説明

体温計

【課題】短時間で体温測定が行える体温計であっても、被測定者にとってのストレスを軽減して、正確な体温の測定が可能な体温計を提供すること。
【解決手段】先端に赤外線を導入する開口部を有し、額FOに当接させる計測部12と、手で把持される持ち手部20と、体温を知らせる報知部30とを備えた体温計であって、持ち手部30は、計測部12を額に当接させる方向上に配置され、かつ、少なくとも人差し指FIで円弧状をつくって、その人差し指FIと親指THの指腹側で把持される外周面を有しており、持ち手部20よりも計測部12側であって、持ち手部20に隣接する領域には、持ち手部20の外周寸法に比べて大きな外周寸法からなり、人差し指FIと親指THで額側に押さえつけられる膨出部35を有していることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、額からの赤外線を検知して、体温を測定する体温計に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な体温計が開発されており、測定時間の早さが故に、赤外線体温計の要望が高まっている。すなわち、赤外線体温計では、人体から発生する赤外線を赤外線センサで検知するとともに、環境温度を温度センサで検知し、これら各センサの検知結果から体温を予測して、短時間の体温計測が可能とされている。
【0003】
赤外線体温計については、耳の孔の中にその計測部を挿入して体温を計測する耳式体温計がよく知られている(特許文献1参照)。
また、ごく稀ではあるが、額の皮膚表面から生じる赤外線を検知することで、体温を測定する額式体温計も存在する(特許文献2参照)。この特許文献2の額式体温計は、ケース本体から直角に曲げられた先にセンサがあり、ケース本体を手で握って、センサを耳の孔の中よりも広い額に当接して使用される。これにより、額式体温計は、耳式体温計に比べて安全で操作性の良い体温計とされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−315727号公報
【特許文献2】実用新案登録第3080937号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、耳式体温計の場合、耳への異物挿入に嫌悪感を覚える使用者がおり、例えば乳幼児においてはその傾向が強く見られる。このため、乳幼児においては暴れて計測位置が定まらなかったり、老人等でも挿入角度が定まり難くかったりして、正確な計測が不可能になる場合もあり、必ずしも有用ではなかった。
また、額式体温計の場合、額は耳の孔の中に比べれば測定領域が広いように思えるが、額の皮膚下の概ね動脈が流れている領域でないと、正確な体温を測定することが困難であることが分かった。そして、特許文献2に記載の額式体温計では、額の皮膚下の動脈が流れている領域に先曲がりのセンサを押し付ける際、ケース本体と、それをこぶし状に握った手が被測定者の目の前にくるため、乳幼児をはじめとする被測定者からすればストレスであり、その結果、耳式体温計と同様に、暴れて計測位置が定まらず、正確な計測が不可能になってしまうことも分かった。
【0006】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、短時間で体温測定が行える体温計であっても、被測定者にとってのストレスを軽減して、正確な体温の測定が可能な体温計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、本発明によれば、先端に赤外線を導入する開口部を有し、額に当接させる計測部と、前記導入された赤外線を検知して計測した体温を知らせる報知部とを備えた体温計であって、前記計測部を額に当接させる方向上に配置され、かつ、少なくとも人差し指で円弧状をつくって、その人差し指と親指の指腹側で把持される持ち手部が設けられ、前記持ち手部よりも前記計測部側であって、前記持ち手部に隣接する領域には、前記持ち手部の外周寸法に比べて大きな外周寸法からなり、前記人差し指と親指で額側に押さえつけられる膨出部を有している体温計により解決される。
【0008】
本発明の構成によれば、体温計は、先端に赤外線を導入する開口部を有し、額に当接させる計測部と、導入された赤外線を検知して計測した体温を知らせる報知部とを備えているため、額に計測部の開口部を当てて体温を知ることができる。
ここで、このような体温計は、計測部を額に当接させる方向上に配置された持ち手部を有する。このため、額に計測部を当接させても、持ち手部が目の前にくることを有効に防止し、被測定者にストレスを与えることがない。したがって、本体温計を用いても、例えば乳幼児は暴れることがなく、正確な温度測定が可能となる。
