説明

余寿命推定方法、余寿命推定システム、コンピュータプログラム、記録媒体

【課題】Ω法を用いて余寿命を高い精度で推定できるようにする。
【解決手段】歪εと、歪速度ε´の自然対数ln(ε´)とが対となった歪―歪速度対数データ{(ε、ln(ε´)|i=1、…、n}において、歪の増加に対して、歪速度対数データが増加傾向に転じる歪の値である第1の値εを算出し、第1の値εを超える領域における前記歪―歪速度対数データを、歪εが第1の値ε以上第2の値ε未満の領域を近似する第1の直線関数Bと、歪εが第2の値ε以上の領域を近似する第2の直線関数Cと、からなる近時関数により近似し、第1の直線関数の歪εに対する傾きに基づきΩの値を算出し、部材の累積時間tにおける余寿命Tを、算出したΩを用いて、次式(1)により算出する。
T=α/(Ω×ε´) …(1)
α:定数、ε´:累積時間tにおける歪速度

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボイラ、蒸気タービン等の高温に曝される部位の余寿命を推定するためのシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発電プラント等のボイラや蒸気タービン等の高温・高圧下に長時間曝される部材は、運転中に熱応力によりクリープや疲労等の損傷を受ける。このような部材について、予め、補修や交換を行うことができるように、従来より、部材に生じた歪を測定し、余寿命の推定を行っている。
【0003】
このような余寿命の推定方法の一つとして、Ω法が知られている。Ω法では、部材に生じた歪と歪速度の関係を用いて、余寿命Tを以下の式(1)により算出している。
T=α/(Ω×ε´) …(1)
なお、式(1)におけるαは定数であり、ε´は累積時間tにおける歪速度であり、図9に示すような、歪と歪速度の関係を縦軸に歪速度の自然対数を、横軸に歪速度をとって示したグラフにおける、歪の増加に対して歪速度の自然対数の値が、略一定な状態から増加に転じた後の、歪に対する歪速度の自然対数の傾きを示す。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記の式(1)におけるΩの値は、図9に示すグラフに近似直線B´をひいて、その傾きをとることにより求めていた。しかしながら、このような方法では、作業員の主観により近似直線が決定されるため、作業員によって近似直線のとり方が異なり、Ωの値にばらつきが生じ、余寿命を精度よく求めることができないという問題がある。
【0005】
本発明は上記の問題に鑑みなされたものであり、その目的は、Ω法を用いて余寿命を高い精度で推定できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の余寿命推定方法は、高温に曝される部材についての高温に曝された累積時間t(i=1、…、n)と、前記累積時間tにおける前記部材の歪εとが対になった累積時間―歪データが記録された歪履歴情報データベースにアクセス可能なコンピュータにより、前記部材の余寿命を算出する方法であって、前記歪履歴情報データベースを参照して、前記累積時間―歪データを取得するステップと、前記累積時間―歪データに基づき、各累積時間tにおける歪εと、歪速度ε´の自然対数ln(ε´)とが対となった歪―歪速度対数データ{(ε、ln(ε´)|i=1、…、n}を算出する歪―歪速度対数データ算出ステップと、前記歪―歪速度対数データにおいて、前記歪の増加に対して、前記歪速度対数データが増加傾向に転じる歪の値である第1の値εを算出する第1の値決定ステップと、前記第1の値εを超える領域における前記歪―歪速度対数データを近似する近似関数を算出する近似関数算出ステップと、前記算出した近似関数の前記歪に対する傾きに基づきΩの値を算出するΩ算出ステップと、前記部材の累積時間tにおける余寿命Tを、前記算出したΩの値を用いて、次式(1)により算出する余寿命算出ステップと、を備えることを特徴とする。
T=α/(Ω×ε´) …(1)
α:定数、ε´:累積時間tにおける歪速度
【0007】
