説明

作業機械の旋回装置

【課題】作業機械の旋回装置に関し、その設置スペースを節減することができるとともに、その製作性,操作性や乗り心地等の機能、及び、その周辺に配置される機器や配管のレイアウトの自由度を高めることができるようにする。
【解決手段】下部走行体(2)と下部走行体(2)に対して旋回軸(O)を中心として旋回自在な上部旋回体(3)とを備えた作業機械において、その軸(Om)を旋回軸(O)に一致させるとともにその軸(Om)周りが中空に形成されたラジアルピストンモータ型の旋回モータ(40)と、旋回モータ(40)の中空の部分に配設されたスイベルジョイント(30)とを備え、旋回モータ(40)のうちの固定部が下部旋回体(2)に固定されるとともに、旋回モータ(40)のうちの旋回部が上部旋回体(3)に固定され、旋回部が旋回するのに伴い上部旋回体(3)が旋回するように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧ショベル等の作業機械の旋回装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
油圧ショベル100は、図5に示すように、下部走行体101と上部旋回体102と作業装置(図示略)とを備えて構成されており、上部旋回体102は、旋回装置110によって下部走行体101に旋回自在に結合されている。
旋回装置110は、油圧モータ(旋回モータ)121,減速機122及びピニオンギア123を有するスイングドライブ(駆動装置)120とスイングベアリング130とスイベルジョイント140とを備えて構成されている。そして、エンジンによって駆動される油圧ポンプからの圧油によって旋回モータ121が作動し、旋回モータ121のシャフトの回転が減速機122に入力され、減速機122によってその回転が減速され、減速機122の出力シャフトに取り付けられたピニオンギア123がスイングベアリング130の内歯131と噛み合い回転して、上部旋回体102を旋回するようになっている。また、スイベルジョイント140は360度回転する継手であって、上部旋回体102が旋回したとき、上部旋回体102のスイングフレーム102a上に搭載されたコントロールバルブ150から下部走行体101用の油圧モータ(走行モータ)101aへと繋がる油圧ホース161の捩れを防ぎ、走行モータ101aへ圧油を通すようになっている。
【0003】
ところで、旋回モータ121には、特許文献1に開示されているように、斜板式のアキシャルピストンモータが用いられるのが一般的である。アキシャルピストンモータは高速回転低トルクのモータであるため、上部旋回体102を旋回させるのに十分なトルクを得るため減速機122を必要とし、減速機122によって回転数を下げトルクを上げるようになっている。
【特許文献1】特開2007−100317号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のように、従来はアキシャルピストンモータ型の旋回モータ121単体ではトルクが不十分なため減速機122を組み合わせるが、ゆえにスイングドライブ120全体が大型化してしまっている。近年では油圧ショベル100は様々な機能が求められ、多くの機器を搭載することになるが、一方、その機器の設置スペースには限りがあるため、スイングドライブ120を含む旋回装置110もできる限り小型であることが望ましい。
【0005】
また、通常、減速機122の上に旋回モータ121が取り付けられているため、旋回モータ121の高さは高くなり、また、旋回モータ121へ繋がる油圧ホース162を高くルーティングすることになる。すると、作業装置の姿勢によって、コントロールバルブ150と作業装置用の油圧シリンダとを結ぶ油圧ホース(図示略;以下、作業装置用の油圧ホースという)のたわみが変化し、特に作業装置のうちのブームを上げたときには作業装置用の油圧ホースが大きくたわみ、旋回モータ121や旋回モータ121へ繋がる油圧ホース162に干渉するおそれが大きくなるので、それを避けるために、作業装置用の油圧ホースを左右に分けて配管する等、レイアウトに工夫が必要であった。
【0006】
また、旋回モータ121の駆動力を減速機122に続いて、ピニオンギア123から内歯131へと伝えているので、減速機122のギア間やピニオンギア123及び内歯131間にバックラッシ(ガタ)が存在し、旋回起動時の微妙な遅れや旋回ハンチングの一因ともなっていた。
さらに、スイングベアリング130は大型の機器のため、内歯131の歯切り加工が大変であった。
【0007】
