説明

作物植物の栽培方法

【課題】プロトポルフィリノーゲンIXオキシダーゼ阻害剤の使用量を大きくでき、十分な雑草防除効果が得られる、プロトポルフィリノーゲンIXオキシダーゼ阻害剤耐性植物の栽培方法を提供する。
【解決手段】下記の(1)及び(2)のいずれか一方、または両方のDNAが導入されている作物植物を栽培する領域に、サフルフェナシルを主成分として含有する雑草防除剤を散布する工程を有する、前記作物植物の栽培方法。(1)サフルフェナシルを代謝する活性を示すチトクロムP450のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNA。(2)プロトポルフィリノーゲンIXオキシダーゼ活性を示すタンパク質のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNA。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作物植物の栽培方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、農作物の栽培のため、雑草防除剤を用いた雑草防除が実施されている。選択性を有する雑草防除剤を使用する場合には、通常栽培する農作物に対し複数の種類の雑草防除剤を散布する必要がある。非選択性の雑草防除剤を使う場合には、労力およびコストを軽減できるものの、高い作物植物毒性を示す傾向がある。
【0003】
プロトポルフィリノーゲンIXオキシダーゼ阻害化合物は、クロロフィルの生合成に関与するプロトポルフィリノーゲンIXオキシダーゼ(本明細書中、PPOと称する場合がある。)を阻害する化合物であり、非選択性の雑草防除剤の有効成分として含有される。プロトポルフィリノーゲンIXオキシダーゼを阻害する化合物としては、多様な分子種が知られているが、その例として、特許文献1には、特定のウラシル置換型フェニルスルファモイルカルボキサミド構造を有する化合物群が開示されている。
【0004】
これまでに、雑草防除剤の有効成分である除草活性化合物に耐性を示す植物、例えば、プロトポルフィリノーゲンIXオキシダーゼ活性阻害型除草活性化合物に耐性を示す植物が人為的に作成されている。
プロトポルフィリノーゲンIXオキシダーゼ活性阻害型除草活性化合物(本明細書中、PPO阻害剤と称する場合がある。)に対する耐性が人為的に付与された植物(本明細書中、PPO阻害剤耐性植物と称する場合がある。)としては、例えば、
(1)植物体中でプロトポルフィリノーゲンIXオキシダーゼを過剰発現させた植物、
(2)当該除草活性化合物に対する感受性が低下するような変異を人為的に導入した、変異型プロトポルフィリノーゲンIXオキシダーゼを発現させた植物(例えば、特許文献2等を参照)、
(3)植物体中で当該除草活性化合物を代謝し不活性化するような、放線菌由来のチトクロムP450を発現させた植物(例えば、特許文献3等を参照)、及び
(4)
(a)当該除草活性化合物を代謝する活性を示すチトクロムP450のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNA、及び
(b)プロトポルフィリノーゲンIXオキシダーゼ活性を示すタンパク質のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNA
が導入されている植物(例えば、特許文献4等を参照)
等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第01/83459号パンフレット
【特許文献2】国際公開第97/32011号パンフレット
【特許文献3】国際公開第03/40370号パンフレット
【特許文献4】特開2006−110号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように、様々なPPO阻害剤耐性植物が開発されており、またPPO阻害剤にも多様な分子種が知られている。PPO阻害剤耐性植物を栽培する領域にPPO阻害剤を施用することによって、効果的に雑草防除を図ることができるが、PPO阻害剤耐性植物とPPO阻害剤との組み合わせによっては、作物植物毒性の観点からPPO阻害剤の使用量を大きくできず、そのため十分な雑草防除効果を得られない場合がある。したがって、特定のPPO阻害剤との組み合わせによる、PPO阻害剤耐性植物の好適な栽培方法の開発が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、かかる状況の下、鋭意研究を行った結果、本発明に至った。即ち、本発明は、以下の[1]〜[10]に記載の発明等を提供するものである。
[1]
下記の(1)及び(2)のいずれか一方、または両方のDNAが導入されている作物植物を栽培する領域に、
サフルフェナシルを有効成分として含有する雑草防除剤を散布する工程を有することを特徴とする、前記作物植物の栽培方法。
(1)サフルフェナシルを代謝する活性を示すチトクロムP450のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNA
(2)プロトポルフィリノーゲンIXオキシダーゼ活性を示すタンパク質のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNA
[2]
前記チトクロムP450が、放線菌由来のチトクロムP450であることを特徴とする前記[1]記載の栽培方法。
[3]
前記チトクロムP450が、下記のいずれかのチトクロムP450であることを特徴とする前記[1]記載の栽培方法。
(1)ストレプトミセス属に属する放線菌由来のチトクロムP450
(2)配列番号1又は2で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列相同性を有するアミノ酸配列を有するチトクロムP450
(3)配列番号1で示されるアミノ酸配列を有するチトクロムP450
(4)配列番号2で示されるアミノ酸配列を有するチトクロムP450
[4]
前記プロトポルフィリノーゲンIXオキシダーゼ活性を示すタンパク質が、植物由来であることを特徴とする前記[1]記載の栽培方法。
[5]
前記プロトポルフィリノーゲンIXオキシダーゼ活性を示すタンパク質が、下記のいずれかのタンパク質であることを特徴とする前記[1]記載の栽培方法。
(1)植物由来であって、かつサフルフェナシルによって阻害されるプロトポルフィリノーゲンIXオキシダーゼ活性を示すタンパク質
(2)植物由来であって、かつサフルフェナシルによって阻害されないプロトポルフィリノーゲンIXオキシダーゼ活性を示すタンパク質
(3)配列番号3で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列相同性を有するアミノ酸配列を有する、プロトポルフィリノーゲンIXオキシダーゼ活性を示すタンパク質
(4)配列番号3で示されるアミノ酸配列を有する、プロトポルフィリノーゲンIXオキシダーゼ活性を示すタンパク質
[6]
下記の(1)及び(2)のいずれか一方、または両方のDNAを植物細胞に導入して発現させる工程、および、該植物細胞にサフルフェナシルを接触させる工程を有することを特徴とするプロトポルフィリノーゲンIXオキシダーゼ阻害型除草活性化合物耐性の細胞選抜方法。
(1)サフルフェナシルを代謝する活性を示すチトクロムP450のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNA
(2)プロトポルフィリノーゲンIXオキシダーゼ活性を示すタンパク質のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNA
[7]
前記チトクロムP450が、放線菌由来のチトクロムP450であることを特徴とする前記[6]記載の細胞選抜方法。
[8]
前記チトクロムP450が、下記のいずれかのチトクロムP450であることを特徴とする前記[6]記載の細胞選抜方法。
(1)ストレプトミセス属に属する放線菌由来のチトクロムP450
(2)配列番号1又は2で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列相同性を有するアミノ酸配列を有するチトクロムP450
(3)配列番号1で示されるアミノ酸配列を有するチトクロムP450
(4)配列番号2で示されるアミノ酸配列を有するチトクロムP450
[9]
前記プロトポルフィリノーゲンIXオキシダーゼ活性を示すタンパク質が、植物由来であることを特徴とする前記[6]記載の細胞選抜方法。
[10]
前記プロトポルフィリノーゲンIXオキシダーゼ活性を示すタンパク質が、下記のいずれかのタンパク質であることを特徴とする前記[6]記載の細胞選抜方法。
(1)植物由来であって、かつサフルフェナシルによって阻害されるプロトポルフィリノーゲンIXオキシダーゼ活性を示すタンパク質
(2)植物由来であって、かつサフルフェナシルによって阻害されないプロトポルフィリノーゲンIXオキシダーゼ活性を示すタンパク質
(3)配列番号3で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列相同性を有するアミノ酸配列を有するプロトポルフィリノーゲンIXオキシダーゼ活性を示すタンパク質
(4)配列番号3で示されるアミノ酸配列を有するプロトポルフィリノーゲンIXオキシダーゼ活性を示すタンパク質
【発明の効果】
【0008】
本発明により、PPO阻害剤の使用量を大きくでき、十分な雑草防除効果が得られる、PPO阻害剤耐性植物の栽培方法等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、SR−1野生型および組換えダイズ系統1609soy#25、P023、P−6−1のリーフディスクをサフルフェナシルが添加されたMS寒天培地上に静置した後8日目の写真を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0011】
本発明の栽培方法は、下記の(1)及び(2)のいずれか一方、または両方のDNAが導入されている作物植物の栽培方法であって、
当該作物植物を栽培する領域に、
サフルフェナシルを有効成分として含有する雑草防除剤を散布する工程を有する。
(1)サフルフェナシルを代謝する活性を示すチトクロムP450のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNA
(2)プロトポルフィリノーゲンIXオキシダーゼ活性を示すタンパク質のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNA
【0012】
本発明において使用される「雑草防除剤」は、サフルフェナシルを有効成分として含有する組成物である。
サフルフェナシル(IUPAC名称:N’−{2−クロロ−4−フルオロ−5−[1,2,3,6−テトラヒドロ−3−メチル−2,6−ジオキソ−4−(トリフルオロメチル)ピリミジン−1−イル]ベンゾイル}−N−イソプロピル−N−メチルスルファミド)(CAS登録番号:372137−35−4)は、プロトポルフィリノーゲンIXオキシダーゼ活性阻害型除草活性を有する、WO01/83459等に記載された、公知の化合物である。
当該雑草防除剤におけるサフルフェナシルの含有量は、本発明の効果が奏される限り、特に限定されない。
当該雑草防除剤は、有効成分としてのサフルフェナシルに加えて、必要に応じて、他の除草活性化合物、殺虫活性化合物、殺菌活性化合物、植物生長調節活性化合物、肥料成分、及び雑草防除剤に汎用される添加剤等を含有していてもよい。当該除草活性化合物としては、例えば、[(ホスホノメチル)アミノ]酢酸(CAS登録番号:1071−83−6)等が挙げられる。
【0013】
本発明の栽培方法で栽培する対象となる作物植物は、下記の(1)及び(2)のいずれか一方、または両方のDNAが導入されている作物植物である。
(1)サフルフェナシルを代謝する活性を示すチトクロムP450のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNA
(2)プロトポルフィリノーゲンIXオキシダーゼ活性を示すタンパク質のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNA
以下に、このような作物植物、およびその作成方法について詳細に説明する。
【0014】
本明細書中、「チトクロムP450」なる語は、通常の意味で用いられ、還元状態で一酸化炭素を結合して450nm付近にソーレ吸収帯を示す分光学的な性質に由来する名称を有する一群のプロトヘム含有タンパク質を意味する。
本明細書中、「サフルフェナシルを代謝する活性を示す」とは、当該チトクロムP450が、サフルフェナシルに、一原子酸素添加反応や、それに引き続く官能基の脱離反応を引き起こす能力を有することを意味する。
当該チトクロムP450としては、
(1)フェレドキシン及びNADPH−フェレドキシンレダクターゼの両者と電子伝達して電子を供給されるタイプであってもよく、または
(2)直接NADPH−チトクロムP450レダクターゼから電子を供給されるタイプであってもよいが、好ましくは、前者のタイプを挙げることができる。
本発明の栽培方法の栽培対象である作物植物の細胞中、すなわち遺伝子導入宿主細胞中において、当該チトクロムP450は、すなわち宿主の細胞内のいずれの細胞内小器官に存在してもよく、細胞質に存在してもよい。なお、前記フェレドキシンは、宿主細胞に内在するフェレドキシンであってもよく、宿主細胞に遺伝子を外部から導入することによって宿主細胞とは異種のフェレドキシンであってもよい。
【0015】
下記で説明する方法等によって宿主細胞に導入されたチトクロムP450のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有する遺伝子の存在場所は、細胞内のいずれの細胞内小器官又は核内の染色体であってもよい。また、かかるチトクロムP450の存在場所は、いずれの細胞内小器官、細胞質又は細胞外間隙であってもよいが、好ましくは、宿主細胞の細胞内小器官、より好ましくは色素体を挙げることができる。
チトクロムP450が細胞内の細胞内小器官に移行されるようにするには、例えば、細胞内小器官への移行シグナル配列をコードする塩基配列を有するDNAを、当該チトクロムP450のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNAの上流にその読み枠を合わせて連結されて構築されるキメラDNAを宿主細胞に導入すればよい。ここで「読み枠を合わせて連結されて」とは、細胞内小器官への移行シグナル配列をコードする塩基配列の読み枠と、当該チトクロムP450のアミノ酸配列をコードする塩基配列の読み枠とが接続されて一続きの読み枠が形成されるように連結されていることを意味する。宿主細胞においてタンパク質の細胞内小器官への移行及び局在化をもたらす移行シグナル配列としては、例えば、USP5717084等に記載される植物の葉緑体に局在するタンパク質の細胞質前駆体タンパク質由来の移行シグナル配列や、USRE36449等に記載される複数種の移行シグナル配列から構成されるキメラ配列等を挙げることができる。具体的には例えば、WO03040370に記載される方法によって取得可能なダイズのribulose-1,5-bisphosphate carboxylase(本明細書中、RuBPCOと記すこともある。)小サブユニット由来の葉緑体移行シグナルペプチド等が挙げられる。
