーズが糸鞠状のため、細孔径の分布の制御が困難であり、細孔径がLDL分子の直径程度以下の場合には、細孔表面にはLDLが吸着されず、吸着効率が低下する。
【0008】
第2に、吸着カラム内に送入された血液或いは血漿は、各ビーズ間の隙間を流路として血流によって流れるが、吸着対象物質であるLDLのビーズ内部の細孔表面への移動は拡散による移動となり、更に、担体がビーズ状でその直径が細孔径に対して大きいので、LDLはビーズ表面近傍の細孔表面にしか吸着されず、ビーズ表面近傍から深奥部に亘る細孔表面積の全てを有効に利用できない。
【0009】
第3に、上記第2の問題点を改善するためにビーズ径を小さくすると、各ビーズ状担体間の隙間が狭窄して血流の流路抵抗が高くなって圧力損失が増加し、血流の流量を大きくできない。カラム容器内にビーズ状担体を密に充填した場合を仮定すると、各ビーズ状担体間の隙間の狭窄個所を通過する流路径がビーズ径の15%程度まで狭くなること、また、当該狭窄個所がビーズ状担体によって4方向から囲まれ、一方向から当該狭窄個所に浸入する流路が対向するビーズ状担体によって大きく屈曲すること等が、圧力損失増加の要因と考えられる。
【0010】
第4に、多孔質セルロースゲル等のソフトゲルでは、更に圧力損失が高く、高流量で血液或いは血漿を送入した場合、圧密化が起こり一定流量以上では血液或いは血漿を流れなくなる。
【0011】
第5に、多孔質セルロースゲル等の高分子担体では、微量の添加剤等が含まれているため、血液中のタンパク質の吸着や血液凝固機構の活性化が起こり易くなる。
【0012】
以上を纏めると、現在実用化されている多孔質セルロースゲルビーズを担体として使用したLDL吸着カラムには、担体が多孔質セルロースゲルであることに起因する問題(第1、第4及び第5の問題)と、担体がビーズ状であることに起因する問題(第1、第2及び第3の問題)の2タイプの問題がある。
【0013】
担体が多孔質セルロースゲルであることに起因する第4の問題、即ち、圧力損失が高く、一定流量以上では血液或いは血漿を流れなくなる問題については、担体を無機多孔体で構成する解決法が、上記の特許文献3で提案されている。しかし、特許文献3では、担体として多孔質ガラスビーズ(粒径80〜120メッシュ)とアガロースゲルビーズ(粒径50〜100メッシュ)について、圧力と流速の関係を比較し、多孔質ガラスビーズ担体では圧密化が起こらずに、圧力の増加に伴い流速も増大するのに対して、アガロースゲルビーズでは、流速が増加しない点が明らかにされているに過ぎない(特許文献3の図1参照)。ここで、多孔質ガラスビーズ担体のビーズ径は、直接血液灌流法を想定した250μm程度と大きなものとなっており、各ビーズ状担体間の隙間の狭窄個所を通過する流路径も大きなものとなっている。従って、ビーズ径が圧力損失や流速に与える影響については考慮も評価も一切なされていない。更に、特許文献3では、「担体の形状は粒状、繊維状、膜状、ホロファイバー状等の任意の形状を選ぶことができる。」との記載はあるものの、実際の評価はビーズ状(球状)担体で行われており、担体形状が圧力損失や流速に与える影響については考慮も評価も一切なされていない。
【0014】
また、特許文献3では、ビーズ状担体を使用したLDL吸着体としての性能評価が行われているが、現在実用化されているLDL吸着カラムの使用形態に即した血液或いは血漿を流した状態での動的吸着試験ではなく、球状の吸着体を入れた試験管に血漿を加えて攪拌し、20℃で15分間放置後に上澄みのLDL濃度を測定するという静的吸着試験であるため、ビーズ状担体のビーズ径の影響、つまり、吸着カラム内に血液或いは血漿を通流させた状態での圧力損失の影響は十分に評価されていない。また、動的吸着試験による評価が一切されていないため、ビーズ径や担体形状がLDL吸着カラムとしての実使用状態での吸着性能に与える影響についての考慮も評価も一切なされていない。
【0015】
また、上記第1及び第2の問題により、現行のLDL吸着カラムでは、LDLの飽和吸着量が約6mg/mLに止まっており、そのため、カラム容量として非再生型の場合400〜1000mLの大きさのカラムが、また、再生型の場合150mL×2本のカラムと複雑な再生システムが必要となる。更に、飽和吸着に至るまでの時間も長いため、治療に要する時間も2〜3時間と長く、患者に与える負担が大きいものである。
【0016】
本発明は、上述の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、少なくとも低密度リポタンパクを含む吸着対象物質の飽和吸着量を増大或いは飽和吸着に至るまでの時間を短縮可能で、カラム容量を大幅に低減可能で治療時間の大幅な短縮が可能な体液浄化処理用の吸着カラムを提供することにあり、吸着対象物質がLDLの場合には、カラム容量を200mL×1本程度に低減でき、治療に要する時間も30分程度に短縮可能な体液浄化処理用の吸着カラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本願発明者等は、現行のLDL吸着カラムの担体の材質及び形状に改善の余地があることに着目し鋭意検討した結果、吸着対象物質に特異的に結合する官能基を多孔質担体の表面に固定してなる体液浄化処理用の吸着カラムにおいて、従来のようにカラム内にビーズ状の多孔質担体に官能基を固定してなるビーズ状の吸着剤を充填した構成に代えて、多孔質担体として、3次元網目構造のシリカゲルまたはシリカガラスからなる無機質の骨格体と、前記骨格体の間隙に形成された3次元網目状の貫通孔を有し、且つ、前記骨格体に貫通孔より小径の細孔が分散して形成されている一体型の多孔質担体を用い、貫通孔及び細孔の平均孔径を最適化することで、従来の吸着カラムの問題点を解決でき、大幅な性能向上が実現できることを見出した。
【0018】
即ち、上記目的を達成するための本発明に係る体液浄化処理用の吸着カラムは、少なくとも低密度リポタンパクを含む吸着対象物質に特異的に結合する官能基を多孔質担体の表面に固定してなる体液浄化処理用の吸着カラムであって、前記多孔質担体が、3次元網目構造のシリカゲルまたはシリカガラスからなる骨格体と、前記骨格体の間隙に形成された水銀圧入法で測定した平均孔径が1μm以上4μm未満の範囲内の3次元網目状の貫通孔を有し、且つ、水銀圧入法で測定した平均孔径が前記体液浄化処理における前記吸着対象物質の最大長より大きく、前記骨格体の表面から内部まで貫通する細孔を分散して有していることを第1の特徴とする。ここで、多孔質担体の表面は、多孔質担体の貫通孔及び細孔の各内壁面に相当するものであり、また、骨格体の表面は貫通孔の内壁面と同意である。
【0019】
更に、本発明に係る体液浄化処理用の吸着カラムは、上記第1の特徴に加え、前記細孔の水銀圧入法で測定した平均孔径が、前記吸着対象物質の最大長より2倍以上大きいことを第2の特徴とする。
【0020】
更に、本発明に係る体液浄化処理用の吸着カラムは、上記第1の特徴に加え、前記細孔の水銀圧入法で測定した平均孔径が、27nm以上200nm以下であることを第3の特徴とする。
【0021】
更に、本発明に係る体液浄化処理用の吸着カラムは、上記何れかの特徴に加え、前記官能基が、低密度リポタンパクに特異的に結合する親和性を有するデキストラン硫酸またはその塩、ポリアクリル酸またはその塩、或いは、その他の鎖状多価酸またはその塩であることを第4の特徴とする。
【0022】
更に、本発明に係る体液浄化処理用の吸着カラムは、上記何れかの特徴に加え、前記多孔質担体が、スピノーダル分解ゾルゲル法で合成されていることを第5の特徴とする。
【0023】
更に、本発明に係る体液浄化処理用の吸着カラムは、上記第1乃至第5の何れかの特徴に加え、前記多孔質担体が、柱状に成形され、両端面の夫々の少なくとも一部に開口部を有する筒状容器に、前記多孔質担体の柱状側面が前記筒状容器の内壁面に密着して収容され、前記筒状容器の一方の端面の前記開口部と他方の端面の前記開口部の間が、前記多孔質担体の前記貫通孔を介して連通していることを第6の特徴とする。
【0024】
更に、本発明に係る体液浄化処理用の吸着カラムは、上記第1乃至第5の何れかの特徴に加え、前記多孔質担体が、筒状に成形され、両端面の夫々の少なくとも一部に開口部と有する筒状容器に、前記多孔質担体の筒状外側面の少なくとも一部が前記筒状容器の内壁面から離間して収容され、前記筒状容器の一方の端面の前記開口部が、筒状の前記多孔質担体の外側部と内側部の両方と連通し、前記筒状容器の他方の端面の前記開口部が、筒状の前記多孔質担体の外側部と内側部の何れか一方と連通していることを第7の特徴とする。
【0025】
上記第1の特徴の体液浄化処理用の吸着カラムによれば、多孔質担体として無機質のシリカゲルまたはシリカガラスを使用しているので、従来の吸着カラムにおける多孔質担体が高分子やソフトゲルであることに起因する問題と、多孔質担体がビーズ状であることに起因する問題が同時に解消される。
【0026】
具体的には、3次元網目構造の骨格体と骨格体外に形成された3次元網目状の貫通孔を有する一体型の多孔質担体を用いることで、体液浄化処理の対象となる体液(例えば、血漿)の通流路となる貫通孔が3次元網目状に連通することから、貫通孔径が、ビーズ状担体をカラム容器内に密に充填した場合の各ビーズ状担体間の隙間の狭窄個所を通過する流路径と同じであっても、流路抵抗を低く抑制でき、圧力損失をビーズ状担体と比較して低く抑えることができる。また、ビーズ状担体も3次元網目構造の骨格体も、吸着対象物質の細孔内の移動が拡散による移動であり、各担体の表面近傍の細孔に固定されている官能基が専ら有効に機能するものと仮定すれば、担体の立体形状は、単位容積当たりの表面積が大きい3次元網目構造の方が、表面積の小さいビーズ状(球状)より、官能基が有効に機能する細孔表面積を大きくできることになる。従って、同じ流路径では、3次元網目構造の方がビーズ状担体より、圧力損失が低く、有効な細孔面積も大きくなる。つまり、3次元網目構造の方がビーズ状担体より、更に、流路径を小さくして、有効な細孔面積を更に拡大することが可能となる。
【0027】
ここで、後述するLDLを吸着対象物質とする動的吸着性能の評価結果より、貫通孔の平均孔径が1μm未満になると、圧力損失が高くなり過ぎて体液の通流が阻害されるため、体液浄化処理の効率、つまり、LDLの吸着性能が低下し、逆に、4μm以上となると、有効な細孔面積も減少することから体液浄化処理の効率、つまり、LDLの吸着性能が低下することが判明した。従って、貫通孔の平均孔径が1μm以上4μm未満の範囲内であれば、少なくともLDLに対し、吸着カラムに処理対象の体液を通流させた状態での動的吸着性能を従来の吸着カラムの5倍程度以上の大幅な向上が図れる。
