説明

作業支援装置

【課題】作業手順を作業者に提示する作業支援装置であり、たとえ作業に遅れが生じていても作業者が続く工程の作業ペースを早めることを防止することのできる作業支援装置を提供する。
【解決手段】作業支援装置は、記憶装置、表示装置、及び制御装置を備えている。記憶装置は、各工程の作業手順とともに各工程の標準作業時間を記憶している。表示装置は、記憶されている作業手順を表示する。制御装置は、作業者による表示切替のための指示入力に応答して次の工程の作業手順に表示を切り替える。ここで、制御装置は、一の工程の作業手順を表示してからその工程の標準作業時間が経過するまでは指示入力があっても次の工程の作業手順に表示を切り替えないことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の工程からなる作業の各工程の作業手順を作業者へ提示する作業支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
多数の作業手順を含む組立作業などでは、作業者が全ての作業手順を覚えるのは大変である。そこで、作業の工程毎に作業手順を作業者に提示する作業支援装置があると便利である。そのような作業支援装置が例えば特許文献1に開示されている。特許文献1の作業支援装置は、工程毎の作業手順を記憶しており、第1の工程から作業手順を表示する。作業者は表示された作業手順に沿って作業を進め、その工程が終了すると、作業が終了した旨を装置へ入力する。作業者の入力に応答して、作業支援装置は次の工程の作業手順に表示を切り替える。作業支援装置は、図や文字などの表示だけなく、音声で作業手順を提示する場合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−164050号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
作業が遅れている場合、作業者は遅れを取り戻すために作業を急ぐ傾向がある。従来は、作業の遅れを挽回するように作業を急ぐことが推奨されていた。しかしながら、作業を安易に急ぐと作業が大雑把になり品質が低下する虞がある。さらに作業を急ぐと不良が発生することもあり、かえって作業効率が低下してしまう。特許文献1の作業支援装置では、作業者の入力に応答して表示される作業手順が次々と切り換わるため、作業者の作業ペースが早まることを抑制することができなかった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記の課題に鑑みて創作された。本発明の目的は、作業の遅れは挽回することが好ましいとされていた従来の発想を転換し、作業者が作業ペースを早めてしまうことを防止する作業支援装置を提供する。本発明の作業支援装置は、作業者が工程を終えたか否かに関わらずに、所定の時間が経過するまでは次の工程の作業手順を表示しないことによって、作業者が作業ペースを早めてしまうことを防止する。
【0006】
本発明は、複数の工程からなる作業の各工程の作業手順を工程毎に作業者へ順次に提示する作業支援装置に具現化することができる。本発明の作業支援装置は、記憶装置、表示装置、及び制御装置を備えている。記憶装置は、各工程の作業手順とともに各工程の標準作業時間を記憶している。各工程の標準作業時間は、予め定められている。表示装置は、記憶されている作業手順を表示する。制御装置は、作業者による表示切替のための指示入力(次の工程の作業手順に表示を切り替えることを装置に指示する指示入力)に応答して次の工程の作業手順に表示を切り替える。ここで、制御装置は、一の工程の作業手順を表示してからその工程の標準作業時間が経過するまでは指示入力があっても次の工程の作業手順に表示を切り替えないことを特徴とする。
【0007】
本発明の作業支援装置は、作業者による指示入力の有無に関わらずに標準作業時間が経過するまでは次の工程の作業手順を表示しない。そのような機能を備えることにより、この作業支援装置は、作業者が安易に作業ペースを早めることを防止することができる。本発明の作業支援装置は、作業の遅れは挽回することが望ましいとされていた従来の発想を転換し、たとえ作業に遅れが生じていても続く工程の作業ペースを早めることを禁止する。この作業支援装置は、作業ペースを早めることを防止することによって、結果として品質の低下を防止することができる。
【0008】
制御装置は、標準作業時間が経過する前に作業者の指示入力があった場合は、標準作業時間が経過したときに次の工程の作業手順に自動的に表示を切り替えることが好ましい。標準作業時間の経過前であっても作業者は一旦指示入力を行えば、作業支援装置は標準作業時間の経過後に再び作業者の指示入力を待つことなく、次の工程の作業手順を表示する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の作業支援装置は、作業者が安易に作業ペースを上げることを防止することができる。その結果、本発明の作業支援装置は、作業における品質の低下を防止する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】作業支援装置のブロック図を示す。
【図2】作業支援装置が実行する処理のフローチャート図を示す。
【図3】作業支援装置の画面表示の一例を示す。
【実施例】
【0011】
