説明

作業用手袋

【課題】耐電圧性や防水性の機能を担保しながらも、さらに耐摩耗性や作業性を向上させた作業用手袋を提供する。
【解決手段】本発明に係る作業用手袋では、弾性材料により形成された手袋基体の外表面に、布地、編み地、メッシュ地から選ばれる所定の面積を有した生地体が貼付されており、この生地体の表面には、同生地体よりも摩擦係数の高いコーティング被膜が形成されていることとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業用手袋に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、作業用手袋には、作業の特性に応じた機能が数多く付与されている。
【0003】
例えば、電気工事作業等に使用する作業用手袋は、耐電圧性が必須の物性であり、その他に指先作業性、防滑性、防水性などの性質を備えている必要がある。
【0004】
このような性質を有する作業用手袋を形成するために、一例として、布又は編み物で形成した原手の表面を、弾性材で複数層状に被覆したものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
ところがこのような手袋は、使用を繰り返すうちに表面の弾性材が摩耗して被覆が薄くなり、クラックやピンホールが生じてしまう場合があった。
【0006】
そこで、原手表面を被覆する複数の弾性材の層のうち、表層よりも下に着色層を形成し、弾性材が摩耗した場合にはこの着色層を露出させて、作業者に摩耗を視認させるようにした作業用手袋が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0007】
この着色層を設けた作業用手袋によれば、クラックやピンホールの発生前に被覆層の摩耗を検出することができ、感電事故等を未然に防ぐことができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平03−161501号公報
【特許文献2】特開2000−328329号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記従来の作業用手袋は、被覆層の摩耗状態を使用者に認識させることを目的としたものであり、耐摩耗性の改善については着目されておらず、根本的な解決とは言い難いものであった。
【0010】
なお、電気工事等の現場では、上記従来の作業用手袋の上に革製の手袋や不織布製の手袋をさらに重ね履きすることで、耐摩耗性の問題の解決を図っている場合もある。
【0011】
しかし、このような方法では、重ね履きした革製の手袋や不織布製の手袋の弾性手袋への追従性が悪いため、作業性が極度に低下し、作業効率が著しく悪化することとなっていた。また、着脱の際の面倒さも増していた。
【0012】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであって、耐電圧性や防水性の機能を担保しながらも、着脱性に優れ、さらに耐摩耗性や作業性を向上させた作業用手袋を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記従来の課題を解決するために、請求項1に係る発明では、作業用手袋において、弾性材料により形成された手袋基体の外表面に、布地、編み地、メッシュ地から選ばれる所定の面積を有した生地体が貼付されており、この生地体の表面には、同生地体よりも摩擦係数の高いコーティング被膜が形成されていることとした。
【0014】
また、請求項2に係る発明では、請求項1に記載の作業用手袋において、前記生地体は、少なくとも前記手袋基体の親指部及び/又は人差し指部に貼付されていることに特徴を有する。
【0015】
また、請求項3に係る発明では、請求項2に記載の作業用手袋において、前記生地体は、指袋状に形成されていることに特徴を有する。
【0016】
また、請求項4に係る発明では、請求項1〜3いずれか1項に記載の作業用手袋において、前記生地体は、少なくとも前記手袋基体の掌部に貼付されていることに特徴を有する。
【0017】
