説明

作用電極の変動が制御された積層電気化学センサ

積層電気化学センサは、誘電体基板と、基板の表面上に形成された導電層とを含む。導電層は、作用電極と電極リードと接続アームとを含み、接続アームは作用電極を電極リードへ接続する。導電層の上に、誘電体層が配置される。誘電体層は、作用電極及び接続アームの一部を露出する開口を有する。作用電極と電極リードと接続アームとはレーザーアブレーション技術により形成されて精密な作用電極センサパラメータを提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[0001]本発明は電気化学センサを対象とし、より詳細には、作用電極の変動が制御された電気化学センサであって、電気化学応答が作用電極のサイズに依存するものを対象とする。
【背景技術】
【0002】
[0002]血糖をモニタするための使い捨て電気化学センサの典型は基板フィルムを含み、基板フィルム上に導電材料の層が蒸着及びパターン形成されて電極を形成する。従来、電気化学セル又はバイオセンサは3つの電極、すなわち作用電極又は検出電極、基準電極、及びカウンタ電極又は補助電極からなる。作用電極は、基準電極に対して一定の印加電位で、関心対象の反応が生じるところである。基準電極は、作用電極の安定した電位を維持する機能を果たす。カウンタ電極は、作用電極とカウンタ電極との間に電流を流れさせ、基準電極の機能を妨げないようにする。システムの電位が本質的に安定しているか、又はわずかな電位の変動であれば問題ない場合は、基準電極及びカウンタ電極を組み合わせてひとつの基準/カウンタ電極にし、作用電極と対にすることができる。いくつかの例では、電気化学バイオセンサは、アンペロメトリーを用いて特定の被分析物濃度を数量化する。作用電極は、作用電極のさらされる表面領域に比例した応答を提供する。製作中は、製造業は作用電極領域に関連する工程変動を厳密に制御している。
【0003】
[0003]通常、作用電極は2以上の素子から形成される。素子の1つは導電層であり、導電層は電気活性種(electro−active species)へ又は電気活性種からの電子の移動を促進する能動素子であり、電気活性種は試料がセンサへ加えられたときに生成される。第2の素子は誘電体層であり、誘電体層は第1の素子とともに、試料流体と接触している作用電極の実寸法を定める。第2の素子は、導電層の一部の上に窓を形成する。いずれの素子が変動しても、センサ応答が変動することになる。したがって、第2の素子又は誘電体層が、読み取り値の精度に直接影響を及ぼすことがある。
【0004】
[0004]従来技術のセンサのいくつかは、最終的な電極表面領域上に不正確に誘電体層を塗布してしまうことの影響を低減するために、複数の導電性ネック部を対称に用いている。誘電体層の窓がわずかに移動する可能性があるが、それは対称に配置されたネック部がその移動を補償するからである。このようなセンサでは、誘電体層をうまく定められないことがあるが、誘電体層のエッジと交わるネックは非常に小さいため、十分に定められなくても、その影響は最小限に抑えることができる。しかし、このようなセンサは、複数の全ての導電性ネック部、例えば、典型的なセンサでは2つの異なるネック部、を非常に精密に定める必要がある。これらの精密に定められた導電性ネック部のいくつかは、外部回路へ接続すらされていないが、ネック部の対称性を精密に定める必要は依然としてあるため、センサの製作をより複雑にし、製作コストをより上昇させることになる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
[0005]従来技術の電極では、表面領域は、導電層のパターン形成又は誘電体層のパターン形成のいずれか1つ、及びレジストレーションにより定めることができる。正確なバイオセンサを形成する工程を簡略化するために、センサの作用電極をより正確に定めるための手段が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[0006]一実施形態では、電気化学センサは、誘電体基板と、基板の表面上に形成された導電層とを含む。導電層は、作用電極と電極リードと接続アームとを含み、接続アームは作用電極を電極リードへ接続する。導電層の上に、誘電体層が配置される。誘電体層は、作用電極及び接続アームの一部を露出する開口を有する。
【0007】
[0007]利点のひとつは、電極のサイズを低減することができ、従来技術の電極と比べて、定められた電極表面領域の精度が大きく変更されないことである。
[0008]別の利点は、誘電体層のパターン形成が電極領域及びサイズの精度に与える影響を、限定することができることである。これにより、既存の低コスト低精度の方法を用いてバイオセンサの誘電体層をパターン形成することができ、それと同時に電極の精度を維持することができる。
【0008】
[0009]この方法の別の利点は、誘電体層のパターン形成工程を改善して、さらにより精度の高い電極を提供できることである。これらはともに、電気化学センサの製造及び使用に改善をもたらすものである。
