説明

体重変動抑制剤

【課題】脂肪摂取による体重変動や、ストレスによる体重変動を抑制するために有効な体重変動抑制剤を提供する。
【解決手段】この体重変動抑制剤は、ラクチュロースを有効成分として含有する。この体重変動抑制剤は、脂肪摂取による体重変動を抑制する用途、特に脂肪摂取による体重増加を抑制する用途に効果的に用いることができる。また、ストレスによる体重の変動を抑制する用途、特に高ストレス下における体重減少を抑制する用途に効果的に用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば脂肪摂取による体重変動や、ストレスによる体重変動を抑制するための体重変動抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、脂肪高含有食品などの高カロリー食品を過多に摂取することによる肥満が問題となっている。このような過食傾向は、ストレスによって生じることも多く、慢性ストレス下では、過食による肥満になりやすいことが知られている。一方、強いストレス下においては、逆に体重減少が起りやすいことも知られている。
【0003】
一方、ラクチュロースは、ガラクトースとフラクトースからなる二糖類であり、下記非特許文献1に示されるように、難消化性であって、ビフィズス菌などの腸内有用菌を増殖させて腸内環境を改善する効果や、排便回数の増加効果や、免疫賦活効果があることが知られている。
【0004】
また、下記特許文献1には、ベタイン及びラクチュロースを有効成分として含有することを特徴とする肝障害改善剤が開示されている。
【0005】
更に、下記特許文献2には、ラクチュロース粉末を仔豚が摂取することにより、体重が増加し、成長を促進させたことが開示されている。
【0006】
更にまた、下記特許文献3には、ラクチュロースやその他のオリゴ糖を0.01〜10%含有する飼料が、魚類の成長を促進させたことが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】ミルクサイエンス:Milk Science Vol.50、No.2 2001、39〜47頁
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3908513号公報
【特許文献2】特許第3920288号公報
【特許文献3】特開平7−39318号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、脂肪高含有食品などの高カロリー食品を過多に摂取することによる肥満や、高ストレス下における体重減少などを抑制して、体重の変動を防ぐのに有効な成分については、未だあまり知られていないのが現状である。
【0010】
したがって、本発明の目的は、脂肪摂取による体重変動や、ストレスによる体重変動を抑制するために有効な体重変動抑制剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、高脂肪食摂取に対する肥満抑制効果並びにストレス負荷時における体重変動抑制効果を有する物質について鋭意研究した結果、ラクチュロースが優れた効果を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、ラクチュロースを有効成分として含有することを特徴とする体重変動抑制剤を提供するものである。
【0013】
本発明の体重変動抑制剤は、特に脂肪摂取による体重変動を抑制する用途に効果的であり、特に、脂肪摂取による体重増加を抑制する用途に効果的に用いることができる。
【0014】
また、本発明の体重変動抑制剤は、ストレスによる体重の変動を抑制する用途に効果的であり、特に、高ストレス下における体重減少を抑制する用途に効果的である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の体重変動抑制剤は、例えば、高脂肪食を摂取し続けた場合の体重増加を抑制する効果や、高ストレス下において体重が減少するのを抑制する効果を有し、脂肪摂取やストレスによる体重の変動を抑制する効果を有している。
【0016】
また、ラクチュロースは、これまでに知られている、腸内有用菌を増殖させて腸内環境を改善する効果や、排便回数の増加効果や、免疫賦活効果も期待でき、健康維持に極めて有効である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】マウスに、高脂肪食、高脂肪食+ラクチュロース、標準食を摂取させ、ストレス無負荷状態、ストレス負荷状態で飼育した各試験群の、体重と飼育日数との関係を示した図表である。
【図2】図1の実験において、高脂肪食、高脂肪食+ラクチュロース、標準食を摂取させたそれぞれの試験群における、ストレス負荷状態の体重から、ストレス無負荷状態の体重を引いた体重差と、飼育日数との関係を示した図表である。
【図3】図1の実験におけるそれぞれの試験群について、脂肪組織重量を測定した結果を示す図表である。
【図4】図1の実験におけるそれぞれの試験群について、腸内内容物pHを測定した結果を示す図表である。