上記の方法において、前記コンピュータは、前記部材に生じた歪に応じた信号を出力する歪センサが接続されており、前記歪履歴情報データベースに記録された前記累積時間―歪データは、前記コンピュータが、前記歪センサより入力された信号に基づき、所定の測定時期ごとに前記部材に生じた歪を測定し、前記測定時期に対応する累積時間tと、前記歪センサにより測定された歪εとを対にして、新たに前記歪履歴情報データベースに記録することにより、更新されてもよい。
【0008】
また、前記第1の値決定ステップでは、前記歪―歪速度対数データを曲線関数により近似し、前記近似した曲線関数の傾きが所定の値を超える点における歪の値を前記第1の値εとしてもよい。
【0009】
また、前記曲線関数は、各iにおけるεと値が近い所定の数の前記歪―歪速度対数データ{(ε、ln(ε´)|i=1、…、n}を近似する曲線関数f(ε)の集合であってもよい。
【0010】
また、前前記近似関数算出ステップでは、前記第1の値εを超える領域における前記歪―歪速度対数データを、歪εが第1の値ε以上第2の値ε未満の領域を近似する第1の直線関数と、歪εが前記第2の値ε以上の領域を近似する第2の直線関数と、からなる近似関数により近似し、前記Ω算出ステップでは、前記第1の直線関数の傾きをΩの値としてもよい。
【0011】
また、前記近似関数算出ステップでは、歪εが前記第1の値ε以上の領域の歪―歪速度対数データを{(ε、ln(ε´)|i=x、…、n}とした場合に、k=x+1、…、n−1の各kについて、i=x、…、kの歪―歪速度対数データを近似する仮の第1の直線関数u(ε)を算出し、i=k+1、…、nの歪―歪速度対数データを近似する仮の第2の直線関数v(ε)を算出し、前記算出した仮の第1の直線関数u(ε)と、i=x、…、kの歪―歪速度対数データとの残差の二乗和と、前記算出した仮の第2の直線関数v(ε)と、i=k+1、…、nの歪―歪速度対数データとの残差の二乗和と、の総和を算出し、前記算出した各kにおける前記総和が最小となる場合の仮の第1の直線関数u(ε)及び仮の第2の直線関数v(ε)を、前記第1の直線関数及び第2の直線関数としてもよい。
【0012】
また、本発明の余寿命推定システムは、高温に曝される部材の余寿命を算出するシステムであって、前記部材についての高温に曝された累積時間t(i=1、…、n)と、前記累積時間tにおける前記部材の歪εとが対になった累積時間―歪データが記録された歪履歴情報データベースと、前記歪履歴情報データベースを参照して、前記累積時間―歪データを取得するデータ取得手段と、前記累積時間―歪データに基づき、各累積時間tにおける歪εと、歪速度ε´の自然対数ln(ε´)とが対となった歪―歪速度対数データ{(ε、ln(ε´)|i=1、…、n}を算出する歪―歪速度対数データ算出手段と、前記歪―歪速度対数データにおいて、前記歪の増加に対して、前記歪速度対数データが増加傾向に転じる歪の値である第1の値εを算出する第1の値算出手段と、前記第1の値εを超える領域における前記歪―歪速度対数データを近似する近似関数を算出する近似関数算出手段と、前記算出した近似関数の前記歪に対する傾きに基づきΩの値を算出するΩ算出手段と、前記部材の累積時間tにおける余寿命Tを、前記算出したΩの値を用いて、次式(1)により算出する余寿命算出手段と、を備えることを特徴とする余寿命推定システム。
T=α/(Ω×ε´) …(1)
α:定数、ε´:累積時間tにおける歪速度
【0013】
また、本発明のコンピュータプログラムは、高温に曝される部材についての高温に曝された累積時間t(i=1、…、n)と、前記累積時間tにおける前記部材の歪εとが対になった累積時間―歪データが記録された歪履歴情報データベースにアクセス可能なコンピュータにより、前記部材の余寿命を算出するためのコンピュータプログラムであって、前記コンピュータに、前記歪履歴情報データベースを参照して、前記累積時間―歪データを取得するステップと、前記累積時間―歪データに基づき、各累積時間tにおける歪εと、歪速度ε´の自然対数ln(ε´)とが対となった歪―歪速度対数データ{(ε、ln(ε´)|i=1、…、n}を算出する歪―歪速度対数データ算出ステップと、前記歪―歪速度対数データにおいて、前記歪の増加に対して、前記歪速度対数データが増加傾向に転じる歪の値である第1の値εを算出する第1の値決定ステップと、前記第1の値εを超える領域における前記歪―歪速度対数データを近似する近似関数を算出する近似関数算出ステップと、前記算出した近似関数の前記歪に対する傾きに基づきΩの値を算出するΩ算出ステップと、前記部材の累積時間tにおける余寿命Tを、前記算出したΩの値を用いて、次式(1)により算出する余寿命算出ステップと、を実行させることを特徴とするプログラム。
