説明

作業支援システム

【課題】作業者との接近を検出し、衝突を防止し、また万が一の衝突の際にも事故を防止する作業支援システムを提供する。
【解決手段】作業支援システムが、工具、パーツの何れか又は双方を搬送する搬送機構と、搬送機構を動作させる駆動機構と、作業者を検出する検出部と、検出部で作業者を検出した場合に、搬送機構の移動を規制する緊急動作生成部と、を備える。検出部71が、群システム71A,71Bの何れかに属する複数のセンサ75と、複数のセンサ75からの信号を分散して処理する群システム毎の処理部76A,76Bと、を備え、少なくとも一の群システム71A,71Bの処理部76A,76Bにおいてセンサ75からの出力を受けると緊急動作生成部が搬送機構の動作を停止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製造現場での産業用ロボットシステムに係り、特に組立作業を行う作業者の作業をアシストする作業支援システムに関する。
【背景技術】
【0002】
製造現場で安定した品質で効率的な生産を行うために産業用ロボットが重要な役割を担っている。利用範囲も、自動車車体へのスポット溶接や塗装のみでなく電子回路基板へのパーツの組立、製品の箱詰めなど、拡大を続けてきている。
【0003】
しかし一方で、現在でも産業用ロボットによって自動化が実現していない工程が数多く残っている。例えば、自動車の組立工程や電気製品の組立工程などは産業用ロボットでの置き換えが難しいことから、依然として人手による作業で行われている。近年では、社会の高齢化や少子化が世界的に急速に進行しており、これに伴う労働人口の減少が懸念されている。このような状況から、製造現場においても労働力確保の問題は不可避であり、組立工程においてもさらなる自動化が求められている。
【0004】
自動車の組立工程では、作業者は作業場所の傍にある部品や工具の設置場所と作業箇所の間を行き来して部品の選択と工具の取り出しとを行う必要があり、本来の作業以外に多くの時間と労力とを割いている。
【0005】
自動車の組立工程で作業支援を行って、作業者の負担の軽減と作業の効率化とを図る作業支援ロボットが特許文献1に開示されている。
【0006】
ロボットによる完全な自動化が困難な自動車の組立工程において、特許文献1の作業支援ロボットは部品や工具をロボットアーム等によって作業者の手元へ搬送する。作業者がロボットを操作しない場合でも、作業支援ロボットは作業者の状態を常に認識することで必要な部品や工具を作業者の手元に差し出す。これにより、本来の組立作業に付随する工具などを取りに行く作業等を減らし、作業者の負担軽減や作業効率の向上を行うことができる。また、作業者の作業とロボットの動作とが対応しない場合に作業工程表に従った作業を作業者が行っていないことが判明して、作業ミスを検出することができる。
【0007】
作業支援ロボットは部品や工具を作業者の手元へ搬送するため、作業者と同一の作業空間で動作を行う。また、作業支援ロボットは作業者の動作から作業進度を推定し、状況に応じて動作するため、作業者の操作を必要としない。そのため、作業中に作業者は必ずしも作業支援ロボットの運動を注視しているわけではないことから、組立作業支援ロボットが正常に動作していたとしても、作業者との過度な接近により接触する可能性がある。
【0008】
人間と同一空間内で動作する組立作業支援ロボットの安全対策に関する研究としては、従来、安全のためのリスクアセスメントを施しながら作業支援を目的としたロボットの開発が行われている。自動車の組立工程における組立作業支援パートナロボットとして、非特許文献1にはインパネ搭載補助機、非特許文献2にはウィンドウ搭載補助機、非特許文献3には低出力駆動で作業者と協働するスペアタイヤ自動搭載ロボットが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2010/134603号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】鴻巣仁司,荒木勇,山田陽滋," 自動車組立作業支援装置スキルアシストの実用化",日本ロボット学会誌, vol. 22,no. 4,pp. 86-92, 2004.
【非特許文献2】村山英之, 武居直行, 松本邦保, 鴻巣仁司, 藤本英雄," 自動車組立ラインのウィンドウ搭載支援ロボット", 日本ロボット学会誌, vol. 28,no. 5,pp. 624-630, 2010.