また、持ち手部は、少なくとも人差し指で円弧状をつくって、その人差し指と親指の指腹側で把持される。したがって、測定者側からすれば、例えば人差し指と親指とが突っ張った状態で把持されるようなことがなく、測定者の手指の緊張が和らいだ把持となり、このため、測定方向を安定させて、正確な温度測定が可能となる。
さらに、持ち手部よりも計測部側であって、持ち手部に隣接する領域には、持ち手部の外周寸法に比べて大きな外周寸法からなり、人差し指と親指で額側に押さえつけられる膨出部を有している。したがって、2本の指だけで把持して計測する際、乳幼児等の被測定者が動いたとしても、この大きな膨出部を額に向って押しつけて、体温計が額からズレる恐れを軽減できる。
【0009】
また、好ましくは、前記膨出部より前記計測部側の先端部領域は、前記膨出部を額側に押さえつけた際、人差し指と親指以外の指が額又はその周辺に接触できる高さとされていることを特徴とする。従って、額又はその周辺に接触させた指を軸にしながら人差し指と親指で持ち手部の位置を調節して、計測部を所定の計測領域に容易に当接させることができる。すなわち、体温計と額との距離を容易に測りながらのアプローチが可能となる。
【0010】
また、好ましくは、前記先端部領域の外周面は、前記計測部に向うに従って外周寸法が小さくなるように傾斜しており、この傾斜角度は、測定者が前記持ち手部を把持して、前記計測部を被測定者の額に当接しようとする際、前記当接しようとする任意の部分を視認できる角度とされていることを特徴とする。したがって、膨出部が横に張り出して、先端側が見え難くなっていても、体温計を額に当接させる際、計測部を任意の計測領域に容易に当接させることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、短時間で体温測定が行える体温計であっても、被測定者にとってのストレスを軽減して、正確な体温の測定が可能な体温計を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】(a)は、本発明の第1の実施形態に係る体温計を乳幼児の額に当接させようとする図であり、(b)はその際の額周辺の赤外線をサーモグラフィ装置で計測した熱分布図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る体温計の平面側から見た斜視図であり、一点鎖線で囲った図は報知部を正対して視認した図である。
【図3】図1の体温計を底面側から見た斜視図である。
【図4】図1の体温計の正面図である。
【図5】図2のA−A線断面図である。
【図6】図1の体温計の電気的構成を示すブロック図である。
【図7】図1の体温計の動作例を説明するためのフローチャートである。
【図8】本発明の第1の実施形態に係る第1の変形例であって、(a)は平面図、(b)は概略斜視図である。
【図9】本発明の第1の実施形態に係る第2の変形例の概略正面図である。
【図10】本発明の第1の実施形態に係る第3の変形例の概略正面図である。
【図11】本発明の第2の実施形態に係る体温計であり、(a)は平面側から見た斜視図、(b)は底面側から見た斜視図である。
【図12】図11の体温計を乳幼児の額に当接させようとする図である。
【図13】図11の体温計の電気的構成を示すブロック図である。
【図14】本発明の第3の実施形態に係る体温計であり、アダプターに挿入した状態を示す図である。
【図15】図14の体温計とクレードルとコンピュータとを接続して電気的構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面を参照して詳細に説明する。
なお、以下に述べる実施の形態は、本発明の好適な具体例であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの形態に限られるものではない。
【0014】
〔額で体温測定する際の使用方法など〕
図1に示される体温計10は、額から放射される赤外線を検知して体温を測定する額式体温計であり、測定者が持ち手部20を手で持って、先端の計測部12を被測定者の額に接触させ、計測した体温を報知部30で報知するようになっている。
この体温計10の構成を詳細に説明する前に、理解に資するものとして、額で体温測定する際の好ましい使用方法などについて説明する。
【0015】