【図5】マウスに、標準飼料、標準飼料+ラクチュロースを摂取させ、ストレス無負荷状態で飼育した各試験群の、体重と飼育日数との関係を示した図表である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の体重変動抑制剤の有効成分は、ラクチュロースである。本発明において、ラクチュロースとしては、結晶粉末だけでなく、ラクチュロースを含有するシラップ製品や、ラクチュロースを比較的高い含有率で含有する粉末組成物などを用いることができる。ラクチュロース結晶粉末の製造方法は、例えば特許第2848721号公報に開示されており、ラクチュロースを比較的高い含有率で含有する粉末組成物の製造方法は、例えば特許第3920288号公報に開示されている。また、これらのラクチュロース含有製品は、例えば森永乳業株式会社などから市販されており、当業者であれば容易に入手できる。
【0019】
本発明の体重変動抑制剤は、必要に応じて、薬学的に許容される基材や担体を添加して、錠剤、顆粒剤、散剤、液剤、粉末、顆粒、カプセル剤、ゼリー状剤等の形態にして、医薬品として摂取させることができる。
【0020】
また、特定保健用食品、栄養補助食品、機能性食品等に配合して摂取させることもできる。このような食品としては、例えば、チョコレート、ビスケット、ガム、キャンディー、クッキー、グミ、打錠菓子等の菓子類;シリアル;粉末飲料、清涼飲料、乳飲料、栄養飲料、炭酸飲料、ゼリー飲料等の飲料;アイスクリーム、シャーベットなどの冷菓が挙げられる。更に、そば、パスタ、うどん、そーめん等の麺類も好ましく例示できる。また、特定保健用食品や栄養補助食品等の場合であれば、粉末、顆粒、カプセル、シロップ、タブレット、糖衣錠等の形態のものであってもよい。
【0021】
本発明において、体重変動抑制効果をもたらすのに有効な摂取量は、通常、成人(15歳以上)1日当り0.5〜10gであり、好ましくは成人1日当り1〜10gである。
【0022】
本発明の体重変動抑制剤は、上記の有効投与量で、毎日摂取し続けることにより、高脂肪食の摂取や、ストレスの負荷などに対する体重の変動を抑制する効果をもたらすことができる。
【0023】
すなわち、高脂肪食の摂取は、一般には体重の増加傾向をもたらすが、本発明の体重変動抑制剤を摂取することにより、体重増加を抑制することができる。
【0024】
また、ストレスの負荷は、慢性的な低ストレス持続時には、過食傾向をもたらし、体重増加を招くことが多い。一方、強いストレスがかかったときには、体重減少を招くことが知られている。本発明の体重変動抑制剤を摂取することにより、このようなストレスによる体重の変動を抑制することができる。
【実施例】
【0025】
以下実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらの実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
【0026】
[試験例1]
<試験方法>
標準飼料として「AIN93G」(商品名、オリエンタル酵母社製、以下「LFC」とする)を用いた。
【0027】
また、脂肪高含有飼料として「HFD60」(商品名、オリエンタル酵母社製、以下「HFC」とする)を用いた。
【0028】
更に、HFC中のコーンスターチの10%分を、ラクチュロース10%に置き換えた飼料を、ラクチュロース添加脂肪高含有飼料(以下「HFL」とする)とした。
【0029】
試験動物としては、雄7週齢のBALB/cマウスを各群8匹ずつ用い、上記試料LFC、HFC、HFLを摂取させて、通常のゲージにてストレスなく飼育したものと、ストレスを与えて飼育したものとに分けて、それぞれ28日間飼育した。上記ストレス負荷群は、1日1回明期に、約0℃の冷水に手足を1時間浸させて、ストレスを与えるようにした。
【0030】
なお、以下の実験結果の説明において、それぞれの群を次のように略記した。
【0031】
「LFC−」…標準飼料(LFC)を用いて、ストレスを与えずに飼育した群
「LFC+」…標準飼料(LFC)を用いて、ストレスを与えて飼育した群
「HFC−」…脂肪高含有飼料(HFC)を用いて、ストレスを与えずに飼育した群
「HFC+」…脂肪高含有飼料(HFC)を用いて、ストレスを与えて飼育した群
「HFL−」…ラクチュロース添加脂肪高含有飼料(HFL)を用いて、ストレスを与えずに飼育した群
「HFL+」…ラクチュロース添加脂肪高含有飼料(HFL)を用いて、ストレスを与えて飼育した群
<統計処理>
後述する図1,3,4は各群の平均値を示し、付属するエラーバーは標準偏差を示す。各群間の統計処理にはSPSSを用い、Tukeyによる多重比較で危険率5%以下を有意差ありとした。また、図3、4中における*は有意差あり(p<0.05)を意味する。
【0032】
<体重の変化>
上記各群のマウスについて、飼育日数に応じて体重を測定し、飼育日数と体重変化との関係を求めた結果を図1に示す。なお、体重変化は、各群のマウスの平均体重で表した。
【0033】
図1のHFL−群、HFC−群、LFC−群の比較から、高脂肪食を摂取させることにより、体重は標準食摂取群に比べて増加する傾向があるが、ラクチュロースを摂取させることにより、この体重の増加傾向を軽減できることがわかる。