【0028】
更に、骨格体に分散して形成される細孔の平均孔径が、吸着対象物質の最大長より大きく設定されることで、骨格体の貫通孔に向けて露出した表面(貫通孔表面)と、骨格体の細孔に向けて露出した表面(細孔表面)の2種類の表面に固定された官能基を吸着対象物質の吸着に供することが可能となる。つまり、細孔径が吸着対象物質の最大長(吸着対象物質が球形、楕円球形或いは円板形であれば、その直径または最大径、吸着対象物質がLDLの場合に相当する)より小さければ、吸着対象物質は細孔内に移動不能または極めて困難となり、吸着対象物質の吸着は専ら貫通孔表面に固定された官能基によることになる。これに対して、細孔径が吸着対象物質の最大長より大きければ、吸着対象物質は少なくとも1つが細孔内に移動して、細孔表面に固定された官能基に吸着可能となり、吸着に供せられる有効な骨格体の表面積が増大する。但し、細孔径が貫通孔径と同程度まで大きくなると、もはや細孔ではなく貫通孔と同等視され、細孔が骨格体の表面に分散しているという条件に該当しなくなる。従って、本発明で使用する3次元網目構造の多孔質担体の特徴は、3次元網目状の貫通孔と、それより孔径の小さい細孔の2種類の孔径による階層的な多孔質構造となっている点である。つまり、斯かる多孔質構造の特徴を利用することで、従来のビーズ状多孔体を用いた吸着カラムに対して大幅な性能向上の図れる条件設定が可能となるのである。
【0029】
更に、ビーズ状担体をカラム容器内に密に充填した場合の流路径と貫通孔径が同じ場合では、3次元網目構造の骨格体の方がビーズ状担体より径を小さく作製できるため、細孔の担体表面から内部に向けて延伸する延伸長は、ビーズ状担体より3次元網目構造の骨格体の方が短く、吸着対象物質の細孔内への拡散による移動距離が短くなるので、細孔内の官能基への吸着効率が向上する。つまり、ビーズ状担体を用いた従来の吸着カラムと比較して飽和吸着に至るまでの時間も短縮され、短時間で高性能の吸着カラムを最大限に利用可能となり、治療に要する時間が短縮され、患者に与える負担を大幅に軽減できる。
【0030】
また、上記第2の特徴の体液浄化処理用の吸着カラムによれば、骨格体の表面に分散して形成される細孔の平均孔径が、吸着対象物質の最大長より2倍以上大きく設定されることで、細孔表面に固定された官能基をより効率的に吸着対象物質の吸着に供することが可能となる。つまり、細孔径が吸着対象物質の最大長より2倍以上大きいと、細孔表面に固定された官能基に吸着した吸着対象物質によって、他の吸着対象物質が同じ細孔内に移動して他の官能基に吸着されるのが阻害されにくくなるため、細孔径が大きい程、吸着に有効に利用される細孔の深さ(骨格体表面からの距離)が大きくなり、細孔内に移動して吸着される吸着対象物質が増える。しかし、細孔の平均孔径が大きいと、骨格体の単位表面積当たりの細孔数が減少するため、細孔径をある一定範囲を超えて大きくしても、吸着性能は増加しない。尚、当該一定範囲の上限は、貫通孔径及び吸着対象物質の大きさに依存するため一意には定まらないが、後述する実施例の測定結果より吸着対象物質の最大長の6〜10倍程度と考えられる。但し、細孔径は、吸着性能が大幅に低下しない限り当該一定範囲を超えて大きくすることは可能である。
【0031】
更に、上記第3及び第4の特徴の体液浄化処理用の吸着カラムによれば、吸着対象物質がLDL(直径が約26〜27nm)の場合において良好な吸着性能が得られる。
【0032】
更に、上記第5の特徴の体液浄化処理用の吸着カラムによれば、スピノーダル分解ゾルゲル法を用いることで、貫通孔径及び細孔径の制御性が向上するため、貫通孔径及び細孔径を適正範囲に調整した高性能な吸着カラムを提供可能となる。
【0033】
更に、上記第6の特徴の体液浄化処理用の吸着カラムによれば、吸着対象物質を含む体液として血液から血球成分を分離した後の血漿を使用する場合に適した吸着カラムを提供可能となる。
【0034】
更に、上記第7の特徴の体液浄化処理用の吸着カラムによれば、吸着対象物質を含む体液として血液を使用する場合に適した吸着カラムを提供可能となる。この場合、貫通孔の平均孔径が1μm以上4μm未満の範囲内であるので、筒状容器の他方の端面の開口部から多孔質担体の外側部と内側部の何れか一方(入口側)に供給された血液中の赤血球(ヒトの赤血球の直径は約8μm)や白血球(ヒトの白血球の直径は約7〜25μm)等の貫通孔径より大きな血球は、多孔質担体を通過せずに、そのまま筒状容器の一方の端面の開口部へと搬送され、貫通孔径より大きな血球を除く血漿成分(一部の小径の血小板を含む)は、多孔質担体の一方(入口側)から他方(出口側)へと通過する途中で、血漿中の吸着対象物質が多孔質担体に固定された官能基に吸着され、多孔質担体の出口側から筒状容器の一方の端面の開口部へと搬送され、血球を含む血液と合流して排出可能な構成となるため、血液から血球成分を分離することなく、吸着対象物質を吸着除去する体液浄化処理が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
本発明に係る体液浄化処理用の吸着カラム(以下、適宜「本発明装置」という。)の実施の形態につき、図面に基づいて説明する。
【0036】
〈第1実施形態〉
本発明装置10は、図1に示すように、円柱状の吸着体1が円筒容器2に収容されて構成されている。円筒容器2の各端面には、夫々開口部3,4が形成され、一方の開口部3が処理対象となる体液(本実施形態では、血漿を想定)の送入口となり、他方の開口部4が処理後の体液の排出口となる。
【0037】
本発明装置10の主要な構成部品である吸着体1は、図2に模式的に示すように、円柱状に成形された無機系の多孔質担体5の表面に吸着対象物質に特異的に結合する官能基6を表面修飾して固定化したものである。本実施形態では、吸着対象物質として血液中のLDLを想定しており、官能基6として、LDLに対して親和性を有するデキストラン硫酸またはその塩、ポリアクリル酸またはその塩、或いは、その他の鎖状多価酸またはその塩を使用する。
【0038】
吸着体1を構成する無機系の多孔質担体5は、図3に模式的に示すように、3次元網目状の一体構造の骨格体7と、骨格体7の間隙に形成された平均孔径が1μm以上4μm未満の範囲内の3次元網目状の貫通孔8を有してなり、更に、骨格体7の表面には、平均孔径が吸着対象物質であるLDLの直径(最大長に相当)の26〜27nm以上の27nm以上200nm以下の範囲の細孔9が分散して形成されている。従って、本発明装置10で使用する多孔質担体5は、平均孔径の異なる2種類の細孔(貫通孔8と細孔9)からなる2重細孔構造となっている。図4に、本発明装置10で使用する多孔質担体5のSEM(走査型電子顕微鏡)写真の一例を示す。
【0039】
次に、多孔質担体5の表面に官能基6としてデキストラン硫酸を固定化した吸着体1の作製方法について説明する。先ず、多孔質担体5の合成方法について説明する。尚、本実施形態で使用する多孔質担体5の合成方法は、上記特許文献4の「無機系多孔質体の製造方法」に開示されている原理に基づくスピノーダル分解ゾルゲル法を使用するものである。
【0040】
先ず、1M(体積モル濃度)硝酸水溶液9mlに対してポリエチレングリコール(分子量100000)を0.9gから1.1gの範囲で溶かし、テトラエトキシシランを7ml加え、均一になるまで攪拌し、40℃の恒温槽で一晩放置してゲル化させる(工程1)。その後、得られたゲルを1Mアンモニア水に浸し、90℃の下で3日間反応させる(工程2)。その後、ゲルを乾燥させ、加熱することでシリカゲルまたはシリカガラスからなる多孔質担体が得られる(工程3)。尚、この条件下で多孔質担体を製造した場合、当該多孔質担体が有する貫通孔の平均孔径は水銀圧入法により測定すると1μm〜5μm程度である。また、細孔の平均孔径は水銀圧入法により測定すると約45nmである。
【0041】
より具体的には、上記工程1におけるポリエチレングリコールの添加量を夫々1.1gとした場合、1.0gとした場合、0.9gとした場合において、他を同条件として多孔質担体5を製造すると、各多孔質担体が備える貫通孔の平均孔径は、夫々1μm、3μm、5μmとなる。これにより、硝酸水溶液に添加するポリエチレングリコールの添加量を調整することで、貫通孔の平均孔径を調整することができる。
【0042】
また、上記工程2における処理温度を約40℃〜250℃の範囲で調整することで、細孔の平均孔径(水銀圧入法により測定)は約10nm〜200nmの範囲で変化する。従って、上記工程2における処理温度の調整によって、細孔の平均孔径を最適範囲に設定することができる。
【0043】
上記の方法は、金属の有機及び無機化合物の溶液を混合して、アルコキシドの加水分解反応と脱水縮合反応によりゲル化を進行させ、斯かるゲルを乾燥・加熱することで酸化物固体を作成するゾル−ゲル法を利用している。更に、ゾル−ゲル法の出発溶液に有機高分子を混合することで、ゲル化の進行に伴って生成したシリカ重合体と有機高分子を含む溶媒とのスピノーダル分解により形成された分相構造がゲル化により固定されてμmオーダーの細孔を有する多孔質ゲルが形成される特徴を利用したものである。即ち、上記方法によれば、ゾル−ゲル法を用いるとともにスピノーダル分解を生じさせることで、多孔質担体を製造することができる(スピノーダル分解ゾル−ゲル法)。
【0044】
尚、上記工程1〜工程3を経て作製された多孔質担体の貫通孔と細孔を合わせた総空隙率(水銀圧入法により測定)は約50%〜70%の範囲内であり、従来のLDL吸着カラムである株式会社カネカのリポソーバ(型番LA−15)の空隙率(約40%)と比較して1.5倍程度大きい。
【0045】
次に、上記工程1〜工程3を経て作製された多孔質担体の表面に官能基としてLDLに対して親和性を有するデキストラン硫酸ナトリウムを表面修飾して固定化する方法について説明する。
【0046】
先ず、上記工程1〜工程3を経て作製された多孔質担体を、γ‐アミノプロピルトリエトキシランの10%トルエン溶液中で3時間還流し、エタノールで洗浄し、γ‐アミノプロピル化した多孔質担体を得る(工程4)。上記条件下での、有機微量元素分析法によるγ‐アミノプロピル基の固定化量は、0.3mmol/mLである。
【0047】