また、請求項5に係る発明では、請求項1〜4いずれか1項に記載の作業用手袋において、前記生地体は手袋状に形成されており、前記手袋基体の外側に装着して貼付していることを特徴とする。
【0018】
また、請求項6に係る発明では、請求項1〜5いずれか1項に記載の作業用手袋において、前記コーティング層は、前記布地の織り目、又は前記編み地の編み目、又は前記メッシュ地の網目による凹凸を残しつつ形成していることに特徴を有する。
【発明の効果】
【0019】
請求項1に係る発明では、弾性材料により形成された手袋基体の外表面に、布地、編み地、メッシュ地から選ばれる所定の面積を有した生地体が貼付されており、この生地体の表面には、同生地体よりも摩擦係数の高いコーティング被膜が形成されているため、生地体を貼付した箇所の耐電圧性や防水性の機能を担保しながらも、着脱性に優れ、さらに耐摩耗性や作業性を向上させた作業用手袋を提供することができる。
【0020】
また、請求項2に係る発明では、生地体は、少なくとも手袋基体の親指部及び/又は人差し指部に貼付されていることとしたため、さらに指先作業性を向上させることができる。
【0021】
また、請求項3に係る発明では、生地体は、指袋状に形成されていることとしたため、指先作業性を高めることができると共に、手袋基体への生地体の貼付をより容易とすることができる。
【0022】
また、請求項4に係る発明では、生地体は、少なくとも手袋基体の掌部に貼付されていることとしたため、掌部の耐摩耗性や作業性を向上させることができる。
【0023】
また、請求項5に係る発明では、生地体は手袋状に形成されており、手袋基体の外側に装着して貼付していることとしたため、作業量の多い指先部や掌部に加え、指の付け根部分など屈伸運動に伴う摩耗をさらに広範囲に亘って防止することができる。
【0024】
また、請求項6に係る発明では、コーティング層は、布地の織り目、又は編み地の編み目、又はメッシュ地の網目による凹凸を残しつつ形成しているため、把持対象物との摩擦力を大きくすることができ、作業性をさらに向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本実施形態に係る作業用手袋の掌側を示した説明図である。
【図2】本実施形態に係る作業用手袋の構成を示した説明図である。
【図3】変形例に係る作業用手袋の構成を示した説明図である。
【図4】変形例に係る作業用手袋の構成を示した説明図である。
【図5】他の実施形態に係る作業用手袋の掌側を示した説明図である。
【図6】他の実施形態に係る作業用手袋の掌側を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明は、弾性材料により形成された手袋基体の外表面に、布地、編み地、メッシュ地から選ばれる所定の面積を有した生地体が貼付されており、この生地体の表面には、同生地体よりも摩擦係数の高いコーティング被膜が形成されていることを特徴とする作業用手袋を提供するものである。
【0027】
本実施形態に係る作業用手袋の用途は、特に限定されるものではない。すなわち、本実施形態に係る作業用手袋は、前述の如く電気工事作業の際に優れた耐摩耗性や作業性を発揮しながら、耐電圧性を保つことのできるものであるが、その他の用途においても優れた作業用手袋として機能する。
【0028】
更なる具体的な用途について言及すると、例えば、水産作業においても優れた機能を発揮することができる。漁業用に用いられる作業用手袋の場合、網やロープ等を扱うため、耐摩耗性を付与するために、摩耗に強いニトリルゴムや塩化ビニルが用いられたり、また、海水や魚介類を扱うため、防水性や突刺強度、耐切創性の高い天然ゴムやニトリルゴムを用いたものがある。
【0029】
ところが、日々繰り返して装着することにより、被覆が摩耗してしまうこととなり、防水性や耐切創性が保たれなくなる場合もある。
【0030】
これを回避すべく作業者は、被覆した手袋の上に、さらに手袋を重ねたり、より被覆の厚い手袋を装着して作業を行っているのが、前述の耐電圧手袋と同様、作業性が著しく損なわれ、海産物の洗浄や漁網の取扱いなどにおける作業性が阻害されてしまう。
【0031】
一方、本実施形態に係る作業用手袋によれば、重ね履きの必要なく着脱性に優れ、しかも良好な耐摩耗性や快適な作業性を有するため、このようなケースにおいても作業を効率よく行うことができる。