【0009】
[0010]さらに別の利点は、電極表面領域を正確に定めることができることである。したがってセンサの精度は、誘電体層の定められたものの精度よりも、導電層の定められたものの精度に、より直接関係し得る。領域の標準偏差と領域平均との比に等しい、所望の領域の変動係数(COV)をもつ小さな電極を、より精密さにかける電極パターン形成方法、例えばスクリーン印刷及び積層、を用いて作ることができる。本発明の電極領域COVは、導電層のパターン形成工程のそれに近づけることができる。
【0010】
[0011]本発明の他の特徴及び利点は、以下の好適な実施形態のより詳細な説明、及び添付図面から明らかであり、図面は本発明の原理を例示的に示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】電気化学センサの一実施形態の一部平面図を示す。
【図2】図1の電気化学センサの立断面図を示す。
【図3】電気化学センサの別の実施形態の一部平面図を示す。
【図4】金(Au)がアブレーションされた例示的なフィルム又は基板層の平面図を示す。
【図5】例示的な誘電体層の平面図を示す。
【図6】例示的なスペーサ層の平面図を示す。
【図7】例示的なカバー又は蓋を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[0019]本発明は、作用電極サイズの変動が主に能動素子の変動から生じるように設計された電気化学センサを開示する。センサに含まれる他の素子、例えば印刷又は積層された絶縁層、の通常の変動は、作用電極のサイズに影響を与えることはなく、したがって、作用電極により生成された応答は他の素子が原因で変動することはない。作用電極の変動の排除は、作用電極と電気コネクタ又はリードとの間の接続の形状を最小にすることにより達成される。
【0013】
[0020]作用電極及び他の導電性の形状、例えば作用電極をリードへ接続する素子、はレーザーアブレーションを用いて形成することができ、レーザーアブレーションは1000分の1インチ未満の形状をもつ素子を作ることができる処理である。レーザーアブレーションにより、電気接続リード、作用電極、及び他の形状を精密に定めることができ、精密に定めることは、変動係数を低減して正確な測定を提供するために必要とされるものである。レーザーアブレーションを用いて金属化フィルムを画像形成することができ、金属化フィルムは、例えばAu、Pd、及びPt、又は類似した電気化学特性を有する任意の金属であって、PET若しくはポリカーボネート又は別の誘電体材料等、プラスチック基板上にスパッタリング又はコーティングすることができるものである。ポリマ基板上に備えられた薄い金属フィルムをレーザーアブレーションすることにより、センサの一次的な形状を作成することができる。
【0014】
[0021]図1を参照すると、センサ100は作用電極10を含み、作用電極10は接続アーム12によりリードトレース24へ接続される。少なくとも1つの実施形態では、接続アーム12は10ミクロン程度の狭いものであってよい。別の実施形態では、接続アーム12は幅20ミクロンであるか、又はセンサ応答にほとんど寄与しない幅を有してよく、センサ応答にほとんど寄与しない幅とは、該接続アーム自体又は誘電体の空きにより定められた該アームにおける変動があってもセンサ応答に与える影響を無視できるものである。リードトレース24はリード34の延長線上にあり、接続アーム12とリード34とを電気的に接続する。基準電極又はカウンタ電極20は、作用電極10に近接して、ポリマ基板22、例えばポリカーボネート又はポリエチレンテレフタラート(PET)、の上に配置される。基準/カウンタ電極20は、接続アーム36とリードトレース38とを接続することにより、リード32へ電気的に接続される。誘電体層14は、基板22上に積層又は印刷することができる。誘電体層22は、電極10、20の領域又は窓18を定める開口16を含み、領域又は窓18が試験流体にさらされる。少なくとも1つの実施形態では、作用電極10のさらされる領域は、約0.320mmの円形の領域を有することができ、該作用電極の接続アームであって有限であるが小さな幅であるか又は作用電極10の全領域の約1.2%であるものは反応領域を構成する。少なくとも1つの例示的な実施形態では、誘電体層14は、窓枠線18aが接続アーム24と交差する点に対して±0.250mm移動する可能性がある。±0.250mmの移動に係る作用電極領域の変動の結果、全作用電極領域の約0.003mmの変動、又は全作用電極領域の約1%の変動が生じる。ベント42は、センサ100の一対の充填検出電極44、46の間に配置される。ベント42は、キャピラリチャネル30と流体接続しており、流体がキャピラリチャネル30に入るときに空気をキャピラリチャネル30から逃がすことができる。充填検出電極44、46は、キャピラリチャネル30に流体が存在するかを検出する。
