説明

作業車両

【課題】乗降用ドアを、操縦部を覆うキャビンに前後にスライド可能に取付支持し、該乗降用ドアの前後スライドによって、キャビンに形成された乗降用開口部が開閉される作業車両において、背の高いオペレータでも、乗降を楽に行うことができる作業車両を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、乗降用ドア17を、操縦部7を覆うキャビン8に前後にスライド可能に取付支持し、該乗降用ドア17の前後スライドによって、キャビン8に形成された乗降用開口部8aが開閉される作業車両において、キャビン8の天井部16における少なくとも乗降用開口部8a寄り部分を構成する可動ルーフ16bが、乗降用ドア17と一体で前後スライドするように、該可動ルーフ16bを乗降用ドア17の上端部に一体的に取付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、操縦部を覆うキャビンを備えた作業車両に関する。
【背景技術】
【0002】
操縦部を覆うキャビンに形成された乗降用開口部の開閉を行う乗降用ドアを設け、該乗降用ドアを、その後端部を支点に、外側側方に水平回動させることにより、乗降用開口部を開放させる特許文献1に示す作業車両が従来公知である。この作業車両では、乗降用開口部を開放させるために、キャビン側方に広いスペースが必要になり、車庫等の狭いスペースでは、乗降用ドアの開閉ができない場合がある。
【0003】
これに対して、乗降用ドアを、操縦部を覆うキャビンに前後にスライド可能に取付支持し、該乗降用ドアの前後スライドによって、キャビンに形成された乗降用開口部が開閉される特許文献2に示す作業車両も公知になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4326421号公報
【特許文献2】特許第3895242号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記文献の作業車両は、乗降用開口部を開放させ、背の高いオペレータが操縦部に乗込む際に、キャビンの天井部に頭部が接触しないように、腰や足を屈めて低い姿勢をとる必要があり、操縦部への乗降を楽に行うことができない場合がある。
本発明は、乗降用ドアを、操縦部を覆うキャビンに前後にスライド可能に取付支持し、該乗降用ドアの前後スライドによって、キャビンに形成された乗降用開口部が開閉される作業車両において、背の高いオペレータでも、乗降を楽に行うことができる作業車両を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、第1に、乗降用ドア17を、操縦部7を覆うキャビン8に前後にスライド可能に取付支持し、該乗降用ドア17の前後スライドによって、キャビン8に形成された乗降用開口部8aが開閉される作業車両において、キャビン8の天井部16における少なくとも乗降用開口部8a寄り部分を構成する可動ルーフ16bが、乗降用ドア17と一体で前後スライドするように、該可動ルーフ16bを乗降用ドア17の上端部に一体的に取付けたことを特徴としている。
【0007】
第2に、前記乗降用ドア17に前後方向のスライドレール47を取付け、該スライドレール47を、キャビン8の側壁側に前後摺動自在に連結することにより、該乗降用ドア17をキャビン8の側壁側にスライド可能に支持したことを特徴としている。
【0008】
第3に、前記天井部16の一部を構成する可動ルーフ16bを、該天井部16側に前後スライド可能に支持するとともに、乗降用ドア17を、キャビン8の側壁側に前後スライド可能に支持したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
上記構成によれば、乗降用ドアの開作動時、操縦部の少なくとも乗降用開口部寄り箇所上方が、乗降用開口部と共に開放されるため、背の高いオペレータでも、キャビンに覆われた操縦部への乗降を、楽に行うことが可能になる。
【0010】
また、前記乗降用ドアに前後方向のスライドレールを取付け、該スライドレールを、キャビンの側壁側に前後摺動自在に連結することにより、該乗降用ドアをキャビンの側壁側にスライド可能に支持すれば、前後方向のスライドレールが乗降用ドアと一体で前後スライドするため、キャビンの側壁側に前後方向のスライドレールを固定的に設けた場合のように、乗降用開口部に該スライドレールが臨んで、オペレータの乗降の邪魔になることが防止される。