本発明はこのような課題に鑑みて案出されたもので、その設置スペースを節減することができるとともに、その製作性・機能、及び、その周辺に配置される機器や配管のレイアウトの自由度を高めることができるようにした、作業機械の旋回装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1記載の本発明の作業機械の旋回装置は、下部走行体と該下部走行体に対して旋回軸を中心として旋回自在な上部旋回体とを備えた作業機械において、その軸を該旋回軸に一致させるとともにその軸周りが中空に形成されたラジアルピストンモータ型の旋回モータと、該旋回モータの中空の部分に配設されたスイベルジョイントとを備え、該旋回モータのうちの固定部が該下部旋回体に固定されるとともに、該旋回モータのうちの旋回部が該上部旋回体に固定され、該旋回部が旋回するのに伴い該上部旋回体が旋回することを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
請求項1記載の本発明の作業機械の旋回装置によれば、旋回モータとしてラジアルピストンモータが採用され、旋回モータのモータ軸が旋回軸に一致するように構成されているので、上部旋回体を旋回モータで直接旋回駆動することができ、従来のように減速機やピニオンギアが不要になり、コンパクトに形成してその設置スペースを節減することができる。また、従来のようにスイングベアリングの内歯並びにピニオンギア及び内歯用のグリスバスも不要になり、加工が簡素になって、製作性を高めることができる。
【0010】
また、旋回モータとしてラジアルピストンモータが採用されているためにシャフトの軸周りを中空に形成可能なことを利用して、シャフトの中空部分にスイベルジョイントが設置されているので、旋回モータの高さを抑えるとともに、旋回モータとスイベルジョイントとを一箇所にまとめて設置することができる。ゆえに、旋回モータとスイベルジョイントとの設置スペースを節減できて、上部旋回体のスイングフレーム上の限られた空きスペースを広く確保し、種々の機器を搭載する際の機器のレイアウトの自由度を高めることができる。また、例えばブームが動く際の旋回モータと配管との干渉を防止できて、配管のレイアウトの自由度も高めることができる。
【0011】
さらに、従来のように減速機のギア間やピニオンギア及び内歯間に生じていたようなバックラッシがなく、上部旋回体を滑らかに旋回させることができる。つまり、操作性や乗り心地等の機能を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面により、本発明の実施の形態について説明する。
[一実施形態]
本発明の一実施形態について説明する。図1〜図4は本発明の一実施形態に係る作業機械の旋回装置を示す図であって、図1は一部を透視及び切断して示すその作業機械の正面図、図2は図1の矢印A方向から見たその旋回装置の模式図、図3は図2の旋回装置のうちの特に旋回モータを切断して示す模式図、図4はその作業機械の全体を示す斜視図である。
【0013】
<構成>
図4に示すように、油圧ショベル1は、下部走行体2と上部旋回体3と作業装置4とを備えて構成されている。
下部走行体2は、図1に示すように、ベースフレーム2aと、ベースフレーム2aの両側に位置し、機体前後方向に延在する左右一対のサイドフレーム2bと、ベースフレーム2a上に固着された連結フレーム2cと、各サイドフレーム2bに取り付けられた左右一対の油圧モータ(走行モータ)2dと、各サイドフレーム2b周りに装着され、各走行モータ2dによって駆動される左右一対のクローラ2eとを有している。
【0014】
上部旋回体3は、図4に示すように、スイングフレーム3aと、スイングフレーム3aの前部左側に載置されたオペレータ室としてのキャブ5と、スイングフレーム3aの後端部に載置されたカウンタウエイト6と、カウンタウエイト6の前方に形成されたエンジンルーム7と、スイングフレーム3aの前部右側に載置されたコントロールバルブ8及び作動油タンク9(図1参照)とを有している。
【0015】
なお、特に図示しないが、エンジンルーム7は、ファイアウォールによってその前方に位置する後述のスイングドライブ室Sと区画されており、また、エンジンルーム7には、エンジン,エンジンによって駆動され圧油を吐出する油圧ポンプ,エンジン冷却水を冷却するラジエータや圧油を冷却するオイルクーラ等の熱交換器が収容されている。
ここで、スイングフレーム3aは、図1に示すように、メインフレーム3aaと、メインフレーム3aaの中央部に立設された左右一対のセンタープレート3abとを有している。一対のセンタープレート3abは相互に平行に機体前後方向に延在しており、その前部には、図4に示すように、作業装置4のブーム4aが取り付けられている。なお、センタープレート3ab間の幅は、キャブ5やコントロールバルブ8や作動油タンク9等のレイアウト、ブーム4aのフートの幅、及び、スイングフレーム3aの強度等を考慮して設定されている。
【0016】
そして、上部旋回体3は、旋回装置10によって下部走行体2に結合され、旋回軸Oを中心として旋回するようになっている。
旋回装置10は、図2及び図3に示すように、スイングベアリング20と、スイベルジョイント30と、油圧モータ(旋回モータ)40とを備えて構成されている。