T=α/(Ω×ε´) …(1)
α:定数、ε´:累積時間tにおける歪速度
また、本発明の記録媒体は、上記のプログラムが記録されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、コンピュータにより自動的にΩ法におけるΩの値を算出することが可能となるため、算出したΩの値にばらつきがなくなり、余寿命の推定精度を向上することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の余寿命推定システムの一実施形態を図面を参照しながら、詳細に説明する。
図1は、本実施形態の余寿命推定システム10の構成を示す図である。本実施形態の余寿命推定システム10は、発電所内のボイラ、タービン、及び配管などの高温に曝され、クリープ損傷を生じる部材の余寿命を推定するためのものである。
同図に示すように、余寿命推定システム10は、余寿命の推定の対象となる各部材に取り付けられた複数の歪センサ100と、各歪センサ10の電圧信号を適宜増幅して出力する複数のアンプ110と、各アンプ110から出力された電圧信号をA/D変換する複数の変換部120と、変換部120から歪センサ10における歪の大きさに対応した電圧信号が入力されるコンピュータ200と、から構成される。
【0016】
歪センサ100としては、高温状態でも精度良く歪を測定することができるものを用いている。このような歪センサ100としては、例えば、本願出願人らが特願2006−144074及び特願2006−144075において提案している静電容量型の歪測定装置などを用いるとよい。歪センサ100は、取り付けられた部位に歪が生じると、この歪の大きさに応じた信号を出力する。歪センサ100より出力された信号は、アンプ110において適宜増幅され、変換部120においてA/D変換されて、コンピュータ200に入力される。
【0017】
なお、本実施形態では、各歪センサ100に対して、アンプ110及び変換部120を設ける構成としているが、複数の歪センサ100に対して、共通のアンプ110及び変換部120を設けてもよい。
【0018】
コンピュータ200は、歪測定制御部210と、校正情報データベース221と、校正情報取得部220と、歪履歴情報データベース231と、歪履歴情報記録部230と、歪履歴情報取得部232と、余寿命情報記録部260と、余寿命情報取得部262と、余寿命データベース261と、余寿命推定部240と、入力部250と、画面出力部251と、印刷出力部252と、を備える。これらの各構成部の機能は、コンピュータ200が記録媒体に記録されたプログラムを実行することにより実現される。
【0019】
校正情報データベース221には、予め、高温下における試験により得られた、各歪センサ100についての歪の大きさと、出力される電圧信号との関係を示す校正情報が記録されている。校正情報取得部220は、校正情報データベース221を参照して校正情報を取得することができる。
【0020】
このような、校正情報データベース221に記録されている校正情報は、以下のようにして画面出力部251により表示部253に画面表示させて確認できる。まず、作業員が入力部250に校正情報を確認する歪センサ100の指定を含む校正情報を画面表示する旨の入力を行う。入力部250が歪センサ100の指定を含む校正情報を画面表示する旨の入力を受け付けると、校正情報取得部220が校正情報データベース221を参照して、指定された歪センサ100の校正情報を取得する。そして、画面出力部251が取得した校正情報を、表示部253により表示可能な形式に変換し、表示部253が、例えば、図2に示すように、画面出力する。