【0011】
さらに、前記天井部の一部を構成する可動ルーフを、該天井部側に前後スライド可能に支持するとともに、乗降用ドアを、キャビンの側壁側に前後スライド可能に支持すれば、可動ルーフ及び乗降用ドアを、2箇所で、より安定的にキャビンに支持できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明を適用した農業用トラクタの斜視図である。
【図2】図1に示すトラクタのキャビンの斜視図である。
【図3】キャビンのフレーム構造を示す分割斜視図である。
【図4】乗降用ドアを取付けた状態を示すキャビンフレームの斜視図である。
【図5】乗降用ドアを前方にスライドさせた状態を示すキャビンフレームの斜視図である。
【図6】(A)乗降用ドアの内側の側面図であり、(B)はスライドレールの斜視図であり、(C)は摺動体の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、本発明を適用した農業用トラクタの斜視図であり、図2は、図1に示すトラクタのキャビンの斜視図である。作業車両の一種であるトラクタは、左右一対の前輪1及び後輪2によって支持された走行機体3と、該走行機体3の後方にリンク(図示しない)及び3点ヒッチ(図示しない)等を介して昇降自在且つ着脱自在に連結されるロータリ耕耘装置等の作業機(図示しない)とを備えている。
【0014】
該走行機体3は、前記4つの車輪1,2によって支持される前後方向の車台4上の前部にエンジン(図示しない)を搭載し、このエンジンを覆うボンネット6の後方に、オペレータが乗込む操縦部7を覆うキャビン8を立設することにより、構成されている。
【0015】
キャビン8は、操縦部7の前後左右を透明なパネル9,11,12,13,14によって囲繞するとともに、操縦部7の上方を平面視前後方向に長い方形板状のルーフ(天井部)16によって覆っている。
【0016】
また、キャビン8の少なくとも一方側の側壁(図示する例では左側壁)には、乗降口(乗降用開口部)8aが開口形成されており、この乗降口8aを介して、オペレータのキャビン8内への乗降が行われる。
【0017】
該乗降口8aを開閉する乗降用ドア17は、キャビン8の乗降口8a側に、前後スライド可能に支持される一方で、前記ルーフ16の乗降口8a寄り部分は、他の部分(ルーフ本体16a)と別体形成された可動ルーフ16bとなり、該可動ルーフ16bは、その最外端側が、乗降用ドア17の上端部に一体的に取付固定されている。このため、乗降口8aの開閉時、可動ルーフ16bは乗降用ドア17と一体で前後スライドするように構成されている。ちなみに、乗降用ドア17の外面後部には取っ手(把持部)17aが設けられ、前後スライドを円滑に行うことが可能になる。
【0018】
次に、図2乃至図6に基づき、キャビン8の構成について詳述する。
図3は、キャビンのフレーム構造を示す分割斜視図であり、図4は、乗降用ドアを取付けた状態を示すキャビンフレームの斜視図であり、図5は、乗降用ドアを前方にスライドさせた状態を示すキャビンフレームの斜視図であり、図6(A)乗降用ドアの内側の側面図であり、(B)はスライドレールの斜視図であり、(C)は摺動体の説明図である。
【0019】
キャビン8は、左右の各縁部側に、前側から後側に向かって、上下方向のフロントピラー18とセンタピラー19とリヤピラー21とを、この順序で配列配置し、この計6本の支柱18,19,21の上端部に方形枠状のルーフフレーム22を設置し、平面視U字状をなし且つ前側半部が前方に向かって下方傾斜した連接フレーム23によって、左右のフロントピラー18,18の下端から後方側に延設される水平状の床面24の後端部と、左右のセンタピラー19,19及びリヤピラー21,21の下端部とを連接することにより、キャビン8のフレームであるキャビンフレーム25を構成している。
【0020】
また、ルーフフレーム22は、具体的には、左右のフロントピラー18,18の上端部間に左右方向の前側横フレーム26を架設固定し、乗降口8a側において、センタピラー19とリヤピラー21の上端部間に前後方向の乗降側サイドフレーム27を架設し、乗降口8aの反対側において、フロントピラー18上端部からセンタピラー19上端部を通過してリヤピラー21上端部に至る範囲に前後方向に延びる非乗降側サイドフレーム28を一体的に設け、左右のサイドフレーム27,28の後端部間に、左右方向の後側横フレーム29を架渡し、前側横フレーム26の中間部と後側横フレーム29の中間部とを前後方向の中間フレーム31によって連結し、非乗降側サイドフレーム28のセンタピラー19側箇所から中間フレーム31の中途部に向かって左右方向の補強フレーム32を架渡し、乗降側サイドフレーム27の前端部から中間フレーム31の中途部に向かって左右方向の補強フレーム33を架渡している。