【非特許文献3】村山英之, 藤原弘俊, 中野陽雄, 石居賢治, 武居直行, 森田寿郎, 法林祐一, 藤本英雄," 80Wモータによる25kg可搬省エネロボットの実用化", 第28 回日本ロボット学会学術講演会予稿集, RSJ2010AC3J1-1, 2010.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
通常の産業用ロボットは,安全柵に囲われながら動作するため,ロボットの動作エリアに作業者が進入し、干渉の可能性がある場合には警報装置やロボットの緊急停止等の安全装置が作動する。さらに、非特許文献1〜3に示される作業支援ロボットはおもに作業者の操作力に基づいて動作するため、作業者がロボットの動作軌道を認識しつつ当該ロボットを動作させることができる。
【0012】
一方、ロボットが作業者の操作を必要とせず、作業者の意図を推定し、作業の状況を把握して動作を行う場合であっても、作業支援ロボットが部品や工具の供給動作で作業者と接近する際、ロボットが正常に動作しているにもかかわらず作業者と接触する可能性がある。
【0013】
しかしながら、ロボットと人間とが一緒に作業する環境において、ロボットの動作速度が速く、人間に接触しうるほど接近し、かつ人間が殆どロボットを目視しない状況下におけるロボットの安全な動作方法に関しては、これまでに議論されていない。
【0014】
そこで、本発明は、作業者との接近を検出し、衝突を防止し、また万が一の衝突の際にも事故を防止する作業支援システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために、本発明の作業支援システムは、工具、パーツの何れか又は双方を搬送する搬送機構と、搬送機構を動作させる駆動機構と、作業者を検出する検出部と、検出部で作業者を検出した場合に、搬送機構の移動を規制する緊急動作生成部と、を備え、検出部が、群システムの何れかに属する複数のセンサと、複数のセンサからの信号を分散して処理する群システム毎の処理部と、を備え、少なくとも一の群システムの処理部においてセンサからの出力を受けると緊急動作生成部が上記搬送機構の動作を停止する。
【0016】
上記構成において、好ましくは、処理部は、群システム毎に当該群システムに属するセンサから出力される電圧信号の入力を受ける比較回路を備え、入力された電圧信号と検出位置で定まる参照電圧とを各比較回路が比較し、各比較回路からの出力に応じて緊急動作生成部が搬送機構の動作を規制する。好ましくは、搬送機構が、連結部を介して複数のアーム部を連結して構成されたアームを備え、複数のセンサが、アーム部の各側面に間隔をおいて配置されている。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、作業者の不意の動きにも,移動中の搬送機構が自ら作業者へ接触することを防止することができ、また万が一のモータの暴走などによる衝突の際にも押し付け力を低減し事故を防止することができる。システムが暴走するなどによってモータが回転し続けることで作業者への衝突が起こった場合にも、トルクリミッタが作動することにより搬送機構の運動がフリーになり作業者への押し付け力を低減できる。ただしトルクリミッタを搭載した場合、急激に搬送機構を停止しようとするとその減速時の慣性力によりトルクリミッタが作動し、搬送機構が自由に動くことによって搬送機構が作業者へ接触することになるが、本発明によれば、検出部が作業者を検出するとトルクリミッタが作動するトルクより小さいトルクでモータを制動制御するので、トルクリミッタを作動させずに、搬送機構が停止できる。また、搬送機構が緩衝材で構成された外装を備えている場合、トルクリミッタが作動した後に、搬送機構が作業者に接触しても、作業者への衝撃力を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態に係る作業支援システムを示す斜視図である。
【図2】本発明の実施形態に係る制御装置のブロック図である。
【図3】本発明の実施形態に係る近接検出部を説明するための図である。
【図4】本発明の実施形態に係る第1アーム部の断面図である。
【図5】本発明の実施形態に係る近接検出部を説明するための図である。
【図6】本発明の実施形態に係る処理部のブロック図である。
【図7】本発明の実施形態に係るアームの運動モデルを示す図である。
【図8】本発明の実施形態に係る緊急動作生成部の制御則を示す図である。
【図9】本発明の実施形態に係る手先速度と制動距離の誤差の関係を示す図である。
【図10】本発明の実験例の前提条件を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
1.概要