本実施例の作業支援装置は、多数のカーボン繊維シートを積層して一つのカーボン部品を組み上げる積層組立作業を支援する。この種の積層組立作業では、僅かに異なる複数のカーボン繊維シートを予め決められた順序で積層する必要がある。従って、作業において、多種のカーボン繊維シートの中から予め定められた種類のカーボン繊維シートを間違いなく選択することが作業者には要求される。また、それぞれのカーボン繊維シートは、積層するときの向きや、積層を開始する位置も定められている。さらに、積層する際の注意点も定められている。この積層組立作業は、多数の工程からなり、全ての工程の全ての作業手順を覚えることは作業者の負荷が大きい。作業支援装置10は、工程毎に作業手順を提示し、正確に作業できるように作業者を支援する。なお、ここでは、個々の作業手順の具体的内容については説明を省略する。
【0012】
図1に作業支援装置10のブロック図を示す。作業支援装置10は、記憶装置12、制御装置14、表示装置16、スピーカ18、バーコードリーダ20を備えている。制御装置14は、コンピュータである。作業支援装置10の実体は、コンピュータのプログラムとして具現化される。
【0013】
記憶装置12は、工程毎の作業手順、その工程の標準作業時間、その工程の付加事項(オプション)が記述された作業データベースを記憶している。ここで、付加事項とは、その工程におけるチェックポイントや、その工程で用いる部品の番号などである。工程毎の作業手順、標準作業時間、及び、付加事項を作業データと称する。図1の符号12aが作業手順データベースの一例を示している。ここでは、個々の作業手順を符号WA等で模式的に表し、チェックポイントを符号XA等で模式的に表す。例えば、工程1は、作業手順WAからなり、30分の標準作業時間が定められている。また工程1ではオプションとして、3つのチェックポイントXA、XB、及びXCが定められている。図1における「CP」の文字は、オプションがチェックポイント(Check Point)であることを示している。工程2は、作業手順WBからなり、5分の標準作業時間が決められている。工程2ではオプションとして、部品番号0001の部品(カーボン繊維シート)を用いることが定められている。図1における「PN」の文字は、オプションが部品番号(Parts Number)であることを示している。
【0014】
作業手順WA等のデータは具体的には、見本となる作業手順を撮影した映像のデータ、作業の要点を記述したテキストデータや音声データを含んでいる。ここでは符号「WA」が、それらのデータを包括的に表すものとする。
【0015】
図2に、作業支援装置10が実行する処理のフローチャートを示す。作業支援装置10は、まず、工程を示す変数「k」に「1」をセットする(S2)。作業支援装置10は、変数「k」で表される工程の作業データを記憶装置12から読み出し、その工程の作業手順を表示する(S4)。ステップS4では、作業支援装置10は、k番目の作業手順を表示するとともにタイマをスタートする。
【0016】
ここで、図3に、第1工程の作業手順の表示例を示す。符号30は、表示装置16の画面を表す。画面30の小ウインドウ30aには工程番号が表示される。また、小ウインドウ30b、30e、及び30dには夫々、記憶装置12から読み出した、その工程の作業時間、作業手順WA、及び、チェックポイントXA−XCが表示される。
【0017】
前述したように、作業手順WAは、映像データ、音声データ、及びテキストデータを含んでいる。小ウインドウ30eには、映像データやテキストデータが表示され、音声データはスピーカ18から出力される。なお、画面30はタッチスクリーンになっており、小ウインドウ30eに映像データを表示する場合は、映像データの表示の一時停止、早送り、巻き戻しなどを指示するタッチスイッチが表示される。
【0018】
小ウインドウ30cには図2のステップS4でスタートしたタイマの時間が表示される。即ち、小ウインドウ30cには、作業手順を表示してからの経過時間が表示される。ここで、タイマスタートからの経過時間が標準作業時間に満たない場合は、標準作業時間までの残り時間がマイナス符号付きで小ウインドウ30cに表示される。他方、タイマスタートからの経過時間が標準作業時間を超えた場合は、標準作業時間からの経過時間がプラス符号付きで表示される。また、タイマスタートからの経過時間が標準作業時間に満たない場合は、小ウインドウ30cの全体が緑色で表示される。タイマスタートからの経過時間が標準作業時間を超え、かつ標準作業時間から30秒以内の場合は、小ウインドウ30cの全体が橙色で表示される。タイマスタートからの経過時間が標準作業時間プラス30秒を超えた場合は、小ウインドウ30cの全体が赤色で表示される。
【0019】
前述したように、画面30はタッチスクリーンになっている。図3の符号30fと30gの小ウインドウは、作業者が操作するタッチスイッチを構成している。符号30fが示す3つの小ウインドウ(タッチスイッチ)は、小ウインドウ30dに示されている3つのチェックポイントに対応している。作業者は、小ウインドウ30dに示されているチェックポイントに従って実際のワークピースを確認した後に、夫々のチェックポイントに対応するタッチスイッチに触れて、チェック完了を装置10に入力する。また、作業者は、小ウインドウ30eに表示されている作業手順に従って作業を遂行した後に、符号30gの小ウインドウに触れて、工程終了を作業支援装置10に入力する。符号30gの小ウインドウに触れる操作(即ち、工程終了の入力)が、作業者による表示切替のための指示入力(次の工程の作業手順に表示を切り替える旨を装置10に指示する指示入力)に相当する。
【0020】