本願発明者らは、研究の結果、図1(b)に示されるように、乳幼児は、通常、A、B、C、D、Eの領域の順に赤外線放射量が多くなっていることを見出し、赤外線を容易に計測するためには、赤外線放射量の多いAまたはBの領域、少なくともCの領域に計測部12を当接させるのが好ましいことが分かった。
また、眉上線付近のAの領域RX,LXの下には眼窩上動脈が、眉間MXの下には滑車上動脈が、こめかみ近傍の領域の下には浅側頭動脈がはしっており、この眼窩上動脈、滑車上動脈、浅側頭動脈は、収縮が起こらない血管である(即ち、血管性動性神経の作用がなく、寒冷刺激でも、血管収縮はほとんど認められない)ことが知られている。
さらに、乳幼児は大人と違って、皮膚・皮下脂肪が薄く(このため、熱を放散し易い。一方、環境温度に影響を受けやすい)、血管から皮膚表面までの距離や組織の違いについては、個人差が少ないことも分かった。
【0016】
以上より、額から体温を測定する場合、従来は、測定した体温が区々となり、正確な体温測定が困難であると思われていたが、眉上線付近であって、眼窩上動脈が皮膚下にある付近の2つの領域LX,RX、及びこれら2つの領域LX,RX間を計測領域WX(図の平行斜線の領域)とし、そこに体温計10を接触させることが、正確な体温を計測するには有用であることが判明した。なお、こめかみ近傍の領域においては、浅側頭動脈があるが髪の影響と考えられる温度分布の個人差が見られることが分かったため、正確な体温計測には不向きであることも判明した。
【0017】
加えて、乳幼児の場合は、血管から皮膚表面までの距離等に個人差が少なく、大人よりも正確な体温測定が可能であることも判明したが、一方で、乳幼児の体温は生まれてすぐは高く(例えば1歳未満の平熱は36.3〜37.4度)、体温調整機能が未熟なため体温が変動しやすく、また次第に生体リズムによる日内変動も示すようになる。このことから、発熱を知るためには頻繁に体温を計測して平熱を知っておくことが必要で、その際、健康な安静時であって同じ時間に、同一部位(好ましくは計測領域WX内の同一部位)に体温計10を接触させて、体温測定することが有効である。
【0018】
〔体温計の形状等〕
以下、体温計の形状等を、上述した図1、及び図2〜図4をもって説明する。なお、以下に説明する体温計は、被測定者(体温を測られる者)が乳幼児であることを想定したものである。
体温計10は、額式体温計であって、全体的に乳幼児が誤飲をしようとしても喉を通過しない径からなる略円柱状の本体とされ、その先端に計測部12、後端に報知部30、計測部12と報知部30との間に持ち手部20を有している。
【0019】
計測部12は、図3及び図4に示されるように、被測定者の額FOに対向して当接させる部分で、開口部14とその周辺領域からなり、額密着部ともいうべきものであって、温度を計算するための制御手段などを意味するものではない。
開口部14は、額から放射される赤外線を受ける穴で、この開口部14と図1(a)の計測領域WXとを対向させることで、体温が計測される。
なお、開口部14の内側には、赤外線を検知する赤外線センサ40が設けられており、開口部14から赤外線センサ40までの間は、赤外線を効率よく赤外線センサ40まで導くための円錐台筒状の導波管16とされている。導波管16は金属製であり、その内壁面は好ましくは赤外線の減衰を抑えるために金メッキ処理されている。
【0020】
そして、計測部12は、開口部14を計測領域WX(図1参照)のいずれの箇所に当接させたとしても、その周縁部(額に当接する計測部12の最も外周縁)18が目にかからない領域とされている。
さらに、額に当接される上記周辺領域については、目にかからない領域とされつつも、出来るだけ大きな領域とされるのが好ましい。本実施形態の場合、開口部14を図1の計測領域WXの最も目に近い箇所に当接させた際、周縁部18が瞼に隣接する箇所まで当接されるようになっており、具体的には、乳児(3歳位まで)を想定して、開口部14の直径を約14.6mm、周縁部18の直径Φ3を約20mmとしている。これにより、体温計10を額に押し付けた際、圧力を分散させて、被測定者へのストレスを防止している。
【0021】
また、計測部12については、開口部14の周辺領域が摩擦力の高い素材で形成され、額に当接させた際の計測領域WX(図1参照)からのずれを防止しており、より好ましくは、図3に示される周縁部18をリング状のゴム素材にして、肌触りとずれ防止の双方を図っている。さらに、周縁部18をゴム素材にすることで、金属やプラスチックと比較して、ひんやりとした冷感を被測定者に与えることがなく、筋肉の萎縮による体温変化を有効に防止することもできる。
【0022】