【0021】
歪履歴情報データベース231には、各歪センサ100について、歪センサの識別情報に対応付けて累積時間と歪の値とが対となった累積時間―歪データ{(ti、εi)|i=1、2、…、n}が記録されている。なお、累積時間とは、歪センサ100が取り付けられた部位が含まれる装置の総運転時間(すなわち、この部位が高温に曝された時間)であって、この装置の起動時間を予め記録しておくことにより、測定時期と起動時期との時間差をとり、この時間差から装置が停止された停止時間を引くことで求められる。また、停止時間は、例えば、装置に温度センサを取り付けておき、この温度センサにより測定された温度をコンピュータに入力し、コンピュータが温度センサにより測定された温度が所定の温度以下となった場合には、装置が停止していると判定することにより自動的に求めることができる。
歪履歴情報データベース231に記録された情報は、歪履歴情報取得部232より取得することができる。また、後述するように、歪履歴情報記録部230が、新たに歪測定制御部210により測定された歪の値と累積時間とを対として記録する。これにより、歪履歴情報データベース231に記録された累積時間―歪データ{(ti、εi)|i=1、2、…、n}は、所定の時間間隔で更新されることとなる。
【0022】
歪測定制御部210には、予め、歪センサ100ごとに設定された測定時期が記録されており、この測定時期ごとに、歪センサ100による歪の測定結果を変換部120から取得する。
【0023】
以下、歪測定制御部210が歪センサ100により部材に生じた歪を取得し、歪履歴情報データベース231を更新する処理の流れを図3に示すフローチャートを参照しながら説明する。
まず、ステップ50において、歪測定制御部210が、測定時期になると測定の対象となる歪センサ100からアンプ110及び変換部120を介して送られた測定信号を取得する。
【0024】
また、これとともに、ステップ52において、歪測定制御部210は、該当する歪センサ100に対応する校正情報を取得する。すなわち、まず、歪測定制御部210が、校正情報取得部220に測定の対象となる歪センサ100の識別情報を含む情報要求信号を送信する。校正情報取得部220は、指令信号を受信すると、校正情報データベース221を参照して、情報要求信号に含まれる歪センサ100の識別情報に該当する歪センサ100の校正情報を取得し、歪測定制御部210に送信する。
次に、ステップ54において、歪測定制御部210は、校正情報を受信すると、この校正情報に基づき上記取得した測定信号を歪の値に変換する。
【0025】
このようにして、歪測定制御部210により測定された歪は、測定時期に対応する累積時間と対にして歪履歴情報記録部230に送信される。そして、ステップ56において、歪履歴情報記録部230が、受信した歪と累積時間とを対にして歪履歴情報データベース231に記録する。
【0026】
上記の工程を各歪センサ100について、繰り返し行うことにより、歪履歴情報データベース231には、各歪センサ100について、累積時間と歪の値とが対となった累積時間―歪データ{(ti、εi)|i=1、2、…、n}が記録される。
【0027】
このようにして、歪履歴情報データベース231に記録された累積時間―歪データは、画面出力部251に接続された表示部253に画面表示させて確認することができる。まず、作業員が入力部250より、歪センサ100の指定を含む累積時間―歪データを画面表示する旨の入力を行い、これに応じて、入力部250は、歪履歴情報取得部232に歪センサ100の識別情報の指定を含む要求信号を送信する。歪履歴情報取得部232は要求信号により指定された歪センサ100の累積時間―歪データを取得し、取得した累積時間―歪データを画面出力部251に供給する。画面出力部251は累積時間―歪データを受信すると、表示部253に、例えば、図4に示すように、画面表示する。
【0028】
余寿命算出部240は、歪履歴情報データベース231に記録された累積時間―歪データに基づき、後述するようにΩ法を用いて余寿命を算出する。
【0029】