スイングベアリング20は、上部旋回体3及び作業装置4の質量を支え、上部旋回体3を下部走行体2に対して滑らかに旋回させるものであって、上部旋回体3のメインフレーム3aaにボルト締結されるアウターレース21と、下部走行体2の連結フレーム2cにボルト締結されるインナーレース22と、アウターレース21及びインナーレース22間に介装される複数のボール23とを有している。
【0017】
スイベルジョイント30は、360度回転する継手であって、下部走行体2に固定されるボディと、上部旋回体3に固定されるスピンドルとを有している。そして、上部旋回体3の旋回に伴って油圧ホース51が捩れるのを防ぎ、走行モータ2dへ圧油を通すようになっている。油圧ホース51は、コントロールバルブ8と走行モータ2dとを接続する油圧配管である。なお、下部走行体2にブレードが装備されているときには、ブレードを駆動する油圧シリンダとコントロールバルブ8とを接続する油圧ホース52(図中に二点鎖線で示す)も、スイベルジョイント30によってその捩れを防止されるようになっている。
【0018】
スイベルジョイント30とそれに繋がる油圧ホース51(52)とは、スイングドライブ室Sに配設されている。スイングドライブ室Sは、左右一対のセンタープレート3abと後方のエンジンルーム7を区画するファイアウォールとに囲まれて形成されたスペースである。
旋回モータ40は、マルチストローク式のラジアルピストンモータで構成され、旋回軸Oとそのモータ軸Omとが一致するように取り付けられ、上部旋回体3を直接旋回駆動するようになっている(つまり、従来のように、減速機やスイングベアリングを介することなく、上部旋回体3を旋回駆動するようになっている)。なお、ラジアルピストンモータは、減速機がなくても高トルクを生み出すことができるものである。
【0019】
詳しくは、旋回モータ40は、フランジ41aを介して上部旋回体3のメインフレーム3aaにボルト締結されたハウジング41と、ハウジング41内に収容され、ラジアル方向に複数のシリンダ42aが形成されたシリンダブロック42と、下部走行体2の連結フレーム2cにボルト締結されるとともに、シリンダブロック42の内周面に結合されたシャフト43と、シリンダ42aに内挿されてラジアル方向に往復するピストン44と、シリンダブロック42の外周に位置し、ハウジング41に固定されたカムリング45と、ピストン44の先端に配設され、カムリング45の内側に形成されたカム面45aに沿って転動するカムローラ46とを有している。
【0020】
そして、ピストン44が油圧ホース53を通って給排される圧油の作用を受けて往復運動し、ピストン44の先端に配設されたカムローラ46がカムリング45のカム面45a上を転動することによって、カムリング45ひいてはハウジング41に回転運動が生じ、この回転運動によって上部旋回体3を旋回駆動することができるようになっている。
ここで、本発明の大きな特徴として、シャフト43が中空に形成されており、そして、このシャフト43の中空部分を貫通するようにスイベルジョイント30が設置されていることが挙げられる。
【0021】
<作用・効果>
本発明の一実施形態にかかる作業機械の旋回装置は上述のように構成されているので、以下のような作用・効果がある。
旋回モータ40としてマルチストローク型のラジアルピストンモータが採用され、旋回モータ40のモータ軸Omが旋回軸Oに一致するように配設されているので、上部旋回体3を旋回モータ40で直接旋回駆動することができ、従来のように減速機やピニオンギアが不要になり、コンパクトに形成してその設置スペースを節減することができる。また、従来のようにスイングベアリングの内歯並びにピニオンギア及び内歯用のグリスバスも不要になり、加工が簡素になって、製作性を高めることができる。
【0022】
また、旋回モータ40としてマルチストローク式のラジアルピストンモータを採用することでシャフト43の軸Om周りを中空に形成可能なことを利用して、シャフト43の中空部分にスイベルジョイント30が設置されているので、旋回モータ40の高さを抑えるとともに、旋回モータ40とスイベルジョイント30を一箇所にまとめて設置することができ、スイングドライブ室Sをすっきりとさせることができる。そして、近年の油圧ショベル1の高機能化に対応して、スイングドライブ室Sに種々の追加機器を搭載することができるとともに、スイベルジョイント30に繋がる油圧ホース51(52)やその周辺に配置される機器のレイアウトの自由度を高めることができる。
【0023】
つまり、スイングドライブ室Sは、センタープレート3ab間の幅が強度等を考慮して設定されることにより、その大きさが必然的に決められてしまうものであるが、そのスイングドライブ室Sをすっきりとさせることができるので、そこに種々の追加機器を自由に搭載することができるとともに、従来のように作業装置4用の油圧ホース(図示略)が旋回モータ40や油圧ホース51〜53に干渉するおそれがなく、レイアウトの自由度を高めることができる。
【0024】
また、従来のように減速機のギア間やピニオンギア及び内歯間に生じていたようなバックラッシがなく、上部旋回体3を滑らかに旋回させることができる。つまり、操作性や乗り心地といった機能を高めることができる。