持ち手部20は、本体の中間に位置する胴部であり、計測部12を額に当接させようとする方向(計測部12を図1の計測領域WXに対向させながら近づける方向)上に配置され、これにより、額に計測部12を当接させる際に、持ち手部20及びこれを把持した手が被測定者の目前にくることを防止し、被測定者のストレスを軽減できる。
具体的には、持ち手部20は、計測部12と持ち手部20と報知部30とが並んだ方向と直交する方向(図4の横方向)の断面外形(以下、「横断面外形」という)が略円形状であって、この持ち手部20と計測部12との中心軸CTが略同軸上に配置され、これにより、持ち手部20を把持した手を額に対向するように近づければ、開口部14が額に容易に対向して当接される。
【0023】
このような持ち手部20は、図2及び図4に示されるように、少なくとも人差し指FIで円弧状をつくって、その人差し指FIと親指THの指腹側FIa,THaで把持される外周面を有している。すなわち、被測定者のストレスを軽減するためには、出来るだけ顔の前で拳形状を作ることを回避する必要があり、2本の指で把持することが好ましい。しかし、単に2本の指で把持する(例えば2本の指を突っ張った状態で把持する)ような方法であると、不安定になり、測定者の手指の緊張が被測定者に伝わりもする。このため、2本の指で把持する方法のうち、最も安定して緊張が和らいだ自然な把持方法として、人差し指FI及び親指THの両方で輪状を作って、持ち手部20を把持する方法と、輪状を作った人差し指FIと伸びた親指THとで把持する方法(以下、この2つの把持方法を「二本の指で握る方法」という)とがあり、持ち手部20の外周面は、二本の指で握る方法をとれる形状(太さや長さ等)とされている。
【0024】
本実施形態の持ち手部20は、全体が略円筒状であって、横断面外形が略真円形状で直径Φ1が約34mm(外周約10.7cm)とされ、上述した2つの把持方法を促す太さと長さを有して、さらに、利き手の違いにかかわらず把持し易くなっている。
なお、持ち手部20の表面はゴム素材で形成され、把持した手が滑り難くされ、被測定者の図1の計測領域WXの付近にある目に、体温計10が接触してしまう事故を防止している。
また、持ち手部20の外周面には、内部に収容された電池(図示せず)を覆い隠すための蓋部22が配設されており、この蓋部22はネジ等で着脱可能になっている。
【0025】
報知部30は、本体の後端に配置され、少なくとも体温を知らせる手段を有している。その知らせる手段としては音声も利用できるが、本実施形態の場合は発光ダイオード、液晶等を利用した表示手段とされている。
具体的には、図2に示されるように、報知部30は、体温だけではなく、電源起動、計測中、体温計測種別、バテリーの交換サインが表示される。
すなわち、円形の上面24であって、報知部30の隣にはスイッチ32が設けられており、このスイッチ32は電源のON・OFF機能を有し、電源ONにより体温計10が起動すると、報知部30の砂時計マークが点滅するようになっている。また、報知部30は、赤外線センサが赤外線を感知すると、赤ちゃんのマークが表示され、その後、計測が終了すると温度が表示される。
また、体温計10は、体温を予測して瞬時に表示する「予測体温計測モード」と、皮膚表面の実際の温度を表示する「実測体温計測モード」とを有する。そして、スイッチ32を押すと、予測体温計測モードか実測体温計測モードのいずれか一方の計測モードとなり、長押しすることで、他方の計測モードへの切り替えが行われる。本実施の形態では、実測体温計測モードの場合、報知部30には太陽のマークが表示され、予測体温計測モードの場合、報知部30には赤ちゃんのマークが表示されるようになっている。
【0026】
このような報知部30は、図2及び図4に示されるように、計測部12と反対側の上面24の中央領域に配置されている。そして、体温計10は、上面24と持ち手部20の横断面と計測部12は互いに平行であって、計測部12と持ち手部20と報知部30は一列に並び、さらに、夫々の中心軸CTは略同軸とされている。
【0027】
ここで、体温計10については、本体の持ち手部20よりも計測部12側であって、持ち手部20に隣接する領域に、持ち手部20の外周寸法に比べて大きな外周寸法からなり、人差し指FIと親指THで額側に押さえつけられる膨出部35を有している。図の場合、膨出部35の最大直径Φ2は約43mm(外周約13.5cm)とされている。これにより、人差し指FIと親指THが、持ち手部20を把持すると同時に、膨出部35を額に向って押しつけ、乳幼児が暴れたとしても、押し付けながら体温を測れるため、開口部14が計測領域からズレてしまう恐れを防止できる。特に、上述のように、二本の指だけで把持する手法のうち、最も安定する「二本の指で握る方法」を用いたとしても、狭い計測領域に開口部14を確実に当接できない恐れがあることから、この押し付けて体温計10の位置を安定させる効果は大きい。