本発明の実施形態に係る作業支援システムは、自動車の組立工程など作業者がある範囲を移動しながら行う組立作業において、作業者の必要な時に、必要な部品と工具とを作業者の手元へ搬送することを特徴としている。
具体的には、作業支援システムは、作業者の位置情報を取得し、この位置情報と作業者の確率的な作業モデルとから作業者が現在行っている作業とその進度とを推定し、この推定情報に基づいて次の作業に用いる部品及び/又は工具の適切な搬送位置と搬送時刻とを決定し、部品及び/又は工具を手元に搬送する搬送機構を制御する。
【0020】
さらに、作業支援システムでは、搬送機構の移動が作業者の操作に拠らないため、作業者が途中で作業位置から外れた場所へ移動する場合等に、搬送機構と作業者とが衝突する虞があるため、作業者が搬送機構に近接すると搬送機構の移動を規制して、搬送機構が作業者に接触することを防止することを特徴としている。
【0021】
2.構成
図1は本発明の実施形態に係る作業支援システム1を示す斜視図である。
作業支援システム1は、ベースフレーム10と、部品及び/又は工具を作業者の手元に搬送する搬送機構20と、搬送機構20を運動させる駆動部30と、作業者の運動を計測する計測部40と、搬送機構20の動作を制御する制御装置50と、を備えている。なお、図1では計測部40の表示を省略している。
【0022】
本実施形態の作業支援システム1では、搬送機構20としてアーム20Aを利用する。アーム20Aはベースフレーム10に回動可能に取り付けられている。アーム20Aは、基端部をベースフレーム10に回動可能に連結された第1アーム部21と、基端部を第1アーム部21の先端部に連結部23を介して回動可能に連結された第2アーム部22と、第2アーム部22の先端部に設けた保持部24と、を備えている。第1アーム部21と第2アーム部22とは真直ぐに延びたフレーム21A,22Aを備え、これらのフレーム21A,22Aは水平に延びるように配設されている。なお、図1に示すように、第1アーム部21と第2アーム部22とは、水平方向に重ならないように、第2アーム部22が第1アーム部21の高さより上方へずれて配設されている。連結部23は、第1アーム部21の先端部に固定された軸受部23Aと、この軸受部23Aに受容され第2アーム22の基端部に固定された軸部23Bと、を備えている。軸部23Bは第2アーム部22が第1アーム部21に対して回動するための回転軸として機能する。
【0023】
駆動部30は、第1アーム部21を回転させる第1モータ31と、第2アーム部22を回転させる第2モータ32と、を備えている。なお、第1モータ31の出力軸31Aと第1アーム部21の基端部の回転軸21Bとにはタイミングプーリ33,34がそれぞれ取り付けられており、これらのタイミングプーリ33,34は図示を省略するベルトで連結されている。第1モータ31の回転がベルトと各タイミングプーリ33,34とを介して第1アーム部21に伝達されて、第1アーム部21が回動する。
【0024】
第2モータ32の出力軸と第2アーム部22の基端部の回転軸23Bとにはタイミングプーリ35,36がそれぞれ取り付けられており、これらのタイミングプーリ35,36は図示を省略するベルトで連結されている。第2モータ32の出力軸は第1アーム部21の基端部の回転軸21Bと共軸に構成されている。
【0025】
また、第1モータ31及び第2モータ32の各出力軸31A,21Bには、図示を省略するトルクリミッタが搭載されている。第1アーム部21,第2アーム部22に過負荷が生じるとトルクリミッタが機能して、第1アーム部21,第2アーム部22は第1モータ31,第2モータ32の出力に因らず自由に回転することができる。このため何らかの事情でモータが制御不能となり、回転し続けるような場合でも作業者に対しアームを押し付け続けることを回避できる。
【0026】
計測部40は、カメラや測距センサなどの作業者の動作を計測するためのセンサ群で構成される。本実施形態ではレーザ式測域センサ(LRF:Laser Range Finder)を用いる。レーザ式測域センサは、レーザ光を照射し、設置物や移動しつつある作業者や車体など、各種のものによって反射したレーザ光を計測して対象物までの距離データを2次元的に出力する。
【0027】
制御装置50は、図2に示すように、支援動作制御部60と、緊急動作制御部70と、から構成されている。
【0028】
支援動作制御部60は、部品及び/又は工具を作業者の手元に搬送させるためにアーム20Aを駆動制御する。支援動作制御部60は、作業モデル生成部61と作業推定部62と動作生成部63とを備えている。
【0029】
作業モデル生成部61は作業者の動作を確率的にモデル化する。作業モデル生成部61は、計測部40から得られた作業者の運動データから作業者の運動のモデルを生成する。
【0030】