次に、上記工程4を経て得られたγ‐アミノプロピル化多孔質担体の5mLに対して、デキストラン硫酸ナトリウム500mgを溶かした1/300Mリン酸緩衝水溶液10mL(pH7.0)を作製し、当該水溶液にγ‐アミノプロピル化多孔質担体を浸し、60℃で3日間振蕩する(工程5)。反応後、該多孔質担体を1%NaBH4水溶液に15分間浸し、その後、純水と生理食塩水の夫々で順次(記載順で)洗浄し、多孔質担体の表面にデキストラン硫酸ナトリウムを固定化した吸着体を得る(工程6)。上記条件下での、蛍光エックス線回折法によるデキストラン硫酸ナトリウムの固定化量は、10mg/mLである。
【0048】
次に、上記工程1〜工程6を経て作製された吸着体と、従来のLDL吸着カラムである株式会社カネカのリポソーバ(型番LA−15)のビーズ状吸着体とのLDL吸着性能を比較評価する動的試験方法について説明する。以下の説明では、上記工程1〜工程6を経て作製された吸着体を、従来のビーズ状吸着体と区別するために、適宜「本発明吸着体」と称す。尚、リポソーバ(型番LA−15)のビーズ状吸着体の官能基は、本発明装置の吸着体の官能基と同じデキストラン硫酸である。
【0049】
先ず、貫通孔及び細孔の各平均孔径の異なる複数の本発明吸着体のサンプル、及び、リポソーバ(型番LA−15)のビーズ状吸着体の夫々1mLを、ガラス製の小型カラム容器に充填した試験用カラムを準備する。各試験用カラムに純水及び生理食塩水各10mLを流量0.5mL/分で順次通液して、各試験用カラムを洗浄した後、新鮮人血漿5mLを所定の流速で通液し、各試験用カラムについて、平均流速(mL/分)、流出時間(分)、流出液量(mL)、通液前後の血漿中の総コレステロール濃度(mg/dL)、通液前後の血漿中のHDL(高密度リポタンパク)コレステロール濃度(mg/dL)、通液前後の血漿中のトリグリセリド濃度(mg/dL)、通液前後の血漿中のLDL濃度(mg/dL)を計測し、各試験用カラムにおける総コレステロール、HDL、トリグリセリド及びLDLコレステロールの吸着体1mL当たりの吸着容量A(mg/mL)を下記の数1に示す計算式により算出した。数1中のCi及びCoは通液前後の濃度(mg/dL)を、Vは流出液量(mL)を夫々示している。
【0050】
[数1]
A=(5×Ci−V×Co)/100
【0051】
図5の一覧表に、各試験用カラム(試料番号S1〜S4、R1、R2)の平均流速(mL/分)、流出時間(分)、流出液量(mL)、通液前後の血漿中の総コレステロール濃度(mg/dL)、吸着体1mL当たりの総コレステロール吸着容量A(mg/mL)を纏めて示す。尚、試料番号S1〜S4は、本発明吸着体を充填した試験用カラム(以下、適宜「本発明試料」と称す)であり、夫々の貫通孔及び細孔の各平均孔径も合わせて表示している。試料番号R1及びR2は、リポソーバ(型番LA−15)のビーズ状吸着体を充填した試験用カラム(以下、適宜「比較用試料」と称す)である。尚、本発明試料S1〜S4の貫通孔及び細孔の各平均孔径は後述する適正範囲内にある。
【0052】
図6に、各試験用カラム(試料番号S1〜S4、R1、R2)の総コレステロール吸着容量A(mg/mL)のグラフを示す。尚、グラフ中括弧内の数値は流出時間(分)を示し、吸着に要した処理時間を表している。
【0053】
図6より明らかなように、本発明試料の場合、流速を上げて流出時間(処理時間)を短くしても、総コレステロールの吸着性能は低下せず、比較用試料と比べて勝っている。特に、本発明試料S1,S2と比較用試料R1とを比べると、総コレステロールの吸着量は約5倍である。この結果、本発明装置では、吸着対象物質がLDLの場合に、カラム容量を200mL×1本程度に低減できることになる。
【0054】
また、図5に示す試験結果において、図7に示す試験結果より、本発明試料では、総コレステロール吸着容量は飽和状態に至っていることが確認できたが、比較用試料では、流通時間が5分及び25分経過後も飽和状態に至っていないことが確認できている。図7に示す確認試験では、本発明試料の別サンプルに新鮮人血漿を本発明試料S1、S2と同じ条件(平均流速1mL/分)で通液し、溶出血漿を1分毎に1mLずつ採取し、総コレステロール吸着容量を上記数1の算出式により求め、比較用試料の別サンプルに新鮮人血漿を比較用試料R1と同じ条件(平均流速1mL/分)で通液し、溶出血漿を2分毎に2mLずつ採取し、総コレステロール吸着容量を上記数1の算出式により求めた。図7に示すように、本発明試料では4分経過後には飽和状態に達しているのに対して、比較用試料では、10分経過後も飽和状態に達していない。
【0055】
図5及び図7に示す試験結果より、本発明試料においては、平均流速が早い程、飽和吸着量が低下する傾向にあることが明らかとなった。平均流速と飽和吸着量の間の当該関係については、その理由は不明であるが、本発明試料では、平均流速を上げることで、短い流出時間で、比較用試料より十分大きい吸着量で、飽和吸着量に至る吸着性能を発揮できることを示している。つまり、吸着カラム当たりの飽和吸着量が低下しても、平均流速を上げることで短時間での体液浄化処理が可能となるため、患者に与える負担を大幅に軽減できる。
【0056】
また、発明が解決しようとする課題の説明において、現行のLDL吸着カラムでは、LDLの飽和吸着量が約6mg/mLに止まっていると指摘したが、図5に示す試験結果では、本発明試料の飽和吸着量と比較用試料の吸着量の何れも、LDL吸着量に換算して約6mg/mLの飽和吸着量に至っていないが、これは、上記動的試験方法の平均流速が速いためと考えられる。比較用試料の吸着量が飽和吸着量に至る程度の遅い平均流速であれば、本発明試料の飽和吸着量は、十分に約6mg/mLを上回る飽和吸着量が得られることは、図5及び図6の試験結果より容易に推測できる。
【0057】
次に、本発明試料の吸着選択性についての試験結果を、試料番号S2(貫通孔径2μm、細孔径130nm)の各脂質(総コレステロール、HDL、トリグリセリド及びLDL)の吸着前後の濃度(mg/dL)とその前後比(%)を図8の表及び図9のグラフに示す。図8及び図9より、アポリポタンパクBを含有するLDLを選択的に吸着し、アポリポタンパクAを含有するHDLを吸着していないことが分かる。また、LDLの吸着に従いLDLと結合しているトリグリセリドも減少している。この結果、図5及び図6の試験結果の総コレステロール吸着性能により、LDLに対する吸着性能を評価することができる。
【0058】
次に、本発明試料のLDLに対する吸着性能の貫通孔及び細孔の各平均孔径に対する依存性について説明する。当該依存性の評価実験のために、上記工程1〜工程6を経て貫通孔及び細孔の各平均孔径の異なる複数の吸着体のサンプルの夫々1mLを、ガラス製の小型カラム容器に充填した試験用カラムを準備する。ここで、貫通孔及び細孔の各平均孔径としては、後述する本発明装置としての適正範囲外のものも含めた試料を準備した。
【0059】
本発明試料のLDLに対する吸着性能の貫通孔の平均孔径に対する依存性についての評価試験は、各試験用カラムに新鮮人血漿5mLを流速0.5mL/分で1回通液し、流出液のLDL濃度を分析して行った。図10に、細孔の平均孔径60nmに対して貫通孔の平均孔径を1μm〜20μmの範囲で変化させた各試験用カラムの、吸着前後のLDL濃度から上記数1の計算式により算出したLDL吸着量(mg)を貫通孔の平均孔径(μm)に対してプロットしたLDL吸着量(飽和吸着量)の貫通孔径特性を示す。図10に示すように、貫通孔の平均孔径が1μm、2μm、3μm、4μm、8.5μm、10μm、20μmの夫々に対して、LDL吸着量は4.9mg、4.7mg、2.7mg、0.8mg、0.3mg、0.4mg、0.4mgであった。
【0060】
図10より、貫通孔の平均孔径としては、1μm以上4μm未満の範囲が好ましいことが分かる。貫通孔の平均孔径が1μm未満では、試料自体の作製が困難であるため、評価実験による確認は行われていないが、本発明吸着体の圧力損失が高くなり過ぎて血漿の所望の流速での通液が阻害されるため、LDL吸着処理の効率が低下するものと考えられ、逆に、4μm以上となると、LDL吸着量が1mgより低下し、有効な多孔質担体の表面積が減少することからLDL吸着処理の効率が低下するものと考えられる。
【0061】
次に、本発明試料のLDLに対する吸着性能の細孔の平均孔径に対する依存性についての評価試験は、各試験用カラムに新鮮人血漿2mLを流速0.5mL/分で1回通液し、流出液のLDL濃度を分析して行った。図11に、貫通孔の平均孔径2μmに対して細孔の平均孔径を20nm〜200nmの範囲で変化させた各試験用カラムの、吸着前後のLDL濃度から上記数1の計算式により算出したLDL吸着量(mg)を細孔の平均孔径(nm)に対してプロットしたLDL吸着量(飽和吸着量)の細孔径特性を示す。図11に示すように、細孔の平均孔径が20nm、45nm、60nm、100nm、130nm、200nmの夫々に対して、LDL吸着量は1.2mg、2.9mg、4.7mg、4.3mg、4.2mg、1.5mgであった。
【0062】
図11より、細孔の平均孔径としては、20nm〜200nmの範囲で、LDL吸着量が1mg以上で、更に、約45nm〜150nmの範囲で、LDL吸着量が3mg以上とより良好な結果が得られる。従って、細孔の平均孔径の下限値としては、吸着対象物質であるLDLの直径(26〜27nm)以上が好ましくは、更には、LDLの直径の約2倍(約50nm)以上がより好ましい。また、細孔の平均孔径の上限値は、200nm以下が好ましく、更には、150nm以下がより好ましい。
【0063】
〈第2実施形態〉
本発明装置の第2実施形態について説明する。図12に示すように、第2実施形態の本発明装置20は、円筒状の吸着体11が円筒容器12に収容されて構成されている。円筒容器12の各端面には、夫々開口部13,14が形成され、一方の開口部13が処理対象となる体液(本実施形態では、血液を想定)の送入口となり、他方の開口部14が処理後の体液の排出口となる。
【0064】
図12に示すように、吸着体11の筒状外側面11aが円筒容器12の内壁面から離間して、その間に吸着体11を通過した体液(ここでは、血漿を想定)の通流路15が形成されている。また、吸着体11の筒状内側の空間は、吸着体11を通過しない体液(血液)の通流路16となる。開口部13は、通流路16に連通し、開口部14は通流路15と通流路16の両方に連通している。
【0065】