【0028】
なお、膨出部35は、持ち手部20と同様に横断面外形が円形状であり、持ち手部20や計測部12さらに上面24の外径に比べて大きな外径を有し、本体温計10の中で最も大きな外径を有している。
そして、膨出部35は、持ち手部20と連続して一体に形成され、持ち手部20の後端(持ち手部20の報知部30側の端)から膨出部35の最大外径部までの高さH1は大人の二本の指(人差し指FIと中指MF)を完全に縦に並べで配列させることが困難な寸法(図の場合は約25.5mm)とされている。
また、膨出部35は、人差し指FIや親指THの丸みに対応し、計測部12側に窪むように湾曲しながら除々に横方向(計測部12と持ち手部20と報知部30とが並んだ方向と直交する方向)に膨出し、持ち手部20と同様にゴム素材で形成されている。これにより、膨出部35において指が滑り難くされ、開口部14を確実に任意の計測領域に押し当てることができる。
【0029】
そして、体温計10については、図4に示されるように、本体の膨出部35より計測部12側の先端部領域29が、膨出部35の最大外径部から周縁部18にかけてのテーパ状部となっており、計測部12を額FO側に押さえつけた際、人差し指FIと親指TH以外の指が額FO又はその周辺(例えばこめかみ)に接触できる高さH2を有しており、図の場合は高さH2が約16mmとされている。したがって、額FO又はその周辺に接触させた指(図4では小指LF)を基点にしながら、人差し指FIと親指THで持ち手部20の位置を調節し、持ち手部20と同軸の計測部12を計測領域WXに容易に当接させることができる(体温計と額との距離を測りながらアプローチが可能)。
【0030】
さらに、先端部領域29については、膨出部35の最大外径部から計測部12に向うに従って外周寸法が小さくなるように傾斜しており、これにより、体温計10を額に当接させる際、開口部14を計測領域WX(図1参照)に位置合わせし易くしている。すなわち、膨出部35が横に張り出し、かつ、計測部12が目にかからないように小さくされていても、測定者が計測部12を額に当接しようとする際、その当接しようとする任意の部分(以下、「当接箇所」という)を視認できるように、先端部領域29の傾斜角度θが決められている。本実施形態の傾斜角度θは45度である。
【0031】
さらに、本実施形態の場合、計測部12の周縁部18は、開口部14よりも僅かに下側(測定時の額側)に突出し、しかも、隣接する他の部材と異なる色彩を有するリング状の別部材とされている。これにより、測定者はこの周縁部18を目印にしながら、計測部12を当接箇所に容易に当接させることができる。なお、周縁部18の下側の僅かな突出は、額に押し当てられた際、皮膚に埋もれて、赤外線導入を阻害することのない程度の突出である。
【0032】
このような当接箇所の視認性を向上させるためには、持ち手部20の外径Φ1、先端部領域29の高さH2、及び膨出部35の最大外径Φ2も同時に考慮することが好ましい。
すなわち、持ち手部20は、膨出部35の最大外径Φ2に比べて小さな外径Φ1ではあるが、計測部12を額に当接させる際、当接箇所を見る視線SGの邪魔にならないように、指TH,FIの太さを考慮して設定されるのが好ましい。
また、先端部領域29の高さH2は、上述のように、小指等を基準にしながら体温計10と額との距離を測りながらアプローチされる寸法とされ、そのためには、高さH2の寸法は小さくても構わないが、あまり小さ過ぎると、当接箇所が見え難くなってしまうことから、所定の高さ寸法を有するのが好ましい。
また、膨出部35についても、過度に横に張り出しすぎると、傾斜角度θが大きくなって、測定者は当接箇所を横から覗き込むような格好となり、当接箇所が視認し難くなる。このため、膨出部35の最大外径Φ2は大き過ぎないことが好ましい。
【0033】
〔体温計の内部構造と電気的構成〕
次に、体温計10の内部構造と電気的構成を、図5及び図6を参照しながらまとめて説明する。