作業推定部62は作業の進度を推定する。作業推定部62は、作業モデル生成部61で作成された作業モデルと、計測部40で得られた作業者の位置情報と、データベース64に格納された複数の作業の順序及び各作業での作業者の位置情報等の作業情報と、に基づいて作業進度を推定する。
【0031】
動作生成部63は、作業者の手元へ部品及び/又は工具を搬送、つまり部品及び/又は工具を載せたり把持したりする保持部24を作業者の手元に搬送させるために、作業者の作業進度に合わせたアーム20Aの運動情報を生成する。具体的には、動作生成部63は、作業推定部62で推定された作業進度と作業モデル生成部61で生成された作業モデルとに基づいて、各作業で搬送すべき位置に保持部24を移動させるためのアーム20Aの軌道を算出する。作業推定部62で行われた作業推定にはアームの軌道の修正も含まれている。これにより、作業推定部62が推定した作業進行状況に応じて動作生成部63によってアーム20Aの軌道が計画されて、アーム20Aが制御される。つまり、作業の進行状況に応じてアーム20Aが制御されて、作業に必要となる部品及び/又は工具が運搬される。なお、図2に示すように、動作生成部63によって生成されたアーム20Aの軌道は、後述する緊急動作生成部72を経由して駆動部30へ送られる。詳細を後述する緊急動作生成部63が制動制御を行わない場合に、駆動部30は動作生成部63で生成された軌道、具体的には目標角速度などの目標動作に基づいてアーム20を制御する。
【0032】
以上の制御装置50はコンピュータから構成される。このコンピュータは、前もってインストールされたソフトウェアを実行することで、作業モデル生成部61、作業推定部62、動作生成部63として機能する。また、計測部40がLRFであれば,LRFから得られるセンサデータを処理する部分も制御装置50に含まれる。
【0033】
なお、複数のコンピュータをLANによって接続して、作業モデル生成部61、作業推定部62、動作生成部63の動作を複数のパーソナルコンピュータによって分散処理させてもよい。コンピュータは、従来公知の構成のものを使用することができ、RAM,ROM,ハードディスクなどの記憶装置と、キーボード,ポインティングデバイスなどの操作装置と、操作装置等からの指示により記憶装置に格納されたデータやソフトウェアを処理する中央処理装置(CPU)と、処理結果等を表示するディスプレイなどを備えている。このコンピュータは汎用の装置であっても、専用の装置として構成されたものであってもよい。
【0034】
コンピュータとしての動作生成部63は、PCIバス(Peripheral Component Interconnect Bus)で接続されたカウンタボードから第1モータ31,第2モータ32の角度の情報を取得して、D/Aボードからモータドライバを介して第1モータ31,第2モータ32の制御を行う。同様にPCIバスで接続されたDIO(Digital I/O)ボードによってフォトマイクロセンサの値を読み取ることでアーム20Aの初期姿勢が設定される。さらに、コンピュータには車体番号や車種等の生産ライン情報も入力される。
【0035】
このように、支援動作制御部60が作業者の意志を推定することで、作業者が明示的に操作しなくとも思った通りに必要な部品及び/又は工具を作業者の手元に差し出すことができる。これにより、本来の作業に付随する作業、つまり部品及び/又は工具を作業者自身が取りに行く作業を減らし、作業者の負担軽減や作業効率の向上を図ることができる。
【0036】
支援動作制御部60によるアーム20Aの移動は、作業者の操作に拠らないため、作業者が途中で作業位置から外れた場所へ移動する場合等に、アーム20Aと作業者とが衝突する虞がある。
【0037】
このため作業支援システム1は緊急動作制御部70を備えている。緊急動作制御部70は図2に示すように、近接検出部71と緊急動作生成部72とを備えている。
【0038】
近接検出部71はアーム20Aに接近した作業者を検出する。具体的には、近接検出部71は、第1アーム部21と第2アーム部22の各側面から水平方向へ広がった領域に作業者が存在する場合に当該作業者を検出する。このため、図3に示すように、近接検出部71は、第1アーム部21の左右の側面21D,21Eと、第2アーム部22の左右の側面22D,22Eと、第1アーム部21と第2アーム部22との連結部23と、第2アーム部22の先端部と、にそれぞれ複数のセンサを備えている。第1アーム部21と第2アーム部22の各側面21D,21E,22D,22E、連結部23、第2アーム部22の先端部で、複数のセンサは距離を置いて配設されている。
【0039】
本実施形態では、距離を検出できるセンサ、例えば光位置センサ(PSD: Position Sensitive Detector)75として赤外線距離センサを利用する。図3の符号αは各光位置センサ75からの赤外線のイメージを表している。なお、図1では各光位置センサ75の表示を省略している。なお、各アーム部21,22のその時々の速度に対応した制動距離に応じて、各アーム部21,22に設けた光位置センサ75の検出距離が設定される。