本発明装置20の主要な構成部品である吸着体11は、外形は円筒状に加工されているが、平均孔径の異なる2種類の細孔(貫通孔と細孔)からなる2重細孔構造を有する一体構造の多孔質担体の表面に、LDLに対して親和性を有するデキストラン硫酸等の官能基を固定化したもので、第1実施形態の吸着体1と同じである。また、多孔質担体の貫通孔と細孔の各平均孔径も、第1実施形態の多孔質担体5の場合と同じである。従って、吸着体及び多孔質担体の作製方法及びそれらの吸着性能は、第1実施形態と同じであるので、重複する説明は省略する。
【0066】
図12に示す構造の本発明装置20では、血漿以外に粒径の大きな赤血球や白血球等の血球成分を含む血漿と血球を分離する前の血液を、そのまま開口部13から送入する。本実施形態では、貫通孔の平均孔径は1μm以上4μm未満の範囲に調整されているので、粒径の大きな赤血球や白血球等は、吸着体11を通過することなく、開口部14から排出される。粒径の大きな赤血球や白血球等が吸着体11の内側で分離された後の吸着対象物質であるLDL等を含む血漿が、吸着体11を内側から外側へ通過し、吸着体11内で吸着対象物質が吸着された後の血漿が、通流路16を介して開口部14から排出される。つまり、吸着体11の内側で分離された粒径の大きな赤血球や白血球等の血球成分と、吸着対象物質が吸着された後の血漿が、開口部14で合流して本発明装置20の外側へ排出される。本発明装置20によれば、開口部14から排出された血液を、開口部13側へ還流して循環させることで、吸着体11内を通過せずに排出された血漿中の吸着対象物質が、徐々に吸着体11で吸着される。
【0067】
従って、第2実施形態の本発明装置20では、多孔質担体の貫通孔の平均孔径は1μm以上4μm未満の範囲に調整されているにも拘わらず、処理対象の血液から血球成分を分離することなく、吸着対象物質を吸着除去することが可能となる。
【0068】
以下に、本発明装置の別実施形態につき説明する。
【0069】
上記第1実施形態では、吸着体1及び円筒容器2の断面形状として円形及び円環形を想定したが、該断面形状は円形及び円環形に限定されるものではない。また、上記第2実施形態では、吸着体11及び円筒容器12の断面形状として円環形を想定したが、該断面形状は円環形に限定されるものではない。
【0070】
また、上記第2実施形態では、開口部(送入口)13が通流路16に連通し、開口部(排出口)14が通流路15と通流路16の両方に連通している場合を図12に例示したが、開口部(送入口)13が通流路15に連通し、開口部13から送入された血液が、吸着体11の外側の通流路16に供給され、そこで粒径の大きな赤血球や白血球等が分離された後の吸着対象物質であるLDL等を含む血漿が、吸着体11を外側から内側へ通過し、吸着体11内で吸着対象物質が吸着された後の血漿が、通流路15を介して開口部14から排出される構造としても良い。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明に係る体液浄化処理用吸着カラムは、血液中のLDL等の病因物質の吸着除去を目的とするアフェレシス治療用の吸着カラムに利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明に係る体液浄化処理用吸着カラムの第1実施形態における概略の構成を模式的に示す構成図
【図2】本発明に係る体液浄化処理用吸着カラムの吸着体の構造を模式的に示す要部断面図
【図3】本発明に係る体液浄化処理用吸着カラムの吸着体を構成する多孔質担体の構造を模式的に示す要部断面図
【図4】本発明に係る体液浄化処理用吸着カラムの吸着体を構成する多孔質担体のSEM写真
【図5】本発明に係る体液浄化処理用吸着カラムの吸着体を充填した試験用カラムとリポソーバ(型番LA−15)のビーズ状吸着体を充填した試験用カラムの吸着性能を比較評価した結果を纏めた一覧表
【図6】本発明に係る体液浄化処理用吸着カラムの吸着体を充填した試験用カラムとリポソーバ(型番LA−15)のビーズ状吸着体を充填した試験用カラムの総コレステロール吸着性能を比較評価した結果を示す図
【図7】本発明に係る体液浄化処理用吸着カラムの吸着体を充填した試験用カラムとリポソーバ(型番LA−15)のビーズ状吸着体を充填した試験用カラムの総コレステロール吸着量の時間変化を比較評価した結果を示す図
【図8】本発明に係る体液浄化処理用吸着カラムの吸着体を充填した試験用カラムの吸着選択性を示す表
【図9】本発明に係る体液浄化処理用吸着カラムの吸着体を充填した試験用カラムの吸着選択性を示す図
【図10】本発明に係る体液浄化処理用吸着カラムの吸着体を充填した試験用カラムのLDL吸着性能の貫通孔の平均孔径に対する依存性を示す図
【図11】本発明に係る体液浄化処理用吸着カラムの吸着体を充填した試験用カラムのLDL吸着性能の細孔の平均孔径に対する依存性を示す図
【図12】本発明に係る体液浄化処理用吸着カラムの第2実施形態における概略の構成を模式的に示す構成図
【符号の説明】
【0073】
1: 吸着体
2: 円筒容器
3: 開口部(送入口)
4: 開口部(排出口)
5: 多孔質担体
6: 官能基
7: 骨格体
8: 貫通孔
9: 細孔
10: 本発明に係る体液浄化処理用吸着カラム
11: 吸着体
11a: 吸着体の筒状外側面
12: 円筒容器
13: 開口部(送入口)
14: 開口部(排出口)
15: 通流路(吸着体の外側)
17: 通流路(吸着体の内側)
20: 本発明に係る体液浄化処理用吸着カラム
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸着対象物質に特異的に結合する官能基を多孔質担体の表面に固定してなる体液浄化処理用の吸着カラムに関し、特に、血液中のLDL(低密度リポタンパク)等の病因物質の吸着除去を目的とするアフェレシス治療用の吸着カラムに関する。
【背景技術】
【0002】
アフェレシス治療は、体外循環によって血中から病気の原因となる液性因子(タンパク質やタンパクと結合して血中に存在する抗体やサイトカイン等の免疫関連物質等)や細胞(リンパ球、顆粒球、ウイルス等)を除去し、病態の改善を図る治療法である。
【0003】
血液中に存在するリポタンパク中のLDLはコレステロールを多く含み、LDLの血中濃度が上昇する高LDL血症が、動脈硬化のリスクを高め心筋梗塞や脳梗塞のリスクを高めることは良く知られている。高LDL血症の治療法の一つとして、LDLアフェレシス治療が実用されているが、治療費が高いことと患者への負担が大きいことから、専ら家族性(遺伝性)高LDL血症、閉塞性動脈硬化症、巣状糸球体硬化症等の患者の内の薬物治療が効かない重度の患者にのみ実施されているのが現状である。
【0004】
LDLアフェレシス治療は、吸着方式のアフェレシス治療で、吸着対象物質であるLDLに対して親和性を有する官能基を担体の表面に固定してなる吸着カラムに、患者の血液または血漿を灌流させることで、体外循環させた患者の血中からLDLを吸着除去する治療法である。LDL吸着カラムとしては、株式会社カネカのリポソーバ(登録商標)(下記の特許文献1、非特許文献1参照)、フレゼニウス社(ドイツ)のDALIシステム等(下記の特許文献2参照)がある。これらのLDL吸着カラムは、多数の細孔を有するビーズ状の多孔質セルロースゲル或いはポリアクリルアミドからなる担体表面に、LDLに対して親和性を有する官能基(リガンド)としてデキストラン硫酸、ポリアクリル酸等の鎖状多価酸を表面修飾して固定化し、当該表面修飾されたビーズをカラム容器内に充填して構成される。ビーズ径は、直接血液灌流法の場合250μm程度、血漿灌流法の場合50μm程度である。
【0005】
【特許文献1】特公平4−511430号公報
【非特許文献1】谷敍孝、「血液吸着装置の開発」、医器学、Vol.58、No.6、266〜273頁、1988年
【特許文献2】特公平3−254756号公報
【特許文献3】特公平3−39736号公報
【特許文献4】特開平7−41374号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、現在実用化されている多孔質セルロースゲルビーズ等を担体として使用したLDL吸着カラムには、以下に示すような問題がある。
【0007】
第1に、多孔質セルロースゲルビーズがセルロース繊維の絡まった糸鞠状で、ビーズ内の細孔径の分布が0.1〜1μmと球状のLDL分子の直径(約26〜27μm)より4〜40倍と大きく且つブロードであるため(非特許文献1(4.1担体)参照)、細孔径の拡大とともに細孔容積当たりの表面積が小さくなり、吸着効率が低下する。また、ビーズが糸鞠状のため、細孔径の分布の制御が困難であり、細孔径がLDL分子の直径程度以下の場合には、細孔表面にはLDLが吸着されず、吸着効率が低下する。
【0008】
第2に、吸着カラム内に送入された血液或いは血漿は、各ビーズ間の隙間を流路として血流によって流れるが、吸着対象物質であるLDLのビーズ内部の細孔表面への移動は拡散による移動となり、更に、担体がビーズ状でその直径が細孔径に対して大きいので、LDLはビーズ表面近傍の細孔表面にしか吸着されず、ビーズ表面近傍から深奥部に亘る細孔表面積の全てを有効に利用できない。
【0009】
第3に、上記第2の問題点を改善するためにビーズ径を小さくすると、各ビーズ状担体間の隙間が狭窄して血流の流路抵抗が高くなって圧力損失が増加し、血流の流量を大きくできない。カラム容器内にビーズ状担体を密に充填した場合を仮定すると、各ビーズ状担体間の隙間の狭窄個所を通過する流路径がビーズ径の15%程度まで狭くなること、また、当該狭窄個所がビーズ状担体によって4方向から囲まれ、一方向から当該狭窄個所に浸入する流路が対向するビーズ状担体によって大きく屈曲すること等が、圧力損失増加の要因と考えられる。
【0010】
第4に、多孔質セルロースゲル等のソフトゲルでは、更に圧力損失が高く、高流量で血液或いは血漿を送入した場合、圧密化が起こり一定流量以上では血液或いは血漿を流れなくなる。
【0011】
第5に、多孔質セルロースゲル等の高分子担体では、微量の添加剤等が含まれているため、血液中のタンパク質の吸着や血液凝固機構の活性化が起こり易くなる。
【0012】
以上を纏めると、現在実用化されている多孔質セルロースゲルビーズを担体として使用したLDL吸着カラムには、担体が多孔質セルロースゲルであることに起因する問題(第1、第4及び第5の問題)と、担体がビーズ状であることに起因する問題(第1、第2及び第3の問題)の2タイプの問題がある。