これらの図に示される赤外線センサ40は、皮膚表面からの赤外線照射により暖められた温度と、赤外線が照射されない温度との差異を瞬時に検出するようになっており、その温度差に相当する信号が、回路基板42に実装された集積回路等でなる制御手段44に入力される。また、赤外線センサ40の近傍には、サーミスタなどの温度センサ46が設置され、環境温度を検出して、その信号も制御手段44に入力されるようになっている。そして、制御手段44ではこれら各信号に基づいて、所定の周知な演算を行って体温が計算され、その計算結果は表示駆動回路48が構成された基板49に伝送され、この基板49と電気的に接続された表示手段等の報知部30により表示される。このようにして、瞬時に、体温を計測できるようになっている(予測体温計測モード)。
【0034】
また、赤外線センサ40では、皮膚表面からの赤外線照射により暖められた温度が熱平衡状態になるまで検出することで、制御手段44、表示駆動回路48、及び報知部30を介して、皮膚表面の実際の温度を表示することもできる(実測体温計測モード)。
なお、報知部30の隣には制御手段44と電気的に接続されたスイッチ32が配置されており、スイッチ32は電源ON・OFFや計測モードの指示を制御手段44に送るようになっている。
また、制御手段44は内蔵された電池41から駆動電圧を受け、また、赤外線センサ40、表示駆動基板48、報知部30、スイッチ32は、これと電気的に接続された制御手段44を介して、電池41から駆動電圧を受けるようになっている。
【0035】
なお、本実施形態の報知部30は、図5に示されるように、液晶表示部36と基板49との間に導光板34が配置され、導光板34の側面には、基板49に配置された発光ダイオード39が実装されている。そして、発光ダイオード39からの光は、導光板34の内部に侵入して、分散するように上方に反射され、この反射光が液晶表示部36のバックライトとされている。
【0036】
〔体温計の動作説明〕
次に、体温計10の動作を、上述した図6や、体温計10の動作例を説明するためのフローチャートである図7を参照しながら簡単に説明する。
これらの図に示されるように、体温測定を始めるには、先ずはスイッチ32を押圧する(ST1)。そうすると、電源がON状態になり、報知部30の砂時計マーク(図2参照)が点滅して、体温計測が待機状態になる(ST2)。この際、制御手段44はスイッチ32が長押し(所定時間以上のスイッチの押圧)か否かを判断する(ST3)。そして、長押しである場合、制御手段44は「実測体温計測モード」に切り替えられたと判断し、報知部30に太陽のマーク(図2参照)が表示されると共に、皮膚の実際の表面温度を計測するための待機状態に移行して(ST4)、次のST5に進む。また、長押しでなければ「予測体温計測モード」であると判断して次のステップに進む(ST5)。
【0037】
「予測体温計測モード」及び「実測体温計測モード」のいずれの場合も、赤外線センサ40が赤外線を検知できたか否かを判断し(ST5)、検知できていれば、上述したように体温が計算されて報知部30により測定された結果が表示される(ST6)。次いで、報知部30の表示から30秒が経過したこと、或いは、再度スイッチが押されたことを制御手段44が判断し(ST7)、その後、電源がOFF状態になって(ST8)、終了する。
一方、ST5で赤外線センサ40が赤外線を検知していないと判断した場合は、30秒間だけ計測待機状態になり(ST5−1)、その間に赤外線が検知できればST5に進み、検知できなければ電源がOFF状態になって(ST8)、終了する。
【0038】
本発明の第1の実施形態は、以上のように構成され、持ち手部20は、計測部12を額に当接させる方向上に配置され、また、二本の指FI,THだけで把持されるため、体温を計測する際、持ち手部20や拳が目の前にくることを避け、被測定者に与えるストレスを軽減できる。
さらに、少なくとも人差し指FIで円弧状をつくって、その人差し指FIと親指THの指腹側で把持される外周面を有する持ち手部20と、この持ち手部20よりも計測部12側であって、持ち手部20に隣接する領域には、人差し指FIと親指THで額側に押さえつけられる膨出部35を有している。したがって、被測定者に与えるストレスを軽減するため、2本の指だけで把持し、しかも、狭い計測領域WXに開口部14を当接させる場合であっても、体温計10の位置ズレを防止できる。
【0039】
なお、本第1の実施形態の体温計10は、上面24、持ち手部20の横断面外形、膨出部35の横断面外形、及び計測部12が、それぞれ真円形状であり、互いに平行に配置されている。
この点、第1の実施形態の第1の変形例に係る体温計100の平面図である図8(a)、及び当該体温計100の概略斜視図である図8(b)に示されるように、上面24、持ち手部20の横断面外形、膨出部35の横断面外形が、それぞれ楕円形とされてもよい。このように楕円形としても、第1の実施形態と同様の作用効果は発揮される。