【0040】
図4は第1アーム部21の断面図である。アーム20Aを構成するフレーム21Aには、スポンジやウレタンなどの緩衝材で構成された外装210が取り付けられている。この外装210に形成された開口211からアーム外側方向を光位置センサ25が臨むよう、光位置センサ25は第1アーム部21に配設されている。
なお、本実施形態で用いる光位置センサ25としての赤外線距離センサは、出力特性上、作業者が近づき過ぎた場合正確に検出することができないため、外装210の厚みは光位置センサ25の最小検出距離よりも大きく設定されている。この外装210によって作業者が光位置センサ25に正確に検出できないほど近接することを防止できる。さらに、外装210は、作業支援システム全体の故障や停電などでの誤動作のときに、作業者に衝突した場合でも、作業者への押し付け力を緩和することができる。
【0041】
本実施形態の近接検出部71は、並列分散処理を行う。例えば、図5に示す第1アーム部21の左側面21Dには8つの光位置センサ75が設けられているが、長さ方向に所定の間隔で並んだ光位置センサ75は、基端側から奇数番目が第1群システム71Aに属し、偶数番目が第2群システム71Bに属する。そして、第1群システム71Aに属する光位置センサ75からの出力は第1群システム71Aの処理部76Aに送られる。この第1群システム71Aの処理部76Aの結果が制御装置50へ送られる。
【0042】
このような大量のセンサ群のアナログ信号を個別にA/Dコンバータでリアルタイムで処理することは、計測システムの規模を考えると現実的ではない。そこで、複数のセンサの入力信号をOR回路で纏めて処理することで、センサの数が多い場合でも、システムの入力チャンネルは少なくて済むように構成した。また、本実施形態では、D/Aボードからコンパレータ回路に参照電圧を付加することで、作業者との接近を検出する距離を可変に設定できるようにした。
具体的には、第1群システム71Aの処理部76Aは、図6に示すように、各光位置センサ75からの出力が入力される比較回路77と、各比較回路77からの出力が入力されるOR論理回路78と、を備えている。各比較回路77の参照電圧は、検出距離によって決定され、制御装置50に接続されたキーボードなどの操作によって設定できる。何れかの比較回路77から検出した信号がOR論理回路78へ入力されることで、当該第1アーム部20の左側の側面に作業者が近接していることが判断される。
【0043】
第2群システム71Bに属する光位置センサ75からの出力は、第2群システム71Bの処理部76Bに送られる。第2群システム71Bの処理部76Bは、第1群システム71Aの処理部76Aと同様に構成されている。
【0044】
このような分散センシングシステムを備えることで、第1群システム71Aでは4個の光位置センサ75の出力電圧を4個の比較回路77にそれぞれ入力し、それらの出力が1つのOR論理回路78へと入力される。第2群システム71Bでも同様のことが行われる。この時、仮に第1群のシステム71Aにおいて光位置センサ75が1つ故障し、センサ75からの出力電圧が発生しなかった場合、1つの比較回路77への入力がなくなってしまう。この場合には故障個所以外の光位置センサ75が機能するので、第1群システム71Aでは3個の光位置センサ75が機能し、第2群システム71Bでは4個の光位置センサ75全てが機能することとなる。次に、第1群システム71Aで1つの比較回路77が故障した場合に、4つの光位置センサ75の出力電圧を4つの比較回路77が処理してOR論理回路78に入力しても処理されないこととなる。この場合には、第2群システム71Bでは4個の光位置センサ75全てが機能する。このように、分散センシングシステムを並列にすることによって、片側のシステムが故障しても、もう一方のシステムによって障害物を検出し続けることが可能となる。
このように、同様のセンシングシステムをもう一つ並列に接続することで、片方のセンシングシステムが故障した場合でも作業者との接近の検出を行える。
【0045】
このような分散センシングシステムは、第1アーム部21の右側面21Eに設けられる近接検出部71、第2アーム部22の左右の各側面22D,22Eに設けられる近接検出部71、第1アーム部21と第2アーム部22との関節部23に設けられる近接検出部71、第2アーム部22の先端部に設けられる近接検出部71にも適用される。
【0046】
本実施形態では、図3及び下記に示すように、アーム近傍の6つのエリアA〜Fごとに近接検出部71が設けられ、各近接検出部71が分散センシングシステムとして構成されている。
エリアA: 第2アーム部22の先端部から第2アーム部22の延長方向を中心として左右に90度迄でセンサ検出距離の領域。