【0013】
担体が多孔質セルロースゲルであることに起因する第4の問題、即ち、圧力損失が高く、一定流量以上では血液或いは血漿を流れなくなる問題については、担体を無機多孔体で構成する解決法が、上記の特許文献3で提案されている。しかし、特許文献3では、担体として多孔質ガラスビーズ(粒径80〜120メッシュ)とアガロースゲルビーズ(粒径50〜100メッシュ)について、圧力と流速の関係を比較し、多孔質ガラスビーズ担体では圧密化が起こらずに、圧力の増加に伴い流速も増大するのに対して、アガロースゲルビーズでは、流速が増加しない点が明らかにされているに過ぎない(特許文献3の図1参照)。ここで、多孔質ガラスビーズ担体のビーズ径は、直接血液灌流法を想定した250μm程度と大きなものとなっており、各ビーズ状担体間の隙間の狭窄個所を通過する流路径も大きなものとなっている。従って、ビーズ径が圧力損失や流速に与える影響については考慮も評価も一切なされていない。更に、特許文献3では、「担体の形状は粒状、繊維状、膜状、ホロファイバー状等の任意の形状を選ぶことができる。」との記載はあるものの、実際の評価はビーズ状(球状)担体で行われており、担体形状が圧力損失や流速に与える影響については考慮も評価も一切なされていない。
【0014】
また、特許文献3では、ビーズ状担体を使用したLDL吸着体としての性能評価が行われているが、現在実用化されているLDL吸着カラムの使用形態に即した血液或いは血漿を流した状態での動的吸着試験ではなく、球状の吸着体を入れた試験管に血漿を加えて攪拌し、20℃で15分間放置後に上澄みのLDL濃度を測定するという静的吸着試験であるため、ビーズ状担体のビーズ径の影響、つまり、吸着カラム内に血液或いは血漿を通流させた状態での圧力損失の影響は十分に評価されていない。また、動的吸着試験による評価が一切されていないため、ビーズ径や担体形状がLDL吸着カラムとしての実使用状態での吸着性能に与える影響についての考慮も評価も一切なされていない。
【0015】
また、上記第1及び第2の問題により、現行のLDL吸着カラムでは、LDLの飽和吸着量が約6mg/mLに止まっており、そのため、カラム容量として非再生型の場合400〜1000mLの大きさのカラムが、また、再生型の場合150mL×2本のカラムと複雑な再生システムが必要となる。更に、飽和吸着に至るまでの時間も長いため、治療に要する時間も2〜3時間と長く、患者に与える負担が大きいものである。
【0016】
本発明は、上述の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、少なくとも低密度リポタンパクを含む吸着対象物質の飽和吸着量を増大或いは飽和吸着に至るまでの時間を短縮可能で、カラム容量を大幅に低減可能で治療時間の大幅な短縮が可能な体液浄化処理用の吸着カラムを提供することにあり、吸着対象物質がLDLの場合には、カラム容量を200mL×1本程度に低減でき、治療に要する時間も30分程度に短縮可能な体液浄化処理用の吸着カラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本願発明者等は、現行のLDL吸着カラムの担体の材質及び形状に改善の余地があることに着目し鋭意検討した結果、吸着対象物質に特異的に結合する官能基を多孔質担体の表面に固定してなる体液浄化処理用の吸着カラムにおいて、従来のようにカラム内にビーズ状の多孔質担体に官能基を固定してなるビーズ状の吸着剤を充填した構成に代えて、多孔質担体として、3次元網目構造のシリカゲルまたはシリカガラスからなる無機質の骨格体と、前記骨格体の間隙に形成された3次元網目状の貫通孔を有し、且つ、前記骨格体に貫通孔より小径の細孔が分散して形成されている一体型の多孔質担体を用い、貫通孔及び細孔の平均孔径を最適化することで、従来の吸着カラムの問題点を解決でき、大幅な性能向上が実現できることを見出した。
【0018】
即ち、上記目的を達成するための本発明に係る体液浄化処理用の吸着カラムは、少なくとも低密度リポタンパクを含む吸着対象物質に特異的に結合する官能基を多孔質担体の表面に固定してなる体液浄化処理用の吸着カラムであって、前記多孔質担体が、3次元網目構造のシリカゲルまたはシリカガラスからなる骨格体と、前記骨格体の間隙に形成された水銀圧入法で測定した平均孔径が1μm以上4μm未満の範囲内の3次元網目状の貫通孔を有し、且つ、水銀圧入法で測定した平均孔径が前記体液浄化処理における前記吸着対象物質の最大長より大きく、前記骨格体の表面から内部まで貫通する細孔を分散して有していることを第1の特徴とする。ここで、多孔質担体の表面は、多孔質担体の貫通孔及び細孔の各内壁面に相当するものであり、また、骨格体の表面は貫通孔の内壁面と同意である。
【0019】
更に、本発明に係る体液浄化処理用の吸着カラムは、上記第1の特徴に加え、前記細孔の水銀圧入法で測定した平均孔径が、前記吸着対象物質の最大長より2倍以上大きいことを第2の特徴とする。
【0020】
更に、本発明に係る体液浄化処理用の吸着カラムは、上記第1の特徴に加え、前記細孔の水銀圧入法で測定した平均孔径が、27nm以上200nm以下であることを第3の特徴とする。
【0021】
更に、本発明に係る体液浄化処理用の吸着カラムは、上記何れかの特徴に加え、前記官能基が、低密度リポタンパクに特異的に結合する親和性を有するデキストラン硫酸またはその塩、ポリアクリル酸またはその塩、或いは、その他の鎖状多価酸またはその塩であることを第4の特徴とする。
【0022】
更に、本発明に係る体液浄化処理用の吸着カラムは、上記何れかの特徴に加え、前記多孔質担体が、スピノーダル分解ゾルゲル法で合成されていることを第5の特徴とする。
【0023】
更に、本発明に係る体液浄化処理用の吸着カラムは、上記第1乃至第5の何れかの特徴に加え、前記多孔質担体が、柱状に成形され、両端面の夫々の少なくとも一部に開口部を有する筒状容器に、前記多孔質担体の柱状側面が前記筒状容器の内壁面に密着して収容され、前記筒状容器の一方の端面の前記開口部と他方の端面の前記開口部の間が、前記多孔質担体の前記貫通孔を介して連通していることを第6の特徴とする。
【0024】
更に、本発明に係る体液浄化処理用の吸着カラムは、上記第1乃至第5の何れかの特徴に加え、前記多孔質担体が、筒状に成形され、両端面の夫々の少なくとも一部に開口部と有する筒状容器に、前記多孔質担体の筒状外側面の少なくとも一部が前記筒状容器の内壁面から離間して収容され、前記筒状容器の一方の端面の前記開口部が、筒状の前記多孔質担体の外側部と内側部の両方と連通し、前記筒状容器の他方の端面の前記開口部が、筒状の前記多孔質担体の外側部と内側部の何れか一方と連通していることを第7の特徴とする。
【0025】
上記第1の特徴の体液浄化処理用の吸着カラムによれば、多孔質担体として無機質のシリカゲルまたはシリカガラスを使用しているので、従来の吸着カラムにおける多孔質担体が高分子やソフトゲルであることに起因する問題と、多孔質担体がビーズ状であることに起因する問題が同時に解消される。
【0026】
具体的には、3次元網目構造の骨格体と骨格体外に形成された3次元網目状の貫通孔を有する一体型の多孔質担体を用いることで、体液浄化処理の対象となる体液(例えば、血漿)の通流路となる貫通孔が3次元網目状に連通することから、貫通孔径が、ビーズ状担体をカラム容器内に密に充填した場合の各ビーズ状担体間の隙間の狭窄個所を通過する流路径と同じであっても、流路抵抗を低く抑制でき、圧力損失をビーズ状担体と比較して低く抑えることができる。また、ビーズ状担体も3次元網目構造の骨格体も、吸着対象物質の細孔内の移動が拡散による移動であり、各担体の表面近傍の細孔に固定されている官能基が専ら有効に機能するものと仮定すれば、担体の立体形状は、単位容積当たりの表面積が大きい3次元網目構造の方が、表面積の小さいビーズ状(球状)より、官能基が有効に機能する細孔表面積を大きくできることになる。従って、同じ流路径では、3次元網目構造の方がビーズ状担体より、圧力損失が低く、有効な細孔面積も大きくなる。つまり、3次元網目構造の方がビーズ状担体より、更に、流路径を小さくして、有効な細孔面積を更に拡大することが可能となる。
【0027】
ここで、後述するLDLを吸着対象物質とする動的吸着性能の評価結果より、貫通孔の平均孔径が1μm未満になると、圧力損失が高くなり過ぎて体液の通流が阻害されるため、体液浄化処理の効率、つまり、LDLの吸着性能が低下し、逆に、4μm以上となると、有効な細孔面積も減少することから体液浄化処理の効率、つまり、LDLの吸着性能が低下することが判明した。従って、貫通孔の平均孔径が1μm以上4μm未満の範囲内であれば、少なくともLDLに対し、吸着カラムに処理対象の体液を通流させた状態での動的吸着性能を従来の吸着カラムの5倍程度以上の大幅な向上が図れる。
【0028】
更に、骨格体に分散して形成される細孔の平均孔径が、吸着対象物質の最大長より大きく設定されることで、骨格体の貫通孔に向けて露出した表面(貫通孔表面)と、骨格体の細孔に向けて露出した表面(細孔表面)の2種類の表面に固定された官能基を吸着対象物質の吸着に供することが可能となる。つまり、細孔径が吸着対象物質の最大長(吸着対象物質が球形、楕円球形或いは円板形であれば、その直径または最大径、吸着対象物質がLDLの場合に相当する)より小さければ、吸着対象物質は細孔内に移動不能または極めて困難となり、吸着対象物質の吸着は専ら貫通孔表面に固定された官能基によることになる。これに対して、細孔径が吸着対象物質の最大長より大きければ、吸着対象物質は少なくとも1つが細孔内に移動して、細孔表面に固定された官能基に吸着可能となり、吸着に供せられる有効な骨格体の表面積が増大する。但し、細孔径が貫通孔径と同程度まで大きくなると、もはや細孔ではなく貫通孔と同等視され、細孔が骨格体の表面に分散しているという条件に該当しなくなる。従って、本発明で使用する3次元網目構造の多孔質担体の特徴は、3次元網目状の貫通孔と、それより孔径の小さい細孔の2種類の孔径による階層的な多孔質構造となっている点である。つまり、斯かる多孔質構造の特徴を利用することで、従来のビーズ状多孔体を用いた吸着カラムに対して大幅な性能向上の図れる条件設定が可能となるのである。
【0029】