【0021】
該構成によって、キャビンフレーム25には、フロントピラー18とセンタピラー19との間の空間から前側横フレーム26と補強フレーム33との間の空間に至って、操縦部7の側方及び上方を大きく開放させる上述の乗降口8aが形成される。この他、前記ルーフフレーム22によって、上述したルーフ本体16aの外形が成形される。
【0022】
一方、乗降用ドア17及び可動ルーフ16bの枠体であるスライドフレーム34は、乗降用ドア17の外形に沿った形状に成形されたドアフレーム36の上端部から、左右内側に向かって一体的に可動フレーム37を延設させることにより、構成されている。
【0023】
具体的には、このキャビン8の乗降口8a側側壁及びルーフ16上面に沿う正面視逆L字状に曲げ形成された角パイプ状の主フレーム38,39を、前後に備え、この前後の主フレーム38,39の下端部間を、前後方向の下端側フレーム41で連結固定し、この前後の主フレーム38,39の上端部間を、前後方向に延びる左右一対の上端側フレーム42,43で連結固定することにより、上述のスライドフレーム34が一体的に形成されている。
【0024】
言換えると、左右の上端側フレーム42,43の間に可動ルーフ16bが形成され、左右外側の上端側フレーム42と、下端側フレーム41との間にドアフレーム36が形成されており、該構造により、可動ルーフ16bが乗降用ドア17の上端部に一体的に取付けられる。
【0025】
このスライドフレーム34のキャビンフレーム25への支持構造について説明すると、キャビン8の上面及び側壁の沿う正面視逆L字状のスライドフレーム34は、ドアフレーム36が乗降口8a側のフロントピラー18に前後スライド自在に支持されるとともに、可動フレーム37がルーフフレーム22に前後スライド自在に支持されている。言換えると、乗降用ドア17がキャビン8の側壁側に前後スライド自在に支持され、可動ルーフ16bがキャビン8の上面側に前後スライド自在に支持されている。
【0026】
具体的には、断面視方形状をなして前後方向に延びる角材状のスライドレール44を、ルーフフレーム22を構成する中間フレーム31の上面に固設するとともに、スライドフレーム34における可動フレーム37の左右内側端部に該スライドレール44に前後摺動自在に係合される摺動体46を取付固定している。
【0027】
一方、スライドフレーム34を構成する前後の主フレーム38,39の中途部間には、補強フレームとしても機能する角材状のスライドレール47が前後方向に架設固定されるとともに、乗降口8a側のフロントピラー18の中途部外側側面には、該スライドレール47と前後摺動自在に係合する摺動体48が取付固定されている。
【0028】
各スライドレール44,47は、該スライドレール44,47と係合する前記摺動体46,48に対向する面に、全長方向全体に亘って、前後方向のスライド孔44a,47aが形成されている。これに対して、各摺動体46,48は、スライドレール44,47のスライド孔44a,47a側の面と平行に対向するプレート状に形成された本体49と、該本体49からスライドレール44,47側に向かって突出する左右方向の前後一対の回転ローラ51,51とを備え、各回転ローラ51は、自身の軸回りに回転自在に本体49に支持されており、該回転ローラ51の突出端部は、他の部分に対して径が大きく形成された拡大部51aとなる。
【0029】
そして、摺動体46,48における前後の回転ローラ51,51の中途部周面を、対応するスライドレール44,47の前後の開放端から、前後スライド自在にスライド孔44a,47aに挿入すると、摺動体46,48とスライドレール44,47は、互いに、離間・近接する方向への移動及び上下方向への移動が規制された状態で、前後スライド自在に係合される。
【0030】
すなわち、可動ルーフ16b側に設置された摺動体46と、ルーフ本体16a側に設置されたスライドレール44とを前後スライド自在に係合させるとともに、キャビン8における乗降口8a側の側壁外面に設置された摺動体48と、乗降用ドア17のスライドレール47とを前後スライド自在に係合させることにより、可動ルーフ16b及び乗降用ドア17(スライドフレーム34)を、キャビン8のルーフ本体16a及び乗降口8a側フロントピラー18に前後スライド自在に支持している。