【0032】
このように、本実施形態に係る作業用手袋によれば、電気工事用途や水産作業用途は勿論のこと、さまざまな用途に用いることができる。
【0033】
ここで、手袋基体を形成する弾性材料は、一般に作業用手袋に使用されるものであって、形成する作業用手袋の目的に適合する素材であれば特に限定されるものではない。例えば、天然ゴム、EPDM(エチレン−プロピレン−ジエンゴム)等の合成ゴム、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン等を挙げることができる。
【0034】
また、手袋基体は、上述の弾性材料のみで構成されていても良く、また、裏地材を有していても良い。例えば、布手袋又は編み手袋である原手の表面に弾性材料の被膜を形成することにより、裏地材を有する手袋基体とすることができる。このような裏地材を有する手袋基体は、手を挿入した際の風合いを良好としたり、手袋と手との間の摩擦を増して防滑性を高めることができる。また、原手を構成する繊維が汗を吸い取ることとなるため、手袋内に挿入した手の蒸れを防止することができる。
【0035】
また、手袋基体に貼付される生地体は、布地、編み地、メッシュ地等から形成したものとするのが好ましい。特に、これらの生地体は、作業用手袋を着用して対象物を把持した際に、布地の織り目や、編み地の編み目や、メッシュ地の網目(以下、これらを総称して生地体の目部ともいう。)が対象物に接触しない程度の目開きとするのが良い。
【0036】
このような目開きの幅は、生地体に使用する繊維の太さや生地体の厚みにもよるが、その開口面積で言うと概ね100平方mm以下が良く、特に50平方mm以下が好ましい。100平方mmを上回ると、目部に露出した手袋基体(表面のコーティング被膜)が把持対象物と接触しやすくなり、手袋基体の摩耗抑制が困難となる場合がある。さらに開口面積を50平方mm以下となるような目開きの幅とすると、把持物は専ら生地体と接触することとなり、把持物が手袋基体に直接接触するのを防止することができ、作業用手袋の耐摩耗性を飛躍的に向上させることができる。
【0037】
また、生地体の目部は、生地体の表面にコーティング被膜を形成した際に、凹凸が形成される程度の目開きとすると良い。
【0038】
このような目開きの幅や面積についても、コーティング材料を分散又は溶解したコーティング液の粘性や組成によって左右されるため一概に決定するのは困難であるが、目開きが細かすぎるとコーティング液が生地体の表面に厚塗り状に付着してしまい、凹凸が表出しないおそれがある。
【0039】
換言するならば、生地体の目開きは、目部に露出した手袋基体が把持物と直接接触しにくく、また、コーティング被膜が生地体の繊維や目部に沿って凹凸を形成できる幅や面積とするのが良い。
【0040】
また、敢えて実用的な範囲で生地体とコーティング皮膜の関係について規定するならば、コーティング被膜の膜厚は、例えば、生地体の厚み以下とするのが好ましい。コーティング被膜の膜厚が、生地体の厚みを越えると、コーティング膜が生地体の凹凸を完全に覆ってしまい、繊維や目部による凹凸が形成できなくなるため好ましくない。コーティング被膜の膜厚は、生地体の厚みの1/4〜3/4の範囲内とすることで、良好なコーティング被膜を形成することができる。
【0041】
また、生地体を構成する繊維は、一般に作業用手袋に使用されるものであって、形成する作業用手袋の目的に適合する素材であれば特に限定されるものではないが、例えば、難燃性を付与する場合にはアラミド繊維、炭素繊維など、繊維自体に難燃性を有するものが好適に用いられ、また、耐切創性を付与する場合には、アラミド繊維、高強力ポリエチレン繊維、金属系繊維等の高強力繊維を好適に用いることができる。また、耐摩耗性を付与する場合には、アラミド繊維、高強力ポリエチレン繊維、ポリエチレン、ポリエステル、綿、ポリウレタン、レーヨンなどが好適に用いられる。
【0042】
また、生地体として編み地を使用する場合、その編織方法は、一般に手袋の形成の際に用いられる編織方法であれば特に限定されるものではないが、好ましくはメッシュ編み、メリヤス編みを挙げることができる。