【0040】
また、第1の実施形態の第2の変形例に係る体温計101の側面図である図9に示されるように、上面24が持ち手部20や膨出部35の横断面外形に対して平行ではなく、傾斜してもよい。これにより、この傾斜した上面24に配置された表示手段である報知部30も傾斜することになり、測定者と被測定者の位置関係によっては(例えば、被測定者が寝た状態で、測定者が被測定者の脇であって、足元側に座って計測する位置関係)、額に計測部12を当接させながら、報知部30を視認し易くすることができる。
【0041】
また、本第1の実施形態の体温計10について、先端部領域29は、額に当たっても額を痛めないように、先端部領域29の外周面が全体的に外側に向って凸となるように湾曲した形状とされている。
この点、第1の実施形態の第3の変形例に係る体温計102の側面図である図10に示されるように、先端部領域29の外周面は全体的に内側に向って凸となるように湾曲した形状とされてもよい。これにより、額に体温計120を当接させる際、当接箇所や計測部12の周縁部18を視認し易くして、より正確に当接箇所に体温計102を当てることができる。
【0042】
図11及び図12は、本発明の第2の実施形態に係る体温計120であり、図11(a)は平面側から見た斜視図、図11(b)は底面側から見た斜視図、図12は図11の体温計120を乳幼児の額に当接させようとする図である。
これらの図において、図1ないし図10の体温計10と同一の符号を付した箇所は同様の構成であるから、重複する説明は省略し、以下、相違点を中心に説明する。
本第2の実施形態の体温計120が第1の実施形態の体温計10と異なるのは、光を照射する機能を有する点である。
【0043】
すなわち、体温計120は、開口部14を当接しようとする額の任意の部分(当接箇所)PTに向って、光を照射する光照射手段50が設けられており、これにより、図12に示されるように、光を照射された部分を目印にして、測定者は正確に開口部14を計測領域WXに当接させることができる。
具体的には、上記第1の実施形態の計測部12の周縁部18は、開口部14よりも僅かに下側(測定時の額側)に突出したリング状部材とされていたが、本体温計120の場合、この周縁部が光照射手段50とされている。
【0044】
なお、光照射手段50は、発光するランプや発光ダイオード等の照射装置から直接、額に光を当てるのではなく、導光部材を利用している。
すなわち、体温計120には導光部材が埋められており、この導光部材の一方の端部が計測部12の周縁部にリング状に露出し、光照射手段50として外から視認されるようになっている。そして、体温計120の内側であって、導光部材の他方の端部には、光照射装置(図示せず)が配設され、この光照射装置を発光させることで、導光部材を介して光を照射するようになっている。これにより、体温計120が額に近づいた際に初めてボンヤリと当接箇所PTを明るくすることが出来る程度とされ、光の照射により当接箇所の温度が上昇してしまう恐れを有効に防止している。
また、内蔵された光照射装置には、光を当てられた当接箇所PTが発熱し難いように、発光ダイオードが利用されている。
【0045】
なお、この内蔵された光照射装置は、図11(a)に示されるように、上面24に配置された照射用スイッチ52で制御するようになっている。
具体的には、体温計120の電気的構成を示すブロック図である図13に示されるように、照射用スイッチ52は、上述した制御手段44に付加して形成された定電圧回路と電気的に接続され、照射用スイッチ52を押すことで、制御手段44は光照射装置54に一定の電流を供給し、光照射装置54は発光するようになっている。
【0046】
図14は本発明の第3の実施形態に係る体温計130であり、アダプター70に挿入した状態を示す図である。
この図において、図1ないし図10の体温計10と同一の符号を付した箇所は同様の構成であるから、重複する説明は省略し、以下、相違点を中心に説明する。
第3の実施形態の体温計130が第1の実施形態の体温計10と主に異なるのは、アダプター70を有する点である。
すなわち、アダプター70は体温計130を挿入して保管する台であり、底部70aが平坦とされ、上面70bには、体温計130の膨出部35の最大外径より僅かに大きな開口面積を有する凹部55が形成されている。この凹部55には体温計130の最大外径より先端側である先端部領域29が挿入され、また、上面70bは底部70a側に向って傾斜した傾斜面とされている。これにより、上述した「二本の指で握る方法」を誘導するように、持ち手部20及び膨出部35を露出させて立てることができる。