【0025】
[その他]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更することが可能である。
【0026】
例えば、上記実施形態では、旋回モータ40のシャフト43の中空部分にスイベルジョイント30が設置されているが、スイベルジョイント30をスイングフレーム3aの下方に設置するようにしても良い。つまり、シャフト43の中空部分に油圧ホース51〜53を通し、図1に示すものよりも高さを抑えたスイベルジョイント30を連結フレーム2bに設置するようにしても良い。このような構成によっても、上記実施形態と同様に効果を得ることができる。
【0027】
また、上記実施形態では、旋回モータ40は、ハウジング41及びカムリング45が上部旋回体3と一体に旋回するようにハウジング41が上部旋回体3にボルト締結され、それら41,45が旋回部となり、一方、シリンダブロック42及びシャフト43が動かないようにシャフト43が下部走行体2にボルト締結され、それら42,43が固定部となっているが、旋回モータ40の旋回部・固定部の関係はこれに限定されるものではない。つまり、例えば、シリンダブロック42及びシャフト43が上部旋回体3と一体に旋回し、一方、ハウジング41及びカムリング45が下部走行体2とともに動かないように構成されていても良い。
【0028】
また、上記実施形態では油圧ショベル1について説明したが、油圧ショベル1以外の作業機械に適用されてももちろん良い。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の一実施形態に係る作業機械の旋回装置を示す図であって、一部を透視及び切断して示すその作業機械の正面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る作業機械の旋回装置を示す図であって、図1の矢印A方向から見たその旋回装置の模式図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る作業機械の旋回装置を示す図であって、図2の旋回装置のうちの特に旋回モータを切断して示す模式図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る作業機械の旋回装置を適用した作業機械の全体を示す斜視図である。
【図5】本発明の従来技術に係る作業機械の旋回装置を示す図であって、一部を透視及び切断して示すその作業機械の正面図である。
【符号の説明】
【0030】
1 油圧ショベル(作業機械)
2 下部走行体
2a ベースフレーム
2b サイドフレーム
2c 連結フレーム
2d 走行モータ
2e クローラ
3 上部旋回体
3a スイングフレーム
3aa メインフレーム
3ab センタープレート
4 作業装置
4a ブーム
5 キャブ
6 カウンタウエイト
7 エンジンルーム
8 コントロールバルブ
9 作動油タンク
10 旋回装置
20 スイングベアリング
21 アウターレース
22 インナーレース
23 ボール
30 スイベルジョイント
40 旋回モータ
41 ハウジング
41a フランジ
42 シリンダブロック
42a シリンダ
43 シャフト
44 ピストン
45 カムリング
45a カム面
46 カムローラ
51〜53 油圧ホース
O 旋回軸
Om 旋回モータのモータ軸
スイングドライブ室
100 油圧ショベル
101 下部走行体
101a 走行モータ
102 上部旋回体
102a スイングフレーム
110 旋回装置
120 スイングドライブ(駆動装置)
121 旋回モータ
122 減速機
123 ピニオンギア
130 スイングベアリング
131 内歯
140 スイベルジョイント
161 油圧ホース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部走行体と該下部走行体に対して旋回軸を中心として旋回自在な上部旋回体とを備えた作業機械において、
その軸を該旋回軸に一致させるとともにその軸周りが中空に形成された、ラジアルピストンモータ型の旋回モータと、
該旋回モータの中空の部分に配設されたスイベルジョイントとを備え、
該旋回モータのうちの固定部が該下部旋回体に固定されるとともに、該旋回モータのうちの旋回部が該上部旋回体に固定され、該旋回部が旋回するのに伴い該上部旋回体が旋回する
ことを特徴とする、作業機械の旋回装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−53530(P2010−53530A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−216785(P2008−216785)
【出願日】平成20年8月26日(2008.8.26)
【出願人】(000190297)キャタピラージャパン株式会社 (1,189)
【Fターム(参考)】