【0043】
また、生地体として布地を使用する場合、その布地の織り方は、一般に布地の形成の際に用いられる織り方であれば特に限定されるものではないが、好ましくは平織り、綾織りを挙げることができる。
【0044】
コーティング被膜は、生地体を手袋基体に貼着させるとともに、生地体表面に防滑性を付与する役割を有している。
【0045】
このコーティング被膜を形成するコーティング材料は、生地体よりも摩擦係数の高い材料、さらに詳細には、生地体を構成する繊維(糸)の摩擦係数よりも高い摩擦係数を有する被膜を形成可能なコーティング材料とするのがよい。このようなコーティング材料としては、例えば、天然ゴム系接着剤や、合成ゴム系接着剤を挙げることができる。
【0046】
このようなコーティング材料で、生地体の表面にコーティング被膜を形成することにより、生地体で手袋基体の耐摩耗性を向上させながらも、防滑性の優れた作業用手袋とすることができる。すなわち、耐摩耗性と防滑性とを両立した作業用手袋とすることができる。
【0047】
また、前述の生地体を構成する繊維は、コーティング材料が含浸しやすい素材や構造とするのが好ましい。例えば、繊維の素材や構造を、綿、麻、化学繊維などの短繊維(スパン糸)にすることで、毛羽が出来、その毛羽に、より多くのコーティング材料を取り込みやすくすることができる。また、フィラメント糸の場合では毛羽が発生しないため、コーティング材料を取り込むことが難しいが、多孔性繊維、中空繊維、異型繊維などいくつかの繊維を集合もしくは引き揃えたりすることや、また、繊維の加工法として、撚り加工糸や、仮撚り加工糸、押し込み加工糸などを用いることにより、繊維が複雑化した構造となり、コーティング材料を溜める空間ができやすく、繊維内にコーティング材料を含浸しやすくすることができる。
【0048】
このような素材を使うことによって、この生地体の表面に、コーティング材料が小さな塊状となった塊状防滑体を形成することができるため好ましい。
【0049】
この塊状防滑体は、スパン糸表面の毛羽や繊維内の空間にコーティング液が液滴状に付着して固化することにより形成されたものであり、生地体の表面に弾性を有する小径の粒が多数存在することとなり、作業用手袋の防滑性をさらに向上させることができる。
【0050】
繊維内に含浸したコーティング材料は、繊維を固定することで繊維の耐久性を向上させることができる。
【0051】
しかも、繊維表面に形成したコーティング被膜が摩耗して繊維本体が露出した場合でも、繊維内部にコーティング材料が含浸されているため、防滑性を可及的維持することができる。
【0052】
また、手袋基体に貼着する生地体の面積は、特に限定されるものではない。作業用手袋を用いて行う作業毎に、耐摩耗性や防滑性を付与したい部位が異なるため、耐摩耗性が必要な部位や、滑りによる作業性を改善したい部位を覆える程度の大きさがあれば良い。
【0053】
例えば、手袋基体の指の腹に相当する部位、より限定的に言うならば少なくとも手袋基体の親指部及び/又は人差し指部に生地体を貼着することにより、指先に耐摩耗性と防滑性とを付与することができ、指先作業性を飛躍的に向上することができる。なお、ここで「少なくとも手袋基体の親指部及び/又は人差し指部に生地体を貼着」とは、親指部及び/又は人差し指部以外の部位へ生地体を貼着することを妨げるものではない。
【0054】
また、生地体は指袋状に形成しても良い。このような構成とすることにより、指部全体の耐摩耗性や指先作業性を高めることができると共に、手袋基体への生地体の貼付をより容易とすることができる。
【0055】
また、少なくとも手袋基体の掌部に生地体を貼着しても良い。このような構成とすることにより、掌部の耐摩耗性や作業性を飛躍的に向上させることができる。なお、ここで「少なくとも手袋基体の掌部に生地体を貼着」とは、掌部以外の部位へ生地体を貼着することを妨げるものではない。
【0056】
このように、手袋基体の表面に、生地体を部位別に貼付することにより、貼付した部位に耐摩耗性や作業性を向上させることが可能となるが、生地体を手袋状に形成し、手袋基体の外側に装着して貼付することで、より広範囲において耐摩耗性や作業性を向上させることも可能である。
【0057】