【0031】
ちなみに、左右のフロントピラー18,18の間と、左右のリヤピラー21,21の間と、乗降口8aと反対側のフロントピラー18とリヤピラー21との間と、乗降口8a側のセンタピラー19とリヤピラー21との間と、ドアフレーム36とに、それぞれ上述のパネル9,11,12,13,14が嵌め込み固定されている。
【0032】
以上のように構成されるトラクタによれば、ルーフ16における乗降用ドア17の上端部から左右内側に延びる範囲に形成された可動ルーフ16bが、該乗降ドア17と一体で前後スライドするため、後部側の取っ手17aを把持して、乗降用ドア17を前方にスライドさせれば、キャビン8の側方及び上方が大きく開放される。
【0033】
このように、キャビン8に覆われた操縦部7の上方及び側方が大きく開放されるので、背の高いオペレータでも乗降作業を楽に行うことが可能になる。また、取っ手17aが乗降用ドア17の後部にあるため、操縦部7の図示しない座席に着座したオペレータは、姿勢を変更すること無く、スムーズに乗降用ドア17を前方にスライドさせることができる。
【0034】
なお、キャビン8の上面側と側壁側との2箇所で、乗降用ドア17及び可動ルーフ16bを、前後スライド自在に支持しているが、キャビン8の上面の左右2箇所で、乗降用ドア17及び可動ルーフ16bを支持してもよい。さらに、該構成のキャビン8を、作業車両の一種であって、圃場の刈取作業に用いるコンバインに搭載してもよい。
【符号の説明】
【0035】
1 前輪(車輪)
2 後輪(車輪)
3 走行機体
4 車台
6 ボンネット
7 操縦部
8 キャビン
8a 乗降口(乗降用開口部)
9 パネル
11 パネル
12 パネル
13 パネル
14 パネル
16 ルーフ(天井部)
16a ルーフ本体
16b 可動ルーフ
17 乗降用ドア
17a 取っ手(把持部)
18 フロントピラー(支柱)
19 センタピラー(支柱)
21 リヤピラー(支柱)
22 ルーフフレーム
23 連接フレーム
24 床面
25 キャビンフレーム
26 前側横フレーム(横フレーム)
27 乗降側サイドフレーム(サイドフレーム)
28 非乗降側サイドフレーム(サイドフレーム)
29 後側横フレーム(横フレーム)
31 中間フレーム
32 補強フレーム
33 補強フレーム
34 スライドフレーム
36 ドアフレーム
37 可動フレーム
38 主フレーム
39 主フレーム
41 下端側フレーム
42 上端側フレーム
43 上端側フレーム
44 スライドレール
46 摺動体
47 スライドレール(補強フレーム)
48 摺動体
49 本体
51 回転ローラ
52a 拡大部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗降用ドア(17)を、操縦部(7)を覆うキャビン(8)に前後にスライド可能に取付支持し、該乗降用ドア(17)の前後スライドによって、キャビン(8)に形成された乗降用開口部(8a)が開閉される作業車両において、キャビン(8)の天井部(16)における少なくとも乗降用開口部(8a)寄り部分を構成する可動ルーフ(16b)が、乗降用ドア(17)と一体で前後スライドするように、該可動ルーフ(16b)を乗降用ドア(17)の上端部に一体的に取付けた作業車両。
【請求項2】
前記乗降用ドア(17)に前後方向のスライドレール(47)を取付け、該スライドレール(47)を、キャビン(8)の側壁側に前後摺動自在に連結することにより、該乗降用ドア(17)をキャビン(8)の側壁側にスライド可能に支持した請求項1記載の作業車両。
【請求項3】
前記天井部(16)の一部を構成する可動ルーフ(16b)を、該天井部(16)側に前後スライド可能に支持するとともに、乗降用ドア(17)を、キャビン(8)の側壁側に前後スライド可能に支持した請求項1又は2の何れか記載の作業車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−188028(P2012−188028A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−53730(P2011−53730)
【出願日】平成23年3月11日(2011.3.11)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)