【0016】
かかるチトクロムP450の由来は特に限定されず、例えば、動物組織、植物組織、糸状菌、酵母、及び細菌等のいかなる生物に由来するものであってもよいが、好適な例として、放線菌由来のチトクロムP450を挙げることができる。ここで「放線菌」とは、放線菌目(Actinomycetales)に属する一群の原核生物のことであり、ストレプトミセス、アクチノマイセス、マイコバクリウム、フランギア、ノルカデア等の8属に分けられる一群のグラム陽性細菌である。より好ましいチトクロムP450としては、ストレプトミセス属に属する放線菌由来のチトクロムP450が挙げられ、具体的には例えば、Streptomyces phaeochromogenes、Streptomyces testaceus、Streptmyces achromogenes、Streptomyces griseofuscus、Streptomyces thermocoerulescens、Streptomyces nogalater、Streptomyces tsusimaensis、Streptomyces glomerochromogenes、Streptomyces olivochromogenes、Streptomyces ornatus、Streptomyces griseus、Streptomyces lanatus、Streptomyces misawanensis、Streptomyces pallidus、Streptomyces roseorubens、Streptomyces rutgersensis、Streptomyces steffisburgensis、Saccharopolyspora taberi等由来のチトクロムP450を挙げることができる。
【0017】
かかるチトクロムP450のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有する遺伝子(DNA)としては、天然に存在する塩基配列を有する遺伝子であってもよく、また、宿主に最適なコドンに変換した遺伝子であってもよい。また、天然に存在するチトクロムP450のアミノ酸配列に、1個以上のアミノ酸残基の置換、付加、又は欠失等を導入したアミノ酸配列をコードする遺伝子であってもよい。チトクロムP450をコードする遺伝子として、具体的には、例えば、WO03040370に記載のチトクロムP450をコードする遺伝子が挙げられる。
なお、本明細書中、遺伝子(DNA)は、当該ポリペプチド鎖の産生に関与するDNAのセグメントを意味し、コード領域の前の領域および後の領域(例、リーダー配列)、ならびに介在配列(イントロン)を含んでも含まなくてもよい。
【0018】
当該アミノ酸配列におけるアミノ酸残基の欠失、付加若しくは置換を人為的に行う手法としては、例えば、アミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNAに対して部位特異的変異を導入する手法等を挙げることができる。具体的には例えば、アンバー変異を利用する方法(ギャップド・デュプレックス法、Nucleic Acids Res., 12, 9441−9456 (1984))、変異導入用プライマーを用いたPCRによる方法等が挙げられる。また、例えば、アミノ酸配列のいずれかをコードする塩基配列を有するDNAに対してランダムに変異を導入する手法等を挙げることができる。具体的には例えば、アミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNAを鋳型とし、それぞれのDNAの全長を増幅できるようなプライマー対を用い、基質に用いるdATP、dTTP、dGTP、dCTPの各々の添加濃度を変化させた反応条件下又はポリメラーゼの反応を促進させるMg2+の濃度を増加させた反応条件下でPCRを行う方法等が挙げられる。このようなPCRの手法としては、例えば、Method in Molecular Biology, (31), 1994, 97-112等に記載される通常の方法を挙げることができる。
【0019】
前記チトクロムP450は、特に好ましくは、例えば、
(1)配列番号1で示されるアミノ酸配列を有するチトクロムP450、
(2)配列番号2で示されるアミノ酸配列を有するチトクロムP450、又は
(3)配列番号1若しくは2で示されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有するチトクロムP450
である。
なお、配列番号1および配列番号2は、それぞれ放線菌チトクロムP450のアミノ酸配列である。
【0020】
本明細書中、「実質的に同一のアミノ酸配列」とは、好ましくは、90%以上の配列相同性を有するアミノ酸配列である。
本明細書中、アミノ酸配列の「配列相同性」は、比較対象のアミノ酸配列の全領域にわたって最適な状態にアラインメントされた2つの配列を比較することにより決定される。ここで、比較対象のアミノ酸配列を最適な状態にアラインメントするために、付加又は欠失(例えば、ギャップ等)を許容してもよい。このような配列相同性は、例えば、FASTA(Pearson & Lipman, Proc. Natl. Acad. Sci. USA,4, 2444-2448 (1988))、BLAST(Altschul et al., Journal of Molecular Biology, 215, 403-410 (1990))、CLUSTAL W(Thompson, Higgins & Gibson, Nucleic Acid Research, 22, 4673-4680 (1994a))等のプログラムを用いた相同性解析によりアラインメントして算出することができる。上記のプログラムは、例えば、DNA Data Bank of Japan(国立遺伝学研究所生命情報・DDBJ研究センター Center for Information Biology and DNA Data Bank of Japan; CIB/DDBJ)内で運営される国際DNAデータバンク)のWEBページ(http://www.ddbj.nig.ac.jp/Welcome-e.html)等において、一般的に利用可能である。また、配列相同性は市販の配列解析ソフトウェアを用いて求めることもできる。具体的には、配列相同性はGENETYX-WIN Ver. 6(GENETYX Corporation製)を用いてLipman-Pearson法(Lipman, D. J. and Pearson, W.R., Science, 227, 1435-1441, (1985))により相同性解析を行ってアラインメントすることにより算出することができる。例えば、当該方法を用いて、配列番号1で示されるアミノ酸配列と配列番号2で示されるアミノ酸配列との相同性解析を行いアラインメントした結果、90%の配列相同性が存在するという結果が算出される。
【0021】