更に、ビーズ状担体をカラム容器内に密に充填した場合の流路径と貫通孔径が同じ場合では、3次元網目構造の骨格体の方がビーズ状担体より径を小さく作製できるため、細孔の担体表面から内部に向けて延伸する延伸長は、ビーズ状担体より3次元網目構造の骨格体の方が短く、吸着対象物質の細孔内への拡散による移動距離が短くなるので、細孔内の官能基への吸着効率が向上する。つまり、ビーズ状担体を用いた従来の吸着カラムと比較して飽和吸着に至るまでの時間も短縮され、短時間で高性能の吸着カラムを最大限に利用可能となり、治療に要する時間が短縮され、患者に与える負担を大幅に軽減できる。
【0030】
また、上記第2の特徴の体液浄化処理用の吸着カラムによれば、骨格体の表面に分散して形成される細孔の平均孔径が、吸着対象物質の最大長より2倍以上大きく設定されることで、細孔表面に固定された官能基をより効率的に吸着対象物質の吸着に供することが可能となる。つまり、細孔径が吸着対象物質の最大長より2倍以上大きいと、細孔表面に固定された官能基に吸着した吸着対象物質によって、他の吸着対象物質が同じ細孔内に移動して他の官能基に吸着されるのが阻害されにくくなるため、細孔径が大きい程、吸着に有効に利用される細孔の深さ(骨格体表面からの距離)が大きくなり、細孔内に移動して吸着される吸着対象物質が増える。しかし、細孔の平均孔径が大きいと、骨格体の単位表面積当たりの細孔数が減少するため、細孔径をある一定範囲を超えて大きくしても、吸着性能は増加しない。尚、当該一定範囲の上限は、貫通孔径及び吸着対象物質の大きさに依存するため一意には定まらないが、後述する実施例の測定結果より吸着対象物質の最大長の6〜10倍程度と考えられる。但し、細孔径は、吸着性能が大幅に低下しない限り当該一定範囲を超えて大きくすることは可能である。
【0031】
更に、上記第3及び第4の特徴の体液浄化処理用の吸着カラムによれば、吸着対象物質がLDL(直径が約26〜27nm)の場合において良好な吸着性能が得られる。
【0032】
更に、上記第5の特徴の体液浄化処理用の吸着カラムによれば、スピノーダル分解ゾルゲル法を用いることで、貫通孔径及び細孔径の制御性が向上するため、貫通孔径及び細孔径を適正範囲に調整した高性能な吸着カラムを提供可能となる。
【0033】
更に、上記第6の特徴の体液浄化処理用の吸着カラムによれば、吸着対象物質を含む体液として血液から血球成分を分離した後の血漿を使用する場合に適した吸着カラムを提供可能となる。
【0034】
更に、上記第7の特徴の体液浄化処理用の吸着カラムによれば、吸着対象物質を含む体液として血液を使用する場合に適した吸着カラムを提供可能となる。この場合、貫通孔の平均孔径が1μm以上4μm未満の範囲内であるので、筒状容器の他方の端面の開口部から多孔質担体の外側部と内側部の何れか一方(入口側)に供給された血液中の赤血球(ヒトの赤血球の直径は約8μm)や白血球(ヒトの白血球の直径は約7〜25μm)等の貫通孔径より大きな血球は、多孔質担体を通過せずに、そのまま筒状容器の一方の端面の開口部へと搬送され、貫通孔径より大きな血球を除く血漿成分(一部の小径の血小板を含む)は、多孔質担体の一方(入口側)から他方(出口側)へと通過する途中で、血漿中の吸着対象物質が多孔質担体に固定された官能基に吸着され、多孔質担体の出口側から筒状容器の一方の端面の開口部へと搬送され、血球を含む血液と合流して排出可能な構成となるため、血液から血球成分を分離することなく、吸着対象物質を吸着除去する体液浄化処理が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
本発明に係る体液浄化処理用の吸着カラム(以下、適宜「本発明装置」という。)の実施の形態につき、図面に基づいて説明する。
【0036】
〈第1実施形態〉
本発明装置10は、図1に示すように、円柱状の吸着体1が円筒容器2に収容されて構成されている。円筒容器2の各端面には、夫々開口部3,4が形成され、一方の開口部3が処理対象となる体液(本実施形態では、血漿を想定)の送入口となり、他方の開口部4が処理後の体液の排出口となる。
【0037】
本発明装置10の主要な構成部品である吸着体1は、図2に模式的に示すように、円柱状に成形された無機系の多孔質担体5の表面に吸着対象物質に特異的に結合する官能基6を表面修飾して固定化したものである。本実施形態では、吸着対象物質として血液中のLDLを想定しており、官能基6として、LDLに対して親和性を有するデキストラン硫酸またはその塩、ポリアクリル酸またはその塩、或いは、その他の鎖状多価酸またはその塩を使用する。
【0038】
吸着体1を構成する無機系の多孔質担体5は、図3に模式的に示すように、3次元網目状の一体構造の骨格体7と、骨格体7の間隙に形成された平均孔径が1μm以上4μm未満の範囲内の3次元網目状の貫通孔8を有してなり、更に、骨格体7の表面には、平均孔径が吸着対象物質であるLDLの直径(最大長に相当)の26〜27nm以上の27nm以上200nm以下の範囲の細孔9が分散して形成されている。従って、本発明装置10で使用する多孔質担体5は、平均孔径の異なる2種類の細孔(貫通孔8と細孔9)からなる2重細孔構造となっている。図4に、本発明装置10で使用する多孔質担体5のSEM(走査型電子顕微鏡)写真の一例を示す。
【0039】
次に、多孔質担体5の表面に官能基6としてデキストラン硫酸を固定化した吸着体1の作製方法について説明する。先ず、多孔質担体5の合成方法について説明する。尚、本実施形態で使用する多孔質担体5の合成方法は、上記特許文献4の「無機系多孔質体の製造方法」に開示されている原理に基づくスピノーダル分解ゾルゲル法を使用するものである。
【0040】
先ず、1M(体積モル濃度)硝酸水溶液9mlに対してポリエチレングリコール(分子量100000)を0.9gから1.1gの範囲で溶かし、テトラエトキシシランを7ml加え、均一になるまで攪拌し、40℃の恒温槽で一晩放置してゲル化させる(工程1)。その後、得られたゲルを1Mアンモニア水に浸し、90℃の下で3日間反応させる(工程2)。その後、ゲルを乾燥させ、加熱することでシリカゲルまたはシリカガラスからなる多孔質担体が得られる(工程3)。尚、この条件下で多孔質担体を製造した場合、当該多孔質担体が有する貫通孔の平均孔径は水銀圧入法により測定すると1μm〜5μm程度である。また、細孔の平均孔径は水銀圧入法により測定すると約45nmである。
【0041】
より具体的には、上記工程1におけるポリエチレングリコールの添加量を夫々1.1gとした場合、1.0gとした場合、0.9gとした場合において、他を同条件として多孔質担体5を製造すると、各多孔質担体が備える貫通孔の平均孔径は、夫々1μm、3μm、5μmとなる。これにより、硝酸水溶液に添加するポリエチレングリコールの添加量を調整することで、貫通孔の平均孔径を調整することができる。
【0042】
また、上記工程2における処理温度を約40℃〜250℃の範囲で調整することで、細孔の平均孔径(水銀圧入法により測定)は約10nm〜200nmの範囲で変化する。従って、上記工程2における処理温度の調整によって、細孔の平均孔径を最適範囲に設定することができる。
【0043】
上記の方法は、金属の有機及び無機化合物の溶液を混合して、アルコキシドの加水分解反応と脱水縮合反応によりゲル化を進行させ、斯かるゲルを乾燥・加熱することで酸化物固体を作成するゾル−ゲル法を利用している。更に、ゾル−ゲル法の出発溶液に有機高分子を混合することで、ゲル化の進行に伴って生成したシリカ重合体と有機高分子を含む溶媒とのスピノーダル分解により形成された分相構造がゲル化により固定されてμmオーダーの細孔を有する多孔質ゲルが形成される特徴を利用したものである。即ち、上記方法によれば、ゾル−ゲル法を用いるとともにスピノーダル分解を生じさせることで、多孔質担体を製造することができる(スピノーダル分解ゾル−ゲル法)。
【0044】
尚、上記工程1〜工程3を経て作製された多孔質担体の貫通孔と細孔を合わせた総空隙率(水銀圧入法により測定)は約50%〜70%の範囲内であり、従来のLDL吸着カラムである株式会社カネカのリポソーバ(型番LA−15)の空隙率(約40%)と比較して1.5倍程度大きい。
【0045】
次に、上記工程1〜工程3を経て作製された多孔質担体の表面に官能基としてLDLに対して親和性を有するデキストラン硫酸ナトリウムを表面修飾して固定化する方法について説明する。
【0046】
先ず、上記工程1〜工程3を経て作製された多孔質担体を、γ‐アミノプロピルトリエトキシランの10%トルエン溶液中で3時間還流し、エタノールで洗浄し、γ‐アミノプロピル化した多孔質担体を得る(工程4)。上記条件下での、有機微量元素分析法によるγ‐アミノプロピル基の固定化量は、0.3mmol/mLである。
【0047】
次に、上記工程4を経て得られたγ‐アミノプロピル化多孔質担体の5mLに対して、デキストラン硫酸ナトリウム500mgを溶かした1/300Mリン酸緩衝水溶液10mL(pH7.0)を作製し、当該水溶液にγ‐アミノプロピル化多孔質担体を浸し、60℃で3日間振蕩する(工程5)。反応後、該多孔質担体を1%NaBH4水溶液に15分間浸し、その後、純水と生理食塩水の夫々で順次(記載順で)洗浄し、多孔質担体の表面にデキストラン硫酸ナトリウムを固定化した吸着体を得る(工程6)。上記条件下での、蛍光エックス線回折法によるデキストラン硫酸ナトリウムの固定化量は、10mg/mLである。
【0048】
次に、上記工程1〜工程6を経て作製された吸着体と、従来のLDL吸着カラムである株式会社カネカのリポソーバ(型番LA−15)のビーズ状吸着体とのLDL吸着性能を比較評価する動的試験方法について説明する。以下の説明では、上記工程1〜工程6を経て作製された吸着体を、従来のビーズ状吸着体と区別するために、適宜「本発明吸着体」と称す。尚、リポソーバ(型番LA−15)のビーズ状吸着体の官能基は、本発明装置の吸着体の官能基と同じデキストラン硫酸である。
【0049】
先ず、貫通孔及び細孔の各平均孔径の異なる複数の本発明吸着体のサンプル、及び、リポソーバ(型番LA−15)のビーズ状吸着体の夫々1mLを、ガラス製の小型カラム容器に充填した試験用カラムを準備する。各試験用カラムに純水及び生理食塩水各10mLを流量0.5mL/分で順次通液して、各試験用カラムを洗浄した後、新鮮人血漿5mLを所定の流速で通液し、各試験用カラムについて、平均流速(mL/分)、流出時間(分)、流出液量(mL)、通液前後の血漿中の総コレステロール濃度(mg/dL)、通液前後の血漿中のHDL(高密度リポタンパク)コレステロール濃度(mg/dL)、通液前後の血漿中のトリグリセリド濃度(mg/dL)、通液前後の血漿中のLDL濃度(mg/dL)を計測し、各試験用カラムにおける総コレステロール、HDL、トリグリセリド及びLDLコレステロールの吸着体1mL当たりの吸着容量A(mg/mL)を下記の数1に示す計算式により算出した。数1中のCi及びCoは通液前後の濃度(mg/dL)を、Vは流出液量(mL)を夫々示している。