余寿命情報データベース261には、余寿命情報記録部260により各部材の余寿命を含む余寿命情報が記録される。余寿命情報取得部262は、余寿命情報データベース261を参照して余寿命情報を取得することができる。
【0030】
以下、コンピュータ200により累積時間―歪データに基づき余寿命を推定する処理の流れを図5に示すフローチャートを参照しながら説明する。なお、以下の処理は、コンピュータ200が記録媒体に記録されたコンピュータプログラムを実行することにより行われる。
まず、ステップ10において、入力部250が、余寿命算出の対象となる部位の指定情報の入力を受け付ける。
次に、ステップ12において、歪履歴情報取得部232が、歪履歴情報データベース231を参照して指定情報に該当する部位にとりけられた歪センサの累積時間―歪データを取得する。
次に、ステップ14において、余寿命算出部240がΩ法により余寿命を算出する。
【0031】
以下、ステップ14において余寿命算出部240がΩ法により余寿命を算出する処理の流れを図6を参照しながら詳細に説明する。なお、図中、余寿命算出部240による処理は実線で、その他の構成部による処理は破線で示す。
まず、Ω法では、歪εと歪速度の自然対数ln(ε´)とが対となった歪―歪速度対数データ{(ε、ln(ε´))|i=1、…、n}が必要となるため、ステップ100において、累積時間―歪データに歪―歪速度対数データ{(ε、ln(ε´))|i=1、…、n}を算出する。
歪速度の自然対数を算出する方法としては、例えば、以下の式(2)により歪速度の自然対数ln(ε´)を算出する方法などを用いればよい。
【数1】

【0032】
図7は、上記のようにして算出された歪―歪速度対数データを示すグラフであり、縦軸に歪速度の自然対数を横軸に歪をとって表示している。同図に示すように、歪―歪速度対数データは、歪εが第1の値ε未満の領域では、歪速度の自然対数ln(ε´)が一定(すなわち、傾き0)となり、第1の値ε以上、かつ第2の値ε未満の領域では、歪εに対して所定の傾きで増加し、第2の値ε以上の領域では、さらに大きな傾きで増加する。
【0033】
Ω法では、余寿命Tを以下の式(3)により算出する。なお、式中のαは定数を、ε´は最新の累積時間tにおける歪速度を示す。なお、式中のtrは破断時間を、tは累積運転時間を示す。また、Ωは、上記のグラフにおける歪εの増加に対して、歪速度の自然対数ln(ε´)が増加に転じた後の歪εに対する歪速度の自然対数ln(ε´)の増加の割合を示す値である。
T=tr−t=α/(Ω×ε´) …(3)
【0034】
本実施形態では、このようなΩの値を以下のようにして、算出する。
まず、ステップ102において、入力部250が、ステップ104における歪―歪速度対数データを近似する近似関数を算出する際に必要となる近似幅s及び近似関数を指定する入力を受け付ける。
【0035】
次に、ステップ104において、余寿命算出部240が、歪―歪速度対数データを、近似する近似関数を算出する。本実施形態では、歪―歪速度対数データの傾向を示す近似関数が未知であるとして、歪―歪速度対数データの各点に対して、周囲の歪―歪速度対数データを用いて近似関数を求める方法を採用する。すなわち、各iに対して、(εi―s、ln(ε´i―s))から、(εi+s、ln(ε´i+s))までの2s+1個のデータに対して、最小二乗法を適用し、近似関数f(ε)を求める。これにより得られた集合{ε、f(ε)|i=1、…、n}が、歪―歪速度対数データを近似する近似関数となる。なお、近似幅sは、近似の精度と、計算時間等を考慮して決定すればよく、近似関数としては、指数関数や多項式関数などを採用することができる。なお、歪―歪速度対数データは、予めデータマイニングにより予めデータ整理を行っておいてもよい。また、歪―歪速度対数データ全体の傾向がわかる場合には、これを近似するのに適した指数関数や多項式などの近似関数によりデータ全体を近似してもよい。
【0036】
次に、ステップ106において、上記算出した近似関数の傾きが所定の値を超える点を求め、この点の歪εの値を第1の値εとする。すなわち、近似関数f(ε)の各εにおける傾きf´(ε)を算出し、この傾きf´(ε)が所定の値以上となる点を求める。なお、傾きf´(ε)は近似関数f(ε)の微分関数を求めてもよいし、近似関数f(ε)のε近傍の値の差分を算出してもよい。