【0034】
また、図1の結果に基づいて、高脂肪食(HFC)、高脂肪食+ラクチュロース(HFL)、標準食(LFC)を摂取させたそれぞれの試験群における、ストレス負荷状態の体重から、ストレス無負荷状態の体重を引いた体重差と、飼育日数との関係を求めた結果を図2に示す。
【0035】
図1、2に示すように、各群のストレス負荷群とストレスを与えない群との比較から、ストレスを負荷することにより各群とも体重が減少する傾向があり、特に高脂肪食を与えた群においてその傾向が大きくなるが、高脂肪食+ラクチュロース(HFL)を与えた群(HFL−、HFL+)においては、両者の差が飼育当初は大きいが、飼育を続けるうちにその差が少なくなり、最終的には標準食を食べさせた群(LFL−、LFL+)と同程度にまでになることがわかる。
【0036】
したがって、ラクチュロースを含有する飼料を摂取させることにより、高脂肪食摂取による体重増加や、ストレス負荷による体重減少を抑制して、体重の変動を抑制する効果が得られることがわかる。
【0037】
<脂肪組織重量>
28日飼育後のマウスを解剖し、脂肪組織重量を測定した結果を図3に示す。脂肪組織重量は、各群のマウス8匹の平均値で表した。
【0038】
図3の結果から、高脂肪食を摂取させてストレスを与えずに飼育した群(HFC−)においては、各脂肪組織の重量が顕著に高くなっていることがわかる。
【0039】
これに対して、高脂肪食+ラクチュロースを摂取させてストレスを与えずに飼育した群(HFL−)は、どの群よりも各脂肪組織の重量が低くなっていることがわかる。
【0040】
更に、高脂肪食+ラクチュロースを摂取させてストレスを与えて飼育した群(HFL+)も、HFL−以外の他の群に比べて各脂肪組織の重量が低くなっていることがわかる。
【0041】
<臓器重量>
28日飼育後のマウスを解剖し、各臓器重量を測定した。結果として、いずれの群においても、肝臓、腎臓、脾臓の重量差は、優位な差はなかった。
【0042】
一方、盲腸内容物の重量は、高脂肪食+ラクチュロースを与えて飼育した群(HFL−、HFL+)において、他の群よりも優位に大きかった。
【0043】
また、図4には、各群の盲腸内容物のpHを示したが、高脂肪食+ラクチュロースを与えて飼育した群(HFL−、HFL+)においては、盲腸内容物のpHが他の群に比べて優位に低くなっていることがわかる。このことは、ラクチュロースによって腸内有用菌が増加したことによる整腸効果を意味していると考えられる。
【0044】
[試験例2]
<試験方法>
前記表1の標準飼料(LFC)と、該標準飼料中のコーンスターチ10%分を、ラクチュロース10%に置き換えた飼料(以下「LFL」とする)とを用いて、雄7週齢のBALB/cマウスを各群7匹ずつ、ストレスを与えることなく、28日間飼育した。以下、それぞれの飼料群を、LFC−、LFL−と略称する。
<統計処理>
後述する図5は各群の平均値を示し、付属するエラーバーは標準偏差を示す。二群間の平均値の比較はt検定で行い、危険率5%以下を有意差ありとした。
【0045】
<体重の変化>
上記各群のマウスについて、飼育日数に応じて体重を測定し、飼育日数と体重変化との関係を求めた結果を図5に示す。なお、体重変化は、各群のマウスの平均体重で表した。
【0046】
図5の結果から、標準飼料を与えた群(LFC−)と、標準飼料+ラクチュロースを与えた群(LFL−)とで、体重の変化傾向に優位な差は生じなかった。このことから、ラクチュロースを与えても、標準飼料に比べて体重が減少したり、増加したりすることはないことがわかる。
【0047】
<臓器重量>
28日飼育後のマウスを解剖し、各臓器重量を測定した。結果として、標準飼料を与えた群(LFC−)と、標準飼料+ラクチュロースを与えた群(LFL−)とで、肝臓、腎臓、脾臓、小腸のそれぞれの重量について、優位な差は生じていなかった。
【0048】
ただし、盲腸の重量及び盲腸内容物の重量は、標準飼料+ラクチュロースを与えた群(LFL−)の方が、標準飼料を与えた群(LFC−)よりも優位に多くなっていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクチュロースを有効成分として含有することを特徴とする体重変動抑制剤。
【請求項2】
脂肪摂取による体重変動を抑制する請求項1記載の体重変動抑制剤。
【請求項3】
脂肪摂取による体重増加を抑制する請求項2記載の体重変動抑制剤。
【請求項4】
ストレスによる体重の変動を抑制する請求項1〜3のいずれか1つに記載の体重変動抑制剤。
【請求項5】
高ストレス下における体重減少を抑制する請求項4記載の体重変動抑制剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−37715(P2011−37715A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−183467(P2009−183467)
【出願日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【出願人】(000006116)森永製菓株式会社 (130)
【Fターム(参考)】