本明細書中、「実質的に同一のアミノ酸配列」とは、また、好ましくは、
(1)比較対象のアミノ酸配列中の1個以上7個以下、好ましくは1個以上5個以下、より好ましくは1個以上3個以下のアミノ酸が欠失したアミノ酸配列、
(2)比較対象のアミノ酸配列中に1個以上20個以下、好ましくは1個以上15個以下、より好ましくは1個以上10個以下のアミノ酸が付加した(または挿入された)アミノ酸配列、
(3)比較対象のアミノ酸配列中の1個以上7個以下、好ましくは1個以上5個以下、より好ましくは1個以上3個以下のアミノ酸が他のアミノ酸で置換されたアミノ酸配列、および
(4)これらの欠失、付加、及び置換の組み合わせを有するアミノ酸配列
が挙げられる。
【0022】
本明細書中、「プロトポルフィリノーゲンIXオキシダーゼ活性を示すタンパク質」とは、細胞内でプロトポルフィリノーゲンIXを酸化してプロトポルフィリンIXを産生する酵素活性を有するタンパク質を意味する。
当該「プロトポルフィリノーゲンIXオキシダーゼ活性を示すタンパク質」は、プロトポルフィリノーゲンIXオキシダーゼ活性(本明細書中、PPO活性と称する場合がある。)阻害剤であるサフルフェナシルによって、その活性を阻害されるタンパク質であってもよく、阻害されないタンパク質であってもよい。
サフルフェナシルによって、そのPPO活性を阻害されるタンパク質としては、例えば、通常施用量のサフルフェナシルに対して白化・傷害・枯死等の生育阻害を呈する植物種が有するものが挙げられる。一方、サフルフェナシルによって、そのPPO活性を阻害されないタンパク質としては、例えば、通常施用量の雑草防除剤に対して耐性を示す植物種が有するもの、動物が有するもの、及び微生物が有するものが挙げられる。
前記「プロトポルフィリノーゲンIXオキシダーゼ活性を示すタンパク質」の由来は特に限定されず、例えば、大腸菌Esherichia coli(Genebank accession X68660)、枯草菌Bacillus subtilis(Genebank accession M97208)、Haemophilus influnzae(Genebank accession L42023)、マウス(Genebank accession D45185)、ヒト(Genebank accession D38537)、シロイヌナズナ(Genebank accession D83139)、またはタバコ(Genebank accession Y13465、Y13466)等に由来のものを挙げることができるが、なかでも、植物(例、シロイヌナズナ(Genebank accession D83139)、タバコ(Genebank accession Y13465、Y13466))由来のものが挙げられる。
かかるPPO活性を示すタンパク質のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有する遺伝子(DNA)としては、天然に存在する塩基配列を有する遺伝子であってもよく、また、宿主に最適なコドンに変換した遺伝子であってもよい。また、天然に存在するPPO活性を示すタンパク質のアミノ酸配列に、1個以上のアミノ酸残基の置換、付加、又は欠失等を導入したアミノ酸配列をコードする遺伝子であってもよい。
具体的には、PPO活性を示すタンパク質のアミノ酸配列をコードする遺伝子、特にサフルフェナシルによって、そのPPO活性を阻害されない、変異型PPOのアミノ酸配列をコードする遺伝子として、具体的には、例えば、WO1995/034659、WO1997/032011、及びWO1997/004089等に記載されているものが挙げられる。
【0023】
当該アミノ酸配列におけるアミノ酸残基の欠失、付加若しくは置換を人為的に行う手法としては、前記でチトクロムP450について述べた手法と、同様の手法を挙げることができる。
【0024】
本発明におけるプロトポルフィリノーゲンIXオキシダーゼを示すタンパク質は、特に好ましくは、例えば、
(1)配列番号3で示されるアミノ酸配列を有するプロトポルフィリノーゲンIXオキシダーゼを示すタンパク質、又は
(2)配列番号3で示されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有するプロトポルフィリノーゲンIXオキシダーゼ
である。
なお、配列番号3は、ダイズ変異型プロトポルフィリノーゲンIXオキシダーゼのアミノ酸配列である。
【0025】
前記チトクロムP450のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNA、及び前記PPO活性を示すタンパク質のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNAを作物植物に導入して、本発明の方法で栽培する対象となる作物植物を準備する方法としては、植物における慣用の遺伝子導入法を用いればよい。具体的には、例えば、前記でP450について説明したようなキメラDNA又は当該キメラDNAと宿主細胞で機能可能なプロモーターとが機能可能な形で連結されて構築されるDNA等を宿主細胞である植物で利用可能なベクターに組込んで、これを宿主細胞である植物に導入すればよい。尚、宿主細胞において機能可能なプロモーターをあらかじめ保有するベクタープラスミドを使用する場合には、ベクタープラスミド保有のプロモーターと当該キメラDNAとが機能可能な形で結合するように、当該プロモーターの下流に当該キメラDNAを挿入すればよい。
【0026】
ここで、植物細胞等の宿主細胞で機能可能なプロモーターとは、植物細胞等の宿主細胞に導入するタンパク質のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有する遺伝子(構造遺伝子)の塩基配列の上流5’−側に接合し、当該構造遺伝子を含む転写RNAを転写させる機能を持つ塩基配列のことである。植物細胞等の宿主細胞で機能可能なプロモーターとしては、例えば、ノパリン合成酵素遺伝子(NOS)プロモーター、オクトピン合成酵素遺伝子プロモーター等のT−DNA由来の構成型プロモーター、カリフラワーモザイクウィルス由来の19Sプロモーター又は35Sプロモーター等の植物ウィルス由来のプロモーター、フェニルアラニンアンモニアリアーゼ遺伝子プロモーター、カルコンシンターゼ遺伝子プロモーター、Pathogenesis-related protein遺伝子プロモーターあるいはWO2008111661に記載される合成キメラプロモーター等の誘導型プロモーター、WO2000/020613に記載される植物プロモーター等を挙げることができる。また、上記のような植物細胞等の宿主細胞で機能可能なプロモーターと、PPO活性を示すタンパク質又はチトクロムP450のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNAとが機能可能な形で接続されてなるDNAの下流に、植物細胞等の宿主細胞で機能可能なターミネーターを連結させてもよい。
【0027】
植物細胞で機能可能なターミネーターとは、植物細胞等の宿主細胞に導入するタンパク質のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有する遺伝子(構造遺伝子)の塩基配列の下流3’−側に接合し、当該構造遺伝子を含む転写RNAを転写安定化するためのポリアデニン配列を付加させる機能を持つ塩基配列のことである。植物細胞で機能可能なターミネーターとしては、例えば、ノパリン合成酵素遺伝子(NOS)ターミネーター等のT−DNA由来の構成型ターミネーター、ニンニクウィルスGV1、GV2のターミネーター等の植物ウィルス由来のターミネーター、WO2000/020613に記載される植物ターミネーター等を挙げることができる。
