説明

作業用ゴンドラの落下防止機構

【課題】移動式クレーンのワイヤロープを利用して作業用ゴンドラを操作する場合であっても、ワイヤロープが作業用ゴンドラの落下防止用安全ロープと絡まり合うことを適切に防止することが可能な作業用ゴンドラの落下防止機構を提供する。
【解決手段】移動式クレーン1に搭載した主ウィンチで繰り出され巻き取られるワイヤロープ6によって昇降可能に吊り下げられる作業用ゴンドラ2の落下防止機構であって、移動式クレーンに、主ウィンチよりも前方に位置させて搭載された副ウィンチ8と、移動式クレーンのブーム4に設けた滑車10を経由して作業用ゴンドラに連結され、副ウィンチにより、作業用ゴンドラの昇降と対応させて、繰り出し巻き取り可能な安全ロープ9と、安全ロープの繰り出し速度を検出し、繰り出し速度が設定速度以上であるときに、安全ロープの繰り出しを停止させる停止信号を副ウィンチに出力する繰り出し速度検出装置11とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行自在な移動式クレーンのワイヤロープを利用して作業用ゴンドラを吊り下げて操作する場合であっても、ワイヤロープが作業用ゴンドラの落下防止用安全ロープと絡まり合うことを適切に防止することが可能な作業用ゴンドラの落下防止機構に関する。
【背景技術】
【0002】
ロープで吊り下げて昇降操作される作業用ゴンドラの落下を防止するために、作業用ゴンドラを吊り下げるロープの他に、落下防止用のロープを備えるようにした作業用ゴンドラの落下防止機構として、特許文献1が知られている。
【0003】
特許文献1の「作業用ゴンドラ」は、ビル等の建物の屋上の両端部位等の躯体に所定間隔離間され先端部が該建物の外方へ突出するように固定された一対のゴンドラ支持アームと、この一対のゴンドラ支持アームの先端部寄りの部位からそれぞれ吊下げられた一対のロープと、この一対のロープによって吊下げられる、人が乗って窓ガラス等の清掃作業等を行なうことができる前記一対のゴンドラ支持アーム間の寸法よりも小さな幅寸法の作業用ゴンドラ本体と、前記一対のロープをそれぞれ伸縮させる前記作業用ゴンドラ本体あるいは前記建物の屋上に固設された一対のロープ伸縮装置と、前記一対のゴンドラ支持アームの近傍部位の躯体あるいは前記作業用ゴンドラ本体に固設された先端部が作業用ゴンドラあるいは一対のゴンドラ支持アームや近傍部位の躯体に取付けられた命綱をそれぞれ巻き取る一対の命綱巻き取り装置と、この一対の命綱巻き取り装置の命綱巻き取り軸が急激な回転をすると遠心力の作用によって該命綱巻き取り軸の回転をそれぞれ停止させる一対のロック装置とから構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実用新案登録第2517228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
作業用ゴンドラの昇降等を操作するロープの他に、背景技術のように別途、命綱など落下防止用のロープを用いる場合、これらロープが互いに絡まり合うおそれがあり、特に、現場で走行移動する移動式クレーンのワイヤロープで作業用ゴンドラを吊り下げて操作する場合には、当該クレーンのワイヤロープが落下防止用のロープと絡まり合うおそれがきわめて高く、その改善が望まれていた。
【0006】
本発明は上記従来の課題に鑑みて創案されたものであって、走行自在な移動式クレーンのワイヤロープを利用して作業用ゴンドラを吊り下げて操作する場合であっても、ワイヤロープが作業用ゴンドラの落下防止用安全ロープと絡まり合うことを適切に防止することが可能な作業用ゴンドラの落下防止機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明にかかる作業用ゴンドラの落下防止機構は、走行自在な移動式クレーンに搭載した主ウィンチで繰り出され巻き取られるワイヤロープによって昇降可能に吊り下げられる作業用ゴンドラの落下防止機構であって、上記移動式クレーンに、上記主ウィンチよりも前方に位置させて搭載された副ウィンチと、上記移動式クレーンのブームに設けた滑車を経由して上記作業用ゴンドラに連結され、上記副ウィンチにより、該作業用ゴンドラの昇降と対応させて、繰り出し巻き取り可能な安全ロープと、該安全ロープの繰り出し速度を検出し、繰り出し速度が設定速度以上であるときに、該安全ロープの繰り出しを停止させる停止信号を上記副ウィンチに出力する繰り出し速度検出装置とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明にかかる作業用ゴンドラの落下防止機構にあっては、走行自在な移動式クレーンのワイヤロープを利用して作業用ゴンドラを吊り下げて操作する場合であっても、ワイヤロープが作業用ゴンドラの安全ロープと絡まり合うことを適切に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に係る作業用ゴンドラの落下防止機構の好適な一実施形態を示す側面図である。