また、生地体表面に形成するコーティング層は、生地体の目部による凹凸を残しつつ形成するのが好ましい。このように形成することにより、形成した作業用手袋の表面に優れた滑り止め効果を付与することができる。
【0058】
特に、コーティング層を形成するためのコーティング材料は、溶液状のコーティング液として生地体と手袋基体との両者に付着させコーティング被膜を形成するのが好ましい。
【0059】
付着の方法としては、塗布や浸漬により行うことができる。塗布によりコーティング液を付着させる場合には、手袋基体の表面に生地体を重ね、その生地体の表面に刷毛塗りやスプレーを行うことで実現することができる。刷毛塗りやスプレーにより付着したコーティング液は、生地体の目部を介して手袋基体にも付着することとなり、手袋基体に生地体を貼着することができる。
【0060】
また、浸漬によりコーティング液を付着させる場合も、製造手型に被せた手袋基体の表面に生地体を配置しコーティング液中に浸漬することで実現することができる。浸漬とともにコーティング液は、生地体の目部を介して手袋基体に付着し、手袋基体に生地体を貼着することができる。
【0061】
また、付着させるコーティング液は、塗布や浸漬などその付着方法に応じて適宜粘度や組成を調整するのが望ましい。具体的には、前述のように、形成されたコーティング被膜が生地体の繊維や目部に沿って凹凸を形成できる程度の粘度や組成とすると良い。
【0062】
また、更に好ましくは、コーティング液は、生地体を構成する繊維中にも含浸可能な粘度や組成とすると良い。
【0063】
このようなコーティング液とすることにより、生地体を構成する繊維そのものの強度を向上させることができ、また、繊維自体の防滑性をも向上させることができる。
【0064】
以下、本実施形態に係る作業用手袋について、図面を参照しながら具体的に説明する。
【0065】
〔実施例1〕
図1は本実施形態に係る作業用手袋Aの掌側を示した説明図である。作業用手袋Aは、弾性材料としての天然ゴムで形成した手袋基体10と、同手袋基体10の表面に貼着した生地体としての編み地11とを備えている。
【0066】
手袋基体10は、図中一部切り欠いて示すように、編織して手袋状とした原手12の表面に、天然ゴム層13を形成することにより構成している。なお、天然ゴム層13は、耐電圧性を有する程度の厚みに形成している。
【0067】
一方、編み地11は、アラミド繊維(スパン糸)を編織して形成しており、手袋基体10の小指部15、薬指部16、中指部17、人差し指部18、親指部19の外表面にそれぞれ貼着している。
【0068】
特に、本実施形態に係る作業用手袋Aでは、小指部15、薬指部16、中指部17の編み地11は、それぞれの指の腹の位置に貼着しており、その面積は、指の腹に相当する面積と同程度に形成している。
【0069】
また、人差し指部18及び親指部19に貼着した編み地11は指袋状に形成し、その面積は、それぞれの指全体をほぼ覆うことのできる面積としている。
【0070】
このように編み地11が貼付された部位の断面を図2(a)に示す。作業用手袋Aの内方から外方へ順に、原手12、天然ゴム層13、編み地11が重畳されており、同編み地11の表面は図中破線で示すように、編み地11の編み目22による凹凸に沿ってコーティング被膜21が形成されている。
【0071】
このコーティング被膜21は、コーティング材料としての天然ゴムラテックス系接着剤を付着させて形成したものであり、手袋基体10に編み地11を貼着する接着剤の役割を有している。これにより、手袋基体10の編み地11が貼着された部位は、天然ゴム層13の表面が網状に覆われて、摩耗や突刺等から保護されることとなる。
【0072】
したがって、作業用手袋Aの編み地11を貼付した部位の耐摩耗性を向上させることが可能となる。
【0073】
また、コーティング被膜21は、編み地11表面を被覆して、編み地11表面に防滑性を付与する。特に、本実施形態に係る作業用手袋Aでは、アラミド繊維の繊維体20よりも摩擦係数が高い天然ゴムラテックス系接着剤でコーティング被膜を形成しており、作業用手袋Aの編み地11を貼付した部位に、さらに防滑性を付与することができる。
【0074】