【0047】
さらに、体温計130の電池は充電池とされ、アダプター70はこの充電池を充電し、また、体温計130で測定した結果のデータを受信して、そのデータをコンピュータに送信するクレードルとするのが好ましい。
図15はこのような体温計130とアダプター70とコンピュータ80との電気的構成を示すブロック図であり、この図15と図14を用いて、体温計130及びアダブター70のクレードル機能を説明する。
これらの図に示されるように、体温計130の先端部領域29の傾斜面には、アダプター充電及びデータ通信用の端子60が設けられている。この端子60は、内蔵された充電池58及び制御手段44と電気的に接続され、体温計130をアダプター70の凹部55に挿入すると、アダプター70側の端子72に接続される。
【0048】
アダプター70側の端子72も充電用及びデータ通信用の端子となっている。具体的には、端子72は、体温計130の充電池58を充電するための充電回路74と電気的に接続され、AC電源59から供給された電源を充電池58に送るようになっている。
また、端子72は、ユニバーサルシリアルバス(USB)等のインターフェース78を介して、コンピュータ80に体温測定結果データを送信するための制御部76と電気的に接続されている。これにより、体温計130をアダプター70に挿入すると、体温計130は測定した体温のデータを、制御手段44、各端子60,72、制御部76、及びインターフェース78を介して、コンピュータ80に送信するようになっている。したがって、発熱を知るためには頻繁に体温を計測して平熱を知っておくことが必要な乳幼児において、コンピュータ80で日々の体温を管理することが出来る。
なお、体温計130とアダプター70との間、およびアダプター70とコンピュータ80との間は、無線によりデータの送受信をするようにしてもよい。
【0049】
ところで、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
例えば、上述した体温計10,100,101,102,120,130は、親等の測定者が被測定者である乳幼児の体温を測定することを前提に構成されているが、本発明の体温計は、被測定者が乳幼児に限られるものではない。
また、第2の実施形態の体温計120は、電源用のスイッチ32とは別に設けられた照射用スイッチ52で光照射装置を制御しているが、照射用スイッチ52を設けずに、電源用のスイッチ32を押せば、常に光照射装置から光を照射するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0050】
10,100,101,102,120,130・・・体温計、12・・・計測部、14・・・開口部、20・・・持ち手部、30・・・報知部、35・・・膨出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端に赤外線を導入する開口部を有し、額に当接させる計測部と、
前記導入された赤外線を検知して計測した体温を知らせる報知部と
を備えた体温計であって、
前記計測部を額に当接させる方向上に配置され、かつ、少なくとも人差し指で円弧状をつくって、その人差し指と親指の指腹側で把持される持ち手部が設けられ、
前記持ち手部よりも前記計測部側であって、前記持ち手部に隣接する領域には、前記持ち手部の外周寸法に比べて大きな外周寸法からなり、前記人差し指と親指で額側に押さえつけられる膨出部を有している
ことを特徴とする体温計。
【請求項2】
前記膨出部より前記計測部側の先端部領域は、前記膨出部を額側に押さえつけた際、人差し指と親指以外の指が額又はその周辺に接触できる高さとされている、ことを特徴とする請求項1に記載の体温計。
【請求項3】
前記先端部領域の外周面は、前記計測部に向うに従って外周寸法が小さくなるように傾斜しており、
この傾斜角度は、測定者が前記持ち手部を把持して、前記計測部を被測定者の額に当接しようとする際、前記当接しようとする任意の部分を視認できる角度とされている
ことを特徴とする請求項2に記載の体温計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2013−131(P2013−131A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−130560(P2011−130560)
【出願日】平成23年6月10日(2011.6.10)
【出願人】(000112288)ピジョン株式会社 (144)
【Fターム(参考)】