【0050】
[数1]
A=(5×Ci−V×Co)/100
【0051】
図5の一覧表に、各試験用カラム(試料番号S1〜S4、R1、R2)の平均流速(mL/分)、流出時間(分)、流出液量(mL)、通液前後の血漿中の総コレステロール濃度(mg/dL)、吸着体1mL当たりの総コレステロール吸着容量A(mg/mL)を纏めて示す。尚、試料番号S1〜S4は、本発明吸着体を充填した試験用カラム(以下、適宜「本発明試料」と称す)であり、夫々の貫通孔及び細孔の各平均孔径も合わせて表示している。試料番号R1及びR2は、リポソーバ(型番LA−15)のビーズ状吸着体を充填した試験用カラム(以下、適宜「比較用試料」と称す)である。尚、本発明試料S1〜S4の貫通孔及び細孔の各平均孔径は後述する適正範囲内にある。
【0052】
図6に、各試験用カラム(試料番号S1〜S4、R1、R2)の総コレステロール吸着容量A(mg/mL)のグラフを示す。尚、グラフ中括弧内の数値は流出時間(分)を示し、吸着に要した処理時間を表している。
【0053】
図6より明らかなように、本発明試料の場合、流速を上げて流出時間(処理時間)を短くしても、総コレステロールの吸着性能は低下せず、比較用試料と比べて勝っている。特に、本発明試料S1,S2と比較用試料R1とを比べると、総コレステロールの吸着量は約5倍である。この結果、本発明装置では、吸着対象物質がLDLの場合に、カラム容量を200mL×1本程度に低減できることになる。
【0054】
また、図5に示す試験結果において、図7に示す試験結果より、本発明試料では、総コレステロール吸着容量は飽和状態に至っていることが確認できたが、比較用試料では、流通時間が5分及び25分経過後も飽和状態に至っていないことが確認できている。図7に示す確認試験では、本発明試料の別サンプルに新鮮人血漿を本発明試料S1、S2と同じ条件(平均流速1mL/分)で通液し、溶出血漿を1分毎に1mLずつ採取し、総コレステロール吸着容量を上記数1の算出式により求め、比較用試料の別サンプルに新鮮人血漿を比較用試料R1と同じ条件(平均流速1mL/分)で通液し、溶出血漿を2分毎に2mLずつ採取し、総コレステロール吸着容量を上記数1の算出式により求めた。図7に示すように、本発明試料では4分経過後には飽和状態に達しているのに対して、比較用試料では、10分経過後も飽和状態に達していない。
【0055】
図5及び図7に示す試験結果より、本発明試料においては、平均流速が早い程、飽和吸着量が低下する傾向にあることが明らかとなった。平均流速と飽和吸着量の間の当該関係については、その理由は不明であるが、本発明試料では、平均流速を上げることで、短い流出時間で、比較用試料より十分大きい吸着量で、飽和吸着量に至る吸着性能を発揮できることを示している。つまり、吸着カラム当たりの飽和吸着量が低下しても、平均流速を上げることで短時間での体液浄化処理が可能となるため、患者に与える負担を大幅に軽減できる。
【0056】
また、発明が解決しようとする課題の説明において、現行のLDL吸着カラムでは、LDLの飽和吸着量が約6mg/mLに止まっていると指摘したが、図5に示す試験結果では、本発明試料の飽和吸着量と比較用試料の吸着量の何れも、LDL吸着量に換算して約6mg/mLの飽和吸着量に至っていないが、これは、上記動的試験方法の平均流速が速いためと考えられる。比較用試料の吸着量が飽和吸着量に至る程度の遅い平均流速であれば、本発明試料の飽和吸着量は、十分に約6mg/mLを上回る飽和吸着量が得られることは、図5及び図6の試験結果より容易に推測できる。
【0057】
次に、本発明試料の吸着選択性についての試験結果を、試料番号S2(貫通孔径2μm、細孔径130nm)の各脂質(総コレステロール、HDL、トリグリセリド及びLDL)の吸着前後の濃度(mg/dL)とその前後比(%)を図8の表及び図9のグラフに示す。図8及び図9より、アポリポタンパクBを含有するLDLを選択的に吸着し、アポリポタンパクAを含有するHDLを吸着していないことが分かる。また、LDLの吸着に従いLDLと結合しているトリグリセリドも減少している。この結果、図5及び図6の試験結果の総コレステロール吸着性能により、LDLに対する吸着性能を評価することができる。
【0058】
次に、本発明試料のLDLに対する吸着性能の貫通孔及び細孔の各平均孔径に対する依存性について説明する。当該依存性の評価実験のために、上記工程1〜工程6を経て貫通孔及び細孔の各平均孔径の異なる複数の吸着体のサンプルの夫々1mLを、ガラス製の小型カラム容器に充填した試験用カラムを準備する。ここで、貫通孔及び細孔の各平均孔径としては、後述する本発明装置としての適正範囲外のものも含めた試料を準備した。
【0059】
本発明試料のLDLに対する吸着性能の貫通孔の平均孔径に対する依存性についての評価試験は、各試験用カラムに新鮮人血漿5mLを流速0.5mL/分で1回通液し、流出液のLDL濃度を分析して行った。図10に、細孔の平均孔径60nmに対して貫通孔の平均孔径を1μm〜20μmの範囲で変化させた各試験用カラムの、吸着前後のLDL濃度から上記数1の計算式により算出したLDL吸着量(mg)を貫通孔の平均孔径(μm)に対してプロットしたLDL吸着量(飽和吸着量)の貫通孔径特性を示す。図10に示すように、貫通孔の平均孔径が1μm、2μm、3μm、4μm、8.5μm、10μm、20μmの夫々に対して、LDL吸着量は4.9mg、4.7mg、2.7mg、0.8mg、0.3mg、0.4mg、0.4mgであった。
【0060】
図10より、貫通孔の平均孔径としては、1μm以上4μm未満の範囲が好ましいことが分かる。貫通孔の平均孔径が1μm未満では、試料自体の作製が困難であるため、評価実験による確認は行われていないが、本発明吸着体の圧力損失が高くなり過ぎて血漿の所望の流速での通液が阻害されるため、LDL吸着処理の効率が低下するものと考えられ、逆に、4μm以上となると、LDL吸着量が1mgより低下し、有効な多孔質担体の表面積が減少することからLDL吸着処理の効率が低下するものと考えられる。
【0061】
次に、本発明試料のLDLに対する吸着性能の細孔の平均孔径に対する依存性についての評価試験は、各試験用カラムに新鮮人血漿2mLを流速0.5mL/分で1回通液し、流出液のLDL濃度を分析して行った。図11に、貫通孔の平均孔径2μmに対して細孔の平均孔径を20nm〜200nmの範囲で変化させた各試験用カラムの、吸着前後のLDL濃度から上記数1の計算式により算出したLDL吸着量(mg)を細孔の平均孔径(nm)に対してプロットしたLDL吸着量(飽和吸着量)の細孔径特性を示す。図11に示すように、細孔の平均孔径が20nm、45nm、60nm、100nm、130nm、200nmの夫々に対して、LDL吸着量は1.2mg、2.9mg、4.7mg、4.3mg、4.2mg、1.5mgであった。
【0062】
図11より、細孔の平均孔径としては、20nm〜200nmの範囲で、LDL吸着量が1mg以上で、更に、約45nm〜150nmの範囲で、LDL吸着量が3mg以上とより良好な結果が得られる。従って、細孔の平均孔径の下限値としては、吸着対象物質であるLDLの直径(26〜27nm)以上が好ましくは、更には、LDLの直径の約2倍(約50nm)以上がより好ましい。また、細孔の平均孔径の上限値は、200nm以下が好ましく、更には、150nm以下がより好ましい。
【0063】
〈第2実施形態〉
本発明装置の第2実施形態について説明する。図12に示すように、第2実施形態の本発明装置20は、円筒状の吸着体11が円筒容器12に収容されて構成されている。円筒容器12の各端面には、夫々開口部13,14が形成され、一方の開口部13が処理対象となる体液(本実施形態では、血液を想定)の送入口となり、他方の開口部14が処理後の体液の排出口となる。
【0064】
図12に示すように、吸着体11の筒状外側面11aが円筒容器12の内壁面から離間して、その間に吸着体11を通過した体液(ここでは、血漿を想定)の通流路15が形成されている。また、吸着体11の筒状内側の空間は、吸着体11を通過しない体液(血液)の通流路16となる。開口部13は、通流路16に連通し、開口部14は通流路15と通流路16の両方に連通している。
【0065】
本発明装置20の主要な構成部品である吸着体11は、外形は円筒状に加工されているが、平均孔径の異なる2種類の細孔(貫通孔と細孔)からなる2重細孔構造を有する一体構造の多孔質担体の表面に、LDLに対して親和性を有するデキストラン硫酸等の官能基を固定化したもので、第1実施形態の吸着体1と同じである。また、多孔質担体の貫通孔と細孔の各平均孔径も、第1実施形態の多孔質担体5の場合と同じである。従って、吸着体及び多孔質担体の作製方法及びそれらの吸着性能は、第1実施形態と同じであるので、重複する説明は省略する。
【0066】
図12に示す構造の本発明装置20では、血漿以外に粒径の大きな赤血球や白血球等の血球成分を含む血漿と血球を分離する前の血液を、そのまま開口部13から送入する。本実施形態では、貫通孔の平均孔径は1μm以上4μm未満の範囲に調整されているので、粒径の大きな赤血球や白血球等は、吸着体11を通過することなく、開口部14から排出される。粒径の大きな赤血球や白血球等が吸着体11の内側で分離された後の吸着対象物質であるLDL等を含む血漿が、吸着体11を内側から外側へ通過し、吸着体11内で吸着対象物質が吸着された後の血漿が、通流路16を介して開口部14から排出される。つまり、吸着体11の内側で分離された粒径の大きな赤血球や白血球等の血球成分と、吸着対象物質が吸着された後の血漿が、開口部14で合流して本発明装置20の外側へ排出される。本発明装置20によれば、開口部14から排出された血液を、開口部13側へ還流して循環させることで、吸着体11内を通過せずに排出された血漿中の吸着対象物質が、徐々に吸着体11で吸着される。
【0067】
従って、第2実施形態の本発明装置20では、多孔質担体の貫通孔の平均孔径は1μm以上4μm未満の範囲に調整されているにも拘わらず、処理対象の血液から血球成分を分離することなく、吸着対象物質を吸着除去することが可能となる。
【0068】