図2に戻り、フローチャートの説明を続ける。作業支援装置10は、ステップS4でタイマをスタートした後、その工程の標準作業時間が経過するまで待機する(S6)。標準作業時間が経過すると、作業支援装置10は、作業者による工程終了の入力を待つ(S8)。作業者による工程終了の入力を受け付けると、作業支援装置10は、変数「k」を一つインクリメントし(S12)、記憶装置12から次の工程の作業手順を読み出して表示する(S4)。このとき、タイマを新たにスタートする。作業支援装置10は、全ての工程が終了するまで、作業者による工程終了の指示入力に応答して各工程の作業手順を順次に表示する(S10)。
【0021】
作業支援装置10は、ステップS6において標準作業時間の経過を待つ間も作業者による工程終了の入力は受け付ける。ただし、作業支援装置10は、作業手順を表示してから標準作業時間が経過するまでは次の工程の作業手順へ表示を切り替えない。標準作業時間が経過するまでの間に指示入力があった場合には、作業支援装置10は、標準作業時間が経過すると自動的に次の工程の作業手順へ表示を切り替える。別言すれば、作業支援装置10は、標準所要時間が経過し、かつ、作業者による指示入力を受け付けた場合に、次の工程の作業手順に表示を切り替える。
【0022】
本実施例の作業支援装置10は、次の効果を奏する。作業者は、標準作業時間が経過するまでは次の工程の作業手順を見ることができない。別言すれば、作業支援装置10は、夫々の工程について、作業者がその工程を終了するのに予め決められた標準作業時間を費やすことを強制する。工程毎に標準作業時間を費やすことを作業者に強制することによって、作業支援装置10は、作業者が作業ペースを早めることを抑制する。その結果、作業ペースを早めることによって生じ得る品質の低下が抑制される。
【0023】
作業支援装置10の他の機能を説明する。作業支援装置10は、表示されているチェックポイントに対応した全てのタッチスイッチ(小ウインドウ30f)に触れないと、例え工程終了を示すタッチスイッチ(小ウインドウ30g)に触れても次の工程の作業手順を表示しない。そのような機能によって、作業支援装置10は、品質管理のためのチェックの漏れを防止することができる。なお、チェック終了を示すタッチスイッチ(小ウインドウ30f)の一つに触れてから所定時間が経過しないと、作業支援装置10はチェック終了を示す他のタッチスイッチの入力を受け付けない。
【0024】
また、作業支援装置10は、作業手順の表示開始からの経過時間を表示する小ウインドウ30cの表示色を、標準作業時間と経過時間の時間差に応じて変化させる。そのように表示色を変えることによって、標準作業時間に対する作業の進捗具合を作業者に理解し易くしている。
【0025】
次に、作業データベースのオプションの項目に部品番号が記述されている場合の作業支援装置10の動作を説明する。図1に示したように、工程2の作業データには、部品番号「0001」がオプションの項目に記述されている。また、工程2の作業手順WBのデータには、具体的には識別子0001で識別される部品を準備する旨の指示(作業手順)が記述されている。工程2の作業手順の表示においては、画面30の小ウインドウ30eに、工程2の作業手順WB、即ち、部品0001を準備する旨の指示が表示される。他方、夫々の部品には部品番号を示すバーコードが貼着されている。作業者は、作業手順によって指定された部品を準備した後に、その部品に貼着されたバーコードをバーコードリーダ20で読み取る。作業支援装置10は、読み取ったデータと、工程2で指定されている部品番号を比較する。読み取ったデータが指定されている部品番号と一致し、かつ経過時間が工程2の標準作業時間を経過している場合、作業支援装置10は、次の工程の作業手順に表示を切り替える。即ち、部品番号が指定されている工程においては、バーコードリーダ20によって部品バーコードを読み取らせる作業者の動作が、次の工程の作業手順に表示を切り替える指示入力に相当する。なお、読み取ったデータが指定されている部品番号と一致しない場合、作業支援装置10は、一致しない旨を表示する。このときは、作業支援装置10は、作業手順の表示を切り替えない。バーコードによる照合を作業手順の切り替えのトリガに用いることで、誤った部品が作業に用いられることを防止する。なお、部品を用意する作業が極めて短時間で実行できることが予定されている場合は、標準作業時間として「ゼロ分」が設定されていてもよい。
【0026】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0027】
10:作業支援装置
12:記憶装置
14:制御装置
16:表示装置
18:スピーカ
20:バーコードリーダ
30:画面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業の各工程の作業手順を工程毎に作業者へ順次に提示する作業支援装置であり、
各工程の作業手順とともに各工程の標準作業時間を記憶している記憶装置と、
記憶されている作業手順を表示する表示装置と、
作業者による表示切替のための指示入力に応答して次の工程の作業手順に表示を切り替える制御装置と、を備えており、
制御装置は、一の工程の作業手順を表示してからその工程の標準作業時間が経過するまでは前記指示入力があっても次の工程の作業手順に表示を切り替えないことを特徴とする作業支援装置。
【請求項2】
制御装置は、標準作業時間が経過する前に前記指示入力があった場合は、標準作業時間が経過したときに次の工程の作業手順に表示を切り替えることを特徴とする請求項1に記載の作業支援装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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