【0028】
尚、本発明の栽培方法の栽培対象となる植物としては、例えば、ダイズ、エンドウ、インゲン、アルファルファ、ミヤコグサ、クローバ、ピーナッツ、スイートピー、クルミ、チャ、ワタ、コショウ、キュウリ、スイカ、カボチャ、メロン、ダイコン、ナタネ、キャノーラ、テンサイ、レタス、キャベツ、ブロッコリー、カリフラワー、シロイヌナズナ、タバコ、ナス、ジャガイモ、サツマイモ、サトイモ、キクイモ、トマト、ホウレンソウ、アスパラガス、ニンジン、アマ、ゴマ、エンダイブ、キク、フウロウソウ、キンギョソウ、カーネーション、ナデシコ、ニチニチソウ、ブバルディア、カスミソウ、ガーベラ、トルコキキョウ、チューリップ、ストック、スターチス、シクラメン、ユキノシタ、ノースポール、スミレ、バラ、サクラ、リンゴ、ナシ、ブドウ、イチゴ、ウメ、アーモンド、ミカン、レモン、バナナ、マンゴー、パパイヤ、キウイ、コーヒー、ボケ、サツキ、ツツジ、ポインセチア、ナンヨウアブラギリ、キャッサバ、アブラヤシ、ココヤシ、オリーブ、リンドウ、コスモス、アサガオ、ヒマワリ、イチョウ、スギ、ヒノキ、ポプラ、マツ、セコイア、オーク、ヤナギ、ユーカリ、ケナフ、スイレン、トチュウ、ブナ、ヒマ、タケ、サトウキビ、イネ、コムギ、オオムギ、ライムギ、エンバク、トウモロコシ、ソルガム、シバ、トールフェスキュー、スイッチグラス、ススキ、ネギ、タマネギ、ニンニク、ユリ、オニユリ、ラン、グラジオラス、パイナップルを挙げることができ、宿主細胞としては、これらの植物に由来する植物を挙げることができる。
尚、宿主細胞である植物細胞としては、植物組織、植物個体、培養細胞、種子等の各種の植物細胞を用いることができる。
【0029】
植物細胞等の宿主細胞で機能可能なプロモーター及びターミネーターが接続された前記構造遺伝子を有するDNAを、植物細胞等の宿主細胞に導入する方法としては、例えば、アグロバクテリウム感染方法(特公平2−58917号公報及び特開昭60−70080号公報)、プロトプラストへのエレクトロポレーション方法(特開昭60−251887号公報及び特開平5−68575号公報)、又はパーティクルガン方法(特表平5−508316号公報及び特開昭63−258525号公報)等の方法等を挙げることができる。
この際、例えば、ハイグロマイシンフォスフォトランスフェラーゼ遺伝子、ネオマイシンフォスフォトランスフェラーゼ遺伝子、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ遺伝子等から選ばれる選択マーカー遺伝子と、PPO活性を示すタンパク質のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNA又は本除草活性化合物サフルフェナシルを代謝する活性を示すチトクロムP450のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNAとを同時に植物細胞等の宿主細胞に導入すると、導入された形質転換体を当該選択マーカー遺伝子の表現型等を指標にして選択することができる。当該選択マーカー遺伝子と、PPO活性を示すタンパク質のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNA又は本除草活性化合物サフルフェナシルを代謝する活性を示すチトクロムP450のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNAとを同一のベクター上に直列に組み込み、これを導入してもよいし、当該選択マーカー遺伝子を有するベクタープラスミドと、PPO活性を示すタンパク質のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNA又は本除草活性化合物サフルフェナシルを代謝する活性を示すチトクロムP450のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNAとを同時に導入してもよい。
また、本除草活性化合物サフルフェナシルが添加された培地で、目的とする遺伝子を含むベクターが導入された植物細胞を培養し、増殖可能なクローンを単離することによって、目的とする遺伝子が導入された形質転換体、即ち、サフルフェナシルを用いてプロトポルフィリノーゲンIXオキシダーゼ阻害型除草活性化合物耐性の細胞を選抜することができる。前記培地に添加するサフルフェナシルの濃度は、例えば0.001〜1.0 ppm、好ましくは0.01〜0.1 ppmを挙げることができる。また、前記耐性に関しては、サフルフェナシルが添加された培地にて、例えば1〜2週間毎に2〜3回継代し、明条件下にて培養し細胞の増殖を観察すればよい。
【0030】
このようにしてサフルフェナシルを用いてプロトポルフィリノーゲンIXオキシダーゼ阻害型除草活性化合物(例、サフルフェナシル)耐性の細胞を選抜する方法もまた、本発明の一態様である。
【0031】
PPO活性を示すタンパク質のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNAとサフルフェナシルを代謝する活性を示すチトクロムP450のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNAとの両DNAを植物に導入する方法としては、(1)当該両DNAを混合して同時に同一植物細胞に導入する方法、(2)当該両DNAが直列に接続されてなるDNAを同一植物細胞に導入する方法、のいずれであってもよい。
尚、形質転換体が当該両DNAを保有していることは、当該形質転換体から調製されたDNAについて、例えば、「Molecular Cloning: A Laboratory Manual 2nd edition」(1989), Cold Spring Harbor Laboratory Press等に記載される遺伝子工学的分析方法(制限酵素部位の確認、塩基配列の解析、サザンハイブリダイゼーション、PCR等)を用いて解析を行うことにより確認すればよい。
【0032】
具体的には例えば、モデル植物の実験プロトコール−イネ・シロイヌナズナ編(島本功、岡田清孝監修、秀潤社1996年)、第4章に記載される方法に準じて、当該DNAのいずれかあるいは両方が導入されたイネやシロイヌナズナを得ることができる。また、特開平3−291501に記載されている方法に準じて、パーティクルガンを用いてダイズ不定胚に導入して、当該DNAのいずれかあるいは両方が導入されたダイズを得ることができる。同様に、Fromm, M. E., et al., Bio/Technology, 8; p838 (1990) に記載されている方法に準じて、パーティクルガンを用いてトウモロコシ不定胚に導入し、当該DNAのいずれかあるいは両方が導入されたトウモロコシを得ることができる。同様に、宅見ら著、育種学会雑誌、1995年、第44巻、別冊1号、57頁に記載されている方法に準じて、パーティクルガンを用いて無菌培養したコムギ未熟胚盤に導入し、当該DNAのいずれかあるいは両方が導入されたコムギを得ることができる。同様に、萩尾ら著、育種学会雑誌、1995年、第44巻、別冊1号、67頁に記載されている方法に準じて、パーティクルガンを用いて無菌培養したオオムギ未熟胚盤に導入し、当該DNAのいずれかあるいは両方が導入されたオオムギを得ることができる。