以下に、本発明装置の別実施形態につき説明する。
【0069】
上記第1実施形態では、吸着体1及び円筒容器2の断面形状として円形及び円環形を想定したが、該断面形状は円形及び円環形に限定されるものではない。また、上記第2実施形態では、吸着体11及び円筒容器12の断面形状として円環形を想定したが、該断面形状は円環形に限定されるものではない。
【0070】
また、上記第2実施形態では、開口部(送入口)13が通流路16に連通し、開口部(排出口)14が通流路15と通流路16の両方に連通している場合を図12に例示したが、開口部(送入口)13が通流路15に連通し、開口部13から送入された血液が、吸着体11の外側の通流路16に供給され、そこで粒径の大きな赤血球や白血球等が分離された後の吸着対象物質であるLDL等を含む血漿が、吸着体11を外側から内側へ通過し、吸着体11内で吸着対象物質が吸着された後の血漿が、通流路15を介して開口部14から排出される構造としても良い。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明に係る体液浄化処理用吸着カラムは、血液中のLDL等の病因物質の吸着除去を目的とするアフェレシス治療用の吸着カラムに利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明に係る体液浄化処理用吸着カラムの第1実施形態における概略の構成を模式的に示す構成図
【図2】本発明に係る体液浄化処理用吸着カラムの吸着体の構造を模式的に示す要部断面図
【図3】本発明に係る体液浄化処理用吸着カラムの吸着体を構成する多孔質担体の構造を模式的に示す要部断面図
【図4】本発明に係る体液浄化処理用吸着カラムの吸着体を構成する多孔質担体のSEM写真
【図5】本発明に係る体液浄化処理用吸着カラムの吸着体を充填した試験用カラムとリポソーバ(型番LA−15)のビーズ状吸着体を充填した試験用カラムの吸着性能を比較評価した結果を纏めた一覧表
【図6】本発明に係る体液浄化処理用吸着カラムの吸着体を充填した試験用カラムとリポソーバ(型番LA−15)のビーズ状吸着体を充填した試験用カラムの総コレステロール吸着性能を比較評価した結果を示す図
【図7】本発明に係る体液浄化処理用吸着カラムの吸着体を充填した試験用カラムとリポソーバ(型番LA−15)のビーズ状吸着体を充填した試験用カラムの総コレステロール吸着量の時間変化を比較評価した結果を示す図
【図8】本発明に係る体液浄化処理用吸着カラムの吸着体を充填した試験用カラムの吸着選択性を示す表
【図9】本発明に係る体液浄化処理用吸着カラムの吸着体を充填した試験用カラムの吸着選択性を示す図
【図10】本発明に係る体液浄化処理用吸着カラムの吸着体を充填した試験用カラムのLDL吸着性能の貫通孔の平均孔径に対する依存性を示す図
【図11】本発明に係る体液浄化処理用吸着カラムの吸着体を充填した試験用カラムのLDL吸着性能の細孔の平均孔径に対する依存性を示す図
【図12】本発明に係る体液浄化処理用吸着カラムの第2実施形態における概略の構成を模式的に示す構成図
【符号の説明】
【0073】
1: 吸着体
2: 円筒容器
3: 開口部(送入口)
4: 開口部(排出口)
5: 多孔質担体
6: 官能基
7: 骨格体
8: 貫通孔
9: 細孔
10: 本発明に係る体液浄化処理用吸着カラム
11: 吸着体
11a: 吸着体の筒状外側面
12: 円筒容器
13: 開口部(送入口)
14: 開口部(排出口)
15: 通流路(吸着体の外側)
17: 通流路(吸着体の内側)
20: 本発明に係る体液浄化処理用吸着カラム
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも低密度リポタンパクを含む吸着対象物質に特異的に結合する官能基を多孔質担体の表面に固定してなる体液浄化処理用の吸着カラムであって、
前記多孔質担体が、3次元網目構造のシリカゲルまたはシリカガラスからなる骨格体と、前記骨格体の間隙に形成された水銀圧入法で測定した平均孔径が1μm以上4μm未満の範囲内の3次元網目状の貫通孔を有し、且つ、水銀圧入法で測定した平均孔径が前記体液浄化処理における前記吸着対象物質の最大長より大きく、前記骨格体の表面から内部まで貫通する細孔を分散して有していることを特徴とする体液浄化処理用吸着カラム。
【請求項2】
前記細孔の水銀圧入法で測定した平均孔径が、前記吸着対象物質の最大長より2倍以上大きいことを特徴とする請求項1に記載の体液浄化処理用吸着カラム。
【請求項3】
前記細孔の水銀圧入法で測定した平均孔径が、27nm以上200nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の体液浄化処理用吸着カラム。
【請求項4】
前記官能基が、低密度リポタンパクに特異的に結合する親和性を有するデキストラン硫酸またはその塩、ポリアクリル酸またはその塩、或いは、その他の鎖状多価酸またはその塩であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の体液浄化処理用吸着カラム。
【請求項5】
前記多孔質担体が、スピノーダル分解ゾルゲル法で合成されていることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の体液浄化処理用吸着カラム。
【請求項6】
前記多孔質担体が、柱状に成形され、両端面の夫々の少なくとも一部に開口部を有する筒状容器に、前記多孔質担体の柱状側面が前記筒状容器の内壁面に密着して収容され、
前記筒状容器の一方の端面の前記開口部と他方の端面の前記開口部の間が、前記多孔質担体の前記貫通孔を介して連通していることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の体液浄化処理用吸着カラム。
【請求項7】
前記多孔質担体が、筒状に成形され、両端面の夫々の少なくとも一部に開口部を有する筒状容器に、前記多孔質担体の筒状外側面の少なくとも一部が前記筒状容器の内壁面から離間して収容され、
前記筒状容器の一方の端面の前記開口部が、筒状の前記多孔質担体の外側部と内側部の両方と連通し、
前記筒状容器の他方の端面の前記開口部が、筒状の前記多孔質担体の外側部と内側部の何れか一方と連通していることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の体液浄化処理用吸着カラム。
【請求項1】
少なくとも低密度リポタンパクを含む吸着対象物質に特異的に結合する官能基を多孔質担体の表面に固定してなる体液浄化処理用の吸着カラムであって、
前記多孔質担体が、3次元網目構造のシリカゲルまたはシリカガラスからなる骨格体と、前記骨格体の間隙に形成された水銀圧入法で測定した平均孔径が1μm以上4μm未満の範囲内の3次元網目状の貫通孔を有し、且つ、水銀圧入法で測定した平均孔径が前記体液浄化処理における前記吸着対象物質の最大長より大きく、前記骨格体の表面から内部まで貫通する細孔を分散して有していることを特徴とする体液浄化処理用吸着カラム。
【請求項2】
前記細孔の水銀圧入法で測定した平均孔径が、前記吸着対象物質の最大長より2倍以上大きいことを特徴とする請求項1に記載の体液浄化処理用吸着カラム。
【請求項3】
前記細孔の水銀圧入法で測定した平均孔径が、27nm以上200nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の体液浄化処理用吸着カラム。
【請求項4】
前記官能基が、低密度リポタンパクに特異的に結合する親和性を有するデキストラン硫酸またはその塩、ポリアクリル酸またはその塩、或いは、その他の鎖状多価酸またはその塩であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の体液浄化処理用吸着カラム。
【請求項5】
前記多孔質担体が、スピノーダル分解ゾルゲル法で合成されていることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の体液浄化処理用吸着カラム。
【請求項6】
前記多孔質担体が、柱状に成形され、両端面の夫々の少なくとも一部に開口部を有する筒状容器に、前記多孔質担体の柱状側面が前記筒状容器の内壁面に密着して収容され、
前記筒状容器の一方の端面の前記開口部と他方の端面の前記開口部の間が、前記多孔質担体の前記貫通孔を介して連通していることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の体液浄化処理用吸着カラム。
【請求項7】
前記多孔質担体が、筒状に成形され、両端面の夫々の少なくとも一部に開口部を有する筒状容器に、前記多孔質担体の筒状外側面の少なくとも一部が前記筒状容器の内壁面から離間して収容され、
前記筒状容器の一方の端面の前記開口部が、筒状の前記多孔質担体の外側部と内側部の両方と連通し、
前記筒状容器の他方の端面の前記開口部が、筒状の前記多孔質担体の外側部と内側部の何れか一方と連通していることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の体液浄化処理用吸着カラム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図4】
【図2】
【図3】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図4】
【公開番号】特開2009−66117(P2009−66117A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−236564(P2007−236564)
【出願日】平成19年9月12日(2007.9.12)
【特許番号】特許第4226050号(P4226050)
【特許公報発行日】平成21年2月18日(2009.2.18)
【出願人】(308009509)株式会社REIメディカル (7)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年9月12日(2007.9.12)
【特許番号】特許第4226050号(P4226050)
【特許公報発行日】平成21年2月18日(2009.2.18)
【出願人】(308009509)株式会社REIメディカル (7)
【Fターム(参考)】
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