エリアB: 第2アーム部22の左側面22Dから水平方向にセンサ検出距離迄の領域。
エリアC: 第2アーム部22の右側面22Eから水平方向にセンサ検出距離迄の領域。
エリアD: 第1アーム部21の先端部から第1アーム部21の延長方向を中心として左右に90度迄でセンサ検出距離の領域。
エリアE: 第1アーム部21の左側面21Dから水平方向にセンサ検出距離迄の領域。
エリアF: 第1アーム部21の右側面21Eから水平方向にセンサ検出距離迄の領域。
【0047】
このように、エリアA〜Fに分けて光位置センサ75を配設することで、アーム20Aの部位ごとに作業者との接近を検出することができる。光位置センサ75の配置間隔は、アーム20Aの側面21D,21E,22D,22Eでは作業者の胴(腰や腹部領域を含む。)を検出できるように、またアーム20Aの関節部23では巻き込みや挟み込みが生じる恐れがあることから作業者の腕を検出できるように設定されている。この配置間隔は、前述の分散センシングシステムにおいて片群のシステムが不動作の場合も作業者の胴程度は検出できるように設定することが望ましい。
【0048】
これらのエリアA〜Fの近接検出部71の何れかで作業者を検出した場合、本実施形態に係る作業支援システム1はアーム20Aを制動制御する。
【0049】
本実施形態では、緊急動作生成部72がアーム20Aの制動制御を行う。緊急動作生成部72は、前述の並列分散センシングシステムによって作業者との接近を検出した場合、最短距離でアーム20Aを停止させることで作業者との衝突を防ぐ。ただし、作業者との接近を検出した際に第1アーム部21と第2アーム部22とを動作させる第1モータ31と第2モータ32との急停止を行った場合、第1アーム部21と第2アーム部22とを動作させる第1モータ31と第2モータ32とに搭載されたトルクリミッタが作動することによって第1アーム部21と第2アーム部22とが制御不能に陥る可能性がある。この場合、第1モータ31と第2モータ32とが停止しても第1アーム部21と第2アーム部22とは慣性力によって動き続けることとなり、作業者との衝突が起こり得る。これを防ぐために、トルクリミッタを作動させずにアーム20Aを停止させる必要がある。
【0050】
作業支援システム1が停止指令を受けてからトルクリミッタを作動させずに停止を行うために必要な制動距離は、停止指令を受けて制動制御を開始する時点におけるアーム20Aの姿勢やその際の速度に依存する。
【0051】
本実施形態に係るアーム20Aの運動モデルを図7に示す。各パラメータは、第1アーム部21の質量m1、第2アーム部22の質量m2、保持部24及び工具の質量m3、第1アーム部21の長さl1、第2アーム部22の長さl2、第1アーム部21の重心距離r1、第2アーム部22の重心距離r2、第1アーム部21の慣性モーメントI1、第2アーム部22の慣性モーメントI2、第1アーム部21の基端側の軸周りの第1軸トルクT1、第2アーム部22の基端側の軸周りの第2軸トルクT2とした。作業支援システム1のアーム20Aの運動方程式は以下の式となる。式(1)が第1アーム部21、式(2)が第2アーム部22を表している。
【0052】
【数1】

【0053】
【数2】

【0054】
本実施形態に係る緊急動作生成部72で用いる制動制御には、図8に示されるブロック図の制御則を用いた。この制御則で停止軌道を求めるために、上式で示したロボットの運動方程式を加速度に関して解いた以下の式(3)、(4)を用いる。式(3)が第1アーム部21、式(4)が第2アーム部22を表している。
【0055】
【数3】

【0056】
【数4】

【0057】
そこで、緊急動作生成部72は、上式(3),(4)を用いてトルクリミッタを作動させずに第1アーム部21及び第2アーム部22を停止させるために、トルクT1,T2にトルクリミッタが作動する限界値を超えないトルクを指令する。トルクリミッタの限界値は、例えば80[Nm]であるため、トルクT1,T2には80[Nm]以下の数値を上限とするトルクの時間推移を代入することとなる。緊急動作生成部72は、作業者を検出した時点から、アーム20Aが停止するまでトルクの指令値を、例えばステップ入力で図8の目標トルク値Tdesに入力する。図8の運動方程式にトルクの指令値、動作中のロボットの角度θcur、角速度を代入した後に、アーム20Aの目標値となる目標角速度を算出し、サーボドライバへの入力とする。このように動作生成部63で生成された目標動作に代えて緊急動作生成部72が緊急動作、つまり制動動作を行うための目標角速度を算出し、この緊急動作に基づいて駆動部30が各モータ21,22を制御する。
この制動制御により、第1アーム部21と第2アーム部22の回動が規制され、作業者への到達前に第1アーム部21と第2アーム部22とが停止する。