【0037】
次に、ステップ108において、余寿命算出部240が、歪εが第1の値ε以下の領域の歪―歪速度対数データを近似する傾きが0である(すなわち、グラフにおいて横軸と並行な)近似直線Aを最小二乗法により求める。なお、近時直線Aは、グラフ上に表示するために必要となるものであり、Ωの値を算出する上で必要なものではない。
【0038】
次に、ステップ110〜116おいて、余寿命算出部240が、歪εが第1の値ε以上となる領域の歪―歪速度対数データを近似する近似関数を求める。本実施形態では、歪εが第1の値ε以上、第2の値ε未満の領域を近似する近似直線Bと、歪εが第2の値ε以上の領域を近似する近似直線Cと、により近似するものとした。
【0039】
まず、歪εが第1の値ε以上となる領域の歪―歪速度対数データを{ε、ln(ε´)|i=x、…、n}とし、k=x+1、…、n−1の各kに対して以下のステップ110〜114の工程を行う。
ステップ110において、x≦i≦kとなる領域の歪―歪速度対数データを{ε、ln(ε´)|i=x、…、k}を近似する仮の近似直線B´を算出する。なお、この近似直線をln(ε´)=u(ε)とする。
また、ステップ112において、k+1≦i≦nとなる領域の歪―歪速度対数データを{ε、ln(ε´)|i=k+1、…、n}を近似する仮の近似直線C´を算出する。なお、この近似直線をln(ε´)=v(ε)とする。
【0040】
次に、ステップ114おいて、これらの仮の近似直線B´及びC´と、歪―歪速度対数データとの残差の二乗和Sを以下の式により算出する。
【数2】

【0041】
そして、ステップ116において、k=x+1、…、n−1の各kに対して上記のステップ110〜114を行うことにより得られた残差の二乗和S(k=x+1、…、n−1)のうち、最小となる場合のkを求め、このときの仮の近似直線B´及びC´を近似直線B及びCとして採用する。また、近似直線B及びCの交点の歪εの値が上記の第2の値εとなる。
【0042】
そして、ステップ118において、近似直線Bの傾きをΩの値とする。
次に、ステップ120において、上記算出したΩの値を用いて、式(3)により、余寿命を算出する。なお、式中の定数αは、通常は1.0として計算すればよく、適宜、変更することも可能である。
【0043】
図5に戻り、ステップ14において、画像出力部251が、上記のようにして算出された余寿命を表示部253に、例えば、図8に示すように、歪―歪速度対数データを示すグラフとともに画面表示する。また、算出された余寿命や歪―歪速度対数データを示すグラフなどは、適宜必要に応じて、印刷出力部252により印刷出力することができる。
【0044】
そして、ステップ18において、余寿命情報記録部260が、上記のようにして算出された余寿命Tを、近似幅sや式(3)における定数α及びΩの値とともに、余寿命情報データベース261に記録する。このようにして余寿命情報データベース261に記録された余寿命情報は、余寿命情報262により取得することができ、次回以降の余寿命算出の際の定数α及び近似幅sの設定の際に参考とすることができる。
【0045】
以上説明したように、本実施形態によれば、Ωの値をコンピュータによる処理により自動的に算出することができるため、作業員が異なる場合であっても、一定の余寿命を算出することができる。また、人為的な誤差がなくなるため、精度良く余寿命を算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本実施形態の余寿命推定システムの構成を示す図である。
【図2】公正情報の画面出力の一例である。
【図3】歪測定部が歪センサにより部材に生じた歪を測定し、歪履歴情報データベースを更新する流れを示すフローチャートである。
【図4】累積時間―歪情報の画面出力の一例である。
【図5】余寿命算出部が、累積時間―歪データに基づき余寿命を算出する流れを示すフローチャートである。
【図6】余寿命算出部がΩ法により余寿命を算出する流れを示すフローチャートである。
【図7】歪―歪速度対数データを示すグラフである。