【0015】
[0022]次に図2を参照すると、センサ100の断面図により積層の構成が示されている。基板22及び誘電体層14に加えて、キャピラリの蓋26及びスペーサ層40も一緒に積層されてセンサ100を形成する。スペーサ層40は、開口28を含み、開口28が、流体を受けるキャピラリチャネル30を定める。別の実施形態では、誘電体層は導電層上に、スクリーン印刷、フォトリソグラフィによるパターン形成、又は積層される。
【0016】
[0023]次に図3を参照すると、作用電極サイズを制御するための別の例示的な方法は、1又は複数の形状により作用電極110を定めることに係る。図3では、作用電極110は、誘電体層114の空きにより定められる。誘電体層114は、導電性カーボン層122の上に配置されて、誘電体層の対向するエッジ115、116と、カーボン層122の対向するエッジ111、112と、誘電体層114のエッジ115、116と交わる作用電極110とが、作用電極110の領域h×wを定めるようにする。基準/カウンタ電極120も同様にして誘電体層114により定められ、その露出寸法は作用電極110のそれと実質的に同じh,wである。ベント穴142は、キャピラリチャネル130の一端に設けられる。ベント穴142は、キャピラリチャネル130と外部空気との間に流体接続を設けることで、キャピラリチャネル130の空気を流体と入れ替えることができる。充填検出器電極144は、キャピラリチャネル130に部分的に露出しており、充填電極コンタクト(fill electrode contact)146へ接続する。コンタクト132及び134は、基準電極120及び作用電極110との電気通信をそれぞれ提供する。
【0017】
[0024]作用電極の領域の変動は、誘電体の空きの変動に関係する。図1に示した例示的な実施形態では、誘電体層18は接続アーム12と交わっており、作用電極10の領域は0.320mmで接続アーム18の領域は0.004mmであることが可能であり、これらが試験流体にさらされる。センサ100の応答は、これらのさらされる領域に正比例する。誘電体層窓18の位置の予想変動は、誘電体層窓18が接続アーム12を横切るとき±0.025mmである。接続アーム12が幅13ミクロンのとき、さらされる領域に対応した予想変動は0.003mm又は1%まで(〜1%)である。
【0018】
[0025]図3では、作用電極110は、層122、114の2つの寸法パラメータにより定められる。パラメータの1つは、基板層122上の作用電極110の導電部の垂直寸法hであり、もう一つのパラメータwは、誘電体層114の幅である。一実施形態では、作用電極110の領域は長さ(h)0.635mm及び幅(w)0.508mmにより定めることができる。各寸法の予想変動は約±0.025mmであってもよい。結果として生じる作用電極の領域の変動は、式2:
Δw/w+Δh/h=9%
により定められる。
【0019】
[0026]次に図4を参照すると、例示的なアブレーションフィルム層又は基板22は、アブレーションされた金コンタクト10、20を含む。端48はダイカット線50(図5)に対応する。図4にはさらに、電極リード32、34、44、46、リードトレース24、38、及び接続アーム12、36の全長も示されている。図5は、基板22を覆う誘電体層14を示す。ダイカット線50は、上部52が完成したセンサ100から取り外される位置を示す。誘電体層14の開口18は、接続アーム12を交差する線18aで窓18を定める。図6は、誘電体層14の上に塗布されるスペーサ層40を示し、スペーサ層40は、開口28が誘電体の空き18及び部品、例えば、誘電体窓18により定められた作用領域内の作用電極10、基準電極20、及び接続アーム12、36、を露出するように塗布される。最後に、図7は、スペーサ層40の上部の上に塗布されるキャピラリの蓋26を示す。キャピラリの蓋26は、試験流体の体積が制限されるようにキャピラリチャネル30をシールして、流体が端48からのみキャピラリチャネルに入ることができるようにする。
【0020】
[0027]図4〜7は組立順序を示すものであり、例示のために、積層される層14、22、26及び40のそれぞれを透明層で表して、機能素子の関係が理解できるようにしたものである。実際は、任意の積層された層14、22、26及び40は不透明又は半透明である可能性があり、完成したセンサ100では下にある層及び関連素子が見えないことがある。
【0021】
[0028]本発明を好適な実施形態を参照して説明したが、当業者であれば、さまざまな変形を行うことや等価物を等価の要素と置き換えることは、本発明の範囲を逸脱しないことが理解できるであろう。さらに、多くの修正を行うことで特定の状況又は材料を本発明の教示に適応させることは、本発明の本質的な範囲を逸脱するものではない。したがって、本発明は、本発明を実施するための考え得る最良の形態として開示された特定の実施形態に限定されるものではなく、添付の請求項の範囲内にあたる実施形態を全て含むものである。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気化学センサであって、