また、コーティング被膜21の一部は、図2(b)に示すように、編み地11の編み目22にて、薄膜状の目部膜体23を形成している。なお、図2(b)では、目部膜体23を明瞭に図示するために、繊維体20上に形成されたコーティング被膜21は省略して記載している。
【0075】
また、繊維体20上には、アラミド繊維の短繊維にコーティング液が液滴状に付着して形成された塊状弾性体33が形成されている。
【0076】
このような構成を備える作業用手袋Aは、指先で摘んだ物体に対して大きな摩擦力を生起するため、指先の防滑性が向上する。しかも、図2(c)に示すように、白抜きの矢印方向への摩擦力が働いた場合には、繊維体20が起立するとともに、塊状弾性体33もまた物体に対して絡みつき、摩擦力をさらに増大させることができる。
【0077】
また、目部膜体23の一部は、作業用手袋Aの使用に伴い、手袋基体10に付着したまま一部が僅かに剥離してくるが、この剥離部分が把持物に対して摩擦力を生起することとなるため、使用に伴う防滑性の低下を可及的防止することができる。
【0078】
また、繊維体20はコーティング被膜21にて覆われているため、起立した後に摩擦力が無くなれば、コーティング被膜21の弾性力により再び図2(a)に示す元の状態に戻るため、毛羽立ちを可及的に防ぐことができる。
【0079】
なお、本実施形態に係る作業用手袋Aでは、生地体として編み地11を使用したが、編み地11に変えて布地を使用しても良い。手袋基体10の表面に、布地24を貼付した変形例に係る作業用手袋A’の断面構造を図3(a)に示す。
【0080】
図に示すように、内方から外方へ、原手12、天然ゴム層13、布地24が重畳されており、同布地24の表面は図中破線で示すように、布地24の織り目25による凹凸に沿ってコーティング被膜21を形成している。
【0081】
また、布地24の繊維29には、図3(b)に示すように、塊状弾性体33が形成されている。
【0082】
このような構成とすることにより、前述の編み地11と同様、優れた耐摩耗性と作業性とを有する作業用手袋A’とすることができる。
【0083】
また、更なる変形例として、手袋基体10に貼付する生地体を編み地11や布地24に替えて、メッシュ生地26を用いるようにしても良い。手袋基体10の表面に、メッシュ生地26を貼付した更なる変形例に係る作業用手袋A’’の断面構造を図4(a)に示す。
【0084】
図に示すように、内方から外方へ、原手12、天然ゴム層13、メッシュ生地26が重畳されており、表面は図中破線で示すようにメッシュ生地26の網目28による凹凸に沿ってコーティング被膜21を形成している。
【0085】
また、メッシュ生地26の網目28には、図4(b)に示すように、繊維29間に目部膜体23を形成している。
【0086】
このような構成とすることにより、前述の編み地11や布地24と同様、優れた耐摩耗性と作業性とを有する作業用手袋A’’とすることができる。なお、本変形例においてメッシュ地はフィラメント糸を使用しており、毛羽が少ないため塊状弾性体33は形成されていないが、スパン糸や撚り加工糸にて形成したメッシュ地を使用することにより、表面に塊状弾性体33を形成するようにしても良いのは勿論である。
【0087】
〔実施例2〕
次に、実施例2について述べる。前述の実施例1で示した作業用手袋Aは、生地体を各指部に貼着することとしたが、本実施例2における作業用手袋Bでは、生地体を掌部に貼着している点に特徴を有している。なお、以下の説明では、前述の実施例と同様の構成については同じ符号を付して説明を省略する。
【0088】
作業用手袋Bでは、具体的には、四本胴部位置30と、小指丘位置31と、母指丘位置32に編み地11を貼付している。
【0089】
このような構成を有する作業用手袋Bによれば、掌部の耐摩耗性や防滑性を飛躍的に向上させることができる。なお、前述の作業用手袋Aと同様、本作業用手袋Bにおいても、編み地11に替えて、布地24やメッシュ生地26を貼付したり、これらを混在させて貼付しても良いのは言うまでもない。
【0090】
〔実施例3〕
次に、実施例3に係る作業用手袋Cを図6に示す。作業用手袋Cは、生地体を手袋状に形成し、手袋基体10に装着し貼付している点に特徴を有している。
【0091】