【図8】余寿命を歪―歪速度対数データを示すグラフとともに画面表示した画面の一例である。
【図9】従来の歪―歪速度対数データに基づきΩの値を求める方法を説明するための図である。
【符号の説明】
【0047】
10 余寿命推定システム
100 歪センサ
110 アンプ
120 変換部
200 コンピュータ
210 歪測定部
220 校正情報取得部
221 校正情報データベース
230 歪履歴情報記録部
231 歪履歴情報データベース
232 歪履歴情報取得部
240 余寿命算出部
243 判定部
250 入力部
251 画像出力部
252 印刷出力部
253 表示部
260 余寿命情報記録部
261 余寿命情報データベース
262 余寿命情報取得部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高温に曝される部材についての高温に曝された累積時間t(i=1、…、n)と、前記累積時間tにおける前記部材の歪εとが対になった累積時間―歪データが記録された歪履歴情報データベースにアクセス可能なコンピュータにより、前記部材の余寿命を推定する方法であって、
前記コンピュータが、
前記歪履歴情報データベースを参照して、前記累積時間―歪データを取得するステップと、
前記累積時間―歪データに基づき、各累積時間tにおける歪εと、歪速度ε´の自然対数ln(ε´)とが対となった歪―歪速度対数データ{(ε、ln(ε´)|i=1、…、n}を算出する歪―歪速度対数データ算出ステップと、
前記歪―歪速度対数データにおいて、前記歪の増加に対して、前記歪速度対数データが増加傾向に転じる歪の値である第1の値εを算出する第1の値決定ステップと、
前記第1の値εを超える領域における前記歪―歪速度対数データを近似する近似関数を算出する近似関数算出ステップと、
前記算出した近似関数の前記歪に対する傾きに基づきΩの値を算出するΩ算出ステップと、
前記部材の累積時間tにおける余寿命Tを、前記算出したΩの値を用いて、次式(1)により算出する余寿命算出ステップと、を備えることを特徴とする余寿命推定方法。
T=α/(Ω×ε´) …(1)
α:定数、ε´:累積時間tにおける歪速度
【請求項2】
請求項1記載の余寿命推定方法であって、
前記コンピュータは、前記部材に生じた歪に応じた信号を出力する歪センサが接続されており、
前記歪履歴情報データベースに記録された前記累積時間―歪データは、
前記コンピュータが、前記歪センサより入力された信号に基づき、所定の測定時期ごとに前記部材に生じた歪を測定し、前記測定時期に対応する累積時間tと、前記歪センサにより測定された歪εとを対にして、新たに前記歪履歴情報データベースに記録することにより、更新されることを特徴とする余寿命推定方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の余寿命推定方法であって、
前記第1の値決定ステップでは、
前記歪―歪速度対数データを曲線関数により近似し、
前記近似した曲線関数の傾きが所定の値を超える点における歪の値を前記第1の値εとすることを特徴とする余寿命推定方法。
【請求項4】
請求項3記載の余寿命推定方法であって、
前記曲線関数は、各iにおけるεと値が近い所定の数の前記歪―歪速度対数データ{(ε、ln(ε´)|i=1、…、n}を近似する曲線関数f(ε)の集合であることを特徴する余寿命推定方法。
【請求項5】
請求項1から4何れかに記載の余寿命推定方法であって、
前記近似関数算出ステップでは、
前記第1の値εを超える領域における前記歪―歪速度対数データを、歪εが第1の値ε以上第2の値ε未満の領域を近似する第1の直線関数と、歪εが前記第2の値ε以上の領域を近似する第2の直線関数と、からなる近似関数により近似し、
前記Ω算出ステップでは、前記第1の直線関数の傾きをΩの値とすることを特徴とする余寿命推定方法。
【請求項6】
請求項5記載の余寿命推定方法であって、
前記近似関数算出ステップでは、
歪εが前記第1の値ε以上の領域の歪―歪速度対数データを{(ε、ln(ε´)|i=x、…、n}とした場合に、
k=x+1、…、n−1の各kについて、