誘電体基板と、
前記基板の表面上に形成された導電層であって、少なくとも1つの作用電極と、電極リードと、前記作用電極を前記電極リードへ接続する接続アームとを含む導電層と、
前記導電層の少なくとも一部の上に配置された誘電体層であって、前記作用電極と前記接続アームの少なくとも一部を露出する開口を含む誘電体層と
を含む電気化学センサ。
【請求項2】
請求項1記載のセンサであって、±0.250mmの移動に関連した前記作用電極領域の変動の結果、全作用電極領域に約0.003mmの変動が生じ、前記全作用電極領域の前記変動は、前記全作用電極領域の約1%に等しい、センサ。
【請求項3】
請求項1記載のセンサであって、前記接続アームの幅又は長さの少なくとも一方が1000分の1インチを超えない、センサ。
【請求項4】
請求項1記載のセンサであって、前記作用電極と、前記接続アームと、前記電極リードとは、レーザーアブレーションを用いて形成された、センサ。
【請求項5】
請求項1記載のセンサであって、前記作用電極と、前記接続アームと、前記電極リードとは、1000分の1インチ未満の形状をもつ素子を作ることができる処理を用いて形成された、センサ。
【請求項6】
請求項1記載のセンサであって、前記作用電極と、接続アームと、電極リードとは、金属化フィルムを含み、該金属化フィルムはレーザーアブレーションを用いて画像形成された、センサ。
【請求項7】
請求項6記載のセンサであって、前記金属化フィルムは、Au、Pd、Pt、又は電気化学の面で関心がもたれる任意の金属であってスパッタリング又はコーティングが可能な金属からなる群より選択された、センサ。
【請求項8】
請求項7記載のセンサであって、前記基板は、PET、ポリカーボネート、及び他のプラスチック材料からなる群より選択された、センサ。
【請求項9】
請求項1記載のセンサであって、前記作用電極と、前記電極リードと、前記接続アームとは、前記基板上に備えられた薄い金属フィルムをレーザーアブレーションすることにより形成された、センサ。
【請求項10】
請求項1記載のセンサであって、前記接続アームは20ミクロン未満である、センサ。
【請求項11】
請求項1記載のセンサであって、前記作用電極に近接して配置される基準/カウンタ電極をさらに含み、前記基準/カウンタ電極は、第2の接続アームにより電極リードへ電気的に接続された、センサ。
【請求項12】
請求項1記載のセンサであって、前記開口は、試験流体にさらされる作用電極の領域を定める、センサ。
【請求項13】
請求項1記載のセンサであって、前記作用電極はさらに、およそ0.320平方ミリメートルの円形の領域を含み、該円形の領域は、前記作用電極の全領域の約1.2%とほぼ等しい、センサ。
【請求項14】
請求項1記載のセンサであって、前記誘電体層の開口の±0.250mmの移動に関連した前記作用電極領域の変動の結果、全作用電極領域に約0.003mmの変動が生じ、前記変動は前記全作用電極領域の約1%である、センサ。
【請求項15】
請求項1記載のセンサであって、一対の充填検出電極をさらに含み、ベントが前記センサに前記充填検出電極の間に配置され、前記ベントは、試験流体がキャピラリチャネルに入り空気を動かすとき、前記キャピラリチャネルから空気を逃がすことが可能なように構成され、前記キャピラリチャネルはスペーサ層とカバー蓋部とから形成された、センサ。
【請求項16】
請求項15記載のセンサであって、前記充填検出電極は、前記キャピラリチャネル内の流体の存在を検出する、センサ。
【請求項17】
請求項1記載のセンサであって、導電層と、誘電体層と、キャピラリの蓋と、スペーサ層とをさらに含み、前記スペーサ層は開口をさらに含み、該開口は流体を受けるキャピラリチャネルを定めた、センサ。
【請求項18】
請求項1記載のセンサであって、前記誘電体層は、前記導電層上に、スクリーン印刷、パターン形成、又は積層された、センサ。
【請求項19】
請求項1記載のセンサであって、前記電極リードは、前記リードから前記接続アームへ延びて、前記接続アームと前記電極リードとの間に電気的導電路を形成するリードトレースをさらに含む、センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2013−520683(P2013−520683A)
【公表日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−555042(P2012−555042)
【出願日】平成23年2月16日(2011.2.16)
【国際出願番号】PCT/US2011/024997
【国際公開番号】WO2011/106214
【国際公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【出願人】(512218304)コンダクティヴ・テクノロジーズ,インコーポレーテッド (1)