このような構成を有する作業用手袋Cによれば、各指部や掌部を含む手全体の防滑性を高めることができる。なお、この場合、手の甲部において防滑性が必要とされない場合には、背抜きされた手袋状の生地体を用いるようにしても良い。また、前述の作業用手袋A,Bと同様、本作業用手袋Cにおいても、編み地11に替えて、布地24やメッシュ生地26を貼付したり、これらを混在させて貼付しても良いのは言うまでもない。
【0092】
次に、本実施形態に係る作業用手袋の製造例について、実施例3にて説明した作業用手袋Cを例に挙げて説明する。
【0093】
〔製造例〕
15ゲージのナイロン手袋を製造手型に被せ、凝固剤(10%硝酸カルシウム・メタノール溶液)に浸漬し、引き上げて60℃2分間乾燥した後、NRラテックス配合液(NRラテックス100phr,硫黄1phr,EZ1phr,酸化亜鉛1phr)に浸漬した。
【0094】
90℃30分間乾燥し、手袋基体を作製した。その上に手袋状に形成した生地体として、10ゲージのアラミド繊維手袋を被せて、コーティング剤(上記配合液100phr,MGラテックス50phr、水50phr:固形分40%,粘度30cps)に浸漬し、引き上げ後90℃で30分乾燥し、110℃30分間乾燥及び架橋を行った。離型後、60℃で4時間水洗し、100℃で1時間乾燥して本実施形態にかかる作業用手袋Cを作製した。この作業用手袋Cのアラミド繊維手袋の厚みは600μm、形成したコーティング被膜の厚みは200μmであった。
【0095】
次に、上記製造例にて製造した作業用手袋Cの性能比較試験を行うべく、対照となる比較手袋の作製を行った。
〔比較手袋P〕
手袋基体にコーティング剤を塗布し、そこにアラミド繊維手袋を装着することにより貼着させて比較手袋Pを作製した。この比較手袋Pは、作業用手袋Cに比して、生地体(アラミド繊維手袋)の表面にコーティング被膜を有しない点で異なっている。
【0096】
〔比較手袋Q〕
生地体を貼着しない手袋基体を比較手袋Qとした。
【0097】
〔摩擦抵抗試験〕
次に、本実施形態に係る作業用手袋Cと、比較手袋P,Qとについて、防滑性試験を行った。なお、本防滑性試験は、ドライ時の摩擦抵抗について試験を行った。
その結果を表1に示す。なお、表1において摩擦係数は、表面性抵抗試験機(球状圧子)を用いて行なった。この摩擦係数は、数値の大きいほど摩擦抵抗が強いことを表し、滑り止め機能が高いことを表している。
【表1】

【0098】
本試験の結果、表1にも示すように、本実施形態に係る作業用手袋Cは、他の比較手袋P,Qに比して、摩擦係数が高く防滑性に優れていることが示された。
【0099】
〔指先作業性試験〕
次に、本実施形態に係る作業用手袋Cと、比較手袋P及びQとの指先作業性について試験を行った。
【0100】
CE指先作業性試験(EN−420)は、たとえば、直径5mmで長さ40mmのステンレス製パイプを30秒間に3回つかめることをレベル5として規定している。本来のCE指先作業性試験(EN−420)では、レベル5が最高レベルとして規定されているが、本試験では、さらにレベル6〜10の自社基準を追加設定して試験を行った。その試験基準値を表2に示し、本試験結果を表3に示す。
【表2】

【表3】

【0101】
本試験の結果、本実施形態に係る作業用手袋Cは、比較手袋P,Qに比して、CEレベルが高く評価されたことから、比較手袋P,Qよりも指先作業性に優れていることが示された。
【0102】
〔耐摩耗性試験〕
次に、本実施形態に係る作業用手袋Cと、比較手袋Qとの耐摩耗性についてCEマーチンデール試験(EN388)を行った。CEマーチンデール試験は、マーチンデール摩耗試験機にて所定の加重をかけながら生地に対して摩擦を繰り返し、破損までの摩擦回数により評価を行う試験方法である。その結果を表4に示す。
【表4】

表4に示すように、本実施形態に係る作業用手袋Cは、他の比較手袋P,Qに比して破損までの摩擦回数が多く、耐摩耗性に優れていることが示された。
【0103】
また、本試験において特に着目すべきは、作業用手袋Cは、生地体の表面にコーティング被膜を有しない比較手袋Pに比して、飛躍的に耐摩耗性が向上している点である。
【0104】