【0033】
このようにして作製された形質転換体から、例えば、「植物細胞組織培養 実際・応用・展望」(原田、駒嶺編集、理工学社1979年)、65−118頁等に記載される植物細胞培養法に準じて植物体を再生させることによって、当該DNAのいずれかあるいは両方が導入された形質転換植物を得ることができる。
【0034】
さらに、当該DNAのいずれかあるいは両方が導入され、発現する形質転換植物と目的とする品種の植物とを交配させることにより、目的品種の植物の染色体に当該DNAのいずれかあるいは両方を導入し、当該DNAのいずれかあるいは両方が導入された目的品種の植物を取得することもできる。
またPPO活性を示すタンパク質のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNAと、本除草活性化合物サフルフェナシルを代謝する活性を示すチトクロムP450のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNAとを別個に異なる植物細胞に導入して、これを選抜及び個体再生させた後、再生された形質転換体の後代の系統を交配することによって、本発明植物を作製することもできる。
【0035】
以下に、具体的な作物植物について、詳細に述べる。
【0036】
具体的には例えば、ダイズ由来の変異型PPOのアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNA断片、配列番号1で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNA断片、配列番号2で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNA断片、あるいは、配列番号3で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNA断片が導入された組換えダイズ系統とを作出するために、前記のDNA断片をそれぞれ独立して、特開平3−291501号公報に記載される方法に準じて、パーティクルガンを用いてダイズ不定胚に導入する。次いで、作出された組換えダイズ系統を交配することにより交配系統を得る。尚、当該組換えダイズ系統あるいは交配系統における本除草活性化合物サフルフェナシルに対する耐性を調べるために、後述の実施例2等に記載される方法(薬液散布によって生じた個体の枯死や、葉又は茎に褐変・白化の生じる薬害の程度に基づくスコアリング指数による評価)に準じて本除草活性化合物サフルフェナシルの散布試験における感受性に係るスコアリング評価を行えばよい。
【0037】
また、具体的には例えば、トウモロコシ由来の変異型PPOのアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNA断片、配列番号1で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNA断片、配列番号2で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNA断片、あるいは、配列番号3で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNA断片が導入された組換えトウモロコシ系統とを作出するために、前記のDNA断片をそれぞれ独立して、Fromm, M. E., et al., Bio/Technology, 8; p838 (1990) に記載される方法に準じて、パーティクルガンを用いてトウモロコシ不定胚に導入する。次いで、作出された組換えトウモロコシ系統を交配することにより交配系統を得る。尚、当該組換えトウモロコシ系統あるいは交配系統における本除草活性化合物サフルフェナシルに対する耐性を調べるために、後述の実施例2等に記載される方法(薬液散布によって生じた個体の枯死や、葉又は茎に褐変・白化の生じる薬害の程度に基づくスコアリング指数による評価)に準じて本除草活性化合物サフルフェナシルの散布試験における感受性に係るスコアリング評価を行えばよい。
【0038】
また、具体的には例えば、ワタ由来の変異型PPOのアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNA断片、配列番号1で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNA断片、配列番号2で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNA断片、あるいは、配列番号3で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNA断片が導入された組換えワタ系統とを作出するために、前記のDNA断片をそれぞれ独立して、アグロバクテリウム法を用いてワタに導入する。次いで、作出された組換えワタ系統を交配することにより交配系統を得る。尚、当該組換えワタ系統あるいは交配系統における本除草活性化合物サフルフェナシルに対する耐性を調べるために、後述の実施例2等に記載される方法(薬液散布によって生じた個体の枯死や、葉又は茎に褐変・白化の生じる薬害の程度に基づくスコアリング指数による評価)に準じて本除草活性化合物サフルフェナシルの散布試験における感受性に係るスコアリング評価を行えばよい。
【0039】
また、具体的には例えば、ナタネ由来の変異型PPOのアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNA断片、配列番号1で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNA断片、配列番号2で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNA断片、あるいは、配列番号3で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNA断片が導入された組換えナタネ系統とを作出するために、前記のDNA断片をそれぞれ独立して、エレクトロポレーション法を用いてナタネに導入する。次いで、作出された組換えナタネ系統を交配することにより交配系統を得る。尚、当該組換えナタネ系統あるいは交配系統における本除草活性化合物サフルフェナシルに対する耐性を調べるために、後述の実施例2等に記載される方法(薬液散布によって生じた個体の枯死や、葉又は茎に褐変・白化の生じる薬害の程度に基づくスコアリング指数による評価)に準じて本除草活性化合物サフルフェナシルの散布試験における感受性に係るスコアリング評価を行えばよい。
【0040】
また、具体的には例えば、コムギ由来の変異型PPOのアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNA断片、配列番号1で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNA断片、配列番号2で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNA断片、あるいは、配列番号3で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNA断片が導入された組換えコムギ系統とを作出するために、前記のDNA断片をそれぞれ独立して、宅見ら著、育種学会雑誌、1995年、第44巻、別冊1号、57頁に記載される方法に準じて、パーティクルガンを用いてコムギ未熟胚盤に導入する。次いで、作出された組換えコムギ系統を交配することにより交配系統を得る。尚、当該組換えコムギ系統あるいは交配系統における本除草活性化合物サフルフェナシルに対する耐性を調べるために、後述の実施例2等に記載される方法(薬液散布によって生じた個体の枯死や、葉又は茎に褐変・白化の生じる薬害の程度に基づくスコアリング指数による評価)に準じて本除草活性化合物サフルフェナシルの散布試験における感受性に係るスコアリング評価を行えばよい。