なお、コンピュータが前もってインストールされたソフトウェアを実行することで、緊急動作生成部72として機能する。
【0058】
このように本実施形態に係る作業支援システム1によれば、作業者の不意の動きにもアーム20Aへの接触を防止することができる。
【0059】
さらに、本実施形態では、各エリアA〜Fで作業者を検出するための近接検出部71が並列分散処理を行う。つまり二つの検出システム71A,71Bを備えて、一方のシステム71A(71B)に不具合がある場合でも、他方のシステム71B(71A)で作業者を検出することができる。よって、安全性をより高めることができる。
【0060】
[制動距離と検出距離との関係について]
前述のように、並列分散センシングシステムでは、D/Aボード79(図6参照)から比較回路77へ入力する参照電圧を変化させることで光位置センサ75の検出距離を変化させることができる。その際に、光位置センサ75の検出距離がアーム20Aの停止までに必要な制動距離より大きければ、作業者とアーム20との衝突を未然に防ぐことが可能である。ただし、この検出距離を必要以上に大きく設定してしまうと、アーム20Aは作業者に近づくことができず、部品や工具の配送を行うことができない。そこで、アーム20Aの運動に応じて光位置センサ75の検出距離を以下の方法で逐次変更することで、作業者との衝突を防ぎつつ、部品や工具の配送を行う。
【0061】
検出距離は、アーム20Aの運動状態に応じた理論制動距離dsと任意に設定できるアーム停止時の作業者との距離dwを加算することで設定する。理論制動距離dsは、前述のアーム20Aのモデルと運動方程式とから制動制御を行った場合の手先の移動距離から算出できる。この制動距離は、作業支援システム1が作業者との接近を検出し、制動制御を開始する時のアーム20Aの運動状態に因るため、予めアーム20Aの運動計画からその運動を行う際の制動距離を制御周期ごとに求めておく。
しかしながら、実際の制動距離とモデルとから計算した制動距離はモデル化誤差などの影響から一致しない。そこで、15パターンの手先速度において制動制御実験を行い、実際の制動距離とモデルから計算される制動距離の誤差を求めた。各速度パターンについて、10回ずつ実験を行った結果を表1に示す。
【0062】
【表1】

【0063】
実際の制動距離に対して標準偏差が十分に小さいことから、制動距離には再現性があるといえる。この結果から、手先速度と制動距離の誤差の関係は図9で示される。この関係を最小二乗法により近似を行い、モデルから求められた制動距離に加算することによって、検出距離の設定に用いる制動距離dsとした。
【0064】
[評価実験]
本実施形態に係る作業支援ロボットの評価実験を行った。実験で用いた作業支援ロボットのアームの手先軌道を図10に示す。
作業者は図中に示すX位置で作業を行っているものと想定し、手先速度を変えた場合に、アーム停止時の作業者とアーム20Aとの距離から、設定された検出距離が適切であったかを確認する。このときdwは150[mm]に設定した。
表2は、作業者との接近を検出時の手先速度、検出距離、制動距離、アームと作業者の間の距離を示す。
【0065】
【表2】

【0066】
接近検出時のアーム20Aの手先速度が上がるにつれて制動距離が大きくなっていることがわかる。また、それに応じて動作開始位置からのアーム20Aが検出されるまでの検出距離も長くなっている。アーム停止時のアーム20Aと作業者との距離は、その設定値dw=150[mm]とほぼ一致した。
【0067】
[検出距離とセンサ位置との関係について]
アーム20Aが制動制御により緊急停止動作を始めてから止まるまでに起こる姿勢変化自体は、緊急停止動作を始める瞬間の各関節の角度と角速度に依存する。この時、回転関節を軸に回転するアーム20A上のある点が制動制御に伴う姿勢変化によって停止するまでに移動する距離はそのアーム20A上での位置に依存する。
例えば、回転関節で接続されたアームであれば、回転中心から遠ければ遠い点ほど制動距離が長くなる。棒状のものが片端を回転中心としてある角速度で動いていた時に,単位時間あたりに動く距離は中心から遠ければ遠いほど長くなるのと同じである。従って、ある瞬間からある時間後に停止するといった場合、この時の制動距離は中心からの距離に応じて変化する。
従って、作業者と衝突する前にアーム20Aを停止しようとすると、その際の制動距離はアーム20A上の位置によって変わる。このことから、各センサ75の検出距離は、「アーム20Aの運動状態に応じて決まる、各センサ75の設置位置の制動距離」に合わせて検出距離を変化させる必要がある。つまり、各アーム部21,22のその時々の速度に対応した制動距離に応じて、各アーム部21,22に設けた光位置センサ75の検出距離が設定される。
【0068】
以上説明したが、本発明は発明の趣旨を逸脱しない範囲において様々な形態で実施をすることができる。
【0069】