これは、生地体の表面のコーティング被膜の有無による違いのみならず、生地体を形成する繊維中に含浸したコーティング液(コーティング剤)が、繊維の強化に大きな役割を果たしたものと考えられた。
【0105】
すなわち、生地体の表面にコーティング被膜を形成するとともに、繊維中コーティング液を含浸させることにより、作業用手袋Cの耐摩耗性を飛躍的に向上可能であることが示唆された。
【0106】
〔耐切創性試験〕
次に、本実施形態に係る作業用手袋Cと、比較手袋P及びQとの耐切創性についてISO耐切創性試験を行った。ISO耐切創性試験は、切断時に要した力(N:ニュートン)を測定する試験であり、値が高いほど切断抵抗が高く、耐切創性も高いと評価される。この試験結果を表5に示す。
【表5】

表5に示すように、本実施形態に係る作業用手袋Cは、他の比較手袋P,Qに比して切断抵抗が高く、耐切創性に優れていることが示された。
【0107】
このように、作業用手袋Cがアラミド手袋を被せただけの手袋(比較手袋P)やゴム手袋(比較手袋Q)よりも耐切創性に優れていた理由としては、生地体表面に形成したコーティング被膜の弾性力と、繊維中に含浸させたコーティング剤による弾性力や剪断力向上による相乗効果であると考えられた。
【0108】
上述してきたように、本実施形態に係る作業用手袋によれば、弾性材料により形成された手袋基体の外表面に、布地、編み地、メッシュ地から選ばれる所定の面積を有した生地体が貼付されており、この生地体の表面には、同生地体よりも摩擦係数の高いコーティング被膜が形成され、また、その生地体に含浸することとしたため、耐電圧性や防水性の機能を担保しながらも、さらに耐摩耗性や作業性を向上させた作業用手袋を提供することができる。
【0109】
最後に、上述した各実施の形態の説明は本発明の一例であり、本発明は上述の実施の形態に限定されることはない。このため、上述した各実施の形態以外であっても、本発明に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計等に応じて種々の変更が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0110】
10 手袋基体
11 編み地
20 繊維体
21 コーティング被膜
22 編み目
23 目部膜体
24 布地
25 織り目
26 メッシュ生地
27 繊維
28 網目
29 繊維
30 胴部位置
31 小指丘位置
32 母指丘位置
33 塊状弾性体
A 作業用手袋
B 作業用手袋
C 作業用手袋

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性材料により形成された手袋基体の外表面に、布地、編み地、メッシュ地から選ばれる所定の面積を有した生地体が貼付されており、この生地体の表面には、同生地体よりも摩擦係数の高いコーティング被膜が形成されていることを特徴とする作業用手袋。
【請求項2】
前記生地体は、少なくとも前記手袋基体の親指部及び/又は人差し指部に貼付されていることを特徴とする請求項1に記載の作業用手袋。
【請求項3】
前記生地体は、指袋状に形成されていることを特徴とする請求項2に記載の作業用手袋。
【請求項4】
前記生地体は、少なくとも前記手袋基体の掌部に貼付されていることを特徴とする請求項1〜3いずれか1項に記載の作業用手袋。
【請求項5】
前記生地体は手袋状に形成されており、前記手袋基体の外側に装着して貼付していることを特徴とする請求項1〜4いずれか1項に記載の作業用手袋。
【請求項6】
前記コーティング層は、前記布地の織り目、又は前記編み地の編み目、又は前記メッシュ地の網目による凹凸を残しつつ形成していることを特徴とする請求項1〜5いずれか1項に記載の作業用手袋。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−1833(P2012−1833A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−135942(P2010−135942)
【出願日】平成22年6月15日(2010.6.15)
【出願人】(591009369)株式会社東和コーポレーション (14)
【Fターム(参考)】