【0041】
本発明栽培方法においては、本発明栽培方法にかかる植物を栽培する領域に、サフルフェナシルを主成分として含有する雑草防除剤を施用する。施用は、例えば、前記領域に当該雑草防除剤を散布することによって実施できる。尚、当該雑草防除剤の施用量は、施用時期、雑草の種類等に応じて適宜決定すればよいが、好ましくは、例えば、1ヘクタールあたり、サフルフェナシルとして、1g〜1000gを施用する。より好ましくは、1ヘクタールあたり、サフルフェナシルとして、18g〜125gを施用する。
散布の方法は、特に限定されず、雑草防除剤の形態に適した慣用の方法を採用すればよい。
【0042】
本発明栽培方法は、下記の(1)及び(2)のいずれか一方、または両方のDNAが導入され、かつサフルフェナシル耐性を示す限り、広範な作物植物に好適に適用できる。
(1)サフルフェナシルを代謝する活性を示すチトクロムP450のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNA
(2)プロトポルフィリノーゲンIXオキシダーゼ活性を示すタンパク質のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNA
すなわち、本発明栽培方法の栽培対象である植物は、PPO活性を示すタンパク質と本除草活性化合物サフルフェナシルを代謝する活性を示すチトクロムP450のいずれかが発現していてもよいし、一方のタンパク質が複数種同時に発現していてもよいし、両タンパク質を各々1種類のみを同時に発現していてもよいし、一方のタンパク質については1種類、他方のタンパク質については複数種を同時に発現していてもよいし、両タンパク質とも複数種を同時に発現していてもよい。本発明栽培方法にかかる植物においては、その体内で、本除草活性化合物サフルフェナシルが除草活性のより低い化合物へと速効的に代謝され、あるいは本除草活性化合物サフルフェナシルが当該植物のPPO活性を阻害できず、その結果として本除草活性化合物サフルフェナシルの施用において薬害をさらに軽減されることが可能となる。従って、本発明栽培方法の栽培対象である植物を栽培する領域又は培養する領域に本除草活性化合物サフルフェナシルを散布又は添加する場合にも本発明栽培方法にかかる植物は良好に生育することができる。
本発明栽培方法によれば、栽培対象である作物植物以外の雑草等の植物を効率よく取り除くことができ、栽培対象である作物植物の収量の向上、高品質化、使用する雑草防除剤の量の軽減、省力化等が可能となる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。
以下の実施例で用いられている植物に導入されているDNAを下記に示す。
1609soy#17:配列番号1で示されるアミノ酸配列をコードするDNA
1609soy#25:配列番号1で示されるアミノ酸配列をコードするDNA
P023:配列番号3で示されるアミノ酸配列をコードするDNA
35S−2:配列番号3で示されるアミノ酸配列をコードするDNA
P−6−1:配列番号1で示されるアミノ酸配列をコードするDNA、および配列番号3で示されるアミノ酸配列をコードするDNA
1584soy#16:配列番号2で示されるアミノ酸配列をコードするDNA
J16:配列番号1で示されるアミノ酸配列をコードするDNA
J18:配列番号1で示されるアミノ酸配列をコードするDNA
J26:配列番号1で示されるアミノ酸配列をコードするDNA
J28:配列番号1で示されるアミノ酸配列をコードするDNA
【0044】
実施例1(リーフディスクを用いた耐性試験)
JP2006000110(EP1598423、US20060005268)に記載の組換えタバコ系統1609soy#25およびP023のホモ接合体の種子、JP2006000110(EP1598423、US20060005268)に記載の組換えタバコ系統P−6−1の後代種子を100mg/Lカナマイシンが添加されたMS寒天培地に無菌播種し、カナマイシン耐性を示す植物を選抜した。播種後1ヵ月の選抜された植物の本葉を切断しリーフディスクを作製、サフルフェナシルが0.01ppm、0.03ppm、0.10ppm添加されたMS寒天培地上に静置した。陰性対照として、SR−1野生型タバコ種子をMS寒天培地に無菌播種し、同様に播種後1ヵ月の植物の本葉を切断しリーフディスクを作製、サフルフェナシルが0.01ppm、0.03ppm、0.10ppm添加されたMS寒天培地上に静置した。その後8日目の状態を観察した。図1に写真を示した。その結果、SR−1野生型タバコでは、0.01ppmで部分的に褐変が生じており、0.10ppmでは全体的に白化した。一方、組換えタバコ系統1609soy#25では、0.01ppmでは薬害が認められず、0.03ppmで部分的に、0.10ppmで全体的に褐変が生じた。また、組換えタバコ系統P023では、0.03ppmまでは薬害が認められず、0.10ppmで部分的に白化した。さらに、組換えタバコ系統P−6−1の後代植物では、0.10ppmの濃度において薬害が認められなかった。
【0045】
なお、各試験区について5個体からリーフディスクを作製しており、褐変あるいは白化の生じる薬害の程度に基づいてスコアリング評価を行った。スコアリングの基準は以下の通り。
「0」:リーフディスクが全体的に白化
「1」:リーフディスクが全体的に褐変
「2」:リーフディスクが部分的に褐変あるいは白化
「3」:リーフディスクへの薬害なし
【0046】
【表1】

【0047】
また、図1の写真において、
画像解析ソフト「Win ROOF ver.6.1.0」 (MITANI Corporation)で
緑色部を色抽出して、その面積を数値化し
画像全体の面積から培地部分の面積を差し引いた値で割ることにより、
リーフディスク面積に対する緑色部面積の割合を算出した。
結果を表2に示す。
【0048】
【表2】

【0049】
実施例2(散布機による耐性試験 タバコ)
JP2006000110(EP1598423、US20060005268)に記載の組換えタバコ系統1609soy#17、#25および1584soy#16、P023、35S−2のホモ接合体の種子をMS寒天培地に無菌播種する。次いで、発芽した個体をクレハ培土(クレハ化学製)が入れられた栽培ポットに移植し、人工気象室内で外部環境に馴化した後、人工気象室内で約2週間栽培する。陰性対照として、SR−1野生型タバコ種子をMS寒天培地に無菌播種し、同様に人工気象室内で栽培する。このようにして得られる植物をサフルフェナシルの散布試験に供試する。サフルフェナシルを適当な溶媒に溶解し、アジバントを加え、水で希釈することにより散布液とする。