【図2】図1の要部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明に係る作業用ゴンドラの落下防止機構の好適な一実施形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。図1および図2には、移動式クレーン1で作業用ゴンドラ2を昇降可能に吊り下げて、煙突3の補修等を行う場合が示されている。
【0011】
移動式クレーン1としては種々のものが周知であって、例えば、搭載されているエンジンで走行自在に自走する。移動式クレーン1には周知のように、ワイヤ駆動方式やシリンダ駆動方式など、種々の方式で旋回・起倒操作される揚重用のブーム4が搭載されている。図示例にあっては、移動式クレーン1として、ラチスブームを装備したクローラクレーンが用いられている。
【0012】
移動式クレーン1には、揚重設備として、モータ等で回転駆動される主ウィンチ5と、主ウィンチ5の正逆回転操作によって繰り出され巻き取られるワイヤロープ6が装備されている(図2参照)。主ウィンチ5に基端側が巻き取られたワイヤロープ6は、ブーム4の各所に配設されたシーブを介して、ブーム4の先端部へ張り渡され、ワイヤロープ6の先端には、揚重物を係止するためのフックなどの係止具7が取り付けられる。
【0013】
移動式クレーン1では通常、前方へ迫り出すブーム4は揚重作業を行い易いように前方側に搭載され、主ウィンチ5の搭載位置は、揚重時などに移動式クレーン1が転倒しないように、後方側に設定される。
【0014】
作業用ゴンドラ2により高所で各種作業を行う場合、当該作業用ゴンドラ2は、ワイヤロープ6先端の係止具7に係止され、ブーム4の旋回操作や主ウィンチ5によるワイヤロープ6の繰り出し巻き取りによる昇降操作で、適宜位置に吊り下げられる。
【0015】
本実施形態にあっては、移動式クレーン1には、主ウィンチ5よりも前方に位置させて、副ウィンチ8が搭載される。図示例にあっては、副ウィンチ8は、移動式クレーン1へのブーム4の取付位置よりも、前方に搭載されている。しかしながら、副ウィンチ8は、旋回・起倒操作されるブーム4と干渉しない位置であれば、ブーム4の取付位置よりも後方に搭載してもよい。
【0016】
副ウィンチ8は、それに備えられるモータ等により、主ウィンチ5とは別途独立して、正逆回転駆動可能となっている。
【0017】
副ウィンチ8には、ワイヤロープ6と別途独立して、安全ロープ9が掛け回される。副ウィンチ8に基端側が巻き取られた安全ロープ9は、ブーム4の先端部に設けた滑車10を経由して、その先端が作業用ゴンドラ2に連結され、作業用ゴンドラ2を副ウィンチ8に緩やかに係留するようになっている。
【0018】
詳細には、作業用ゴンドラ2は、ワイヤロープ6によって吊り下げられ、この吊り下げられている作業用ゴンドラ2に、安全ロープ9が結ばれる。従って、安全ロープ9には、多少の弛みをもたせてもよい。図示例にあっては、安全ロープ9の先端は、係止具7に連結され、当該係止具7を介して間接的に作業用ゴンドラ2と連結されている。しかしながら、安全ロープ9は、係止具7を介することなく、直接作業用ゴンドラ2に連結するようにしてもよい。
【0019】
安全ロープ9は、主ウィンチ5によるワイヤロープ6の操作とは別に、作業用ゴンドラ2の昇降と対応させて、副ウィンチ8により繰り出し巻き取り操作される。具体的には、例えば作業用ゴンドラ2を主ウィンチ5で上昇操作する際には、当該上昇操作の後で副ウィンチ8により安全ロープ9を巻き取るようにする。また、作業用ゴンドラ2を主ウィンチ5で下降操作する際には、下降操作の前に予め、副ウィンチ8により安全ロープ9を余裕をもって繰り出しておくようにする。このようにして安全ロープ9は、作業用ゴンドラ2の昇降と対応させて、副ウィンチ8により繰り出し巻き取り操作される。
【0020】
移動式クレーン1において、ワイヤロープ6を扱う主ウィンチ5が後方に搭載され、安全ロープ9を扱う副ウィンチ8が前方に搭載されていて、移動式クレーン1が走行移動や旋回動作をしても、安全ロープ9は常に、ワイヤロープ6の前方に位置付けられる。
【0021】
移動式クレーン1には、安全ロープ9の繰り出し速度を検出する繰り出し速度検出装置11が設けられる。繰り出し速度検出装置11は、例えばロータリエンコーダを備えて構成され、副ウィンチ8の回転軸や安全ロープ9に摩擦接触して回転する回転板等の回転変位から安全ロープ9の繰り出し速度を検出するようになっている。繰り出し速度検出装置11は、副ウィンチ8に接続される。
【0022】
繰り出し速度検出装置11は、繰り出される安全ロープ9の繰り出し速度が予め設定した設定速度以上であるときに、安全ロープ9の繰り出しを停止させる停止信号sを副ウィンチ8に出力し、副ウィンチ8は、停止信号sに従って安全ロープ9の繰り出しを停止するようになっている。
【0023】