(1)搬送機構
搬送機構20は、図1に示すロボットアーム20Aのように関節を複数持つものでなく、1自由度の直動テーブルのように、工具、部品の何れか又は双方を搬送するものであればよい。さらに3自由度以上の多関節のロボットアームでもよい。また、搬送機構は台車として構成されてもよい。
搬送機構20を構成するロボットアーム20Aは、図1に示すようにベースフレーム10に駆動可能に取り付けられていても、製造ラインの固定設備に取り付けられていても、台車のような移動可能なものに取り付けられていてもよい。
このように、作業エリアで可動する搬送機構の駆動部にはトルクリミッタが搭載され、規定値以上の力が加わる場合には搬送機構がフリーとなる。またこの搬送機構にセンサが設けられ、当該センサによって作業者を検出した場合に搬送機構の移動が抑制される。具体的には、作業を検知した際の姿勢や速度に応じて、速度を減少させるサーボ制御を行う。例えば、台車であれば車輪を回転させるサーボモータを制御する。その際、台車の運動方程式と速度と位置とに基づいて、台車を所定距離内で停止させるための加速度を求めて、サーボ制御を行う。搬送機構がXYステージであれば、ステージの各軸方向への移動を減少させるサーボ制御をXYステージの運動方程式から導き、サーボ制御を行う。
【0070】
(2)搬送機構の移動方向
前述の説明では、搬送機構としてアーム20Aは水平方向であったが、搬送機構の移動方向は水平に代えて上下方向、或いは三次元方向であってもよいことは勿論である。
【0071】
(3)用途
作業支援システムの用途は、自動車の組立に限定されるものではない。
【0072】
(4)センサ
搬送機構の移動に伴って近接領域の作業者を検出するセンサは、光位置センサに限定されるものではなく、電波や超音波などを利用するセンサであってもよい。比較回路の参照電圧は、検出距離の関係がセンサの種類によって異なるため、各センサに応じて参照電圧が設定される。
【0073】
(5)並列分散処理
上記説明では、並列分散処理として2系統を扱う場合を説明したが、3系統以上を並列処理してもよい。また、並列処理を省略しても本発明を構成できることは勿論である。
【0074】
(6)各センサの検出距離
アーム以外の搬送機構においても、各センサの検出距離は、センサの取付位置とその位置での搬送機構の運動状態に基づいた制動距離とに応じて、作業者との接触を回避するように設定される。
【符号の説明】
【0075】
1:作業支援システム
10:ベースフレーム
20:アーム
21:第1アーム部
22:第2アーム部
23:連結部
30:駆動部
33,34,35,36:タイミングプーリ
40:計測部
50:制御装置
60:支援動作制御部
61:作業モデル生成部
62:作業推定部
63:動作生成部
70:緊急動作制御部
71:近接検出部
72:緊急動作生成部
75:光位置センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具、パーツの何れか又は双方を搬送する搬送機構と、上記搬送機構を動作させる駆動機構と、作業者を検出する検出部と、上記検出部で作業者を検出した場合に、上記搬送機構の移動を規制する緊急動作生成部と、を備え、
上記検出部が、群システムの何れかに属する複数のセンサと、上記複数のセンサからの信号を分散して処理する群システム毎の処理部と、を備え、
少なくとも一の群システムの処理部においてセンサからの出力を受けると上記緊急動作生成部が上記搬送機構の動作を停止する、作業支援システム。
【請求項2】
前記処理部は、群システム毎に当該群システムに属する前記センサから出力される電圧信号の入力を受ける比較回路を備え、
入力された電圧信号と検出位置で定まる参照電圧とを各比較回路が比較し、各比較回路からの出力に応じて前記緊急動作生成部が前記搬送機構の動作を規制する、請求項1に記載の作業支援システム。
【請求項3】
前記搬送機構が、連結部を介して複数のアーム部を連結して構成されたアームを備え、
前記複数のセンサが、上記アーム部の各側面に間隔をおいて配置されている、請求項1又は2に記載の作業支援システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−82071(P2013−82071A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−24267(P2013−24267)
【出願日】平成25年2月12日(2013.2.12)
【分割の表示】特願2011−117493(P2011−117493)の分割
【原出願日】平成23年5月25日(2011.5.25)
【出願人】(000157083)トヨタ自動車東日本株式会社 (1,164)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】