植物への当該散布液の散布は、走行型薬剤自動散布機(難波設計社製)を用いて、散布液20 mLを0.9平方メートルの散布範囲に置かれた組換えタバコおよび野生型タバコ苗に均一に噴霧して行う。約2週間後に、供試された組換えタバコにおけるサフルフェナシルに対する感受性を、SR−1野生型タバコにおけるサフルフェナシルに対する感受性と比較する。その結果、組換えタバコ系統1609soy#17、#25および1584soy#16、P023、35S−2のホモ接合体はSR−1野生型タバコと比較してサフルフェナシルに対する感受性が低い結果となり、サフルフェナシル耐性を示す。
なお、薬液散布によって生じた個体の枯死や、葉又は茎に褐変・白化の生じる薬害の程度に基づいてスコアリング評価を行う。スコアリングの基準は以下の通り。
「0」:個体が枯死した場合
「1」:葉又は茎に褐変・白化の生じる薬害が発生し、当該薬害が生育に対して大きな障害を与えているが、枯死していないもの
「2」:葉又は茎に褐変・白化の生じる薬害は発生しているが、当該薬害が生育に対して大きな障害を与えておらず、枯死していないもの
「3」:葉又は茎に褐変・白化の生じる薬害は軽微であるか、又は、殆ど見られないもの
【0050】
実施例3(散布機による耐性試験 ダイズ)
JP2006001921(US20060009361)に記載の組換えダイズ系統J16、J18、J26、J28のT2世代の種子をクレハ培土が入られたポットに播種し人工気象室内で約3週間栽培する。陰性対照として、野生型ダイズ(cv. Jack)の種子を、同様に人工気象室内で栽培する。このようにして得られる植物をサフルフェナシルの散布試験に供試する。上記実施例2の方法に従って、ダイズ苗への散布試験を実施する。約2週間後に、供試された組換えダイズにおけるサフルフェナシルに対する感受性を、野生型ダイズ(cv. Jack)におけるサフルフェナシルに対する感受性と比較する。その結果、組換えダイズ系統J16、J18、J26、J28は野生型ダイズ(cv. Jack)と比較してサフルフェナシルに対する感受性が低い結果となり、サフルフェナシル耐性を示す。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、作物植物としての、プロトポルフィリノーゲンIXオキシダーゼ阻害剤耐性植物の栽培に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(1)及び(2)のいずれか一方、または両方のDNAが導入されている作物植物を栽培する領域に、
サフルフェナシルを有効成分として含有する雑草防除剤を散布する工程を有することを特徴とする、前記作物植物の栽培方法。
(1)サフルフェナシルを代謝する活性を示すチトクロムP450のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNA
(2)プロトポルフィリノーゲンIXオキシダーゼ活性を示すタンパク質のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNA
【請求項2】
前記チトクロムP450が、放線菌由来のチトクロムP450であることを特徴とする請求項1記載の栽培方法。
【請求項3】
前記チトクロムP450が、下記のいずれかのチトクロムP450であることを特徴とする請求項1記載の栽培方法。
(1)ストレプトミセス属に属する放線菌由来のチトクロムP450
(2)配列番号1又は2で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列相同性を有するアミノ酸配列を有するチトクロムP450
(3)配列番号1で示されるアミノ酸配列を有するチトクロムP450
(4)配列番号2で示されるアミノ酸配列を有するチトクロムP450
【請求項4】
前記プロトポルフィリノーゲンIXオキシダーゼ活性を示すタンパク質が、植物由来であることを特徴とする請求項1記載の栽培方法。
【請求項5】
前記プロトポルフィリノーゲンIXオキシダーゼ活性を示すタンパク質が、下記のいずれかのタンパク質であることを特徴とする請求項1記載の栽培方法。
(1)植物由来であって、かつサフルフェナシルによって阻害されるプロトポルフィリノーゲンIXオキシダーゼ活性を示すタンパク質
(2)植物由来であって、かつサフルフェナシルによって阻害されないプロトポルフィリノーゲンIXオキシダーゼ活性を示すタンパク質
(3)配列番号3で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列相同性を有するアミノ酸配列を有する、プロトポルフィリノーゲンIXオキシダーゼ活性を示すタンパク質
(4)配列番号3で示されるアミノ酸配列を有する、プロトポルフィリノーゲンIXオキシダーゼ活性を示すタンパク質
【請求項6】
下記の(1)及び(2)のいずれか一方、または両方のDNAを植物細胞に導入して発現させる工程、および、該植物細胞にサフルフェナシルを接触させる工程を有することを特徴とするプロトポルフィリノーゲンIXオキシダーゼ阻害型除草活性化合物耐性の細胞選抜方法。
(1)サフルフェナシルを代謝する活性を示すチトクロムP450のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNA
(2)プロトポルフィリノーゲンIXオキシダーゼ活性を示すタンパク質のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNA
【請求項7】
前記チトクロムP450が、放線菌由来のチトクロムP450であることを特徴とする請求項6記載の細胞選抜方法。
【請求項8】
前記チトクロムP450が、下記のいずれかのチトクロムP450であることを特徴とする請求項6記載の細胞選抜方法。
(1)ストレプトミセス属に属する放線菌由来のチトクロムP450
(2)配列番号1又は2で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列相同性を有するアミノ酸配列を有するチトクロムP450
(3)配列番号1で示されるアミノ酸配列を有するチトクロムP450
(4)配列番号2で示されるアミノ酸配列を有するチトクロムP450
【請求項9】
前記プロトポルフィリノーゲンIXオキシダーゼ活性を示すタンパク質が、植物由来であることを特徴とする請求項6記載の細胞選抜方法。
【請求項10】
前記プロトポルフィリノーゲンIXオキシダーゼ活性を示すタンパク質が、下記のいずれかのタンパク質であることを特徴とする請求項6記載の細胞選抜方法。
(1)植物由来であって、かつサフルフェナシルによって阻害されるプロトポルフィリノーゲンIXオキシダーゼ活性を示すタンパク質
(2)植物由来であって、かつサフルフェナシルによって阻害されないプロトポルフィリノーゲンIXオキシダーゼ活性を示すタンパク質
(3)配列番号3で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列相同性を有するアミノ酸配列を有するプロトポルフィリノーゲンIXオキシダーゼ活性を示すタンパク質
(4)配列番号3で示されるアミノ酸配列を有するプロトポルフィリノーゲンIXオキシダーゼ活性を示すタンパク質

【図1】
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【公開番号】特開2010−284111(P2010−284111A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−140464(P2009−140464)
【出願日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】