i=x、…、kの歪―歪速度対数データを近似する仮の第1の直線関数u(ε)を算出し、
i=k+1、…、nの歪―歪速度対数データを近似する仮の第2の直線関数v(ε)を算出し、
前記算出した仮の第1の直線関数u(ε)と、i=x、…、kの歪―歪速度対数データとの残差の二乗和と、前記算出した仮の第2の直線関数v(ε)と、i=k+1、…、nの歪―歪速度対数データとの残差の二乗和と、の総和を算出し、
前記算出した各kにおける前記総和が最小となる場合の仮の第1の直線関数u(ε)及び仮の第2の直線関数v(ε)を、前記第1の直線関数及び第2の直線関数とすることを特徴とする余寿命推定方法。
【請求項7】
高温に曝される部材の余寿命を推定するシステムであって、
前記部材についての高温に曝された累積時間t(i=1、…、n)と、前記累積時間tにおける前記部材の歪εとが対になった累積時間―歪データが記録された歪履歴情報データベースと、
前記歪履歴情報データベースを参照して、前記累積時間―歪データを取得するデータ取得手段と、
前記累積時間―歪データに基づき、各累積時間tにおける歪εと、歪速度ε´の自然対数ln(ε´)とが対となった歪―歪速度対数データ{(ε、ln(ε´)|i=1、…、n}を算出する歪―歪速度対数データ算出手段と、
前記歪―歪速度対数データにおいて、前記歪の増加に対して、前記歪速度対数データが増加傾向に転じる歪の値である第1の値εを算出する第1の値算出手段と、
前記第1の値εを超える領域における前記歪―歪速度対数データを近似する近似関数を算出する近似関数算出手段と、
前記算出した近似関数の前記歪に対する傾きに基づきΩの値を算出するΩ算出手段と、
前記部材の累積時間tにおける余寿命Tを、前記算出したΩの値を用いて、次式(1)により算出する余寿命算出手段と、を備えることを特徴とする余寿命推定システム。
T=α/(Ω×ε´) …(1)
α:定数、ε´:累積時間tにおける歪速度
【請求項8】
高温に曝される部材についての高温に曝された累積時間t(i=1、…、n)と、前記累積時間tにおける前記部材の歪εとが対になった累積時間―歪データが記録された歪履歴情報データベースにアクセス可能なコンピュータにより、前記部材の余寿命を推定するためのコンピュータプログラムであって、
前記コンピュータに、
前記歪履歴情報データベースを参照して、前記累積時間―歪データを取得するステップと、
前記累積時間―歪データに基づき、各累積時間tにおける歪εと、歪速度ε´の自然対数ln(ε´)とが対となった歪―歪速度対数データ{(ε、ln(ε´)|i=1、…、n}を算出する歪―歪速度対数データ算出ステップと、
前記歪―歪速度対数データにおいて、前記歪の増加に対して、前記歪速度対数データが増加傾向に転じる歪の値である第1の値εを算出する第1の値決定ステップと、
前記第1の値εを超える領域における前記歪―歪速度対数データを近似する近似関数を算出する近似関数算出ステップと、
前記算出した近似関数の前記歪に対する傾きに基づきΩの値を算出するΩ算出ステップと、
前記部材の累積時間tにおける余寿命Tを、前記算出したΩの値を用いて、次式(1)により算出する余寿命算出ステップと、を実行させることを特徴とするコンピュータプログラム。
T=α/(Ω×ε´) …(1)
α:定数、ε´:累積時間tにおける歪速度
【請求項9】
請求項8記載のコンピュータプログラムが記録された記録媒体。

【図1】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図2】
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【図4】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−20075(P2009−20075A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−184891(P2007−184891)
【出願日】平成19年7月13日(2007.7.13)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【Fターム(参考)】