次に、本実施形態に係る作業用ゴンドラの落下防止機構の作用について説明する。作業用ゴンドラ2による作業時には、作業用ゴンドラ2を係止具7に係止し、ブーム4を所定位置まで起立させながら、移動式クレーン1後方の主ウィンチ5からはワイヤロープ6を繰り出し、移動クレーン1前方の副ウィンチ8からは安全ロープ9を繰り出す。ブーム4を静止させた後、主ウィンチ5によりワイヤロープ6の繰り出し巻き取りを行って作業用ゴンドラ2を昇降させ、当該ワイヤロープ6により作業用ゴンドラ2を所定位置に吊り下げて静止させる。
【0024】
この際、作業用ゴンドラ2の昇降と対応させて、副ウィンチ8により安全ロープ9の繰り出し巻き取りを行い、安全ロープ9を係止具7と副ウィンチ8の間に緩やかに渡して、当該安全ロープ9により作業用ゴンドラ2を係留する。これにより、作業用ゴンドラ2を利用して、各種の作業を行うことができる。
【0025】
他方、ワイヤロープ6で作業用ゴンドラ2を吊り下げている状態、あるいは昇降操作しているときに、ワイヤロープ6の破断や主ウィンチ5の故障、その他の理由で作業用ゴンドラ2が落下する事態が生じると、作業用ゴンドラ2に連結している安全ロープ9に、当該作業用ゴンドラ2の重量が乗り移る。作業用ゴンドラ2の重量が乗り移ると、安全ロープ9は、副ウィンチ8から急激に繰り出される。
【0026】
安全ロープ9の繰り出し速度を検出する繰り出し速度検出装置11は、安全ロープ9の急激な繰り出し、すなわち繰り出し速度が設定速度以上であることを検出すると、停止信号sを副ウィンチ8に出力する。停止信号sが入力された副ウィンチ8は、安全ロープ9の繰り出しを停止し、これにより作業用ゴンドラ2を安全ロープ9で吊って、その落下を防止する。
【0027】
その後、副ウィンチ8を作動して安全ロープ9を繰り出すことにより、作業用ゴンドラ2はゆっくりと地上へ吊り降ろされる。
【0028】
以上説明したように、本実施形態に係る作業用ゴンドラの落下防止機構にあっては、移動式クレーン1において、作業用ゴンドラ2を昇降可能に吊り下げるワイヤロープ6を操作する主ウィンチ5よりも前方に位置させて、作業用ゴンドラ2に連結されてこれを係留する安全ロープ9を操作する副ウィンチ8を搭載するようにしたので、ワイヤロープ6に対し、安全ロープ9を常にその前方に位置付けることができ、走行自在な移動式クレーン1のワイヤロープ6を利用して作業用ゴンドラ2を吊り下げて操作する場合であっても、ワイヤロープ6が安全ロープ9と絡まり合うことを適切に防止することができ、作業用ゴンドラ2の落下を確実に防ぐことができる。
【0029】
また、安全ロープ9を、主ウィンチ5とは別途独立に、副ウィンチ8単独で操作するようにしたので、作業用ゴンドラ2の上昇時には上昇後に安全ロープ9を巻き取り、下降時には下降操作前に予め安全ロープ9を繰り出すという単純な操作で作業用ゴンドラ2の昇降と対応させることが可能で、主ウィンチ5と副ウィンチ8の駆動を連係させる場合の制御の複雑さを回避できて、落下防止機構の構成を簡単化することができる。また、副ウィンチ8を独立に操作して、安全に作業用ゴンドラ2を吊り降ろすことができる。従ってまた、主ウィンチ5が故障した場合にも、副ウィンチ8で安全ロープ9を操作して、作業用ゴンドラ2を吊り降ろすことができる。
【0030】
また、安全ロープ9の繰り出し速度が設定速度以上であることを検出できる繰り出し速度検出装置11を設けて副ウィンチ8を制御するようにしたので、主ウィンチ5やワイヤロープ6での吊り下げ機能が失われたときに直ちに安全ロープ9で作業用ゴンドラ2を吊ることができ、作業用ゴンドラ2の落下を確実に防止することができる。
【符号の説明】
【0031】
1 移動式クレーン
2 作業用ゴンドラ
4 ブーム
5 主ウィンチ
6 ワイヤロープ
8 副ウィンチ
9 安全ロープ
10 滑車
11 繰り出し速度検出装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行自在な移動式クレーンに搭載した主ウィンチで繰り出され巻き取られるワイヤロープによって昇降可能に吊り下げられる作業用ゴンドラの落下防止機構であって、
上記移動式クレーンに、上記主ウィンチよりも前方に位置させて搭載された副ウィンチと、上記移動式クレーンのブームに設けた滑車を経由して上記作業用ゴンドラに連結され、上記副ウィンチにより、該作業用ゴンドラの昇降と対応させて、繰り出し巻き取り可能な安全ロープと、該安全ロープの繰り出し速度を検出し、繰り出し速度が設定速度以上であるときに、該安全ロープの繰り出しを停止させる停止信号を上記副ウィンチに出力する繰り出し速度検出装置とを備えたことを特徴とする作業用ゴンドラの落下防止機構。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−190639(P2011−190639A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−59099(P2010−59099)
【出願日】平成22年3月16日(2010.3.16)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【出願人】(000140292)株式会社奥村組 (469)
【Fターム(参考)】